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PLAY91 ファルナの試練④

「皆様――着きますよ。あれがファルナ達が住んでいる……、鳥人族の郷です」

『!』

「!」

「見えてきたか。長かったな……」


 長い長い飛行の末、やっと着いたのか、クロゥさんは私達に向けて大きな声で着いたことを知らせてくれて、それを聞いた私達ははっとしてクロゥさんが見ている方向――正面を見つめる。


 私は今まで悶々とクロゥさんから告げられたファルナさんのことを考えていたので少しばかり上の空になっていた。


 皆がその間何かを話していたように聞こえたけど、それでもさえ聞こえない状態で私は自分の世界に入り込んでいた。


 なのでクロゥさんの声が聞こえるまで、みんなが何の話をしていたのかわからない。聞こえていたと思うんだけど、それでも聞こえなかった。


 そのくらい――私は考えていた。


 クロゥさんの声が聞こえると同時に、私は一時的に考えをやめて、目の前に広がる……、と言うか、これまで見てきた風景とは違うその光景を目に焼き付けて驚きで言葉を失う。


 アキにぃやキョウヤさん、そしてシェーラちゃん達年齢的に若い人達はその光景を見て、私と同じように驚きの顔を浮かべて言葉を失っていたけど、唯一年を取っている虎次郎さん (……少し失礼だったかな……?)はその光景を見ると同時に、「おぉ!」という驚きと初めて見るその光景に歓喜のそれを上げ一番年下のむぃちゃんと、幼いそれを出しているリカちゃんはその郷の光景を見て――



「「うひゃぁーっっ! すごーいっっ! ツリーハウスだぁー!」」



 と、大きな声を上げて好奇心旺盛さがある叫びを上げた。目をキラキラとさせて、初めて見る光景に興奮しながら二人は叫んだ。


 それもそうだろう。


 なにせ目の前に広がるその光景は子供の好奇心を(くすぐ)る様な光景で、二人の言う通りすごいという言葉が相応しい風景でもあったから。


 私達の目の前に広がるその光景は本当にむぃちゃんとリカちゃんの言った通りの光景――青々している葉っぱがいっぱい生えていて、その葉っぱに照らされて太陽の光と共に、緑の世界がところどころにちりばめられているように見える大きな大きな巨木。その枝木に括り付けられている、いくつもの木で作られた家がある大きな大きなツリーハウスがそこにあったのだ。


 鳥小屋のように枝に括り付けている家や、そのまま枝に乗せている家。そしてその巨木の周りを飛んでいる鳥の種族――鳥人族達が雑談をしたり、飛んで仕事をしたり、井戸端会議をしながら飛んで笑っていたりしていた。


 その光景はまさに鳥達の楽園。鳥の種族の人達が住むのに最も適した場所ともいえる様な場所でもあった。


「おぉー! 確かにツリーハウスだべ」

「あそこで飛んでいる鳥はもしかして、ハトかな? 手紙持って配達している」


 その光景を見て、京平さんとエドさんは驚きと初めて見る光景に興奮しているような音色で言うと、それを聞いていたクロゥさんの前を飛んでいた――若い烏の鳥人さんは私達のことを見るために飛びながら振り向き、そしてクロゥさんと私達のことを見ながらその人は言った。


 すごく淡々として、まるで心がこもっていないような……、案内ロボットのような雰囲気でその巨木に括り付けられている一際大きな家を指さしながら――彼は言ったのだ。


「あの家が族長の家です。詳しい話は族長に聞いてください。それでは」

「え? ちょっと」


 そう言ってすぐ、若い烏の鳥人さんは踵を返して行ってしまった。私達に目的の場所を告げると同時に、そのままあとは自分達でなんとかしろと言わんばかりの雰囲気で、至極面倒くさそうに言って……。


