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PLAY92 仮面使④

 ぶぉっっ! と、突風の如く突進してきた『偽りの仮面使』。


 トラクターの如くのスピード……、いいやそれ以上のスピードで加速すると同時にどんどんとクロゥディグルと背に乗っているショーマ達に向かって迫って来ている。


 羽もない状態で浮遊をしながら飛んでいるその光景を見て、ショーマはぎょっと目が飛び出てしまうのではないかと言うような顔をしながら「ぎゃあああああっ!」と言う声を上げて……。


「お怒りになってしまいやしたぜええええええええーっっっ!」


 と、なぜか変な言葉になってしまった状態で大きな声で言うと、それを聞いていたツグミは怒りの感情をむき出しにすると同時に手に持っている杖でショーマのことを殴ろうとする動作をしながら小さな声で突っ込みを入れる。


 微かに……「ふざけている暇があるなら囮になれや……っ!」と言う声が聞こえたが、その言葉を聞いたものは幸運にも誰もいなかったのは幸いだったのかもしれない。


 否――この場合そんなことを聞く余裕などないだろう。


 なにせ――姿も何もかもが変わってしまった『偽りの仮面使』がこちらに迫って来ているのだ。


 そんな声を聞く余裕など一切ない。


 むしろそれをしてしまった瞬間死ぬ可能性も高い。


 何もかも変わってしまった『偽りの仮面使』は鬼の形相と言わんばかりの怒りの眼でどんどん接近してくる。


 白かった全体像が黒い液体を含んだせいなのか灰色の体になり、その体にも切り傷を残したまま傷を塞いでしまっている。そして手に持っている剣と鞭、そして棘がついたヒールもは同じなのだが、白かったその服も灰色になり、血の付着が多くなっているドレスを見に纏っている。長髪で靡いていた釣り針付きの髪の毛も、なぜかいくつもの髪が束になり、その先にはなぜか髪で作られた手がうねうねと動きながらショーマ達のことを捉え、白い顔は白いままだが、その頬に残る傷が生々しく、痛々しく感じられる。そして、最も変わったところは――羽のところだ。


 白く、美しいそれだった翼も今となってすればもう過去のものとなりきれいさっぱりとなくなったと同時に、その代わりとして出てきたものは――八つの手。灰色に染まった八つの手が、ショーマ達のことを捕まえようと伸びてはその十指を広げて血眼で捕まえようとしているその光景を見たファルナはその光景を上空で見て、そして己に興味がなく、逆に興味を示しているショーマ達の狙いを定めたことに予想外な事態と認識を固め、ファルナはすぐにその場所に向かおうとしていた。


 ばさりと――背に生えている鳥の翼を羽ばたかせ、これは試練どころではないと確信してしまったファルナは急遽己の魔祖を使い、ショーマ達を救出する方向に変えようとした。


 救出方法は至ってシンプル。


 この近くにいる鳥や大きい鳥系の守護獣達の力を借りようと、ファルナは魔祖を出す準備をする。


 準備と言っても、右手の親指と小指を狐の顔を指で作るように立て、そしてその合わせた箇所に中指も合わせてくっつけると、そのままファルナはその三つの指の先に唇を近付ける。


 やってみるとかなりきつい指の形だ。従来の狐の指の形でもないので簡単に指が攣ってしまうが、ファルナはその心配がないほど練習をしている。ゆえに簡単にできる。


 指と唇を合わせ、その状態でファルナはその指に向けて息を吹きかけようとする。


 勿論――その時己の体内にある二酸化炭素に魔祖を込め、そして指に先にも魔祖を纏わせると、ファルナはその指に向けて、魔祖が込められた息を吹きかける。


「――ふ」


 と、吹きかけようとした。否……、まだ吹きかける前であるので、吹きかけようと息を吸った時、の方がいいだろう……。その時――ファルナは上空にいたせいで、そして魔祖を放とうとして集中をしていたので気付かなかった。


 彼女に向けて、魔の手がどんどんと近づいていることに……。


 ――お願い、あの人達を助けてっ! 


