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PLAY93 ショーマとツグミ、そして仲間達⑦



 がしゅぅっ! 



 辺りに響く仮面に突き刺さる斬撃音……。


 いいや、この場合は刺突音だろう。


 その音を聞いたツグミ達ははっとするような顔を浮かべ、それと同時にコウガとむぃもその音がした方向に顔を向ける。


 顔を上げてその音がした上空を見上げると、コウガはその光景を見た瞬間言葉を失った顔をして唖然とした顔を浮かべる。


 コウガの唖然が浮かんでいた頃――デュランが放った風の竜はショーマに頼まれたことを終えると同時に、その竜の姿を保っていた風が少しずつ空気に流れて同化していき、どんどんと効果をしていきながら風の竜の姿を槍の姿に戻していく。


 緩い放物線を描くようなその光景を見上げていたデュランは徐に右手を上げ、その掌を己に向けるように上げると、どんどんとデュランに飛んできた槍はひゅぅぅぅっと言う音を奏で、隕石のように斜めの軌道で落ちていくと、そのままデュランの掌の前とデュランの顔のない右頬をかすめるように通り過ぎる。


 そしてそのままデュランは流れる様に己の得物をぱしりと掴むと、そのまま己の得物をくるくると器用に片手で回し、そのまま逆手だったその持ち方を元の持ち方に変えて得物を大きく振るった。


 ぶぅんっ! と言う空気を薙ぐ音がデュランの顔のない耳に入り、その音を聞いたデュランはすぐに視線を上に――そう……。


『偽りの仮面使』の仮面の上で――額の位置でその刀を深く、深く突き刺しているショーマのことを見上げながら、デュランは静かに言葉を零す。


「お前の願いは果たした。あとはお前次第だ――ショーマ」


 お前のやり方で、この状況を変えろ。


 そう言葉を零し、そして再度槍を片手でくるりと回すと、デュランは己の槍を『かしり』と刀身を上空に向けて掲げるように構えると、今までその方向に向けていた体をゆっくりと、(ひづめ)の音を鳴らしながらデュランは何事もないかのように振り向く。


 背後にある多数の髪の毛の手を見ながら、デュランは掲げていたその槍を更に空に向けて突き刺すように伸ばすと、デュランは静かな音色でこう言ったのだ。


 もう弱いという恐怖などないかのような音色で――デュランは言う。


「我に歯向かうのか? 魔物の分際で人間のような思考を持った哀れな獣め。そこまで我々の頭が欲しいのか……。なら――奪ってみろ。我は『12鬼士』が一人、『死地の誘い人』――幽鬼(ゆうき)魔王族・デュラン。我が視界に入った瞬間が、お前の最期だ」


 その言葉を言い放った瞬間、デュランの背から夥しい威圧が噴き出す。ブワリと――デュランのことを覆いつくすような黒い威圧を感じた『偽りの仮面使』の髪の毛の手達はびくりとその手を強張らせ、その気配を感じていた『偽りの仮面使』本体もショーマの刀が突き刺さった状態で肩をびくりと震わせ、上ずる声が聞こえた気がしたデュランだったが、それはきっと見間違いではない。


 どころかそれを感じた瞬間、明らかに空気が変わったのだ。


 それはコウガがちゃんと感じたので保証をする。そしてそれが意味すること――もうわかるであろう。


 デュランが、これからすべてを狩る気でいるということに――


 きっと、それは『残り香』の時の日ではない。それ以上の借りが行われるということ、それを今更ながら知ってしまった『偽りの仮面使』の髪の毛の手達は髪の毛であるのに生きている手のようにがくがくと震わせながら今もなおずずずっとその威圧を出しているデュランにその手を向けているが、そんなデュランから距離をとるばかり。

 

 攻撃もしないまま逃げ腰になっているその光景を見て、デュランはごっ! と蹄の音を鳴らし、歩み寄りながらデュランは言う。



「見せてやる――これが、幽鬼魔王族の戦いと言うものだ!」



 その言葉を言い放った瞬間、デュランの周りの空気が一瞬で変わり、重くなったことは言うまでもないが、その事態を知る由もないどころか、それどころではないショーマは未だに『偽りの仮面使』の頭に突き刺さっているその刀を掴みながら、ショーマは次の行動を考えていた。


「ううううぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ~っっっ!」


 ショーマは唸りながら仮面に、そしてもしかすると額に突き刺さっているかもしれないその刀を思いっきり、下に向けて力を入れる。


 その状態で、どんどんと仮面と顔に縦一文字の切り傷を入れる気持ちで、ショーマは己よりも何千倍もでかい魔物の顔の上で、ゆっくりと足を踏み、降りていきながらショーマは刀に力を入れ、全身に力を入れていく。


 ぴき……、べきっ! ぱきき……。


 刀を力一杯降ろしていくと同時に、聞こえてくるのは仮面が割れる様な音。そしてその中から聞こえてくる切れる音。それを聞きながら、ショーマはどんどんと降りていき、そしてその仮面の上から黒い液体がこぼれていく。


 あの時――叫んだ瞬間見えたあの赤い光も零しながら。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……、ああああああああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」


 しかし、相手も相手でただショーマのされるがままと言うわけにはいかない、どころかそんなことをされて簡単にくたばるわけはない。


『偽りの仮面使』は今もない己の顔の上でどんどんと切り傷を残そうとしているショーマに向けて、剛腕の手をぐわりと開き、そのままショーマに向けてその手をし向ける。


 大きく手を開き、そしてそのまま握り潰そうとしているその手を仕向けるが、風圧の音で気付いたのか、ショーマはその腕が向かった瞬間に驚きと共に背後を振り向くと、「げぇっ!」と言う声を出して焦りのそれで辺りを見渡しながらどこに逃げるかを模索する。


 ――どうするっ! このままじゃ俺いくら生き返る体だからってあれでハエたたきにされちまったら死んじまうっ! 


 ――しかもやっと付けた傷なんだ! 離しちまったら折れて今までの行動がパァだ! こんなこと何回もあるわけない……! どころかこれがもう最初で最後かもしれねえ!


 ――ここで離すことはできねえ!


 だが、ショーマはすぐにその思考に辿り着くと同時に、その思考の思うが儘……、いいや、己の感情の思うが儘にショーマは握っている刀に対してさらに力を入れ、たとえ死んだとしても離さない意思を持ってショーマは刀の柄を強く握る。


 握り、背後からくるその攻撃を、『偽りの仮面使』のハエたたきにも耐えるように全身に力を入れて迎え撃とうと、ぐっと目をきつくつぶり、そしてその時が来る時に備えて身を固めた。


 が、その行動も、相手の行動も無駄と言う形で一時中断になってしまう。


見入(みい)視入(みい)診入(みい)れ。我は全てを見通す目を持つ一族也」


 突然聞こえた声に、ショーマは目を点にして「?」と言う顔をすると同時に、その声を聞いた瞬間向かわせていた手がショーマの背中に触れる後数ミリのところで『ビタリ!』と止まる感覚を覚えた。


 背中に来た風圧と、かすかに感じる手の気配がそれを知らせて、ショーマは心の中で (あ、あぶねー……!) と思いながらそのままそっと声がした方向に目をやると、ショーマは驚きながらその視線の先にいる人物を見て驚きのそれを浮かべる。


 その顔を浮かべると同時に、今まで晴天の世界だった空が、どろどろと赤く染まっていく世界に変わっていく。


 外の世界が赤く、まるで魔の時間に思えるそれを見た瞬間――クロゥディグルとファルナは背中に感じる悪寒でブルリと体を震わせるが、それとは対照的に、その光景を見ていたツグミ、コウガ、むぃは、安堵のそれを浮かべながらその赤い空の――『偽りの仮面使』の頭上を見上げると……、どろどろと赤く染まった空に、歪な形の、まるで口元に弧を描いたようなそれが浮かび上がり、辺りの赤みをどんどんと濃くしていく。


 微かに風の強さも変わったような気がする。そうクロゥディグルが思うと同時に、デュラン派掲げた槍を上げた状態で言葉を続ける。


 幽鬼魔王族に代々伝わる技を――心で唱えると同時に、声でも唱えながら……。


「我思うは絶対なる我の領域支配。我願うは――我が眼中に、塵一つの障害物をなくし、我に全てを見通す力を与えん」


 その言葉と共に、デュランの頭上に浮かび上がっていた口元の形は、どんどんと、ずずずっと言う音を発するように大きく歪めると――デュランは高らかに大きな声でその言葉を……特殊詠唱の終言葉を放つ!



