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PLAY92 仮面使①

「だって――そいつはこの郷に向かって近付いて、郷諸共壊そうとしているんだから、早めに殺さないといけないもん」


 唐突ながら……、私の脳裏に不意に思い出される異常事態の言葉。


 その言葉を聞いてからかなりの時間が経っているのだけど、そのことを思い出しながら私は今まさに青天と言えるような空を見上げながら彼らの帰りをじっと待っていた。


 空がよく見え、郷でよく辺りを偵察するその場所で腕を腰の辺りで組み、空を見上げながら帰りを待つ。


 そう……、その試練を課せたファルナさんと一緒にしょーちゃん達が行ってしまった。


 その帰りをここでじっと待ちながら、私は今も晴れて平和な空を見上げていた。


 さぁぁぁ……。


 空を見上げていると優しい風が私のことを包み、衣服を靡かせていくと、風は優しい音を奏でながら私のことを包もうとしている。


 でも、それも叶わないまま風が私の後ろを通り過ぎる。なんとも優しくて、悲しい風……、そして鳥人族の郷の風は本当に温かくて優しいような心地の良い風で、それを感じていた私は本当にこの郷が壊れてしまうようなそれが起きるのかと少しばかり半信半疑になっていた。


 ファルナさんのことを信じてないわけじゃない。


 でも、この空を見ても、その胸騒ぎどころか予兆めいたものもないのだ。本当に来るのかということをアキにぃが呟いていたけど、本当にそう思ってしまいそうな、平和な世界だ。


 そんなことを思っていると……。


「ここにいたのか――探したぞ」

「!」


 突然、背後から声が聞こえ、そして登ってくる音が聞こえた瞬間、私はすぐに背後を振り向き、誰が来たのかと思いながら見ようとした時、背後から梯子を伝って上ってきたその人……、凛とした音色が印象的なその人――ヘルナイトさんは登ると同時に私のことを見て、安堵のそれを吐きながらヘルナイトさんは登り切り、私に向かってこう言ってきた。


「どうしたんだ? こんなところで」

「えっと……、その……、しょーちゃっ。ショーマ君達の帰りを待とうと思っていて、それでここで待っていたんです。それに、家にいても嫌なことばかり考えてしまうから、ここで少し気分を紛らわそうと思って……」

「そうか。ショーマ達のことが、気になってここに来たのか。その気持ちは分からなくもない」

「………はい」


 ヘルナイトさんの言葉に対して、私は正直なことを言いながら告げると、その言葉を聞きながらヘルナイトさんは私の近くまで歩み寄り、そして私の隣まで来たヘルナイトさんは、私の隣で今もなお吹く温かくて優しい風をその身で受けていた。


 ふわりと――ヘルナイトさんのマントが靡く。そして私のスカートが靡き、髪を中途半端に揺らす。頬を撫でるそれも相まって、その名で具合がこそばゆくも感じた。


 そんな気分を味わいつつ、しょーちゃん達が向かって行ってしまったその方向を見ながら、私はそっと目を伏せる。


 あの後……、ファルナさんの試練を受けると進言したしょーちゃんは、早速と言わんばかりにファルナさんの手を引かれながらいそいそと言う形で外に向かって走った。茫然とする烏の鳥人さんと、そして族長さんを無視して、しょーちゃんの手を引きながら走ると、今度はクロゥさんの手を掴んで外に連れていこうと引っ張るファルナさん。


 そんなファルナさんの後を追うコウガさん達を茫然とした目で、そして思考が追い付いていない顔で、そして理解が遅い状態のままで見つめたまま、残されてしまった私達はその光景をただただ見ることしかできなかった。


 止めることも、話しかけることも、これからどうするのかと言うことも、聞けないまま茫然としてしまった。


 族長も、烏の鳥人さんも唖然としたまま意識を飛ばしてしまったかのように脱力してしまい、そんな族長にこれからどうすればいいのかなんて聞いても無駄な話だ。


 そしてほかの鳥人族さん達に聞いても無駄だと思った私達が遅まきながら正常に戻った頭で考えて決めた結果――


 しょーちゃん達が帰ってくるまで、その場で待機。


 と言うことになり――アキにぃ達は現在放心している族長さんの家で待機をしている。私も最初こそ待機をしていたのだけど、何だろうか、胸騒ぎを感じてしまったので今現在この場所にいるんだけど、今でもその胸騒ぎは治まるどころか、どんどんと激しいものになっている。


