PLAY93 ショーマとツグミ、そして仲間達①
ショーマの近くに落ちた謎の小石。
石ころと言っても過言ではなく、その石ころが落ちた瞬間その衝撃を受けた『偽りの仮面使』は今の今までコウガ達やデュランに向けていた殺意の矛先を――その衝撃があった場所にいる (かもしれない)ショーマにも向けようとした。
血走った目をかっと見開いた後――『偽りの仮面使』はぎりりっと歯を食いしばり、前屈みになるように体を動かした後……『偽りの仮面使』は己の正面に向けて……。
二度目となる咆哮を放った。
「ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいぎぃいいいいいいいいいいえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええああああああああああああああああああがああああああああああああっっっっっ!!」
稀に聞かないであろう声の砲弾。
「ぐっ!」
「うるさ………っ! いちいち叫ばないでよ……っ! 耳壊れる……っ!」
その砲弾を受けながら周りを飛びながらサポートをしようとしていたクロゥディグルも、彼の首に跨っていたツグミもその大きな声を聞き、再度耳を塞ぎながらびりびりとくる衝撃に耐える。
勿論――『偽りの仮面使』に対しても罵倒も忘れずツグミは言葉を発するが、その声も叫び続けている咆哮によってかき消されてしまう。
だがツグミとクロゥディグル達の方はまだましな方であり、その声を間近で聞いていたコウガとむぃはびりびりと来るその声を至近距離で聞いてしまい、耳を押さえるタイミングを一瞬失ったと同時に、三半規管がグラつくような感覚を覚えてしまう。
デュランでさえも唸り声を上げながらその声の衝撃波に耐えながら身構えている。
それほど『偽りの仮面使』の叫びは大きく、攻撃性を持っていることが判明したが、それを考えるほど彼らは余裕ではない。その余裕がないのは、これから現在進行形で危険な目に合うショーマも同じ……。
いいや、それ以上の目に合うのだから……、それを考えることはない。
その叫びを聞いた瞬間、ショーマもその声を聞いて「うぎぎ…………っ!」と言う声を上げてその大声に耐えていたが、生憎彼は耳を塞げるような状態ではない。ファルナのことを抱えながら仰向けになっているせいで、その声を遮ることなどできない。
体の芯にまで伝わる大きな振動と、心臓が揺れる様な大きな声を聞いて、ショーマは心の中でツグミと同じようなことを呟いていたが、その呟きもすぐに脳の外へと放り出され、忘れてしまうことにショーマは気付かなかった。
そう――彼の視線の先には『偽りの仮面使』が操る己の髪の毛で作った攻撃に適した髪の毛。
その髪の毛達は大きな咆哮を聞いて狼狽えてしまっているショーマから目を離すことなどなかった。狙った獲物を逃さない目が見えない獣のように、髪の毛達はその五指の手を蛙のように開くと、その指の先に髪の毛でできた鋭利な爪をどんどんと形成していく。
びきびきと……。髪とは思えないような音を出しながら形成をし、指先に力を入れながらたくさんと言っても過言ではないほどの量の手達がショーマとファルナに向けてその牙を向け――
ぐわり! と音もなくショーマとファルナに向けてその爪の牙を仕向けたのだ。
「――っ!」
その光景を見たショーマは思わず声を殺すような声を出し、それと同時にショーマは思ったのだ。
まるで――殺意の波の様だと……。
迫りくるその髪の毛の手の先につけられているその爪が殺意、そしていくつもの手たちが無防備に近いショーマたちに向かって大勢で責めてくるその光景は、まるで高波。それを見た瞬間ショーマはぞっと背筋を這う寒気に襲われ、全身にいぼができるような感覚を覚えた。
――やべぇ! 早くしねえと、早くしねえと! 早くここから、逃げねえと!
