PLAY91 ファルナの試練⑥
「じゃぁ――その嘘を証明しましょうよ」
その言葉が族長さんの三階――色とりどりの花が咲き乱れる世界に一際大きく、そして耳に残るように響くと、それを聞いた誰もがその言葉を放った人物に向けて視線を向けた。
さっきまで漂っていたその不穏にして怒りが充満しているようなそれをかき消すようにみんながみんなその方向に向けて――声を放った人物に向けて視線を向けると、その人はもう一度その言葉を言い放とうと腰に手を当てて、鼻息をふかしながら威張るような音色で言った。
「そんなに言うんでしたら、その嘘を目で見て確かめましょうよ」
そう言って胸を張って言ったしょーちゃんは、族長に向けてそのことを確かめようと言い出した。
驚いている私達を置き去りにして……。
でもしょーちゃんは本気だ。
本気過ぎて突っ込む隙と言うか、反論をすることですら忘れてしまいそうな状況の中、私達はただただしょーちゃんのことを見て唖然とすることしかできなかった。
勿論ファルナさんも、烏の鳥人さんもしょーちゃんの言葉を聞いて唖然とすることしかできなかった。
無理もないだろうけど……、今までファルナさんの嘘だと思っていたことをしょーちゃんが確かめると言い出すのだから、今まで信じていたことが崩されるような恐怖も然り、それを調べることに対しての異常さを感じたのかもしれない。
私達からして見ると、そんな発言をしたしょーちゃんの唐突さに驚きを隠せなかったけど……。
そんなことを思っていると、族長はしょーちゃんの発言と態度を見て、鋭い鷲の眼光でしょーちゃんのことを睨みつけながら言う。
はっきりとした音色で、断言といわんばかりの顔で彼は言ったのだ。
「嘘? 何に対して嘘と言っているのだ? 小童が」
「だからあんたたちが言うファルナって人の嘘が、本当の嘘なのかと言うことを証明しようって言っているんすよ」
「一体何を言っているんだ? 本当に……。こいつが言うことなんて、全部嘘に」
「あんた――本当に族長なのかよ」
「?」
族長の言葉を聞いていたしょーちゃんは断言した。
ファルナさんの言葉が本当に嘘なのかを確かめると、それを聞いていた族長さんは首を横に振り、ファルナさんの追うことが嘘だと断言した。
二人の言葉には押しと言うものが備わっていて、二人の言葉同士がぶつかり合い、そしてそのまま押し相撲をしていた。
まるで――自分の言葉を押し通すように……。
でも、族長さんの言葉を聞いた瞬間、しょーちゃんは族長に向けて、尖っているような、それでいて自分の感情を乗せた怒りの低い声を放ちながら言葉を零すと、それを聞いていた族長さんはそれを聞いて、目元をピクリと動かしながらしょーちゃんのことを見ると、しょーちゃんは族長の鷲の目をじっと見つめ、そして退くことを知らない顔で言葉を零す。
今まで見てきた――しょーちゃんそのものの顔で、いつもつーちゃんに殴られているしょーちゃんではなく、真剣なしょーちゃんの姿を見せながら……。
「族長って、あまり見たことはねえけど、それでも族長って村の住人達のことを一番に考える隊長みたいなもんなんだろ? 村の王様なんだろ?」
「それがどうした?」
「なら――あんたは王様じゃない。自分のことしか考えていない自己中な鳥だ」
しょーちゃんは断言する。
びしりと指を指し、その指先を族長さんに向けながらはっきりとした言い方で言うと、それを聞いた誰もがぎょっと驚くような顔をしてしょーちゃんのことを見る。
ぎょっと……、目を見開くような目でしょーちゃんのことを見て、その光景を見ていたつーちゃんはしょーちゃんのことを止め……ることもせず、むしろ応援の行動をしながら「そうだそうだイケイケー!」と言って、しょーちゃんの感情に拍車をかけていた。
私はそれを見つつ、未だにぶるぶる震えている二人のことを抱きしめながら見ていると、そんなしょーちゃんの言葉に対して……。
「無礼者がっっ! 族長に対してそのような言動! 許されると思っているのかっっ!?」
と、しょーちゃんの言葉に対して怒りを表したのは――族長ではなく、ファルナさんに棒を突き付けている烏の鳥人さん。
烏の鳥人さんは怒りを剥き出しにし、嘴の中にある赤い舌を出しながらしょーちゃんに向けてその怒りをぶつけるように、殺気の怒りの続きと言わんばかりに次の怒りの言葉をぶつけに来る。
