PLAY91 ファルナの試練③
※この物語には、設定上苦しくなるような展開が含まれています。ご注意ください。
「ショーマァー? ショーマさーん?」
「………………」
「ダメだ……。怒りで我を忘れている……」
「それ……怒りで我を忘れているの? 頑固親父のように腕を組んで、しかめっ面の状態で胡坐をかいているようにしか見えないんだけど……?」
それから私達は若い烏の鳥人さんの後を追っているクロゥさんの背中で一時危ないような事態を免れたかのような、嵐が過ぎ去ったかのようなそれを感じながらつかの間の休息を堪能していた。
堪能……。
そう言えばいい響きかもしれないけど、実際私達はそのつかの間の休息を堪能していない。
ただあの時ファルナさんから感じた怖いものと、異常なそれを感じてしまい、これから起きるであろうファルナさんの試練のことを思うと、何だろうか……、心が沈んでしまうような、そんなもしゃもしゃをみんなと言うか、エドさん達『レギオン』と、ヘルナイトさん。デュランさん以外のみんながそれを出しながら心が沈んでいた。
休息を楽しむこともできない状態で……。
その中でもしょーちゃんはファルナさんが言ったことに対して気に食わないのか、むすっと犬歯が見える様な口の形をしながら胡坐をかき、腕を組みながら顰めた顔を見せている。
真っ直ぐ――クロゥさんが飛んでいる方向を見つめながら……。
その光景を見ていたつーちゃんが呆れるように肩を竦めると、それを聞いていたエドさんは驚きながらつーちゃんとしょーちゃんのことを交互に見ている。
そんな会話を聞きながら、私は茫然と言うのか、それともぼーっとしているのか、そんな顔をしながら見ていると思う。
なにせあんなことが起きたのだ。こんな時に明るくできるか? と聞かれたら……、できないと言ってしまうほどのそれだから……。
偏に――これからあの異常なファルナさんの試練を受けるとなると、自然と気分が沈下していくということなんだけど。
そんなことを思っていると、私の近くで胡坐をかきながら尻尾をふりふりと動かしていたキョウヤさんはふと何かを思い出したかのような顔をすると同時に――クロゥさんのことを見降ろしながらキョウヤさんは聞いた。
鳥人族の郷に着くまでの間、何も話さないのも居心地が悪いと思ったからなのだろうか、キョウヤさんはクロゥさんに向かって聞いたのだ。
「そういえば……、ちょっといいすか?」
「なんでしょうか?」
「いや……ちょっとした疑問なんですけど」
キョウヤさんの言葉を聞き、前を向いて飛んでいるクロゥさんは目だけをキョウヤさんの方に、と言うか上に向けて声を上げると、それを聞いていたキョウヤさんは申し訳なさそうに手をぶんぶんっと振りながら言うと、その言葉の後でキョウヤさんは続けてこう言ったのだ。
「クロゥさんって、あのファルナって女の子……、じゃねえな。あの鳥女……でもないのか? あーどっちかわからねえけど、あのファルナって子のこと知っていたような口ぶりでしたけど、どんな子なんすか? ファルナって」
「あ、それ僕も聞きたかった」
「どうせ変な奴だ!」
「ショーマ、ちょっと黙ってて」