 その光景を見て止めようとしたキョウヤさんの声を無視して、そのまま彼はこの巨木の周りを飛んでいる黒い鳥人族のところに向かって飛んで行ってしまう。


 聞こえているはずなのに、それを無視しながら……。


「えぇー? 睨まれた挙句無視って」

「何なのよあいつ……! 無視とはいい度胸じゃない」

「あ、それあたしも思ったよ。ねぇ善。あいつイラつくからぶっ飛ばしてもいい? アタシ達ってお客様だよね? お客様に対してあれはないだろう? あれをした瞬間即刻クビだから、それを教えてもいいよね?」

「ん」

「『ダメ』って、即答だな。お前」


 キョウヤさんはその光景を見つつ、驚きと呆気を重ねたような顔をしながら若い烏の鳥人さんが行ってしまった方向を見て嘆きの声を上げると、それを見ていたシェーラちゃんは腕を組みながら怒りの言葉を小さく零す。


 微かに舌打ちが聞こえたような……、きっとこれは気のせいではない。


 そんなことを思っていると、シェーラちゃんの背後で若い烏の鳥人さんのことを指さしながらシロナさんが真顔で善さんに向かって言っている。殴ることへの承諾をしているかのように言うけど、善さんは首が捥げるのではなかとうくらいぶんぶんっと首を横に振っている。


 ブンブンブンブンッ! と、高速に降るその光景を見て、シロナさんは驚きながらもシェーラちゃんと一緒に舌打ち交じりに言葉を吐き捨てる。


 でも、その気持ちは殆どの人が一緒みたいで、その光景を見て京平さんやコウガさんが大きく、且つわざとらしく舌打ちを零していたことに関しては深く言わないでおく。


 その光景を唖然と、そして苛立ちを込めるような視線で見ていると、私達を乗せて飛んでいたクロゥさんが私達に向けて「仕方がないです」と言って、続けて私達に向けてこう言ってきた。


「鳥人族の人達は蜥蜴人達とは違い他種族や冒険者という存在に対して嫌悪感を抱いています。我々竜人族に対しては協定関係を築いていますが、快く思っている傾向はありませんので、きっと自分達以外の種族や人のことを――部外者として見ているのでしょう」

「それって……、よく見る村の仕組みと同じじゃん」

「オメー結構バンバン言うな。そのせいで結構怒られてんじゃねえの?」


 クロゥさんの言葉を聞いていたアキにぃは、引きつった驚きのそれを浮かべて言葉を失いそうな音色で言う。震える声で言ったその言葉に、京平さんは驚きつつも真顔でアキにぃに向かって突っ込む。


 正直、そうですと言いたいけど、私やキョウヤさん、シェーラちゃんはアキにぃに事を思ってそのことを言葉にせず、そのままアキにぃと京平さんの背後を見ながらうんうんと頷くだけに留める。


 言葉にしてしまうと、アキにぃのことを傷つけかねないから……。


 そんなアキにぃ達のことを見ていたクロゥさんは、ふぅーっとため息を吐くと同時に俯きながら「そうですね」と言うと……。


「アキ様の言う通りなのかもしれません。私自身、この郷のやり方に関しては納得がいかないことが多いです。迫害や差別を露骨に行い、そして他種族との関係を築こうとしない。鳥人族の思考は、今でもわからないものですからね」

「それはそれで、怖いですね……」


 クロゥさんの言葉を聞いていたつーちゃんは、肌の色素を薄くしながらクロゥさんの顔を見降ろすと、つーちゃんの言葉を聞いてクロゥさんは頷きつつも、「ですが」と言って、クロゥさんは私達のことを目だけで見上げながら彼は言う。


 ばさりと、先程よりも小さな動きで翼を羽ばたかせて、その行動と同時にクロゥさんはゆっくりとした動きで若い烏の鳥人さんに言われた場所に向かって動くと、クロゥさんは空気を変えようとしているのか、明るいような音色でこう言ったのだ。


