PLAY92 仮面使⑥
ショーマは見た。
自分の視界が左に傾いた瞬間、視界の端に映った己の太腿までの足のようなそれが低空の状態でぐるぐると滑るように回り、そしてそのまま赤い丸をいくつも描きながらそれはショーマの視界の端で速度を失ったかのように止まる。
どろどろと――生命の泉とも云えるそれを少しずつ流しながら……。
そしてそれを見た瞬間、ショーマは確信した。
自分の左足が何者かによって斬られたのだと……。
◆ ◆
ぐらりと……ショーマの視界が左に傾くようにぐらつく。
ぐらついたショーマは驚いた目をしつつ、横抱きにして抱えているファルナのことを傷つけないように彼女のことを上に上げ、そのままショーマは『ずてんっ!』と『偽りの仮面使』の頭上で突っ伏する。
「――おぶっ!」
という声と共に、顎や腹部、そして服に『べちゃり!』と言う液体状の何かが付着したような感覚を覚え、その感覚を覚えたと同時にショーマは目の前を見て、ファルナが無事であることを確認した後、ショーマはフーッと息を吐く。
――良かった。下敷きにしてねえ……。
ショーマは安堵の息を吐く。
確かに、ショーマはあの時ファルナのことを横抱きにして、ファルナのことを見て生きているかの確認をした。その後悶々とファルナをこれからどうするのかと思いながら考えた結果……、このような状態に至っている。
普通の人ならば、そのまま抱えた人を押し潰して倒れてしまうことが普通の状況なのかもしれない。
しかしショーマは自分よりも重症になっているファルナのことを第一に考え、早急に考え、そして今の状況に至ったのだが、ショーマ自身今ファルナの下敷きになっているということに関しては……、全く気付いていない。
しかしそれでも、ショーマにとってファルナの無事は大きな安心要素だ。
「よし!」
ファルナが無事を確認し、背中で転んだままファルナの下敷きになっているショーマは、その安心をすぐに切り替えるように、なぜ自分の左足が斬られてしまったのか。どこからその斬撃の攻撃が来たのかと思いながら辺りを見回そうと首を動かす。
きょろきょろと『偽りの仮面使』の頭上で頭を急かしなく、左右上下しっかりと確認をするように見るショーマ。
――しっかし……、どこから攻撃が来たんだ? 俺が考えている間にどこから不意打ちしやがったんだっ? 見つけたらとっちめてやるっ!
――どうせこの魔物の攻撃だろうけどな! さぁこい! どこからでもかかって……。
そのような思考で、己に対して不意打ちを繰り出したその存在が『偽りの仮面使』であることを予想すると同時に、ショーマは辺りを見回し、一体どこから攻撃をしてきたんだと思いながら辺りを見回す。
見回し、そして見つけたと同時に散髪をする勢いで――ショーマは反撃をする気持ちを意気込んでいた。
ふんすっと、鼻息をふかしながら己の目でそれを見つけようと意気込んだ……。
その時。
――ぱたり。
「?」
と――ショーマは己の頬に液体のようなものが落ちる様な感触を覚えた。否……、今落ちたのでその感覚を知ると同時にその液体が落ちた目の前を見ようとしたショーマ。
一体何が落ちたのだろうか。
そんなことを思いながら目の前――上空を見上げた瞬間、ショーマは目をひん剥かせてその光景を見た。
自分の目の前で、五指の指を広げながらワキワキと動かしている髪の毛の手を――その指の先についている赤い液体を見ながら……、ショーマはその光景を見て、少しずつ、本当に少しずつだが……、疑問が解消されいった。
その指の先は微妙になのだが――尖っているようにも見える。それも……、獣の爪のように伸びており、その先についているものは真っ赤なそれ。そしてショーマは視界の端に映っていた己の足の、斬られたところを見た瞬間、すべてが繋がる様な衝撃を覚えた。
同じなのだ。
切られた箇所と『偽りの仮面使』の髪の毛の手の形が――一致していたのだ。
見ただけで分かるのかという疑問もあるかもしれないが、今この場にいるのはショーマと気絶をしているファルナ、そして『偽りの仮面使』の髪の毛の手。それだけなのだ。
ファルナはここにいる。自分もここにいる。
ならば消去法で自分の足を切ったののは『偽りの仮面使』の髪の毛の手だけなのだ。それを知った瞬間、ショーマはとある事実を知ると同時に、仰向けに倒れていたその状態から早く起き上がろうと片足をばたつかせつつ、引きつったそれを浮かべながらショーマは震える声を零した。
「ま、まさか……、マジかよ」
泣いているのではない。恐怖を抱いているのではない。まさかと言う衝撃を覚えながら――ショーマは引きつった笑みを浮かべ、そしてファルナのことを絶対に離さない勢いでぐっと抱き寄せると――ショーマは言ったのだ。