「族長の言うことはすべて正しいに決まっている! この混合種族が何を企てているのかも、そしてこいつが虚言を吐いていることもすべて正しい言葉なのだっ! 族長の言うことは――絶対なんだ!」
「だったら、族長がお前に向けて『自らの命を絶て』とか言われたら――お前はその言葉に従うのか? 死ねって言われたら死ぬのかよ。快く、嬉し泣きしながらそうするのかよ」
「っ」
でも、そのぶつけに反して、しょーちゃんは反論をするように烏の鳥人さんに突きつけると、それを聞いた瞬間、烏の鳥人さんは黙ってしまった。
ぐっと、言葉を詰まらせるように――ううん。しょーちゃんの言葉を聞いた瞬間、その言葉に対して即答なんて絶対にできないという、不安と恐怖のもしゃもしゃを出しながら、烏の鳥人さんは黙ってしまう。
それもそうだ。
族長の言うことが絶対ならば、何でも族長の言うことに従わなきゃいけない。それがたとえ――死を意味することであっても……、絶対ならしなければいけない。
そう……、元バトラヴィア帝国がしていたことのように、帝王の命令ならば絶対の意志を持っている兵士たちのように……。
そのことを思い出し、そして嫌なことを思い出してしまったな……。と思った私は、その嫌な思いを心の奥底にしまいつつ、さっき感じた嫌な気持ちを殺すように、二人のことをぐっと抱きしめて、その温もりに甘えながら下唇を噛みしめながら口をつぐむ。
そんな中――しょーちゃんは再度族長に視線を向けて、そして怒りの目を族長の目に対抗するように向けた瞬間、しょーちゃんは「な?」と言って……。
「こう言うことだよ。あんたがしていることは」
「なんだと?」
と、しょーちゃんの言葉に対して、族長さんはその儂の頭を横にかくりと傾けると、それを見てしょーちゃんははっきりとした音色で、そして断言をするようにこう言ったのだ。
「あんたは自分の言うことが正しいと思い込んでいる馬鹿なアホウドリだってことだよっ! 何にも理由を聞かないで嘘とか決めつけて、そんで反論をしたら暴力で解決して、言葉の暴力で相手の心を壊して、楽しいのかよっ!? そんなことをして! そんなの弱い者いじめと同じじゃねえかっ!」
「そんなことなどしてない。儂はただこいつが何かをしでかすのではないかと」
「しでかすのではないかっていう妄想だろうがっ! 実際あんたになにをしたんだっ!? どんなひどいことをされた!? されてもいねえのに人を見かけで判断して、それでただ姿が違えば仲間外れって――こんなの集団いじめと同じじゃねえかっ! 恥ずかしくねえのかよっ! こんなことをして!」
「いじめではない。こいつは正真正銘の異常者。人格破綻者だ。そんな奴を野放しにしては」
「そいつそいつとかぬかすな! ちゃんとファルナって名前があるの知っているだろうっ!? その名前で呼べよっ! 呼ばれない奴はそれだけでも仲間外れにされているような気持ちで、苦しいのに、なんでそれを何度も何度も言うんだよっ!」
「何をぬかすか。そんなことなどしたくもないわ。こいつのせいで鳥人族は異常と言われておるのに、わざわざ元凶相手の名を呼ぶなど……、悍ましい」
「悍ましいのはあんただ! そして異常と言われてもおかしくねえよっ! あんたらが異常で、ファルナって人はあんたたちに感化されちまったんだよっ! あんたたちの人格が異常だからこの郷はおかしいんだっ! 俺たちのこともずっと監視するように鋭い眼で睨んで、居心地わりぃ! こんな郷初めてだ! こんなところ初めて体験したよっ! ほかのところのほうがいいって思うくらい――ここは冷たいんだ! 冷たすぎて生きた心地がしねえんだっ! むぃ達やはなっぺが怖がるのも無理はねえよっ!」
「監視ではないぞ? あれはただ見ているだけだ。たったあれだけのことを監視として見て非難するなど、やはり悪魔族は下賤まみれだな。どころか地上にいる者たち全員が異常な思考回路を持っているということがよくわかった。こいつの血にもそれが混ざっている。やはり――こいつは早々処分でもしなければいけないな。人格破綻者の集まりの血を引いているのだからな」
