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PLAY93 ショーマとツグミ、そして仲間達⑤

 ここまで来ると誰もが混乱をしてしまうであろう。


 なにせ――その魔物自体も複雑なチート能力を持っており、それと同時にハンナ達が聞いたこともあって複雑に見えてきたかもしれない。


 きっと、どんどんと頭が混乱していると思う。


 ゆえにこれからざっとしたわかりやすい説明を語ろう。


 この試練に隠された――真実を。


 ショーマ達は現在、ファルナの試練の元――証明を得る対価として鳥人族の郷を襲う魔物……『偽りの仮面使』の討伐を言い渡され、その言葉を聞いたショーマ、ツグミ、コウガ、むぃ、デュランはたった五人だけでその試練に挑むことになった。


 しかしその試練対象は魔物であって魔物ではない――摂食交配生物の『偽りの仮面使』であり、人を喰い、知性や色んな事を我が物にする力を持っている魔物でもあった。


 同じ摂食交配生物でもあるポイズンスコーピオン相手でも、ハンナ達を大いに苦しめていたのだから今回の摂食交配生物もかなりの魔物だろうと思うのが定石かもしれないが、そんなことを考えてしまっては試練を達成することができない。


 ゆえに彼らは逃げなかった。


 逃げれなかったではなく――ここで試練合格ができなければみんなの迷惑になると思ったから、彼らは戦った。


 きっと勝てる。


 そう信じて――


 そんなショーマ達の心をへし折りに来るように、『偽りの仮面使』は大きな体を使った攻撃と、ゲームでよくある第二形態の姿になってショーマ達のことを追いつめていく。


 いくつもの手といくつもの髪の毛で作った手を使って――『偽りの仮面使』はショーマ達の戦意を、希望を荒く、粗く削っていく。


 ファルナと言う人質を使って狡猾に、がりがりと削る『偽りの仮面使』。その仕打ちに対してショーマ達は思っただろう。


 もしかしたら勝てないんじゃないのか。


 もしかしたら本当に死んでしまう? ここが自分の墓場なのかもしれない。


 そう思うことは普通のことでもあり、誰もが思う感情かもしれない。


 しかし――それでもショーマ達は諦めなかった。


 どころか削がれている状況を覆すようにショーマはファルナを救出し、その最中にコウガとデュランは攻撃を繰り出していく。


 デュラン以外詠唱と言うものを持っていない彼らではあるが、それでも着々と、各々が持つ力を活用して摂食交配生物『偽りの仮面使』にダメージを与えていた。


 ツグミも後方で支援をしながら、移動手段の役割として来たボロボ空中都市憲兵竜騎団第二部隊隊長――クロゥディグル・ウルダ・ギルデログルも共に戦い、ようやく、本当にようやくと言って良いような展開……、ことがショーマ達に傾く。優勢になると思った。


 その瞬間――状況は『偽りの仮面使』の優勢に傾いてしまったのだ。


 いいや、元々この時を狙っていたのかもしれない。


 人を喰い、狡猾な人格に染まって行ってしまったのだから、人の苦痛、絶望を見ることが最も鉱物となってしまった魔物にとってショーマ達の絶望の様は絶品の……、いいや、この場合は甘美なものだっただろう。


 この苦痛の顔を見たいがために『偽りの仮面使』は今まで奥の手と言うものを出さなかったのだ。本来であれがもっと早めに出すはずの物を、あえて出さずに――その絶望の様を拝むために、『偽りの仮面使』は出さなかったのだ。


 いくつもの手を二つの剛腕の手に作り替える術を持っていることを、見せつけるために。


 その見せつけと共に『偽りの仮面使』は己が持っている瞬間的でもあり驚異的な回復能力を駆使して、ショーマたちを更に絶望へと追い込んでいく。


 これが見たかった。そんな笑顔を向けながら、『偽りの仮面使』は笑う。


 そして――これこそが族長が言っていた言葉がこれなのだ。


『偽りの仮面使』様は死なない。


 あのお方に死と言うものなどない。


 あのお方は不死身なのだ。


 魔物ではない力を有している。


 だから魔物ではない。


 あのお方は――神なのだ。


 と……。


 そう。()()()()()()()()()()。『偽りの仮面使』のすべてを。そしてその存在がいかに恐ろしい存在なのかも、全て知っていたのだ。知っていたにも関わらず――その存在を知らないと偽り、あろうことかその魔物に対して彼は自己満足と言わんばかりの契約を結んでいた。