「王はこの場所で二つ目の試練を受けるようにとおっしゃっていたのでしょう? ならば早速受けに参りましょう。鳥人族にも話は通っているはずですので」

「ああ……。そうだな」


 その言葉に、みんなを代表してデュランさんは頷きながら言うと、その言葉に従うように、クロゥさんはゆっくりとした動きで足がつく場所に向かって進む。


 その最中、鳥人族さん達の冷たくて、痛い視線が私達の肌に突き刺す。まるで早く出て行けと言わんばかりの目で見ているその気配を感じつつ、私達は族長がいるその家の近くに足場に向かう。


 でも、私はそれと同じように、デュランさんのもしゃもしゃを見ながら少しだけ、不安を覚えた。


 デュランさんのもしゃもしゃは今でも不安定で、『残り香』を相手にする前と同じようなもしゃもしゃを出しているその光景を見て、私は思ってしまう。


 デュランさんは、一体何に対して焦っているのだろうと……。


 そんなことを思いながら――私達はクロゥさんの背に乗りながらその場所に向かう。


 この郷の族長に会うために、そして――ファルナさんの試練を受けるために……。



 □     □



「………はぁぁぁぁ」


 やっとというのだろうか……。やっと私達は次の目的地でもある鳥人の郷に着いた。


 といっても、その移動をしてくれたのはクロゥさんで、この日鉱の移動でクロゥさんは相当疲れているということは私たち自身十分理解してはいる。


 けど、それと同等に、私は現在疲れを感じていた。


 現在進行形で、肉体的にではなく、精神的に私は疲れていた。


 肩の力をどっと落としながら小さいながらも深い深いため息を吐き、そのため息とともに魂が抜けそうなそれを覚えながら吐き続ける。もう何秒ほどこの『はぁ』を吐いているのかわからないけど、それでも私はそれを隠すことができずに、長い間そのため息を吐いていた。


 若干……、ここまで長いそれを吐いた時、こんな時に限って凄い肺活量だなと思いながら吐き捨てていると、その声を聞いていたヘルナイトさんが私の背を支えつつ、私のことを見降ろしながら――


「ハンナ、疲れたのか?」


 と聞いてきたけど、それを聞いた私ははっと息を呑むと同時にヘルナイトさんのことを見上げて、その顔を見上げながら私は首を横に振って、控えめに微笑みながら「だ、大丈夫です」と半分嘘の言葉をかける。


 正直……、ヘルナイトさんには本当のことを吐いてもいいと言われていたけど、今回ばかりはそれを吐いてはいけないことは私も理解しているし、もしこの場所で本当のことを吐いたら、多分空気がもっと重くなることを察していたから、私は半分嘘のその返事をしたのだ。


 なにせ――私がここまで疲れている理由は、この郷についてからの出来事だから。


 あの後、クロゥさんは私達をこの鳥人族の郷の広い足場に下ろし、全員下りた後でクロゥさんは元も竜人の姿になった。


 でも、その姿を見ている時、私やみんなは、とある何かに気付く。些細なものではなく、一瞬でそれを察知したかのような……、そんなビリッとくる感覚。

 

 その感覚を感じると同時に、私はそっとそれが感じる背後を、ちらりと振り向きざまに、そして視界の端でちらりと見るように少しだけ頭を動かして、背後を見た瞬間……、私は背筋を這うねっとりしてて、そして異常に冷たい何かを感じた。


 効果音で言うと――ぞわわっ! とした感覚。


 その感覚を引き出しているそれは、私達のことをまるで物のように見開かれた目でじっと見つめていたから……。


 何の感情も何もない目で、私達のことをじっと監視しているような目で、その場にいた鳥人族の人たちは見ていたのだ。


 大人も、おじいちゃんおばあちゃんも、あろうことか子供も、ぎょろっとしたまあるい目で、じぃーっと監視していた。


 それを見た瞬間、その感情の無い目を見た瞬間、私は背筋を這う感触を味わい、そしてその視線から逸らすように正面を向き、そして少しだけ視線を下にする。


 少しでも鳥人族さん達のその目を見ないように、視線を感じないようにと言うできる限りのことをして、何とか誤魔化そうとしていたのだけど……、それをしたとしても降り注いでくる視線の雨。