キョウヤさんの言葉を聞いてか、つーちゃんもあぁと言わんばかりの顔で手を叩くと、キョウヤさんのことを見て自分も興味がありまーすと言わんばかりの挙手で手を上げると、それを聞いていたのか、しょーちゃんが怒りの音色で反論をするも、つーちゃんに反論返しをされて、再び無言に……。
キョウヤさんとつーちゃんのその言葉を聞いて、クロゥさんは今まで黙っていたその口をそっと開けつ、「えっとですね」と言いながら言葉を濁すと、クロゥさんは観念をしたのか、溜息が混じっているような音色でこう言う。
ばさり――と、大きな竜の翼を一度羽ばたかせながら……、クロゥさんは話した。
「先ほども話しましたが、鳥人族と竜人族は昔から親交が深い一族で、その親交は何百年もの間続いています。親睦の内容としては、戦争が起きた時どちらかの種族が絶滅しそうになった時加勢をする協定関係。そしてそれぞれにない物資の交換をする貿易関係を結んでいるものなのですが、その関係上と言いますか……、飛ぶもの同士仲がいいのもあって、友好関係があるというだけなのです」
「ほほぉ。友好関係とはいい言葉じゃな」
クロゥさんの言葉を聞いていた虎次郎さんは、クロゥさんの腰のあたりで胡坐をかいて座っていて、その辺りでうんうんと頷きながらクロゥさんの話に耳を傾けていた。
それを聞いていた私達は、振り向きながらうんうんっと頷いている虎次郎さんのことを見ていたけど、虎次郎さんのことを見て、その虎次郎さんの近くにいたシリウスさんが首を傾げながら――
「おじさんこんなに距離があるのによく聞こえたねー」
と、陽気で何にも考えていないような音色で言ってきたけど、虎次郎さんはそんな言葉を聞いていないのか、シリウスさんの言葉に反応することはなかった。
でも、シリウスさんの言いたいことは分かる。
だって……、虎次郎さんがいるところはクロゥさんの体の腰辺り。その辺りではっきりとその声を聞くのは若い人ならばできるかもしれないけど、虎次郎さんは見る限りお年寄り。なので聞こえないかもしれないという不安もあったけど、それをかき消すように、虎次郎さんはそれを聞いて頷いていた。
失礼な話だけど、お年寄りとは思えないような耳の良さ。
そう思っていた時、クロゥさんは虎次郎さんの言葉を聞きとってか、飛びながら大きな首を動かし、ぐぅんっと頷きながら彼は言ったのだ。
「ええ、確かに友好の関係を築き上げているのは確かです。ですかそれは鳥人族と竜人族の関係というだけで、鳥人族は今現在問題を抱えているのです」
「問題? 何の問題だよ」
「ん?」
「善が『深刻な問題なのか?』って聞いている」
「いやマジでなんでその『ん』の中にそんな言葉発しているの? 暗号?」
クロゥさんの言葉を聞き、シロナさんは足を延ばした状態でクロゥさんの言葉に耳を傾けると、それを聞いてか善さんも首を傾げながら聞く。
何度も聞いても分からないけど……、その『ん』の中に含まれる内容がなぜシロナさんにはわかるのか、今でも疑問だ……。キョウヤさんの気持ちは、私も同文だ……。
そう思いながら私はシロナさんと善さんのことを見て首を傾げていると……、シロナさんの言葉を聞いてクロゥさんは少しだけ言葉を濁すように唸る様な声で唸る。まるで……、言いたくないようなそのもしゃもしゃと雰囲気を見て、私は思った。
ああ、シロナさんの予想通りなのかな……?
