PLAY94 討伐、そして陰謀胎動③
「デュラン様――いったい何があったのですか?」
「? 何がだ?」
「いえ、黒い竜巻が起きた時、皆様はあの中に入ってしまいましたが、皆様の体に外傷………、あ、いえ――『偽りの仮面使』の攻撃を受けた傷だけが残っているのですが、あの風の中に入った時の傷がないなと思いまして……」
「そうか――あの風の攻撃を受けてあの魔物は消滅をしたのだからな。誰であろうとそう思うのは不思議ではないな」
「はい……。しかしデュラン様方に大きな傷がなく良かったです。あの魔物相手に全員生存。誰も死なずに討伐できたことは名誉あることですよ」
「名誉……か」
「はい。幾年もの前に現れた『偽りの仮面使』相手にした時、ボロボの騎士団総出で相対した時でさえも犠牲は出ました。しかし今回は犠牲も出さずに……、流石は『12鬼士』様です」
「我は何もしていない。逆に、我は助けられた。何の経験もない小僧に――な」
「は、はぁ……、小僧、となると……」
「どうやら察したようだが、そのまさかとでも言っておく。結局、我はまだ弱かった。体が強くとも心が強くなければ弱者と同じ。精神面でまだまだ弱かったことを今回痛感した。弱いのか弱いのかと思っていたが弱かったことに気付いたことにより、なんだか心もすっきりした気分だ。まぁ――あの女の登場がなければこんなにも複雑な気持ちを抱くことはなかったのだがな」
「あの女……?」
「あ、いや――すまん忘れてくれ」
「は、はぁ……」
長い長い会話をしている人物はデュランとクロゥディグル。
二人はそのような話をしながらクロゥディグルの背の上で穏やかな空の移動を満喫し、クロゥディグルはずっと聞きたかった言葉を声に出し、それをデュランに向けながら言うと、デュランは言葉を零した。
今までの張り詰めた気持ちや、定まり切れないような感情の乱れを雰囲気に出していたことを思い出し、今となっては面白い笑い話だと思いながらデュランは零す。
強いと思っていたのが本当は傲慢な考えだったということを理解しながら……。
そして言葉を区切ると同時に、デュランはふぅっと溜息交じりのそれを零すと、クロゥディグルの背の上で腰を伸ばすように空を見上げる。
空はあの時見た晴天そのもので、デュラン達のことを照らす太陽もすでに傾いている。
太陽の傾きから察するに、もう午後の三時を過ぎている辺りであろう。
そう思いながらデュランは再度溜息交じりの息を零すと、そのまま後ろを振り返る様な仕草をする。
デュラン自身人馬なので馬が座り込むように足を曲げで入り状態だが、その状態でも上半身は人間の体であるが故、腰を捻るようにして背後を見ると……、その光景を見て再度溜息を吐くデュラン。
今度の溜息は、疲弊が混ざった溜息だ。
そのような溜息を吐く原因となっている光景――今デュランの背後で何の言葉もかけず、勝利の喜びを共感せず、ただただ俯きながら移動するその世界を見降ろすだけの行為をしていた。
ツグミも、コウガも、むぃも、そしてこの中で一番五月蠅いと言っても過言ではないショーマも、無言のまま複雑な顔――怒りをむき出しにした顔をしながら黙っていた。
お互い互いの顔を見ず、その背にある大きな包み袋を背にして彼等は無言を徹していた。
それも――あの戦いが終わってからずっとだ……。
その光景を見てデュランは再度小さく呆れの溜息を零すと、そのまま振り向くそれをやめて正面を向くと、肩の力を落とすように……、いいや、どっと肩を項垂れるように落とすと、デュランはそのまま腕を組み、ふぅっと息を吐くと、内心こんなことを思いながら彼等の心中を察する。
――まぁ、あんなことがあった後で、更にはファルナからの話を聞けば誰であろうと憤りを感じ、混乱をしてしまうであろうな。
――なにせ、あの魔物は。
そう思うと同時にデュランは考えることをやめ、もう何度目になるのかわからないような溜息を吐くと……。
「あの……」
「?」