 それも竜泉軍のように降り注いでいるから、視線を下にしてもぜんぜん緩和も何もされない。どころか悪化の一途。


 きっとみんな気付いていると思う。私でさえも気づいたのだ。この視線の痛みを感じ、そしてその視線に打たれながら私達は族長がいるというその家までクロゥさんの案内の元 (クロゥさん自身地図を見てのうろ覚えなので少し時間がかかってしまった)私達は向かっていた。


 クロゥさんの背を見てついて行き、そして背後に感じる視線の痛みを感じながら、私達は族長の家に向かっていた。


 その間会話なんて一つもなく、どころかくしゃみをした瞬間に鋭い視線がさらに鋭くなるから、一つ一つの動作でさえままならない状態だったので、私やアキにぃ達、コウガさんたちやエドさん達は心身ともに疲れてしまっていた。


 リカちゃんやむぃちゃんも深い深いため息を吐いて、しょぼんっと頭を項垂れながら歩いているほど、これはきついものだった。


 でも、ただの視線で正直なことを言ってしまったら、その後どうなってしまうのかわからない。と言うか、想像すること自体怖いので、私はそのあとのことを考えながらヘルナイトさんに聞かれた時私はとっさに嘘をついたのだ。


 その嘘を聞いたヘルナイトさんは、一瞬私の言葉に対して疑いのそれを一瞬だしていたけど、すぐにその疑いを消すと同時に、頭をかすかに動かし、そして何かを察したのか、ヘルナイトさんは再度私のことを見て、小さな声で「分かった」と言うと、ヘルナイトさんは私の背に添えているその手を添えたままで、私のことを優しく押し、そしてヘルナイトさんはさりげなく私の背後に回る。


 ヘルナイトさんのその行動を見た私は驚きつつもヘルナイトさんのことを見上げようとしたけど、ヘルナイトさんはその私の行動が起きる前に、小さな声で……。


「気付けなくてすまなかった。私自身このような状況は慣れている身でな、そこまで頭が回らなかった。安心しろとは言えない状況ではあるが、それでも今は私が視線を浴びている。楽にしても大丈夫だ」


 と言ってきた。


 それを聞いた私はヘルナイトさんの大きな優しさを感じつつ、その気遣いを受けながら小さな安堵の息を吐く。その後すぐに小さくお礼を述べて控えめに微笑むと、それを見ていたヘルナイトさんはこくりと頷く。


 微かに零れる甲冑と鎧が当たる音が響くけど、それは本当に小さなそれだったので鳥人族の誰もがその音に耳を傾ける人はいなかった。


 傾けない人達と、そして視線が遮られたおかげで落ち着きと言うか、安心を得てほっとしていた時、突然むぃちゃんとリカちゃんが私の前にそっと立ち、そのまま私の前を歩み始めたのだ。


 すすすっと、大人たちに気付かれないように、そーっと歩み、そして自然な流れで歩む光景を見た私は、驚きつつもむぃちゃんを見降ろし、そしてリカちゃんのことを見ると、二人は私のことを見るために振り向く。


 なんとも言えないような悲しそうでもあり、懇願しているような顔をして二人は私とヘルナイトさんのことを見る。


 視線で、『私達も入れて』と訴えているような目を見て、私はヘルナイトさんのことを横目でちらりと見る。


 一応言っておくけど、独占というそんな感情はその時一切なく、ただ私はヘルナイトさんが迷惑じゃないかなと思っていたので、私はヘルナイトさんに承諾を得るように振り向こうとしたのだ。


 振り返るのではなく、横目で見るように、じっと私達のことを見ている鳥人族の人に気付かれないように……。


 本当なら、普通に会話をしてその場所に向かいたいのが正直な本音で、こんな状況一秒でも脱したいのが本音だ。でも、今はそんなこともできない状況なのも事実で、鳥人族の射殺すような視線を止めるということは、今の私達には備わっていない。


