PLAY92 仮面使⑤
最初こそ、彼らだけで摂食交配生物――『偽りの仮面使』を討伐できるか心配だった人がいるであろう。そしてそれは今でも拭いきれないと思っているかもしれない。
それは今現在その魔物と相対し、戦っているツグミ、コウガ、むぃ、そしてデュランも思っている。
相手は知識を奪い、技術を奪い、姑息な手をあらゆるところで使う最も倒しにくい魔物なのだ。
ゲームでよく見る長期戦にもつれ込ませるようなことをあらゆる手で使う魔物。
そして『更に』と言う言葉なんていらない状況の中、『偽りの仮面使』はゲームでおなじみの第二形態になり、ショーマ達を驚かせ、ファルナを人質に取り彼らの心を削ごうとした。
関係のないファルナの腕を折るという凶行を行いながら、『偽りの仮面使』は姑息と言う名の行動を余すことなく酷使した。
普通の人ならばその状況の中人質も取られ、絶体絶命と思ってしまい武器を握る力を弱くしてしまうかもしれない。
その中でも気合で立ち向かい、戦う者もいるかもしれないが、それでも心に与えた傷は拭えない。
否――この場合は技にも、そして体制にも影響をするのでこの攻撃はかなりの痛手となってしまっている。
前にも話したが、この世界には『モルグ』と言う強さのパラメーターがある。
その『モルグ』のレベルが高ければ高いほど強いという証明になるが、その『モルグ』の中にはレベルが激しく変動するものが存在する。
それは――『神力』
神力は心そのものであると同時に、その神力が下がってしまうと、状態異常にかかりやすくなったり、『窃盗』などのスキルを受けやすくなったり、あとは詠唱を持っていたとしても神力がなければ出ないこともある。
前にリンドーとガザドラの時もそのようなことがあったが、今回の場合この精神攻撃を受けてしまうと、使える詠唱が使えなくなるという事態を引き起こしてしまうと可能性も高いのだ。
精神と言うものは案外脆く、そして回復が難しいもの。
心の傷と同様に、その衝撃を受けただけで大きなダメージとなってしまう。そしてそれを回復させることは不可能で、戻すことに関しては相当な時間を要する。
さて――なぜこのようなことを説明する必要があるのかと誰もが思うであろう。
その理由は――簡単だ。
『偽りの仮面使』は人間を喰い、そして技術と知識を得て、姑息な人格を形成した。その人格を使って、『偽りの仮面使』は利用をしたのだ。
ファルナと言う存在を利用し、使い、ショーマ達の神力とデュランの神力を削り、詠唱を放てないように仕向ける。それが『偽りの仮面使』がファルナに対して行った行動の心意。
まさに姑息。まさに外道の行い。
いくら人間であろうとこのようなことをする者は数を数えるほどしかいないであろう。それを躊躇いもなく行う『偽りの仮面使』は、もはや天使などではない。悪魔そのものの思考回路の存在だと、誰もが言うであろう。
しかし――運命はそこまで『偽りの仮面使』に対して甘い目で見ていない。味方していないのも事実だ。
その姑息な行動に臆するどころか、その姑息な魔物に対して詠唱もレベルも低いショーマが我先にと立ち向かい、そして摂食交配生物と恐れられる『偽りの仮面使』に向けて刀を振るい、そしてその顔に傷をつけると同時に、こう言い放ったのだ。
「もう一度言うぜ……っ! ファルナを……、放せ!」
その言葉を聞いた瞬間、誰もが思っただろう。
今まで悪い方向に向かって行きそうになったその流れを止めた。絶望への一本通行を止め、その道に分かれ道を作り、希望のそれをかける。
その希望の道もボロボロになってしまったつり橋のような脆さだが、それでもショーマが作ったそれを無駄にしないために、彼らは動く!