「――『世界を見る魔眼(イビルズ・アイ)』」



 そう言葉は言い放たれると同時に、空に出ていたそれが、ばかんっと開いた。


 大きく、そして人間のそれのように急かしなく辺りを見回しながら……、それは頭上に――空中に現れたのだ。大きな大きな、()が。


「――っ!」

「ひっ!」


 何にもない晴天の空――ではなくなってしまった真っ赤な空に浮かんだ大きな目。その光景を見てしまったクロゥディグルとファルナは驚きの上げ、ファルナに至っては上ずるような声を上げてしまうほど、その光景は悍ましいものだった。


 事実――空中に浮かび上がっているその目は現在進行形で辺りを見渡すようにぎょろ、ぎょろっとその目を動かしているのだ。不気味な上悍ましい光景である。


 しかしその目が動いている最中、デュランはその場でただ槍を上げている状態のまま微動だにしない。どころか動いていないが、その光景を見上げていたツグミはよし! と言う顔と声を上げて、杖を持っている手を握りしめながらツグミは言った。


「これで――勝てるかも!」

「っ? どういうことでしょうか?」


 ツグミの言葉を聞いたクロゥディグルは首を傾げながらツグミのことを目だけで見ると、クロゥディグルの目を見上げてツグミは確信を持った笑みを浮かべてこう言ったのだ。


 はっきりと――断言する言葉で。


「言葉通りの意味だよっ」


 ツグミは言う。いいや――断言する。この戦い、勝てる。


 そう確信を持った瞬間、今でも槍を上に掲げたまま動こうとしないデュランの背後にうねりと蠢く軟体の影。


 その影はまるで背後を突くようにデュランの後ろから蛇のように這いずり、その先を鋭いそれに変えていくと、うねりを帯びたものはデュランの背後、あと数センチと言うところでそのうねりのやめ、それと同時にそのうねっていたものは素早い動きでデュランの背後――心臓の位置に向けてその尖ったものを矢のように放つ。


 背後から毛の先を尖らせたそれを、まるでドリルのように回転させて――デュランの背後から『偽りの仮面使』はその攻撃を放とうとした。


 詠唱を放っている最中、動いていない彼を格好の的に仕立てて――!


「――っ! マジか……っ!」


 その光景を少し上の位置でも降ろしていたコウガは驚きな柄その光景を見る。『偽りの仮面使』の髪の毛が鋭い針のように形成され、それをデュランの背後から奇襲めいたそれで放とうとするその光景を見て、コウガは驚くと同時に、続けてコウガは言った。


 まるで――ありえないと言わんばかりの音色で、少しばかり、おかしく見えてしまったことでおかしく見えてしまい吹き出しそうになった顔で、コウガは言ったのだ。


()()()()()()()()――()()()()()()()()


 その言葉が放たれると同時に、デュラン背後から襲おうとしたその髪の毛の槍は、いとも簡単に断髪されてしまう。


 背後を向いた状態だったにも関わらず、その攻撃を放とうとした瞬間即座に振り向き、その振り向きと同時に音のない連続攻撃を繰り出すデュラン。


 ジャキンジャキンジャキン! と、髪を切るときのような音を発しながら、その槍の髪の毛はどんどんと散髪され、そのまま髪の毛の一部と化してしまった髪の毛たちはばらばらと地上に向かって揺れながら落ちていく。


 まるで花弁のように、ところどころ服に着地をしながら、デュランの手によって斬られてしまった槍の髪の毛はその生涯を終えて地上に向かい、そして風に乗りながらばらばらになっていく。


 その巻き添えとなってしまった――デュランの周りに会った髪の毛も一緒に、だ。


「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」


 その光景と、髪の毛が無くなってしまった喪失感を感じてしまったのか、『偽りの仮面使』は驚愕……、いいや、絶望を味わってしまったかのような顔をしながら絶叫を上げると、その声を聞いていたデュランは一言、小さな声で「五月蠅い声だ」と呟く。