 そう願いながら、頭の片隅には鳥人族の郷が滅んでしまうという恐怖もあるファルナだったが、それは自分が残り、何とかして時間を稼いでこの場所から引いてもらうようにしようと心に決め、ファルナはすぐに試練よりも人の命を優先にして息と手に込めた魔祖を放とうとした……。


 が――


 ――ひゅるぅんっっ!


 という空気を斬る音がファルナの耳に入ると同時に、その音を聞いたファルナは驚きの目でその音が聞こえた方向に目をやろうとした……その時、彼女はすでに捕まっていた。


 そう――『偽りの仮面使』の変わり果ててしまった髪の毛の手によって、四肢を拘束されていたのだ。


 がっしりと、両手首、両足首のところをがっしりと掴み、そして腰にあたりにもその手を伸ばして巻き付きながら掴み、鳥人族の翼にもいくつもの灰色のそれを残しながら、ファルナは拘束されてしまう。


 まるで――『偽りの仮面使』の捕虜になったかのような姿にされ……。


「っ! う! くぅ! うう………っ!」


 突然の拘束、そして体に巻き付いたそれを見たファルナはより一層焦りを顔に出し、何とかしてこの拘束から逃れようとじたばたと四肢を動かし、そして体をくねらせながら脱出を試みようとしたが、締め付ける力が異常で、ファルナの力では振りほどけそうにない。


 むしろ――彼女の抵抗を感じたのか、『偽りの仮面使』の灰色の髪の毛たちはファルナのことを縛り上げているその箇所にさらなる力を加える。


 ぎりっと、骨を軋ませるような強さを込めて――ファルナのことを苦しめる。


「あ、あああっ! あああああ……っ!」


 締め付けられる激痛、そして体中から発せられる危険信号。その感情を一気に体験したファルナは、激痛のせいで見ることも、抗うことを中断し、上を向きながら痛みの声を上げる。


 ――痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 その言葉を心の中で何度も何度も叫び、引きちぎれてしまうのではないかと言うような激痛を感じ、腕も足も捻じ曲げられそうなその感覚と激痛を感じたファルナは、もう思考がおかしくなりそうな感覚をひそかに感じていた。


 すごく痛い……、こんなの、長い間されちゃったら体がおかしくなるよっ! 翼も、もう捥げそう……、これじゃぁ、拷問だ……。


 ファルナは思った。


 もしかするとともいえないが、完全に自分はこの場で死んでしまうのかもしれないと、そう思ってしまうと同時に、どんどんと視界の世界が暗くなるような、かすむようなそれを感じていた。もう景色を見る目も機能を失いつつあるのか……? そんなことを思いながらファルナは心の中で謝罪をしようと――


 した時、突然彼女の体が一人でに――否、灰色のそれによって引っ張られていく感覚を覚えた。


 ぎゅぅん! と、高速で引っ張られ、そしてそのままされるがままになったファルナは、おぼろげな視界の中で一体何が起きているのだろうと思いながら、その引っ張られる感覚を体感していた。


 己の皮膚が伸びる様な感覚。髪の毛が乱れる感覚、そして服が乱れる様な感覚と言ったいくつもの感覚を覚えながらその引っ張られに身を任せていると……、突然それが止まる。


「?」


 止まると同時にファルナは止まったその光景を見ようと、かすれる視界でなんとかしてみようと目を開けた――瞬間、彼女は理解する。


『偽りの仮面使』は、()()()()()()()()()()()()()()……。



 ◆     ◆



 ファルナが魔祖を使って逃げようとしていたその頃……。ショーマたちを乗せていたクロゥディグルは何とかして避けようとばさりと大きな翼をはばたかせ、そして背中にいるコウガ達に向けて――


