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PLAY94 討伐、そして陰謀胎動②

「わたしは『12鬼士』が一人――『慈愛の聖霊』と言う名を持ち、聖霊族の母にして女王、更には魔王の力を持っている聖霊魔王族・ディーバ。よろしくぅ~。そして、お久し振りぃーデュラン」

「最悪だな……。『反慈愛の聖霊』めが」


 デュランは今現在自分の上にいる存在――薄黄緑色と緑が混ざったかのような半透明の体。薄い黄緑色の布を身に包んだかのような服装に、絹のような髪をゆらゆらと揺らしているその存在は女特有のラインを駆使した小さな踊りをくるくると舞い、その舞の最中に頭上にいた半透明の女性は踊りをしながら「あははは」と甘い声で笑っている。


 顔に嵌められている真っ白な能面めいた笑みを浮かべている顔を見せながら踊る女性――ディーバはデュランの言葉を聞いてまたもや甘い吐息をかけるようにくすくすと妖艶に微笑みながら「あら、ありがとう」とお礼の言葉を述べる。


 しかしデュランはその言葉を聞いても嫌そうな雰囲気を出すだけ。


 どころか嫌悪感剥き出しのそれを出している光景を見ていたコウガは、丁度デュランのことを見下ろせる場所で浮遊をしていたので、デュランのことを見降ろしながらコウガは聞いた。


 首を傾げる様な顔で、むぃのことを抱えたままコウガはデュランに聞いた。


「おいデュラン――こいつ……」

「ああ、聞いていたのならば詳しくは話さない。我自身こいつとはあまり関わりたくないのだ……」

「あ? 関わりたくねえって……」

「言葉通りだ」


 そう言いながらデュランはコウガに視線を向けていたその行動を一度やめ、再度未だに自分達の上で妖艶に、口で「らん、らんららん」とリズムの声を出して踊っているディーバのことを見上げ溜息交じりに言う。


 今まさに上空にいるその存在のことを嫌々しく呟くように――デュランは言った。


「『12鬼士』の中でも魔王族ではないが魔王族と同じ力を有している創世時代の生き残り。異端にして初代の名を今でも背負う初代聖霊族の母にして長。我々魔王族の間では――あいつのことをひとの心など持っていない外道の聖霊族……『反慈愛の聖霊』と言う異名を持っている。それだけの存在だ」

「それだけか……? 完全にイカレ野郎にしか聞こえねえよ」

「確かに――イカレているかもしれない。その言葉に対して我は否定などしない」

「あ?」


 デュランの言葉を聞いていたコウガは首を再度傾げつつ、むぃと一緒に理解ができないという顔をしながらデュランのことを見ていたが、そんな二人のことを見ていたデュランは再度深い溜息を吐きながらそっと――頭の無いその体で視線を落とすように見る。


 その視線の下で茫然とした顔で見降ろしているショーマ達………………ではなく、その下で未だに黒い竜巻の攻撃を受けながら断末魔の叫びを上げている『偽りの仮面使』のことを見降ろしながら、デュランは思い、そして言葉にする。


 ――本当に、魔物達がかわいそうに見えてしまうのは、こいつが絡んでいるせいかもしれないな。


 そんなことをもうと同時に、デュランは未だに理解ができていないコウガ達に理解させるために言葉をかける。


 話すことよりも見た方が早い。


 その言葉を伝えるためにデュランは言う。


「見てみろ――それを見れば、あの女の本性をいち早く理解することができる」

『?』


 デュランは言う。言いから見ろと――


 そんな言葉を聞いてデュランと同じ行動――つまりは攻撃を受けている『偽りの仮面使』のことを見降ろしたコウガとむぃ、そして今までぽかーんっと口を開けて目を点にしていたショーマとツグミもデュランと同じように『偽りの仮面使』を黒い竜巻の中で浮遊している状態で見降ろす。


 今まさに――黒い竜巻によって攻撃を受けている『偽りの仮面使』のことを見降ろして……。



「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」



 もう何度目になるのかわからないような叫び。しかしその叫びも今となっては断末魔に近いような、必死さが勝る様な嘆願の叫びに聞こえる。その声を聞きながら今まで恐ろしいと感じていた『偽りの仮面使』の疲弊していく姿、そしてどんどんと傷ついて行くその姿を見降ろしながら、ショーマ達はごくりと固唾を飲んでしまう。