 その呟きと同時に更に背後からくる髪の毛の手達のことを見ず、そのまま大きく背後に向けて振り返ると同時に槍を大きく振るう。


 ぶぅんっとと言う空気を裂く音と同時につんざく、散髪の音。


 その散髪の感覚を味わっていた『偽りの仮面使』はその感覚を味わうと同時にさらなる絶望の叫びを上げそうになりながら、ぶるぶる震える声で「あ、あ、あああああああああああ………………………っ!」と零すが、それを聞いたとしても、デュランは止まらない。


 否――特殊詠唱『世界を見る魔眼(イビルズ・アイ)』が出た瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのことを思うと同時にデュランは手にしている槍を大きく振るうと同時に、『偽りの仮面使』のことを見ずに彼は言ったのだ。


 いいや、見ている状態でデュランは言う。


 全てが見えている状態で、デュランは言ったのだ。


「我が詠唱『世界を見る魔眼(イビルズ・アイ)』は、我の目そのものを上空に映し出す詠唱! つまりあの目は我の目、それすなわち――我は貴様の行動を見降ろしているのと同じ! 奇襲もすべて見入ることができる! つまり――我に死角なしと言うことだ!」

 

 その言葉の信憑性を上げるように、デュランの背後に一気に現れた髪の毛の手や武器を見ない状態で、振り向き様の槍の薙ぎを繰り出し、それと同時にデュランの後ろ脚に忍び寄る髪の毛でさえもその槍で切り落とすという行動を何の苦もなく成し遂げてしまったのだ。


 まるで踊るように、どんどんと死角に入り込んでくる髪の毛の奇襲をものともしない動きで、どんどんと散髪をしていく。


 しかも――


「コウガ! ()()()()()()()()()()()()()()()()っ! 切り落とせっ!」

「っ! わかっているっつーのっっ!」


 コウガのことを見ずに、コウガに向かってデュランは自分の位置からは絶対に見えないであろうむぃの攻撃を注意するように言い放つと、それを聞いたコウガはすぐさまむぃの左側に正面を向けると同時に、手に持っていた闇を纏った忍刀を逆手に持った状態で、目の前に迫りくる髪の毛の槍をすぱぁんっと切り落とす。


 瞬間――槍だったその髪の毛はいくつもの束の髪の毛に戻り、そのまま地上に向かって花弁のように左右に揺れながら落ちていく。


 その光景を見ていたファルナは、今まで泣いていた顔の状態でおどろのそれを浮かべると同時に、小さな声で「何が……、どうなっているの?」と零すと、それを聞いていたツグミはファルナの隣で、ファルナのことを見ずに彼は言った。


 至極当たり前と言わんばかりの音色で――ツグミは言ったのだ。


「見た通り――あの上空に浮かんでいるのがデュランの目で、その目を使ってデュランは常に見降ろしているってだけ。つまり……、あの目がある限り相手の攻撃なんて全部止められるってこと。だって攻撃を擦る瞬間が丸見えなんだから、奇襲もできないし。それが見えているデュランにとって――丸見えの攻撃にしか見えないってこと」

「なんと………………………、無敵ですね」

「でも――」


 ツグミの言葉を聞いていたクロゥディグルは旋回をしつつ飛びながら驚きのそれを零すが、その言葉に対してツグミは首を横に振りながら彼は言った。


 この詠唱も――無敵ではないことを示すように……。


「デュラン曰くこの詠唱――一時間しか持たない。だから長期戦になったとしても切り札としてしか使えないし、()()()()()()()()()()っていう意思表示だよ。これ」


 そう言うツグミの視線は――未だにその場所で踏んばりを見せながらも刀を降ろす作業をしているショーマに映すと、その光景を見ていたツグミはむっとするような目の細みを浮かべ、それと同時に苛立ちも込み上げてきたツグミは――デュランの詠唱のことを聞いて驚きを浮かべているクロゥディグルに向かって、ツグミは頼みを伝えた。