今まさに、自分の顔に自分の物だったそれを『ぱたたっ』と落としながらどんどんと距離を詰めているそれを見上げ、どんどんと込み上げてくるまさかと言う予想だにしないようなことを想像しながら、それが来てしまえば終わりだと思いながら、ショーマは震える声で言ったのだ。
「お前……、その髪の毛自由自在に変えることができるのかよ……っ!? 聞いてねえって……!」
ショーマは言う。震える声でその言葉を零すと、その言葉を聞いていたのか、それともショーマのその引きつった顔を見て面白いと思い、その顔をもっと見たいと本能が囁いたのか、『偽りの仮面使』の髪の毛の手は、うねりうねりとショーマのそれがついているにもかかわらず、蛇の様に動き回る。
うねりうねりと……、ショーマの引きつった顔を観賞しながら、その動きの中周りにいたのだろうか、ショーマのそれをつけた髪の毛の手のほかに、いろんな髪の毛の手たちがショーマのことを見上げるためにどんどんと集まってくる。
うねり、うねりと……、手のどこかに目があるのかと言わんばかりの動きをしながら――『偽りの仮面使』の髪の毛の手たちは今まさに仰向けに倒れ、そしてファルナの下敷になってしまっているショーマのことをじっと見つめている……ように見える。
ショーマのことを取り囲むように見降ろすその光景を見たショーマは、背筋に着いた液体の気色悪さ以上に、背筋を這う悪寒が勝った感覚を覚えたショーマは、すぐにでもここから逃げようと、ファルナを安全な場所に届けようという一心で、彼は行動を起こす。
「ふぐ! うう! むぅうぅぅう!」
じたじた。ばたばた。じたじた。ばたばた。
左足が部位破壊されている状態の中、ショーマは何とかしてこの場所から逃げようと片足だけをばたつかせ、ファルナのことを抱えている手を離さないようにしっかりと握った状態で逃げようとしたのだが、結局使おうとしているのは足だけ。
それでは起き上がるどころかその場から動くことも困難だろう。
しかもこの状況のせいなのか、声もうまく出せなくなっているショーマは、ますます緊迫を加速させ、この場で助けを求めるという選択肢を己の手で消滅させてしまう。
だがそれでもショーマは動こうと躍起になり、低く、殺すようなうめき声を上げながらこの状況を打破しようと目論む。
早く、早くこの状況から脱しないと。そう思ったショーマは暴れながらファルナと一緒にこの場所から逃げようと目論み、そしてその視線を『偽りの仮面使』の髪の毛の手達に向けた瞬間――
「?」
ショーマは驚きの目を向けながら今目の前にいるその手たちのことを見た。そして――仰向けになりながら目を点にした。今起きている状況を呑み込めず、そのままその光景を凝視しながら、ショーマは仰向けの状態で目を点にし、逃げることをいったん中断した。
なぜ? 理由は案外簡単なことだ。
ショーマが目を点にして目の前を見た理由……。それは――
『偽りの仮面使』の髪の毛の手達が、一向にショーマに向かって襲いに来なかったからだ。
目の前に己の顔を傷つけたはずの張本人がいるはずなのに、人質を連れ去刀とした張本人が目の前にいるはずなのに、『偽りの仮面使』の髪の毛の手達はショーマを目の前にしても、何も行動しなかった。
いいや、行動こそはしたが、それはこの状況ではあまり網がない行動だった。
言葉も何も発しない『偽りの仮面使』の髪の毛の手達は、ただただ変に呻き声を上げていたショーマのことを見降ろした後、そのままうごうごと辺りを動き、『偽りの仮面使』の頭の上をまるでその小さな手で撫で、その手の感触だけでその頭の上で何が起きたのかを確認をしただけだった。
べたべたとショーマの足だったそれに触れたり、べちゃべちゃと赤い液体がこぼれているその箇所を撫でたり、そして己の髪の毛をひと房とるとその髪の毛の質を確かめるように撫でたり、握ったり……。そのような頭の確認をしながら髪の毛の手たちは辺りをうろついていた。
ショーマのことを無視して……、どころか顔があるかどうかも定かではないので、ショーマのことを見ているのかも分からない状態だ。と言うか――ショーマのことなど見えていないのだ。
ネタを明かすとすると……、実際のところ、この髪の毛の手たちは確かにショーマの足を切った。だがそれは髪の毛が斬られてしまったからこそ、奇襲を受けている。そう認識した『偽りの仮面使』は髪の毛を切ったであろうショーマがいるその場所に髪の毛を集中させ、そして――足を切ったのだ。