 その固唾はただ単に――見降ろした瞬間の光景が悍ましいものであったがゆえに固唾を飲んでしまったというだけである。


 それほどまでに悍ましいのか? そう思う人がいるかもしれないが、事実である。


 なにせ――黒い竜巻はハンナが放った瘴輝石の力『癒しの(ヒーリング・)台風(サイクロン)』とは性質も何もかもが違い、黒い竜巻はただただ対象を傷つけることにした効果を発揮していない。


 いいや……、むしろそれしか力を発揮できないような力でもあり、ハンナが所有している『癒しの(ヒーリング・)台風(サイクロン)』は回復の風であるのならば、この黒い風――『深淵の(メテオラ・)闇風(ダークマター)』は……。


 殺戮の風と言う印象が強い。


 そうショーマ達は思った。そしてそれと同時に、コウガはそんな黒い竜巻の中に入っている自分達よりも、最も現在地獄を味わっている『偽りの仮面使』のことを見降ろしたコウガは、デュランがなぜディーバのことが嫌いなのかが理解する。


 未だに自分達の真下で絶叫を開けている『偽りの仮面使』のことを見て、コウガは思ったのだ。


 ――そう言うことか……。


 そう思うと同時に、今の今まで黒い風の攻撃――いいや、この場合は斬撃と言うべきなのだろうか。なにせ『偽りの仮面使』に残るその切り傷はまさしく斬撃によってできた傷。コウガ達が就けたあの傷よりも多く、その傷が一つ、また一つと出来上がると同時に、『偽りの仮面使』はその傷ができると同時に小さな悲鳴を上げる。


 先ほどの怒りの顔が嘘のように、黒い竜巻の中で『偽りの仮面使』は怖気づいてしまったかのように委縮をしている。その光景を見ていたディーバは、いまだにデュラン達の上でくるくるとしなやかさを強調した踊りをしながら彼女は「えぇ~?」と言う驚きの声を上げると同時に……。


 彼女は、期待外れと言わんばかりの音色と表情でこう言ってきたのだ。


「なにこんな小さな攻撃で泣いているのよ~っ。それだと面白くないし、それにぽっくりと消滅してくれないとあなただって苦しいのよ? ほらさっさと倒されてよ。なんで耐えているのか意味わからないし、わたしの慈悲が台無しでしょうが~」

「慈悲……? さっさと倒されろって……、この人、一体何を言っているんだ……?」


 ディーバは平然と当たり前のように踊り、そして『偽りの仮面使』のことを見下しながら言う。なんともつまらなさそうに、甘い声を合わせたかのような小悪魔のそれを出しつつ、彼女は言う。


 平然としたそれに隠れた言いようのない恐ろしさをちらり、ちらりと見せながら……。


 そんなディーバの言葉を聞いていたツグミは、ようやくと言うべきなのか、ショーマに抱き着くことをやめ、ショーマもツグミに抱き着くことをやめると同時に、お互いがそれぞれディーバのことを見上げると、ツグミは驚きの声と驚愕の表情で呟きながら言う。


 脳内ではそのことを言うディーバに対し、本当に何を言っているんだと思いながらその想いを口にすると、その言葉を聞いていたのか、聞いていないのか、ショーマはただただディーバのことを見上げたまま無言を徹し、その顔にショーマの今の感情を映し出していく。


 眉毛を吊り上げ、下唇を噛みしめた状態で、ショーマはその眼も釣り上げながらディーバのことを見ている。


 その光景を見たものはいないが、その視線を、殺気めいたものを感じたディーバは目を点にしてはっと息を呑むと、すぐに踊りをやめ、下を向いて自分の下にいるデュラン達のことを見降ろす。


 デュラン、コウガ、むぃ、ツグミは驚きの顔をしながら頭に疑問符を浮かべるが、それとは対照的にショーマは彼女のことを見上げたまま怒りのそれをむき出しにし、ぎりっと歯を食いしばるその顔を見せながら威嚇のようなそれを晒す。


