PLAY96 陰謀、蠢く②
「アダム・ドラグーン。その玉座――儂によこせ」
大臣でもあるディドルイレスの言葉を聞いた瞬間、その言葉に対して異常と見なし、今までの行いに対して憤りを感じていたせいもあり、アクルジェドはそのまま跪いていた状態から勢いよく立ち上がると――アクルジェドはディドルイレスのことを睨みつけ、勢いよく指を突き付けながら彼は叫んだ。
「貴様っ! なんてことを王に言うんだっ! お前のような存在が王にそのような命令、ましてや『王の座を明け渡せ』などと言う言葉がまかり通ると思っているのかっ!? 烏滸がましいにもほどがあるっ! 王の座など、ドラグーン王にしかできないこと! 貴様のような存在が王になるなど虫唾が走る! 貴様――自分が言っていることがどれだけ重罪なのか、わかっているのかっ!?」
アクルジェドは叫ぶ。
ディドルイレスに向けて、自分が何を言っているのかという言葉を怒り任せに発しながらアクルジェドはディドルイレスに向けて言う。
彼自身ディドルイレスの口車に乗ってしまったせいで、騙されてしまったせいであんなことになってしまったことを悔やんでいる。
それもこれも己の心の弱さとディドルイレスの狡猾さに気付けなかったことが原因なのだが、だからこそ彼は許せなかった。怒りが収まらなかった。
こんな男のせいでこうなっている。なのに本人はそのことに関して忘れているのかわからないがその口から自分が王になる宣言をしたのだ。
我慢する理由などこの時点で崩壊してしまった。
ゆえにアクルジェドはディドルイレスに向けて怒鳴りつけ、心の中に巣食っていた憤りをぶつけたのだが……、当の本人はそんなアクルジェドの声を聞いて一瞬驚きのそれを浮かべたがそれもすぐに消え去り、アクルジェドのことを見たディドルイレスは鼻で笑うような嘲笑を浮かべながら……。
「なんだ? 貴様は確か……、ボロボ空中都市憲兵竜騎団第三部隊隊長アクルジェド・ナード・ヴィルデドだったな。久しいぞ久しいぞ。貴様のおかげで私は大臣の座を掴むことができた。あの時のお礼をまだ言っていなかったな。ありがとう。おかげで私はこうして大臣になれ、そしてこのままだと王様にもなれそうだ。このきっかけを作ってくれて本当にあ」
と言いう掛けた瞬間、その言葉を聞いていたアクルジェドはディドルイレスの声、そして一言一言、あろうことか一文字の言葉でさえでも吐き気を催してしまいそうになり、口の中に広がりかけた胃酸を感じた瞬間アクルジェドはディドルイレスの言葉を遮る様に――差していた指をほどき、そのまま彼のことを振り払うようにその手を大きく横に扇ぐ。
ぶぅんっという音と共にディドルイレスの言葉を薙ぎ、言葉自体を切るような動作をした瞬間、彼は憤りの頂点に達した顔で叫ぶ。
「――貴様のような男の謝礼など、悍ましい! 吐き気さえ覚えるっ! その口を今すぐ閉じろっ! この野心家めっっ!」
アクルジェドが叫ぶと、その声を聞いたディドルイレスは驚きで目を見開き、仮面で顔を覆っている『六芒星』の面々もアクルジェドの声を聞いた瞬間目を点にしている様子でその光景を見ていた。
大きかったその声が一瞬のうちに耳から外に向かって通過したその瞬間だけ驚きで固まってしまったが、それも一瞬で消え去り、それと同時に喪失感と驚愕だけは彼等に残った。
いいや――その感情になっているのは『六芒星』と、目を点にして固まっているナヴィだけであり、ディドルイレスは驚きの後にそれが勝るように出てきた狡猾な笑みを浮かべていた。
あたかも――そんなことしか言えないのか。と言わんばかりの嫌味な笑みと共に……。
ディドルイレスの顔を――その嘲笑と言わんばかりの顔を見た瞬間、アクルジェドの怒りも一気に最高潮に達し、今までのこと、自分を利用したこととこの国を陥れようとしているという愚行など、色んなことが走馬灯のように甦った瞬間アクルジェドは背に差し入れていた槍に手をかけようとした。
力強く槍を掴み、そのまま引き抜いて槍の刃をディドルイレスに向けようとしたその時――
「やめるんだアクルジェド第三隊長よ」
「!」
突然、己の行動をその声だけで止めるように入ってきたドラグーン王の声。その声を聞いた瞬間アクルジェドは驚きと共に動きも強張らせ、その言葉を聞いたアクルジェドは驚きの表象と共にドラグーン王のことを見上げる。
視線を王に向けると、王はアクルジェドのことを厳しく、諫める様な鋭い眼で見つめていた。