そう――感覚だけで『偽りの仮面使』はショーマの足を切り落とし、落としたあとでその死体がちゃんとあるかどうか。そしてその死体がしっかりと死んでいるかを確認するためだけにいくつもの髪の毛の手たちを招集したのだ。
一部の髪の毛をショーマがいるその場所に集中させ、ほかの髪の毛と腕だけでコウガ達を殺そうとしながら……、一人でいくつものことをこなすその光景はよく見る仕事ができる女そのものに見えるかもしれない。
いいや――この場合は魔物なのだが、そのような言葉が最初に出てしまうほど、摂食交配生物『偽りの仮面使』は人並みの知性を兼ね備えているということになるが、それでもできないことがあるのも事実だ。
勿論殺すことにも髪の毛は行動をする。だがそれは視界があってこその行動で、視界がないその髪の毛がまるで蛇の様に赤外線で反応するものならば話は別だが、『偽りの仮面使』であれどそのようなものなど備わっていない。
だからこそ確認を感覚だけでしている。二つの目ではできない分感覚を敏感にさせ、ショーマが倒れているであろうその場所を撫でたりしているその光景を見ていたショーマは、その光景を見ながら驚きつつも、まさかと思いながらショーマは思った。
思った。そう、口にしないで思ったのだ。
――もしかして……、俺に気付いていない?
ショーマは思った。彼にしてはとてつもなく珍しい事ではあるが、その珍しいことに気付いたショーマは驚きつつも辺りを触りながら確認しているその髪の毛たちを見、そして自分に近づいていないところを見て、ショーマはショーマなりに確信を得た。
――こいつら……、なんだか知らねーけど俺に気付いていないみたいだ。てかさわさわしながら確認しているところを見て、もしかして俺の声聞こえてねーんじゃ……。俺唸ったりしていたし、それにじたばた動いていたけどそれにも気づいていない……のか? まぁそこまでは俺にもわかんねー!
――でも確信はある! こいつらは俺に気付いていない。今こそ、絶好のチャーンス! だ!
ショーマは思った。
今自分が置かれている状況に驚きはしたものの、この状況を好機として見て、そして運が良ければこのままこの場所から脱術をして逃げれるかもしれない。
そう思ったショーマは今まで蒼白だったその顔をすぐに元に戻し、そのあとすぐにギラリと目を光らせながら片足だけの足に力を入れつつ、細心の注意を払いながらその場所から少しずつ、本当に少しずつと言う速度で……、亀以上に遅く、そしてナマケモノ並みの速度で離れることを試みる。
ずっ……。ずっ……。
片足を使った仰向けの匍匐前進をゆっくりとした速度で使い、ファルナのことを傷つけないように、そして感覚的にもあと少しで治りそうな左足の回復を待ちながら……、ショーマは細心に注意と言う警戒信号を発しながらその場所を離れる。
背泳ぎのように動き、ショーマは呼吸を荒くしないように、鼻で「ふー……っ。ふー……っ」と息をかすかに零し、少しの酸素と少しの二酸化炭素の往復で人間の呼吸を無理矢理成立させていく。
本来であれば、このような呼吸では呼吸と言う名の酸素を取り入れられないのだが、それでもショーマは音を立てないように、ゆぅっくりとした背泳ぎのような匍匐前進を行う。
勿論――ファルナのことは絶対に話さない。
「ふー……っ。う……! ふぅー……。ふぅー。すぅーっ。ふー……! うっ! ふぅー……」
きつく噛みしめている口から――きつく閉ざした歯の間から空気が漏れる様な感覚を感じ、むき出しになった歯がなぜか渇いて行くような、それでいて冷たくなるような感覚を覚えていく。
知覚過敏ではないのに、その感覚がショーマのことを襲い、喉の奥に突き刺さる空気がショーマの喉を刺激し、咳き込むようなそれを引き起こそうとしているが、それを何とか耐えながらショーマは堪える。
体にこびりつくようにどんどんと汗を零し、そして体に付着した液体と混ざり長ショーマの体をべたべたと濡らしていく。
その体に着いた液体と汗が滑りをよくしているのか、服の摩擦を緩和しているようで、今のところ『偽りの仮面使』の髪の毛の手たちは気付いていない。ショーマは倒れたところを未だに捜索中だ。
「!」
その光景を抱えているファルナ越しに見、そして手たちの光景を見ていたショーマは、心の中で良しと呟き、そしてどんどん己の足が生えて回復している感覚を感じたとき、ショーマはよしよし! と心の中でガッツポーズを出しながら慎重さを忘れずにその場から距離をとっていく。
――このまま離れて、そんでそのまま肩に向かって落ちれば、あとはファルナのことを守りつつ腕を走って……、んで周りを飛んでいるクロゥさんとツグミに向かって叫べば……、あとは倒すことに専念するだけ!
