表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
559/833

PLAY96 陰謀、蠢く④

 私がこのことを知ったのは、本当に偶然でしたな。


 その時私は己の目的を達成……、あぁ、もう知っているかと御思いですが、そうです。そのために私は今は使われない書物庫であなたの――王の弱点となるものを探そうとしました。


 ドラグーン王。


 あなたは確かに誰が見ようとも、他の種族の長が見ても、あなた以外の七つの王が見てもお手本になる王です。


 開祖の王として、『英知の永王』の名に相応しい聡明さに竜人族と言う力を持ちながらその力に驕らない努力家でもありますが故、新たな王になる存在達からも憧れとして見られていることは重々承知しています。


 あの『創成王』もあなたのことを見習っているという噂も常々聞きますからな。


 おぉ。そんな怪訝そうな顔をしないでください。そのくらいあなたは完璧に近い王。完全完璧な王などこの世にいません。そんなお方がいればこの世に模範などないのですからね。


 ゆえに私はなりたかったのですよ。


 あなたのような王に、そして己でこの国を動かしたいと。


 そう思ったからこそ私は願い、その願いのためにいくつもの犠牲を払い、努力をしてきました。


 確かに犠牲も努力も使い方を間違えていると思われてもおかしいでしょうが、しかしね……、私はそのくらい本気で、道を間違えていると思われても成し得たかったのです。


 そのくらい私は王になりたかった。いいえ、この願いは誰でも願うでしょう? なにせ国一つを己の手で我が物にできる。おおっと……、言い方が悪かったですな。しかし悪く言ってしまうとそういうことなのです。


 バトラヴィア帝国の王もそうでした。


 己の地位を利用してやりたい放題でした。野望、欲望がある者は一度得た贅沢を何度も欲し、その欲望のままに欲望の者達はどんなやり方を使ってでもその贅沢と言うものを得たいのです。


 しかしね。私はそんな贅沢など良いのです。私が欲しいのはそんなちんけなものではないのですから。


 さて――本題に戻しましょう。長い長い脱線は老人の特許ですが、こればかりは脱線し過ぎましたな。

 

 私はあなたが直筆した書物――いうなれば日記を偶然、使い古され誰も使用しなくなった書物庫で見つけました。その内容は初めは全然読めない代物で、古代文字を少しばかりかじっていた私でも読めない代物でしたよ。


 王よ。何というあくどい仕組みを施したのかと何度も思いましたな。


 ですが、それもその書庫にあった解読書を元にして何とか解読をすることができましたので、まぁそのあくどい事も大目に見ておきましょう。


 おぉ? アクルジェド。そんな目つきで私のことを睨むでない。


 これは仕方がない事なのだ。大目に見てくれ。


 それに、()()()()()()()()()()。くくっ。


 その書物を見て知ったことはボロボができ始めた時、あなたはシルフィードを使って何かをしようとしていた。


 計画そのものは私にはわかりませんが、この日記には記されていましたよ? 今から二百五十年前、『終焉の瘴気』の瘴気に当てられてしまったシルフィードがこのボロボを滅ぼそうとした時、日記にはこんなことが記されていました。


『シルフィードがこうなってしまっては、あのこともすべて無になってしまう。だが、今考えていてはこの国の未来は暗いままだ。気持ちを切り替えよう。この国のために、シルフィードを何とかしないと』


 とね。


 それを見て私は王がシルフィードを使ってあることをしようとしていたことを察しました。いいえ。勘付いてしまった。の方が正しいのでしょうかな?