射殺すようなそれよりは弱いが、それでもその目を見てしまった瞬間に跪いてしまいてしまいそうな威圧を感じたアクルジェドは、少しの間槍を握る手を下げることはなかった。だがその手もかすかに震えてしまい、『がちゃがちゃ』と掴んでいる手が音を上げていた。
そのくらい、王の視線があまりにも恐ろしく、そしてこれ以上のことをしてしまえば王の逆鱗に触れてしまうと悟ってしまったのだろう。
アクルジェドは王のその眼差しを見て、その威圧に当てられてしまい、今まで燃え上がっていたその怒りが嘘のように燻り始め、彼は震えていたその手をゆっくりと、槍から離し始める。
するり……。と、指から抜けていく力が振るえという行動に変換され、どんどんと槍から離れていくその手の位置が腰の辺りに位置した瞬間――だらり……、と、力を失ってしまったかのようにぶら下がってしまう。
戦意も怒りも王のお陰で鎮静されたアクルジェドは、心の奥底で燻るそれを感じながらも視線を王から己の足元に向け、できないというジレンマよりも、今は王の言葉に従わないといけないという意思を尊重するように、彼はそれ以上の言葉を紡がないようにする。
アクルジェドの行動を、王の言葉の一部始終を見ていたディドルイレスは少しの間傍観者としてその光景を見ていたのか、驚きと安堵のそれを吐いている背後の『六芒星』の声を聞いた後で、ディドルイレスは「ぐふふ」と言う下劣な笑みを零すと共に王のことを見上げ――
「流石は始祖王にして『英知の永王』。たった一声で鎮めるとは……、信頼と恐怖で部下達を従わせているだけのことはありますな」
と、どことなく褒めと嫌味が……、いいや、殆どが嫌味に近いような言葉を零すと、ディドルイレスの言葉を聞いていたドラグーン王はその言葉に対して反応も、返答もせずに無言を徹する。
何の反応もしない。自分の言葉に対して返答もしないその光景を見て、ディドルイレスは「ふん」と肩を竦め、呆れるような笑みと共に彼は続けて王に向けて言葉を零す。
「おやおや。無言ですか。王様らしい特権なのでしょうかね? しかし王と言う素質、そして証明できるものを持っているあなたがそのような無言では民達に示しがつきませんぞ? それでは元砂の帝国の王と同じ結末を迎えてしまいます。王が我儘な国はすぐに亡びる。」
「亡びる起因を作ってしまう原因。それは一理に――戦争がきっかけと言うこともありますが、平和なこの世界におい手戦争で滅びることは絶対にない。ですが……、その起因を作っているのが王であるとしたら? あなた様のように恐怖で兵士達を従わせているのであれば、この国も滅んでしまいます」
「あなた様がそう思っていないと思われましても、事実兵士達はこんなに恐怖しています。滅びない国を作るためには、まずは民のことを考えて行動しないと私はいけないと思います。あなた様がそう思っていなくとも、結局民達には」
「ディドルイレス・ドラグーン大臣」
すると――ディドルイレスの言葉を遮る様にドラグーン王は声を普通に出しているが、それでも張りのある声を仇すようにその声を謁見の間中に広める声を出す。
その声を聞いたディドルイレスは今まで閉じないで動かしていたその口を一旦止め、静止画のように王のことを見上げると――彼はそのあと言うつもりであった続きの言葉を、脳内で消去してしまった。
消去と言っても、そのあと言う言葉は全てに於いて自分のペースに乗せるための口実でもあったのだが、その口実も王の一声、そして王のことを見た瞬間、吹き上がる緊張とそれ以上言ってはいけないという本能。そして――王の言葉を聞かなければいけないという気持ちが彼の心を満たし、その満たされる感覚に連動されるように、ディドルイレスの脳内から口実の言葉がどんどんと消去されていく。
二度と復元されないように、しっかりと――
緊張と同時にくる恐怖のせいで、鱗の隙間から出てくる汗が彼の肌を湿らせ、少しずつ不快感を出していくが、その顔を出した瞬間何をされるかわからない。
アクルジェドが何故武器から手を離したのか、今になってディドルイレスは理解した。
自分も体感したのだ。王の目を見て、これは言葉で覆せるほど甘い事ではないと。
それを体感したと同時に、ディドルイレスも無言になり、その状態で王のことを見る。何の言葉も発することができず、脳内で混乱する思考の中次の口実を急ごしらえで組み立てながら、彼は王の言葉を待った。
内心……。
――くそっ! くそっ! 今の威圧ですべてが台無しになった!