◆ ◆
「ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいぎぃいいいいいいいいいいええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええああああああああがあああああああっっっっっ!!」
「うぎゃっ!? おぎゃーっっ!」
「っ!」
「にゃぁぁ……っ!」
「う、るせ――!」
ショーマが摂食交配生物――『偽りの仮面使』の美しい顔に向けて縦一文字の切り傷を残したと同時に、その顔から微量の黒い血を流した瞬間、その痛みを感じた『偽りの仮面使』は再度顔を両手で覆い、そのまま痛みに体を動かし、絶叫をしながら激痛に狂う。
ぶんぶんっと頭を振るい、そして髪の毛を乱しながら、『偽りの仮面使』は痛みを声で、体で訴える。振り乱し、そして体のところにいるコウガ達のことを振り落とそうとする勢いで――!
「おわー……、何だありゃ……」
「どうやら、痛みで我を忘れているのでしょう……。あの魔物は案外斬撃に弱いという弱点を有していると、記録にあります」
「記録? 記録って、もしかしてこんなこと一回あったんですか? こんな性格ブス魔物相手に、戦ったことがあるんですか?」
その話をしていたツグミとクロゥディグルは、今目の前で行われている光景を見ながら驚きと言うよりも絶句と言う顔でその光景を見ている。
まるでヒステリックを起こした曽祖母みたいだ……。そんなことを思いながらツグミが見ていると、その光景を見ていたクロゥディグルは思い出したかのように言葉を零すと、その言葉を聞いたツグミは首を傾げながら前にもあったのかと聞くと、そのことに関してクロゥディグルは口をきつく閉ざした。
そっと目を伏せ、何か辛いことを思い出したかのような顔をしながら――クロゥディグルは視線を下に移した。
その光景を見ていたツグミは内心やばいことをしたかもと思いながらおずおずと言ったような引きつった笑みで謝ろうとしたが、その高度をする前にクロゥディグルはそっと顔を上げ、そして再度『偽りの仮面使』のことを見た瞬間、クロゥディグルは重い口を開けた瞬間――重苦しい言葉を零した。
「はい……、千年前に。ボロボ空中都市を襲い、そして多大な被害と犠牲を生んだ時に、判明したのです」
「!」
「ですが、このような姿になったのは初めてで、記録にもなかったので驚きました。これが本当の姿なのかと思うと……、憤りを感じます」
クロゥディグルは言う。前にもこのような状況があったこと、そして子のような姿を隠しながらもあの状態でてこずり、多大な犠牲を生んだあの時のことを思い出しながら、その時参加した我が父のことを思い出しながら……、クロゥディグルは言った。
憤りを感じつつも、今は目の前のことに集中することを決めた顔で、彼ははっきりとした音色で言った。
「ですが……、今は今やるべきことを遂行する。それだけです。過去を今悔やんでいても、過去を変えることはできません」
「そうだね。僕もそれは何度も聞かされたから、分かるよ」
クロゥディグルの言葉にツグミは頷きながらふと――あの時聞いた言葉を思い出す。
そう――あの時、自分達が犯した罪を変えたいと言ったが、その言葉を聞いていた目の前の大人に……、帰られないことを、そしてそれをいつまでも悔やんではいけないということを教えてくれた偉い人のことを思い出しながら、ツグミは言う。
頷きながら、その言葉を、重いようで軽いようにも聞こえる様な言葉を零す。
「ご理解ありがとうございます。そして少しばかりのおしゃべりに付き合っていただき申し訳ございません。今はその感傷に浸る時間ではなりません。今は――相手に捕まっているファルナを助け、そして助力することが最優先ですね」
「そうだね。じゃ、サッサとするか」