そんなことを思っていると、少ししてクロゥさんは覚悟を決めたのは、私達に向けてシロナさん達の質問に答えるようにそっと口を開いた。
「深刻といいますか、それは鳥人族にとって最も犯してはいけないタブーですので、きっと深刻以前の問題だと、私は思います」
「タブー?」
「はい。タブー。禁忌ですね。鳥人族にとって、ファルナのような存在は禁忌そのものなのです」
クロゥさんは神妙で、心苦しいような音色で言う。
ファルナさんのことをタブーと。そして、存在そのものを禁忌と、クロゥさんは言った。
たとえでも何でもない。ありのままというそれを体現するように、はっきりとした音色で言うクロゥさん。
私はそれを聞いた瞬間、一瞬脳裏にファルナさんの怖い笑顔が浮かんだけど、それを思い出すと同時に、今まで思っていた印象が少しずつ、本当に少しずつ変わっていくのを感じた。
怖いという印象は今でも消えていないけど、それでも私はクロゥさんの言葉を聞いて思った。あんなに笑っているファルナさんが、鳥人族の禁忌そのもの? 一体何がどういうことなのだろう……と。
それを聞いてか、上で唸る様な声を上げるヘルナイトさんの声を聞いて、私ははっとしてすぐに上を見上げると、ヘルナイトさんは頭を抱えながら何かを思い出すような仕草をして唸っていた。
私はそれを見上げると同時に、ヘルナイトさんのことを見上げたまま「だ、大丈夫ですか?」と聞くと、それを聞いていたヘルナイトさんは私の声に気付いて驚きの声と同時に……。
「あ、ああ。大丈夫だ。またいつものことだ」
と言った後、ヘルナイトさんは流れる様に首を動かし、その視線をクロゥさんが向けている方角――ファルナさん達が行ってしまい、そして鳥人族の郷があるその方向に視線を向けた。
まるで……、その方向を見ながらあの時起きたことを捥いだしているような、そんな雰囲気を出しながら、ヘルナイトさんはその方向を見たまま固まり、頭に手を添えながら黙ってしまう。
私はそれを見て、ヘルナイトさんの体から出ている複雑なもしゃもしゃを感じながら、やっぱりもしゃもしゃの察知は変になっていないことに安堵をすると同時に、ヘルナイトさんのその複雑な顔を見て、一体何を考えているのだろうと思いながら見る。
考えていることに対して遮りもしないで、ただただその光景を見て黙りながら、私はヘルナイトさんのことを少しの間見上げていた。
すると――その沈黙に対して我慢の限界だったのか、京平さんが徐に「へっ!」という大きな発生の声を上げて、そして頭に手を回しながら京平さんはみんなに聞こえるようにこう言ってきたのだ。
「禁忌って……、そんな大袈裟だべ。さっきも変なことを言っていたけど、可愛いゆえの嫌がらせだべ。きっと」
「京平のように助兵衛じゃないし、女の子じゃないのに嫉妬して嫌がらせなんてしないと思うけど」
「おい人のことをはっきりと助兵衛って言うな! 俺は男としての性を貫いているだけだべっ!」
「それでも京平は助兵衛だよ」
でも京平さんの言葉を聞いていたのか、エドさんは今まで見たことがないような冷めた目で京平さんのことを見つめ、冷静でもあり冷淡でもある様な突っ込みを京平さんに向けて入れると、それを聞いていた京平さんはエドさんに向けて指を指しながら突っ込みを入れる。
そんな京平さんの言葉をあしらうエドさんの目は、すごく冷たいものだったということは、言うまでもない。
エドさんと京平さんの言葉を聞いて、誰もが呆れる目で京平さんのことを見ていると、クロゥさんはそんな二人の言葉を聞いて、大きな竜の首を横に軽く振りながらこう言ってきた。
「いいえ。これは嫌がらせではありません。これは――」
迫害です。
その言葉を聞いた瞬間、私達に当たる風がより一層強くなった気がした。
クロゥさんが飛んでいるから風も強くなると思っているかもしれないが、そうではない。それに足されるように追い風が私達に襲い掛かり、服や髪の毛を乱していくのだ。
まるで突然空気が変わったことを知らせるかのように、少し強めの追い風が私達のことを襲った。
そこまで害ではなかったし、髪が乱れる程度だったからよかった。
ううん。良くない。全然よくない。
良くないどころか、とんでもないことを聞いてしまったのだ。
