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PLAY90 ラドガージャの試練⑦

「えええぇぇぇぇーっっっ!? まだ十五分ほどしか経っていないのに、もう戻ってきたんすかぁぁっっ!? はえーっすよぉぉぉ!」

「あー………、確かに。なんか……、ごめんね。そんなに進んでいないのにこんなに早く終わらせてしまって」

「いやいいっすけど……っ! 早いっすねっ!」

「あー。うん。まぁ思ったより早めに終わったよ……」


 そのようなことを話しながら、三十分はかかると思って動いていたしょーちゃんは愕然とした顔で何食わぬ顔をして戻ってきたエドさん達 (もちろん無傷で、しかも後ろには縄でぐるぐる巻きにされた状態で御用となっている多分クィーバの残党らしき人達と一緒に)は集落に戻ってきた。


 エドさん達はしょーちゃんの驚きの声を聞き、そして周りの光景を見ながらなんだか申し訳なさそうな顔をして頭を下げながら『申し訳ない』と言わんばかりの言葉を零すと、それを聞いていた善さん達も申し訳なさそうな顔をして頭を下げていた。


 唯一頭を下げていないシロナさんとリカちゃんのことを見て、シロナさんの頭を善さんがリカちゃんの頭を京平さんが掴んで無理やり頭を下げさせると、その光景を見て近くにいた虎次郎さんが角材を肩の乗せた状態で「そこまで怒っておらんよ。心配するでない」と落ち着かせるような宥めていたことは、ここだけの話。


 でも正直な話……、エドさん達の光景。背後にいるボロボロのクィーバの人達の泣いている顔。恐怖の顔。更に言うと数少ないだろうけど顔面がどことなく変形しているクィーバの残党さんを見て、正直虎次郎さんのように平然とすることができない私達がいる。


 ヘルナイトさんとシリウスさん、デュランさんは平然としていたけど、たぶん……、本当に多分なんだけど、きっと驚いている……。そう信じたいと思っている自分がいる。


 本当にびっくりしているくらいそんな自分がいて……、今でも信じられないような目で見ている私。


 え? 何が言いたいのかって? うーん。簡単に、本当に簡単に言うことしかできないし、多分三日熊止めてしまう結果になってしまうけど、つまり――


 本当に平然とすることができなかった。


 エドさん達の無傷の帰還を見て、アキにぃやキョウヤさん。そしてコウガさんはその光景を見て言葉を失いながら手に持っていた角材を地面に『ごとんっ!』と落とし――


 私とシェーラちゃん、むぃちゃんはボロボロになっているクィーバの残党達のことを見ながら唖然として、手に持っていた家を作るにあたって必要不可欠な釘をボロボロと落としてしまい――


 つーちゃんはその光景を見つつ、茫然とする思考の中力も抜いてしまっていたのか、しょーちゃんと一緒に(まさかり)よろしくのような状態でその木を切ろうとしていたのだけど、つーちゃんが掴んで押さえていた木がぐらりとしょーちゃんの足にずり落ちてしまったので、重くてずっしりとしている木が――しょーちゃんの足に『どしっ』と乗ってしまいそれと同時にしょーちゃんの激痛の声を上げたけど、つーちゃんはその声を無視……、じゃない。聞ける余裕がない状態でその光景を唖然とした顔で見ていた。


 そう。虎次郎さんやヘルナイトさん、デュランさん、シリウスさんは平然としていたけど、私達はその光景を見た瞬間、目の前に広がる現実を現実として受け止めることができなかった。


 正直な話……、あれ? これは夢かな? そう思ってしまうほど。


 なにせ――試練の内容は無傷で武器なしで三十分以内にクィーバの人達を拘束する。


 それを聞いてから試練の日――つまりは今日になり、エドさん達と別れた後復興作業をしながら……、本当のそれが達成されるのか? もしかすると重傷で戻ってくるのかもしれない。と思いながら復興作業をしていたのだけど、それをいとも簡単に壊してきたエドさん。