――今までの言葉で王の心をかき乱そうとしたのに、たったひと睨みで崩され、あろうことかその言葉を与えないように崩しにきた。
――これでは私の計画が崩れてしまう。
――いや、まだだ。まだ序ノ口の崩し。このようなことになるのは想定内だ。
――まだ策はある。まだ億の手も残っているのだ。
――今は、王の言うことに従おう。その時が来るまで、王の流れに乗ろうではないか。
――それまでの間、構築をしておこう。
――あなたをその玉座から引きずり下ろす算段を……。
と思い、何とか平静を取り戻したディドルイレスは、平静と焦り、緊張が迸る中王のことを見つめる。未だに自分のことを見降ろし、鋭い眼光で己のことを捉えている王のことを見て――
王は言った。凛々しくも威厳を持った音色で、ディドルイレスのことを見降ろしながら爬虫類の目をそっと細めて……。
「御託はよい。貴様がここに来た理由を、本当の理由を告げよ」
と、張りがある声で告げた。
その言葉を聞いた時、ディドルイレスは再度口を噤んでしまいそうになる緊張感を感じたが、王の言葉に従わないといけないという先入観も入ってしまい、ディドルイレスはその言葉に従いつつも、己という意思を残しながら彼は一瞬口を濁し、濁した後で彼は口を開いた。
長い長い前置きが入ってしまったが、それを回収するような――謁見の間に来た本当の理由を……。
「は、はい、わかりました。王の命令とあらば、いいえ……、元王になるお方の命令とあらば、話しましょう。私がこんなところに来た理由を」
「元王とは心外だな。拙僧はこれからもずっとこの座を守るつもりだ。この命が潰えるその時まで」
「その時まで……、と言うことは、真実を墓場に持って行くということでしょうかな? 不安を募らせる民達の悩みを解消できないまま、自らそれを墓場に持って行くのですか?」
「!」
ディドルイレスの言葉を聞いたドラグーン王は、驚きの瞬きをすると同時にはっと息を呑む声を零す。ディドルイレスの嫌味交じりの言葉に対して苛立ちを覚えていたそれも吹き飛ばしてしまうような言葉を聞き、その表情を見たディドルイレスは内心――よし。と思いながら自分が言った言葉の手応えを感じ、右手を降ろしながら再度王の目を見てディドルイレスは語った。
右手を徐に王に向けて差しだし、器のように形どったその手の中に王を入れるように差し出しながら、彼は続けて語る。
「おぉ? どういたしましたかな? 顔色が優れませんな。少しお休みになられた方がよろしいのではありませんかな」
「貴様に心配される筋合いはない」
「おやおや? なんとも心無いお言葉です。この大臣鋼のような精神を兼ね備えておりませんが故、今のお言葉はかなり傷つきましたぞ。私は王のことを思い」
「大臣よ。貴様――どこまで知っている?」
その語りの最中でも、ドラグーン王はディドルイレスに向けて突き放すような言葉を放ったが、その言葉に対してもディドルイレスは大袈裟に心臓の位置に手を添え、悲しそうな顔をしながら体を左右に揺らす。
ぐらぐらと揺れながらディドルイレスは王のことを心の底から心配している演技を見せつける。他の人から見てもその光景はあからさまな虚仮の光景。それを見ていた『六芒星』の一人が口腔内の息をぶっと吹き出す音が聞こえた気がしたが、それに対して隣にいた同胞が肘で小突いたことは言うまでもない。
しかしその子笑いが起きそうな場面であろうと、この空間が和むことはなく、緊迫が続いている最中、ドラグーン王はディドルイレスに向けて聞いた。
どこまで知っていると――
その言葉を聞いた瞬間だろうか。ディドルイレスの小馬鹿にするような行動が一瞬で止まり、今までおちゃらけているように見えた顔からそれが消え去ると同時に、真絵Kんではあるが、どことなく邪悪そうな思考が見え隠れする顔を晒しだす。
この時を待っていたと言わんばかりの顔でディドルイレスは王のことを見、そして無言を徹していると……、ドラグーン王は聞く。
「もう一度聞くぞ。ディドルイレス大臣。二度はない。貴様は、どこまで知っているというのだ?」
「あなた様のご想像にお任せします。と言いたいのですが、この際です。この日を皮切りに歴史が変わるのですから、すべてを伝えましょう」