「………ふぅん」


 ショーマの威嚇めいたそれを見たディーバは、、ふぃーっと自分が浮遊している高度を下げ、どんどんと、ゆっくりと降下をしてショーマ達に近づく。


 少しずつ、本当に少しずつ近づいてくるその光景を見て、デュラン達は驚きながらディーバのことを見たが、ディーバはそんな驚きを浮かべているデュラン達のことなど無視をし、そのままショーマに向かって一直線に降下をしていくと、ディーバはショーマの正面で彼のことをじっと見降ろしを始める。


「あらら? あなた――わたしのことをじっと見つめているけど……、どうして私のことを見つめているのぉ? もしかして――」


 と言いながら、ディーバはショーマに向かって言う。いいや――厳密には言おうとした瞬間のほうが正しいのかもしれない。ディーバがその言葉を放とうとした瞬間、下で『偽りの仮面使』が痛みに耐えられないと言わんばかりの絶叫を上げて黒い竜巻の攻撃を受けながら苦しんでいるその声に、会話を遮られてしまった。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ぎゃあ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」



 絶叫……、いいや、すでに断末魔に聞こえてしまいそうな声だ。


 その声を放っている最中――『偽りの仮面使』の体の一部はもう黒く変色しており、その変色の光景はまさに消滅を促すような光景でもあった。


 ドロドロと黒く染まる体、そしてその後に続いてどんどんと崩れていく体。


 これが本当の生身であればどれだけ恐ろしい事か。そしてこれを体験している『偽りの仮面使』も、魔物ではあるが死にたくないという想いを抱いているに違いない。


 生きとし生きる者は――死を恐れないことなどないのだ。


 生きとし生きる者は必ず死を恐れる。


 それは人間も、動物も、魔王族も、聖霊族も、死霊族も――そして……魔物もそうだ。


 だが――その例外が一人いた。


 そう――今現在ショーマのことを見降ろしている魔王族にして聖霊族……ディーバが。


「! はぁ~ぁ。ちょっとうるさいから、()()()()()


 ディーバは呆れるように、否――まるでこれ以上の光景を見てもつまらないと言わんばかりの呆れと溜息が混じったそれを吐くと、そのまま彼女は最後の言葉を言う前に、ディーバは徐に右手を伸ばし、その右手の先を『偽りの仮面使』に向けて焦点を合わせる。


 まるで――その掌から弾丸を放つような定め方をし、その焦点が合わさった瞬間、ディーバは言ったのだ。


 はっきりとした音色で、しかも心がこもっていない淡々とした音色で、甘くも、妖艶でもない冷淡な音色で、彼女は言ったのだ。


「――邪魔」


 なんとも冷酷に聞こえるその言葉を言い放った瞬間、ディーバは徐に伸ばしたその右手のぐっと握りしめる。


 林檎を掴み、その林檎を握りつぶすような動作をするように握りつぶすと――今の今まで並列のそれを維持していた黒い竜巻が、どんどんとその空間を狭め始めたのだ。


『偽りの仮面使』がいるその場所から細くなり、砂時計を作るようにその形をどんどんと形成していくと、その黒い風の迫りを見て、そして髪の毛がどんどんと巻きもまれていく感覚を味わった『偽りの仮面使』は、魔物ではまずありえない恐怖の声を出し、どんどん迫ってくるその竜巻から逃げようと試みるが、それも無駄に終り、剛腕の手と髪の毛手の手を使ってその竜巻の接近を阻止しようと試みる。


 しかし……、その行動でさえも無駄に終わり、ずっとその黒い竜巻の中に手や髪の毛を入れた瞬間、その行動でさえも、抗いに対しても嘲笑うかのように、剛腕の手をどんどんと傷をつけ、その後で髪の毛をまるでタコ糸のように黒い竜巻の中で巻き付けていく。


 さながら――『偽りの仮面使』が攣られてしまった魚のように、どんどんと、その竜巻の威力に気圧されながらその中に引きずり込まれていく。


「ああああああああああ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!」


 あまりの現状に、あまりの現実に『偽りの仮面使』は魔物らしからぬ涙を流し、そのまま引きずり込まれないように必死になって抗うも、その行動を虚仮にするように黒い竜巻は大きな風の音を立てて『偽りの仮面使』のことを引きずり込む。