 まぁそこは今は関係ない話です。あとでそのことに関して詳しく聞きますので。


 シルフィードの暴走はボロボや下界の世界にも大きな影響、被害を大きく与え、崩壊と言う未来を私達に植え付けていました。アクルジェドも王も、みんな知っているでしょう。私だって知っていますよ? 何せあの時の被害は大きく、そして凄まじいものでした。


 この世の終わりを見たかのような錯覚を覚えましたからな。


 甚大な被害に犠牲。あの時の悪夢は私から見ても相当なものでした。


 おぉ。貴様達もかなり大変だったのだな。()()()()()()()()()()()()。お互い大変だったのはお互い様と言うことだな。


 しかし、その時に不思議なことが起きていたことを、覚えているかな? アクルジェド。私自身もそれを体感しているし、それを体験したボロボの民達は『奇跡』だと言っていたことも鮮明に覚えている。地上でもそうであったのだろうな。突然の嵐が止んだ。今までの天変地異が嘘のような静けさと言っても過言ではなかったでしょう。


 しかしその奇跡に裏があったことは、誰も知らないでしょう。


 それもそうでしょう。なにせそのことを王は誰にも告げなかったのですからね。


 んん? 何があったのかって?


 ここからが本題、遅まきながらの本題と言っても過言ではないでしょうな。それでは話しましょう。この奇跡の裏に何があったのか。


 ドラグーン王はシルフィードの暴走を止めるために、正義の名のもとに単身で挑みました。護衛もグワァーダにも乗らず、たった一人で風の化身――いいえ、化け物と化しているシルフィードに戦いを挑んだ。そのことも日記に書かれておりましたよ。


 なにせシルフィードはこの国にとって、王にとっても必要不可欠な存在。


 そんな存在を放っておくほど王は馬鹿ではないのですからな。


 シルフィードと王の戦いは凄まじいもので、日記によればどうやら一ヶ月ほどその激戦が続いたそうですな。ページにこびりついている血の跡がその凄惨な戦闘を物語っていましたよ。しかもところどころには指から出ている血を使って書いているところもあったり……。


 私ならこんなこと絶対にできませんよ。私ならば多少の犠牲も払ってでもシルフィードを止めようと思いますが、暴走しているのでしたらそんなことはしたくないですなぁ。なにせ――シルフィードは子供のような無邪気さと残虐さを持っている『八神』です。


 そんな輩相手に私どもが総動員で立ち向かったとしても、風の力によって殺されてしまう。と言うよりも――大荒れの竜巻に向けてその身を捧げるようなもの。


 そんな自殺など……したくないですな。


 ゆえに王もその間かなり大変だったのでしょう。血で書かれた日記の文字を見ても、その辛さが伝わり、それと同時に日記にはあることが記されていました。


 王は確かにシルフィードを封印することができる王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)があったにに関わらず、それでも封印できなかった。そんな疑念もしっかりと日記に書かれておりましたし、そしてその日記を見た瞬間に私は理解しましたぞ。


 王の元で何千年もいたのですから、少し考えればわかることです。


 なぜシルフィードが王が持つ王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)でも封印できなかったのか。考えれば簡単でしたぞ。その時シルフィードは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それはまさに普段とは違い格段にパワーアップした状態。


 そんな状態で挑んだせいで、王は苦戦を強いられることになってしまったのです。


 なにせ、膨大な風の魔祖を溜めに溜め、そしてその力を無限大に放出するのですから、一定の封印の力を有し、そして一定の氷の魔祖を持っている 王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)であっても、膨大に膨れ上がったシルフィードを封印することは出来なかった。


 だから王は苦戦を強いられた。そして何度も何度も不運することができなかった。つまりそれは――何度も泣けてしまったことと同じ。


 王はそのことに関してかなり頭を抱えたそうですな。その苦悩も日記にこと細やかに綴られ、その内容を見た私は王にも弱さがあるとは思っても見ませんでした。このことを知っていれば私はあの奇跡が起きた次の日にこのことを告げ口しようと思っていましたがね……。


 まぁ過去のことは今は関係ないでしょうな。今関係あるのは、この日記に書かれた内容だけ。


 さて、王はこの件でかなり頭を悩ませていました。シルフィードのことを止めるためにここまで来たのに、こんな形で死んでしまうことは避けたかった。王として、それは絶対に避けなければいけない。そして何としてでも、シルフィードを我が物にしないといけない。


