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PLAY94 討伐、そして陰謀胎動①

 


 バギィンッッ! 

 


 二重に聞こえた破壊音は辺りに拡散するように響き渡り、破壊音と同時に内側から破壊されたかのようにその定位置から飛散して離れていく白い破片。


 白い破片に混じるように赤い宝石の破片。更には飛び散る黒い液体。


 響き渡るその音を聞いた瞬間、髪の毛相手に戦っていたデュランとコウガは驚きの顔を浮かべつつ警戒するその姿勢を解かないまま彼らは言葉を失いながら見上げる。


 もちろん――むぃもその光景をコウガの背中越しに見上げ、その白と赤、更には黒い液体の小雨を見てむぃは驚きの声を上げる。


 その光景を見降ろしていたクロゥディグルは目を見開いた状態でその光景を、自分よりも下のところで人為的な小雨をもたらしている光景を驚きつつも見降ろし、ファルナは人為的な雨を見降ろしながら……。


「これ……夢?」


 と、朧げな目で、且つその目から零れる透明なそれをばらばらと地上に向けて零しながらファルナは呆けたような音色で呟く。


 誰にかけているわけではない。独り言のように呟くその言葉を横で聞いていたクロゥディグルはその声を聞いたと同時にファルナのことを見て、彼女の初めて見る感情――否。この場合はそうではない。


 彼女の心の底からの達成感。そして安堵、更には込み上げてくる嬉しさを理解したクロゥディグルは、ファルナに向けて大きく、鋭い爪を持った竜の手を伸ばし、反対の肩でへたり込んでしまっているファルナの頭に人差し指を『ぽすり』と乗せる。


 小さい子供の頭を撫でるように、ゆるゆると、優しくなでるその感覚を味わったファルナは、驚きつつもされるがままになりながらクロゥディグルの撫でを受け入れていると、クロゥディグルはそんな彼女に向けて、優しい音色で言った。


 本当に優しく、そして本当の安心感を与えるような音色で、言葉で彼は言った。


「いいや、現実だ。ファルナ――これで地獄は終わりだ」


 クロゥディグルははっきりとした音色でファルナに向かって言うと、それを聞いたファルナはゆっくりとした動作でクロゥディグルのことを――強いて言うのであれば目を見上げたまま固まると、茫然とした顔のまま彼女はぼろりと涙をその目から大粒の雨の如く落とす。


 ぼろぼろと……涙を零すファルナのことを見て、クロゥディグルは再度指の腹を使ってファルナの頭を撫でる。もちろん――髪の毛をくしゃくしゃにしないように細心に注意を払いながら行うと、その撫でる優しさを感じ、そして達成したというそれを感じたファルナは「えっく」と言う吃逆(しゃっくり)めいた泣きの声を上げると、そのままファルナは人間の両の手で顔を覆って蹲る。

 

 そのまま、クロゥディグルの肩の上で体育座りをしながら泣くファルナの姿。


 ファルナのその姿を見てクロゥディグルは感傷に浸っているかのような切なさも溢れそうな、それでも優しさの方が勝っているような笑みを浮かべながら、クロゥディグルはファルナのことを撫でる。


 大きな指の腹で、彼女のことを優しく……。


 そんな彼らがそのような行動をしているその頃……、ショーマ達は驚きの顔をしながらその光景を見上げていた。


 幸いなのか、ショーマの腰にしがみつき落としたツグミは一瞬命の危機を感じたのだが、その不安も杞憂で終り、それと同時にツグミは驚きの顔をしたままツグミは思った。


 ――珍しく……、助かった。

 

 と。


 そう――ツグミとショーマは確かに二人一緒に落ちた。それは死を覚悟したツグミの決意とも言っても過言ではないが、今回ばかりは神様はツグミ達の……、いいや、ショーマの運に従うことをしなかったのだ。


 彼らが今いる場所は偶然の産物でできたのか、『偽りの仮面使』が身に着けているスカートのところで、その場所は浮遊している布の上にいるかのような感覚を思わせると同時に、こんなペラペラな場所で尻餅をつくことができるだなんてと思いながら、ツグミは現在ショーマと一緒に尻餅をついてしまっているその場所を見降ろし、驚きながら思ったツグミ。


 手を付いている場所の近くでは、今でもひらひらと靡いている布の一部があるが、落ちるやそのまま破れるという感覚がないことを察して、ツグミは内心――この布って、かなり頑丈なのかな……。と思いながらそれをチョイッと抓むと――


 ――ぽふんっ!