「飛んで避けます! しっかり掴まっててください!」

「分かっているって!」

「早くしろっ! 奴が来る! 構えの準備!」


 と声を掛ける。その声を聞いたコウガは頷きつつも忍刀のほかに苦無も手にして構えると、デュランも槍を構えて倒す姿勢を固める。


 デュランの言葉にショーマも頷きつつ手にしている刀を持ち、とうとう腹をくくったのか、ツグミも深いため息をつくとともに杖をかざし、むぃは攻撃も何もできないので、いつものようにコウガの背にしがみつくように覆いかぶさる。


 がしっ! と、コウガの背中の服を握るようにしがみつくと、それを感じていたコウガも何度言っても無駄だと思い、そのままされるがままになる。いいや――この場合はされるがままと言うのは言い方が間違っている。


 今はそのようなことをしている暇などない。もし、それをしてしまえば……。



「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!」



 今まさにこちらに向かい、悪魔のような顔で迫りくる偽りだらけの仮面の天使に捕まってしまう。ゆえにコウガは突っ込まなかった。そしてみんなも、意を決し、身を固めて――


 戦うと。


「ああああああああああああああああああああああああっっ!」


『偽りの仮面使』………………………という名前でいいのかはわからない。それとも別の名前があるのかはわからないが、それでも名前を知らないので今は『偽りの仮面使』と言う名にしておこうと思う。


『偽りの仮面使』はどんどんとクロゥディグルたちに急接近をし、そのまま翼だった右手四本を上に向けて振り上げ、そして即座にクロゥディグル達は叩きつけるようにふるい落とす。


 まるでクロゥディグルをハエと認知しているかのような行動。


 その行動を見て、そして自分たちの足元、そしてクロゥディグルの背中に影ができた瞬間、ツグミは「げぇっ!」と言う声を零してぎょっと顔をひん剥かせていると、その声と同時に、クロゥディグルはようやくなのだろうか、自由になった体でなんとかその場から逃げようと、翼をばたつかせ、そしてそのままふるい落とされると同時に――


 ぐるんっと――下から下から上に向かって入り込むように滑りこんだ。いいや――この場合は滑りは言ったのほうがいいのかもしれない。


 回り込んだ瞬間その速度と急に来たアップダウンにショーマたちは驚きながら心臓がふわりと跳ねる様な感覚を感じ、不思議な違和感を体験する。


 よく言う――ジェットコースターのようなそれだ。


 その感覚を体感していたショーマ達とは対照的に――クロゥディグルは回ると同時にその場で体を前後回転をし、そのまま『偽りの仮面使』の手の甲に目を移すと、クロゥディグルはもう一度滑空に似た速度で急接近する。


「うぉぉっっ!」

「ぬぅ!」

「にゃーっっっ!」


 何の掛け声もなしに行動をしたせいで、クロゥディグルの背中に慌ててしがみついたショーマとデュラン、そしてむぃは驚きの声を上げながらそれぞれが手につくところに掴まる。


 掴まりながらクロゥディグルの加速に耐えるようにショーマたちは驚きの声と困惑、そして本能的に叫びを上げながらその加速に耐える。


 どんどんと、その手の甲に向かうクロゥディグルに対し、何をするのかとコウガは思いながらその行動に耐える。


 そのことに関してはクロゥディグルも反省するところがあり、彼自身も本来であれば言葉にして謝りたいという気持ちが大きかった。


 が、それは今はできない。どころかそれをしてしまえば、反撃されて即死の可能性があるが故、それが来る前にクロゥディグルは単独とも言わんばかりの行動を起こしたのが――これである。


 ――すみません、何も言わずに行動を……、しかし! これで――!


 そう思いながら――クロゥディグルは心の底でショーマたちに謝罪をすると……、一瞬、ほんの一瞬クロゥディグルの動きを見て止めてしまった『偽りの仮面使』の手の甲を見つつ、そのあとすぐにその手の甲に向かって突撃し、そして加速すると同時に竜特有の大きく、牙が鋭いその口を開けて……。


 ――がぶぅっっ!