そう思ったショーマはもう慎重などという言葉を置き去りにし、片足だけを急かしなく動かしながらその場から脱出しようと目論む。
「うう! おりゃぁ! こんのぉ………っっ! 動けぇっっ!」
ずっ! ずりっ! ざっ! と――『偽りの仮面使』の頭上でその髪の毛を何本も抜くようなことをし、より一層その場に自分がいることを知らせてしまうことをしてしまったショーマであったが、今なそんなことを考えている暇などなければ、余裕もない。
兎にも角にも、今は逃げることに専念をしていたショーマは、そんなことを考えることもなく、無我夢中で足を動かして、その場から逃げようとする。
己のことをその手で握り潰そうとする……、己の左足をそうしたように切り裂いてバラバラにしようとするその手から早く逃げるために、ファルナをこれ以上傷つけないために、ショーマは急かしなく役に立たなくなってしまっている片足を動かしながらその場から逃げようとする。
「おらららららららららららっっ!」
どんどんと迫りくるその髪の毛の大波がショーマとファルナに向かって牙をむき、その髪の色を赤く染めようとぎらりとその先を光らせて来ているその光景を見たショーマは、もうやけくそと言わんばかりに足をばたつかせ、早く。その二文字だけを頭の中で連呼しながらもがき、そして殺されるわけにはいかないと思いながら暴れた……、その瞬間――!
ぶわりと――突如としてきた足の感覚。
それはもうある足ではなく、先程喪失した足の感覚であり、その感覚を感じたショーマははっと驚きのそれを浮かべると同時に理解をした。
自分の体なのだ。理解しない方がおかしい事である。
そう――斬られてしまった左足が蘇生されたのだ。
いうなれば部位破壊からの蘇生――ハンナの言葉で言うと『部位修復』ができたことを確認したショーマは、己の左足と一緒に右足もそのまま上に上げ、まるで足の裏を空に見せつけるかのように上げる。
上げた状態でその後さらにその足をどんどんと自分のところに近づけ、ショーマはそのまま仰向けから後転をしようとしているような足の動きをし、顔とすれすれのところでその足を止める。
いうなればくの字の少し幅が狭いそれになると、ショーマはふんっと鼻息をふかすと、その足を思いっきり地面に――否、そのまま『偽りの仮面使』の頭上にその足を叩きつけるように大きく、それでいて勢いのある戻しを繰り出す。
ぐぉ! という微かな空気が避ける音が聞こえると同時に、ショーマは足を直角に曲げると同時に、全身もその勢いにつられるように動かす。
後転をしようとしているその行動から逆に戻るように――ショーマはその動きを繰り出し、そして……。
どしんっ! という音と共にショーマは「ふん!」と言う掛け声を出しながらぐるんっと己の体を起き上がらせ、足をスクワットをするような体制になり、足を振るうと同時に生じた反動を利用して立ち上がると、ショーマは即座に次の行動を起こす。
なにせ――今目の前には『偽りの仮面使』の殺意が込められた髪の毛たちに大波が迫ってきているのだ。それを見てファルナを抱えるために使ってしまい、何も持てない身体で立ち向かおうという考えは………なかったとは言えないが、それでもショーマは今は戦う時ではないと認識をした。
――今戦ったら、俺が死ぬだけじゃなくてファルナも死んじまうっ! んな無責任なことできるかっ! 今はファルナを……安全の場所に!
少しだけ、本当に少しだけ立ち向かおうという意思は少しあったものの、今は逃げることを優先に、そして傷を負っているファルナを安全であるクロゥディグルのところに持っていくことを優先にしたショーマはどんどんと自分に迫りくるその光景を見つつ、そして今にも切り裂こうとしているその光景を見て、ショーマはすぐに行動に移した。
素早くその場から逃げれる選択――そのままファルナと一緒に背後から落ちるという選択を。
とんっと、躊躇いもなく、かつ自分よりもファルナのことを庇うようにぐっと彼女のことを抱き寄せながら己が盾になるように丸々と、そのまま高いところから飛び降りるように落ちるショーマ。
「――っ! 翔真っっ!?」
その光景を通目から見ていたツグミは、焦りのあまりにショーマのことを現実の名で呼ぶと、クロゥディグルの首のあたりに座っていたその体制を不安定な足場で多対上がるその姿勢に変えると、ツグミは杖をかざし、クロゥディグルの目の前に空中に魔方陣のような光る円を発動させると――ツグミは叫ぶ。
焦りと何をしてるんだというその怒りを混ぜたような顔をしながら――ツグミは叫んだ。
「術式召喚魔法――『召喚:サンドコアトル』ッ!」
ツグミの叫びに呼応したのか、その声と同時に光っていた魔方陣が更に光を輝かせ、その光景を見ていたクロゥディグルも「おぉっ!?」と驚きながらその光景に目をつぶった状態でみてしまう。
あまりに光に目がかすんでしまったようだが、そんなことを考える余裕など、今のツグミにはなかった。
――何勝手に変な行動してんのっ! お前が変なことをしてしまったら僕が忙しくなるって言うのに……っ!