 と、自分の近くで何かが着地するような音が聞こえた。


 その音と同時にショーマは「うわっ!」と言う驚きの声が聞こえると、それを聞いたツグミはすぐに声がした方向――そして感覚があった場所に視線を向けると、その場所にいたのは――人間に見えるが人間ではない何かだった。


 その魔物はツグミのことを見ると弧を描くような笑みをにっこりと浮かべ、その後で「けけけ」と言う声を出しながらツグミに向けて深く、深く会釈をした。


 その光景はまさに――ツグミに対して深い忠誠を誓っているかのようなしぐさだ。

 

 対照的に――その魔物はショーマに対してはぞんざいらしく、ショーマの近くに立っているにも関わらず、彼に対して会釈もしないままツグミのことを見ているだけ。その光景を見ていたショーマは愕然としながらショックを受けた顔で「え? ええ? なんで………?」と声を零すも、魔物はショーマのことを無視してツグミのことをただじっと見つめていた。


 その光景を見ていたツグミは、安堵のそれを零すと同時にその魔物のことを見て一言――


「あぁ、ありがと――サイコリッパー」


 と言って、ツグミは自分で出した魔物に向けてお礼を述べると、その言葉を聞いた魔物は再び深く、深く頭を下げて会釈をすると、頭を上げると同時に「ケケケ」と言葉を零しながら首を傾げて肩を揺らす。


 二本の湾曲を描いた曲芸師が持つような剣を両手で持っていたが、その二本の剣も今となっては腰に携えている鞘に納めている状態で、黒いスーツ姿だがそのスーツもボロボロで、しかも血がこびりついているそれを見せつけながら、ざんばらになった金髪に血まみれの革靴、口裂け女のような真っ赤な弧を描いた口元――()()()()()を見せているその魔物――サイコリッパーはツグミの言葉を聞いて仄かに嬉しそうな顔をしている………ように見える。


 その光景を見て、ツグミは本当に忠実なんだな……、と思いながらサイコリッパーのことを見ていた。


 サイコリッパーの背後で降り注ぐ……、いいや、ここいら一体で降り注いでいる白と赤、そして黒い液体の雨を背景にして……。


「………てか、俺もかなり命張ったのに、この差は差別では?」


 サイコリッパーのことを見つつ、行動に対しても不満をかすかに抱いたショーマは苛立ちのそれを浮かべながらサイコリッパーのことを見上げるが、サイコリッパーはショーマの言葉を無視しながらツグミのことを見てニコニコと口しかない顔を浮かべる。


 けらけらと肩を揺らし、ツグミの次の褒めの言葉を待つ飼い犬のように……。


「なんか、異常な憤りを感じます」


 そんなツグミとサイコリッパーのことを見て、自分はかなり命を張っていたにも関わらず労いどころか何もないその状況に、ハンナの言葉で言うところの胸の奥から湧き上がる赤いもしゃもしゃを感じてしまったのは言うまでもない……。


 だが、そんなショーマのことを見ていたツグミは呆れるような溜息を吐きつつ、本当に悪運だけは強いなぁ。と思いながらツグミはショーマのことを見ていたが、ツグミは驚きのその気持ちをすぐにしまうと、ツグミはショーマのことを見てふぅっと、ようやく戦いが終わったという安心の溜息を鼻から零した後、ツグミは現在でもサイコリッパーのことを見上げて憤りの顔を浮かべているショーマに向けて――無言のそれをかけた。


 いうなれば――心の声でツグミはショーマに向けて言ったのだ。


 未だに憤りをサイコリッパーに向け、小さな声で「ねぇ。なんで俺に労いなんてないわけ? 俺も頑張った。足捥がれたにも関わらずこの扱いはさすがに寛大な俺でも怒りまっせ。ねぇ?」と、真顔で怒りのそれを出しながら呟いているショーマに向けて、ツグミは心の声を――ねぎらいをかける。