ふと、デュランの左横から声が聞こえ、その声を聞いた瞬間デュランは左を振り向くと、彼のことを見降ろしながら申し訳なさそうな顔をしているファルナがいた。
腕の方はまだ治っていないので、その箇所に木の枝で補強をし、むぃが持っていたタオルで縛りつけた簡素な腕の包帯を作成したものが巻かれている。
それを見てデュランは今まさに申し訳なさそうな顔をしているファルナのことを見降ろすと、ファルナはそんなデュランのことを見て、申し訳なさそう雰囲気でこう言ってきたのだ。
「やっぱり……、みんな怒っていますよね? 郷を滅ぼすなんて嘘をついて、結局私の私欲で動かしたことに……」
ファルナのその言葉を聞いたデュランは、反省の色をとてつもなく出しているファルナのことを見降ろし、彼女の全身をくまなく見つめる。顔のないそれで見つめると……、デュランは彼女のことを見てこんなことを思っていた。
今となってはもう関係のない事で過ぎたことでもあるのだが、それでもデュランは思ったのだ。
――最初に出会った時の不穏な空気が全くない。
――本当に心中を晒さないようにと言う隠ぺいだったのか。
――本当の顔はこのような感じなのだな……。
そう思ったデュランは、驚きつつも自分のことをじっと見つめられているので困惑のそれを出しているファルナのことを見降ろしていた。
そんなデュランのことを見て、ファルナは驚いた顔をしたまま困惑の音色で「あ、あの……?」と聞くと、それを聞いたデュランは一瞬だけ思考の世界に入ってしまったが、すぐに現実に引き戻され、その状態ではっと息を呑むと「あ、ああすまない」と謝りのそれをかけると、デュランはファルナに向けてこう言ったのだ。
「最初と比べてすごい変わりようだなと思ってな」
「あ、これですか。族長は人の顔を伺ったり、その変化を見てすごく詮索をしてくる人だったので、なるべく悟られなうように施した結果なんです。かなり不愛想でしたよね」
「不愛想と言うよりも、心のうちが読めないような雰囲気だったな」
「うぅ……。すみません」
「謝ることではないぞ。それに貴様がそう言うのであれば、族長と言うものはかなり慎重と言うよりも、疑心が強いものなのだな」
「はい……、そうですね」
「………なるほどな」
ファルナの言葉を聞きながらデュランは内心納得のそれを示す。
確かに、ファルナは最初であったときは何を考えているのかわからない女の子で、ラドガージャが言った通りの異常者と言う言葉が正しいようなそれを出していた。
しかしそれは今回のことをずっとしてきた族長の目を欺くためのことで、本人はなるべ悟られないように接してきた結果、あのような人格を一時作ってしまったのだ。本当はこんなにも正直で優しい人格を持っている。それはクロゥディグルから聞いていたが本当のことであったのだなとデュランは思っていた。
そして俺と同時に、族長はそこまで疑心深いのかと思いながら聞いていたが、ファルナがああなるのは無理もないなと思いながらファルナの話を聞いていると、ファルナは徐にショーマたちのことを横目で見つめ、そして再度申し訳なさそうな顔をしてこう言ってきたのだ。
「あの、やっぱり、怒っていますよね? 彼等」
「?」
「えっと、最初に言ったことをもう一度言いますけど……。郷を滅ぼすなんて嘘をついて、結局私の私欲で動かしたことに……」
「そのことか。そんなことはあいつらは考えていないだろう。むしろ今考えていることは、それ以外のことだ」
「え?」
「そうだ……。それ以外の色々なことで、憤りを感じているんだ」
その言葉を言うと同時に、ファルナは唇を閉じ、俯きながら言葉を失ってしまう。ファルナのそのK姿を見ていたデュランは一瞬驚きを感じていたが、それと同時に――まぁ、無理もないかもしれないな。と思いながら再度目の前を見て今向かう場所を見つめながら無言を徹した。
ここで遅くなってしまったが、今の彼らの現状を説明しようと思う。