これでよくよかったなんて言葉を吐けたなと思ってしまった私。自分で自分のことを罵っているようにも聞こえるけど、私は思ってしまった。
今クロゥさんが放った言葉――迫害を聞いて、私はおろか、みんなの空気が淀んだ。それはもうわかった。もしゃもしゃを見なくても分かった。皆の顔から笑みと言うか、先程の複雑なそれが一気に無くなり、驚愕と衝撃を受けたかのような顔を浮かべている。
それを見た私はみんなも思ったんだと思った瞬間、ヘルナイトさんは小さな声で何かを言ったような気がした。でも、その声はとても小さくて聞き取れず、一体何を言っているのかわからなかったから耳を澄まして聞こうとした時……、クロゥさんは話の続きをしようと私達に向けて言葉を発した。
そのせいで、ヘルナイトさんの言葉を聞くことができなかったのは少し残念な気持ちだけど、今はクロゥさんの話を聞いた方がいい。そう私の直感が囁くと同時に、私はヘルナイトさんに向けていた視線をクロゥさんの頭――角に向けると、クロゥさんは言う。
神妙な音色で、ぽつぽつとした音色ではなく。はっきりとした覚悟を決めた音色でこう言ったのだ。
「皆様の様な冒険者が驚くのも無理はありません。彼女は――ファルナは見ての通り人間族に近い姿をしています。そして背にある翼。それはまさしく鳥人族にしかないものなのですが、それでも郷の住人たちは彼女を郷の一員として認めていません。彼女の姿はまさに人間よりの姿で、鳥の姿でもある鳥人族にとってすれば異常でもあり、鳥人族には見えないという声を今でも聴きます。どころか……、彼女は鳥人族の恥さらしだや、鳥人族ではない。あれは……、奇形だという人もいました。そして彼女のあの性格も相まって、郷の住人からは差別を受けていると聞きます」
「ただ、体が違うだけなのに……、見た目が違うだけなのに……」
クロゥさんから告げられたファルナさんのことを聞いて、私は思わず声にしてその言葉を零してしまった。
なにせ――ファルナさんに対しての行動と言うか、その言葉そのものがあまりに鋭い刃物のようにも感じられ、そして今でもそれを行っていることを聞いた瞬間、私は思ってしまったのだ。
体の見た目が違うだけなのに……、なんでそんなにひどいことが言えるのか? 元々は同じ鳥人族なのに、こんなの……ひどい。ひどすぎると……。そう思うと同時に、込み上げてくる苦しさや悲しさそ、そして理解できないという気持ちが押し寄せて、私は胸の辺りで両手の指を絡めながら握る。
ぎゅぅ……と、弱々しく……。
その光景を見て、ヘルナイトさんが私の肩にそっと手を置き、そしてシェーラちゃんが絡めている私の手に静かに右手を置くと、シェーラちゃんはクロゥさんの角を鋭い眼で見て、そして凛々しい音色で彼女は言った。
クロゥさんの角を見ながら、クロゥさんに向かって言ったのだ。
「そうよ。ただ見た目が違うだけでそこまで差別するようなことなの? そんなのただのいじめに等しいわ。アクアロイアの蜥蜴人の集落でガザドラっていう蜥蜴竜族がいたけど、そいつのことを心配しているおせっかいな族長がいたわ。種族は違えど、自分のせいで不幸にさせてしまったことを後悔している族長を見た。血も何も違うけど、それでも、そいつのために罪を償おうとしたことだってあったのに、なんで鳥人族はそこまで姿が違うやつのことをそこまで迫害するのよ」
「簡単です」
でもその言葉に対してクロゥさんははっきりとした音色で、かつシェーラちゃんの言葉に対してしっかりとした反論ができるような雰囲気を出しながら、クロゥさんはシェーラちゃんの言葉に対して返答をした。
簡単だ。その言葉通りの返答をして――
「ファルナは、人間族と鳥人族の亜人。いうなれば――混合種族なのです」
一時的に流れる沈黙。
ううん……、厳密には静寂なんてこの世界で作ることは不可能だ。
厳密には風の音と、クロゥさんが羽ばたかせる翼の音が鼓膜を揺らし、それ以上の音が聞こえない空間を一時的に作り上げていくと言った方がいいだろう。
本当に、何の声も発せられないような一時的な沈黙を、無言で驚いたまま固まってしまった私達が作り上げていきながら、その空間は一時的に声という存在を消していく。