――おいおいおいおいおい……! これって俺、今回ばかりは本当に運がいいような状況なんじゃねえのか? 俺このまま珍しい活躍をして滅茶苦茶強くなるとか……、そんな未来、アリじゃね? ぐへへへへ……!
――っは! いや、今はそんなこと考えている暇なんてねえんだっ! 今は目の前のことに集中! 集中してから喜べ俺! そんな妄想をしている暇は、ねえ!
カッと見開き、そして目の前のことに再度集中を研ぎ澄ませるショーマ。片足しか動けないその状態から、慎重かつ静かにその場所から離れ、そして次の一手に備えて動こうと試みるが、一瞬だけ滑稽に見える様なそれを見て、本当に一瞬気持ちが緩むような顔をしてしまったショーマ。
だがそれもすぐにかき消し、集中を再度研ぎ澄ませながらその場からの避難を試みつつ、心の中で集中しろ……! 集中しろと己に向けてその言葉を唱える。
暗示をかけるように、そのフレーズを何度も唱えながら……。
ず……っ。ず……っ。ず……っ。
少しずつ、本当に少しずつだが、ショーマは『偽りの仮面使』の髪の毛の手たちから距離をとっている。ファルナと一緒になって、その場所から離れていく。未だにショーマたちが倒れたその場所で今はいないショーマたちのことを探しているが、頭の先を見上げると、あと少しで自分が上り切ったその場所に辿り着くところだ。
その光景を見て、ショーマはあんどのそれを小さく、本当に小さく吐きながら肩に入っていた力を微かに落とす。
今の今まで、背泳ぎめいた匍匐前進をしていたが、この状況が本当に緊迫していたとショーマは心から思った。改めて知らされた。のほうがいいのかもしれない。
なにせ――戦闘中は戦いながらも考え、攻撃をし、そして時には反射神経を駆使して避けながら常に体を動かしながら戦っているが、今回は違った緊迫感であり、戦いにはないそれをショーマは痛感していた。
声を出せば殺される。音を大きくしてしまえば殺される。変な動きをしてしまえば殺される。大きな動きをしてしまえば殺される。
何をしたとしても殺されてしまうような異常な危機感と緊張感。
それを感じながらショーマは思ったのだ。
――前にメグに言われていたな……。俺にサバゲーは向いていない。あんたはすぐに騒ぐから絶対に見つかる。そして『頭隠して尻隠さず』なんだから、絶対に無理。って……、言われていたような気がする。
――まぁ……、それは俺自思っていたし、それに俺はそんなステルス系……? とか、サバゲー系のゲームは不得意なんだよ。俺は……こう言ったアドベンチャーが好きなんだよ。
――ワクワクしたり、みんなと戦ったり、そして、勝ちを共有したり、負けを共有したり、力を合わせたりして物語を進めるこの感覚が好きなんだよ。
――お前に……、人の気持ちを踏みにじる様な奴にそんなこと言われる筋合いはねえんだよ。
ショーマは思った。否――思い出した。の方がいいのかもしれない。
ショーマは思い出していた。昔、VRではないMMOのゲームで遊んでいたガンゲームのことを。そしてその時遊んでいたツグミとメグに迷惑をかけて負けてしまったことを思い出すと同時に、その時メグに言われたことを思い出しながら、ショーマは思い出す。
あの時――負けて本当に悔しかったのか、メグはショーマに対して八つ当たりめいた言葉を投げた都の時のことを思い出すと同時に、ショーマは前にハンナから聞いたメグのことを思い出し、心にとある誓いを立てながら、あおむけの状態で上空を見上げる。
死と隣り合わせのような状況でも、さんさんと自分達のことを照らす太陽と、青く染まる場違いの様に見える空を見上げながら……、ショーマはその場でぐっと唇を噤み、そしてファルナのことを今一度己に抱き寄せるように抱えると、ショーマは小さな声で「よし」といい、そしてこのまま落ちようとした――
瞬間……。
「――?」
ふと――ショーマの視界の右端に入った微かな日の遮り。
それを感じたショーマは首を傾げるように再度仰向けになった状態で一体何が火の光を遮ったのだろうと思いながら、ショーマはその上空を見上げる。
勿論――この場合その太陽の前で鳥が飛んでいたのだろう。という思考が真っ先に浮かぶかもしれない。誰もがそう思うであろうが、そんなことありえないのだ。
何故ありえないのか?