今彼らはクロゥディグルの背に乗りながら目的の場所――鳥人族の郷に向かって戻っている最中だ。あの時、ディーバと再会をしたのだが、その時の出来事は最悪の一幕として記憶され、それと同時にクロゥディグル達が来たところを見上げたデュラン達は、討伐を終えた『偽りの仮面使』の素材を見降ろし、どれかを持ち帰ってそれを証拠として持ち帰り、現在に至っているということである。
クロゥディグルの背にはショーマ達とファルナ、その背の中心には素材のそれがぽつんっと置かれ、つい先ほど体感した高速のそれは嘘のように、今は穏やかな飛行を楽しんで………………………はいないが、それでもデュランは飛行に際に生じる風を感じながら周りの景色を見降ろし、そして前を向きながらこう思った。
この戦いの最中、クロゥディグルの背に乗る前にファルナから聞いた言葉を思い出しながら、デュランは思った。
――今回の試練の内容は郷を壊すかもしれない存在の討伐。つまりは『偽りの仮面使』の討伐。
――しかしそれは族長が手を組んだとされる魔物のことで、その魔物の存在を知ったファルナは族長の奇行を、じゃないな。これは……、復讐だ。その復讐を止めるためにファルナは我々に言った。
――嘘のことを告げ、倒すように……。
――このことを、族長のことを知らなければ我々はファルナに対して怒りを向けていたかもしれない。しかし今回その怒りを向ける相手は、このことを長い間引き起こしてきた族長に向けるべきだ。
――それはきっと、ショーマ達も思っていることであろうが、それ以上にディーバの発言はまずかったのかもしれない。
そう思うと同時に、デュランは己の胸に手を添え、そしてぐっと五指の指先に力を入れるように鎧に沿えると、デュランはその時に生じた音を聞くと同時にこう思ったのだ。
――あの女は、異常だ。我々から見ても異常で、誰もあの女の思考を理解することはできなかった。が、あの男だけは………、ヘルナイトだけはその言葉を理解すると同時に、そんなディーバの抑止力として間に立っていた。
――誰も、理解できない思考から裂ける選択しかできなかったにも関わらず、その言葉を受け入れつつ、彼女の気持ちに耳を傾けていた。
――奴曰く、あの女は故郷を一番大事にしようとしている女らしい。この大地のことを心の底から愛し、そしてその故郷を穢すものを許せない、手加減と言うものを知らないからこそあそこまで以上になってしまう傾向があるだけで、本当は優しい奴だ。とは言っていたが……、我自身はそう思言えない。
――あんな顔を見てしまえば……、誰であろうとその意志も完全に心変わりしてしまう。
デュランは思い出す。あの時――ショーマに向けて言った言葉を思い出すと同時に、あの時見せた慈悲と言う通り名を語っている女にはふさわしくない顔を見せられたあの時、デュランは思ってしまったのだ。
あれは魔王族の一員でもなければ聖霊族でもない。あれは――
――あの男と……、同じ目だった。
その言葉が心の中に出始めると同時に、デュランはあの時――アルテットミアで見たあの人物のことを思い出す。
あの時――一瞬、ほんの一瞬見てしまったあの男の素顔を、あの時見てしまった彼の。
『終焉の厄災』――鎮魂魔王族の一人、ジエンドの血にまみれた怨恨の眼を思い出して。
デュランはそれを思い出すと同時に、今更ながら思い出される震えと恐怖に体が反応し、その行動に合う震えを腕で出した瞬間、デュラン徐に舌打ちを零すと、鎧につけていたその手をすぐにどかし、反対の手首をがしりと掴んで強制的に震えを押さえる。
ぐっと、押さえつけると、その音を聞いたファルナは驚きながらデュランのことを見たが、デュランはそのことをはぐらかすように「何でもない」と低い音色で呟く。
内心――なぜこうなってしまったのか。そして、なぜジエンドはこんなことをしてしまったのだ。
みんな――バラバラなんだぞ? お前にとって、我々は仲間ではなかったのか……?