それを聞いたクロゥディグル無言で頷き、礼を述べた後――再度『偽りの仮面使』に視線をツグミと一緒に向けた後、クロゥディグルはその翼をばさりと大きく動かし、その場で風を起こすようにぶぉんっっ! と羽ばたかせると、ツグミはその巻き上げられた風を受けながら帽子を掴み、クロゥディグルの首の辺りにしがみついて落ちないように構えると……、クロゥディグルは言う。
ばさりと――竜の翼を羽ばたかせながら、ツグミのことを守るように手でツグミのことを追おうように添えると、彼は飛ぶ。
大きく翼を羽ばたかせ、己が出せるスピードで滑空しながらクロゥディグルは言った。
「しっかり掴まっててください!」
「もうあんたの手が僕のことを守ってくれているからすごく安心だし僕も掴まっているからお相子ねーっ!」
クロゥディグルの言葉に、ツグミは目の前にある手のおかげで安心感とぬくもりを感じながら安堵のそれを吐きかけそうになったがそこはぐっと安堵のそれを心の中にしまい、そのままクロゥディグルに甘えるようにしがみついてクロゥディグルから離れないようにする。
今まで直立のように立っていた体制から横になったので、ツグミ自身横の態勢はきついと感じていたが、クロゥディグルの手のおかげでなんとかそのきつさも緩和できている。そのことを感じつつも、ツグミは手に持っている杖に力を入れ、クロゥディグルの手の中でツグミは今度こそと言わんばかりの覚悟を決める。
もう何度目になるのかわからない覚悟ではあるが、今回で最後でもあり、三度目の正直ともなる覚悟。
ここまで来てしまったのならもうやけくそ。このまま逃げるなんて言う選択肢はもう消えているんだ。
覚悟を決めて、もう最後までやり遂げてやる。
そう決め、ツグミはぐっと顔を引き締めて目の前にいる魔物――『偽りの仮面使』に敵意を向ける。
どうなっているのかクロゥディグルの手のせいでよく見えないが、それd燃え、できる限りのことをしよう。そう誓った。
◆ ◆
ツグミとクロゥディグルがやっと行動に移したその時――
「ぎぃいいいいいいいいいいえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」
ショーマに手によって顔に傷がつき、その箇所からドロドロと零れだす己の生命の水を鞭と剣を持っている手で押さえ叫び暴れている『偽りの仮面使』。あらんかぎり叫び、あらんかぎり髪を振り乱し、そしてあらんかぎりのあばれで腕のところにいるコウガ達や拘束されてしまっているファルナ。そして落ちたと同時に『偽りの仮面使』の肩のあたりに着地していたショーマは、まるで地震のように揺れ動くその体の上で、何とか体制を保ちながら落ちないように踏ん張っていた。
コウガは『偽りの仮面使』の腕に苦無を突き刺してむぃを落とさないようにし、デュランは軽快なステップで駆け上がりつつ、そして安全な場所に足を乗せていくが、ショーマだけは首がある右肩のところに着地をしており、ぐわんぐわんと揺れるその肩の上で「おおぉ! っととと!」と声を漏らしながら達磨のように左右に揺れながらバランスをとっている。
だが、ショーマはそのバランスをとりながらも、視界を上に向け、その上にいる……、否、『偽りの仮面使』の頭上にいるであろうファルナのことを見上げる。おぼつかない足場の中、何とかその上を見上げ、ショーマは手に持っていた得物の刀を口元に持っていく。
がちんっ! と、その刀を鞘に納めるという行為よりも、口に持っていき刃がある方を前にして強く噛みつくと、ショーマは何とか自由になったその両手両足を使って、もう一度『偽りの仮面使』の体を掴む。
がしっと――体を掴むのではなく、その体の肉をつまむように……、ショーマは最後上を見上げ、その視線の先にいる――暴れているせいでその磔が揺れ、ほどけそうになっている髪の毛を見上げながら、ショーマは駆け上がる。
先ほど行ったことと全く同じ――ボルダリングを!
「ふぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
ショーマは唸り声のような声を上げて『偽りの仮面使』の体を壁として登っていく。首を最初にし、そのまま耳、そして髪の毛を掻い潜りながら駆け上がり、ファルナがいるその場所まで何とか気合で、本当に気合と言う名のそれだけで駆け上がっていく。
ふーっ! ふーっ! ふーっ! と零れる二酸化炭素。犬のように何かを咥えながら駆け上がっているせいか、口の中の唾液がいつも以上に分泌され、それと同時に口の端からそれがこぼれ出てしまう。なんとも汚い姿だが、ショーマ自身そんなことを考えている暇などない。ただただ無我夢中のままファルナのことを助けようと奮起しているだけ。
奮起をしているだけなのだが、このボルダリングだけで大半の体力が持っていかれそうな気持になってしまうショーマ。それでもファルナを助けるために、一心不乱に駆け上がっていく。
まさに猪突猛進の猪のように――
「ふぐぐううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっっっ!」
そんな光景を見ていたコウガは暴れるその腕の中で振り落とされないようにしながら内心……、何やっているんだと思いながら見ていたが、その心の声は一瞬にして消え去ってしまう。
「! ぎいいいいいいいいっっ!」
そう――今まで暴れていた『偽りの仮面使』がようやくと言わんばかりに顔を振り乱すことをやめ、一旦落ち着きを取り戻した顔をすると同時に怒りの目でショーマのことを睨んだ後……。『偽りの仮面使』は怨恨のその声を上げ、そして髪の毛の手とショーマの近くにあった手を使って、ショーマのことを捕まえようと攻撃を始めたのだ。
しかも――いくつもの手がショーマの背後、前方、左右に来る光景を見て、ショーマはぎょっとしながらボルダリングの速度を上げジグザグに登りを続ける。
「ぎぎぎゃああああああああっっ!」
「わっ! と、おぉ! うひー! おだぁ!」
『偽りの仮面使』の怒りの声と同時に迫りくる手の応酬。その応酬から避けるようにショーマは逃げながらボルダリングを続ける。
体を曲げて避け、足を上げて避け、手を一瞬放しながら避けるという危ないという言葉がこぼれそうな行動をしながらショーマは登り続ける。
その光景を見ていたデュランは呆れるような溜息と共に――小さな声で「何をしているんだ……、そんなことをしてしまえばいつかは殺されてしまうぞ」とこぼすと同時に、デュランは前足の蹄をかっ! と鳴らした後、流れる様な動作でその場から駆け出し、そしてそのまま跳躍をして、ショーマがいるであろうその場所に向かって飛ぶ。
否――跳ぶ。のほうが正しいだろう。
とん! とん! たん! と、軽快なリズムで足場に乗り、そして次の足場に乗ってショーマに向かって近付くデュラン。
跳んでいる最中、槍を片手で回しながら駆け出すデュランだが、その表情 (ないので見えないが)には少しばかりの焦りが見えるが、それでも失敗をするという思考は今のデュランにはなかった。
なにせ相手は手と髪の毛。
それならば先ほども詠唱を使って切り裂いた。それから察するに『偽りの仮面使』は斬撃系に弱いことを察したデュラン。
――そして、前に先代から聞いた話だが、『偽りの仮面使』は闇属性にも効くと聞いた。これをうまく使えば――この戦い、勝てない戦いにならないだろう。
そう思ったデュランは、ちらりと視線の端に映る苦無を突き刺してしがみついているコウガとむぃのことを見つけると、その場で足を止め、デュランはコウガ達に向けてこう叫んだ。
「コウガッ! むぃ!」
「!」
「あ! デュランさんっ!」
デュランの叫びを遠くから聞いていたコウガは驚きの顔をしながら顔を上げ、そしてその光景を見ていたむぃはコウガの背にしがみついた状態で見上げると、デュランは二人に向かって自分が持つ情報をコウガ達に向けて伝えた。