「クロゥさん――僕を………………………してほしい! 今すぐ!」

「っ!? 正気ですかっ!?」


 ツグミの頼みごとを聞いたクロゥディグルは驚きの表情と共にやめて置けという顔をしながらツグミに向かって言うと、それを聞いたツグミははっきりとした音色で――


「本気だよ」


 と言うと、その言葉と同時にツグミはショーマの背中を見て、必死な顔をしているショーマの横顔を見て言う。


 断言をするように――彼は言った。


「あいつが死んだら、僕自身気持ち悪いし、それに――そんなことをさせたら……、華ちゃんが悲しむし、二人で企てた『()()()()()』もできなくなる。みゅんみゅんとの再会もできなくなる。馬鹿一人の命を見捨ててばらばらになんてなりたくないから、こんなところで……、死なせるわけにはいかないんだよっ!」


 ツグミは言う。脳裏に浮かぶ友の背後、それと同時に浮かぶ――ハンナと大きな傷を負う前のみゅんみゅんの笑顔。そして――メグの悲しみの横顔。


 それを思い浮かべた瞬間、ツグミはクロゥディグルのことを見て、真剣で目で訴えるようなそれを浮かべながら無言を徹すると、クロゥディグルはそんな顔を見て、そしてファルナに視線を向ける。


 ファルナ自身、もうあの泣き顔が治まったような顔をしており、ファルナもクロゥディグルの視線に気付いて見上げると、彼女はそんなクロゥディグルのことを見て――


 こくりと――ツグミの言葉に賛同するように頷きを見せた。


 お願い。そんな願いが込められているような顔でだ。


 その顔を見て、クロゥディグルは二人の願いを汲み取るようにすっと目を閉じると、すぐに目を開けて――クロゥディグルはツグミのことを見降ろして「分かりました」と、冷静な音色で言うと、それを聞いたツグミはすぐに感謝の言葉を投げかける。


 投げ掛けを聞いたと同時に、クロゥディグルはツグミのことをその竜の手で包み込むように優しく、潰さないように掴むと、そのまま両の手で袋を作るようにその手の中に入れると、クロゥディグルは急加速と言わんばかりの上昇飛行で飛んで行く。


 びゅぉっ! という空気の変化の音が聞こえると同時に、気体の変化に対応できなかったツグミは耳にフィルターがかかったかのような状態を感じながらも、クロゥディグルの手の中でその時をじっと待ちながら耐える。


 ファルナ自身はその状態には体制があるので、クロゥディグルの首にしがみつきながら落ちないように耐えていると、クロゥディグルは『偽りの仮面使』の仮面のところでもたもたしているショーマが見えるその場所で一瞬止まると同時に――


「――行きます! 備えてください!」

『わかった!』


 クロゥディグルは手の中にいるツグミに向けて大声で発すると、その声を聞いたツグミは頷きながら大声で言う。その言葉を合図に――クロゥディグルはショーマがいるその場所に向かって、斜め下に急降下をするように、飛行を開始する。


 翼を何とか後ろに向けて伸ばし、そのまま『偽りの仮面使』に向かって突撃をするように構えで、クロゥディグルは急速な斜め下の降下を行う。


「っ!」

『――っ!』


 急速な動きであるが故、ファルナもそれを受けながら吹き飛ばされないように踏ん張りを見せ、手の中にいるツグミもそれを受けつつも、杖を前にして見を丸くしながらその時を待つ。


 デュランやコウガ達が髪の毛を相手に、剛腕な手を相手にしながらあしらっているその時を大きな隙――大きな攻撃のチャンスと見て、ツグミは一瞬、微かに入り込む光を目で捉える。


「! 光……、今だ!」


 ツグミの視界に入り込んだ光――それはクロゥディグルが包んでいたその手を緩めたときに差し込んできた光のことで、それを見た瞬間ツグミはクロゥディグルの手の中で窮屈そうに立ち上がり、その手がどんどんと開いて行く動きに合わせるように、ツグミはクロゥディグルの手の中で、外に向かって走り込む。


「おらああああああああっっっ! 術式召喚(サモナーバインド・)魔法(スペル)――!」


 走ると同時に、似合わない叫びを上げながらツグミは駆け出し、その駆け出しと同時に杖を目の前に掲げた瞬間、ツグミはクロゥディグルの手の開きの動きに合わせて、その場からドンッ! と飛び上がる。