 これはその時いた族長しか知りえない過去でもあるが、それでも伝えないといけないことでもある。


 鳥人族の郷を築いてきた族長が、いかに狂っているかを伝えるために。


 自分のことを馬鹿にしてきた者達を、自分だけの楽園を壊そうとする輩を生贄に捧げるから、この場所を守ってほしい。


 そのような自己満足でしか成り立たないような契約を勝手に結んだ族長だったが、この時の『偽りの仮面使』はきっと、言葉を理解していたのだろう……。族長の要求を呑み、そして契約を結んだ。


 契約と言っても、言葉だけの契約なので結局のところは交換条件に等しいような状況でもあったが、それでもお互いの利害に一致によって今までこの状況を保つことができたのも事実だ。


 族長はこの郷を自分だけの楽園にしたいという一心で、この郷の秘密を守ってくれる存在に捧げものをし、その捧げもの――いいや、この場合は食料と己の強さを高めるために『偽りの仮面使』は族長の言うことを聞く。


 お互いの利害の一致のために、彼らは結託をし、そして郷を、ファルナを傷つけていったのだ。もちろん、犠牲になったのは鳥人族だけではない。この郷に来た竜族も、冒険者も数知れずだ。


 そのことを聞いていたハンナ達は、族長の狂い具合に言葉を失い、次の贄がショーマ達、そしてファルナであることを知った。と同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()ツグミは、驚きのそれを浮かべながらファルナのことを見て聞いていた。


 ファルナの口から明かされる――()()()()()()()を聞きながら……ツグミは衝撃的と言わんばかりのそれを聞き、それと同時に芽生える怒りを増幅させながら、ツグミは事の真実を余すことなく、泣きながら語っているファルナのことを見て、耳を傾けていた。



 ◆     ◆



 その真実を聞かされる少し前の……現在に戻り、状況的にはもう負けて当然のような絶望的状況ではある。


 しかしそんな状況の中ショーマたちは『偽りの仮面使』の体に足をつけ、その足を使って駆け上がったりしながら攻撃を繰り出している。


 まだ諦めない。ここで死にたくない。その想いを胸にしながら戦って――だ。


 そして先ほど『偽りの仮面使』の剛腕の手によって殴られ、右肩が折れてしまったクロゥディグルは……、右側の顔に損傷を受けると同時に一瞬、本当に一瞬だけ意識を飛ばしてしまい、そのまま地面に向かって傾いていた。


 空を飛んだまま、ぐらぁりと……、ゆっくり、ゆっくりとした動作でどんどんと体を傾け、そして地面に向かって少しずつ降下していくと思っていたツグミであったが、それも杞憂で終わり、傾いた瞬間にすぐに意識を覚醒したクロゥディグルははっと声を漏らすと同時に、ツグミたちがいるその場所に竜の手で落ちないように添えると、そのままクロゥディグルは体制を元に戻して浮遊を再開する。


 ツグミ達のことを守っている手とは正反対の手で頭を掻かけながら、クロゥディグルはは頭を振るう。ぶるぶると、飛んでしまった意識をちゃんと覚醒させるように頭を振るうと、クロゥディグルは流れている頭を手で押さえながらツグミとファルナに向かって――


「すみません……! 意識を飛ばしてしまいました……っ! 無事ですかっ?」


 と聞くと、それをクロゥディグルの手の中で聞いていたツグミは泣きそうな顔でクロゥディグルのことを見ながら「驚いたってぇ! 本当に彼岸花の川が見えたんだけどぉ!」と言いながら泣きそうな……、いいや、もう泣いている音色で言うと、それを聞いていたクロゥディグルは申し訳なさそうな顔をして首を少しだけ縦に動かすと――


「申し訳ございません……。油断をしてしまいました。団長でありながら重ねて申し訳ない失態です」


 と、己の驕りの甘さを痛感したかのように言うクロゥディグル。本当に申し訳なさそうに魔だけでツグミ達のことを見るクロゥディグルのことを見て、ツグミは泣きながらも内心――この人は本当に大真面目だな……。と思いながらおわぁーと大きな声で泣いて「やばいやばい! 本当にやばかった! やばいすぎて本当に生きた心地がしなかった」などと、ここぞとばかりに弱音と言う名の罵倒を繰り返す。