そう思い、心の中に出来上がる小さな穴の気配を感じながら、デュランはそのままの状態を維持する。未だに震える手を反対の手で押さえつけながら……。
□ □
「あ! 帰ってきた! 帰ってきたよーっ! みんな帰ってきたよーっ!」
『!』
外からリカちゃんの声が聞こえる。その声を聞いた私達は驚きと同時にすぐに体が動き、きっと降りて来るであろうその場所に向かって駆け出した。
あれから……、私達はそれぞれ考えの整理をつけるために、各々別々に自由行動をしながらしょーちゃん達の帰りを待っていた。
勿論、その原因を作った族長に家には誰も近付いていない。と言うか、あの家に近づいてしまえば、誰もが自分を保つことができないと思ったからこそ、それぞれ頭を冷やしながらしょーちゃん達の帰りを待とうと、エドさんが率先して提案をしてくれた。
正直な話……、みんなはきっとそれを望んでいたのかもしれない。私は怒りでどうにかなりそうな経験を一度したことがある。だから私自身も今回のことを聞いて、ちゃんと冷静に対処できるか不安だった。
みんなからも不安と怒り、更には困惑のもしゃもしゃを出していたので、きっとみんなも怖かったに違いない。
あんなことを言い、そして異常な行いを繰り返していた族長さんを前に、冷静に対処できるのか、本当は不安だったに違いない。だって京平さんのあの怒りを見てしまったら、たぶんできないことは確実……、かもしれなかったから。
だからあの後、私達は族長の言葉を聞いたと同時に、殴りかかろうとする京平さんを止めながら私達冒険者はそのまま族長の家から姿をくらました。
そしてその後、エドさんは私達に頭を冷やすような提案をして、その後京平さんと一緒に別の場所に移動を開始した。
エドさんの意見に対してみんなも賛成らしく、エドさんがいなくなると同時にシロナさんは善さんと一緒に組み手の練習をすると言ってどこかへ行き、その光景を見てシェーラちゃんとキョウヤさん、虎次郎さんも少し考えた後で「少し風に当たって頭冷やす」と言って、キョウヤさんを筆頭に三人も離れてどこかへ行ってしまった。
私、アキにぃ、そしてヘルナイトさん三人を残して――だ。
三人でいる間少しの間静寂と言うか……、無言のそれが流れたような気がしたけど、その沈黙を破ったのはアキにぃで、アキにぃはふぅっと息を吐くと同時に、その後で私とヘルナイトさんに向けて一言――
「ちょっと、郷内を回ろう。散歩がてら」
と言うと、それを聞いた私もヘルナイトさんも、否定なんてできない。どころかアキにぃの意見に対して賛成のそれを示しながら私達は木でできた足場を歩きながら郷内を歩き回った。
その時間は……、大体三時間程度。
その間私達は話もせず、そしてお互い頭を冷やすように歩みながら郷内を歩き回った。
郷内を歩き回り、一蹴をしたところでリカちゃんの声が聞こえて、現在に至るということである。
今現在私とアキにぃ、そしてヘルナイトさんはリカちゃんの声が聞こえたその方向に向けて足を急かして走りを進める。その最中アキにぃは私達に向けてこんな川を切り出してきた。
「あの声、帰ってきたということは……」
「ああ、きっとデュラン達が帰って来たのだろうな。どうなっているのかわからないが、帰って帰ってきて嬉しい限りだ」
「でしょうね。こんなところで誰かがいなくなるなんてことはあまり考えたくないことでもあるし、それに後味も悪いから帰って来てくれて俺も嬉しいよ」
「…………………………」
「あぁ! ハンナに言っているわけじゃないんだよ? 俺はただショーマたちが帰って来てくれて本当に心の底から神様に誓って嬉しいってことを知らせたくて言っただけなんだよっ!? 今見ったらしく云ったように聞こえたけどこれは俺なりの優しさ! そう! 優しさって思ってハンナ!」
「うん………………………」