ドラグーン王の言葉を聞き、その命令を聞いたディドルイレスは一瞬目を伏せた状態で王のことを見つめたが、それも一瞬の間で終わってしまう。
ディドルイレスは目を閉じた後で差塩の言葉を発したが、いいやと言わんばかりに否定のかぶりを振るうと、ディドルイレスは王のことを真っ直ぐ見上げて彼は告げる。
王以外の誰もが知らない事を、そして自分の手で追い詰めた王が隠していることを余すことなく、ありのままを口にして……。
◆ ◆
「ドラグーン王よ。あなた様はこの国を治める王として己の命を削り、そしてここまでの繁栄を築き上げて来ました」
「たった一人の成果ではない。これは、皆の力があってこその結果だ」
「そうでしょうな。我が兄の功績もあってこの国は繁栄を築き上げ、そして医療技術の発達。更には竜の国という理由もあってこの国は雪の大地、王都に次ぐ戦力を有しています。戦争となればボロボは必ず勝つでしょうな」
「何を言っている。まさか貴様がこの国の王になる理由は、戦争を引き起こして己の手柄が欲しいうと言うものなのか? そんなこと……、認められるわけがないだろう。それに世はもう泰平。戦争など怒りもしない時代になったのだ。そんなことを望んだところで、貴様が望むような世界など……」
「いいえいいえ。そんな泰平など、すぐに崩れ去ってしまいます。どころか、このボロボには奥の手と言うものがあることを、あなたはご存じなのでしょう?」
ディドルイレスは言う。
このボロボ空中都市には大きな奥の手がある。
それはこの国の最終兵器と言えるものであり、それがあると言った瞬間、ドラグーン王は驚きの顔を目だけで浮かべるが、アクルジェドと『六芒星』の面々はその言葉を聞いていまいちピンッと来ないのか、首を傾げながら王のことを、そしてディドルイレスを見つめる。
その光景を横目で見ていたディドルイレスは内心――やはりな。と思いつつ、驚きの顔をしていた王に視線を戻すと、ディドルイレスは続けてこう言った。
「おや? どうやら他の者達は知らないご様子。それでは歴史のお勉強と称しまして、私が知ったことを全て話しましょう。このボロボには驚強い兵器と言う名の存在がいます。その存在はこの国を壊す力を有しており、それと同時に他の国をいとも簡単に壊してしまう力を持っている存在です。王はそのことを知っていたにも関わらず、それを民たちに伝えることをしなかった。怠慢と言えば怠慢かもしれません。しかし……、それは王であろうと制御できるような存在ではなかった。王自身も身を粉にしてその存在の制御に命を懸けていたのです」
ディドルイレスは言葉通り、歴史の教師のように言葉を並べ、そしてアクルジェド達のことを見回しながら講習の声を上げてつらつらと述べていく。
話を聞いていたアクルジェドは驚きのまま固まってしまい、『六芒星』の面々はと言うと、ディドルイレスの言葉を聞きながら仮面越しで唸るような顔をしているのか、首を傾げたり、腕を抱えた状態でディドルイレスの話を聞いていた。
肝心の王はその話を聞きながらディドルイレスのことを嫉妬見下ろしていた。
威厳を持っている眼ではあったが、その瞳の奥に隠された動揺は隠せていないような雰囲気を出していた。その顔を見てディドルイレスは見て内心嘲笑しているのか、それとも見ていないがゆえに語りたいのかわからないような胸を張った演説をしながら、彼は続きを語り出す。
「さて――王は何に対してそこまで命を懸けていたのか? 皆様は疑問に思うでしょう?」
ディドルイレスは言った。その言葉は――疑問の提示だ。
その提示を聞いた誰もがディドルイレスのことを見、そしてざわり……とどよめきだす。そのどよめきは確かに……、と言う納得と、そして何に対して命を張ったのだろと言う膨らむ疑問と、そして同意の示しでもあった。
いくつもの感情が飛び交う空間の中、ディドルイレスはにっと下劣に笑みを零すと、疑問に思っているアクルジェドや『六芒星』達に向けて言ったのだ。
「ならば――私が代理として教えて進ぜようっ!」
張り上げるように、ぐるりと己の足場で時計回りに回り、衣服をはためかせながら彼は言う。まるで――演説であるかのように、一種のショーを見せようとしているかのように、彼は魅せながら発言をしたのだ。
王が隠してきたことをばらす第一段階の爆弾を投下して――!