 ――まぁ、今回はショーマの起点と言うか、今回だけは運がいいような展開のおかげでここまで行けたんだし、ファルナさんも助けられたのはショーマのおかげなんだから、今回だけは怒らないことにしておこう。


 ――どっちにしても、怒る気力もないけどね。


 ――とにもかくにも、今回はショーマお疲れ。そして――ご苦労様。


 はたから見れば上目線の賭ける言葉のように聞こえるが、それでもツグミにとってすればかなり親しみを持ってかけた言葉でもある。


 ツグミは口が悪いような印象を持ち、運がとことん悪いショーマとも仲が悪いそれを感じさせるが、実はそうでもないことは見ればわかるであろう。


 喧嘩をするほど仲が良い。


 そんな諺があるように、彼らの仲は悪いように見えていいようにも見える。幼馴染であるからそれはそうなのかもしれないが、彼等にとってこの縁というものは――複雑なものになっている。


 複雑に、絡み合うかのように彼らの縁と言うものは繋がっているのだ。


 ()()()()()()()()()()()がなければ、彼らがここまで関わり合うようなことは起きず、ただの幼馴染と言う関係で終わってしまうものであったが、なぜ二人の関係はここまで深く、複雑なものになっているのか――それはまた別のお話になるだろう。


 今はまだ試練の真っ只中。そして――


 ――()()()()()()()()()()()()()


 ツグミが心の中でショーマに感謝の意を示したその時、デュランとコウガもやっと終わったと思いながら肩の力を抜いていた時でもあり、むぃに至っては今までしがみついていたその行動を止めながら、コウガの肩に足を乗せて肩車をしようとしている最中でもあった。


 誰もがあの光景を見た瞬間、黒い血と赤い宝石が壊れ往くその瞬間、そしてこの静止の光景を見れば、誰であろうと戦いが終わったと思うであろう。


 熟練者でもあるデュランでさえも肩の力を落としているのだ。その光景を見てしまえば、鬼よりも強い騎士団『12鬼士』が肩を落とした瞬間を見れば誰であろうと思ってしまうであろう。


 誰も思わない人もいるかもしれないが、この中にいる誰もが実力と言う名の経験を持ってない――経験値が浅い冒険者なのだ。ゆえに誰もが思ってしまうであろう。


 終わったのだと。


 しかし――現実はそうではなかった。


 その白と赤、黒の小雨が『偽りの仮面使』から零れているのは誰が見ても分かるが、白い雨はもうすでに無くなっており、代わりに『偽りの仮面使』の顔からずるりと落ちていく白く大きな仮面の破片。


 ショーマ達がみていた白い仮面には大きな罅の痕が残っていたが、その仮面が落ちると同時に、『偽りの仮面使』の剛腕のまま止まってしまった手が……。


 ぴくりと、僅かに動いた。


 指先をかすかにピクリと動かすかすかな異変であったが、それと同時に今まで流れていた穏やかな空気が一瞬で一蹴されてしまう。


 ばらりと――『偽りの仮面使』の顔についていた最後の仮面がその顔からずり落ちた瞬間、『偽りの仮面使』の素顔が……、白い仮面で隠されていたその顔が露になったのだ。


 額に埋め込まれている赤い宝石と、黒い鮮血がいまだにその宝石の亀裂から出ている光景も異常でおぞまじい光景であるが、それ以上に悍ましい光景が仮面の下から姿を現したのだ。


 まるで黒焦げになってしまったボロボロの肌。そして美しかった女性の輪郭とかけ離れているごつごつとした輪郭。男が所有するような角ばった顎に、鬼のような下顎の牙に上顎の犬歯。目元も美しい女性の目元とは思えない……、いいや、完全に女性ではない目元が、霊長類の目元がそこにあり、その眼もとに黒い血がどろりと流れた瞬間………、『偽りの仮面使』はまるで別人、いいや――これが本当の顔なのだろう。


 その顔で目をかっと見開いた瞬間――本当の顔を晒した『偽りの仮面使』は、叫んだ。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」