 事態は一刻を争う。


 争うからこそ王は早急に対策を練ろうとした。その時――王は思い出したのです。


 そう、このボロボには鬼の一族が住んでいることに。


 皆様はもう知っていましょう? 鬼は魔女とは違い自然の『八大魔祖』を角に凝縮し、その力を使って戦うということを。その力のせいで鬼の角が狩られるなど甚大な被害があり、鬼族は外交との関わりを極力避けていました。


 そのことを思い出した王は、鬼の郷に向かい、そしてとある鬼に話をつけ、共闘してもらおうと交渉を持ちかけたのです。


 氷の力が不足している王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)では歯が立たない。ならばその力を増幅させるために、王は氷の魔祖を扱う鬼がどこにいるのかと聞いて回ったそうだ。この日記にそのことがこと細やかに記されている。


 しかし、その時の鬼は他種族達に対して深い疑心を抱いていたがため、交渉どころか話すこともままならない状態だったそう。辺りを探そうにも避けられ、あろうことか傷口に石を投げつけられるといった非道な行いで裂けていたということも書かれておりましたぞ。


 一人の王が鬼の一族如きになんと情けない事か。


 私でしたら武力で制するのに……。


 おやおや、アクルジェドそんな目で私を睨むな。貴様もそうであっただろう? 武力で犯人を止めたのだ。同じだろう?


 だが、このページを読んでいくと常々思いますよ。王はやはり王としての素質を持っていますが、他種族を牛耳る様な力は持っていないということなのでしょうかな? 


 そんな王の情けない姿を見て、その情けを書けるという面目で、協力を申し出たのかもしれませんなぁ。


 んん? 誰が協力を煽ったのかって? その人物こそ――シルフィードを封印するために協力を申し出た鬼の一族の者。


 日記によると……、三つの角を持った奇怪な鬼の一族だったそうですな。


 その三つの角の鬼は緑の角、青の角、そして水色の角を持っていたらしく、その者は鬼の郷では村八分のような扱いをされている疎遠者。いいえ、厄介者だったらしいですが、それでも王はシルフィードの封印のことしか頭になかったのでしょうかな? 王は頼んだらしいです。


『貴様の力が必要だ。手を貸してくれないか』と――


 その言葉に対して誰もが反対の意見を述べていましたが、その言葉を聞いていた三つの角の鬼はなぜか王の話を聞こうとしたらしく、その話を聞いて王は全てを話したそうですな。シルフィードのこと、封印、そしてそれができないことも――全部。


 王の話を聞いた三つの角の鬼は渋々ながら条件を付けることで協力を承諾することを言い出し、その条件を王は呑み込み、そして二人で封印に向かうことにした。と、日記に書かれています。


 条件の内容はなんともわかりやすいもので、『鬼族との同盟を結び、この場所――鬼の郷を未来永劫守り通すことを誓ってほしい事、そして一族の安泰を矢憶測してほしい。もしその条件を呑んでくれば、国のことを守る』と言うもので、その条件を王は呑んだ後で、王は三つの角の鬼と一緒に再度シルフィードの封印に向かったと、ここに記されている。


 どうやら相当嬉しかったのでしょうなぁ。


 なにせ――その鬼の角の色の一つが水色で、その水色は『氷』の魔祖が凝縮されているのですから、それは嬉しい子の上なかったのでしょう。その興奮が日記の文字から感じられましたぞ。


 その後はもう簡単な話……、氷の魔祖を扱うその鬼の力を使ってシルフィードのことを弱らせ、その後で王は己が持っている王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)――『永劫(エイゴウ)ナル氷菓(ヒョウカノ)(ツルギ)』を使ってシルフィードを封印した。


 勿論ボロボからはるか遠くにあるダンジョン……、この領域の中でも群を抜いて危険度がある場所――『風獣(ふうじゅう)の神殿』の奥地でシルフィードを封印した。氷の結界にいれ、王はその罪の重さを忘れないように、封印を解く鍵を肌身離さず持ってこの国を統べていた。