「王が命を懸けてその奥の手を制御していた。理由はそれは一歩でも間違えた方法で使ってしまえばアズールを滅ぼしてしまうもの――それは、魔導具でもなければ秘器でもない! そう! それは生物! 生物と言えどそこら辺にいる魔物でもなければ竜でもない存在を、王は制御しようとして身を粉にしていた! その存在は――皆も知っている存在、そう! それはっ!」
ディドルイレスは告げる。王が身を粉にして制御しようとしていた存在の名を大きな声で伝えるように、彼は叫ぶ。
「この国を守っていた存在にして神の領域の存在! そう! そうですとも! その名は『八神』が一体にして『風』のシルフィードッ! 国の奥の手として、王は神の制御を試みたのですっ!」
衝撃の発言に、アクルジェドや『六芒星』の面々が驚愕の表情を浮かべ、ナヴィに至っては驚きの顔を浮かべながら「きゅえ~っ!」と言うなんとも間の抜けた声を出して毛を逆立たせていた。
しかし、その言葉を聞いていた王は今まで隠してきたことにも関わらず、あまり驚きのそれを浮かべていない。どころかディドルイレスのことを見降ろしながら目を細め、どことなく憐れんでいるようなそれを浮かべながらディドルイレスのことを見下ろしていたが、そんな顔をされて見つめられている当の本人はなぜか勝ち誇って入用な笑みと共に、未だにくるり、くるりと回り続けている。
狂気の笑いをを上げてもおかしくないような笑みを浮かべ、その笑みを浮かべながら王のことを見つめていたディドルイレスは、更に狂気の笑みを更に深く刻みながらこう言ってきた。
「なんとも傲慢な王でしょうかっ! 竜である存在でも神様を扱うことなど到底できない! 前のアクアロイアの王がしていたかのような愚行を繰り返そうとしていたのでしょうかなっ!? だがそれも結果として、失敗にい終わってしまい、あろうことか神シルフィードを怒らせてしまった! 結果として、王は自業自得ともいえるような結果を招いてしまった!」
どんどんとなだれ込むように押し寄せてくるその言葉の応酬。ディドルイレスのターンともいえる様な応酬が繰り出される中、ドラグーン王は今もなおディドルイレスのことを見降ろし、無言になりながら彼の話に耳を傾けている。
無意識に、腰に携えている剣を指で撫でながら王はディドルイレスの進撃ならぬ進言に耳を傾け、内心……、あれを読んだのだな……。と思いながら王は耳を傾ける。
ディドルイレスは続けて言う。王に向けて、言葉の追い打ちをかけながら彼は言ったのだ。
「シルフィードは怒り狂い、この国を滅ぼそうとまでしてきた! このことに関しては王自身想定外だったのでしょう。歯が立たないとはこのこと! 何千人と言う犠牲を出したらしい! ですが! それを止めるきっかけを作ってくれたのは、この国に住んでいる全く別の種族――今の我々にとってすれば身近ではあるが、それでも縁遠い存在ともいえる存在が王の手助けをしてくれたのです!」
「身近……、縁遠い……? ………………………! まさかっ!」
「そう! アクルジェドよ――貴様ならわかるだろう? そう! あの存在が助けてくれたのだっ!」
きゅっっ!
