PLAY10 絵本の真実。そして再会①
ポイズンスコーピオンを倒した私達。
私は事実上何もしていない。頑張ったのはアキにぃ達だ。はたから見れば功労者はアキにぃ達で、私はそれを労う義務があるのだが……、それをしようにも、安心のせいで腰を抜かしてしまい、それができない状況にあった。
でもヘルナイトさんは私を支えながら……私のことを見て一言――
「よく頑張った」と言ってくれた。
私はそれを聞いて、驚きはしたけどまさか私に言ってくれるなんて……、何か、こそばゆい。そう思いながら私は微笑んでしまう。
そんなもどかしい雰囲気の中……、なんだか異様な空気も感じられる……。
私はその気配を感じる方向を向くと……。
「っは」
「?」
驚いて声を上げてしまった。びくっと強張ってしまったくらい驚いた。
なぜ驚いたかと言うと……。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ」
アキにぃが歯を擦り合わせるように歯軋りしながら、怒りと不機嫌の顔で私達を見ていた。
傍らでキョウヤさんが『おいおい』という声が出そうな顔をして呆れている。
シャイナさんもそれを見て「うげ」と言う声を上げながら嫌なものを見た顔で見ていた……。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ」
「あ、アキ……にぃ?」
私は恐る恐る聞くけど……、アキにぃ何も話してくれないし……、何も言わずにただ「ぐぎぎ」と言いながら私達を睨んでいるだけ……。
ん? というか……。あれ? なんでアキにぃ目元から血が? ケガしたの……っ?
「アキ、おーいアキィ。血涙流すな。嫉妬は男としてはみっともないぜ?」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ」
「あ、だめだこりゃ。なんも聞いてねぇ。てか人語忘れてやがる」
キョウヤさんが話しかけても聞いていないようで、キョウヤさんは頭を掻きながら呆れて頭に手を組む。
シャイナさんはそれを見ながら口元に手を添えて、まるで汚物を見るような目でアキにぃを見てから震える口で……。
「し、シスコンなの……? キモイわー。ないわー……」
と、小さく言った……。
「アキ。どうした? まさか……、ポイズンスコーピオンの毒に」
「ぐぎぎぎぃ!」
「うお!」
「うきゃ」
ヘルナイトさんが聞こうとしても、アキにぃはグワッと肉食動物のように威嚇してくる。
それを見た私とヘルナイトさんは驚いて声を上げてしまった。
因みに「うお!」がヘルナイトさん。私が「うきゃ」である。
「アキにぃ。わ、私大丈夫だよ?」
そう言って、すっと立ち上がって私は、アキにぃに近付く。
するとアキにぃは歯軋りしていた顔がパッと普通の顔になる。
私はその変わり身ぶりを見て驚いたけど……、アキにぃはそのまま私を見降ろして……、目元に残った赤い液体をぐっと拭った後……。
「――そうか。よかった」
と安堵の息を吐きながら笑みを作っていった。
「そ、そう……? そっちこそ、よかった……よ?」
あまりの変わり身を見て、私は混乱しながらもアキにぃを見て、引きつった笑みを浮かべる……。
ヘルナイトさんはそれを見て、首を傾げて伊る光景も、キョウヤさんとシャイナさんが呆れた顔をして見ているのも私には見えなかった。
「おほん」
声が聞こえた。
私は後ろを振り向く。そこにいたのは……、スキルが解けてやっと自由になれたおじいさんがそこにいた。
おじいさんはゆったりとした足取りで私達に近付き……、おじいさんは私達を見て言った。
無表情の中にある、呆れのそれで……、頭を掻きながら、おじいさんは……。
「まったく、お前さん達の国では、戦いに勝ったら……、そうやって和気藹々とするのか? それが習慣なのか……、まったく、よぉわからん」
「「違う」」
おじいさんの言葉に、キョウヤさんとシャイナさんが真剣な音色で突っ込む。
それを聞きながら、私はおじいさんを見て、怪我がないことを確信した後で、私はほっと安堵の息を吐いて……。
「よかった……。おじいさん無事だった」と言うと。
おじいさんは「はぁ?」と老人らしい音色の素っ頓狂な声を上げて……。
「お前さんがあのけったいな魔法をかけたんじゃろ? 動いて逃げようにも、逃げれんかったしの……。というか、楽で助かったわい」
「ンだよその言い方……」
「気に食わない……」
「と言うか……」
キョウヤさんとシャイナさんが苛立った声で言う中、アキにぃはおじいさんを見て聞いた。
「逃げるって、あんな攻撃の中を?」
そう聞くと、おじいさんは思い出したかのように「おっと。そうじゃった」と言って。
「逃げるというよりも、姿を消して逃げると言った方がいいかのぉ」
その言葉に、私達は更に疑問符を浮かべる。
それを見たおじいさんは肩を竦めて、私達を小馬鹿にしたような目で見てから……、おじいさんは自分が着ていたローブを私達に見せながらこう言う。
「これはそこにいる武神卿が言った通り、瘴輝石を織り交ぜた糸で刺繍している魔導具なんじゃ」
「あ」
そういえばそんなことを言っていたような……。
おじいさんは着ているローブをそっと手で掴んでこう言った。
「これは魔導機器で作られた道具……魔導具。まぁこれは安もんじゃがな。こうして……」
おじいさんはそのローブの端を両手で掴んで、そして自分をそのローブで包みこむと……。
「マナ・エクリション――『透明マント』」
と言った瞬間だった。
ふっと、おじいさんが消えた。
「あ!」
「消えた!」
「うそっ! なんでっ!? こんなのスキルになかった!」
消えたおじさんを探しながら、私達はきょろきょろと辺りを見回す。でもどこにもいない。
すると……。
――ふわん。
「ひゃぁ!」
「「「っ!?」」」
突然、スカートがめくれた。後ろからぺらんっと……。
私は自分でも驚くような変な声で叫ぶと、すぐに後ろのスカートを手で押さえてそのまましゃがむ。それを見ていたシャイナさんは「ちょっと! 何があったの!?」と驚いて聞くと。
『ふむ……、どうじゃ?』
と、おじいさんの声が聞こえた。
そしてすぐにシャイナさんの鎌がひとりでにぐんっと上に上がり、それに対しシャイナさんは驚いて「ぎゃぁ!」と声を上げて、引っ張られる鎌を何とか取り戻そうと綱引きのように引っ張り合う。
『これがこのマントの力……』
と言った瞬間、ふっと力が抜けたかのように――鎌は地面に落ちる。
シャイナさんはそれを見て驚いたまま呆然としていた。それと同時に。
「うひゃぉうっっ!」
今度はキョウヤさんが声を上げた。肩を震わせて……、しかも尻尾をびくっと立たせながら。
それを見ていた私達はキョウヤさん、の尻尾を見た。
不規則に唸っていて、それでいて尻尾の先がビクッ。ビクッと痺れているかのようにびくつかせている。
キョウヤさんは震えながら青ざめながら『ひくっひくっ』と顔を引き攣らせていた。あれ? 長い耳も震えている……っ?