 そのことを思いながらもヘルナイトさんに承諾を得ようと私は横目でヘルナイトさんのことをちらりと、おずおずとした形で振り向くと、私とむぃちゃん、そしてリカちゃんの不安そうな顔を見てか、ヘルナイトさんは甲冑を頷くように動かして――


「ああ、大丈夫だ」


 と、はっきりと――凛とした音色で言うヘルナイトさん。


 それを聞いたリカちゃんとむぃちゃんの顔に、ぱぁっとひまわりの花が咲いたかのような笑顔が浮かび、二人はお互いの顔を見てにっこりと微笑みながら安堵のそれを浮かべると、今度は私のことを見て私の手に向けて手を伸ばした。


 私から見て――むぃちゃんは右、リカちゃんは左という視線なんだけど、二人はそれぞれ私の片方の手を握って、そしてそのまま歩みを進める。


「でしたら、お姉ちゃんも一緒に行くのですっ。手をぎゅーです!」

「おててぎゅーねっ! よぉし! 行こう行こうっ!」


 と言って――むぃちゃんは私の右手を左手で握り、リカちゃんは私の左手を右手で握って、まるで小さな女の子がお母さんの手を握って帰るようなそんな行動をしながら、二人は歩みを進める。


 その手に引かれるがまま、私は歩みを二人に無理に合わせて歩みを進める。


「おっと……」


 そんな声が零れそうなくらい二人は安心しているのか、ぐいぐいと私の手を引っ張って、そして安心しているその笑みを私に向けてくる。


 その顔を見た私は、不思議と心が安らぐような、子供が出す和むそれを感じながら、私も不思議とつられるように笑みを零す。そして二人一緒に転ばないように二人の歩む速度に合わせながら歩みを進める。


 ヘルナイトさんも私達から離れないようにその歩みの幅を大きくして、鳥人族の監視めいた視線を受けながら進む。


 後方ではヘルナイトさんに守られながら、私は前方にいるむぃちゃんとリカちゃんの笑顔の歩みに引っ張られていく。さっきまでのピリピリした感覚が嘘のようなそれを感じながら、私は二人に引かれるがまま族長がいるというその場所まで向かう。


 二人という癒しをほのかに受けながら……。


「おっとっ。わっ?」

「うにゃぁっ。お姉ちゃんそこ危ないですよっ!」

「そこ枝が盛り上がっているから躓くよ――気をつけてね」

「う、うん……」


 ………………少々お恥ずかしいところを幼い二人に (リカちゃんはどうなのかわからないけど、言動的に幼いので……)見せてしまい、背後でふっと微笑んでいるヘルナイトさんに見せながらだけど……。


 そして――


「ここです」


 と、短いような長いような道のりを歩んで (いろいろと躓くようなことがあったけど、何とか無傷で来れた……)、やっと族長がいるという祖の郷でもひときわ大きな家に着いた私達。


 クロゥさんの声を聞いて、みんなが立ち止まると、目の前にあったのはほとんどが木で作られた家。一言で言うと下の方には人間でもある私達が通れるような普通の木で作られたドアと、その二階の部分に開いた丸い穴が開いている――鳥小屋があった。


 鳥小屋と言っても嫌な響きにしかならないけど、その光景を見ながら誰もが思ったかもしれない。


 なにせ――私達は着いて、そしてクロゥさんの声が聞こえて見上げた瞬間……、丸い穴の中に向けて黒い烏の鳥人さんが飛びながら入ってきたのだ。まるでその中にある餌を頬張りに来たかのように、そのままするりと入って行ったから、私はそれを見て、真っ先に鳥小屋と連想してしまった。


「鳥小屋だな……、人間専用のドアがある」

「あら奇遇。私もよ」

「となれば……、この郷の家は全て」

「アキ、シェーラ、おっさんやめなさい。そこでファンタジーを壊すようなことをするな。そしてその言葉を言った瞬間なんだか背中に突き刺さる何かが強くなった気がするからそれ以上はやめろ」