「………あんたさっきから何自分勝手なことばっかなんだ? こんな状態で人格は歪んでいるから人格破綻者? それはなるよ! 俺だってそこにいるファルナって人と同じ立場ならグレるって! こんな劣悪な環境で、且つこんな風に村総出でいじめられちまったら信じられるものも信じられずに歪んじまうって! 心が持たねえって! 心を壊してはいけない族長が、なんで率先していじめの主犯をしているんだよっ! それでもこの村を支えるリーダーなのかよっっっ!!」
しょーちゃんは言った。みんなが思っていることを全部、全部を吐き出すように、ぶちまけるようにして言った。
ファルナさんの悲しみを代弁するように、私達の気持ちにも代弁をして、ダイレクトに伝えるしょーちゃん。
本当に、私やみんなが伝えたかった……、この人は頭がおかしいんじゃないかや、なんでそんなことをしているんだという気持ちや、そして、そんなことをして、恥かしくないのか。
他にもいろいろあるんだけど、それでもしょーちゃんは余すことなく、私達が言いたいこと、そして訴えたいこと、叫びたいことを余すことなく、全部言ってくれた。
クロゥさん言いたいことも、訴えたいことも、全部全部――
全部――吐き出してくれた。
息を荒くして、怒りの目を族長さんに向けながら、しょーちゃんは膝に手を付き、そして荒い呼吸を整えると、その言葉を聞いてか、今まで黙っていたデュランさんが徐に、顔のない頭でふっと微笑むそれを零すと、そのまましょーちゃんの近くに馬の蹄の音を鳴らしながら歩み寄り、そしてしょーちゃんの肩に手を乗せながら、デュランさんは言った。
「ああ、確かにお前の言う通り――この郷にいると、心までもが異常をきたしてしまいそうになる。蜥蜴の魔女が言っていた異常者は、お前達のようだ」
「デュランの兄貴っ!」
「そして我々がここに来た理由は、試練に合格し、そして認めてもらうことだ。ただ合格を貰って後にするなんぞ――我の気位が廃るっ!」
デュランさんは言った。
右前足をぐっと持ち上げ、そして鼻が植えられているその場所の近くで――『がぁんっっ!』と蹄の音を大きく鳴らすと、その音を聞いた誰もがびくりと肩を震わせ、そして族長さんや烏の鳥人さんは一際大きく肩を揺らして驚きのそれを浮かべると、デュランさんは族長さんと烏の鳥人さんに向けて、頭がないのに、まるでその場所に頭がある様な怒りを剥き出しにしながら低い音色でこう言ってきた。
「族長殿――我々は強くなるためにここにいるのだ。それを棒に振るうなど、無碍なことはやめていただきたい。そして我々が話したいのは――『生物』の魔女ファルナただ一人! もし、それでも合格を与えて帰っていただきたいというのであれば……、それ相応の措置を執り行うつもりだ。脅しではない。これは――正統な手段だ。それでもまだ…………帰っていただきたいとでも抜かすのか?」
それならば……、こちらにも考えがあると思っていただきたい。
そう凄んだ音色で、そして覇気のある音色で言うデュランさん。
低い音色のせいもあって、その威力はまさに怖い人の声。その声を聞いた瞬間誰もが、特にアキにぃが引きつった顔をして肩を震わせている。無理もない話だろうけど……。でもその声のおかげなのか、族長さんはこの時初めて見る驚きの顔と、そして白い羽毛が青く見える様な顔をして固まっていた。
そして、烏の鳥人さんも黒い羽毛が青く見えるような蒼白を見せ、そしてそのままファルナさんのことを拘束していた木の棒をそっと離し、そのままファルナさんから距離をとって、体を縮こませながらデュランさんのことを見た。
ファルナさん自身は驚きの顔をして、突かれていたその頬に手を添えながらしょーちゃん達のことを見ていた。
ぽかーんっとした顔を、私達に見せながら……。
その光景を見て、そしてやっとファルナさんと話せるような状態になったと思ったしょーちゃんは、ずんずんっと歩み寄りつつ、そして鼻息をふかしながらファルナさんに近づいて行くと、その光景を見て、族長さんははっと息を呑むと同時に、ファルナさんに向かって歩み寄るしょーちゃんに向けて――
「っ! 待て」
と、言葉を荒げるそれで零し、そして翼があまりない手を伸ばした。そのまましょーちゃんの腕を掴むように、その手を伸ばして……だけど、それが伸びる前に族長さんはその手を即座に引っ込めてしまった。
なぜ?
