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PLAY09 捕食の魔物⑥



「――私は無事だ」



「!」

「……あとこれは余談だが、勝手に殺すな」


 本当に冗談みたいに言うヘルナイトさん。


 土煙が晴れた時、それを見た私とみんなは絶望のそれから希望のそれの変わったのだ……。


 なぜならヘルナイトさんが生きている……。だけじゃない。


 大剣でその二つの攻撃をいとも簡単に受け止めて、あろうことか流すように大剣を斜めにして、ずれた槍の方を、手でしっかりと掴んでいたのだ。


 ポイズンスコーピオンは「カカカカァッ!?」と、まるで驚いているように叫んで、そして尻尾を使ったせいで、宙ぶらりんとなってしまったので、動けず尻尾をぐっぐっと動かしているだけだった。


 それは当り前な話、ヘルナイトさんが武器となっている尻尾をがっしりと掴んで、放さないようにしているから。


「お前のその姑息な手は、人間の知識にあったことか?」


 ヘルナイトさんの言葉に、その怒りを含んだ音色に、ポイズンスコーピオンはぶるっと体を震わせる。


 ヘルナイトさんはそれでも話を続ける。


「それとも……、お前の、元の性格なのか……?」

「カ、カ、ガ、カ」

「私の言葉がわかるのだな? なら言おう。さっきまで蹲っていた痛みの演技。あれは……、油断させるためのフェイクなんだろう? そして、さっきから作って出しているそれは、相手に自分が上だと見せつけるための行動。姑息にして醜悪だ。そして……」


 と言うと同時に、ぐっと槍を握っていた手に力を入れるヘルナイトさん。


 めきめきと鳴るそれを、私達は見ることしかできなかった。


 理由?


 そんなの……、簡単だ。


 入れないのだ。


 ヘルナイトさんから放たれる。黒くてさらさらしてて、そしてその中にある赤いもしゃもしゃの中に、入れないだけ……。


 入ったら、もしかしたら、と言う最悪なことを想定してしまい、誰も入れない、誰も加勢できない。


 と言うか……。


 入っても足手まといになるだけ。


 そう、誰もが思ったに違いない……。


 めきめきがめりめりに変わって、槍だったそれがだんだん肉となりかけていき……、ぷしゅっと青い血が噴き出る。そして――



「――醜い」



 そうヘルナイトさんが言った瞬間――


 槍を持つ手に力を入れて、槍だったそれがただの青い血が噴き出す肉片と化した。


「カカカカカッカアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


 ポイズンスコーピオンは叫ぶ。


 すると……。


 しゅんっと風を切る音が聞こえた。


 私はその方向を見ると、どこからか眩く光る何かが飛んできた。ポイズンスコーピオンに向かって。


「なんだあれ……?」

「鳥……?」

「いや……あれは……」


 アキにぃとシャイナさんがそれを見て目を凝らしていると、キョウヤさんは蜥蜴人の目でそれをじっと見ると……、小さくこう言った。



「――()?」



 そう言った時、キョウヤさんの言っていたことが本当なら、その矢はポイズンスコーピオンの尻尾に向かって行き……。


 ひゅんっと、空を切る音と。


 ばつんっと、尻尾をぶつ切りにする音が重なって……、ポイズンスコーピオンは叫びに叫んだ。


 痛みによって、叫びに叫んで、すごい速さで落ちた。でも、尻尾は切れていないようだ。抉っただけのようだった。


 ヘルナイトさんは即座に後ろに避けたので、大事には至らなかった。


 たんっと地面に降り立った後、ヘルナイトさんは後ろで呆然と立っていたアキにぃ達向かって振り向いて、言った。


「三人共、私の指示通りにしてくれ!」

「「「へ?」」」


 ぽかんっとしている三人をよそに、ヘルナイトさんは言った。


「アキとキョウヤは詠唱を! シャイナ殿はあの影を出せるか?」

「どの……っ!? あ、う、うんっ! 出せる!」

「ならいい。二人は私の合図があるまで詠唱を唱えたら待機してくれ。最後の言葉――『終言葉』さえ放たなければ何も起こらない。シャイナ殿は影を出したら、できるだけ攻撃力の高い攻撃を!」