 どうやら私と同じことを思っていたのか、アキにぃとシェーラちゃん、虎次郎さんが族長の小屋を見上げながら思ったことを呟いていた。


 視線によるストレス、そして視線に対して神経を研ぎ澄ませてしまっていたのか、三人は何だか疲れたような顔をして思っていることを口にしてしまっている。


 なんだろう……、目が座っているような……。

 

 そんなことを思っていると、即座にキョウヤさんが三人の言動を言葉で止めて、そして辺りの空気が変わったことを告げると、その声を聞いた私は、確かにと思いながら辺りの気配を感じ取る。


 さっきまでチクチクと針で刺すような痛い視線が、更に痛くなるような視線となって私達のことを見つめている。


 例えるなら――包丁の先が背中に突き刺さる様な……、そんな痛み。


 本当に痛いんじゃないんだけど、それでもじくじくと心を蝕んでいるような、そんな気持ち。


 それを感じていると、むぃちゃんとリカちゃんの手に力が入る。


 私の手に縋るようにぶるぶると震えながらぎゅっと握る感覚を感じた私は、はっとして二人の顔を見ると、二人は明らかに不安そうな顔をしながら周りを見回し、びくびくとしながら周りを気にしている。


 その光景を見た私は、すぐに二人が私の手を掴んだ本当の理由を知った。


 きっと二人は私のことを気遣うそれもあったのだけど、本当は二人ともあの視線が怖くて私の手を握ってきたのだ。


 それもそうだ。むぃちゃんはまだ十歳で、リカちゃんは一体何歳なのかはわからないけど、それでも幼いことは分かる。そんな幼い二人だからこそ、きっと怖くて誰かの手を掴んで、縋るものを欲していたのかもしれない。


 幼い二人からして見ると、この視線は怖いもの。それ以外の物はない。ただ怖いという感情が、二人の行動を促したのかもしれない。


 二人の行動、そして心のそれに気付いた私は、二人のおかげで私自身も少しだけ安心したというお礼も兼ねて、二人の手を握ると同時にその場でしゃがむと、不安そうに顔を歪ませている二人のことを見て私は控えめに微笑みながら言った。


「大丈夫。大丈夫だから――怖かったら私の手、いつでも握ってもいいからね? 遠慮しなくてもいいから」


 そう言うと、二人は大きな目に大粒ほどの涙を『うるるっ』と溜めて、そして泣きそうな顔で私のことを見ながらこくこくと頷く。


 わかったという合図を見た私は、再度控えめに微笑み、そして二人に手を優しく握りると、二人はその握りに応えるかのように、ぎゅうっと私の手をぶるぶると震わせながら握り返す。


 ――やっぱり、怖いんだな……。この視線が……。


 二人の顔を見て、そしてこの拭えない恐怖の中『大丈夫』と言っても全然大丈夫じゃないそれを感じて、私は内心唸りそうになった。


 なにせ――こんな鋭い視線の中にいるのだ。


 よくある赤外線センサーが全身に当たっているかのような感覚。そしてそれと同時に、いつ視線を向けている人たちが何をしでかすのかという恐怖もあって、全然大丈夫じゃない空気を作り上げている。


 そんな緊迫が私達のことを襲うのだ。大丈夫と言われても、大丈夫じゃないのが本音だよね……。


 そう思いながら、震えて私の手を握っている二人の手を優しく握り返した瞬間――突然それは聞こえた。


「よくぞ参られた」


 その声を聞いた瞬間、今まであった視線が一気に消えた。ふっと――電源が落とされたかのように、それが一瞬のうちに消えたのだ。


「あ?」

「視線が……」

「消えた……?」


 その視線を感じていたのか、コウガさんとエドさん、そしてアキにぃが驚きの声を上げながら辺りを見回していると、正面にある族長の家のドアが、ぎぎぎぎぎぎっと――鈍い音を立てて開いたのだ。