理由なんて簡単だ。
だって――族長さんが手を伸ばした瞬間、その場所に向けて割り込むように遮ってきた槍を見て、それを見た瞬間族長はその手を伸ばすことをやめたのだから。
危うく、その手を傷つけてしまいそうな距離に槍が差し込まれたのだ。それは族長でもひっこめてしまう。私でも、きっと固い体を持っている人でも、反射的に手を引いてしまうだろう。
引くと同時に族長は槍が差し入れられたその方向に目をやり、そして槍の持ち主に向けて儂特有の睨みを利かせると、その睨みを見て、そして槍を差し入れた人物――デュランさんはそんな族長のことを見て、一言……。
「待たないぞ。そして――貴様の言うことなど誰も聞かん。我々は、ファルナと言う魔女の試練を受けに来ただけなのだ。この郷の風習を学びに来たのではないからな」
と言うと、それを聞いていた族長はぐっと声を詰まらせるような唸り声を上げて、デュランさんのことをぎろりと睨みつける。
その光景を見ていたヘルナイトさんは私の隣でデュランさんに向けて、止めるような張り上げる声で言うと、それを聞いたデュランさんはふんっと――鼻がない顔……、じゃなくて、頭がないその顔でふんっと鼻を鳴らしながら……。
「心配など無用。傷つけはせん。我々は『12鬼士』その名の恥じる行いをするほど、我は落ちぶれていない。殺しなどせんよ」
と言って、デュランさんはその槍を構えたまま――族長の行動を阻害するように構えていた。
ただ本当に構えていただけだった。
その言葉と光景を見てヘルナイトさんはデュランさんの心意を察してか、荒げていたその焦りをすぐに鎮静化して冷静なそれを取り戻した後――ヘルナイトさんはデュランさんに向けて頷いて言葉を零す。
「そうか。わかった」
デュランさんの言葉と同時にヘルナイトさんは凛とした音色で頷きを示し、その後で体から何か温かくて、それでいて熱いものを感じたような気がした。
でもそれは前にも感じたことがある様な頼もしいもので、それを感じた私はそれが何なのかすぐに理解をした。
そして――肝心のしょーちゃんはそのままファルナさんに近づき、今でも渦向かっているファルナさんの近くに腰を下ろして、しゃがみながらしょーちゃんは聞いた。
「で? お前はどうしたいんだよ?」
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、ファルナさんは驚いた顔をしてしょーちゃんのことを見るとしょーちゃんはその体制のまま器用に両手をぶんぶんっと力強く振り、そしてファルナさんに向けて「だーかーらぁー!」と大きな声で叫ぶと、驚くファルナさんのことを見降ろしながらしょーちゃんは言った。
力強い音色でしょーちゃんは言ったのだ。
「俺達はお前たちの試練を受けにここまで来たんだ。ラドガージャさんの試練も合格して、あんたの試練も合格して俺たちは認めてもらいたいんだ。だから――あんたが課す試練を教えてくれ! 誰が行くのか、そしてその試練の内容を――俺たちに全部どーんっとぶちまけてくれ!」
「…………………………でも、いいの?」
「え?」
しょーちゃんのその大胆ともいえるような言葉を聞いていたファルナさんは、一瞬何を言っているんだという顔をしながら起き上がり、そしてしゃがんでいるしょーちゃんのことを見つめていたけど、そのあと彼女は無表情ともいえる様な冷たいけど、その中にある驚きを帯びているような音色でこう言ってきたのだ。
しょーちゃんの顔を見ながら、彼女は言う。
しょーちゃんの行動自体に驚きを感じながら……。
「そんなあっさりと私の言うことを信じてもいいの? 私この郷でなんて言われているのか知っている?」
「知っているよ。異常者なんだろ? それはラドガージャさんからも聞いたし、それに俺たちからして見ると族長とその郷の人たちのほうがよっぽど異常者だ」
「でも姿は」
「姿なんて関係ねえよ。今はその姿で判断する奴の言葉に従うよりも、今は自分のことを認めてくれるやつのことを信じて、そしてそのために行動することが大事だと俺は思う。人を見かけで判断するのはだめだってよく親父からも言われている。それに――あんたはこの村を守るために戦っているんだ。そんな奴の苦労を知らない奴の言うことなんて、従うな。それよりも――お前のことを唯一信頼している奴の言うことを信じて行動する方が、俺はいいと思う。で? あんたは――どうするんだ? 試練やるのか? やらないのか?」