 いうなれば――宣言を回収したエドさん達を見て私達は思ってしまった。しょーちゃんが驚愕の声を上げたその言葉と同じことを思ってしまい、そして固まったのだ。


「マジで無傷で戻ってくるとは……、すげぇな……」

「いくらキョウヤでも無傷で槍なしとなると、絶対に丸投げしそうな試練だったのに……、あの人達何をしたんだろう……。まさか……っ!」

「アキ……、お前すごくダメなこと考えているだろう……。てか今の状況でそんなことできるわけねえだろうが」

「な……っ! なんでわかったのっ!? なんで『裏技使ったのかもしれない』って思っていたことを察知したのっ!?」

「勘だよ勘」

「うるせぇなシスコン野郎。てかキョウヤの言う通り有言実行したなあいつら……。ボロボロの奴らなんか泣きながらぶつぶつ言っていやがる……、本当に何しやがったんだ……?」


 なんだろう……。アキにぃとキョウヤさん、そしてコウガさんの声が聞こえたけど、その声が小さすぎて何を言っているのかわからなかった。


 でも、そんなみんなの顔と言葉、雰囲気を察したエドさんは困ったように頭を掻きつつ……、「いやー……、あははは。なんか、ねぇ」と、汗を飛ばしながら言葉を濁して笑みを浮かべている。本当に参ったと言わんばかりの笑みで、だ……。


 京平さんは明後日の方向を向きながら口笛を吹いているし、善さんは善さんで無言でいるからそれ以上の言葉を聞くことはできなかった。


 のだけど……。


「おおおおぉっっっ! ラドガージャおかえりだなっ! して! クィーバの輩達はっ!?」

「ただいま戻りましたよグラドニュード。そしてよく見なさい。私の後ろにいるではありませんか。泣きべそをかきながら俯いている千人もの集団が、あなたの目の前に」

「んんっっ!? おおお! まことだなっ! しかしなぜ泣いているのだっ!? まさか……っ! ラドガージャ」

「私は何もしていません。()()は集落に着いてからするつもりでしたが、思いのほか彼らは頭が悪いようでべらべらと話してくれました。ですので何もしていませんよ。()()

「え? まだ?」

 

 ラドガージャさんのことを見て、今まで復興作業をしていたグラドニュードさんが大きな声を上げつつ、ずんずんっと歩みながら近付き、そして至近距離でラドガージャさんの顔を見ながら大きな声で、唾が顔につきそうなほどの大きな声と張り上げるそれで言うと、それを聞いていたラドガージャさんは心の底から、グラドニュードさんの言葉を返す。


 もしゃもしゃを見てわかる。本当に鬱陶しそうなそれを出しながらラドガージャさんはグラドニュードさんの言葉に返答をすると、それを聞いて、そしてラドガージャさんの背後にいるクィーバの残党を見た瞬間、グラドニュードさんは歓喜のそれを上げてラドガージャさんのことを見る。


 大きな大きな、喜びの声を上げながら――


 それを聞いていた誰もが、グラドニュードさんの興奮冷め止まない大きな声を近くで聞くことができず、その声に対して五月蠅いと思っているかのように、守るように耳を両手で塞いでその声をフィルター越しに聞いていた。


 私もその一人で、ラドガージャさんはグラドニュードさんの大きな声を聞いて鬱陶しそうな顔をしていたけど、グラドニュードさんはそのことを気にすることもなく、未だに泣きべそをかいたり、顔から血を流したり、顔が腫れてひどいことになっているクィーバの人達を見て、グラドニュードさんは再度ラドガージャさんのことを見て疑問の声を上げた。


 けど、すぐにはっと息を呑むような声を出して、ラドガージャさんのことを見たグラドニュードさんは、驚きの声を上げてまさかと言った瞬間、何を思ったのか――ラドガージャさんは首を横に振りながら否定の言葉を向ける。