そう思い、そして脳裏に思い出される思い出したくない過去のことを思い出したツグミは、魔方陣から突如としてバシュッと言う音と共に飛び出してきた飛行体を見上げる。
その飛行体は砂のような色で、固そうな印象を持っている皮膚をしており、その手には砂の色とは違う紫の色で、身の丈以上に大きな膜を持っているが、突いてしまうとすぐに破れてしまいそうな翼を持った――翼竜が現れた。翼竜は砂の体とその膜の翼と同じ色をしている舌をむき出しにし、頭の上にある赤く、そして異様に長いとさかを見せつけながらツグミに向かって「ギャァァッッ!」と大きな声を発した。
その声を聞いたクロゥディグルは、少し回復したものの、まだかすむ視界の中で翼竜――サンドコアトルのことを見上げながら、小さな声で「飛行系の魔物ですか……っ!?」とツグミに聞くが、ツグミはその言葉に対し、淡々とした口調でクロゥディグルに向けて答えた。
「まぁそうだね。こいつは大きいから人を乗せることができる。そして攻撃力も高いから結構使う魔物だよ。サンドコアトル――ショーマとファルナさんを助けに行けっ!」
「ギャァッッ!」
ツグミは言う。サンドコアトルに向けて、ショーマ達に救出を命令すると、それを聞いたサンドコアトルは大きく頷きながら鳴き声を発し、そのままサンドコアトルは鳥のように翼をばたつかせず、平衡を維持するように飛んでいく。
ふぃーっという空気を流すような音が聞こえ、その音とツグミの声を聞いていたむぃはコウガの背にしがみつきながら背後を振り向き、そして視界に映るその光景を見た瞬間、むぃはコウガに向けて大きな声を発した。
現在髪の毛の手や『偽りの仮面使』の本物の手、更には翼だったそれが手となって襲い掛かって来ており、その手をなんとか闇属性を纏った忍刀で捌きながら戦闘をしているコウガの頭がバシバシと容赦なく叩きながら――むぃは叫んだ。
「コウガさんっ! あれツグミさんの召喚魔物です! 加勢に来てくれたのでしょうかっ? ねぇねぇコウガさん! 聞いていますかっ!?」
「あーあーあーうるせぇ! ぎゃぁぎゃぁ怪鳥のように叫ぶな! あと頭を叩くなっ! 死んでもいいのかっ!?」
「で、でもぉ~……っ! 今ツグミさんの」
「ぅわーったって! んなこともちゃもちゃと言うんじゃねぇ! あと集中を乱すなっ! 防御に徹しろっ!」
「むぅ~っっ! わかりましたよぉ!」
叫びながら頭を叩いたせいか、コウガはその衝撃を受けつつ頭ががくがくと揺れる感覚と後頭部に関しる衝撃に苛立ちを覚えたのか、コウガは叩いて何かを叫んでいるむぃに向けて苛立ちをぶつ蹴るように叫んだ。しかしその威圧にも気圧されることなく、むぃはツグミが召喚したであろう翼竜に猫の手で指を指しながら言うと、更に苛立ちを募らせてしまったコウガは上空に向けて叫びまがいのそれを上げると、その言葉を聞いていたむぃは小さな頬を膨らませ、少しばかり目に民田を溜めながらやけくそまがいの頷きをする。
そして――四方八方にいる『偽りの仮面使』の手や髪の毛の手達に再度視線を向けながら――コウガはグワリとショーマと同様に五指を蛙のように開き、そのまま己のことを切り裂こうとしているその髪の毛の手に向けて闇属性を纏った忍刀を右手の――逆手に持ち、正面からくるその攻撃を上半身を左に傾けるように躱す。
ぐわりときたその攻撃を、最小限の動きで、且つ自分も傷つかないような動きで――
しかし……、交わすと同時に、顔の右頬にぷっと――浅い亀裂が生じる。
それを感じたコウガは掠ったかと思いながら今まさに己の右の視界に入ったそれを見て、コウガは逆手に持った忍刀にぐっと握る力を加える。己の頬に切り込みを入れた髪の毛の手の――腕に当たるところに視線を向け、一瞬の隙を見つけたコウガは――その腕が元の場所に戻る前に、腕を躱すと同時に生じた反動を利用して、腕を動かす。
曲げた瞬間、腕も曲げると同時に微かにふわりと浮いたその反動を使って、力を抜いているようにも見えるその行動のまま、コウガは逆手に持った状態で忍刀を振るう。