 民を騙し、そして己の失態を墓場まで持って行くまで、ずっと……。


 これが私が知る限りのあらましです。


 王よ。これで私が知っている限りのことは全て伝えました。このことを考えつつ、この出来事が起きる以前から私は王になろうと常々思っていました。確かにあなたは優れている存在ですが、その優れている分野に比例するように脆いところもある。


 あなたは長生きし過ぎた。し過ぎたがゆえにあなたに今必要なことは――王を他の誰かに明け渡し、そして己の罪を償うこと。そのために私はここにきて、あなたからその王の座を()()しようと思っているのです。


 シルフィードを操ることなどできなかったから封印することしかできなかった。ですが私はそんなへまをしない。どころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは確信と言っても過言ではありません。


 アダム・ドラグーン王。もうお年です。そして責務もお疲れでしょう? でしたらこのまま私にその剣を……、王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)を渡してください。それだけすれば、あとは私がすべてしますから。


 さてさて……、次は――あなたの番です。あなたは今の今まで民を騙し、そしてこの場所にいるアクルジェドは騙したのです。そしてこのことを知らないクロゥディグルに対しても今も騙しているのです。


 私は隠していることを余すことなく明かしました。王も私と同じようにしてください。


 冥途の土産と思って、さぁ。さぁ………………………。



 ◆     ◆



 ディドルイレスはこの通り離したと言っているが、彼は少しだけ嘘をついた。


 彼は確かに王の日記を見つけ、そしてその日記に書かれている内容を明かしたが、それはその日記の情報量から計算して十分の八。残りの十分の二の情報――王がこの日記を敢えて残した理由……、後世へと残す想いと、そしてディドルイレスとドラグーン王しか知らない。この日記に書かれている最大の情報を、彼は明かしていない。


 因みに――王がシルフィードを使ってこの国を支配しようとしている言ことは真っ赤の嘘だが、その嘘も誰も知らないがゆえそれが嘘であるという確信もつけない。


 その虚構を利用して、ディドルイレスは嘘をつき、そして王を陥れようといくつもの嘘を重ね続ける。


 勿論、明かしていない事実もその陥れるための材料。


 その情報は自分以外の人物に明かしてしまうと、先を越されてしまうかもしれないという危険性もあり、自分だけ知っていれば、王がいなくとも自分でなんとかできる。そしてその出来次第で田見たとの信頼を多く得ることができると思ったからこそ、彼はそのことに関して口にすることをしなかった。


 ゆえに彼は嘘をついた。これで隠していることは明かしたと。


 まだ明かしていないことがあるにも関わらず、それ以上のことを知らない。そしてこれで全部話したということを伝えたディドルイレスはドラグーン王に向けて王の秘密を知ろうと試みる。


 ディドルイレス自身も知らない。どころかこの日記にも書かれていない秘密を知ろうと、彼はハッタリに似た交渉攻撃を繰り出す。


 それを聞いた王の返答を心待ちにしながら、ディドルイレスは心の奥底で邪悪な笑みを浮かべながらその時を待った。



 ◆     ◆



 ディドルイレスの話を聞き終え、そして辺りがしぃ……んと静まり返った後で、その話を聞いていたアクルジェドは驚きのあまりに方針に近いような喪失感、更には王がそのようなことをしていたという衝撃を全身で受け、そのしゅおげきに耐えられなくなった証の茫然としたその顔を出しながら、彼は王のことを見上げた。


 日記を書いた張本人でもあり話を聞き、そして話をしてほしいといわれた本人――王は目をつぶったまま微動だにしない。


 まるでただじっとその話を聞いていたかのような微動だにしない姿勢。


 アクルジェドはその光景を見ながら心の中で茫然としながら思った。


 ――王は、このような事態を今まで隠していた? 自分がこの国を支配するために?


 ――いいや、そんなことありえない。そんなことあるはずがない。


 ――これは嘘だ。嘘に違いない。


 ――ディドルイレスは元々嘘をつくような存在。俺のことも利用して嘘の状況を作り上げ、そして利用したんだ。これも嘘に違いない。


 ――だが……、だが……。ディドルイレスが出したあの日記は、まさしく王の字で書かれたもの。表紙に書かれている文字がそれを証明してくれる。


 ――その日記を手にし、そしてその内容を見たディドルイレスの言うことが()()であれば、王があのようになってしまうのも必然なのか?