 泣いているツグミの周りで焦りながらパタパタと翼を動かしているヒーリングバードの二匹もツグミの感情に合わせるように「「ぴぃーぴぃー!」」と鳴き、その鳴き声を訴えとしてクロゥディグルに送っている (ように見える)。


 それを聞いたクロゥディグルは本当に申し訳なさそうな顔をしてツグミに謝罪をする。


 正直、クロゥディグル自身大けがをしているのだが、それでもツグミは怖い想いをしたのだ。その想いをぶちまけたいほど、彼は心がすり減っている。神力も大幅に減っているのだ。吐き出したいときに儚いと逆に危ないことはクロゥディグル自身知っている。そしてその大剣を何度もしているので、クロゥディグルはツグミの言葉を甘んじて受ける。


 彼自身も怖いのだ。仕方がない。そう思いながら……。


 すると――


「う、うう……。うううぅぅぅ~!」

「! あ、ファルナさん!」

「ファルナ! 大丈夫かっ!?」


 突如として聞こえたファルナの泣く声を聞いて、ツグミは自分で泣くことをやめ、それと同時にクロゥディグルもその声を聞いた瞬間片目だけで――幸いなのか、隻眼の目ではないところは狙われなかったので、その目でファルナのことを見降ろしつつ、首を曲げながらファルナとツグミのことを見る。


 二人はファルナのことを心配して聞くが、ファルナはその声を無視するように、未だに泣きながら顔を折れていない手で覆い隠す。ぐずぐずと泣くその光景を見ていたツグミは、内心ファルナの気持ちは分かると思いながらツグミはファルナに対して同意のそれを行動で示していた。


 心の声で――それは泣くわ。だって死ぬかもしれない思いを二度も体験したんだよ? 魔女であろうと怖いって。あ、でもあのマースクルーヴさん(スパルタジジィ)は多分高鳴るとか言いながら戦うかもしれないけど……。と思いながら、ツグミはうんうんっと頷きつつ、ファルナの気持ちをよく理解している()()()で言葉を発しようとした。


 だが……、ツグミがファルナに対して慰めの言葉をかけようとした瞬間、ファルナは震える声で、水を含んだ音色で――


「ごめんなさい……」


 と、謝った。


 その言葉を聞いたツグミとクロゥディグルは、驚きつつもファルナのことを見て、彼女が言っていることに対して察しながら彼らは無言を貫く。前にも聞いたその言葉を再度聞いた二人はファルナがどれだけ傷ついているのかを心中察し、そして彼女の気持ちに同情した。


 なにせ――村のために魔物を退治してほしいと頼んだ結果がこれなのだ。申し訳なさと言うものがどんどんとこみ上げてくるのも分かる。ツグミに至っては頷きながら心の中で――優しさが招いた不幸ってやつかな……? こんな結果誰も望んでいないだろうし……。と思いながら、ツグミは未だに泣いているファルナの肩を叩きながら優しく言葉を零した。


 ショーマには絶対に与えていない――優しい音色のその言葉を彼はファルナに向けてかけたのだ。


「そんなに反省しなくてもいいよ。僕達は貴方達のお願いを聞いて仕事をこなす冒険者。今だって僕達は自分達のために戦っているだけだし、ただ少しだけ傷ついた位で泣かないでよ。ショーマだってあんな傷あっという間になくなるから安心を」

「ファルナ――私達は私達の意志でここにいる。そして戦っている。確かに試練と言う面目でここにいるが、見なファルナのせいでこうなっているだなんて絶対に思ってない。ファルナのせいでこうなったとは思っていない。だから安心してくれ。今はこんな状態だが必ず」

「違う……」


 しかし――


 ツグミとクロゥディグルの励ましの言葉を聞いていないのか、いいや聞いていたはずなのになおかつ否定の言葉で上乗せをしようとするファルナ。遮るように言葉を零すと、それを聞いたツグミとクロゥディグルは驚きながらルナのことを見ると、ファルナはポツリ、ポツリとした音色でか細く言った。


「違うの……。こんなことに巻き込んでしまったことに対して……謝罪をしてもし足りないの……。こんなことになるくらいなら……、私一人で……、ずずっ、何とかしたほうが……っ!」

