PLAY94 討伐、そして陰謀胎動⑤
ファルナは叫んだ。
涙をボロボロと流し、これまでの異常なことを思い出しながら彼女は叫んだ。
死んで逝った者達の代わりに叫んだ。
クロゥディグルの腕の中で今まで抱えていたその感情を晒すようにファルナは叫び、その声を聞いていたハンナ達も彼女の悲痛に近い声と心の悲鳴を聞いて、締め付けられるような感覚を覚える。
今まで起きていた異常なことがずっと起きている状況の中――ファルナはずっと苦しんでいた。
苦しんでいたがそれを叫ぶことができず、あろうことか自分のせいに濡れ衣を着せられる。
悪者が正答者として扱われ、正当なことをしようとした者が悪人とされるような日々。
それは――あまりにも苦痛に感じる気持であったろう。
それでもファルナは耐えてきた。
ここまで、泣くまで耐えていき、この結果が起きるまで彼女は耐え続けたこの苦痛を誰もが理解し、そして族長の叫びを聞き駆けつけてきた鳥人族の心をゆっくりとだが動かしていく。
ファルナの声が届いたのかはわからないが、それでも突き動かされたのは目に見えていた。
何故なら――
「え? 生贄? と言うことは、魔物に、従ったということなのですか?」
低く、震える声でその言葉を放ったのは、今の今まで付き従ってきた烏の鳥人族。その男は最初にファルナのことを無理矢理連行した男でもあり、その男は族長の言葉、そしてファルナの言葉を聞いた瞬間、驚きと震える瞳孔で族長のことを見つめる。
烏の鳥人族の言葉を聞いた族長ははっとする声を漏らし、そのまま烏の鳥人族がいる背後をぎぎぎっと、錆びてしまった人形のように動かすと、その行動を見て嘘であってほしいと願いながら彼は零す。
震える声で、嘘だよな……? と言う願いと、脳裏にちらつく愛しい伴侶のことを思い出しながら彼は聞いた。
「付き従ったのですか? 魔物の言うことを聞いたということなのですか……? 私の伴侶、妻も行方不明になったのも、そのせいなのですか……? あなたの勝手な考えで、そんな身勝手な考えで、逝ってしまったのですか……?」
「っ! ち、違う……」
烏の鳥人族の言葉を、涙を含んだその訴えを聞いたとしても、族長は首を振りながら否定の言葉を零すが、誰もその言葉に対して「はいそうですか」と言う言葉を零す者はいない。
どころか更なる疑心を植え付ける結果となってしまったのか、烏の鳥人族の男は更なる訴えを与える。
「違うのでしたら、本当にファルナがこの郷を脅かす存在となっているのが本当でしたら、その証拠を見せてください……! あわよくば、行方不明になった時、妻はあなたに呼ばれてどこかへ行った。その場所を教えてください! 妻がいなくなった場所を、教えてください……!」
「そ、そんなこと……、教えられん……!」
「教えられない……? 答えられないの間違いではないのですか? 妻は、行方が分からないのではなく、もうこの世にいないのでしょう? あなたの身勝手な願いの犠牲になって――」
「違う……!」
「なら話せるのではないですかっ? 妻が、どこでどのようにして消えたのかを――!」
「は、話せんと言っておるじゃろうがっ!」
「話してくださいっ! あなただけなんですよっ!? 妻と一緒になり、見失ってしまったと言った――あなたしかわからないのですよっ!? なぜ話せないのですかっ? 本当は、隠しているのではないのですかっ!?」
「っ!」
烏の鳥人族は訴える。
どこに妻がいるのかを、そして正直に話してほしいと訴えながら烏の鳥人族は訴えを続ける。今もなお――否定と言う名のごまかしを続けている族長に向けて。
鬼気迫る様な訴えを聞いていた族長は、何の言葉も出すことができず、しどろもどろになりながらこの場をやり過ごそうとしていたが、それも今となっては苛立ちを加速させる催促薬にしかならない。