『――っっ!?』


 突然の『偽りの仮面使』の雄叫び、いいや――それはもう『偽りの仮面使』の声ではない。野太く、まるで獣と代の音の子声が混ざったかのような汚い声であり、今まで聞いていた美しい声など聞こえない。そんな声を出しながら『偽りの仮面使』は晒された顔を怒りのそれに変えると同時に上空に向けてけたたましいくらいに叫ぶ。


 何秒でも、何十秒でも――『偽りの仮面使』は叫び続ける。


 まるで大きな化け物の逆鱗に触れてしまった――否、むしろ今その状態なのだが、その光景を見て、あまりにも大きな声を聞いてしまったショーマたちは驚きながら耳を塞ぎ、そしてびりびりとくるその振動に立つことでさえもできないような状態になってしまう。


 振動の圧によって押しつぶされているような感覚。


 それを受けていたコウガはむぃのことを背中から己の懐に隠すように覆いかぶさると、コウガはむぃのことを庇いながら背中に来る振動を受けつつこう思っていた。


 ――マジかよ……っ! 声だけでこんなに……っ! 


 ――重てぇ………………………っっ!


 コウガは思う。背中からくるその振動を、声の圧を感じ、まるで重い意志が己の背中に向かって押し込まれていくような、ビキビキとくるようなそれを感じていた。


 実際のところ――そのような衝撃も圧もすべてが空想の産物。コウガの妄想――つまりはそう感じているだけに過ぎない。しかしそれでもコウガは思ったのだ。そう感覚が誤認するほど思ってしまったのだ。


『偽りの仮面使』が放つ声は重い。狂気の声が凶器を生むようなそれを感じたコウガは思ったのだ。


 これが――これから己の身に起きる何かだと。


 そう認識をすると同時に『偽りの仮面使』の絶叫に似た叫びが終わった瞬間――


「――っ!? ぶぱっ!」

「コウガさんっ!」


 コウガの背に感じていた重みが急になくなる。どっと来ていたそれが跡形もなくなったかのようなそれを感じたコウガは、ようやく気張っていたその気持ちを緩めると同時に、止めていた息を一気に肺から吐き出すような声を出すと、そのまま『偽りの仮面使』の肩の位置を地面に見立てて手を付く。


 その光景を見てむぃは泣きそうな顔をしながらコウガに駆け寄ろうとした時、デュランは『偽りの仮面使』の叫びの中でも、何とか己の気力を保っていたおかげでコウガのようにふらつくようなことはなかった。


 が――声がなくなると同時にすぐにショーマ達の安否を確認しようとした……、瞬間、デュランははっと息を呑む。そしてそれと同時に――攻撃を仕掛けようとして前のめりになりながら化け物の顔を向けている『偽りの仮面使』の行動を止めるために駆け出す。


 蹄の音を鳴らし、槍を再度構えながらデュランは駆け出す。




 今まさに『偽りの仮面使』の顔が向かっている――ショーマとツグミがいる場所に向かって!




「ショーマッ! ツグミッ! 早くその場から逃げろっっ!」


 デュランが叫ぶと同時に、その光景をいまだに耳を塞ぎ、目を瞑った状態でいたショーマとツグミは驚きながらデュランの声がした方向に目をやり、「「え?」」と言う呆けているような声を出しながら首を傾げていると、ツグミは視界の端に写り込む異常な光景を見てしまい、そのまま真正面を向くと――ツグミは言葉を失ったかのような目の見開きをしてその光景を見た。


 デュランが見た通り、自分達に向かってその異形ともいえるような化け物の顔をツグミたちに向け、前屈をするように体を曲げながら迫っているその光景を見た瞬間、ツグミは驚愕の絶叫を上げる。


「わっっっ!?」


 そんな一文字の大声を聞くと同時にショーマもツグミのことを見て何が起きたのだと思いながら見た瞬間――彼も視界の端に映り込んでしまったそれを見て、ツグミと同様その光景を見た瞬間叫んでしまう。