 と、『偽りの仮面使』の手の甲の――右手人差し指の付け根のところ目掛けて、深く、深く噛みついた。


 噛んだ瞬間、『偽りの仮面使』はその痛みに驚き声を上げたが、その声を無視しながら、死んでも話さないと言わんばかりに竜の鉤爪を使って足と手を乗せれるところに必死になってしがみつき、爪を食い込ませるようにしがみつく。


 むぃがしているように、がっしりと『偽りの仮面使』にしがみつき、そのまま背に乗っているショーマたちに向けて……。


早く(ふぁやふ)! 行ってください(いっふぇふふぁふぁい)! この手を(ふぉふぉふぇお)伝って(ふはっへ)――あいつを(ふぁいふお)倒して(ふぁふぉふぃふぇ)ください(ふばふぁい)!」


 と、短くて、そしてわかりやすい言葉をかけながら、クロゥディグルは言った。叫んだ。


 その激痛によって暴れている『偽りの仮面使』を無視して、奇声を上げている『偽りの仮面使』を無視しながら叫ぶクロゥディグル。


 その言葉を聞いたショーマたちは、驚きの顔を浮かべながら背にしがみつき、そしてクロゥディグルのことを見上げて固まってしまう。


「手を、伝えって……、まさか」

「ああ。やるしかねえだろうな」

「え? どういうことですか?」


 あまりの光景に固まっていたツグミはその光景を見て茫然としながら呟くと、その言葉を聞いていたコウガはクロゥディグルの気持ちを察したのか、クロゥディグルの言葉通りに行おうと溜息交じりに言葉を零す。


 するとそれを聞いていたむぃは首を傾げながらコウガのことを見て聞くと、それを聞いたコウガは「あぁ?」と言いながらみんなに告げる。


 あまりの衝撃にショーマも目を回してはいるが、そのショーマにもわかるようにコウガは言ったのだ。


「分からねえのか? 言葉通りだ。このままあいつの頭から手に移って、攻撃をするってことだ」

『――!』

「だろうな……、この状況ではあの敵に手を足場にすることこそが有利に戦況が傾くかもしれないからな。すぐに向かおう」

「えぇっっ?」

「っしゃー! いくぜー!」

「ちょ! えぇ……! えええええええっっっ!?」


 コウガ、更にはデュランの肯定の言葉を聞いたツグミは驚きの顔をしながら二人のことを見ていたが、二人はすぐに行動に移そうと、クロゥディグルの鱗をはしご代わりにして登うとしており、その光景を見て、そして言葉を理解したショーマも、すぐに頷き、コウガたちの様に真似をしながら登りを進める。


 驚いて固まってしまっているツグミを無視して……。


 そう――彼は、クロゥディグルは、ショーマたちのためにわざと接近をし、ショーマたちにすべてを賭けるように行動を起こしたのだ。もちろんクロゥディグルはここで退場ではない。彼なりに、ショーマ達のサポートをすることも覚悟しているがこの状況になり、あろうことか敵の体を足場にして戦うことをしたことがないツグミにとってすれば、この状況はかなりの賭け。


 否――大賭博に近いものだった。


「ちょっと待って! 待ってって! そんなことをしてまで向かうのっ!? そんなことをしたら命いくつあっても足りないって! そうなったらどうするのさ!」

「その時はツグミのモンスターヒーラーに任せるぜ!」

「くそ黙れ翔真っっ! ~~~~~! そ、それでも行くならどうぞだけど! 僕は体力とか武力とか硬力とか低いから即死しか選択ないから! 悪いけどクロゥさんの背からサポートに回るからっ!」