その催促によって突き動かされたのか、その光景を上で見降ろしていた鳩の鳥人族の女性が族長のことを見て、不審そうな顔をしながら突然、こう聞いてきたのだ。
「隠していないのならば、息子のことも話せるはずだよねぇ!?」
「!」
その言葉が聞こえると同時に、今の今まで烏の鳥人族のことしか見ていなかった族長はすぐに上にいる鳩の鳥人族の女性のことを見上げる。それはハンナ達も同じで、上を見上げた瞬間その光景を見てキョウヤは「うぉ!」と言う声を出しながら驚きのそれを浮かべる。
シェーラに至っては「こんなに集まっていたの……?」と驚きながら言葉を零すと、なんとなくではあるが状況を察したシリウスは「あんなに大きな声を出すからなー。きっとその声を聞いてここまで来たんだと思うよ」と言いながら頭の後ろに手を回す。
なんとも呆れる。そんな顔を族長に向けながら――だ。
シリウスのその顔など見えていない――いいや、もはやこの状況では族長のことしか見えていない鳩の鳥人族の女性は畳み掛けるように怒りの音色で「どうなのっ? 族長様!」と聞くと、その鳩の鳥人族の女性の言葉につられるように、色んな鳥人族が今の今まで敬っていた族長に向けて質問と言う名の拷問攻めを繰り出し始める。
「族長! 本当なんですかっ!? ファルナが言っていることは……、本当なのですかっ?」
「まさか……、旦那も……? 旦那は本当に討ち死にしてんですよね? 魔物に食わせたわけじゃないですよね?」
「娘もなのかっ!? 可愛い孫娘もお前のせいでいなくなってしまったのかっ!?」
「息子夫婦がいなくなったものあなたが起こしたことなのですかっ? もうすぐ孫が生まれると言っていた矢先に……っ!」
「お父さんもいなくなったのは族長様のせいなの? なんでお父さんを殺したのっ?」
「この同族殺しーっ!」
「鳥人族とは思えない外道だ! 人間以上の外道だ!」
「この同族なしのくそ野郎!」
「わがままで同族の命を弄ぶな!」
「この外道め! 鬼畜め! 同族と言う名の皮を被った魔物め!」
「そんなことをしてまで自分の世界が欲しかったのか!? この異常鳥め!」
「返せ! 息子を返せっ!」
「見損なったぞこの野郎っ!」
「お前なんか前の族長と比べたら異常だ! 仲間を陥れようとしやがって! 前の族長はそんなことしなかったぞっ!」
「外道! 今すぐ頭を下げろ! 土下座でもして私達に許しを乞えっ!」
「族長失格だっ! この郷から出て行けっっ!」
この奇形がっっ!
わぁぁぁぁぁぁー! わぁぁぁぁぁぁー! わぁぁぁぁぁぁー!
と、怒声交じりの歓声が響き渡る中、郷の民達の声を聞いた族長は、今までの威厳があったその顔を殺してしまったかのような狼狽の顔を晒し、辺りを見回しながら族長は唸り声を上げる。
なんとも苦々しい、口惜しい。そんな顔を出しながら族長は何をすることもできず、ただただ郷の民達のことを見上げているだけだった。
本当であれば、ここで族長と言う存在ある言葉をかけるところなのだが、今はそんなことをしても結局何をしたのかと追及をされるだけ。いいや――もはやそのシステムは崩壊している。
今まで自分を中心に回っていた軸と言う名の生命線は、ショーマ達の行いとファルナの言葉によってひびが入ってしまい、それが今でも浸食をするように、風化の如くどんどんと劣化の一途を辿っている。
今まで隠し通してきた支配と言う名の武器がなくなり、それと同時に疑心と言う名の武器に首元を突き付けられている状態。今まで族長にあった武器がなくなり、今まで手にしようとしなかった、もしかすると永遠に手にしなくてもよいような武器を郷の民が持ち、それを族長に向けている。
その光景を見て、ツグミは内心思った。
――これが本当のざまぁってやつ? でもい嘘をついたせいでこうなったんだから、仕方ないかもしれないな。
