表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
542/834

PLAY93 ショーマとツグミ、そして仲間達⑥

 ツグミは確信をした。と言うよりもこれは遅まきながらの気付きかもしれないが、それでもツグミは気付いたのだ。


 この世界の住人でもあるクロゥディグル達では知らない――現代人にしか知らない暗黙の了解と言うものを。


 それは現代に生きる者達でもこの世界の生活に慣れてしまうとそれも薄れてしまっても仕方がないようなことであり、ツグミ自身もそれに気付くのに時間を要してしまうほどそれは簡単なことではあるが、この世界になると難しい事でもあるのだ。

 

 意味が分からないかもしれないが、それにいち早く気付いたショーマは――


 この世界が本当に暗黙の了解と同じようになるのであれば、きっとあるはずだ。


 そう思いながら駆け出し、『偽りの仮面使』に向けて刀を突き付けようとしていた。



 ◆     ◆



「おおおおりゃああああああああっっっ!」


 ショーマは大きな声を出すと同時に、手に持っていた刀をその大きく、太い首元に突き刺すような動作をしながら駆け出し、そのままショーマは突き刺そうとした。


 だが――世の中と言うものはそうそううまくいくようになっていない。たとえショーマ達が思う了解の見解であっても、それは覆せないことなのだ。


 そう……、何度も勝ってきた相手であろうと、たまに負けてしまうようなケースがあるように、そんなに世界と言うものは都合のいいようになっていない。


 ゆえに――



 ――バゴォンッッッ!



「おぎゃぁっっ!」


 ショーマは突き刺す前に、いとも簡単に『偽りの仮面使』の髪の毛の束で作られた髪の毛の手によって叩かれる様に飛ばされてしまう。


 叩かれた瞬間、ショーマの右頬と肩に感じた激痛と右肩に感じた軋むような音を聞いたと同時に、ショーマはそのまま背中から飛び降りるように吹き飛ばされてしまう。


 よく見る……、「あぁ~れぇ~!」と言う声を零し、上空で大の字のままぐるぐると回りながら……。


 その光景を腕越しに見ていたコウガは呆れながら舌打ちを零し、「正面から突っ込んでそのまま叫ぶ馬鹿がいるかっ!」と怒り交じりの突っ込みを入れると、デュランはその光景を見てショーマに向けて彼の名を叫びながら呼ぶと、その光景を見ていたショーマははっとしてすぐにデュランのことを見ながらショーマは叫んだ。


「デュランの兄貴ぃ! このままだと危なそうなんで……、何か魔法を使って助けてくださぁい!」

「なっ!? 我にそんな魔祖術などないぞっ! それにそんな詠唱があれば使っている!」

「何とかしてくださいよぉ! 俺の背中に向けて攻撃をするとか、そんな攻撃でもいいんでぇ!」

「そんなことできるかっ! お前――それをしていいと思っているのかっ? 死ぬかもしれないんだぞっ!」

「ぅいっす! デュランの兄貴のことを心の底から心配していますんで、そこんところはご心配なくぅ!」

「そんなことで言っているわけでは……っ!」

 

 ショーマの叫びに対し、デュランは言葉を濁すように会話をぶつ切りにすると、デュランは己の手にある槍を目にやりつつ、それと同時にショーマのことを見ると、デュランは己の脳内に思い浮かぶ一言に対して、尋問自答をした。


 ()()()()()()()()? 


 その言葉が頭をよぎると同時に、デュランは思い返す。


 デュランは『12鬼士』の一人であり、幽鬼魔王族と言う無音の攻撃を得意とする魔王族ではあるが、デュラン自身今までの歴代デュランとは違い、優秀と言うほどの物ではなかった。魔王族でいうなれば平凡の位置であり、アクアカレンのように英才教育の影響で己に対して自信がないのとは違い、デュランは目に見えての平凡。そのことに関してデュラン自身そのレッテルを抱えながらも努力をしてここまで上り詰めた。


 ヘルナイトが天才型ならば、彼は努力型の存在。


 だが、そんな努力でも限度と言うものがあり、不得意が合わさってしまうとその意志にも弱さが浮き彫りになってしまう。


 一体何が言いたいのか? 