「こいつは斬撃と闇属性が苦手だ! お前が持つ『闇纏刀』を使えばこの状況を変えることができるはずだ!」
「あぁ……? マジかよ」
「本当だ! 我はこのままショーマの加勢に行く! その後で応戦をする! できるだけでいい――無理をするなっ!」
「あおい!」
「無理をしないで戦うのは少々やあああああ~行っちゃったですぅ!」
デュランは『偽りの仮面使』の弱点について口頭で伝えると、その言葉を聞いたコウガは驚きの顔をむぃと一緒にすると伝え終えたデュランはそのまま駆け出し、今度はショーマに加勢に行くと言い出して再度跳んで移動していってしまう。
コウガとむぃはその光景を見つつ、無理をしないで戦うことに関しては少々自身がないと言おうとしたのだが、それを聞くこともせず、デュランは聞く耳を持っていない様子で行ってしまい、それを見てコウガはデュランの背に向けて舌打ちを零し、その後コウガは苦無を持っている手とは反対の手に持っている忍刀を逆手に持つと、その忍刀にスキルの力を込めながら――コウガは言う。
ずずずずっと忍刀の刀身に纏わりつく黒い靄を見ながら、コウガは言う。
「忍法――『闇纏刀』」
その声と同時に、コウガは逆手に持っていたその忍刀を這いつくばる体制で振り上げ、その状態で勢いをつけるように――『偽りの仮面使』の腕に深く突き刺す。
どすぅ! という音と同時に、突き刺さったところから微量の黒い血が流れていくと、その痛みを感じたのか、『偽りの仮面使』が肩をびくりと震わせ、その怒りに満ち溢れた顔を歪ませた瞬間――
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
と、またしても叫びを上げ、今度はコウガがいるその場所をいくつもの手で押さえつけようと手を伸ばす。
伸ばされたその手を見て、攻撃を受けていたショーマは安堵のそれを吐くと同時に、また攻撃をしてくる髪の手の殴りを避けながら、器用にボルダリングを続ける。
デュランもコウガの攻撃、そして傷を押さえるその行動を見ながら、駆け出す速度を上げて動いているその腕に向かって飛び移ると、その腕の移動をものともしない速度でどんどんとショーマに向かって駆け出す。
『偽りの仮面使』の腕の上を走り、そして次の腕に飛び移りを繰り返すという常人では考えられないような移動行動を。否――まるでその腕の上を地面として回るように駆け上がりながらデュランはショーマがいるその場所まで向かう。
デュランの行動、そしてショーマの行動を見ながらコウガはどんどん迫りくる『偽りの仮面使』の手の接近に、コウガはむぃのことを担いだ状態で即座に忍刀を引き抜き、その場から駆け出すように肩に向かって上りながら逃げると――『偽りの仮面使』の手達はコウガの人頭が突き刺さった個所をいくつもの手で覆い、そして止血をするように数本の髪の毛の手たちがまとわりついて来る。
「――っ!」
コウガとむぃは驚いた。言葉が出ないような驚きを感じながらその光景を見た。しゅるしゅるしゅると――包帯を巻くかのようにその髪の毛たちはコウガが突き刺した箇所に纏わりつき、そして一瞬のうちにその止血を終わらせてしまう。
勿論――止血と言ってもちゃんとした回復ではなく、髪の毛と言う包帯を使った簡素な止血だ。
だが、それでもコウガに至ってすれば……、攻撃をしたとしてもすぐに行動を止めることができない。
すぐに攻撃を仕掛けることができりと言う証明現場を見たせいで、疲れていたその顔を消し、引きつった笑みと共にコウガはむぃと一緒にその光景を見ながら言葉を零す。
背にしがみついているむぃもその光景を見て、ぶるぶると耳を震わせ、コウガは逆手に持った忍刀を微かに震わせながら、コウガは言った。
目の前で――止血を追えると同時にコウガ達のことを横目で睨みつける『偽りの仮面使』と、その僕ともいえる様な存在――髪の毛の手と伸ばしていた手達はがコウガとむぃのことを握りつぶさんばかりに五指を開いているその光景を見て……。