 ドアが開く音はまさにホラーの映画でよく聞くような音。


 その音を聞いた瞬間、誰もが、クロゥさんでさえも警戒を強めるようにドアに向けて警戒の視線を向ける。


 コウガさんに至っては苦無を持とうとしているところだ。


 その光景を見ているのか、ドアの向こうの――老人のような声の人物は私達に向けて、老人の声だけど、どことなく覇気があるように聞こえるその音色でこう言ってきたのだ。


「王から聞いている。儂のような老体だと、この風の冷たさが針のように痛いのじゃ。入れ」


 その言葉を言って、ゆっくりとドアを上げたその人は――ヘルナイトさんと同じ身長で、温かそうな布を体中に覆っているかのような姿の鷲の鳥人さんだった。


 白い頭と黄色いくちばしは本物の鷲を思わせて……、と言うか、本物の鷲なのか……。その儂の鋭くて怖い目を私達に向けてじっと見つめてはいるけど、翼が生えているであろうその手にはもう翼と言うものがなく、ボロボロになってしまった数本の羽しか生えていない。鋭い鉤爪もボロボロになり、足も細くて、己の足でその体を支えられないというそれがひしひしと伝わる様な――皮だけの細い鳥の足。その体を支えるためなのか、大きな鳥の羽で作った松葉杖を手にし、よろよろと体を動かしながらその人は――鳥人族の族長様は、私達のことを見ていた。


 じっと…………鷲特有の鋭い眼で。


 体は衰えているけど、目だけは衰えていない。それをひしひしと感じるような目で見られた私達は、驚きとその視線を見て金縛りにあってしまったかのような衝撃を受けながら固まっていると、族長様は私達のことをさらに鋭い眼で見つめ、そしてゆっくりと、本当にゆっくりと踵を変えながら――


「早く入れ」


 と、老人の声で促し、そのまま家の奥へと足を進めた。


 その声を聞くと同時に、私達は一瞬呆気に……、じゃない。族長さんから出ている威圧に気圧されて動けなかったけど、その声を聞いたクロゥさんは、何かを覚悟したのか、固唾を飲む様な音を微かに出すと同時に、私達のことを見て……。


「入りましょう……、もしかすると、説明があるやもしれません」


 と言った。


 すごく真剣で、神妙で、更に言うと強張りを見せる様なその顔で、クロゥさんは言った。


 それを聞いた誰もが、覚悟を決めたのだろう。クロゥさんがは言った後で、ぞろぞろと一人ずつ族長の家に入って行く。私達は最後尾だったので、私はむぃちゃんとリカちゃんのことを見て――ぎゅっと握って安心させるように微笑むと……。


「――行こう。大丈夫、私がついているから」


 と言って、私は二人に促す。


 それを聞いてさっきまで不安そうにしていたその顔を出していた二人は、一瞬互いの顔を見つめ少しの間黙っていたけど、私の言葉で覚悟を決めたのかお互いの顔を見て頷き合い、そして私の顔を見て……、二人は鼻を「ふーんっ」と鼻息をふかすと、こくりと頷いてくれた。

 

 そして……。


「そうですよねっ! 行きましょう! 今お姉ちゃんのことを守れるのは私達だけなのですっ!」

「もしお姉ちゃんが危なくなったら絶対に逃がしてあげるからっ!」

「え? あ。うん。アリガトウ………」


 そう言って私は二人の覚悟を受け取って、そのまま鵜足に引っ張られながら族長の家に入る。


 ヘルナイトさんもその光景を見てか、ふっと微笑むような声を出して入って行く音が聞こえた後、私は二人に引っ張られながらこんなことを思っていた……。


 若干泣きそうになるそれを感じながら、私は思った。


 ――もしかして私って、二人から見ると、頼りない存在なのかな……?


 そんなことを思いながら、私達三人とヘルナイトさんは、族長がいるであろうその部屋に向かって歩みを進め、そして…………。


 衝撃の言葉を告げられてしまうことになる。

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