ツグミは族長が今までしてきたことを呆れながら思い、肩を竦めて溜息を深く吐くと、郷の民達からの尋問と言う名の質問攻めを受けている族長は、その声の雨に打たれ、顔を木の足場に向けて伏せるように顔を隠すと、族長は握りしめていた鳥人族の翼を一瞬で開き、顔を上げて目を見開いた瞬間――族長は……。
吠える――
「――えぇぇぃっっ! 喧しいわ金糸雀共がぁっっっ!!」
『――っ!?』
「――っ!」
族長の吠える声を聞いた瞬間、今の今まで騒いでいた郷の民達や烏の鳥人族、そしてハンナ達もその声を聞いて強張らせる表情をしながら激昂の顔を浮かべて荒い息で呼吸をしている族長のことを見つめる。
対照的に、ショーマ達は今でも怒りの無表情を顔に張り付け、クロゥディグルは己の腕の中にいるファルナのことを守るように抱きしめ、ファルナの目から族長のことを、存在を遠ざけるように隠す。
あまりの豹変に驚きを隠せない郷の民達は族長の豹変を初めて見たのだろう……。困惑と恐怖、そして理解できないという顔を晒し、今現在自分達のことを見上げている族長のことを見降ろす。
今までの気迫が、質問責めと言う名のデモが嘘のように終息をしたようなそれを出しながら……。
その光景を見上げた族長は噴き出してくる怒りを抑えることができず、荒い息を吐きながらもつい先ほどまで罵声を浴びせていた民達に向けて、今まで自分の操り人形でもあった民達に向けて、族長は叫ぶ。
もう威厳など関係ない。
族長としての佇まいなど関係ない。
族長は己の感情の赴くがままに荒げる声で族長は叫ぶ。今まで溜めていた感情を吐き出すように、族長は郷の民達に向けて叫んだ。
「ぴぃぴぃと五月蠅く鳴きおってっ。儂が何かをした途端にこれかっ? 今の今まで儂がしてきたことは正しいとほざいていたくせに、何かが分かった瞬間に手の平を返す! 儂がしていることは全てにおいて正しいのじゃ! 儂は族長なのだぞっ? 今まで何度も迫害と言う名の差別を受け、そして鳥人族と認められなかった。飛ぶ世界を満喫できなかった! こんなひしゃげた翼で釣べなかったにも関わらず、飛べる貴様達のことを今まで世話をしてきた! 逆にありがたいと思えっ! 逆に住める場所があるだけありがたいと思えっ! そして儂と言う存在のおかげでここまで安泰した生活が遅れた! 魔物と言う存在の恐怖から怯えることなく過ごせることができたのは――儂と言う存在が、儂と言う名の族長が魔物と手を組んでここまで頑張ったかじゃろうっ? たった小さな犠牲でそこまでぎゃーぎゃー喚くな鬱陶しいっっ!」
「たった………? そんなこと……っ」
族長は言う。自分のおかげでここまで安心して暮らせる。そして自分のおかげで鳥人族の郷は安泰の時を過ごしたと――つまりは自分のおかげでここまで楽しく過ごせることができたのだ。責めるのではなく有難いという感謝を込めろと、族長は言ったのだ。
私利私欲のために、己の我儘のために人身御供をしたことを棚に上げるように……。だ。
その言葉を聞いて、ハンナはアクロマの時と同様の、そしてDrの時に込み上げてきたそれがまた再発するようなそれを感じ、ヘルナイトの手をぐっと握りしめる。
手に込められた力を察つぃたヘルナイトは、はっと息を呑むと同時にハンナのことを見降ろし、顔に浮き出ている感情のそれを見たヘルナイトは、ハンナの気持ちを汲み取り、汲み取ると同時にヘルナイトは握っている彼女の手を包み込むように、ぐっと、優しく握り返す。
今は落ち着け。その諫めと同時に気持ちを汲み取るような優しさも加えて……。
ハンナの気持ちは誰もが抱くものと同じで、族長の話を聞いていたアキ達は憤りと言うそれを感じると同時に、振るいそうなそれを堪える自制心との葛藤をしながら怒りのそれを民達に向けている族長のことを見つめた。
攻撃をしてもいいのかもしれない。然しそれをしてしまえばもっとこの状況が悪化してしまうかもしれない。そんなことを思いながら止めることができずに見続けていると、族長はその怒りの声のまま「だいたい……」と言う言葉を零すと同時に、族長は上で自分のことを見降ろしている民達に指を突き付けながらこう言ってきた。