 簡単な話だ。


 デュランは風属性の技が苦手なのだ。魔祖を扱う技も中でも、風属性が苦手であり、それを考えたせいでデュランはその攻撃をすることを躊躇っていたのだ。これが一つ目の躊躇う原因。


 考えすぎ? そんなことで?


 いいやそんなことはない。むしろこれはデュランにとってしても――汚点でもあったのだ。


 このアズールで最強と謳われた魔王族であれど、苦手な属性――つまりは弱点属性と言うものがあり、キクリは闇と土属性を扱うことが苦手であり弱点属性。クイーンメレブは光と雷が苦手であり弱点属性である。


 デュランは光と水属性が苦手であり弱点属性であるが、その中でもデュランは風属性も苦手であり、それと同時に彼は――失敗と言うものに対して、失態と言うものに対して異常な嫌悪感を抱く存在でもあった。


 失敗と言うものに対しても特にデュランは嫌っている。そのせいもあって彼はショーマに対して風の魔祖を放つことを躊躇っているのだ。これが二つ目の躊躇う原因。


 彼自身努力でここまで上り詰めた身ではあるが、その分過去に受けてきた失敗や苦労が、彼の心を蝕んでいるのも事実で、アクアカレンとは程遠いかもしれないが、彼自身は平凡。凡人並み (魔王族では)の力であったのでえ、彼は幽鬼魔王族から少なからずの罵声を浴びせられた。


 そのことがきっかけとなり、彼は弱さに対して異常な嫌悪感を抱いてしまう結果になってしまったのだ。


 簡単に言うと、弱いというそれが異常に嫌いだということ。


 彼は前まで抱いていた黒い感情。弱いということに対して悩んでいたことはこれが原因だったのだ。


 ヘルナイトのような天才に助けられたことに対して、己の努力がいとも簡単に打ちひしがれたかのような衝撃と、自分の力でできたはずなのに、できなかったという後悔がデュランの神力を大きく揺らした。


 そして今回も、弱さというレッテルと、誰にも言っていないが苦手な属性でもある風属性を、仲間でもあるショーマを助けるために出せるのか疑念と言うよりも、傷つけてしまうのではないかと言う不安を葛藤しながらデュランはその槍をショーマのことを穿つために引く。


「っ」


 槍投げの要領で構え、ショーマのことを傷つけないようにと言う配慮を考えて、デュランは一度己の神力を整えるために落ち着こうと――一度息を吸い、そして吐く。


 ゆっくりと深呼吸をする気持ちを固め、そして落ち着いたところで彼は意を決する。


 今まさにどんどんと大の字になって回りながら落ちているショーマに向けて狙いを定めながら、デュランは「よし――」と小さな声で零す。


 ――この状況でやらないなどと言うことはまさに愚の骨頂。


 ――己のことを信じる。それしか今はできんのだ。


 ――自分を信じろ。そして、己の強さを証明する!


 零した声と同時にデュランは意を決し、そして目の前で大の字になりながらぐるんぐるんと回っているショーマに向けて、己が持っている魔祖――槍を使うので『宿魔祖』を使おうとした。


 その時――


「おぉっっ!?」

「にゃにゃぁっっ!」

「――っっ!?」


 遠くから聞こえたコウガとむぃの声。


 その声を聞いたデュランは驚きのそれを浮かべた状態で、声がしたデュランから見て左斜め上の方に目を………と言っても、顔がないのでその目が本当に向いているのかはわからないが、それでもデュランはその方向に目を向けると、デュランは声を殺すような声で驚くと同時に、ない頭の目に映ったその光景――それはコウガとむぃが『偽りの仮面使』の髪の毛の手によって捕まりうそうになっている姿だった。