「わーってるよ。お前の場合攻撃もなにも期待なんてしてねー。てかいても邪魔なだけだ」

「本っっっ当に口悪っっ! コウガさんそれだから『彼女いない歴生きた年齢』なんですよっっ!」

「関係ねーだろうが、今それは」


 その賭博に関して危険を顧みず、そのまま戦おうとするみんなに対して、ツグミはそのようなことができない。むしろ『サモナー』と言う所属であるがゆえに戦えないことを承知していたツグミは、コウガ達に向けて静止の言葉をかけるも、その言葉を論破するようにショーマが遮りをかける。


 しかもグーサインを出しながらのどや顔であったが故、その顔を見ていたツグミは本気でブチギレながら突っ込んだのは言うまでもない……。


 しかし、それでもこの状況の中、あの『残り香』の時と同じ光景を彷彿とさせるその光景を思い出したツグミは、結局これしかないのかもしれない。そしてこの状況――クロゥディグルの背に乗りながらみんなで戦うことは難しいかもしれない。


 ゲームとは違う。遠距離の攻撃など持っていない自分たちにとってすれば、こればベストな戦い方なのかもしれない。


 そう思いながら――ツグミは観念と共に自分はサポートに徹することを呆れながら、やけくそ交じりに言うと、その言葉を聞いていたコウガは察していたのか頷きながらどんどんとクロゥディグルの頭に向かって上って言うと、その言葉に対してツグミは怒り爆発の顔で激昂を叫ぶ。顔中を真っ赤にさせて、心の中で「お前このまま地面に落下しろっっ!」と思いながら言うが、それを聞き流すコウガもコウガだ。


 そんなツグミの言葉を無視しながらするすると鱗を使って上るその姿はまるでボルダリング選手の様だ。


 そして人馬の体を使って上っているデュランもデュランで、ツグミはそんな光景を見ながら唖然と困惑、そしてすごいを通り越して、異様な安心感を感じてしまったツグミは、溜息を零し、そして掴み掴みで登っているショーマに向けてツグミは――


「まぁ――サポートぐらいならできるから、死なないように頑張りな」

 と、ツグミなりの応援をショーマにかけると、それを聞いたショーマは即答と言わんばかりに再度グーサインを出すと……。


「おぅ! まぁ三回死んでも死なないから安心だけどなっ!」


 と、どことなく不穏な空気を感じたツグミは、内心大丈夫なのかと思いながらどんどんと登っていくショーマのことを見上げる。


「それ……、昔の言葉で死亡フラグって言うんだけど……、なんで回収する気満々で言うのかな……? それ」


 そして小さな言葉で突っ込みを入れたが、その言葉もショーマたちの耳に届くことなく、そのまま空気に乗って消えてしまう。


 しかし――時間と言うものは有限で、そのようなことが起きている中でも一秒と言う間で状況が変わることがある。ゆえにそのように悠長なことをしている暇など一切ないのだ。


 そうこうしている内に、コウガとむぃ、デュラン、そしてショーマを最後になんとか『偽りの仮面使』の手に飛び移る。


 飛び移ると同時にコウガ達はそれぞれの顔を見て頷き合うと、いくつもある手に向けて三人は別々の手に飛び移りだした。


 コウガはむぃと一緒に最初に乗った腕の上を駆け上がり。


 デュランはコウガがいたその腕よりも高いところに飛び移りながら上に向かって駆け出し。


 ショーマは危なっかしい動きながらも下にあった右手の腕に飛び移ると、そのまま「うぉぉぉぉぉお!」と言いながら全速力で駆け出す。


 その光景を見てクロゥディグルも限界と危険を感じたのか、すぐに人差し指に噛みつき、爪を立てていたそれをパッと離すと、クロゥディグルと、唯一背に乗っていたツグミはそのまま距離を置くように離れていく。