そのくらい私達は驚いた。と言うか、同時に察してしまった。
なぜ、ファルナさんが人間よりの姿をしているのか。そして鳥人族の人達はそこまでしてファルナさんのことを毛嫌いをして、迫害をしているのか。それがなんとなくではなく。はっきりとわかってしまったのだ。
わかったと同時に、そんな私達の心境なんてわからないクロゥさんはそのまま冷静な面持ちと音色で飛び、ばさぁっと大きな大きな翼を羽ばたかせながら彼は言う。
迫害の真実と、そしてなぜファルナさんがああなってしまったのかを――
「あなた方は知らないかと思いますが、『六芒星』……。いいえ。今は元ですか。我々の国のせいで辛いを思いさせてしまったガザドラ……、様は、竜族の父と、蜥蜴人の母の間に生まれた異種の存在であり、禁断の恋の末に生まれた種族です。ファルナの場合は人間の母と鳥人族の父の間に生まれたれっきとした亜人であり、彼女の親も、ガザドラと同じように禁断の愛によって生まれた子供だったのです。どちらも一目惚れをし、そしてファルナを授かった。ですが……、授かってすぐ――鳥人族達はファルナの存在を消そうとしたのです。穢れの血を持った子を産むことは、鳥人族にとって祟りそのものを意味していたのです。わからないでしょう? なぜ亜人を生むだけでそんなに畏怖するのか。なぜそこまで消そうと躍起になるのか。今でこそ亜人の郷のように、共存できる状態ではありますが、鳥人族は元来古い文化だけに囚われた種族なのです。新しい道具も使わない。古き風習を重んじる一族でもあり、そして古き思想を重んじる一族でもありました。なので……、亜人の郷のことをあまり快く思わず、そしてファルナの誕生を快く思わなかった。むしろ……、母事亡き者にしようとしていたほどに……」
クロゥさんは続ける。ばさり……と、風の抵抗を受けながらも意に返さずに飛びながら、無言になっている私達に向けてクロゥさんは続ける。
「あなた方の国では亜人や魔人、混種の軋轢がないが故わからないかとも思いますが、鳥人族はその軋轢をひどく毛嫌いします。異常なまでに……。そんな状態で、死ぬ思いを何度も何度もしたファルナの母でしたが、ファルナの父の仲裁もあって、ことが大きくなることはありませんでした。夫婦はファルナのことを守り、そして無事に郷の目を盗んでファルナを生み……、夫婦はそのまま、見せしめとして処罰されました。生まれたばかりのファルナを抱きしめることもままならないまま、夫婦は処罰され、ファルナは郷の端の古小屋に隔離され育てられました。親の愛情も何もわからないまま、ファルナは今までずっと村の迫害を受けながら育ちました。ですが、ここで疑問に思うでしょう? なぜファルナは祟りの象徴とも言われているのに、生かされているのか。簡単な話です。郷のみんなは保身が欲しかったんです。自分たちを守るための――盾が欲しかったのです。彼女の母は運よくなのか悪いのかはわかりません。しかしファルナの母は魔女の力を持っていました、そしてその力はファルナに受け継がれ、彼女は生物の声を聞くことができ、そして力を借りることができる魔祖を持っていました。アキ様。あなたがあのようなことを言われていたのはきっと、彼女と仲がいい鳥か何かが彼女に話したからでしょう。ファルナはそうやって生物達と会話をし、意思疎通をしているのです。そして――憎いはずの郷をその手で守っているのです。迫害を受けながらも、行くところも逃げる場所もない中……、ファルナは生きている。いいえ。生かされているのです。その迫害のせいで、彼女の人格はあのようにひん曲がっていますが……、私が見たときはまだ優しさを持っている女の子でした。このようなことを私の口から言うのも変ですが、どうかファルナをあまり毛嫌いしないでください。あのようなことを言い、そしてあのような人格になってしまったのは郷のせいなんです。そこだけは、わかっていただきたい。そして――あの子を嫌わないでください」
クロゥさんは話してくれた。長い長い言葉を冷静に、私達にわかりやすく、そして自分の感情も入れながら話してくれたおかげで、私は、私達はファルナさんという存在が一体どんな人なのかを知ることができた。
一部だけだけど、それでも分かることがある。