 それを聞いてグラドニュードさんはほっと胸をなでおろすような行動を示したけど、その前に私はラドガージャさんの言葉を聞いて、内心冷や汗が出そうなそれを感じた。


 なにせ――ラドガージャさんの言葉に、何やら怪しい言葉が含まれていたので、一体何をするつもりなんだろうと一瞬思ってしまったから……。


 それはつーちゃんも思ってしまったらしく、青ざめた顔をしながらラドガージャさんのことを見ていたけど、そんな会話を聞いて、やっと区切りがついたと思ったのか、エドさんはラドガージャさんに向けて確認のためエドさんは「それじゃ――」と言いながらラドガージャさんに向けてこう聞いてきた。


「これで――いいですよね? 試練」

「………そうですね」


 エドさんの言葉を聞いて、ラドガージャさんは踏むっと喉を鳴らしながら蜥蜴の顎のところに手を添え、腰にれを当てながら、人で言うところの考えるような仕草をしてからラドガージャさんは小さな声だけど、私達にも聞こえる声でぶつぶつと独り言を呟く。


 一応――審査基準を満たしているか。それを思い出しているようなそれを出しながら……。


「試練の内容は、確かに『無傷で武器を使わずに相手を拘束する。それも……、一人二百人と四百人、且つ三十分以内の間に……、相手を殺さないで』と言うものでした」

「うんうん」

「だぁれも殺してねーべ。ちゃんと生きているべ」


 ラドガージャさんの言葉を聞いて、リカちゃんは嬉しそうにうんうんと頷きながら肯定のそれを示し、京平さんは背後にいるクィーバの人達のことを親指で指を指しながら言うと、それを聞きながらもラドガージャさんは頷きながら更に言葉を零していく。


「あなた方も無傷。そしてロープを使っての拘束もよしとしましょう。武器に関しましては、各々がそれぞれが持っている武器を使わなかった。角材を持って殴る行為こそ予想だにしていませんでしたが……、刃物を持っている輩に対して避けるということだけで無傷を貫き通した。この件に関しては大目に見ておきましょう。ロープも使いようによっては武器になることもあります、善さんも影を攻撃に使うことはありませんでしたからね。しかし――」


 と言った瞬間――ラドガージャさんはすっと目を細めると同時に、クィーバの人たちの……、腫れぼったとなってしまった人の顔を見た後、ラドガージャさんは言った。


 腕を組んで、その手から赤いそれをかすかに零している――ううん。垂らしているシロナさんのことを見つめながら……、ううん違う。睨みつけながらラドガージャさんは真剣な音色でこう言ったのだ。


「シロナさん……、と言いましたね? あなたの行動を見ていましたが、あれは異常と思います。なにせ――武器を持っている相手であろうと、急所を狙い、そしてそのまま顔面を蹴り、先頭不能の陥らせる。武器を使わないところに関してはよかったですが、あれは異常です。すでに戦闘ができない相手に更なる急所の追い打ち――あれは私から見ても異常です」


 なぜ、あのようなことをしたのですか?


 そう聞くラドガージャさん。ラドガージャさんの言葉を聞いて気付いたシロナさんは「?」と首を傾げる様な顔をしていたけど、それを聞いていたエドさんは、困っている――ではなく、まずい雰囲気を感じて顔を青くさせている。


 それは私達も同じで、シロナさんの返答がまともであることを願いながら私達はシロナさんのことをじっと見つめた。


 なぜシロナさんの返答がまともであってほしいと思ったのか?