「だからそんなこと言わないでよっ! 僕達大丈夫だから――逆にそんなことをされたら僕達のメンタルと言うか心が壊れちゃうからやめてよっ!」


 ファルナの鼻を啜る声を聞いたツグミは、焦りながらファルナに弁解をするが、その光景を見て、そして聞いていたクロゥディグルは、ファルナの自責の念めいた言葉と雰囲気を見て、それと同時にクロゥディグルは思い出す。


 あの時――ファルナが言った言葉を………。


『違うの……。ち、違う……っ。最初こそ、そう思っていた……。倒せるって……。これで、()()()()()()……、そう思っていた。けど、無理だった……。あいつは、やっぱり……、狡猾だった……っ! うぅ……! みんなの、目を――欺くために、演技、していた……! あんなの、勝てるわけないよ……っ! やっぱり、族長の言う通りだった……!』


 そのことを思い出すと同時に、クロゥディグルはファルナの言葉に対してある違和感を覚えたのだ。


 はたから聞けば変な話かもしれないが、今にして思うと違和感まみれの言葉だらけだった。その違和感だらけの言葉を思い出すと同時に、クロゥディグルは少しずつ、本当に少しずつだが、ファルナが言おうとしていることが、ファルナがなぜこのような試練を課せたのか、ようやく見えてきたのだ。


 何故ファルナがこんなに泣いているのか。そし手何故謝るのか。試練を課した一人なのに、この試練を課した張本人なのに、なぜ謝る必要があるのか。


 ただできなければできないで終わらせることも可能のはずなのに、それでもファルナは謝った。


 矛盾と記憶の中でファルナが言った言葉を思い出しながらクロゥディグルは思考を巡らすと……、すぐに答えが見えたのだ。


 ファルナは言った。倒せると思っていた。そして――倒せば目を覚ませると、そう確信していた。しかし無理だった。勝てるわけない。



 ()()()()――()()()()()()()()()()



「ファルナ」

「「!」」


 そのことを思い出すと同時に、クロゥディグルはファルナに向けて言葉を発した。低い音色だが、怒っているようには聞こえない音色。然し迫力はあるので、それを聞いたツグミとファルナは驚きながらクロゥディグルの横目を見ると、クロゥディグルはその状態で二人のことを――特にファルナのことを見て彼は聞いた。


 はっきりとした音色で、ファルナのことを見降ろしながらクロゥディグルは聞く。内心――そんなことあってほしくないという想いも秘めながら……、彼は聞いた。


「ファルナ。正直に答えてくれ」

「…………………………………………………」

「嘘も何もつかないでほしい。私はファルナ――お前の本音を聞きたいんだ。お前の、心の声を、本当の思いを聞きたい。それだけは理解してほしい」

「…………………………………………………」

「だからファルナ――聞くぞ」


 クロゥディグルは聞く。このような状況下で会っても、彼はファルナに、聞きたいことがあるからこそ聞く意思を持って、クロゥディグルはファルナのことを見て、そして口を開いて――真剣な音色で聞いたのだ。




「お前――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだろう?」




 クロゥディグルの言葉を聞いたツグミは、驚きと困惑、そして喪失と唖然、最後に残った理解不能の気持ちをむき出しにした顔でクロゥディグルのことを見て、そしてファルナのことを横目で、ぎぎぎぎぎ………………………。と覚束ない動きのロボットの首の動きをしながら見ると、ファルナはツグミの腕の中で俯き、そして声を殺して泣いている。


 その光景を見て、そしてクロゥディグルの言葉を聞いたツグミは、驚き、困惑、逃避の思考、そして……、ふつふつと沸騰の如く込み上げてくる、怒りの熱。


 いくつも重なる感情が闇鍋のように混ざり、その中でも主張しようと這い上がってくる怒りを込み上げさせながら……ツグミはファルナに聞いた。


 怒っているのだが、ひどく冷静な音色で……、彼は言った。


「それ……、本当?」


 ツグミは言う、とてつもなく冷静で静かだが、どことなく冷たく感じるような音色でファルナに向けて聞くと、そのことを聞いたファルナは、泣いて溜めていたその涙を腕ですべて拭い、一時的にその涙の製造を止めると、彼女はすすり泣く声でツグミたちに話した。