 ――何も言わない。と言うことは、王は本当のことを突かれて困惑しているということなのか? あれは、困惑の意なのか?


 ――わからない。今の俺には分からない。しかし、それでも王は俺のことを信じてくれた。あんなことをした俺のことを裁き、そして己の願いのために手を貸してくれと言われた。俺のことを信じての言葉だ。そんな心優しき王のために俺はあの王を守らないといけないんだ。


 ――どんな思いを抱いているのかは俺にもわからないが、それでも王はこの世界にいなければいけない。そんな存在なんだ。それは、直感でわかる。


 ――そして、直感が囁いたんだ。ディドルイレスが考えていることは分かる。あいつのことだ。今は大臣と言う職と言う名の鞘に収まっているが、あの野心家がそんなところで満足するわけがない。


 ――あいつは……、絶対に起こす。




          王になるための……、クーデターを。




 ――だから……、あいつを王にしては、いけない!


 今の今まで困惑と衝撃のせいで頭の聖地がつかなかったアクルジェドだったが、彼は己の直感、そして己の忠誠心を誓うと同時に、その忠誠心の要となっている王のことを信じることを心に決め、彼は今の今まで止めていたその手をゆっくりとした動作で動かし、『六芒星』にも、ディドルイレスにも気付かれないようにその手を動かす。


 ゆっくり、ゆっくりと……、動かしたその手を槍の柄に向けて、静かな動きで近付けていく。


 竜の爪が伸びているその手が少しずつではあるが、槍を掴めるほどの位置にまで達した。その時――




「ああ、確かに、貴様の言う通りだ。ディドルイレス」




「!」


 突然だった。突然ドラグーン王は言葉を零した。


 凛々しく、そして嘘も偽りなどないような真っ直ぐな音色で言うその声にアクルジェドは反応し、掴もうとしていたその手を不自然なところで止めるとアクルジェドは王のことを見上げる。


 言葉を放ったドラグーン王は普段と変わらない威厳を持った凛々しい顔つきで、王としての資質を持っているかのような顔つきで「おっ」と予想外と言わんばかりの顔つきで驚きながら王のことを見上げているディドルイレス。


 更には今の今まで傍観者として徹していた『六芒星』達の面々が、王のことを見上げた瞬間肩を大きく、そして大袈裟と言わんばかりに震わせ、誰もがその位置から動くことをしなかった。


 否――そのまま跪いてしまうかのように、その行動に制止をかけるように、王の威圧に当てられてしまい、その威圧に本王が従い、意志がそれを拒みながら……、各々が体の反応と格闘をしていたのだ。己の意志で、直感相手に戦っていたといっても過言ではない状況に……、アクルジェドは驚きながらその光景を見ていたが、王と大臣は会話を続ける。


「貴様の言う通り、拙僧はシルフィードを使って国を変えようと思っていた。それは確かに貴様が言うところの支配に近いかもしれない。そしてシルフィードが『終焉の瘴気』に当てられ、暴走した時、拙僧は止めようと奮起をした。拙僧が持っているこの封印の神器とも謳われる王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)――『永劫(エイゴウ)ナル氷菓(ヒョウカノ)(ツルギ)を使ってな」

「そ、そうでしたか……! それでしたらあなたはやはり!」

「しかしな。拙僧はそのような理由でシルフィードを従わせようとしたのではない。むしろそんな気持ちなどなかった」

「………………………っ!?」

「しかし他人からしてみればそう見えるのだな。勉強になった」

「な……、なにを……っ!?」

 

 王の言葉に対し、ディドルイレスは困惑の顔を次第に浮かべ、顔中から余裕と言う名のそれを消すと、ディドルイレスは王に向けて心意を聞く。


 まさか……、私の思惑が読まれていたのか……っ!? 