ガザドラさんも確かに魔人族で、混合種族だ。そしてそれはこの国にとってすれば禁断の愛。
決して混ざり合ってはいけない愛の形なのだ。
それをガザドラさんの両親はしてしまった。ファルナさんの両親もしてしまった。ううん……、その二組は、きっと自分の意志に従ったんだ。だからこれを『してしまった』で言ってまとめてはいけない。
これは……、本当の愛なのかもしれない。
というか、愛を知らない私が語っても変な話になる……。うん。
その意志に従ったのに、ガザドラさんの両親も、ファルナさんの両親も……、同じ運命を辿ってしまった。
辿り、そしてガザドラさんは『六芒星』に入ってテロを起こそうとしていた。でも今はそれを悔い改めて、と言うか……、恩人に対してそんなことをすることができなかったところで、ガザドラさんの良心が勝って現在はボルドさん達と一緒に行動している。
でも――ファルナさんは違う。
今でも、その郷の住人から受ける迫害に耐えながら生きている。そしてその耐えていく中で、ファルナさんの人格が歪んでしまった。
ガザドラさんとは違う……、道に、彼女は進んでいる。
もしかすると、全員に対して警戒をしているのかもしれない。心を開いていないのかもしれない。だからもしゃもしゃが見えなかったんだと、私はこの時結論付けた。
彼女は――心を閉ざしている。だからクロゥさんは言ったんだ。嫌いにならないでくださいって。そしてあの子のことを悪く思わないでください。って……。
その声ともしゃもしゃから感じてわかった。
クロゥさんはきっと、ファルナさんのことを心配しているんだ。
あの時少ない会話の中で、ファルナさんは毛嫌いをするようなそれを剥き出しにしていなかった。むしろ好意的なそれを出していた。それを思い出すと同時に、私は思った。
みんなが門なそう思ったのかはわからないけど、それでも私は思った。
私はきっと、ファルナさんのことを表面でしか見ていなかったのかもしれない。
内面が見えなかったからって、内面がわからない人だからって、私はその人のことを怖い人と勝手に認識していた。その人が一体どんな人生を歩んできたのかも知らず、苦労を知らずに、この人は危ないと、クレイジーだと勝手に思い込んでしまった。
本当に、表面で思ってしまったのだ。
この人は危ないと。
ラドガージャさんの時だって最初危ない人なのかなと思っていたけど、ラドガージャさんにもラドガージャさんなりの考えがあってあんなことをしたんだ。そして裏切りを受けたこともあって、ラドガージャさんは少しばかり疑心になっていた。
表面しか見ないで判断をしたせいで、私達のことを襲うことになった。
それと同じだ。
私達も、ファルナさんのことを何も見ないで判断をしてしまった。きっと、クロゥさんの言葉がなければずっと異常な人と思ってしまっていたかもしれない。
ずっと、警戒の目で見ていたかもしれない。
その辺に関して――反省をしなければいけないのは、私達。
見かけで判断してはいけない。その言葉が正しいかのような情景が今起きたのだから、こればかりは反省をしなければいけないんだ。
本当に最初こそ悪いように見てしまった。しょーちゃんの言うとおり『どうせ変な奴だ!』という言葉を定着させていたのだから、私達はそれを、考え方を変えなければいけない。
ファルナさんをあまり悪いように考えない。
そう思いながら私は小さな声で頷く。そう考えないようにしようと、心の中で思いながら……。
□ □
この時、みんなが一体どんな考えを持っていたのかなんて私は分からない。
だって私はもしゃもしゃを見て察するだけだから、その人の心の声を見ることなんてできない。超能力者でもなければそんなことできない。
だから私は分からない。皆が一体この時どんなことを考えていたのか。一番怒っていたしょーちゃんが一体どんなことを考えていたのかもわからないし、そして今まで何を考えているのかわからないデュランさんの声も聞こえない。
だから私は分からない。皆が一体どんなことを考えているのかわからないまま……、クロゥさんは私達を乗せてどんどんと鳥人族の郷に向かって近付く。
これからどのようになるのか、予想もつかないまま……。