 掴まっていはいない。厳密に言うとその髪に捕まりそうになっているが、それをコウガが何とか忍刀を使って捌き、むぃがスキルを使って防いでいるとういう姿なのだが、その手の量はすさまじく、目に見えて圧倒的な数だった。


 コウガとむぃ二人を捕まえるのに対し、髪の毛の手の数は――見た限り万を越えているに違いない。それは前後左右に迫っている様子で、縦横無尽からコウガ達のことを妻得ようとその手を伸ばしているのだ。


「くそ……っ! んだよこの野郎がぁ!」

「にゃーっ! 怖いですぅ!」


 声は聞こえるところを見てまだ大丈夫な雰囲気を感じるが、いくらコウガが捌いたとしても、むぃが防いだとしても、その髪の毛の手を統べて刈り切るほどの素早さも何も備わっていない。ゆえに捕まるのも時間の問題。


「くっ!」


 その光景を見ていたデュランは驚きの雰囲気を浮かべながらコウガとむぃのことを見て、そして構えていたそれをすぐに解除すると同時にその方向に槍を向けようとしたが、その槍の先がコウガに向けた瞬間――彼方からショーマの声が聞こえ、その方向にも目をやるとショーマがどんどんと回りながら落ちている姿が視界に入る。


 はたから見ればショーマのその行動は滑稽に見える光景ではあるが、デュランからして見ると絶体絶命に変わらない。ゆえに彼はその方向にも槍を向けようとしたが、コウガ達も今の状況は危ない状況。


 双方から降りかかる危機と、それの板挟みになっているデュラン。


「くそ………………………! こんな時に……っ!」


 ツグミやクロゥディグルはその時ファルナの話を聞いていたのでその場所に加勢しに行けない。あと少しでその話も終わるのだが、それでも時間が足りない。


 それをちらりと見降ろしていたデュランは内心――クロゥディグルはまだダメか……! 一体何をやっているんだ! と思いながら見降ろしていたが、そうそうくる気配はないと感じ、そして呼んだとしても間に合わないところにいる光景を見て、早急に行動できるのは自分しかいないと判断したデュラン。


 ――こうなってしまった以上、あのバカの救出をすると同時にコウガ達の加勢に向かわねばならないっ! 一つ一つの行動など今は無駄な時間!


 ――同時に、攻撃と救出をこなす!


 ――そのためにも、我の『宿魔祖』――『竜衣槍(リュウイソウ)』を使うしかない! 元々はあのバカに向けて我の『魔祖術』――『撫風(ナデカゼ)』を使うはずだったが、こうなってしまってはこれしか方法はない!


 そう思うと同時に槍を構え、その槍の先につむじ風のようなものを纏った瞬間、デュランは最初に助けるべき方向――コウガ達に向けてその槍を薙ぐようにして投げ込もうとした。


 何も考えずに、そのまま風を纏った槍を投げようとした。


 瞬間――デュランの脳裏に浮かぶ己のことを嘲笑う先代の幽鬼魔王族。


「――っっっ!!」


 その顔こそ見えないが、彼らの嘲笑が、彼らの言葉がデュランの神力を大きく乱し、投げようとしたその槍の動きを止めてしまった。


 止めると同時にデュランに追い打ちをかけるようにして襲い掛かってくる罵倒の数々。その言葉は最強とも謳われる魔王族の恥だとか、幽鬼魔王族に生まれたくせに何たる体たらくだや、お前などいなければよかったなど。色々な罵倒が彼の心を大きく乱し、技を発動させるその力を削いでいく。


 力も、心も削いで――だ。


 アクアカレンは己が魔祖の扱いが歴代と比べて劣っておる。ゆえに恥さらしと言われていたが、それとは比ではない。今のアクアカレンには少なからず、味方と言うものがいたのだが、彼の場合『12鬼士』になるまで、仲間と言うものが全くいなかった。