 逃げることも、裂けるという選択肢もど忘れしてしまったかのように、ショーマは絶叫の声と顔を浮かべながら叫ぶ。



「ぎゃあああああああっっっ! ゴリラがくるぅううううううううっっっ!」

 


 はたから聞くと何を場違いなことをと思う人もいるかもしれないが、ショーマにとって一瞬見た光景はまさにゴリラかもしれない。そしてぱっと見で言うとそれに近いかもしれないが、ショーマの言葉をを理解しているのか『偽りの仮面使』は更なる怒号を上げながら大きな犬歯と牙をむき出しにして襲い掛かる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」

「何してんだよ! 相手僕達の言葉分かっているみたいだよっ!? しかもなんか怒っているみたいな音色になっている! これ完全に怒らせたよ! なんにやってるんだ馬鹿野郎っ! さっきの言葉撤回だ!」

「ええええっ!? 俺のせいなのっ!? てかさっきの言葉ってなんか言った!? 手かそんなことをしている間にもどんどん迫ってくるぅぅぅうううう! いやぁぁぁトラウマになるからこないでぇええええゴリラあああああっっっ!」

「ふざけんなこの野郎おおおおおおおおっっっ!」


 明らかなる殺意と剥き出しの剛腕の腕を繰り出し、額から零れる黒い液体と、額にある赤い宝石の日々がどんどん広がる中――『偽りの仮面使』は更なる接近をして絶叫のそれを上げながらお互いのことを抱きしめているショーマとツグミに向ける。

 

 はたから見れば本当に滑稽に見える光景ではあるが、今はそれどころではない。


 今は――命の危機なのだ。


 それを察知しているデュランは蹄の足を急かしなく走るために動かし、そのまま跳躍をして飛び移っていくと、デュランはショーマ達がいるその場所に向けて手を伸ばすのではなく、槍を大きく横に振るう体制になり、得意の無音の攻撃を『偽りの仮面使』の首と腕に向けて放とうと構える。


 肩から髪の毛。髪の毛から髪の毛へと乗り移りながら――デュランは構えを執り行う。


 ――我の無音の攻撃であれば、気づかれずに攻撃ができる。且つ! 相手も気づかないまま息絶えさせることができる!


 そう思ったデュランはすぐに攻撃を繰り出そうと槍を構えると同時に、近くの足場 (と言う名の髪の毛)に乗り移った瞬間――デュランはその場で斜め横に跳躍をする。


 どぉんっという音と同時に、足場となっていたその場所がぐにゃりと揺れる様な感覚を蹄で感じる。

 

 それでもデュランにとってすれば大事な足場でもあり、その足場さえあれば跳躍することなど容易い。ヘルナイトであれば風の魔祖を使えば遠距離の攻撃ができるのだが、あいにくデュランにはそんなものはない。


 ゆえにデュランは跳躍をし、そしてそのまま槍が振るえる射程範囲に入れるように、どんどんと近づき、その時を伺う。


 怯え絶叫を上げる二人と、そんな二人のことを喰おうとしている『偽りの仮面使』を見て、槍の攻撃範囲には言った瞬間、心の中で今しかないと思ったデュランは、振るおうとしていた得物を大きく、力一杯振るおうとした。


 ――が、その行動に重ねるように、デュランの耳………………………はないが、それでも聞こえるデュランの耳に、聞き慣れているがこの場所にいることなどありえない存在の声が、彼の存在しない鼓膜を揺らした。



「あらら~、もう終わり? そんなことで終わらせちゃ面白くないわ」



「っ!?」


 その声は言った。デュランの耳元で、ない耳元で囁くように甘く、そして鬱陶しいという感情がブワリとこみ上げてくるような声を放つと、それを聞いたデュランは一瞬錯覚のような驚きと感覚を体感すると同時に、すぐに声がした右の方向を向きながら地面と言う名のドレスの上に降り立つと、デュランは辺りを見渡しながらどこにその存在がいるのかを探す。