 

 簡単な話――ラドガージャさんはシロナさんの行動を見て、この試練を本当に試練達成にしていいのか多分悩んでいるんだと思う。私達は見ていないけど、シロナさんの手と、そしてクィーバの人たちの顔からして、きっとシロナさんは顔面にそれを入れたとき、色々とひどいことをしたに違いない。


 見ていないからわからないけど、ラドガージャさんがこう言っているんだ。多分そうだと思う。


 ラドガージャさんが言っていた試練の内容は……、『無傷で武器を持たず、三十分以内にクィーバの人たちを拘束する』と言うものだった。


 エドさん達は無傷で、相手の外傷を見るからにあまりけがをさせてない。けどシロナさんが相手をした二百人はボロボロで、前にアキにぃが『六芒星』にした時のようなそれが重なって見える。


 そう――ラドガージャさんは思ったのだろう……。


 シロナさんのような凶暴な人を信じていいのか。そしてシロナさんと一緒に行動しているエドさん達を合格にさせていいのか。シロナさんという存在が、エドさん達の信頼を大きく左右していると私は理解した。


 そして――不安になった。


 簡単な話――シロナさんの発言次第で試練の合否が左右される。これだけ頑張ったとしても、結局言葉次第で合格だったそれが不合格になる可能性もあるのだ。つまりはその言葉を不合格へと導くような言葉を言わないでほしいということ。


 それが本音で……、願いでもあるのだけど、そんな私達の心の声なんて――シロナさんがきっと気付いていないだろうし、シロナさん本人もラドガージャさんの言葉を聞いて察していないような空気。


 あ、しょーちゃんもそんな顔をして、何か幼稚園児が描いたようなクレヨンの絵の顔になっている……。そんな顔を見て、そしてシロナさんが一体どのようなことを言うのか、そのことに対して不安を覚えつつ、もしシロナさんがひどいことを言ったのならばなんとかして弁解をしようと思いながら、私は身構える。


 正直な話……、これをしても『なぜ関係のないあなた方がそんなことを言うのですか? これはレギオン自身の問題――いいえ。レギオンに課せた試練だったのですから、あなた方の言葉を聞く耳などありません』と、ラドガージャさんは言うかもしれない。


 そう。確かに私には関係ないと言うか、これはレギオンの問題でもあるので、リヴァイヴであり全く関係を持っていない私にとってすれば、本当に関係ないくせに何で必死になっているんだ? と言う話しだろう。


 確かにその言葉は事実で、シェーラちゃんでさえもそういうかもしれない。


 けど、なんだかこれを見過ごすということをしたくない。見過ごして、それで後悔なんてしたくない。そう思ったから、私はもし何かが来たら弁解をしようと思ったのだ。たとえ……、どんなことを言われたとしても……。


 あの時、『六芒星』と相対したとき、アキにぃとキョウヤさんが喧嘩したとき、そしてシェーラちゃんに言われた言葉が――アキにぃが変になった時と同じような光景が多分フラッシュバックとなって覚えていて、その恐怖が染みついてしまったから、私は何とかしようと思った。


 今アキにぃはそんな傾向はないけど、それでも、もうあんな苦しい想いをしたくない。させたくないという気持ちを込めて、私は身構えて、シロナさん達の試練を何とか合格に導こうと思った。


 弱虫と言われても仕方ない。でも離れ離れは悲しいから――それだけは、阻止したい。


 そう思った時、シロナさんはラドガージャさんの言葉を聞いた瞬間、呆れるような音色で溜息を大きく、大きく吐いた後――彼女はラドガージャさんに向かってこう言った……。


 ううん、言った、では済まされない……。シロナさんは言ったのだ……。


 長い長い鬱憤を、吐き捨てるように……。


「はぁ? 異常って、アタシのやり方が? フツーでしょ女一人が大勢の男を相手にするって言うなら、()()()()()()()()()()()? 本気じゃないアタシだからこそああで済んだんだし。本気でぶん殴っていたら魔物だったら粉砕消滅だって。死ななかっただけ大目に見てもいいんじゃん。と言うかあんたさー、昨日のことすっかり忘れていたけど……、あんたアタシらのことをクィーバとか言うこんなならず者の仲間と勘違いしていたじゃん。その辺まだアタシ忘れていないし、それにあんなことをしておいて謝りもしていないじゃんか! 謝罪ないじゃん! そこらへんはアタシもしっかりと覚えているんだっ! 筋肉赤蜥蜴おっさんはしていたけど、あんたからその言葉聞いていないし、しっかりとした謝りもないのにアタシらに無理難題のことを言いやがって! そっちが異常だろうがこの野郎っ! あぁー! 思い出しただけでむかついてきたぁ! なんか言えや変温野郎! 黙ってそのまま黙秘権を使うとか抜かすのかっ!? おい何とか言いやがれっ! 謝りの『ごめんなさい』とかなんとか言えやっ! こんの」