 それは私自身も理解している。そしてそれと同時に、ファルナさんが言っていたことはそれ以上にやばいこと。


 そう……、放っておいたら危ないことだということをどんどんと現実化しているのだと、私は自覚した。


 私は何も言わない。ヘルナイトさんも何も言わない。


 二人とも何も言わず、今この世界を明るく照らす太陽と背中合わせになっている青い空を見上げながら、私は無言のまましょーちゃん達のことを待つ。


 まるで、自分が銅像になってしまったかのような感覚を覚えながら……。


 そんなことを思って未だにその空の風景を見る私は、その空に浮かぶ雲が少しだけ早いような、そんな光景を見ながらふとこんなことを思ってしまう。


 雲の進み具合が早い。それは風が強いことを指すのだけど、それを見た私は……、まるでこれから嵐が来るような胸騒ぎを覚えてしまう……。


 本当は、こんなこと一切考えたくない。エドさん達の時のように安心して帰ってくることを心から望んでいる気持ちを保ちたいのだけど、今だけはそんな気持ちもできない。どころか、どんどんと不安が大きくなって、もしかしたら……、もしかしたら……、なんていう被害妄想が生まれてしまう。


 そんな思考を一瞬でも思ってしまうと、私の心も暗くなる。そんな不安を覚えてしまい、私はそのまま首をぶんぶんっと振って、その不安を吹き飛ばそうと試みた時……。


 ――とふっ。


「!」


 急に頭に降りかかる重みとぬくもり。


 それを感じた瞬間私は驚きのあまりにはっと息を呑んで重みが勝った頭を見上げようとした私。いつもいつもこれを体験しているのだけど、こうして不意にやられてしまうと逆に驚きの甘地に頭が真っ白になってしまうので、ついつい確認してしまう私。


 それでも確認をして、そして私の頭の上にそれを乗せている人――ヘルナイトさんは、私のことを見降ろし、そして私の頭の上に乗せているその手をゆるりと、優しくなでると、ヘルナイトさんは私に向かって言った。


 凛とした音色で、彼は言ったのだ。

 

「確かに、心配だろうな。私も少しばかり心配なところがある。特に――ファルナが言っていたあの言葉も気がかりだが、本当に五人だけで片づけられるものなのかと言う心配も実はある」

「………五人だけでは、倒せないかもしれないってことですか?」


 私は聞く。心配そうな音色で、そしてまさかと言うことを想像してしまいそうな気持で聞くと、ヘルナイトさんはきっぱりと――


「分からない」


 と言ってきた。はっきりとした音色で言ってきたので、私は首を傾げつつ、一体何を言っているのと思いながらヘルナイトさんのことを見上げると、ヘルナイトさんはそんな私の疑問に対して訂正をするように「いや……、言い方が悪かったな」と言って、その後ヘルナイトさんはこう言ったのだ。


「戦いと言うものは時間と共に移り変わるものだ。よく時の流れは移り往くものと言われているように、戦場ではいかなる時であろうと自分の味方などいない。自然も、運命も、そして――運自身も己の敵になってしまうことが多い。そして相手の戦力が大きければ大きいほど、その差も広がり、死ぬ可能性もある」

「…………………………」

「だが――そうなると、逆も然りだ」

「!」


 ヘルナイトさんのその言葉を聞いた瞬間、私は息を呑む声を出してヘルナイトさんのことを見上げると、ヘルナイトさんは私のことを見降ろし、そして再びその言葉を続けるようにしてこう言ってきたのだ。