いいや――この場合は……。
「貴様達は儂に何かをしたか? 前の族長は色んなことをされてきた。しかし儂には何もなかった! 前の族長にはしたのに儂のは何もしなかった。逆にあったのは――迫害と言う名の心の傷だけ! そして族長と言う名の責務だけ! 前の族長にあった手伝いが儂にはなかった! 儂がこのような姿だから手伝おうとしなかったのかっ? むしろ儂は前の族長よりも多く仕事をしていた。責務を全うしていた。それなのにお前達は儂の手伝いと言うことをしなかった! 儂が奇形だからか? 儂がこの姿で、気色悪かったからしなかったのだろうっ? それでも儂は何も言わずに責務を全うした。そして嫌と言う言葉を吐かずにお前たちの不満を聞いてきた! どんなに無理難題でも聞いて、それをこなそうとした! ならそれ相応のことをしても許されるだろう? なにせ――お前達の願いを叶えた王なんじゃ。儂は。そして王の行いに歯向かうこと自体がおかしいんじゃっ! 儂は――この郷の行く末を決めることができる王なのじゃから、それだけのことでぴーぴー騒ぐでないっ! そして、お前達は儂の言うことだけを聞いておればいいんじゃよぉ! お前達は――儂の奴隷なんじゃ! 黙って儂の言うことを聞いていればいいんじゃっ! 今の今まで苦しんできたんじゃ――そのくらいしてもばちなど当たることなどないっ! 儂は、今まで苦労と言う名の苦しみを味わってきたのじゃ。ちょっとやそっとの処分で喚くなっ!!」
この場合はもうぶちまけ。そう……。
心の本音のオンパレードだ。
そう――族長にとってこの郷の者達はただのストレスの解消のために集められただけの存在。
前の族長のように民のことを第一に考えるような思考など一切なく、ただただ憎しみと言う名の負の連鎖で動いているだけの存在となり、族長は今の今まで自分のストレスの解消を、邪魔な存在という者達に向け、己の気持ちを静めてきたのだ。
今までの迫害のストレスを解消するように。
与えられた自分とは違い、何も苦しまずにのうのうと幸せに生きている者達を、憎々しげに思い、そしてその者達を絶望の底に叩き落すことをしながら、族長は今の今まで続けてきたのだ。
今まで自分が受けてきたことを、相手にして――
そのことを聞いた鳥人族達は言葉を失い、族長と言う存在に対して理解できない恐怖を抱くと、それ以上の言葉を投げかけることをしなくなった。
それはハンナ達も同じで、クロゥディグルはそれを聞いた瞬間思った。
ファルナの言う通り、族長は壊れていると――
クロゥディグルがそう思っていると同時に、ハンナは一瞬感じた感情の波――彼女の言葉で言うのならばもしゃもしゃを感じ、そのもしゃもしゃを見た瞬間、ハンナは理解してしまう。
族長が言っていることは本当で、そしてその憎悪も、怒りも止めることができない。どころかそれをとどめることができていないことに気付いたハンナは、強張るそれと怒りのそれが混ざっている顔で族長のことを見て思った。
――この人はずっと苦しい想いをしてきた。
――その苦しみは刃となって、弾丸となって族長の心を幾度となく傷つけてきた。修復ができないほど大きく、ボロボロになるまで……。
――そのボロボロの心がまるでコンピューターのバグのように、異常を起こしてしまった。
――私は体感したことがないからわからない。でももしかすると、私もそれを受けていたのなら、もしかするとそうなっていたかもしれないような……、些細なもの。
――それは………………………、理不尽と言うものへの怒り。
――その怒りが今回のことを、今までのことを引き起こしてしまっているんだ。
――なんで自分だけこんな運命を? なんで自分だけ苦しい想いをしたのに幸せそうなの?