 すべての真相を、この試練の真相を話した。


 ………………………と言っても、ほとんどハンナたちが族長から聞いた話と似ている。


 族長は昔郷の者たちにひどい仕打ちを受けた。それはファルナと同等のことであり、その行為をしたもの対に対して族長は恨みを抱いていた。その恨みを、自分からしてみればもっともいらない存在達を消すために偶然出くわしてしまった『偽りの仮面使』に交換条件と言う名の契約を交わした。


 その契約の元――族長は郷の繁栄、平和を祈願するために嘘の儀式を作り、その儀式を使って『偽りの仮面使』に契約の条件となるものを捧げた。


 その捧げものを得た『偽りの仮面使』は族長の願いの元鳥人族の郷を他国から遠ざけていた。


 勿論――武力行使でだ。


 このような異常を極めたことは族長と族長に崇拝する老人たちしか知らない。それを知らない者達は儀式のことを信じている様子で、それを信じない。族長に歯向かったものは確かにいたが、今はいない。


 何故なら――族長と言う存在に対して歯向かった罪で生贄として捧げられたのだから。


 その中にはファルナの祖父もおり、そのことを祖父から聞いていたファルナは長く、永遠にも聞こえる様なその連鎖を止めようと、この郷の呪いめいた状況を止めようと誓った。


 奇しくも、ファルナは魔女としての力を得たが、己の姿のせいで迫害を受けてしまうことになる。ただ人間と鳥人族が愛し合っただけなのに……だ。そのことに対して両親は何も悔いもなかった。どころかファルナのような子が生まれてきてくれて幸せだったとも言っているほど、二人に後悔と言うそれはなかった。


 それに関しては祖父母ともども祝福していた。


 しかし……、人間と混じったというだけでも気に食わなかった族長はファルナのことを、ファルナの家族を村一丸となって迫害をした。まるで――村八分のように。


 だが、それでもファルナは諦めなかった。


 祖父が死ぬ前に自分に託してくれたこと。祖母が死ぬ前の託してくれたこと。そして――両親が教えてくれたことを胸に、彼女は一人でこの村の元凶ともいえる『偽りの仮面使』のことを消そうとした。


 ハンナでも感じられないほどの感情の隠ぺいをしつつ、その顔に常に威嚇と言う名の笑みを張りつけながら、彼女は耐えてきた。ずっとずっと耐えてきた。


 如何なる手を使ってでも倒そうとした。しかしできないのも現状。彼女の魔祖だけではできないのも事実であり、いつぞやかボロボの王国に通達をして倒してもらおうとも考えていたのだが、昔起きたことを聞いていたファルナはそれをしなかった。


 それをしてしまうと、二の舞になってしまう。実力を信じていないからと言うことではないが、それでもファルナにとって今回のことは古傷を抉ることだと思い、彼女は断念をし、そのまま自分一人で倒すことを考えていた矢先――鳥人族の郷に入ってきた伝達。


 このボロボ空中都市での遠距離の通達は主に伝書鳩のようなもので行われる。それを受け取ったファルナは一応魔女としての権利を得ているのでそれを伝達された内容――それは王が与えた試練の管理官になってほしいというもので、ファルナに来た命令は……『実質『残り香』の時あまりにも弱い姿を見せていたショーマ達を()()()()鍛えてほしい』という命令であった。


 ………………………はたから聞くと、王から見てもショーマたちは弱いのかと言う驚きもあるかもしれないが、それは置いておくとして……、ファルナはそれを見て――思った。


 彼らに『偽りの仮面使』の討伐を頼めばいいのではないか?


 表場は試練なのだが、それでもこの試練を使って討伐をすれば、国に迷惑をかけない。そして自分だけではできないことができる。且つ――試練の達成にもつながり一石二鳥。


 そう思い、ファルナは届いてすぐにその計画を自室で練りながら考えていた時、彼女は……、聞いてしまったのだ。


 族長と老人達は次の生贄をファルナと――もうすぐ来るであろうショーマ達を生贄に捧げると。


 それを聞いてしまった瞬間、ファルナは愕然とした。と言うよりも、そこまでなのかと言うほどの驚愕を浮かべてしまったのほうがいいのかもしれない。それを聞いたのは本当に偶然で、族長の家に用事で向かった時に聞いてしまったことなのだが、それを聞いてしまったファルナは……、考えた。