『要は透明人間になれるだけじゃて。それにこのマントは姿を消せても、それだけのもの』
欠陥品じゃ。
そう言って尻尾がふにゃっと力なくへたれて、キョウヤさんは肩の力を抜いて「ふへぇ……」と首を垂れる。おじいさんの姿を何とか視認しようと、私は周りを見る。でも、見えない。
文字通り、透明人間だから見えない。
見えないから逃げることなんて動作もない。
『逃走用には使えるぞい? なにせあのポイズンスコーピオンは嗅覚が優れておらん。ほかが優れてても、わしが消えてしまえば、探すことなど至難の業と言える』
……おじいさんの言うとおり、それは至極当然だとおもう。
今私達だって、おじいさんの姿が消えたと同時に、視覚でどこにいるのかと探している。聴覚などは二の次。つまり、人間が何かを探すのに最も適しているのは――目。
よく言う話だけど、本当にそうだ。
ここで漫画のように、鼻や耳で何かを探す事が格好いいなんてしょーちゃんが言っていたけど……。そんなの本当にフィクションの話。
犬なら鼻でいいかもしれない。ウサギなら耳で何かを察知するならいい。
常人にはそんなことできない。
そう思っていると、アキにぃはふっと左手を出して……。
ばしぃっと何かを掴んだ。
それを聞いて、私達はその方向を見る。そこには……。
フードを掴まれて驚いた顔をしているおじいさんがアキにぃの近くに来ていた。
でもアキにぃはそれでも、まるでそこにいたことがわかっていたかのような顔をしておじいさんを見ていた。
ヘルナイトさんも近付いて来て……。
「……あれが、異国の感知か……」
「あ。探検家の探知スキルか」
ヘルナイトさんの言葉に、シャイナさんがはっとして思い出す。
……感知スキル……。
確か、探検家にしか使えないスキルで、敵が近くにいることを感知したりすることができるスキルだ。
アキにぃはきっと、それを使っておじいさんがどこにいるのかを当てたんだ。
おじいさんはそれを見て、「ほほぅ」と、初めて驚いた顔をして、アキにぃを見て言った。
「これまた……、異国の冒険者も口だけではないか……。まぁ。あれを見たら、そんなのどうでもいい。結局は」と、おじいさんはとある方向を見た。私達も見ると……。そこには何かが落ちていた。
それは……、大きな棘? しかも丸い甲殻に覆われた棘。
私はそれを見て、一目であれがなんなのかとわかってしまった。
それは……ポイズンスコーピオンの尻尾の棘。
他にも周りに色んなものが落ちている……。と言っても、なんだかぶよぶよしたものとか……。あとはぎざぎざの歯に、あ、甲殻まで。
「ああした結果論だけが、信用の証じゃ」
と言って、のそのそとそれに近づいて、おじいさんはぶよぶよしたそれを手に取る。そして……。おじいさんは懐から何かをまさぐって、そしてそれを見つけたと同時に頷いたと思ったら、それを――
「ほれ」
と言って、投げた。『ぽーんっ』と言う効果音が出そうな投げ方で。
それを驚いて見上げてから、私は何とかそれを手で受け取る。そして見ると……。
「これ……」
「?」
「あ」
キョウヤさんとアキにぃが来て私の手に収まっているそれを見た。シャイナさんも遠目で見ているみたいで、ヘルナイトさんはポイズンスコーピオンがドロップしたそれを見ている……。でも私は手に収まったそれを見て、驚いて声が出なかった。
それは……、黄色い魔導液晶……。つまりは……。
特殊討伐クエストの魔導液晶だ。それは黄色く光って点滅している。
「な、なんだこれ……?」
「点滅している……?」
キョウヤさんとアキにぃはそれを見て、一体どうなっているんだと言わんばかりに言うとおじいさんはそれを見て、手にあのぶよぶよしたそれを持ちながら……、私達に対して溜息を零して言った。
「いちいち溜息つけんなっ!」
キョウヤさんはそれに対して怒って指を刺したけど、おじいさんはそれを無視するかのようにこう言った。
私の手に収まっている魔導液晶を指さして……。
「それは魔導液晶じゃろうが。見てわからんのか?」
「わかりますけど……、これ、光って点滅しています。壊れているんですか?」
おじいさんの言葉に対してアキにぃが苛立ったように聞くと、おじいさんは首を横に振って「違うわい」と言って……。
「それはクエストクリア……、つまりは任務完了の合図じゃ」
と言った。