「お、おぅ!」

「よ、よくわからないけど……、わかった!」

「わかったわよぉもう!」

「ハンナ!」

「っ!」


 私を呼ぶヘルナイトさん。ヘルナイトさんは私を見て、叫ぶ。


「ご老人と、ゴロクルーズのところに! そして、広範囲の盾の魔法を長く出していてくれ! きっと、ハンナ達を巻き込む。だから離れて、盾魔法で」

「離れないよ」

「!?」


 私は、ヘルナイトさんの言葉を遮る。


 さっきまであった不安が、一気に毒抜かれて、そして今あるのは……、安心とできるという確信。


 あれを見たせいで、なんだか不安に感じていたのが、嘘のように消えた。


 私は控えめに微笑んで言う。


「離れないけど、『囲強固盾(エリア・シェルガ)』を出して、待っている。みんなが勝つことを、信じているから」


 その言葉を聞いて、アキにぃは銃を構えて。


 キョウヤさんはにっと笑みを作って。


 シャイナさんはなぜだろう、私達を見て羨ましそうに見ている。


 ヘルナイトさんはただ……、小さく何かを言った後……。


「わかった。私もハンナを信じる。だから、信じて待っててくれ。必ず勝つ」

「――うん」


 そう言われて、私は嬉しくて、控えめに微笑む。


 ヘルナイトさんは頷いた後……。


「よし――行くぞ!」

「「「おおっ! (ええっ!)」」」


 その声を合図に、みんなが動く。私もすぐに走って……、おじいさんといまだに塀の上で泣いているゴロクルーズさんに近づき……。


「『囲強固盾(エリア・シェルガ)』ッ!」


 ぶぅんっと半透明の半球体の盾を出した。


 その中に私も入って、じっとみんなを見る。


 みんなはもうすでにヘルナイトさんに言われた通り、動いていた。


「幾年の時の泉を守りし、森の妖精たちよ」

「穿て、薙ぎ払え」


 アキにぃとキョウヤさんは、同時に詠唱を唱える。


 アキにぃは銃を構え。


 キョウヤさんの詠唱は初めてだ。見るのは……。


 キョウヤさんは槍をぶんぶんっと、円を描くように回しながら振るっていると。だんだん刃のところが赤く染まっていく。そして……、大きくなっていく。


 その最中、ポイズンスコーピオンは満身創痍の中立ち上がって、尻尾を元の尻尾に戻して、今度は手を鋏にしてからまた手に力を入れる。


 でも、その前に、シャイナさんが走りこんで、鎌を構えながら叫ぶ。


「『無慈悲な(サディスト・)牧師様(ミニスター)』ァ!」


 彼女が叫ぶと同時に、ずっと背中出てくる黒い影。そして形を形成して、あの牧師様が出てきた。


「『無慈悲な(サディスト・)牧師様(ミニスター)』ッ! 一緒にやるよ!」

『早速リザインされて、オテアライッ! イイエッ! ラジャ! デェスッ!』


 ハイテンションで言いながら牧師様は棺を全て消して、背中に背負っていた十字架を持ってそれを掲げる。


 そして……。


「『流れる刃の波。それに従う我が大鎌』」


 二人同時にそれを言いながら走る。ポイズンスコーピオンに向かって走る。


「『蟷螂のごとく、我らに万物を斬る力を与えん』」


 鎌と十字架を持って、シャイナさん達は武器を振るい上げる。


 震えながら立っているポイズンスコーピオンに向かって、鎌と十字架の剣で斬るように――!



「『――『蟷螂流し(サイズ・ウェーブ)』ッ!』」



 ザンザンッ! ガンガンッ!


 ギャリンギャリン! キィンギィン! と様々な斬る音が飛び交い、それを即座に作った手の盾で防御するポイズンスコーピオン。


 でも装甲が、甲殻が持たないのか……、罅と切り傷でいっぱいになっていくそれ。


「まだまだあああああああああああああああああっっっ!」

『YEARRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!』


 二人は同時に叫ぶ。そして斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくる!


 ポイズンスコーピオンは「カカカガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」と叫びながら、尻尾でシャイナさんを突こうとしていた。毒が入っているそれを!


 しかし……。


「やらせん」


 そう言ったのは、ヘルナイトさん。


 ポイズンスコーピオンはヘルナイトさんがいる方向を見て、ぶるっと震えた。


「シャイナ殿。あとは任せろ」

「時間は稼いだ!」

『あとはアナタに任せましたっ! デェス!』


 シャイナさんは牧師様と一緒に走って、離れる。私のところまで。


 そして、ヘルナイトさんは武器を持たないで、ただ指を空中でふいっ。ついっと動かしていただけ。


 それだけだったら……、よかった。


 ヘルナイトさんは指を動かしながら、周りを飛び交っている風の刃を操っていたのだ。


 風の刃は……。数えきれないくらいの数で……、それを見て、ポイズンスコーピオンは動けない足を動かそうとして、逃げようとしている。でも……、そんなこと、ヘルナイトさんが許すはずがなかった。