「…………圧殺するつもりかよ……!」
コウガがそう言った瞬間、今まで五指を開いて待っていた手達が、コウガのその言葉を聞くと同時に合図でも聞いたかのような一斉奇襲を仕掛けてくる。
ぐわりと――髪の毛の手と四本の手の大波がコウガ達のことを呑み込まんばかりに襲い掛かり、その光景を見たコウガはぎょっと目をひん剥かせて驚き、その光景を見たむぃもひぃっと上ずった声を上げてその光景を見上げていた。
………………………それから、ショーマ達は。
――ざしゅぅ! と、ショーマのことを捕まえて殴り殺そうとしていた髪の毛の手たちを切り裂き、そして驚いて固まってしまっているショーマに向けて切り裂いたデュランは大きな声でショーマに向けて叫んだ。
勿論――叫びながら纏わりつこうとしている髪の毛を切り裂きながら、デュランは叫ぶ。
「いけぇ! 阿呆!」
「! 兄貴ぃ! ありがとうございますぅ!」
叫びを聞くと同時に、その声がショーマの活力剤となったのか、ショーマは一瞬止まっていたその時間を名誉挽回するかのように常人とは思えないような速度でボルダリングを使って駆け上がり、そしてようやく――ファルナがいるその頭の頂点、つまりは頂上に着いたショーマ。
ふぅっと一息つきながら口に咥えていた刀を再度手に持ち、そのまま彼女のことを拘束している髪の毛をギッと睨みつけると――
「おあちゃあああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
と、なぜか中国の掛け声の如くの声を上げながら、ショーマはファルナを縛り付けているその髪の毛をばっさばっさばっさ! と切りつけ、そしてぶつ切りの如く切り裂く。もちろん――ファルナのことを傷つけないように細心の注意を払うと、拘束していたそれが無くなり、そして体を支えていたそれがなくなったファルナは、そのまま翼を使わずに重力に従って『偽りの仮面使』の頭上に向かって落ちていく。
「おおおっととととっ! せい! ファルナ! 平気かっ!?」
その光景を見ていたショーマは何とか落ちて来るファルナのことを何とか抱え、横抱きにしながらショーマはファルナの顔をそっと覗き込むと、生死の確認をする。
すると――
「………………………う、ううん」
「よし! 生きている……!」
ファルナは唸るよう声を出すと同時にもぞりと体を動かす。その声と動きを感じたショーマは頷きつつも安堵のそれを吐いた後、彼は辺りを見回して焦りを出しながらこんなことを思った。
――でもこいつの腕やばいな……! 何とかして急患しねーと! クロゥさんに頼んでこいつだけでも鳥人族の郷に向かわせるかっ? でもこの状態でどうやって! あ! ツグミいるからツグミに腕を、いやいや! あいつが使役しているモンスターにそんな技術を持っている魔物なんていねー! どうする? あ―どうすればいいんだよぉ! こんな時、はなっぺがいてくれたら……! てか今になってはなっぺのありがたみがひしひしとぉぉぉ……………!
悶々とした思考の中、あまり回転が良くない頭をフル回転させ、耳から煙が出るほど考えながらうんうん唸っているショーマは、その思考の中に出てきたハンナのありがたみを今更ながら知ると、どうすればファルナを安全な郷に送ることができるんだと思いながら考えていた。
そう――なんにも周りを見ずに考えていたのだ。
ゆえに――彼は遅れてしまった。気付くこともできなかった。
体の変化にも、喪失感にも気付けなかった。
「?」
悶々と考えていたショーマだったが、ふと目の前の光景を見た瞬間、彼は目を点にして左に傾き、そのまま左に崩れる。
ばじゃり! と――膝に付着する液体を受け止め、視界の端に映った己の左足らしきものを見た瞬間――ショーマは当然のごとく頭を真っ白にさせた。
たった一瞬、たった一瞬の間に部位破壊された足を見つめながら……。