と、今まで回っていたその体を勢いよく止めるように足を止め、そしてはためいていた衣服、そして贅肉をたゆんっと揺らした後……、あらかじめ顔を下に向け、両手をバランスをとる様に平行に伸ばした状態で止まっているディドルイレス。
普通に見てしまうとなんとふざけた光景だと思ってしまうが、そう思えないほど謁見の間の空間は緊張と困惑、そして王に対しての驚きと、衝撃でディドルイレスの姿に誰も口を出すことはなかった。
張り詰めている状況の中、ディドルイレスは自分の空気に変わって来ている空間の中で俯いていた顔を王のことを見上げるように顔を上げる。ぐわんっ! と、勢いをつけるように顔を上げると、ディドルイレスはその状態で更なる衝撃となる第二爆弾投下になるであろう下拵えの言葉を王に向けて放った。
自分は全て知っている。お前の思惑も、その時施したこともすべて知っている。お前が隠していたことを知った私に、怖いものなどない。
そんな挑発を植え付けるように、ディドルイレスはドラグーン王に向けて言った。
「この国の端にひっそりと住んでいる種族――鬼の一族であり、その鬼の一族の中でも特異的な存在……、三本角の鬼が王のことを助け、そしてシルフィードを封印した! シルフィードが嫌いな属性『氷』の力を駆使して!」
「! 鬼……、あの集落に住んでいる鬼の一族が……っ!?」
強い衝撃と言わんばかりの衝撃の言葉を聞いたアクルジェドは驚愕のそれを浮かべると同時に、王のことを見上げ、下劣に笑みを浮かべているディドルイレスのことを見ながら愕然としてしまう。
自分はそのことを知らされなかった。どころかそんなこと一回も聞いたことがない。ご長寿の竜人にも聞いたことがない事実を、ディドルイレスは勝ち誇った笑みを浮かべ、あたかも自分は王の秘密を知ったかのような顔をし、自分は切り札をいくつも持っていることをちらちらと見せながら王のことを見上げている。
その顔を見た時、アクルジェドはディドルイレスに対して怒りに近い苛立ちを覚えたが、そのことに関し怒声を上げることなど、アクルジェドにはできなかった。どころかそんなことを気に掛けるよりも気になることがあったからだ。
アクルジェドは思った。未だにディドルイレスのことを見下ろし、静かにその言葉を聞いている王のことを見上げて、困惑とした顔を浮かべながらアクルジェドは思った。
――なぜ、反論をしないのですか?
――まさか……、ディドルイレスの言っていることは、本当なのですか? 国のことを、民のことを第一に考えているあなたが、私欲のために支配しようとしていたのですか?
――なぜそんなことをしたのですか? 王よ!
聞こえるはずもないが、それでも言葉にできない気持ちで必死になりながら訴えを掛けるアクルジェド。
だが聞こえない声のせいでドラグーン王は返答などしない。ただじっと……、ディドルイレスのことを見下ろしてるだけ。
そんな王のことを見て、畳み掛けるようにディドルイレスは王のことを指さし――いいや、彼が指をさした先は王ではない。王の腰の辺り、それも、王が携えている氷のような透明度を持っている剣を指さしながら彼は言った。
「そう! 封印をした! 己の身勝手が招いたことを隠滅するために、シルフィードを封印し、そしてその鍵となるものを肌身離さず持っていた! 王が持っているその王位継承具こそが、シルフィード封印を解くカギの一つ! そしてその鍵を墓まで持って行き、己の罪を隠し通そうとした! 王は――罪人でもあったのです!」
衝撃の言葉に重ねるように、畳み掛けるようにして上乗せされる衝撃の応酬。
その応酬を聞いていたアクルジェドは驚きのあまりに言葉を失い、そのまま力なく地面に膝をついて項垂れてしまいそうになる。
『六芒星』の面々はその光景を見て、聞きながらくつくつと喉を鳴らしているが、そんな彼等とは対照的に――王は静かな眼と雰囲気で勝ち誇った笑みを浮かべている狂気のディドルイレスのことをただじっと見降ろしてるだけだった。
反論も何もせず、ただただじっと――ディドルイレスのことを見下ろしたまま王は無言を貫くだけ……。
しかしこれで終わりではなかった。
ディドルイレスは王の無言を反論できない足掻きとして見てなのか、更に勝ち誇った笑みを浮かべ、自分が調べに調べたことを言葉の砲弾として与えようと試みる。
まだまだこちらには手札がある。そのような顔をしているのも今のうちだ。
そう心の中で思いながら、ディドルイレスは語りを再開した。