「はーいっっ! ちょっとまったああああっっっ! 善、シロナを押さえてっっ! 京平!」

「おうよっっ!」

「リカはー?」

「リカはステイオーケーッ?」

「おーけー!」

「ん!」


 シロナさんのたまりにたまってた鬱憤がどんどん吐き出されて行く光景を見ながら、私は弁解しようとしていたその気持ちがどんどんと沈下していく冷たさを感じ、みんなもシロナさんの鬱憤マシンガントークの海に入り事すらできないまま、シロナさんがラドガージャさんにどんどん詰め寄りながらずんずんと進んで、威圧でラドガージャさんのことを足そうとしている光景を見ながら唖然としていた。


 弁解をいれようなんてこともできない。どころかそれですらしてしまえば飛び火が来るような恐怖を覚えて、それをすることも躊躇ってしまうようなシロナさんの怒りの威圧。


 それを聞いてか、エドさんは善さんに向けて止めるように言うと、京平さんと一緒に何かをしようと慌てながら何かをしようとしている。追い打ち的なそれではなく、きっと私と同じように弁解をしようと思っての行動だと思う。それを聞いた京平さんは頷きながらエドさんの近くに駆け寄り、リカちゃんはぽけーんっとしながらエドさんに聞いていたけど、エドさんはそれに対して焦る様な声で言うと、リカちゃんは頷いてふよふよと幽体の体で体育座りをする。


 善さんはそれを聞いて頷きながらシロナさんの背後に回り込み、そして彼女のことを羽交い絞めにして止めると、エドさんと京平さんは二人の間に入り込むように、焦りながらラドガージャさんに向かって弁解をしようとしていた。


「あ! おい善放しやがれこの野郎っ!」

「ん! んん!」


 シロナさんの激昂を止めながら、善さんはシロナさんの言葉に対して首を横に振りながら否定をして。


「本当にごめんなさいっ! でも彼女自身あれでも手加減をした結果なんですっ! 本当は根はいい子なんですぅ!」

「そうなんだべっ! 本当に勘弁してほしいべっ! マジでご勘弁だべよぉ!」


 エドさんと京平さんはシロナさんの無礼な行動を見てか、焦りながら拘束の勢いで頭を下げてラドガージャさんに謝っていた。


 その光景を見ている私達は混沌のそれを見ながら言葉を失いつつ、その中に入ることすらできないまま、私達はその光景をじっと見ていた……。


 ヘルナイトさん達も、その光景を見ながら首を傾げて、シリウスさんはヘルナイトさんに何かを聞いていたみたいだけど、その声ですら聞こえないほど、私は……、私達はシロナさんのマシンガントークに呆気に取られていた。


 緊迫した空気だったのに、今となってすればもうその緊迫もない状態。どころか緊迫から混沌でおかしい空気。


 それを感じて、この状況は一体……、と思いながら聞いていると、ラドガージャさんはそんなエドさん達の光景を見つつ、そして何かを察したのか、ぐっと顎を引くような動作をしてから、ラドガージャさんはエドさん達の肩にその手を乗せて、冷静な音色で――


「頭を上げてください。そして、謝ることをしないでもらいたいです。それをするのは――私の役目です」


 と言って、エドさん達に言い聞かせた。


 ラドガージャさんの言葉を聞いたエドさんと京平さんは驚いた顔をしながらラドガージャさんのことを見上げると、ラドガージャさんはエドさん達のことを見てから申し訳なさそうな音色で彼は言ったのだ。