 心の支えも、何もかもがいない中での罵倒。それはデュランの心に大きな傷を残してきた。


 ゆえに、今回もその傷が再発すると同時に、フラッシュバックのようにどんどんと甦っていく記憶。


「ぐぅ……っ! うぉぉおおおおお………っ!」


 しかし、今の彼は『12鬼士』の端くれ。そんな記憶ごときで狼狽えることなどできない。いいや――それを行うこと自体が弱いという結果。


 弱いという言葉が最も嫌いなデュランにとって、ただの甦りの記憶によって狼狽することは最も恥ずかしい事。デュランはその記憶をどんどんと思い出している中でも、武器に纏う風の力を強くしながら、再度ないで投げる態勢を構えようと試みるが……。


「こんな時に! なぜだ……!」


 デュランは舌打ち交じりに苦い声を零しながら苛立ちを加速させる。


 加速させると同時にその記憶が甦った瞬間、生じた体の変化に対し、デュランは更なる苛立ちを覚えた。


 なにせ――彼が槍を投げようしているのに、体がその脳の命令から逃げるように動こうとしないのだ。いいや――動く云々の問題ではなく、ぶるぶると槍を持っている手が震えてしまっていると言ったほうがいいのかもしれない。


 何故なのかは明白。


 先ほど思い出した記憶が彼の心を、神力を乱し、そしてデュランのその行動を阻害しているのだ。


 本人はできると思っていても、染み込んでしまった苦しみと言うものは取り除くことはできない。絶対にそれを完全除去することなどできないのが人間の記憶。それを絶対に忘れることなどできない。


 特に――嫌な記憶と言うものは、いつまでもその人物のことを苦しめるのだ。


「動け……! 動け……! 動けっ! なぜ今になって動けないんだっ! こんな時に止まるなっ! 動けこのっ!」


 デュランは焦りの声を零しながら己の手を槍を持っていない手で殴りつける。がんっ! がんっ! と言う鎧を叩く音と、鈍く腕に響く衝撃の音と感触を感じながら、デュランは己の腕を何度も、何度も叩く。へし折れてしまうのではないかと言うほど、彼は叩き続ける。


 脳裏に聞こえる罵倒の声を脳裏で再生したくないのに再生しながら、デュランは叩き続ける。


『何故我々の一族にはこんな役立たずしか生まれなかった?』


『きっと何かの間違いだ。こんなことあってはならない。ほかの魔王族の『12鬼士』候補の者たちはみなが優秀だ。特に退魔魔王族の候補は何千年に一度の逸材らしい』


『ああ、だが我々の候補は……。はぁ』


『本当に、ほかの魔王族と比べればお前はいらん存在だ』


『こんなことならば、ヘルナイトのような存在が欲しかった』


『我々の一族のこいつは……、役立たずだ』








                 『劣等だ』








 劣等。


 その声を思い出すと同時に、デュランの背筋にブワリとした悪寒。そして怒りと憎しみ。己の弱さと言う名の胸糞悪さを感じると同時に、デュランは声を殺してしまいそうな唸り声を上げ、そのまま……、デュランは殴った状態で一瞬固まる。


 そして、その言葉を自分の背に背負うように思い返しながら、デュランは思い出していく。


 どんどんと、無くなっていた記憶が甦り、デュランにとって思い出したくない『鬼士』時代のことを、そし彼が『12鬼士』に入る前のすべてを思い出し、苦労を、苦しさを思い出しながら、デュランは思った。


 ――確かに、我はほかの魔王族と比べれば、劣等だ。


 劣等。その言葉を思い出し、その言葉を心の中で口ずさんだデュランは、


 その固まりの瞬間――デュランは頭の無い脳内で記憶を高速再生していきながら思い出していく。


 今までの罵倒の音色と、己とは違い出来も、技術も、才能も違うほかの『12鬼士』のことを思い出しながら、デュランは思った。


 ――確かに、先代たちの言う通り、我はほかの幽鬼魔王族からしてみれば劣勢の塊。劣等生だ。


 ――だがその魔王族の名に恥じないように、我は今まで頑張ってきた。今まで誰の手を借りずに努力を積み重ねてきた。


 ――いずれ、『12鬼士』という存在になるために、幽鬼魔王族の願いでもある……、女神サリアフィア様の願いを叶え、そしてサリアフィア様のためにその命使い、全うするまで戦い抜くと誓い、ここまで努力を積み重ねてきた。