――他人があんなに幸せそうなのに、なんで自分はあんなことをされたの。
――そんな些細だけど大きな起因が、妬みが族長の心を壊し、そしてその破壊が族長の心を壊し、こんな風にしてしまった。
――何の生と言えば、小さい時に受けてしまった迫害のせいだと思うけど、それはもう治せないもの。過去を治すことは出来ない。修復などできない。そして――その壊れてしまった心の赴くがまま、族長は動いてしまった。心が歪んだまま、族長は生きて、そして正しいと思ってしまった。
――これは……、一つの出来事が生んでしまった、悲劇の連鎖なんだ……。
――族長は、第一の被害者なんだ。
そのことを思うと同時に、ハンナの心からは異常に膨れ上がった怒りが、風船のようにどんどんとしぼんでいくのを感じ、それと同時に怒りの象徴でもあった握りが緩くする。
「!」
握力の緩みを感じたヘルナイトはハンナの異変に気付き、そして彼女のことを見降ろすと俯きながらヘルナイトの手を弱々しく握っているハンナの手を、そして彼女の肩の向こうにあるであろう横顔を見つめる。
顔は見えない。しかし先ほどのような怒りはもう小さくなっている。完全に消滅はしていないが、それでも小さくなっているそれを見て、ヘルナイトはハンナの気持ちを汲み取り、再度優しく手をぐっと握る。
優しく、共感しているそれを伝えるように……、それと同時に大剣をそのまま背にある元鞘に納めて――
すぅーっ。キンッ。
大剣を元鞘に納める音が微かに響いた瞬間、族長の言葉を聞いていたショーマは、今の今まで黙っていたその口を徐に開け、そして族長に向けて彼は言葉を発した。
はっきりとした音色で、ショーマは言った。
「――あんた、本当にクズだな」
「あぁ? なんじゃ悪魔族風情が」
ショーマの言葉を聞いた族長は、怒りが収まり切れないような怒りの眼を背後にいるであろうショーマに向け、そのまま続ける言葉をショーマに向けて投げ掛けた。
「儂のことを屑と言ったのか? 儂が屑じゃと? 何故そう思う?」
「あんたのその思考回路がクズだって言っているんだよ。お前――人の命を、みんなの命を、何だと思っているんだよ」
「何をいまさら、こいつらの命なんぞどうでもいい。儂の迫害に比べれば犠牲なんぞ小さすぎる。あっという間に死んでしまうからのぅ。あまりにも呆気なく死んでしまう。つまりは何の謝罪もなく死んでしまう。誰もがそうじゃった。儂に対しての感謝もない。あろうことか『助けてくれ』しか言わん。儂はお前達のために身を粉にして働いておるのに、何の感謝もない。その命を儂のために使ってほしいなど言わん輩なんぞ、この世には必要――」
「俺が言いたいのは、そういうことじゃない……!」
「あぁ?」
投げかけられた言葉に、ショーマは今まで感じてきた憤りを、怒りを再度再沸騰させ、その怒りを族長に向けてぶつけるように、ショーマは怒りを殺したような音色で俯きながら言葉を零す。
歯軋りをする声と同時に、ショーマの言葉を聞いていた族長は首を傾げながら耳があるであろうその箇所に翼を添えながら、聞き取れませんでしたと言う表現を体で表すと、そんな族長の行動にショーマは限界を迎え、俯いていたその顔を上げ、ショーマは族長に向けて、ぶつけにかかる。
「俺が言いたいのは……っ! なんでそこまで命を粗末に扱うんだよって言いたいんだっっ!」
ショーマの怒声を聞いた瞬間、その場にいた誰もが大きな声を上げたショーマのことを見、ツグミ、むぃ、コウガ、デュランはその言葉に耳を傾けながら無言を徹する。
この場で、族長に向けて一番言いたいであろうショーマのことを気遣い、そしてショーマが全部言いたいことを言ってくれる。そう思いながらツグミ達はショーマの言葉に耳を傾ける。
そんな彼等の気持ちを汲み取っているのか、汲み取っていないのかはわからない。しかしショーマは族長に向けて、今まで感じていた怒りを族長に向け、胸の辺りに右手を添え、そして服にしわができるほどその辺りを握りしめながら、ショーマは叫ぶ。
魂の訴えを震わせ――