「戦況は常に変わる。敵の思うが儘に変わるときもあれば、ショーマたちの思うが儘に変わるときもある。それを決めるのは誰でもない。運命が決めるだけなんだ」

「…………………………」

「だからハンナ――今は信じよう。その信じる気持ちが届くかもしれないからな」

「………はいっ」


 その言葉を聞いた私は、ヘルナイトさんの言葉に頷きつつ、そして再度青い空と、少し速度が速いその雲の動きを見上げながらしょーちゃん達は帰ってくるのを待つことにした。


 確かに、今でもさっき感じた不安は取り除けていない。でもそれはヘルナイトさんも同じだし、そしてそれはしょーちゃんたちだって同じなのだ。


 それに、ヘルナイトさんの言う通り、この戦いがどうなるなんてことは敵も味方も分からない。かつ、この戦いがどのように変わるのかもわからない状態だ。


 でも、そんな状況でもヘルナイトさんは言った。


 信じようと。


 信じて――しょーちゃん達が勝つのを、そして帰ってくることを心から信じて待とうと。


 そう言ってくれたのだ。


 それを聞いた私はその言葉に頷き、そしてしょーちゃん達が生きて帰ってくることを信じて、願いな柄纏うと心から誓った。


 きっとしょーちゃん達なら勝てる。勝って帰ってくる。


 そう信じながら………。



 ◆     ◆



 ハンナとヘルナイトがその気持ちを固めながらショーマ達の帰りを待とうと決めた――丁度その頃……。



 ◆     ◆



 さぁぁぁ……。


 優しい風と共に、その風に従うように揺れ動く生き生きとした草木。その草木達の上空にはさんさんと空を飛ぶ王国――ボロボ空中都市を照らす大きな太陽が真上に昇っており、その光を受けながら草木は生きる力を分けてもらい、そしてその近くを流れる川はさらさらと言う音楽を奏でながら水面にその光をちかちかと反射させる。


 そんな日の光と共に、その平地の遠くにある――地面に深く埋まっている苔まみれの大きな四角い建物……、否。この場合四角い建物ではない。建物であれば入り口があるのだが、その建物には入り口など一切ない。むしろ長方形のような形をしているということが想像できるような埋まり具合だ。


 地面から顔を出しているその箇所を見ると、苔のほかに何か赤黒い何かがついており、それを見た誰もが地面の底に埋まっているものは異常なものなのかと思ってしまいそうになるが、本当の事実はそこまで悍ましいものではない。むしろこれは――この国の歴史を感じさせる遺物と思わせるものだった。


 その遺物が埋められているその光景はこの平地に周りにいくつも見え隠れしており、この光景を見た誰かが、その光景を見てこの地をこのような名で呼んでいた。


 ボロボ空中都市――竜柩(りゅうかん)遺跡街頭。


 そう……、地面に埋められている大きな長方形の建物は――竜の柩。つまりここは、竜の墓場なのだ。

 

 墓場と聞くと悲しいそれを感じさせるかもしれないが、その悲しさを緩和させるように、この地にはいろんな綺麗な花や透明度が高い川が流れ、温かい空気が辺りを包んでいる。


 だから誰もがこの場所を訪れ、そして竜達に祈りを捧げている。


 永遠の安らぎを祈るように……。


 さて――長い間余計な話をしてしまったかもしれない。ゆえにこれから本題に入ろう。


 ボロボ空中都市の竜柩遺跡街頭は今日も初々しい緑と透明度がある川、そして辺りを照らす温かい太陽の光が当たりを明るくし、そしてその日の光によってその場所の温かく包み込んでいた。


 その光景はいつもの光景。いつもの竜柩遺跡街頭が当たりを包んでいたのだが……。


 ぶぉっ! 


 と――一瞬、本当に一瞬の間にその地に黒い影が降り、そしてすぐに明るい世界に戻る竜柩遺跡街頭。しかしその黒い何かが通り過ぎた後……。


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 と、無風だったその世界に荒々しい風が舞い込み、綺麗に咲いていた花達の花弁が何枚か千切れ、草の揺れが激しいものになり、流れる川の波も大きくなる。


 まるで――一瞬の台風が来たかのような光景。


 しかし、それもすぐに終息し、激しく揺れていた草木がどんどんと遅く揺れ出し、そして無風の世界と同様に揺れが止まる。川もさわさわしたそれになり、その川面に薄桃色の花弁が触れる様に落ちる。


 落ちた瞬間、水面に円状の波紋が広がり、少しずつ、本当に少しずつその波を大きくしていく。


 そして――その風と黒い影は、どんどんと移動をして、そして目的の場所に向かって一直線に突き進む。


 そう――


 その黒い影と風を作っている存在――青い空を我が物にしながら飛んでいるクロゥディグルと、その背に乗っているショーマ、コウガ、ツグミ、むぃと『12鬼士』デュラン。そして、『生物』の魔女ファルナがクロゥディグルの背にしがみつきながら、ファルナが言ったその場所に向かっていたから――その風と黒い影はどんどんと動き、そして加速をしていた。