 ばさり、ばさりという翼が羽ばたく音が聞こえ、ツグミはよじよじと登りつつ、クロゥディグルの肩に捕まれるところまで登った後で、何とかその場所に着いて一息零す。


 ふぅっと――体を動かしたという疲れと体力がない事への驚きを感じながら息を吐き、そして吸ってという深呼吸を繰り返していると、光景を横目で見ていたクロゥディグルはツグミの向かって聞いた。


「大丈夫ですか?」

「いや……、ただ疲れただけ……。くっそ……。だから僕はインドアでこんな戦闘は嫌だって言っているのに……、あんにゃろう……っ!」

「…………………………。っ! ショーマ様達が相手の懐に入り込みました。私達も動きましょう」


 しかし、ツグミの言葉を聞き、そしてその後で聞こえた怨恨 (?)めいたその言葉を聞いた瞬間、クロゥディグルはそれ以上の言葉を続けることをやめた。それ以上言ってしまうと飛び火がこっちに来そうだという直感が囁いたからだが、クロゥディグルはその気持ちに対してすぐに切り替えるように、首を横に軽く振るうと、『偽りの仮面使』のに向けて視線を戻す。


 クロゥディグルの言葉を聞いてツグミは怒りのそれをいったんしまい込むように心の中に収めると、ツグミは頷きながら「うん」と言い、杖をかざした――


 が、ツグミは目の前を見た瞬間、目を見開いてその光景を凝視してしまった。


 何かを企んだかのような下劣な笑みを浮かべ、「ふふふふふふふふふふふふふ」と言う不気味な笑いを零している『偽りの仮面使』のことを凝視してしまったツグミ。


 それはクロゥディグルも同じ……、否。彼はツグミ以上に、そしてその光景を『偽りの仮面使』の腕から見て、見上げていたコウガ達以上に驚きを隠せず、そして……、今行動を起こしている『偽りの仮面使』に向けて、怒りをふつふつと増幅させていた。


「っ! まさか……、こんなことをしてまで……! ここまで、姑息なのか……っ!」


 この鬼畜め……っ!


 その言葉が、彼にとって汚いこの上ない言葉が、クロゥディグルの言葉から零れ、そしてその光景を見ている彼の目には――ハンナの言葉で言うところに、赤黒いもしゃもしゃが立ち込めていた。


 それもそうであろう。


 なにせ――『偽りの仮面使』の髪の毛によって拘束され、そして磔のように掴まってしまったその人物を見た瞬間、全身の血が沸騰するような感覚を味わい、そして体中の熱が暴走をはじめ、怒りを暴発させていたのだから……。





 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()姿()()()()





「――ファルナさんっっ!!」


 その光景を見たツグミも焦りの顔をむき出しにし、青ざめる顔でファルナに向けて叫ぶ。


 しかし、ツグミの叫びが聞こえていないのか、それとも気絶をしてしまっているのか……、ファルナに返事はない。その返事の無さを見て、ツグミは青く染めていたその顔を更に青くさせ、そしてその状態で言葉を失いながらまさか……、と言う最悪のケースを想像してしまう。


 それはコウガ、むぃ、デュランとショーマも同じで、特にショーマに至ってはその光景を見ると同時に、ガリっと歯を食いしばり、その口の端から己の体液を零す。


 歯茎を傷つけたとしても――それ以上に込み上げてくる怒りのせいで痛覚が感じられないほど、ショーマは怒りを剥き出しにした時、『偽りの仮面使』は徐に髪の毛の手をうねうねといくつか動かし、その手をファルナの右手に向けて伸ばすと、そっとファルナの右手と右腕を掴んだ。


 がっしりと、離さないように――


「何する気なんだ……?」

「にぃいいいいいい……っ」


 コウガはその光景を見ながら首を傾げつつ、心の中に巣食う不安を覚えながら見上げる。むぃはあまりに怖いものかもしれないと思っているのか、コウガの背中に顔をこすりつけながら見ないようにしている。


 そんな光景を振り向きながら見ていたコウガは、まぁ……、仕方ないだろうなと思っていた……、次の瞬間!