 どんどんと、その黒く、歩い影に遮られたかのような風の中に入り込み、そして、上にいるショーマたちに気付いたのか、手を伸ばして助けを乞うような視線を送る『偽りの仮面使』。


 だが誰も『偽りの仮面使』のことを助けようとする者はいない。


 いいや――むしろ敵であり、魔物でもある存在を助けることなどまずありえない。


 だが今回はそんなこと関係ない。そんな魔物がいたのであれば、できれば助けてやりたいのが人間の人情と言うものかもしれない。


 しかし、それが今はできない。


 いいや――できなかった。 の方がいい。


 なにせ……、あの竜巻に呑み込まれてしまえば自分の命も危うい。よりも……、その竜巻を生み出した張本人の前で助ける行為をすtること自体出来ないと本能が囁いているのだ。下手な動きをしてしまえば殺される。そう思うと同時に動くことも躊躇ってしまう。


 ゆえに動くことができなかった。


 だから――手を伸ばしてきた『偽りの仮面使』の願いを聞くことができなかった。


 ()()となるその願いを聞くこともできないまま、顔面を蒼白にさせた状態でショーマ達はすべてが黒い竜巻の中に呑み込まれてしまい、あろうことかその風の中から聞こえる断末魔と切り刻む音を鼓膜に、脳内に刻んでしまうことになる。


 聞きたくもない断末魔と同時に、突然聞こえなくなってしまった『偽りの仮面使』の声。その声が消えると同時に黒い靄が黒い竜巻と共に出て行く瞬間をショーマは捉える。


 その光景を見て、ディーバはすっきりしたような顔をしてから安堵したような、それでいて甘い音色で囁くように彼女はこう言ったのだ。


「よーし、これでまたこの世界がきれいになったっ。あんなクズみたいな魔物に私が気に入ったこの土地を汚されてたまるもんですか。うふふ。あとはここ一体にいる魔物を一掃してぇ~」

「…………………………」


 その言葉を聞いた瞬間、コウガやツグミ、そしてむぃは彼女のその言葉に対して、異常な寒気を覚えた。


 なにせ――彼女は今まで自分たちが苦戦をした『偽りの仮面使』をいとも簡単に倒してしまったのだ。島もたった一つの技で、だ。


 だが、今はそのことで驚くことは場違いにもほどがある。今彼らが驚くべきことは――ディーバの顔に対してだ。


 ディーバは確かに笑っていた。『偽りの仮面使』が消滅するその瞬間を見ながら、いいや――それ以前にその黒い竜巻の中に呑み込まれるその瞬間を、面白おかしく見つめていたのだ。


 まるで面白い見世物を見ているかのようなそんな目で、魔物が甚振られ殺されるその瞬間をずっと、くすくすと笑いながら見降ろしていたその光景に、ショーマは胸の奥から込み上げてきた気色悪さと吐き気を我慢し、今でも一層のことを思い浮かべながら妄想をしている (かのように見える)ディーバのことを見上げたショーマは、神妙な顔つきで「おい。お前」と言いかけた瞬間――


「しぃー……、最初はわたしのターン。でしょ?」


 ディーバはショーマの言葉を静止した。ショーマの口元に右手の人差し指を添え、まるでお静かにと言うそれを示すような動作をしながら、ディーバは妖艶に、甘く、狂いそうな音色で囁く。


 囁きと同時に、ショーマはその甘い吐息と音色に狂う………………………と言うよりも、彼女のその行動に対して怒りを覚える様な目つきを向けながらディーバのことを見上げている。


 何の興味もないような、敵意の視線を向けて――


「へぇ」


 その視線を見て、ディーバは驚きの顔をすると同時に、すかさずにやりと笑みを浮かべた後、彼女はすぐさま先ほどの継ぐ気を再開したのだ。


 ぐんっとショーマに顔を近づけ、驚くツグミ達をしり目にディーバはショーマのことを見降ろしてきた。


「それで、さっきのお話なんだけどぉ~。もしかしてあなた……」


 ディーバは言う。甘い音色で、誘うように彼女は囁く。


 じぃっと――高身長のディーバが背の小さいショーマの後頭部を至近距離で、腰を曲げた状態で見降ろす態勢を作ろうと、ディーバは片足を軽く曲げた後、その腰に右手を添え、左手をショーマの肩にするりと撫でるように添えると、その行動に反抗するかのように、ショーマは彼女のことをすぐに見上げ、怒りのそれをむき出しにしたその顔をディーバに見せつけるが、その状態で見上げてしまったせいか、二人は至近距離でお互いの顔を見上げ、見降ろす状態を作り出してしまう。