 緊急と言えるような速度で、クロゥディグルは飛んでいた。


 いいや……、この場合は緊急と言えるようなではなく、本当に緊急めいた事態なのだ。


 なにせ――この緊急事態はファルナにとってしても大事と思言えるようなことで、信じてもらえないのも事実でもあり、そして……。


 このまま野放しにしてしまうと鳥人族の郷が崩壊してしまう事態になってしまっているが故、クロゥディグルは飛ぶ速度を速めながら、背にしがみついているショーマ達に向けて大きな声で叫んだ。


「皆様っ! 後少しで目的の場所です! もう少しだけ辛抱を!」

「ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉっふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉおおおおおおおーっっっ!?」

「ショーマ様っ! 一体何を言っているのでしょうかっ!? ショーマ様っ!?」

「気にしないでくださーい! こいつの皮ひどいことになっているんでーっ!」


 クロゥディグルは叫ぶ。しかしその言葉を聞いていたショーマはクロゥディグルの言葉に対して反論をするような声で言ったのだが、その声もあまりの速度で頬の皮と瞼の皮が風によって風船のように膨らんでしまい、一言で言うとビロビロとしながら靡いているので、うまく言葉を吐くことができない状態だった。


 口にもその空気が入り込み、言葉を発することが困難でもあったショーマの言葉に、クロゥディグルは首を傾げながらもう一度聞き返す。


 速度を落とさず、そのままのスピードで加速しながら……だ。


 そんな光景を見て、ショーマのことが居た堪れないと思ったのだろう。


 ツグミは大きな声でクロゥディグルに向かって大丈夫だということを言うと、その言葉を聞いたクロゥディグルは「分かりました!」と言いながら会話をやめ、そしてそのまま急加速で目的の場所に向かう。


 だが、ここで疑問が出るであろう。


 なぜクロゥディグルはこんなにも速度を速めて、その目的の場所に向かおうとしているのか。


 その理由はファルナが課せた試練にも関係しており、一分でも遅くなってしまうと、ファルナの生まれ故郷――鳥人族の郷は滅んでしまう道を歩んでしまうから、ファルナの言葉の元、クロゥディグルは急いでいる。


 脳裏に映し出される――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 因みに……ショーマが言っていた言葉は、『分かりましたから少しだけ速度を落としてっ、皮がいたいんすけどぉおおおおおおーっっっ!?』と言っているのだが、今はそんなこと関係ない。どころか……、それに構っている暇などないのだ。


 今は時間との勝負。


 その勝負に負けてはいけないのだ。


「と言うか、本当にこの方向にその目的のそれが来るのっ!? 信じられないんだけどっ!」

「来るよ! だって鳥たちがそれを伝えていたから! 情報豊富な渡り鳥達も言っていたから! 本当だよ! この方向に――あいつが来るって!」

「それならいいんだけどー! あとどのくらいで着くのーっ? そのえーっと……」

「『剣先の峠』のこと!?」

「そうそう! その『剣先の峠』! それってあとどのくらいなのぉっ? 早くしないとショーマの口が本当にびろんびろんになっちゃうかもーっっ!」

「この速さだと、あと二十分くらい!」

「わかったよーっ!」

 

 クロゥディグルの飛行速度に負けないように、ツグミとファルナは大きな声で叫び、その風圧の音に負けないように大きな声で言い合う。


 本当に来るのかと愛実自身半信半疑のそれであったが、ファルナを見て、ファルナの目に嘘などと言うものがいないことを知ったツグミは、驚きつつも彼女は本当のことを言っていると悟り、それ以上のことを聞くことはなかったが、時間的にあとどのくらいで着くのかを聞くことにしようと思い、その言葉を聞くと、ファルナは即答と言わんばかりに今向かう場所、そして時間を言うと、ツグミは頷きながら最後しがみつきに力を入れてその時が来るのをじっと待った。