ふっ――と、反動を利用すると同時にむぃの小さな叫びと共に背中にむぃの足が当たったような感覚を覚えたが、それを気にすることもなく、コウガは己の右頬を切ったその手を、切り落とした。
すぱんっっ! という音と同時に、手となっていたその髪の毛の先が、まるで意識を失ったかのようにばらばらとよく目にする毛先となって『偽りの仮面使』の腕の上にパサリと落ちる。
意識と言うそれを失った毛先とは違い、一部を失った毛はうごうごと辺りを動き回りながら焦りのそれを出している。いいや……髪の毛にそのような感情はない。この感情をだしているのは――『偽りの仮面使』本人であろう。
それを見て察知したコウガは、すぐに忍刀を持っている持ち手を即座に変えた。
手の中でその忍刀をくるりと持ち替え、逆手だったそれを通常の持ち方に変えるコウガ。しかしそんなコウガの行動を見ていたのか、『偽りの仮面使』は歯ぎしりをするような憎々しげの顔でコウガに向けて道を持っているその指で指を指す。
すると――その命令に従うようにびくりと、コウガのことを襲っていた翼だった手達が一斉コウガに向けて方向を変えた瞬間、右側にいたその翼だった手たちが、一斉に――四方から挟み撃ちにするようにコウガとむぃに襲い掛かってきたのだ。
ぐわりと大きく手を開き、その手の中にコウガ達を閉じ込め、そのまま握りつぶさんばかりに襲い掛かりながら……。
「――ち、面倒くせぇし、うぜぇ」
しかし、コウガはショーマのように焦ることもなければ、ツグミのように感情を露にすることはない。どころか冷静に、大人のそれを出しながら冷静に、そして元の持ち方に戻し忍刀を握る力をぐっと込めたと同時に――今の今まで傾けていたその体を戻す。
それも、左足をずっと引きずるように後方に回し、その回した瞬間体もその後方に回った足につられるように、今度はその体の向き右に変え、右の正面から来たその手の平に向けてコウガは手に持った忍刀を、軽く振り上げ、ダーツのように投擲をする。
びゅんっ! という音と共にコウガの右――否、今となっては正面から来たその手に向かって闇属性を纏った忍刀がその手の平に向かって飛んで行き、そして……、刺さろうとしていた瞬間、コウガは懐に両手を差し入れ、その中にしまい込んでいた武器たちを両手いっぱいにして掴み上げる。
右手には苦無。
左手には手裏剣。
それを指の間に挟め、余すことなく持った後、コウガはその武器にも僅かに力を込め、後ろにいるむぃに向けてコウガは言った。
「しっかりガードしろ。良いな?」
「はいっ!」
コウガの言葉にむぃは頷き、その声と同時にむぃはコウガの背後に猫の手を伸ばし――否、かざして、背後から迫りくる手に向ける。
その声を聞いたコウガも頷き、そして手に力を込め、そしてその場で両手をクロスさせると、コウガはすぅーっと息を吸うと、気持ちを落ち着かせたのか、コウガはぎっと目の前を見据えると同時に、自分が持っているスキルを声に出した。
「忍法武術――『木葉流星』っ!」
その言葉を放つと同時に、コウガはクロスさせたそれを一気に左右に向けて振るい、そして手の中に納まっていたそれ等を左右で襲い掛かろうとしている掌に向けて放った。
コウガから見て、右からくるその手には苦無の応酬を。
コウガから見て。左からくるその手には手裏剣の応酬を。
左右から来る攻撃を苦無と手裏剣で応戦した瞬間、コウガの背後から来たてもどんどんとコウガとむぃに向かって迫ってきており、その手は自分に向けての攻撃がないと見てか、そのまま二人のことを握り潰さんばかりに大きな手を広げて、掴もうとしていた。
その光景を見て、むぃはかざしていたその手を『偽りの仮面使』の掌に向け、そして大きな口を開けて息を吸った瞬間、その息を一気に吐き出す勢いでむぃは叫んだ。
「占星魔法――『反射鏡』ッ!」
その叫びと同時に、むぃの前に現れた半透明の長方形の壁。
その壁を出現したと同時に、むぅの目の前で掴みかかろうとした――いいや、本当に掴もうとしていたその手は、そのまま長方形の壁ごとむぃ達のことを握り、そして潰そうとして伸ばすと同時に、ぐっと握ろうとその手に力を入れた――瞬間……。
ばぁんっっ!