 まるでまぐれが引き起こした情景を見て、ツグミは驚きながらへんてこな声で叫び、コウガはまだ幼い無ぃの目を手で覆い、デュランと一緒のその光景を驚きながら見つめる。


 そんな彼等を無視して――鼻と鼻の先がくっつきそうなそれを偶然作り出し、その状態で不敵に微笑んでいるディーバを見上げるショーマと、怒りのそれで己のことを見上げて睨みつけているショーマのことを見降ろしたディーバは、そんなショーマのことを見て、一言、こう呟いたのだ。


 甘い音色で、囁くように彼女は言ったのだ。


「怒ってる?」

「ああ――あんたのやり方は外道だ。殺気のも含めて、あんたは外道だ。だから怒っているんだ」


 ディーバの甘い音色を聞いたショーマは、即答と言わんばかりに彼女のことを見上げ、そしてその仮面の奥に潜む目を捉えるようにじっと見つめて断言をすると、それを聞いたディーバは一瞬驚きはした。しかし顔には出さずに、ただ一言――「ふぅん」と言う納得なのか煽っているのかわからないような言葉を零すと、ディーバはショーマの肩に置いていたその手をするりと撫でるように離し、そのままショーマの頬にその手を添えて、指先で撫でるようにショーマの輪郭を堪能する。


「へぇ……、わたしの行動が、外道か……。わたしはわたしなりに優しい判断でこうしているのにぃ、そんな言い方はないんじゃない? ぼくぅ」


 つっと、ショーマの顔を撫でながらディーバは聞く。


 たった一瞬の間だが、その一つ一つの行動にディーバの甘い誘惑がほのかに零れていく。まるで彼女の体から甘い香りが放たれているような――そんな幻覚。


 それでもショーマはその怒りの目をディーバに向けたまま微動だにしない。


 ツグミでさえでも驚きで跳ね上がるような声を出したというのに、ショーマに至ってはそんな行動一つも出さないでいまだにディーバのことを睨みつけている。


 色気云々などどうでもいい。


 今は目の前のことが最優先と言わんばかりの顔で、ショーマは睨み続けている。そんな彼のことを見ていたディーバは、未だに睨みつけているショーマのことを、ショーマの悪魔族にはないようなその真っ直ぐな目を見て、再度「ふぅん……」と零すと、彼女はショーマのことをじっと見降ろした状態で彼女は再度ショーマに向かって言葉を零そうとした瞬間、突然ショーマはディーバのことを見て、こう言葉を発した。


 はっきりとした音色で――ショーマはディーバに向かって言ったのだ。


「あれのどこが優しさなんだよ。あんなの――拷問じゃねえか。あんた『12鬼士』なんだろ? そんなことをして恥ずかしいとか思わねえのかよ」

「? 恥ずかしい? なにが?」

「あんたがしている行動だよっ」


 ショーマはディーバに向けて言うが、その言葉を聞いたとしてもディーバはまるでわからないと言わんばかりの顔で首を傾げると、ショーマはその姿勢を利用り手か、ディーバの仮面に向けて『ごつんっっ!』と、額の頭突きを繰り出したのだ。


 その音を聞いた瞬間、誰もが驚きのそれを浮かべ、むぃに至っては猫の手で顔を覆い、その状態で「にゃぁ~!」と悲鳴を上げてコウガの胸にその顔をこすりつける。


 コウガはそんな無ぃの行動に怒りもしない――のではなく、逆にショーマがした行動に驚いたまま固まっており、誰もむぃの声など聞いていなかった。


 だが、ショーマがディーバの仮面に叩きつけた額からは、微量の血がどろりと顔を出し、それと同時にショーマはぎりぎりと歯をすり減らすような音を出しながら、ショーマはそのままディーバから離れ、そしてその額から零れ出るその血を拭うことも、止めることもしないで、だらだらと流しながらショーマはディーバに向けて、その仮面についているそのショーマの血の跡を晒しながらにしているディーバのことを見てこう言ったのだ。