 ――だが、それでさえも我らの同胞は、先代は認めてくれなかった。我が先代よりも劣っているから、我が歴代以上の劣等であったが故に、認めてもらえなかった。


 ――努力をし、その場所まで上り詰めたときも、誰も我のことを認めてくれなかった。認めてくれたのは、我よりも優秀な生まれながらの天才……退魔魔王族のヘルナイトと、ほかの『12鬼士』だけだった。


 ――だが、我はそんな気休めが欲しくて努力をしたわけではない。我はそのためにここまで上り詰めたのではない。


 我が悲願のために、我はこれからも強くならねばいけないのだ……!


 己一人で、我は……。


 長い間デュランは思い出していく。


 自分が今まで抱いていた強さへの固執のきっかけ。


 それを思い出すと同時にデュランはその固執を更に固く凝固させていくと、デュランは叩いていたその手に更に力を入れ、その手をやるを持っている手の下に滑り込ませると、ぐっとその手で槍を握りしめる。


 握りしめると同時に――デュランはそのまま槍を両手で薙ぐような体制に構える。


 右手と左手の感覚を開けた状態で槍を握り、右に向けてその薙ぐ体制を整えると、デュランはその体制のまま息を吸い、その状態で、下がったままの神力の状態で、デュランはその薙ぐ体制で『宿魔祖』を出そうとした。


 ――我は昔の我ではない。打てる。我は強くなるために今まで耐えたのだ。


 ――こんなところで、強さの証明もできないままなど、あってはならないのだ!


 しかし……、デュランの思いも虚しく――いいや、神力の低下もあってか、デュランの槍の周りには先ほどまで出ていた風が一向に姿を現さない。


 纏うその姿も、風と言う名の動きも、一向に現れない状況を頭がない顔で見ていたデュランは、その風が出ない状況。そして脳裏にどんどんと湧き上がるその罵倒の声――『劣等』、『クズ』、『能無し』、『恥さらし』と言う言葉が脳内でどんどんと再生されていく声を聞きながら、心に巣食う焦りをどんどんと吹き上がらせ、焦りと共に怒りまでもが併発したかのような感情を剥き出しにする。


「なぜ……、なぜでないっ! 出ろっ! 出るのだろうっ! 我が扱っているのだ! 出ろっ! 魔祖の分際で! 出ろ! 出ろ! 出ろぉっっ!」


 ………………………。


 が、デュランの言葉も、叫びも、想いも虚しく、槍の周りには何の力も纏っていない。どころか力など込められていないような刃の色を輝かせているだけで、それを見たデュランは、今まで己の共に戦ってきた槍が鈍になってしまったのかという困惑に陥りかける。


 いいや――鈍になってしまったのは、自分なのかもしれない。


 そんな思考がデュランのことを襲い、コウガ達の危機にもとうとう窮地と言うそれが襲い掛かろうとした瞬間……、デュランの耳に声が入り込んできた。





「デュランの兄貴ぃーっっっ! 自分を信じてくださいよぉー!」





「!」 


 その声を聞いたと同時に、デュランは今まで心の中で渦巻いていた己の感情と負の感情、更には自分ではできないのかと言う悪魔のささやきを聞き入ってしまいそうにあったその感情の波が、たった一つの言葉を聞いた瞬間デュランに向かって追い風となって現れ、そのままデュランを残して吹き飛ばしてしまう。


 ぶわり! と吹き荒れるそれを感じたデュランは、前にも感じたことがあるような感覚を味わうと同時に、声がした目の前――つまりは今現在もぐるぐると回りながら落ちているショーマに向けて視線を向けたのだ。


 デュランが考えている時間はかなりの時間のように感じたが、現実の時間ではたったの数分しか経っていないので、ショーマもまだその近くでとどまっているような落ち方だった。