 そんな嫌な予感が彼の脳内を駆け巡ったが、ディドルイレスの言葉にドラグーン王は首を横に振り、そして再度ディドルイレスのことを見降ろしながら王は言ったのだ。


 なんの焦りもなければやましい気持ちなど一切ない。真っ直ぐで、王としての素質を持っている眼差しで、ドラグーン王はディドルイレスに向けて言った。


「拙僧は確かにシルフィードの力を借りようと思い、常々考えていた。この国は空に浮かぶ動く国でもあり、この国がなければ竜人族は住めないことも分かっているであろう? 竜人は空の一族。地上と言う場所は竜人にとって擦れな不釣り合いな場所であり、最も住みづらい場所でもある。人間に対して突然空に住めといわれるのと同じように……、竜人にとってこの国は必要な場所でもあるのだ。だが、そんな国にも老いと言うものが存在している。()()()()()()()()()()()()()が、この国は後数百年で劣化し、崩壊してしまうことを知ってしまった拙僧は、この空の領域を支配している『八神』――シルフィードの力を借りようとしていたのだ」


「こ、この国が……、崩壊ですと……っ!?」


 唐突に聞かされた崩壊の二文字。そして劣化の二文字を聞いていたディドルイレスは、聞いたことがないと言わんばかりに顔を驚愕に歪ませ、悲痛の声を上げながら足元をよろけさせる。


 それは背後にいた『六芒星』達も、アクルジェドも同じで、誰もがその言葉を聞いた瞬間驚きを隠せない状態で王のことを見上げていた。見開かれたその眼を見て、王は内心――その反応であろうな……。と、深く同意をしつつ、王は続けてディドルイレス達に向けて話しを続ける。


「ああ。そうだ。この国ももう創世期の時からこうなのだ。普通に地面となっている状態ならばその心配もないが、この通りこの国は浮島。風の影響で風化し、岩が削れ、そして雷や天災、『残り香』の襲来のせいでこの国もかなり傷を負った。そのためこの国の寿命も残り少ない。そうなってしまえばこの国の崩壊と共に竜人族は住む場所を失ってしまう。そう思った拙僧はシルフィードに頼もうと思ったのだ。この国を支える風の力が欲しいと。そう思っていたのだが、運悪く『終焉の瘴気』が来てしまい、国を守ってほしいどころかこの国を破壊するかのような暴挙に至った。そのことに対して危機を感じた拙僧は、いずれ来るであろう『大天使の息吹』の詠唱者が来ることを願い、一時封印することを決めたのだ。このことは誰にも伝えることができず、一人でなんとかしようとしたが、結局風の魔祖を纏い、そして吸収したシルフィードを止めることができなかった。あとはディドルイレス。貴様が話した通りの結果だ。拙僧は鬼の一族の男――その男の名は『蒼刃(アオハ)』と名乗っていたが、その男の協力もあって、何とかシルフィードを封印することに成功した。その後はこの国の老いを、崩壊を一日でも伸ばすために奮起した。と言うことだ」


 これが拙僧が隠していた真実だ。


 そうドラグーン王はあまりの衝撃の事実に絶句し、言葉を失いながら『がくんっ!』と――膝から崩れ落ちたディドルイレスのことを見降ろすと、王は続けて驚きのあまりに固まってしまっているアクルジェドのことを見降ろす。


「!」


 王の視線に気付いたアクルジェドは驚きながら王のことを見上げる。


 姿勢を正すことも、頭を下げることも忘れるほどの衝撃の事実だ。


 気持ちを切り替えることを忘れて棒の如く立っていると、ドラグーン王はアクルジェドのことを見降ろし――


「すまんな。貴様に対しても拙僧は隠していた」

 と言い、続けて王は驚いたまま固まっているアクルジェドに向けてこう言った。


「本当であれば、この事実を包み隠さずに伝えることこそは王としての務めなのだが、それを放棄してしまった。この国が崩壊してしまうことは、拙僧にとっても避けたい事実でもあり、その事実を受け入れたくなかったがゆえに拙僧は一人、単身でシルフィードに願おうとした」