ファルナさんは言った。
しょーちゃんに向けて、本当に私の言うことに従ってもいいのかと問い詰めると、それを聞いていたしょーちゃんは頷きつつ、族長さん達に向けて指を指すと、その言葉を聞いたファルナさんはそれでもいいのかという風に聞くと、それに対してしょーちゃんは言ったのだ。
姿なんて関係ない。全然関係ない。
自分の姿云々で迫害をしている人よりも、自分のことを信じてくれている人のことを信じて行動した方がいい。そう言い聞かせながらしょーちゃんは言った。
しょーちゃんの言葉に対して、つーちゃんは驚きながら「ショーマらしくない言葉を……」と呟いていたけど、敢えて聞かなかったことにしよう……、うん。
そんなことを思いながら再度ファルナさん達のことを見ると、ファルナさんはぐっと下唇を噛みしめて、そしてしょーちゃんのことをじっと見つめた後、彼女は意を決したのか、そっとその口を開いて、そしてしょーちゃんのことを見降ろそうとその場で立ち上がる。
立ち上がった瞬間ふらりと覚束ない足がふらついたような気がしたけど、そのあとすぐに体制を整えて、そしてしゃがんでいたしょーちゃんも立ち上がると、立ち上がったしょーちゃんのことを見降ろしたファルナさんは (ファルナさんのほうが少しだけ背が大きかった)しょーちゃん達に向けてこう言った。
はっきりとした音色で、そしてあの時とは違う、何にも感じられないような心のそれではない、かすかに見える何かに対して助けたいという気持ちを表したもしゃもしゃを出しながら――ファルナさんはにこっと微笑んで言った。
「まぁ――族長がああいわなかったらやるつもりだったんだよ? だって私が課す試練は、そんじょそこらの試練とは違って、失敗したら絶対に取り返しがつかないことでもあり、そして……、何度か死ぬかもしれないなことだからね。それを君たち……、デュラン様御一行にさせようと思っていたから」
「…………………………死ぬ、のか?」
「うん、死ぬ。それでも――受ける? 受けない? どっち?」
即答のような言葉で言うファルナさん。
死ぬ。
その言葉を即答と言わんばかりに言って、そしてその言葉を微笑みながら言うファルナさんは、あの時と同じように怖さを持っていたけど、その怖さはきっと、しょーちゃんに対しての優しさを映し出している。
だって――今ファルナさんが出しているもしゃもしゃは、真剣そのもののことで、嘘なんて言う言葉がないような音色でもあり、心のそれでもあった。
族長が言う嘘ではないような真剣で偽りなんてない言葉。
それを聞いて、そしてその試練をするということ聞かされたしょーちゃんは、驚きのもしゃもしゃを出しながら固まっている。誰も顔を見るために振り向かず、ただ自分の意志で考えるように無言になって……。
「なぁ――お前らはいいのか? あいつだけに聞いているみてーだけど、いいのかよコウガ」
「ああ? 聞いてどうするってんだ? そんなのあいつ次第だろうが」
「まぁそうなんだけどよ……」
「それにな――あいつのことだ。俺達が止めたとしても、止めることなんてできねえ。それは一緒になって行動してすぐわかったことし、それに……、断る理由なんて、ないだろうが」
しょーちゃんのその光景を見ていたキョウヤさんが小さな声でコウガさんに何かを聞いているけど、それを聞いていたコウガさんは呆れるように溜息交じりに言うと、それを聞いていたコウガさんはしょーちゃんのことを見て、そんなことできないという諦めと、あいつなら絶対に言うという確信を持った顔をして――コウガさんは言った。
………そう。コウガさんの言う通り、しょーちゃんは絶対に言ったことは有言実行する人で、何に対しても全力で行うほどの熱血漢を持っている。
だから――だからこそ、ここまで来て逃げるなんてことは絶対にしない。それは私も知っているし、つーちゃんも知っている顔をしてため息を吐きながら諦めの笑みを浮かべている。
何が言いたいのかって?