 気付かれてしまった。そしてそれと同時に冒険者の、関係のない人達を巻き込んでしまう。そう思ったファルナだったが、その時――族長の言葉を聞いて絶句してしまう。


「まぁ――こんなことは何回もあった。この郷に来た冒険者は何人もいたが、飲み物に混ぜていた者に気付かず飲み、そのまま生贄として捧げられた。ああ、いいや――儂らが捧げたと言ったほうがいいのかのぉ……。今回も同じようなことをするまで。今回は、あの奇形の根源も一緒に……、な」


 それを聞いたファルナは、族長の闇と言うよりも、族長の本性を見てしまったと言った方がいいのかもしれない。そのくらいファルナは――族長に対して怒りを覚えたことをはっきりと覚えている。


 族長は己の思うが儘にこの郷を動かしている。


 嫌なものがいれば徹底的にいじめ、そして用が済んだら生贄としてささげる。


 まるで傍若無人めいた奇行。


 そんな男に、両親や祖母たちは殺されてしまった。そして、自分も殺される。本当であれば自分に力があれば他人に頼みたくなかったが、それもできない。結局他人に頼まないといけない現状に歯がゆいと思ってしまったが、ファルナは決意をした。意思を固めた――のほうがいいのかもしれない。


 不本意ながら――そうされる前に、何としてでも試練を使った作戦を使わないといけない。そう思ったファルナは、試練の当日――彼らに出会った。


 その時ファルナがショーマ達に抱いた感想は――


 弱そう。


 だった。


 その中には『12鬼士』のデュランもいたので一瞬安心をしてしまったが、ショーマ体を見た瞬間ファルナは理解してしまった。これは弱いと認識されてもおかしくないな。そう思ってしまったファルナは一瞬無理かもしれないと思い、族長の手下に捕まってしまい、帰らされてしまうと思ったファルナは思ってしまった。


 もう――無理だと。頼まずに自分を犠牲にしてでも止めようと。そう思った時、ショーマはファルナに向かって言ったのだ。



「じゃぁ――その嘘を証明しましょうよ」


「姿なんて関係ねえよ。今はその姿で判断する奴の言葉に従うよりも、今は自分のことを認めてくれるやつのことを信じて、そしてそのために行動することが大事だと俺は思う。人を見かけで判断するのはだめだってよく親父からも言われている。それに――あんたはこの村を守るために戦っているんだ。そんな奴の苦労を知らない奴の言うことなんて従うな。それよりも――お前のことを唯一信頼している奴の言うことを信じて行動する方が、俺はいいと思う」



 その言葉を聞いた瞬間、ファルナは一瞬だけ、ショーマのことを見て、彼女は思ってしまったのだ。


 身体的には弱そうに見えた。けど……、今の彼の目は悪魔族のような真っ直ぐすぎる目で、その目を背きたくないような自分がいる。そして、ファルナは思った。


 彼らのことを――信じよう。


 そう思った結果がこれで、それをファルナはポツリ、ポツリとだが話した。


 最初にショーマに、そしてツグミとクロゥディグルに。


 それを聞いたクロゥディグルは困惑よりも、彼女の苦しみを気付けなかったことへの後悔の方が大きく、クロゥディグルはファルナのことを見ながら小さな声で「なぜ……」と零すが、それを聞いていたツグミはどんどんと込み上げてくる怒りがその顔に出てきてしまい、それと同時にツグミは低い音色でファルナに向かって――


「つまり……、僕達を使ってあんたの野望の手伝いをしてもらおうって魂胆だったってこと?」

「! ツグミ様っ!」


 と聞くと、ツグミの言葉を聞いたクロゥディグルは感情的な言葉でツグミの言葉を遮ると、クロゥディグルはツグミのことを見つつ、「……もし、気に障るようでしたら聞かなくてもいいです。しかし言わせてもらいます」と、一度注意書きのような忠告を告げると、そのあとすぐにクロゥディグルは言った。


「ファルナは野望など抱いておりません。ただ己の郷を守るために手を尽くした結果、こうするしかできなかっただけなんです。聞いたでしょう? 一度は王国に伝えようと思っていたと、しかししなかった。自分一人でなんとかしたかったができなかった。郷を守ることができない。本当は嫌だがこうするしかなかったのです。苦渋の決断だったんですよ」