 否―――この場合はじっと耐えたの方がいいのかもしれない。


 内心――本当に鳥に聞いたのかよ……。と思いながら、ツグミはその時が来るのをじっと待っていた。


 ここで補足として言うが、ファルナの魔祖は『生物』という魔祖で、彼女の魔祖自体それほどの力を有しているわけではない。


 彼女が持つ魔祖は、本来意思疎通と、そして助力のために使われることが多い魔祖だ。


 その魔祖の使い方を簡単に説明するとこうだ。


 一つは、生物との意思疎通を行い、会話をし、情報を得る。これが一つの力。


 ファルナが思う生物は本当に生物に限られており、魔物になってしまうと意思疎通などできないが、鳥や魚、そして畜産の生物や虫といった生物ありきの者たちならば意思疎通が可能なのだ。


 そして二つ目は――その生物たちと協力をするということ。


 これは一つ目に上げた意思疎通ができるという力の細く出もなければ延長版なのだが、ファルナ自身戦闘能力など全然なく、ボロボ空中都市の魔女の中では一番最低ランクの力しか持っていない。


 いうなれば最弱と言っても過言ではないが、そんな彼女がなぜ魔女としてドラグーン王から認められているのか。それは彼女のその延長版の力が関係していた。


 本来――魔女特有の魔祖を持っている者たちは、規則上ギルド長の権限を有することができるが、その力があまりにも脆弱であればそのギルド長の権限をえることは難しい。むしろギルド長になるものはそれ相応の魔祖の力を持っていないと得られないと思った方がいだろう。


 マースクルーヴも、ダンゲルも、マティリーナも、ウェーブラも、ザンバードも、クルクも、オヴィリィ、ラドガージャもその実力を認められているからこそギルド長の権限を得ることができた。


 カカララマやジューゴ、そしてファルナはそのような力を有してはいない。どころか戦闘の力など持っていない。


 しかし――ファルナはそのような力がなくても力を持っている存在なのだ。ゆえに彼女もそのギルド長の権限を持つに相応しい存在なのだ。


 一体何を言っているのかわからないだろう。


 そう思っている人が多々いるかもしれない。だが、これは事実なのだ。


 ファルナは生物との意思疎通ができる存在であると同時に、色んな強い生物と疎通ができ、彼女はその生物達と一緒に戦うことができる。いうなれば――強い生物を呼ぶこともでき、且つ集団で呼び寄せることができる存在でもあるのだ。


 簡単に言うと、ファルナの声次第で熊を呼び寄せたり、虎を三体呼び寄せたり、最悪――鮫を呼ぶことだって可能なのだ。


 ツグミは疑っていたかもしれないが、ファルナは嘘など言っていない。


 彼女は意思疎通ができ、そしてその声を元に行動をしていたのだ。


 動物達は嘘などつかない。嘘をつくという思考がない。偽りなどないその言葉を聞いたがゆえに彼女は思ったのだ。


 このままでは郷が危ないと。


 そのことはファルナにしか知らないことなので、生物との意思疎通ができない且つファルナが言うその言葉が本当に真実なのかという半信半疑を抱いているツグミには、永遠にわからないことでもあった。


 さて――話を戻そう。


 ファルナの言葉を聞いていたコウガは、傍らにむぃを抱えながらクロゥディグルの背にしがみついているが、その言葉を聞いてコウガは小さな声で「マジかよ……っ!」という言葉を零すと同時に――


「この速度ならたったの十分で着きそうなんだが、それでも二十分なのかよ……!」

「心の準備にはもってこいでしょっ? それにあいつはもしかしたら早めに来る可能性もあるから、この場所で戦闘って可能性もあるし、もしかするともっと遠くかもしれない! だから大体に十分と思って心の準備しておいて!」

「さっきから好き勝手言いやがって……っ! つか、俺らが戦う相手って、どんな奴なんだよっ!」


 と、コウガはファルナに向かって抗議と言わんばかりの顔で言うと、それを聞いたファルナは平常ともいわんばかりの顔でコウガのことを見ず、目の前を見据えながら答えていく。


 その言葉を聞きながらコウガは苛立ちを増幅させ、内心こいつ……! 自分は戦わないからって……! なに悠長に言いやがるんだ……っ! と、少しばかりファルナに対して殺意を覚えたが、それを何とか押し殺し、そのままファルナに向かって肝心のことを聞いたのだ。


 肝心なこと――それは、ファルナが倒してほしいというその存在の全容である。


 ショーマ達はファルナからそのことに関して全然聞いていない。どころか聞く前に子のような状態になってしまったので、聞く暇など一秒もなかったのだ。


 そして突然のことで聞くことも忘れてしまい、現在に至っているのだが、ようやくと言うべきか、コウガは自分達が戦うであろうその相手について聞こうとした時、ファルナはある場所を見上げ、そして冷静でひどく落ち着いた音色で――こう言ったのだ。