と――突然発生した衝撃音。
その音と同時に、むぃ達に向かって攻撃をしようとしていたその手は、その衝撃音と共にむぃから一気に距離をとり………………………、否、この場合は表現が違う。この場合の表現で言うと、その衝撃音と共にはじかれるように飛んで行き、そのまま背後にいた髪の毛の手に向かって衝突をしてしまう。
どすぅ! という音と共に、髪の毛の手のわずかにはみ出ていたはねた毛が絡まってしまった手は、そのままうごうごと焦りの汗を出しながらもがき、そして自ら絡まりに行く。
絡まるそれを見ていた時、むぃが発動したその長方形の半透明の壁が突如として光だし、その光とともに長方形で半透明の壁が一気に罅を表し、そのまま崩壊して崩れ、光の粉となって消えていく。
「や、やりましたぁ………!」
消えていくその壁を見ながらむぃは安堵のそれを吐くと同時に、コウガもそれを見ると同時に、左右でコウガの近くで手を開いた状態で固まっている大きな手の平を見たコウガは、ふっとその手に向けて、嘲笑いのそれを零すと同時に、コウガは憎い目を向けて見降ろしている『偽りの仮面使』そのものに視線を向けながら――コウガはわざと虚仮にするような顔で言った。
自分の左右の場所で、手を開いた状態でぶるぶると手を震わせ、その掌から零れ出る黒い液体と、その掌に剣山の如く突き刺さっているコウガの手裏剣と、そして苦無に対し激痛を感じている掌達のことを見て、正面から襲い掛かってきたその手の平に突き刺さっている己の武器――忍刀の柄に手を添えながら……、コウガは言ったのだ。
「あんまり俺らのことを、冒険者様をなめるなよ――」
そう言うと同時に、コウガは添えていたその忍刀の柄を、ぐっと力強く掴み、包丁を持つような掴み方おした瞬間、コウガは張り上げるようでもあり、それでいて冷静さがある様な怒りの音色で、こう言う。
ぐっと、その手の平に突き刺さったそれを引き抜く――のではなく、そのまま一気に下に向けて切り落とすような勢いで振り下ろすと同時に……、コウガは言った。
「――パクリ野郎がぁっっっ!」
その言葉を放った瞬間、切りつけたその場所から黒いそれがバァンッ! という音と共に噴出し、黒いそれをその身で受けながらコウガは少しの間降ろした体制のままで止まる。
「――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」
己の命の源水が出ると同時に、その手からくる激痛を感じた『偽りの仮面使』は、激痛の叫びを上げながら四方に向かわせたその手達を即座に引っ込める。
その引っ込めを見て、コウガは徐に嫌そうな舌打ちを零すと同時に、体中についてしまったそれを拭いながら――小さな声で「汚ねぇ」と零すと、それを聞いていたむぃはコウガのことを背後で見上げ、背中にしがみつきながら「大丈夫ですか?」と聞く。
むぃのことを振り向きながら見ていたコウガは、何にも汚れていないむぃのことを見て少なからずの怒りを感じたが、ここは大人として怒らないことに徹しようと思い、むぃの言葉をスルーしながら、コウガはそのまま腕を伝い、上に向かって――肩に向かって足を動かす。
「足止めはもう十分だ。行くぞ」
「はい! ゴーゴーです!」
「…………………………お前も少しは走れ」
「むぃはこのまましがみついたままでいますっ。だって楽ですもん」
「…………………………っち」
その最中、いつまでも己の背中にしがみついているむぃのことを見たコウガはもう服が伸びそうであること、そしていい加減重いから走れという想いを込めて言葉をかけたが、むぃは断固としてそれをしない意思を固めた真っ直ぐな目をコウガに向けながらきっぱりと言うと、それを聞いたコウガは苛立ちをむき出しにし、べとべとになってしまっている体とむぃの言葉を聞いて、さらなる苛立ちを覚えたことは、コウガだけしか知らない……。
そんなことをしていた丁度その頃――デュランはいくつもの手相手に槍をつい買いながらあしらっていると、ふと、自分の頭上に差し掛かる影を感じ、デュランは腰を使い、上半身を曲げるように上を見上げると、デュランは驚きの顔を浮かべて頭上の光景を見た。