「だけど勝手すぎない? 僕達を使ってあの郷を救う? そんな我儘通じると思っているの? そんなことしなくてもよくない?」

「ツグミ様っ!」

「だったら――」

 

 しかし、ツグミはクロゥディグルの言葉を否定するように、ファルナのことを見ながら彼は冷たく、どんどんと荒げるような音色で告げていく。いつの間のか彼女のことを横抱きにすることをやめ、隣に座らせているツグミの目はどんどんと吊り上がっていくようなそれに変わっていく。


 相当怒っているという証拠であり、それを見ていたクロゥディグルは荒げる音色でツグミのことを止めようとした瞬間、ツグミは告げた。


 自分が思っていることを――余すことなくファルナにぶつけるように……。





「そんなまどろっこしいことをしないで、とっととその場所から逃げればよかったんだよ」





 と、はっきりとした音色で言った。


 その言葉を聞いた瞬間、ファルナは驚いた顔で目元を腫れさせ、ツグミのことを見ながら涙がたまった目で見つめる。そしてクロゥディグルも驚きながらツグミのことを見て、竜の目をぱちぱちと開閉させながら見つめると、ツグミはそんな二人の視線を受けながらも、己の主張を告げるようにこう言ったのだ。


「あんた――郷の人達から迫害されたんでしょ? 自分勝手で子供みたいな思考を持った族長の言いなりになっている郷の人達全員に」

「うん……。姿が違うからって」

「確かに見た目が大半だって言われているけどさ、それでも族長がしていることはほとんど常軌を逸しているし、それに従っている郷の人たちも異常。でもあんたや他の人達は異常じゃない。皆――族長と言う名のマインドコントロールにかからないで自分の意志を貫いていた。けどそんな意思を壊すような族長がいる郷なんて――居なくてもいいと僕は思う」

「そ、それは……、あの郷が無くなったらみんなの居場所がなくなる」

「別にいいじゃん。気持ちが変になるくらいならそこにいない方がストレスかからないし、そんなところにいたら僕だったら吐き気を催してしまうよ。逆に――あの郷を救うなんてこと、したくない」


 むしろ――無くなればいいんだ。


 そう断言するツグミ。


 はっきりとした口調で言うツグミの言葉にクロゥディグルは驚きながらツグミのことを見ていたが、ファルナはそうとはいかず、ツグミに向かって歯向かうように荒げる音色でこう言ってきたのだ。


「救いたくないなんて……っ! そんなことしてしまったら郷ごと無くなるんだよっ? みんな路頭に迷うんだよ……? なんでそんなこと」

「だから、無くなればいいんだよ。そんな自分勝手な族長も、身勝手な儀式も、柵も、全部ゼロからみんなで一から考えればいいじゃん。()()()()()()()()けど、あんたたちならそれができる。僕はずっと家と言う名の法にずっと従ってきた。けどそんな法に従えないから僕は避けてきた。どうなろうとも知ったこっちゃないからその家から出て行って、縁を切って、何とかここまで一人で自立しようしている。そのくらい僕は自分の故郷が、家が嫌だった。あんたと同じように、子供みたいな大人達が嫌だったから。あんたのように郷を救いたい気持ちとは違って――僕は嫌だから逃げた。でもあんたたちはできるでしょ? 路頭に迷うほどの人数なら、みんなで考えて作ればいいんだよ。自分たちの郷を――もう一度」


 ファルナの言葉を論破するように、ツグミは言った。


 己の過去と照らし合わせながら、自分が体験したことを口にしながら、彼は告げたのだ。


 そんな族長の郷を守るくらいなら、いっそのこと壊して、その後で新しい郷を作ればいいと。そう告げたのだ。


 ツグミは前にこんなことを言っていた。


「僕の家は元々名家って言われるほど有名な家で、僕の家はその分家に当たるんだよ。本家は他県にあって、分家に婿養子としてきたお父さんとお爺ちゃん、そして()()()()()()()()()()()お母さんとお祖母ちゃんは、その本家に対して異様な対抗心を抱いているんだって。家政婦の四三田(よみた)さんが言っていた。『本家の家系は元来優秀な子が生まれて、その本家の権力を我が物にしたいという気持ちで動いている。だから()()()()()()()()()()()()()んに大きな期待を寄せているんです』って言っていた。でもお母さんもおばあちゃんも、僕のことをそんな目で見ていないと思う。だから反抗期として僕は自分で決めた道を進みたいだけ。僕はこんな顔だけど、権力者にはなれない。()()()()の家柄で、男として生まれた僕の価値は紙屑以下。毎度毎度『なんで女に生まれなかったんだ』って言われるのもうんざりだし、嫌なお習い事を強いられる生活もこりごりだから、僕は反抗するだけ。反抗のために勉強しているだけ」