「お前がしていることは、真鯛の血ってことを知らない餓鬼が虫を嬲り殺すようなことだ」

「嬲り……? それが一体どうしたのぉかしら?」

「お前がしていることは異常だって言いたいんだよっ! あんな風にあの魔物を苦しめる必要なんてなかった。あのまま倒されれば、苦しい想いをしないまま消滅できたかもしれねぇのに、なんであんなことをする必要があるんだ!」

「…………………………」

「魔物は確かに悪いやつばかりだ。俺達も魔物を倒すことをなり………………………っ、えっと……、仕事にしているから殺し方やそんなことに対して文句なんて言えねえことは分かる。けど、あんたがしていることは誰が見ても異常だ。コウガの兄貴でも、デュランの兄貴でもドン引きをしていた。つまりあんたがたことは、異常なんだよ」

 

 魔物に対して、今すぐ楽にしてやるっていう配慮とかねえのかよっ!


 ショーマの言葉が終わると、今まで声や笑い、叫びが交差していた黒い風の空間に静寂という名の風の音だけが周りを支配していた。


 ごおおおおおおおっ。と言う音がその周りを支配し、無言を貫いている彼等の心を静寂と言うそれで乱さないように音を発している竜巻の音を耳にしながら、ツグミ達はディーバの言葉を慎重に待つ。


 確かに、ショーマの言っていることは間違っているように聞こえるかもしれないが、正解と言う見解もあることを忘れてはいけない。


 どんな敵であれど、味方であれど、じわりじわりと拷問のように嬲られ傷をつけられてしまえば、誰であろうとこんな地獄が早く終わってほしい。こんな地獄を味わうくらいならいっそのこと楽にさせてと思ってしまうであろう。


 ショーマ達はそんな体験をしたことはない。だが、それだけは受けたくないという気持ちはある。ゆえにショーマは思ったのだ。


 いつまでも何時までも傷と言う名の拷問の傷をつけ、嘲笑いながら魔物の討伐をしているディーバのことを見て、いつまでも拷問をすると同時に最後の攻撃の最後でもじわりじわりと嬲る様なことをしているそれを見て、ショーマは思った。


 この人は、嬲るためにこんなことをした。


 この人は魔物が苦しむ姿を面白おかしく見ながら楽しんでいた。


 異常だ。こんなの――いじめだ。


 こんなことあってはならない。こんなこと、絶対にあってはいけないんだ。


 だから――だから――


 メグはああなってしまったのかもしれない。甚振るということは、人の体も心も傷つける行為だから。そう思ったショーマは未だに己の血がこびりついているその仮面を見せ、仮面越しに怪訝そうな顔をしているディーバのことを見上げながら、ショーマは張り上げるような音色で断言をする。


「あんたに助けてもらったことは感謝するけど、その後のことに関しては感謝も何もしない。今すぐ――俺達の前から消えてくれ。そして、このまま二度と現れるな」

「…………………………へぇん」


 ショーマの断言、いいや、この場合は完全なる拒絶を感じたディーバは、驚きも何もせず、妖艶に、妖しく笑みを浮かべた状態でディーバはショーマの頬を添えているその手の他に、もう片方の手も彼の両頬を抓むように添える。


 ふにりと――声と同時にショーマの頬を堪能するその光景を見ていたデュランは、ディーバに向けて荒げる音色で彼女の名を呼ぶと、ディーバはデュランの焦りを見ても何の感情も出さないまま、そのままショーマのことを、目をじっと捉えると、彼女はそんな彼のことを見つめながら口を開く。


 少しずつ……、この竜巻の威力を小さくしながら、彼女は言った。


 至近距離で、お互いの吐息がかかる様な距離でディーバは言う。


「でもね、一つ忠告しておくわ。魔物は人間を喰って命を繋いでいる。それは人間も同じで、生きるためには食べないといけない。飲まないといけないから人間は食べれるものを殺している。魔物も同じように人間を殺して生きるためにしているけど、そんなの関係ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼等はこの世界を汚した根源の一角。いいえ――氷山よりもとてつもなく小さい氷の破片。そんな存在がいるからこの大地は汚れていく。だかわたしは、汚れ掃除をしているの。この大地が昔みたいに綺麗な大地になるまで、わたしはそうし続けるわ。ずっと魔物を殺して、殺し続けて、この地を汚そうとしている『六芒星』も、異端の存在――死霊族も殺して、この大地を元の大地に戻すわ。それを邪魔をしたら…………………………」








                殺すわよ?