彼の頭上にいる存在は――背中でしかわからないが、何度も見たことがある背中で、その背中を持つ存在の前には――いくつもの髪の毛の手が彼のことを掴もうと伸びていたのだ。
まるで何かによって連れ攫われそうなそれで、背中しか見えないその人物と、その瓶ずつが腕の中に抱えている存在を捕まえようとしているその光景を見て、デュランは驚きの声とともに叫ぶ。
今まさにデュランに向けて背中を向けている存在に向けて――
「ショーマッッ!?」
「デュランの兄貴っ!」
デュランの叫びを聞いて、今まさに現在進行形で落ちてきているショーマは、デュランに事を見ると同時に横目だけで見ようと振り向きつつ、どんどんとデュランに向かって落ちて来ながら――ショーマは言った。
嘆願のような、懇願めいたその言葉でショーマは言った。
「へ、ヘルプゥゥゥゥゥー! 助けてくださぁぁぁぁぁぁいっっっ!」
「出会って第一声がそれかっ! まったく……」
ショーマのなんとも言えない、しかしそれでも分かりやすい言葉を聞いたデュランは、一瞬、本当に一瞬だけ肩の力が抜けると同時に呆れるように上半身を横にフルフルふりながら首を振る様な動作を示すと、デュランは小さな声で「手間のかかる奴だ……」と言いながら槍を上空に向けて構え、そしてその槍に白い湯気のようなものを纏わせた――瞬間。
「――デュラァァン!」
「! ツグミか?」
突然耳………………………がどこにあるのかはわからないが、それでもデュランは耳に入った声を聞いて、その声を発している存在――ツグミがいるその場所に体を向けると、ツグミは今まさに『偽りの仮面使』の周りで旋回をしているクロゥディグルの首のあたりで手を振りながら、大きな声をありったけと言わんばかりに叫ぶと、痛g実はデュランに向かって叫ぶ。
「今からそっちに僕が召喚したサンドコアトルが向かうからぁ――ショーマのことを襲おうとしている髪の毛を何とかしてぇ! 今ショーマの腕の中にファルナさんがいるから、早く治療をしないといけないしぃ! それにこのままだとショーマはの残機いくつあっても足りないからぁ――助けてぇ!」
「お前何おれが死ぬ前提で離してんだぁっっ!」
ツグミの言葉を聞いて、ショーマは怒りのそれを浮かべると同時に怒り任せの突っ込みを入れながら大声を発する。
しかしその大声のせいなのか、ショーマに向かっていたその髪の毛たちはさらに加速をしだし、そのままショーマとファルナのことを切り刻んで殺す勢いで、越しの先にある鋭い凶器をちらつかせる。
その光景を見て、ショーマは「ぎゃぁっ!」という驚きの声を上げるが、デュランだけは冷静に、そしてツグミの声が終わると同時に辺りを目がないその目で見回すと――デュランは見つけた。
今まさにショーマが落ちるであろうその場所――肩に足がぶつかるかぶつからないかのすれすれのところを飛行している。翼を羽ばたかせず、平行になって飛行をしているその光景を見たデュランは、すぐに上を見上げ、再度槍をショーマがいる上空………………否、ショーマの目の前で攻撃をしようとしている髪の毛の手に向けて、デュランは再度槍を上空に向け、その空を突き刺すような構えをとると、デュランはそっとその場で、深呼吸をする。
その槍に刀身に纏いつつある――熱気を帯びたそれを、最大限まで集中させると……、デュランは再度ショーマがいる上空を見上げ、そしてその先にいる敵を一掃するイメージを固めると、唱える。
己が持っている『宿魔祖』を――相手に向けて!
「――『蒸気炎連槍』ッ!」
その言葉を班つと同時に、デュランは上空に向けて、いくつもの刺突の攻撃を繰り出す。
シュダダダダダダダダダダダッッッ! と――敵に当たっていないなんとも無駄なそれをしているそれを見て、ショーマは泣きそうな顔をしながらもしかして……、見捨てられた……っ!? という顔をしながらデュランのことを振り向こうとした――その瞬間だった。
――ぼわぁっっっ!