 そんな状態でショーマはデュランに向かって叫ぶ。


 大きく息を吸い、そしてデュランに向かってショーマは叫んだ。いつもの自分を出した声で、感情の赴くがままに、ショーマは叫んだ。


「デュランの兄貴は俺たちよりも強いんすよぉ? もしかしてちまちましたことを考えているんですかぁ!? そんなことを考えている暇があるなら早く俺のこと助けてくださいよぉ!」

「な……! 何がちまちましたことだっ! そんなことを考えてはいないわ! お前に我の何がわかるというんだっ!」


「分からねえっす! 正直俺超能力者じゃねえし、デュランの兄貴の気持ちも、人が何を考えてどんな行動をしようとしているとか、そんな難しい事考えられねえっす! でも――今はそんなことを考えないで、今は目の前のことを考えて行動してくださいよぉ! 先のことなんて何もわからねえし、予測して戦うなんてこと俺にはできねえっす! 戦いの中で俺は考えるなんてことは性に合わねぇし、きっとこれからも先俺は考えなしに行動します! 断言っす! でも、デュランの兄貴はそんな俺よりも経験も積んでいるし、もちろん実力だって俺たちパーティ最強っす! だから――今はデュランの兄貴の力が必要不可欠なんす! だから今は何も考えずに――目の前のことに対して対応をお願いしますぅ!」



 今は、できることをしてほしいですぅ!



 ショーマのなんの迷いも曇りもない言葉を聞いたデュランは一瞬何を勝手なことをと思いながら聞いていた。


 人の気も知らずに、いけしゃあしゃあと。


 そう思いながらデュランは未だに落ちているショーマのことを無視しようと一瞬悪魔のささやきを聞いてしまいそうになったが、それをしてしまうと鬼士として名が廃ると思い、その気持ちを一蹴した時、デュランは驚きのそれを雰囲気に出す。


 先ほどまで自分のことを取り巻いていた負の感情は無くなっているのだ。


 まるで――吹き飛ばされたかのように、記憶にはあるが嫌悪と言うものが無くなっている。それを感じたデュランは驚きながらもすぐに思い出す。


 そう――それは彼らと初めて出会った元バトラヴィア帝国で、デュランは王に面会をしてきたことがあったが、その時の帝国が人間至高主義の国家。ゆえにデュランのことも小ばかにするような対応だった。


 しかし、そんな王の言葉を聞き、そして王に向けてショーマは『ハゲ』と罵ったのだ。指を指して、馬鹿にしていないのだが正直な言葉で、ショーマは言ったのだ。


 その時にもデュランは感じていた。嫌な気持ちが無くなる様な、そんな気持ちを……。


 それが一体何なのかは今でもわからない。しかしこの時からデュランは感じていたのだ。


 そのことを言いたいがために帝国に殴りこみ、たったそれだけを言うために、バトラヴィア帝国を敵に回した――大馬鹿者で、なぜか言葉に芯と信じようとする気持ちが込み上げてくるような、まっすぐな少年の目に何が写っているのか、それを知りたいがために彼はついて行った。


 だから――今回も感じたそれを信じ、ショーマの言葉を信じて、デュランは再度槍を薙ぐ体制から切り替え、くるりと己の得物を右手の中で回すと、デュランは槍を右から左に薙ぐような体制の構えに切り替え、再度深呼吸をする。


 すると……、先ほどまで出ていなかった風が今度は槍の刀身に纏わりつくように現れたのだ。デュランの意志に応えるように、『ふぉおおお』と言う風の音を出しながら――


「ふ」


 風の音を聞いたデュランは、先程の焦りがまるで馬鹿な一行動に思えてきて、そのばでデュランは鼻で笑うようなそれを零すと、それと同時にデュランは大きな声でショーマの名を呼んだ。


 呼ばれた本人はそれを聞いた瞬間空中で未だに大文字の回転を見せながら「はいっ!」と、焦りが含まれた声で叫ぶと、デュランはそんなショーマに向かって、大きな声でこう聞いたのだ。