「…………確かに、彼女の言うことに対して間違いなどないです。相手は武器を持って攻撃を仕掛けようとした。そしてあなたはそれを素手で立ち向かった。本来であればそれは正当防衛になります。考え方次第の問題ですが、それでも殺さないで生かしてくれたことは、正当と言えるでしょう。私はそう思います。更に言うと、あなたの目は真っ直ぐすぎる。その目でわかりました。嘘などない。殺すことなどしていなかった。よって、シロナさんの一件は私の見間違い。先見の明がなかった怠慢の結果でした。つまるところの慢心です。最終的には、シロナさんの言うことが、あなた方チームのやり方は正論でもあり真っ当だということがわかりました。あと……」


 そう言いながら、ラドガージャさんは未だに善さんに拘束されているシロナさんと、そしてリカちゃん、エドさん達のことを見ながら、ラドガージャさんは冷静だけど、エドさん達に対して申し訳ないというもしゃもしゃを出しながら――ラドガージャさんは言ったのだ。


 流れる様に、頭を下げながら――


「冒険者の方々。遅くなりまして申し訳ないです。本来でしたら――あの時すぐに謝罪をするべきでしたのに、私はクィーバの輩たちのせいで集落が、故郷が壊されることに、そして国が私達のことを見捨てたことに怒りと憎しみを覚え、もう何も信じられないような気持でいました。むしろ――復習をする気もありました。ゆえにあなた方に対しての謝罪もないまま、私はあなた方のことを試そうとしました。難題まみれの試練を。ですが、それをする前にするべきことがあることを、忘れていました。これでは族長も、魔女も失格です。あなた方冒険者に諭されるとは……。まだまだであると同時に、私自身の幼稚な思考が恥ずかしく思います」


 それを聞きながら、私はおろか、ここにいるみんながラドガージャさんの言葉に耳を傾け、そしてグラドニュードさんも驚きの顔をしながらラドガージャさんのことを見ていた。


 きっと、初めての行動なのだろう。そのくらい驚きの顔をしているから、言葉を放つことですら忘れている。そんな顔をしていたグラドニュードさん。


 それは私達も同じで、一介の冒険者に対して頭を下げるだなんて誰もしなかったから、その光景を見て驚きのあまりに頭の中で描いていた言葉の波が一気に穏やかになり、そのまま消えてしまった。


 でも、そんなこと関係ないほど、今見るその光景は目に焼き付くもので、ラドガージャさんの心の変化が、もしゃもしゃとして現れていた。


 今まであった疑心などの暗いもしゃもしゃが、少しずつ、本当に少しずつ明るい色へと変わり、そして、頭を下げたままラドガージャさんは言った。


 エドさん達に向けて――

 

「前置きが無くなってしまいまして申し訳ございません。言うべきことを今言います。猫人のお方にも言われた通り――私はあなた方に初めに言うべきことをしなかった。なので――この場を持って言います」


 疑ってしまいまして、申し訳ございません。


 そして――集落を救ってくださいまして、ありがとうございます。


 ラドガージャさんのその言葉を聞いて、驚きのまま固まるエドさん達、そしてシロナさんは善さんに拘束されながらもうんうんっと満足げに頷く。これでいいんだという顔をしながら……。


 その言葉を言って、そして頭を上げるラドガージャさんは、そのまま私達に向けて踵を返すように視線を私達に向けると、私達にもエドさん達と同じような言葉を言い、そしてそのまま深々と頭を下げてきた。


 それを見たみんなは驚きながらラドガージャさんのことを見ていたけど、私はあわあわとしながら頭を上げてほしいと焦りながら言うと――


「やめておけ。つか、このままさせろ」


 あわあわする私の背後で、突然コウガさんが私のことを見ながら冷たくもはっきりとした音色で言うと、それを聞いていたキョウヤさんがコウガさんのことを見ながら「お前その言い方は……っ!」というけど、キョウヤさんの言葉を無視しながらコウガさんは私のことを見て、そしてラドガージャさんのことを見て続けてこう言ってきた。