「………………………」

「アクルジェド。拙僧も同じだったようだ。私欲を優先にし、あろうことか結果を出せなかった知識だけしか能のない王は、ただの竜人族と言うことになる。私情を優先にした――貴様と同じ竜人族だ。貴様が思い描いていた王の姿を見せることができず、申し訳ないと思っている。そして、隠していて――申し訳なかった」

 

 そうドラグーン王は流れる様な動作で徐に玉座から立ち上がり、ナヴィを玉座の手すりに下ろした後で、王はそのまま玉座から離れるように、アクルジェドに近付くように段差が少ない階段をどす。どすっと降りていきながら、王はアクルジェドに近付く。


 緊迫から驚愕のせいで空気が混濁しているような空間の中、王は何の迷いもなくアクルジェドに近付き、アクルジェドの前に着いたと同時に足を止める。


 足を止めた瞬間、王はアクルジェドのことを見降ろし、慎重さのせいでアクルジェドは王のことを見上げると、王は突然頭を下げ――アクルジェドに向けて、頭を下げた。


 まるで悪い事をしてしまったがゆえに謝罪をするかのように、彼はアクルジェドに向け、王が一介の騎士団長に向けて頭を下げたのだ。


 なんとも異常な光景。なんとも珍しい光景なのだが、その光景を見上げていたアクルジェドは驚きながら王のことを見上げて「お、王よ……っ! あ、頭を上げてくださいっ!」と声を上げるが、王はそのまま頭を下げたまま動こうとしない。


 どころかその状態のままドラグーン王はアクルジェドに向けて――


「重ねて申し訳ないことを言ってしまうが、聞いてくれるか? ボロボ空中都市憲兵竜騎団第三部隊隊長アクルジェド・ナード・ヴィルデドよ」

「!」

「………………………きっと、近い内に試練を終えた冒険者達が帰ってくる。その試練を終えた後で、拙僧は彼等をシルフィードが封印されている場所――『風獣(ふうじゅう)の神殿』に連れて行こうと思っている。そしてその場所で、シルフィードの浄化を頼もうと思う」

「………………………浄化、ですか」

「ああ、その時が来れば、拙僧は民にこのことを伝えようと思っている。この国が近いうちに崩壊してしまうこと。そして()()()()()()()を話そうと思っている。クロゥディグルにも、リリティーネにも、みんなにこのことを伝えるつもりだ。もし、貴様がよければでいい。今でも拙僧に対しての忠誠心が変わっていなければなおいいが、その時が来るまで、拙僧に対し忠誠を誓っていてほしい。貴様の処遇もしっかりと考える。それを踏まえたうえでのお願いだ」


 なんとも我儘な王ではあるが――聞いてくれるか?


 王は言った。いいや――アクルジェドに向けて、王とは思えない様なお願いをしたのだ。


 頭を下げ、そして一介の騎士団長に向けて王は嘆願をしたのだ。王としての凛々しさが残っている音色ではあるが、その覇気にかすかな濁りと言う名の弱さが見える様な音色で、王はアクルジェドに謝り、そして聞いてきた。


 聞いてくれるかと――


 その言葉を聞いた瞬間、アクルジェドは止める動作をやめると同時に、王のことを見降ろした後――彼は……。


 ――王は、確かに己の身勝手でシルフィードのことを利用しようとしていた。だがそれは……、自分だけの利益のためではなく、国のことを思ってのこと。これは全然違う利用価値と言うもの。


 ――まだ知らされていないが、それでも王はこの国のためにシルフィードに単身で頼もうとしていた。しかもボロボロになりながら、封印を自分だけで背負って。


 ――ディドルイレスのように己の野望のままに行動していたわけでもなければ、俺のように私怨に囚われてやったこととは大違いの身勝手だ。


 ――身勝手の質と言うものなのだろうか……。このお方はやはり優しすぎる。このお方は自分勝手と言っているが、民のために自分でその重荷を背負い、そして苦悩を抱え、時が来るのを待っていた。