 いいや――飛び降りをしようとした。の方がいいのかもしれない。


 事実――開かれたクロゥディグルの手の中から飛び出すツグミのその姿はまさに飛び降りそのもので、駆け出す態勢の状態でそのまま真下にいるショーマに向かって落ちているのだ。


 跳び上がるのではなく、飛び降りたの方が正しい光景だ。


 その状態でツグミは背後を見た瞬間に驚きの顔を浮かべるショーマのことを見降ろすと同時に、目の前で、自分のことを覆うように魔方陣を出した状態でツグミは言い放ったのだ。


「『召喚:サイコリッパー』ッ!」


 大きく、自分らしくもない大きな声でツグミが言った瞬間、魔方陣がツグミの目の前で光り、その光を放っている魔方陣を難なく通過 (ちなみに――魔方陣に触れても召喚の支障はない)して、そのままショーマのことをも降ろしながらツグミはその両の手を広げた。


 ばっと――大きく広げ、その状態でツグミは驚いた状態で「え? え? え?」と言葉を零すショーマの腰に向けてどんどんと落ちていき、そのままツグミはショーマの腰に覆い被さると同時に『がしり』とその両手を絡ませ、ショーマにしがみつくような形で宙ぶらりんになってしまう。


「えっ!? ツグミ何し――」


 そんなツグミの行動に驚きつつも、ショーマは話せと言わんばかりにツグミの腕に手を伸ばそうとした時、ツグミはそんなショーマの動きを予測してなのか、ツグミはそのままショーマの足がついているその場所の下に足をつけ、そのまま背負い投げをする要領で――ショーマのことを刀から引きはがしたツグミ。


「ふんっ!」


 という掛け声と共に、余りの驚きに力を抜いていたショーマはいとも簡単にその刀から手を離してしまい、そのままショーマはツグミと一緒に、『偽りの仮面使』の仮面から離れるようにどんどんと落ちていく。


「あ、あんぎゃぁぁぁぁ~っっ!?」


 ツグミの意外な行動に驚きのそれを上げながら落ちていくショーマ。


 ひゅぅううううううっ! と言う落ちる音と共に、その光景を見てクロゥディグルはすぐさま方向転換をしてツグミ達に視線を向け、高速と言わんばかりの速度でツグミ達に向かって飛ぶ光景を見て、『偽りの仮面使』は安堵のそれを浮かべようとすぅっと息を吸おうとした瞬間――


「――?」


『偽りの仮面使』は、驚きで仮面越しに目を見開いた。


 驚くのも無理はない――


 なにせ、目の前にいる二本の湾曲を描いた曲芸師が持つような剣を両手で持ち、黒いスーツ姿だがそのスーツもボロボロで、しかも血がこびりついているそれを見せつけながらざんばらになった金髪に血まみれの革靴、口裂け女のような真っ赤な弧を描いた口元――()()()()()を見せているその魔物を見た瞬間、『偽りの仮面使』は言葉を失い、叫ぶことを忘れた状態で一瞬見てしまった時、目の前にいた魔物――サイコリッパーは両手に持っているそれを大きな目が浮かんでいる上空に向けて掲げると同時に…………。




「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」




 と奇声交じりの笑いの声を上げて、そのまま二つの交わりの線をつけるように、『偽りの仮面使』の仮面に向けてバツ印の切り傷をつける。


 がしゅん! がしゅんっ!


 と言う陶器を斬るような音が上空内に奏でられた瞬間、『偽りの仮面使』は叫ぶこともせず固まった状態でその衝撃の後味を感じる。


 びきり、びきり。


 と、仮面に浮き出る罅割れの音を聞きながら……、『偽りの仮面使』はその後味を味わい、そして――


 バギィンッッ! 

 

 と、二重に聞こえた破壊音を聞き、そして目の前に広がる白い破片と赤い宝石の破片に混じるように飛び散る黒い液体を見た瞬間――『偽りの仮面使』は、知ってしまう。


 己の命が尽きるその瞬間を。

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