 ディーバは言う。今までの甘い音色も、妖艶さが失われてしまったような威圧と殺意にまみれた音色で、ショーマに向けて宣言をするディーバ。


 ディーバの言葉を聞いていたショーマは無言の顔をしながらディーバのことを見上げるだけで、それ以上の言葉も、行動も見られなかった。まるで――静止画を見ているかのような光景である。


 そんな静止画のような光景を見ていたツグミ達は、困惑をしながらその光景を見て浮いたが、その時――遠くからクロゥディグルの声が聞こえ、その声を聞いたディーバは何か見気付いたかのようにはっと息を呑み、頬を撫でていたその手もするりと撫でるように手放すと、そのままディーバはショーマから離れるように浮遊をしていく。


 風船がふわりふわりと浮くようなその浮遊をデュラン達に見せると、ディーバは右手を徐に上げ、その手の形を丸くすると、ディーバはショーマ達に向けて、甘い音色で妖艶に微笑みながら言った。


 その妖艶さに隠れた黒いそれを晒しながら、彼女は言った。



「それじゃ――()()()()()()()?」


 

 ディーバがその言葉を言うと同時に、ディーバは丸めていたその手を、僅かに動かす。


『パチンッ!』と言う音と同時に、今までショーマ達のことを覆っていた黒い竜巻が一瞬のうちに『ばふぅん!』と言う音を出しながら飛散し、空気に溶けてなくなっていく。


 それを受けたツグミ達は驚き手足をばたつかせようとしたが、消えると同時に足に定着した懐かしい地面の感触。そして風に乗る草木の匂い。


 その匂いを鼻腔内で感じ、辺りを見渡したツグミは驚きながらその光景を見て言葉を零す。


「え、ええ………………………? ここって、竜柩(りゅうかん)遺跡街頭?」

「いつの間にか地面まで降下していたってことか……」

「ほえー、すごいですね。自然のエレベーターです~」


 その言葉を交わしながら、ツグミ、コウガ、むぃは驚きのそれを言うが、デュランはその地面の感触を堪能すると同時に、近くでディーバがいなくなったであろう空を見上げているショーマに近付きながらデュランは言葉を零す。


 ショーマに向けて、彼は言った。


「分かっただろう? あの女がなぜ『反慈愛の聖霊』と呼ばれているのか。あの女に相手に対する優しさや配慮、そして慈悲がない。ただ楽しみながら殺す。魔王族にはない冷酷さ。そして聖霊族だから理解できる危うさと恐ろしさを持っているからこそ、我々は言っていたのだ。まるで心がない魔王族だと。あの女こそが、本当の魔王と言う嫌味を込めて『反慈愛の聖霊』と呼んでいた。気に障るようなことに巻き込んでしまった。そして――よく耐えたな。色んな事があり、そして苦悩したと思う。今まですべてを吐き出していたお前にとってすれば、よく我慢できたと我は思っているぞ」

 

 デュランは言う。


 ショーマの横まで歩み寄り、そしてその方にぽんっと鎧で覆われた手を落とすと、デュランはそれ以上の言葉を口にすることはなかった。


 むしろ……それ以上の言葉は言ってはいけないという本能に従ったからかもしれないが、それでもデュランはショーマの肩に手を置きながらもう晴天となっている空を見上げた。


 対照的に俯きながらディーバのこと、そして鳥人族のこと、更にはファルナから聞いたことを思い出し、どんどんと怒りが込み上げてくるその感情を今でも押さえながら、ショーマは俯きながら下唇を噛みしめる。


 こんなこと、間違っている……。そう心の中で呟き、クロゥディグルが来るまでの間ショーマはそのことばかりを考えていた。



 ◆     ◆



 ファルナの試練――達成。

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