「お前――命っていうのが何なのかわかんねぇのかっ!? 神様に与えられら最初で最後の贈り物で、みんなが一生をかけて大事にする炎なんだぞっ!? その炎はどんな炎よりも消えやすくて、消えちまったら二度と灯すことができない炎なんだ! それなのにあんたはその炎をないがしろにして、苦しめて消した! どれだけ痛いと思っているんだよ……っ! 命が消える瞬間は、すごく悲しいんだよ! 苦しいんだよ……! それが他人であろうと、死んでしまった瞬間、その炎が消えてしまった瞬間は、傷ついていなくても痛いんだ! 悲しいんだっ! なのに『それくらい』で? 『ちょっとやそっとの処分』で? それで喚くなっ? 喚くに決まっているだろうがっ! お前のせいでたくさんの命が消えちまったんだ! 二度と会えなくしてしまったんだっ! ありがとうとか……、おめでとうとか、そんなたくさんの感謝も謝罪も……、いろんな言葉をかけることもできないまま、別れの言葉を言うこともできずにお前の身勝手で消えちまった……! お前の身勝手な気持ちのせいで色んな無関係な奴らが死んじまったんだっ! それを……、ただのおもちゃとか抜かしやがって……、お前――本当に救えねーよ。本当に…………」
生きている存在として――終わっている。
そう断言をするショーマ。服を握っているその手には血管が浮き出ているような強みを晒し、そして族長のことを見ているその眼には――憤慨と苦痛、そして後悔が入り混じり、更にはその中に隠された……、失望が黒い表面に晒されていた。
顔が見えているはずのその顔には、真っ黒なそれしか晒されていない。
輪郭と白く光る眼しか映っていないその顔を見た瞬間、族長は上ずる声を吐き出すと同時に、ショーマの威圧に押されてしまったかのか、その場で尻餅をついてしまう。
まるで押されたかのような尻餅の付き方だ。
どさりという音が響くと同時に、その光景をショーマの近くで見ていたツグミ達は、尻餅をついた族長のことを見降ろす。今までの怒りや長髪のそれなど微塵さえも感じない……、老人らしい衰退と、そしていつにもましてしわになった顔とがくがくと震えるその恐怖の眼を見つめ。ツグミ達は思った。
もう返す言葉もないだろう。
そう思った瞬間、その光景を見ていたコウガ達は、族長のことを見降ろしてそれぞれが口を開く。
「はぁ……、結局やっていることがみみっちいジジィが粋がっても、結局は帰ってくるってことだな。むぃ――これで学んだよな? これが、因果応報ってやつだ」
「はぃ! むぃ学びましたっ!」
「この族長がしたことは見過ごせるものではない。この件は国の判断にゆだねることになる。我々が入り込む余地はないが、今まで犯してきた罪――己の余生を持って償え」
「ずいぶんと身勝手なことをしたから――もしかしたら終身刑かも。それで死んで行ってしまった人が戻るなんてことはないけど……、それでも、せめてもの慰めになれれば……、ね」
コウガ、むぃ、デュラン、そしてツグミがそれぞれ思ったことを口にし、ツグミの悲しげな音色が言い終わった後、ショーマは未だに尻餅をつき、己のことを見降ろしている族長のことを見降ろしながら、最後の言葉を告げた。
「あんたのことを族長なんて呼ぶ人もいないし、そして……、あんたのことなんか、誰も救わねえよ。お前がしたことは――全部だめなことでもあると同時に、最もしてはいけない冒涜行為なんだ。その冒涜を、償え」
その言葉を聞いて、今まで見上げていたその体制を、俯きのそれにし、族長は憔悴しきった顔で茫然としながら肩の力を落とす。
すべてが終わってしまった。その絶望を胸にし……、そして重すぎる罪を背負いながら……、族長としての最後の一日を、無意義に過ごす……。
◆ ◆
これで鳥人族の郷をめぐる試練と、闇を晴らしたショーマ達。
それは鳥人族の命運を、未来を左右するようなことであり、ショーマ達は鳥人族の郷の道を明るく照らしたのだ。
本当に明るいのかはわからない。もしかすると暗い道になるかもしれない。しかしそれを決めるのは――族長ではない。
これからのことを決めるのは、鳥人族みんななのだ。
その未来がどうなるのかも彼ら次第であり、彼らの選択次第で決まる。
それを見守ることができないが、もう大丈夫であろう。
なぜ? 理由は明白。
私利私欲と言う名の憎悪に呑まれていた族長が、もういないのだから。
だが。
この国にはまだ巣食う闇がある。
『終焉の瘴気』? 否――
『六芒星』? 否――
この国の闇は――もうすでにハンナ達が出会った存在であり、その芯材は今もなおとある計画を打算しながら企てている最中だ。
打算した紙を手に、その人物は用心深く策略する。
自分が王となる計画を練りながら――その人物はその時が来るのをじっと待っていた。
すぐに来るであろうその時を……じぃぃっくりと。