 すっと――槍を持っていない左手でショーマのことを指さしながら、彼は聞いたのだ。


「さっき――助けてくれと頼んできたな? 助けてやろうと思うがお前は後になる。緊急事態が発生したのでな、そっちにも手を回さないといけないのだ。きっとお前の救出も遅くなるが、それでも――」

「いいっす! あと言い忘れていたので付け加えて――助けた後で俺の攻撃の加勢に加わってくださいっす! この魔物に一発ぶち込むんで!」

「都合のいい事を……、わかった! その言葉、実行しろよ! ()()()()()()()()!」

「ぅおっす! ドンと信じてくださいよぉ!」

 

 デュランは聞く。先にコウガ達のことを助けるがそれでもいいのかと。その言葉を言い終わる前にショーマは速攻で頷くと同時に付け加えの言葉をデュランに投げ掛ける。


 何の迷いもない、真っ直ぐな目で。


 死ぬかもしれないというのに、完全にデュランのことを信じているような顔で、ショーマは告げると、それを聞いたデュランは呆れ半分、そして、真っ直ぐすぎるそれを見てデュランはますます思ったのだ。


 やはり――こいつの目に何が映っているのか。どんな風に映っているのか見てみたい。そして、信じて進んでみたいと……。

 

 それはデュランが今まで感じられなかった感情でもあり、誰もが抱く感情でもあるのだが、デュランは知らなかった。


『12鬼士』のみんな以上に抱いていなかった――信頼と言うものを感じた瞬間、デュランはショーマの言葉を呑み、それと同時にデュランは手に持った槍をすぅーっと横に真っ直ぐに地面と平行にして合わせるとデュランは平行になった状態を一瞬だけ保つと、人で言うところに左足を肩幅以上まで開き、その開きと同時に上半身を左に向けると、デュランはその反動を利用して――手に持っている槍を放つ!



「『竜衣槍(リュウイソウ)』ッ!」

 


 その言葉と同時に己の得物を放ったデュラン。


 放つと同時に槍は一直線にコウガ達がいるところまで飛んで行くが、飛んでいる最中、刀身に纏っていた風がどんどんと周りの空気を吸い込み、そしてどんどんと肥大していくと、そのままデュランの槍は大きな風の竜へと変化を遂げていく。


 クロゥディグル達よりは小ぶりで、ちょうどサンドコアトル並みの大きさの竜ではあったが、それでもデュランにとってすればよかったのだ。


 それほどの小ささで行けば、敵の攻撃をかわすことができるから。


 そう思った時、デュランの風の竜――もとい『竜衣槍』はそのまま大きな口を開けて、コウガ達のことを拘束しようとしている『偽りの仮面使』の髪の毛の手達に向けて牙を向けた。


 そのまま竜巻のように巻いている風の体を使って、コウガ達のことを阻害している髪の毛の手を巻き込み、そしてそのまま引きちぎり、切り刻んだりしながらコウガ達の周りをぐるんぐるんっと駆け巡る。


 その光景を見たコウガ達は驚きの顔を浮かべながら風の竜を見ていたが、大事な髪の毛の損失を感じた『偽りの仮面使』は、抜けてしまった怒りとただの風の竜如きに喪失してしまったという驚愕が混じった顔で、『偽りの仮面使』は顔を剛腕な手で覆うと――




『ぎぃいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!』




 と、奇声めいた叫びを上げた。


 びりびりとくる何度目になるのかわからない規制の声を聞いたコウガ達ももう慣れてしまったのか、鬱陶しそうな顔をするだけで耳を塞ぐということをしなかった。それはツグミ達も、ショーマも、デュランも同じで、その光景を落ちながら見ていたショーマはじっと――叫び続けている『偽りの仮面使』のことを見る。


 きぃーんとくるような奇声めいた叫びを上げている『偽りの仮面使』の――今まで見れなかった箇所を見ながら彼は見つけ出そうと奮起する。


 ――どこだっ? 変わっているところあるかっ? きっとどこかにあるはずだ!