アキにぃの言葉を聞いたヘルナイトさんは凛としている音色だけど安堵が含まれたような音色で言うと、それを聞いていたアキにぃは安堵と同時にまぁそんな最悪の想定はないだろうという音色で言っていたけど、私はそれを聞いた瞬間、族長が言った言葉を思い出すと同時に、一気に無くなりかけていた不安が膨張したようなそれを感じた。
そう。あの時、族長が言ったあの言葉を思い出して……。
――あのお方は……! 『偽りの仮面使』様はこの郷を、渡り鳥として天命を全うできなくなった儂に手を差し伸べてくれた存在でもあるんじゃ!――
――あのお方は儂にこの場所を永遠の故郷――楽園を与え、その楽園を守ってくださっているのだ! その代償として――儂は捧げたのだ! 『偽りの仮面使』様への……否ぁ! 神への貢物を!――
――貢物はこの翼に余るほどたくさんあった! そうだ! たくさんあったんじゃ! 儂のことを蔑む若い衆の肉! 知性! 人格! それを月に一度捧げてきた! 若い者に限らず――子も! メスも! 雛も! そして――この郷にはいらぬ混合種族! そして人間! 竜族の使者! そして――冒険者! 今回も大量の貢物を与えることができた! 今までてこずらせた奇形と冒険者と言う名の肉ども! この貢物でまた安泰が続く! 儂の――儂だけの郷の安泰が!――
――儂の思う通りに動く郷!――
――儂はこの郷の長なのだ! 何をしても許される存在! これは――正しい事なんじゃ!! 正しき行いであり、神への忠誠なんじゃっっっ!!――
――『偽りの仮面使』様は死なない! あのお方に死と言うものなどないっ! あのお方は不死身なのだ! 魔物ではない力を有している! だから魔物ではない! あのお方は――神なのだ!! 儂の神なのだあああああ!――
そのことを思い出していた私はきっと浮かない顔をしていたに違いない。
けどそれを見てか、アキにぃははっと息を呑むと同時に私のことを見て焦りのそれを出しながら危険な後ろ走りをしながらアセアセと汗を飛ばしている。
もしゃもしゃからでもわかるような焦りを見て、私はアキにぃのことを見ながら内心――アキにぃに気を使わせちゃった……。なんか、申し訳ないな……。と思いながらコクリと頷きを見せた。
けど、それを聞いてもアキにぃはなんだか浮かない顔と言うか、やってしまった感に苛まれているけど、ヘルナイトさんはその光景を見たまま走りを続けていて、それ以上の会話が私達に中から出ることはなかった。
多分だけど、族長に言われたことがきっかけでみんながみんな嫌な妄想をしてしまったからこんな会話になり、そして空気が重苦しくなっているのだと思う。
なにせ――エドさんが率先して『頭を冷やそう』と言ったくらいのことだ。
早々空気が変わるなんてことはできない。
切り替えることができたとしても、その衝撃はなかなか変えることは出来ないだろう。
でも、リカちゃんの声が消えた場所まで行く最中、キョウヤさんとシェーラちゃん、虎次郎さんと合流したところでキョウヤさんは私達に向かって――
「お! 聞こえていたか! 早く来い! クロゥのおっさんが戻って来ているぜ! しかも背中にはショーマ達も乗っているみたいだ!」
と言った瞬間、私は驚きの声を上げると同時にキョウヤさんのことを見て、驚きながら「本当ですか……っ?」と聞くと、それを聞いたキョウヤさんは力強く頷くと――
「何でも――みんないるそうよ。摂食交配生物相手に、しかも詠唱無しで倒したのかは疑問だけど、一度逃げてきたかもしれないけど悪運だけは強運みたいね」
「だがしかし、それでも戻ってきたことに関しては素直に喜ぶべきであろう! 早くゆくぞ! あのことを伝えないといけん!」