と――ショーマの頬と体から感じられる目の前の熱。
それを感じると同時に自分の目の前で何かが光っているような、否、何か揺れているようなそれを感じたショーマは驚きつつ、戸惑いながら視線を元の目の前に戻すと……、ショーマの目の前で起きている光景を見て、ぎょっと目をひん剥かせた。
なにせ――自分は何もしていない。そしてデュランも無駄な刺突をしていたにも関わらず、目の前で自分のことを追っていた『偽りの仮面使』の髪の毛の手達がめらめらと燃えていたのだ。
そして聞こえる『偽りの仮面使』の大絶叫。
己の大事な大事な髪の毛が燃えているのだ。焦らないなんてことはなく、そしてその炎を消さないと自分に燃えダメージが加わるのだ。絶叫しないわけがない。
驚くのも無理はないが、その光景を見て茫然としているショーマとは違い、その技のことを知っている。そして使えるデュランはめらめらと燃えるその光景を見ながらふんっと鼻で笑うと同時に、槍を持つ手に力を入れながら彼は言った。
「なんだ……、この程度の炎で焦るのか。今までの幽鬼魔王族が使う炎系の『宿魔祖』はもっと大きかったぞ? それで慌てふためくとは……、人間の感情を取り込み過ぎたのかもしれんな。偽りの魔物め」
その言葉が出ると同時に、唖然としながら見ているショーマの背後では、この時を狙っていたのか急加速をしたサンドコアトルがショーマと『偽りの仮面使』の肩のところに滑り込む様に入り込み、そのままショーマとファルナのことを背に乗せると、未だにめらめらと赤く光るその背景を背にしてどんどん上昇し、そしてそのまま大きく旋回をしていく。
その光景を見ながらデュランはよしと小さく声を零すと同時に、今まさに自分の背後にいるであろういくつもの手と髪の毛の手達を相手にその槍の先を突き付けながら――デュランは顔のないその姿で威圧のようなそれを出しながら言う。
ひどく低い音色で、彼は『偽りの仮面使』本人に向けて威圧を向けると彼は言ったのだ。
「さて――こんなに遅いとあのヘルナイトに勝てないな。速攻で終わらせよう。死んだことも分からないほど――音速で、無音でな」
その言葉を放った瞬間、それを聞いていた『偽りの仮面使』は、びくりと顔を強張らせ、そしてその頬に伝う汗をタラリと流しながら、デュラン、そしてコウガ達、更には今サンドコアトルの背にいるショーマとクロゥディグルの首のところにいるツグミのことを見て、『偽りの仮面使』は心の底に芽生えつつある何かを感じ、困惑しながら彼らを、そしてデュランのことを見降ろす。
己よりも小さいのに、こんなにも大きな殺気を放っている人馬の魔王族のことを見て……。
そう――デュランが使った技は炎系の技で、その技は最初こそ炎なんて出ていないように見えたが、それは大きな間違いだ。彼が技を放つ前に上記のようなものが出ていたはずだが、あれこそがデュランが放った炎系の技なのだ。
湯気のように見えていたかもしれないが、あれは俗にいうところの見えない炎。
デュランはその見えない炎を刺突で火球弾のように放った後、それを『偽りの仮面使』の髪の毛の手に向けて掠らせるように放ったのだ。
的確に当てることを目標にしていたが、それでもデュランが放ったそれは見えない炎。
少しでも掠れば燃えやすい髪に引火をしていき、そして大きな炎になる。
しかも掠ると同時に当てようとしていないところに向かって行った炎は、そのまま別々のところでボヤのような騒ぎを起こし、『偽りの仮面使』の神力を大きく削ぐことに成功をした。
少し目標が違えど、それでも最終目標のダメージ、そして追加として新緑を下げる気音に成功し、精神的にもダメージを与えられた。結局のところ――結果オーライだ。
これで戦力も大きくダウンだな。そう思いながらデュランは己が持っている代々引き継いだ槍を『偽りの仮面使』に向ける。
最も瞬殺、そして音無き攻撃を得意とする音無き人馬鬼士――デュランはこのまま『偽りの仮面使』を倒す心意気を固める。
後少しで倒せる。そう思いながら……。
絶対に倒せない。倒すなどありえないのだが、そう夢見がちの想像を思いながら――デュランは畳み掛けることを決意する。