 ()()()()()()








 瞬間、何かが折れる音と同時に、ファルナの叫びが、激痛の叫びが辺りに広がるように木霊する。


『!』

「ひぃっっ!」


 その声を聞いた誰もが言葉を失い、そしてその光景を絶句しながら見ることしかできなかった。


 むぃに至っては、小さな叫びと共にコウガの背中の服にしがみつき、見ないようにしながらがくがくと体を震わせている。


 無理もない。そして、『偽りの仮面使』は最初からこうするつもりだったのだと、デュランはこの時思った。


 同時に、己の甘さを呪った。


 こうなることは分かっていたはずだ。姑息な思考回路を持っているこの魔物にとって、仲間と言うものは絶好の道具なのだ。


 そう――敵にとっての仲間と言うものは、人質にし、傷つけることによって敵の戦力を半減させるのに最も適している素材なのだ。


 敵の戦意、そして冷静な思考を削ぐために、『偽りの仮面使』はファルナを使ったのだ。


 じわりじわりと嬲りながら……、それを楽しみつつ、相手を倒すためだけに……。


「…………………………! 下種めがっ!」


 デュランは叫ぶ。手に持っている槍を大きく振るい、そして怒りと己の甘さの怒りを合わせた感情をむき出しにし、未だに下劣に笑みを浮かべながら、今度はファルナの左手を壊そうとしている『偽りの仮面使』に向けて、己が持っている技を繰り出そうとした。


 その時――!


「こんのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


 突如として――ショーマの声が上から聞こえ、その声を聞いたでデュランとコウガ、むぃは驚きながら声が聞こえた方……、ショーマがいた下からではなく、『偽りの仮面使』の顔があるその箇所を見上げる。


 それはツグミとクロゥディグルにも聞こえ、その声を聞いた瞬間、ツグミは驚きと共に、ぎこちない笑みを浮かべながら……ツグミは小さな声で言う。


 今まで下の腕のところにいたのに、()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ツグミは零した。


 声を、零した。


「あいつ……、こんな時にそんなことするって、馬鹿だろうが……、でも」


 と言った瞬間、ツグミの言葉を聞いていないショーマはそのまま『偽りの仮面使』の驚いている顔面を駆け上がる。


 だが、なぜか登り切ったその場からぐるんっと回転をしながら『偽りの仮面使』の顔の下に向かって落ちていくと、ショーマは得物でもある刀を両手でしっかりと持ち、落ちながら体の捻りを使って回転を始めると……斜め下から切り込みを入れるようにぎゅるんっと回ると同時に叫ぶ。


 怒りの声を露にした声で――叫び、攻撃を繰り出す!




「ファルナを………、放せええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!!」




 叫び、その言葉と同時にショーマは振るっていた得物を大きく、そしてその矛先を『偽りの仮面使』に向けて……。



 ――ざしゃぁっっっ!



 と、大きな音を立てて切り裂いた。


『偽りの仮面使』の美しい顔に縦一文字のそれを刻み、そしてその状態で茫然としている魔物に向けて、ショーマは振るった体制のまま辺りに飛び散る黒いそれを背景に――再度告げる。




「もう一度言うぜ……っ! ファルナを……放せ!」




 本心の声を告げるその光景に、そして大きな一撃を与えたショーマを見てコウガとむぃは驚きの顔を浮かべたまま動きを止めて、デュランはその光景を見て内心悔しがる自分に驚きはしたものの、ショーマに対して少しだけ感謝のそれを向けると、その光景を見て茫然としているクロゥディグルの肩で見ていたツグミは、いつも通りにしていつも考えられないことをするショーマのことを見て、ぎこちない笑みと共にショーマに向けてグーサインをしながら彼は言った。


 よくやった。そう言わんばかりの顔で――


「――グッジョブ!」

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