簡単に言うと――ファルナさんの言葉に対して、しょーちゃんは絶対にこう言うという。という確信を持っていると言いたいだけ。
絶対にこう言う――それは……。
「――受ける! それ一択に決まっているだろうがっ!」
そう。しょーちゃんなら断言してファルナさんの試練を受けるという。と言うこと。
それを聞いて、コウガさん、つーちゃん、そしてデュランさんはどことなくまんざらでもない顔をしてしょーちゃんの言葉に対して異論のない頷きを示していた。
むぃちゃんは私の腕の中でその光景を見ながらポカーンッとしていたけど、それでもさらなる恐怖を抱いて泣くということは全くしなかった。
きっと――むぃちゃん自身もむぃちゃんなりに覚悟を決めていたのかのかもしれない。そこまでは分からないけど、それでもしょーちゃんの言葉に対して、誰もが否定の言葉を述べる人はいなかった。
むぃちゃん以外の全員、肯定のそれを示して――ファルナさんのことを見ていたというのは言うまでもなかった。
そんなみんなの顔を見て――ファルナさんは再度くすりと笑みを浮かべてから「よし」と小さな声で呟くと――
「それじゃ――早速向かおうか」
と言ったのだ。その場でくるりと体を回転させ、踵を返すように私達のその背を見せると、ファルナさんの言葉にしょーちゃんが「え? 今すぐなんすか?」と素っ頓狂な声を上げつつ、首を傾げながら聞くと、それを聞いていたファルナさんは首だけをしょーちゃんに向けながら「そうだよ」と言って……。
「早くしないと――あいつこっちに向かって急接近するよ?」
と、ファルナさんは言った。なんでと言わんばかりの顔をして、平然とした音色で言うファルナさんの言葉に、しょーちゃん達、そして少しだけ空気になった私達とエドさん達も、首を傾げることしかできなかった。
一体――何が急接近するのか。
一体何がここに来るのだろうと思った時、私はむぃちゃんとリカちゃんを抱きしめながらファルナさんのことを見て、そしておずおずとした音色でファルナさんの名を呼ぶと、ファルナさんは私の声を聞いて、その声が聞こえた場所に向けて視線を向けると、ファルナさんは私のことを見て「なに?」と、陽気な音色で首をコテリと傾げる。
傾げたその顔を見た私はおずおずと言った形でファルナさんのことを見つつ、そして意を決するように私はファルナさんに向かって聞いた。
「その……、早くしないと急接近するって、それってどういうことなんですか?」
その言葉を聞いたファルナさんは一瞬目を点にして私のことを見ていたけど、その後視線を上に向けて考えるような仕草をすると、すぐに私のことを見てにっこりと微笑みながら言った。
初めて出会った笑みと共に、嘘なんていうそれが一切ないもしゃもしゃを出しながら彼女は断言した。
「だって――そいつはこの郷に向かって近付いて、郷諸共壊そうとしているんだから、早めに殺さないといけないもん」