           「それは――今目の前にいるよ」




「はぁ?」


 コウガはそれを聞いて唖然とした。否――この場合は首を傾げ、そしてコウガの胸の中にいたむぃも首を傾げながらファルナのことを見たが、その言葉に対して『どういうことなんだ?』と聞こうとしたコウガであったが、それをする前に、彼は自分の身に起きている変化にいち早く気付いた。


 それはショーマも、ツグミも、そしてむぃも気づいており、自分よりもいち早く気付き、そしてもう心の準備を整えたかのように馬の脚で立ち上がり、槍を構えているデュランを見たコウガは、彼が見ている……、と言っても、デュランに頭と言うものが無いため、彼の体で見ている方向を確かめようとした。


 いつの間にかだろうか……、クロゥディグルの加速が止んでおり、クロゥディグルも目の前にいるその光景を見上げながら言葉を失ったかのように目を見開いている。


 まるで――悍ましいものでも見たかのような……、否。その目に映る怨恨めいたものを感じたコウガは、首を傾げながら「あぁ……?」という声を上げて、そしてクロゥディグルの視線に自分も合わせるように見つめた瞬間。


 ――コウガは、言葉を失った。


 そして、悟った。


 これが、ファルナが言っていたという存在だと、確信を込めて悟った。


 その気持ちはツグミも、むぃも同じであり、ショーマだけは頬を押さえながら痛みでえぐえぐと泣きながら見ていたので、全容までは見ていない。そして――槍を強く、強く握りしめるデュランの雰囲気も変わった瞬間、クロゥディグルは聞いた。


 ファルナに向かって――彼は聞いたのだ。


「まさか……、これが、なのか……?」

「うん」


 クロゥディグルの言葉にファルナは頷きながら早めに来たであろうその存在を見上げ、そして真剣な眼差しで彼女は言った。


 クロゥディグルの進行を妨げるようにして突如として現れた白くて大きな存在――


 その存在は見た目からして神々しいそれを放ち、美しい輪郭の顔に白くてふわりとした長髪。微笑むその笑みはまさに天使そのものの顔をしている。背にも天使の羽を八つも生やしており、その光景を見れば誰であろうと天使様を連想してしまうだろう。だが、その光景は一瞬のうちに打ちのめされ、その天使の手と、髪の先に巻き付けているそれを見た瞬間、誰もが天使様ではないと確信をしてしまう。


 なにせ、天使が持っているものは――聖書でもなければ聖水が入ったツボでもない。その天使が持っているものは――いくつも返しがついている鞭と、赤いそれがべとべとになりながらも付着している大きな剣。髪の毛の先についているものは釣り針のようなものだが、その釣り針にも帰しがついており、明らかに拷問をするためにつけた姿であった。


 その体を包んでいる白い布の衣服には赤い点々がこびりついており、すらりとした足とその足には棘がついたサンダルを履いている――一目見て異常性を思わせる様な姿をしている天使……、否、天使の姿をした化け物がショーマ達の前に現れたのだ。



「フフフフフフフフ……。アハハハハハハハハハハハハ アハハハハハハハハハハハハ!」



 けらけらと笑い、いいや――ケタケタと狂気的に笑いながら天使は手に持っている鞭と剣をぶんぶんっと振るう。


 目の前にいる獲物を狩り殺そうとしている眼で見つめながら、その目に映る愕然とした顔で見ているショーマ達を見ながら天使は笑う。


 その光景を見て、クロゥディグルは小さな声で「こいつは……!」という声を零すと同時にファルナはその偽りの天使を見ながら真剣な音色で言った。



「この魔物が試練の対象。名を摂食交配生物――『偽りの仮面使』。この魔物を倒したら合格だから――頑張れ」



 そんな無責任にも感じるファルナの言葉と同時に、目の前にいる魔物――『偽りの仮面使』は目の前にいる獲物に向けて、天使とは思えない笑みで見つめ、手に持っている剣を大きく振り上げた瞬間、即座と言わんばかりに振り下ろす!


 待てない。


 待ちきれない。


 早く殺したい。


 その感情が顔に出ているような顔で、振り下ろしながら――

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