そう、ありえない原因を作っている存在――『偽りの仮面使』の存在のせいで、この場で飛んでいた鳥や生物達が逃げるようにこの場を去ってしまい、そのせいでこの場所に鳥や生物がいなくなってしまったのだ。
一時的ではあるが、それでもいなくなってしまったことは事実。
そしてその事実に関してはショーマ自身もなんとなくだが察しており、この辺りにいる鳥達がいないような気がすると思いながら戦っていたので、ショーマは不意に太陽の光を一瞬、ほんの一瞬だけ遮った何かが何なのか、気になってしまったのだ。
ゆえに再度仰向けになって見上げるショーマ。
この世界を照らす太陽をじーっと見つめ、そして太陽の先に何がいるのかと思いながらショーマは視線を太陽に向ける。
目を凝らすように顰め、その状態で太陽を遮ったそれが一体何なのかと思いながら原因を突き止めようとした。もしかすると『偽りの仮面使』の罠かもしれないと思いながら、もし来たとしても返り討ちにしてやろうと思いながら、ショーマは目を凝らして太陽の前にある何かを確かめようとした。
だが、この行動をせず、そのまま肩に向かって下りればもしかすると本当に奇跡のような脱出ができたかもしれないのに、ショーマはなぜかこの行動をして、己の脱出の道を自ら断ってしまったことに、まだ気付いていなかった。
覚えているであろうか。
ショーマの運のモルグのことを。
彼は稀に見ない悪運の持ち主で、彼の運はなぜか-9であり、数値にすると-936になってしまう。神力以外のステータスがマイナスになっている存在なのだ。
ゆえにショーマが何かした瞬間、忽ち不運なことに見舞われるのだ。
アルテットミアでグランドビックボア二体に出くわしたことも。アクアロイアに行くはずが王都に行ってしまい、その間ずっと牢獄生活を強いられたことも、そしてボロボ空中都市でも、『残り香』の攻撃をはじいたせいで被害が拡大し、なぜかショーマ達に転がり込んできたことも。
全部がショーマの不運のステータスのせいでなってしまっていたのだ。
つまり――ショーマが何をしたとしても必ず成功するとは限らない。比で言うと……、成功1に対し失敗999と言う割合 (1:999)。
結局のところ、ショーマには悪いが、彼がどのように頑張った方と言って、不運に見舞われることは必然なのかもしれない。そしてその必然は――今まさにショーマの目の間で起きている。
そう。ショーマの目の前で、太陽の光を一瞬遮った正体が太陽を背にしてどんどんとショーマに向かって落ちて来ると、そのままショーマの左の視界に向かってずれて落ち、そしてそのままショーマの左耳の近くで……。
トンッ!
と言う音を立てて、ショーマの顔の左側に落ち、そのままころころと転がって真正面に向かって落ちていく――石ころ。
「? ………………………。――っっっっっっ!!」
なんで石ころがこんなところに? そう一瞬、本当に一瞬そう思ったショーマではあったが、すぐに顔面をざぁぁっ! と蒼白にさせ、全身の汗が吹きだすと同時にショーマはすぐにその場から一目散に、慎重と言う言葉と行動をその場に置いて逃げようとした。
と同時に――今までショーマがいたその場所を手探りで探していた『偽りの仮面使』の髪の毛の手達の指先がびくりと強張り、それと同時に――
ぐわり! と、五指を開いた状態で威嚇をするようにその五指の先にある研ぎ澄まされた爪のようなものを見せつけると、髪の毛の手達は石ころが当たった方向――ショーマがいるその場所に狙いを定める。
「マジか……っ!」
ショーマは愕然と言う声と顔で今まさに自分質に向けて狙いを言定めているその手達のことを見ながら声を零す。そう――今まで音も何も発さない状態でいたからこそ気付かれなかったのに、石ころの音と衝撃、強い衝撃を感じた瞬間手達が動き出したのだ。
その場所に――ショーマがいると。
そう気付いてしまったのだ。
ショーマは動いていない。ただ石ころが当たっただけなのだがショーマは己の運の悪さを呪いながら歯を食いしばり、心の中で『くそ』と思いながら絶対絶命への道を歩みかける。