 そう、ツグミは反抗したのだ。家という名の故郷の仕来りに――ずっと反対をしてきた。


 ファルナのように、守るために試行錯誤をすることなく、ツグミはファルナとは正反対にそれを放棄して、自分の道を歩んだのだ。


 己のことを迫害する親との縁を切り、自分の考えで自立をすることを選択して。


 ファルナと同じ境遇に見えるが、選んだ道は違う、どころか選択が違ってはいるが、ツグミはファルナの言葉を聞いて思ったのだ。だから口にしたのだ。


「そんな族長の郷――さっさと捨てて逃げればいいんだよ。自分のことを犠牲云々なんてそいつのためにとか、滅茶苦茶胸糞悪いから、自分から変えればいいんだよ。自分の郷に、みんなが済みやすい普通の郷に――」

「………………………」


 ツグミは言った。はっきりと、そんなことをしなくてもいい。そんな族長の郷を守るよりも、郷全てを変えるために郷を一から変えたほうがいいと、そのような助言を残して……。


 その言葉を聞いたファルナは驚きながらツグミのことを見て、彼女は内心その言葉を聞きながら――()()()だ。と思っていると、ツグミはふと何かを思い出したかのような仕草をして、そのことを思い出すと同時に忘れないようにツグミはファルナに向かって言った。


「あ、でもこのままとんずらはできないと思うし、このまま倒せば経験値がっぱりだと思うから試練は続行するけど、騙されたことに変わりないから――倒した代わりに何か報酬でも用意しておいてって族長に伝えておいて」

「え?」

「だって僕達がこの魔物を倒してしまえば郷としてのシステム崩壊するし、生贄と言う無駄なことも無くなる。かつ自分好みに改造もできなくなるでしょ? それは郷としての損害だけど、元々族長がそんなことをしたから自業自得なんだけど……、僕達は騙された身。つまりはそれ相応の誠意が必要でしょ? だからその誠意を用意しておいてほしいなぁーって思って」

「誠意……」

 

 その言葉を口ずさんだファルナだが、話しを終えたツグミにとってそれ以上の言葉は無駄な話になってしまう。そして今はまだ――戦いの最中なのだ。


 ツグミはすぐにファルナから視線を外し、そのまま上空にいる大きな魔物――『偽りの仮面使』のことを見上げながらツグミはふっと――無意識に笑みを零す。


 心の中で、唯一の幼馴染に事を思い出しながら……。


 ――きっと、これを聞いたからショーマはあんな危ないことをしたんだ。


 ――ショーマらしいっちゃらしいけど、あいつ絶対に何も考えていないだろうな……。


 そう思いながら、ツグミは持っていた杖を再度上に掲げ――そして上空にいる『偽りの仮面使』のことを見上げながら……、ツグミはクロゥディグルに向かって言った。


「クロゥさん! すぐに上昇して。援護をします」

「え? はっ!? ツグミ様――まさか」

「安心して――血迷ったとかそんなことじゃない。僕だってこう見えても冒険者で、こう言った魔物に対してはちょっとばかし知識がある」

「知識………………………ですか?」

「そう」


 クロゥディグルの驚きの言葉を聞いたツグミは速攻で違うと否定を零すとツグミははっきりとした音色で言う。


 それを聞いたクロゥディグルは目を点にしながらツグミのことを見ると、ツグミは頷きながらこう発言をした。


 己の知識にある――魔物にあるであろうゲーム的弱点を最大限までに思い出しながら……ツグミは恐怖も何もかもを隠すような挑発の笑みで言う。


 ――あの頭の悪い翔真が確信したんだ。絶対にある! この世界が元々ゲームだったら、絶対にあるはず! ゲームの進行を阻害するバグがない限り絶対にあるものを!


 そう思いながらツグミは断言をしたのだ。この世界の住人でもあるクロゥディグル達では知らない。現代人にしか知らない暗黙の了解を――!


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()!」

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