 ――この国が本当に崩壊しない道を辿るその時を……。


 ――……、なら、答えは一択だ。


 そう思った瞬間、アクルジェドは槍に向けて伸ばしていたその手の動きを再開し、槍を掴もうとする。するとその行動を見て……、いいや、見ずに激昂に顔を染めたディドルイレスは未だに頭を下げている王に向けて――ずんずんっと重くなった足取りで近付きながら彼は怒鳴った。


「な、そんな嘘誰が信じるかっ! 信じると思ったら大間違いだぞ! この老いぼれ! どうせその言葉も嘘なのだろう? 民を騙すための口実なのだろうっ? そんなの誰も信じんぞっ! 老いぼれの演技なんぞ誰の心にも響かんっ! 引退間際の王がそんな嘘をついて王の座に縋りつくなっ! さっさとその武器を儂に――」


 どかどかと足踏みを鳴らし、ドラグーン王に近付くと同時にディドルイレスは王が持っている王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)――『永劫(エイゴウ)ナル氷菓(ヒョウカノ)(ツルギ)』に向けて手を伸ばし、奪い取ろうとした。


 その瞬間。


 ――ざしゅっ!


 謁見の間に響いた斬撃の刹那音。


 その音を聞いたと同時に、ディドルイレスは伸ばした掌に感じた激痛と熱に驚き顔を歪め、手を引っ込めその掌を見つめた瞬間、彼は理解した。


 彼の掌から零れ出す赤い湧水。


 それがディドルイレスの掌に溢れんばかりに湧き出し、その湧水を見た瞬間ディドルイレスは甲高い声を上げて二、三歩後ずさりをした後で彼は掌から零れだすそれを止めながら刺した張本人を睨みつける。


 よろけて後ずさりをした瞬間、絨毯や床にディドルイレスの生命の水が付着している光景を見ながら、刺した張本人は、突き刺したであろうその刃の先にこびりついているそれを拭わず、手に持っている武器を前に突き出しながら、王を間に入れるようにリーチが長い武器を突き出した状態でその人物――アクルジェドは言った。


 ぐっと――手に持っている槍を握る力を強めながら、彼は普段通りの笑みを浮かべ、「グシャシャ」と笑みを零しながら彼は言ったのだ。


「何が嘘だって?_俺には本当にしか聞こえねえよ。思えばこのお方は嘘なんてつくことはなかったし、全てに於いて本当のことしか話さなかった。それは今でも同じだし、こんな嘘なんて――民を思っての可愛い嘘としか思えねえよ」

「な、なぬぃいいいい………っ!?」

「それに――俺は王に命令されたんだ」


 アクルジェドは言う。ディドルイレスのが来る前に、王は彼に向けて言った言葉を、罪を犯した自分に対して放った優しい言葉を口頭で再生するように彼は言う。


「『これは最後の選択だ。いやならばこの命令、すぐに忘れて己の罪を償う準備をしろ。しかし今でも、()()がしようとしていることを止めたいという意思があるのあらば……、拙僧の命令、聞き入れてくれるか?』ってね。その答えに対して――俺は速攻でイエスと答えたよ」


 そう言いながら、アクルジェドは頭を上げる王の行動と連動するように王の横に回り、そして持っていた槍を己の横で回し、その後で彼はその槍の矛先を――ディドルイレスのそれが付着したその槍の矛先を『ぶんっ!』と言う空気を切り裂くような音と共に向けるとアクルジェドは言った。


「ひぃ!?」


 甲高く叫びを上げて後ずさりしようとしているディドルイレスに向けて、アクルジェドは胸を張って言う。


 これが、()()()()()()()()()()だと心に言い聞かせながら、彼は言った。




「あんたの野望を止めるってね! グシャシャシャッッ!」




 その言葉と同時にアクルジェドは床を強く蹴る様に足に力を集中させ、『どんっ!』と言う衝撃音と共に情けない叫びを上げているディドルイレスに向けて突進と言う名の槍の突きを繰り出そうとした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