 ヘルナイトさんは指をふっと、ポイズンスコーピオンに向け、ぐっとその場で握ると――



「――『鎌鼬(かまいたち)』」



 風の刃は、意志を持つかのように、ひゅんひゅんひゅんっとポイズンスコーピオンに向かって、高速で飛ぶ。そしてそのまま、ポイズンスコーピオンを取り囲むように、縦横無尽飛びながら、ポイズンスコーピオンを的確に、それでいて深い傷をつけながら攻撃をする。


 それはまるで……、風の牢獄。


 それは広範囲に広がってて、カンカンッと盾にもあたる。


 そうか……、だから巻き込むって言ったんだ……。


 そう思いながら、ヘルナイトさんの優しさを噛み締めていると……。


「ガガガッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

 と叫ぶポイズンスコーピオン。それを見てヘルナイトさんはパチンっと指を鳴らして……、風の刃を消した。


「――今だっ! アキ!」


 ヘルナイトさんの合図で、アキにぃは銃をポイズンスコーピオンの胴目掛けて――



「――『必中の狙撃(ブルズアイ・ショット)』ッ!」



 パァンッと放つ!


 それは一直線に高速で飛び、ポイズンスコーピオンの胴に向かって……。


 どじゅっと貫通する。


「カカッカカア、カカッカカアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」


 痛みでおかしくなっているのかわからないけど、ポイズンスコーピオンは倒れそうになったけど、そのまま踏ん張って、最後の力を振り絞って叫ぶ。


「キョウヤ!」


 でも、こっちだってまだ終わっていない。


 ヘルナイトさんの合図で、キョウヤさんは動く。


 一歩。一歩と……。


 刃のそれがあの時、サラマンダーさんを突き刺したあれと同じように、大きく、赤くなっていき――


「我が鋼鉄の意志を込めた、この赤き鉄槌――彼の者に与えん」


 と言って、そのままダンッと駆け出し、そして、ぶんっと槍を振り回して――



「――『殲滅(せんめつ)(そう)』っ!」



 ポイズンスコーピオンの両手、残った足を切り落として、そして『ザンザンザンザンッ』と四連の突きを、ポイズンスコーピオンの胴体に放つ!


 それを直で受けて、体中血まみれのポイズンスコーピオン。


 すると、ポイズンスコーピオンは尻尾を使って、ぐっとめいっぱい力を入れたかと思うと……。


 バシュッと言う音が聞こえるような、高速の尻尾の突きを繰り出した。


 形など変えていない。本来の蠍の攻撃方法。


 でも、私は叫ばない。


 なぜなら……。


 キョウヤさんはそれを見計らったかのように、とんっと後ろに避けて、それと入れ替わるようにヘルナイトさんが前に出た。


 大剣も何も持たないで『だんっ』とその場で足を踏む。


 ポイズンスコーピオンは尻尾の攻撃を止めず、そして……、ヘルナイトさんを突き殺そうとした。


 しかしそれも無駄に終わる……。


 ヘルナイトさんは右手を前に出して、ポイズンスコーピオンの尻尾の先を刺されないように掴んで、そのままぐっと握った後、その尻尾を武器にしながら、前に突き進んで走る。


 ダンッと地面を踏んで走りこむと――ヘルナイトさんはそれを。


 ポイズンスコーピオンの切れた足元に、深く深く突き刺した。


 ポイズンスコーピオンはそれを受けて……、最後の叫びと言わんばかり叫びをあげて……。


 ぱきぱきと、体を少しずつ、黒く変色していく……。


「マジか……」

「うそ、でしょ?」

「あれ、本当だったんだ……」


 三人がそれを見て驚いている。私もそれを見て、まるで意味が分からないまま終わってしまったけど……、結局は、勝ったのだ。


 勝因……。それは……。


 ヘルナイトさんは黒く変色するポイズンスコーピオンを見ながら、凛とした声でこう言った。


「蠍は、()()()()()()()()()()()()


 そう言ったと同時に、ぼぉんっと黒い靄と煤を出してポイズンスコーピオンは消滅した。


 私はそれを見てスキルを解くと同時に緊張の糸が一気に切れて、へたり込んでしまった。


 それを見ていたシャイナさんがぎょっと驚いて「だ、大丈夫っ!?」と駆け寄ろうとしていたけど……、その前に足を止めていた。


 その理由は……。


 そっと私の背に手を添えて支えていたヘルナイトさん。


 見上げるといつもの姿。


 それを見て、私は疲れたかのような控えめの笑みを浮かべて、こう言った。


「ね? 離れなかった……でしょ?」


 そういうと、ヘルナイトさんは頷いて、穏やかな声音で「そうだな」と言った……。

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