シェーラちゃんと虎次郎さんは声を張りながら私達よりも前を走り、その場所に向かおうと足を動かすと、それを聞いたヘルナイトさんは「ああ」と言うと同時に、私のことを振り向いて右手を後ろに向けて伸ばすと、ヘルナイトさんは私に向かって凛とした音色でこう言ってきた。
「行こう」
「! ………………………はい!」
その声を聞いた私はヘルナイトさんの伸ばされた手に向けて手を伸ばし、そのままヘルナイトさんの大きくて優しいその手に自分の手を乗せると、すぐにヘルナイトさんは私の手をぐっと握り、そのまま私の手を引きながら駆け出す。
私の速度に合わせつつ、少しだけスピードを出すような速度で、手をぐっと握り、離さないようにしながら……。
私はその手の握りを感じつつ、ヘルナイトさんの温かい温もり、そして優しいそれを感じつつ、しょーちゃん達がいるという安心も相まって、私はさっきまであった不安などなくなったかのような気持ちを感じながらリカちゃんの声がした方角に向かって駆け出す。
しかもその方角は何時間か前、しょーちゃん達のことを二人で待っていたあの場所で、その場所に向かいながらキョウヤさんと筆頭にみんなで駆け出す。
――しょーちゃん、無事でいてね……。
そう私は心の中で念じ、しょーちゃん達の安否を心で祈りながら駆け出していく。ヘルナイトさんと言う手の温もりを安堵材として……。
「ちょ、ちょっとーっっ!? 俺を置いてかないでくんなーいっ!? みんなはアウトドア派で走ったらぴゅーっ! かもしれないけど、俺はそんなに早くないからちょっと速度緩めて! 俺走り限界! 限界だから待ってー!」
そんなことを思っていると、後ろから聞こえてきたアキにぃの息が切れた声を聞いて、私はおろか、ヘルナイトさんや虎次郎さん達が背後見て一言――口裏を合わせていないのにみんなの声が一つになって、アキにぃのことを振り向きながらこう言った。
「「「「あ、忘れてた (のぉ)」」」」
「お前等ぁ殺すぅううううううううっっっ!」
そして――
「あ、ハンナちゃん達来たか」
「おせーべオメーら!」
「おっせーおっせー」
「おねーちゃぁん!」
「お、来たな」
「ん」
この前まで私とヘルナイトさんがその場所でしょーちゃん達を待っていたその場所は、見晴らしがいい場所でもあり、その場所にはすでにエドさん、京平さん、シリウスさん、リカちゃん、シロナさんと善さんがその場所にいて、私達の存在に気付いたエドさんが私達のことを見て安堵の息を吐くと、その言葉を聞いて京平さんが振り向きながら各々言葉を口にしてきた。
私はちらりと、さっきまで怒りを露にしていた京平さんのことを見る。そしてもしゃもしゃも研ぎ澄ませながら見ると、京平さんの顔に怒りなんてない。まだ微かに怒りのもしゃもしゃが残っているけど、それを押さえつけるように京平さんは平静を装っているみたい。
でもそれから見るに、あの時の怒りほどの爆発は今のところ心配はないだろうと、よかった……と言う気持ちを心で表すと同時に……。
あの時の怒りは退いている。良かった……と思いながら、私はほっと胸を撫で下ろした。
「みんな来ていたのか」
「まぁ、近くだったからね」
「おにーさん達が遅すぎるんだよー!」
「なー」
「ちびっこと心はちびっこ男性黙れや」
エドさんのことを見ていたキョウヤさんは驚きながら駆け寄るけど、それを聞いていたリカちゃんとシリウスさんはキョウヤさん達のことを馬鹿にするようににししっとほくそ笑みながら言うけど、それを聞いていたシェーラちゃんは毒のような鋭い言葉をすかさず吐き捨てる。
さながら仕事人のような口の差しかだけど、その言葉を聞いてもリカちゃんとシリウスさんはにししっとうい顔をやめようとしないところを見て、しばらく怒りのそれを出しながらシェーラちゃんはぐっと怒りを堪えていた……。
その光景を見ながら――弄ばれている……。と思って見ていた私だけど、それもすぐに次の出来事によってかき消されてしまう。
――ぶぉ!