 ――あの異常な回復能力の種が、どこかにあるはずだ!


 そう思いながらショーマは『偽りの仮面使』の前進をくまなく目で探すように、急かしなく目玉を動かしてその種がある箇所を見つけようとした。


 その種を見つけさえすれば、きっとこの状況も大きく自分たちの優勢に傾くはず。そう思ったショーマはすぐにでもその種を潰すべく行動に移そうとどこか変なところはないかと思いながら探していた時……。


 ちかり――と、ショーマの視界に赤い光のようなものは入り込み、それを感じた瞬間、ショーマは「おわっ」と驚きながら目を手で塞ぐと、光が見えた場所――今まさに『偽りの仮面使』の手で覆われている仮面の箇所を見た瞬間、ショーマは目を見開き、そして感じた。


 直感ながら、絶対にあそこだという確信を得ると同時に、ショーマは思ったのだ。


 あそこが――あの魔物の急所、いいや! きっと()()()()()だ!


 そう思った瞬間、視界の端に写り込む小さな横長の風の塊。


 塊を目にした瞬間ショーマはもう見えなくなってしまったが、それでもその場所にいるであろうデュランの名を大きな声で呼び、そしてそのままデュランに向けて叫んだ。


「俺をぉ! このままあの魔物の仮面の正面へぇ!」

「――わかった!」


 ショーマの声を聞いたデュランはその声を聞き、ショーマの言うことを信じるように右手の人差し指と中指を突き立て、ショーマがいる方向に向けて二本の指を向けると、その指の方向に従うように風の竜がどんどんと落ちていくショーマに向かって降下していき、降下した状態でショーマのことを掬い取るように『くぅんっ』と槍の装飾にショーマの上半身の服を引っかけると、そのまま風の竜はショーマのことを引っかけた状態でどんどんと上昇していく。


「えぇぇぇ~っ!? なんか想像していた運び方と違うぅぅぅ~っっ!?」 


 ショーマは想像と違う運び方をされてショックを受けたかのような音色で言うが、それもすぐにかき消されてしまいショーマはそのままどんどんと近付く光景に目を移し、そのまま旋回をしていきながらショーマは注意深く『偽りの仮面使』の仮面に目をやる。


 すると――すぐに光の出元が見つかった。呆気ないなと思いつつも、ショーマは見つけたその箇所を見降ろし、そして手に持っている刀を持った状態で、デュランの槍の装飾から落ちようと試みる。


「ふん! ふぅん!」


 鼻で息をふかすような声と共に、ショーマは足を前後に大きく揺らし、その揺れと同時にショーマは反動を利用して落ちようとすると――


 びっ!


「あ」


 突如背中から聞こえた服が裂ける音。


 それと同時に――ショーマは引っかかっている状態から、重力に従って落ちてしまいそうになっている人の状態になり、そのままショーマは、『偽りの仮面使』の仮面に向かってどんどんと落ちていく。


「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ~っっっ!? っ! ずあああっっ!」


 どんどん落ちていくと同時に頬の肉やいろんな肉がどんどんと風圧によって膨らんでいくような感覚を覚え、それと同時にショーマは仮面に向かって大の字になりながら降下していく。成す術もない状態とはこの事なのだがそれで終わらせるわけにはいかない。そう思ったショーマは、己の力を振り絞るように大の字から刀を持ったまま落ちていく体制に切り替える。


 両手でしっかりと刀を持った状態で、そのまま地面に着地をすると同時にその刀を突き刺すような体制になると、ショーマはどんどんと落下していくその状態に耐え、そしてどんどんと赤く光るその箇所に向けて刀を向ける。



「ううううぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーっっっ!!」



 あらんかぎりの叫びを使って恐怖心を吹き飛ばしながら、ショーマは『偽りの仮面使』の仮面に向かって落ちていき、そして――



 がしゅぅっ! 



 という仮面が割れる音と同時に、ショーマは己の刀で『偽りの仮面使』の額に向けてそれを勢い良く突き刺した――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