 きょろきょろと――辺りを見渡しながら、だ。


 しかし探したとしても声の主はデュランの周りにいない。だが周りにいないにもかかわらず声はデュランの無い耳に響いていく。


 くすくすと、人を弄ぶような音色を放ちながら――その声の人物はデュランの周りで言葉を発する。ぐるぐると――デュランの周りを回っているかのような声を放ちながら……。


「でも、ここいらで終了かしら。久し振りに楽しいものを見させてもらったわ。だからお礼に、わたしが全部終わらせてあげる」


 その言葉と同時に、デュランはないにもかかわらず、東部に感じる激痛と共にどんどんと思い出されていくと、デュランは「うっ!」と唸りながらスカートに崩れ落ちそうになるも、何とか体制を保ち、頭がるその箇所を空を掴むように項垂れる。


 まるで、その場所に頭があるその顔を出しつつ、脳裏に思い出されていく甘い声と鬱陶しいというそれが混ざった仲間の顔を思い出すと同時に、デュランの体に纏わりついていた気配が――すっと消え去った。


 一瞬のうちに取り付いていたものが取り除かれたかのような軽さを感じ、デュランはその気配がなくなると同時にはっと息を呑むと、すぐに上を見上げる動作をする。


 彼に首と言うものはないので、腰を駆使して上半身を上に向けるようにして見上げた瞬間……。



「――『深淵の(メテオラ・)闇風(ダークマター)』」



 突然、スキル発動の声が聞こえる。しかも上空から――『偽りの仮面使』の頭上から聞こえたその声は、怯えるショーマとツグミ、気圧されてしまったコウガと泣いているむぃの耳にも届き、それを聞いたデュランに至っては……、顔のないそれで心底嫌そうな顔をしながら、デュランは小さく言う。


 ――やはり、()()()だ。


 その言葉と同時に――『偽りの仮面使』の頭上から降り注ぐものを見たむぃは、首を傾げながらその光景を見て、猫の耳に入る強い風の音を捉えると同時に、視界に映る黒い点を見つける。


「? なんですか?」

 その言葉を言うと同時に、その黒い点がどんどんと大きくなり、更によく見ると――その黒い点は渦を巻いているように見えるその光景を見た瞬間、むぃは「あれ?」と言う顔をしながら首を傾げる。


 傾げて、そしてその黒い点がどんどんと肥大――いいや、元かその大きさなのだろう。


 自分達はおろか『偽りの仮面使』を覆うような黒い点が自分達に向かって落ちていく――否、否……、自分達に向かって降り注いでくるそれを見て、むぃははっと息を零すと同時に、これはまずいという直感の驚愕のそれを浮かべた瞬間……。



「――己の身を守れぇっっ!」


 

 デュランの声が辺りを包み、それを聞いたむぃはすぐにデュランのことを見ようと背後を見ようとした時、今まで気圧されて動けないかったコウガはむぃのことを再度己の懐に隠すように覆い被さってきたので、むぃは「むぎゅっ!」と言う驚きの声を上げたままそのままコウガと『偽りの仮面使』の腕の間に挟まれ、サンドイッチ状態になってしまう。


 そしてそれを聞いたショーマとツグミも驚きつつもデュランの声がした方向を見て、すぐにお互いのことを抱きしめたままその時に備える。


 デュランも攻撃をすることをやめると同時に己の身を守る体制を構えると……、唯一その場所から離れていたクロゥディグルとファルナは、『偽りの仮面使』の真上から迫りくるそれを見上げ、言葉を失うと同時にこの世の物とは思えないそれを見た瞬間……。


 それは――降り注いだ。



 ――ゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!



 と、耳をつんざくような風の音を出しながら、それは『偽りの仮面使』のことを包み込むように攻撃を繰り出す。


 一帯の大気を吸い込み、それを力に変えて繰り出す――黒い竜巻となって!