『っ!?』
突然来た横殴りの突風。それを受けた瞬間私達は驚きと同時にその風によって靡くひらひらの服装を押さえながらどんどんとくる突風に困惑してしまう。
女性陣はスカートを押さえ、男性陣は迫りくる埃から目を守るように手で防御をし、ヘルナイトさんはそのままマントを靡かせながらその光景を見上げている。
私も何とかスカートと帽子が吹き飛ばされないように押さえながら、ぶぉ! ぶぉ! ぶぉ! と断続的に来る突風の中、そっと目を開けて風が来る方向を見た瞬間――
「!」
私は驚きのあまりに言葉を失った。
私の視線の先にいたのは――何時間か前にこの場所から試練がある場所に向かって行ってしまった黒い竜……目の傷を見るからにクロゥさんなんだけど、クロゥさんは竜の姿のまま翼を大きく羽ばたかせ、鳥人族の郷の住処となっている大きな巨木を大きく揺らすように翼を羽ばたかせ、そのまま人為的な突風を作り出している。
その最中、遠くから鳥人族達の声が聞こえたけど、その声を無視して、クロゥさんの肩から四人の人影が姿を現し、そしてそのまま足場に向かってとんっと飛び降りたのだ。
足から落ちるように――とんっと……。
その光景を見ていたみんなは茫然としながらその光景を見ていたけど、それと同時に大きかったクロゥさんが突然、本当の姿を竜人の姿に変えるようにぼふぅんっと一瞬煙を発生させた瞬間、その白い煙が横殴りの風によってどんどんと飛散していき、私達に向かって襲い掛かろうとしてきた。
その光景を見た私達は、驚きながらその煙の餌食となってしまう。逃げるということもできたかもしれないけど、横殴りの風の威力もあって、無害なんだけど逃げることができずの、そのまま煙を受けることになってしまう。
「けほ! けほっ! ちょっと何してんのよっ!」
「うぅえっほ! うぇっっ!」
「ごほごほ! 一体何が……!」
煙の中からシェーラちゃん達の声が聞こえるけど、どこにいるのかわからない。そんな状況の中でもヘルナイトさんは私の手を離さず、むしろぎゅっと握りしめ、離さないぞと言わんばかりに握って来ている。
私はそれを感じつつ、ヘルナイトさんの手のぬくもりを感じながら辺りを探し、そして一体何が起きたのだろうと思いながら辺りを見回した時……。
――ふわぁ!
「!」
突然、本当に一瞬と言ってもおかしくないくらい、私達の視界を襲っていた白い煙は消えた。
………………………ううん。そのまま風に乗って行ってしまったと言った方がいいかもしれない。だって足元には薄い雲のような煙が私達の足を絡めていこうとしている光景があり、それが少しずつ、本当に少しずつと言わんばかりに消えているのだから、きっと風に乗って行ってしまったのだろう。
そんなことを思いながら晴れた世界を再度見渡し、みんながいることを確認した後、私はもう一度しょーちゃん達がいるその場所に向けて視線を戻そうとした。
瞬間――
「――ほれ。これが証拠だ」
突然、しょーちゃんの聞いたことがないような低く、それでいて重いような音色が私の耳に入ってきた。
本当に、今まで聞いたことがないような声が聞こえると同時に、私はすぐに声が聞こえた場所――背後を振り向き、そしてその光景を目に焼き付けようとした瞬間、私は再度はっと息を呑んでその光景を見つめる。
アキにぃ達もしょーちゃんの低い声を聞いていたのか、みんながみんな背後を見ながら驚きの顔を浮かべ、そして京平さんやシェーラちゃんなどの人達は、驚きから少しずつ怒りのそれに変わり、ぎりっと歯を食いしばりながらその光景を見つめている。
でも、それはみんなも同じかもしれないけど、今のみんなにとって今の感情の優先は驚きなのだ。私もその一人でその光景を見た瞬間驚きを隠せなかった。
なにに?
それは――いつの間にか私達の背後に回り、そしてその手に持っている白い何かをいつの間にか来ていた族長さんに向けて突きつけているしょーちゃん達を見て、驚いてしまったということ。
何に驚いているかって?
………………………うーん。何といえばいいのか、私自身今現在整理がついていないので言葉に表すことは難しい。でも今脳裏に出ている言葉を上げるとすれば……。
なんでしょーちゃん達は怒っているの?
なんで族長がここにいるの?
しょーちゃん達が持っているそれは何?
なんで、なんで……。
なんでしょーちゃんのもしゃもしゃが赤と黒や、色んな色が混ざってぐちゃぐちゃなの……?
そんな思考が私の脳裏を襲い、それと同時にこの場所で起きていることを理解できないまま、置き去りにされながら、私はその光景をみんなと一緒に、ただただ見ることしかできなかった。
族長の目の前でその何かを突き出しているコウガさん達と――ぐちゃぐちゃなもしゃもしゃのせいで何者なのかが見えなくなってしまっているしょーちゃんのことを見ながら……。