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」


 黒い竜巻の中に囚われてしまった『偽りの仮面使』は断末魔に近いような叫びをあげ、剛腕の手を手当たり次第に急かしなく動かし、その竜巻を払おうとしているが、その行動も虚しく、逆にその行動のせいで竜巻の中から少しだけで縦からは黒い血と無数の切り傷がどんどん出来上がっていく。


 前に見たハンナが持つ瘴輝石――『癒しの(ヒーリング・)台風(サイクロン)』とは性質どころか何もかもが違う黒い竜巻。色から見て闇属性の物なのかはわからないが、『偽りの仮面使』は今でもその中で断末魔を上げながら暴れ、抗っている。


 死にたくない。そんな声が聞こえそうな声と風の音が混ぜながら……。


 風の音と『偽りの仮面使』の断末魔の声を聞きながらその光景を見ていたクロゥディグルとファルナは、驚きのまま固まり、その光景を見ながら一体何が起きているんだという目で見ていた。


 勿論、クロゥディグルはそのことを思いながら黒い竜巻を見上げ、ファルナに至ってはその中に閉じ込められてしまったショーマ達のことを心配そうに見ていた。


 心の底から――ショーマ達の名を呼びながら心配の顔を浮かべて……。


 しかし――


「お、おおおお………………………?」

「うう、う、うそでしょぉぉ~………………………?」


 その声を放ちながら、ショーマとツグミはお互いのことを抱きしめながら、現在黒い竜巻が発している風のクッションの上に乗るようにフヨフヨと浮いていた。


 黒い竜巻の中では確かに『偽りの仮面使』は拷問ともいえる様な攻撃の嵐を受けていたが、その反面、急に上に向かって浮遊されたショーマ達は驚きのそれを体験すると同時に、今もなお下で大絶叫を上げている『偽りの仮面使』のことを見降ろしながら言葉を失っていた。


 なにせ――黒い竜巻が現れ、自分達を包んだ瞬間に自分達はそのまま上に向かって空中浮遊。それと同時に『偽りの仮面使』はその場に取り残され最後の仕上げと言わんばかりの攻撃のオンパレード。


 その光景を見降ろしながら、むぃのことを抱えているコウガは驚いた顔をして「何がどうなってやがるんだ……?」と言う声を出し、その光景を見て、そして黒い竜巻を見ながら、デュランは内心――ああ、やはりな。と思いながら見つめていると……、不意に声がまた聞こえた。


 しかも――今後はショーマ達の頭上から聞こえる様な甘く、そして小馬鹿にするようなくすくすというおっほ笑みを浮かべる様な声で、その声の人物は言った。


「ふふふ――よくもまぁこんな魔物相手に詠唱もなしで挑んだわねぇ。本当だったらあんた達死んでいたかもしれないのに、命知らずだよねぇ~あはは」


 馬鹿にするような声に聞いただけで甘い匂いが漂いそうな雰囲気。


 それを聞いたショーマ達は驚きながら頭上を見上げると、頭上をいち早く見上げていたデュランは、心底呆れるような――いいや、それ以上に心底会いたくなかったというそれを出しながらデュランは言った。


 彼らの頭上にいる存在――薄黄緑色と緑が混ざったかのような半透明の体。薄い黄緑色の布を見に包んだかのような服装に絹のような髪をゆらゆらと揺らしているその存在は、ショーマ達の頭上で女特有のラインを駆使した小さな踊りをくるくると舞い、その舞の最中に頭上にいた半透明の女性は踊りをしながら「あははは」と甘い声で笑っていた。


 顔に嵌められている真っ白な能面めいた笑みを浮かべている顔を見せながら、その女性は甘い音色でこう言ったのだ。



「でもなんだか楽しかったからいいか。わたし自身も楽しかったし、結果オーラーイよね。あぁ、そういえばわたしのこと話していないわよね。話しておくわ。わたしは『12鬼士』が一人――『慈愛の聖霊』と言う名を持ち、聖霊族の母にして女王、更には魔王の力を持っている聖霊魔王族・ディーバ。よろしくぅ~。そして、お久し振りぃーデュラン」



「最悪だな……。『反慈愛の聖霊』めが」


 その言葉と共に、半透明の女性――ディーバはクスリと仮面ごしで微笑み、そしてフフッと言う声を零しながらデュランのことを見るが、反対にディーバの登場を見て、ショーマ達は驚きの顔を浮かべながらディーバのことを見ていることはデュランも、ディーバもつゆ知らずだった。


 なにせ――『12鬼士』の登場なのだ。この上ないサプライズと言ってもいいほどの、衝撃の光景なのだから……。

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