「本人が反省しているって言っているんだ。それを曖昧に流すことはその謝罪そのものを無かったことにすることでもあるんだ。なら――しっかりとその言葉を聞いて、そしてしっかりと言うことこそが、筋ってもんなんだよ」

「…………………………筋」

「ああ、それが筋ってもんだ。だから――お前が言え」

「え?」

「『え?』じゃねえだろう。お前が一番近えんだし、それに、お前が一番の被害者だろうが。一歩間違えたら死にかけていたってのに……。っち。ホレ早く言え」

「え、えぇ……?」


 その言葉を聞いた私は、すぐにそっと正面で頭を下げているラドガージャさんのことを見る。ラドガージャさんは今でも頭を下げたままでいて、私達の言葉を待っているかのような雰囲気でその頭を下げている。


 私ひとりで、いいの? そんなことを思いながら隣にいるシェーラちゃんやみんなのことを見ても、誰も一緒に行くようなそれを出していない。アキにぃが行こうとしていたけど、それを止めている虎次郎さんのせいで、結局私一人で行くことになってしまった。


 再度ラドガージャさんのことを見る。今でも頭を下げたまま微動だにしない。


 ラドガージャさんの真っ直ぐで、反省しているようなもしゃもしゃを見た私は、ラドガージャさんのことを見ながらラドガージャさんに向けて手をそっと伸ばし、そして触れようとしていた。もちろん、その光景を見て、私は思ったのだ。許そうと、『良いですよ』と言おうとした。


 けどその時握ってしまい、触れることを拒んでいるようなそれをしてしまう。


 多分……、頭ではもう大丈夫と思っても、体はそれとは違う意思を持っているかのような、そんな感覚を覚えてしまう。


 頭ではもう大丈夫と思っても、もうこの人は大丈夫だろうという頭の思考よりも――体が攻撃された恐怖が勝っているみたいで、そのことが頭にも思い浮かび、私はその手を伸ばすことを拒んでしまう。


 元はと言えば……、大臣さんのせいでラドガージャさんはこうなってしまったのに、私は未だにこの人のことを疑っているのかもしれない。


 そんな自分の思考とは違う本能の自分がいることに驚き、それと同時に自分の心の狭さ、弱さを痛感してしまい、なんでこんなところでこの人を拒んでしまうの……? と、今度は自身に対して憤りを感じてしまった。


 普通に触れればいいのに、体がそれを拒絶しているような……、そんなジレンマを感じながら、私は退こうとしていたその手を無理に伸ばそうとした。


 その時――


 そっと――私の手首に触れる温かくて大きな手。


 大きくて温かいその手を見た私は息を呑むと同時に、その手が伸びているその方向に目をやった瞬間、私は心の中で思った。


 ああ、やっぱりな――と。


 そう思うと同時に、私は今まで強張っていたその感情が少しずつ緩和されて行くと同時に、握っていたその手をそっと開きながら、どんどんとラドガージャさんに向けて伸ばす。


 私の手首を掴んで、背中を押すように握ってくれているヘルナイトさんと一緒に――私はラドガージャさんの肩のその手を乗せた私は、ラドガージャさんに向けて言った。


 優しく、控えめな音色で――私は言った。


「いいですよ。許します。頭――上げてください」


 これを聞いたラドガージャさんは驚きながら頭を上げて、私達のその顔と雰囲気を見て、ラドガージャさんは驚きの顔を浮かべつつ再度頭を下げながら彼は言った。


 ありがとう、ございます。そして、申し訳ございませんでした。


 と……。



 □     □ 



 こうして、ラドガージャさんの試練を達成したエドさん達は三十分ぶりの武器を手にして喜び、そして試練合格を大いに喜んでいた。


 二重の喜び。それを聞きながら私達はたったの数十分もの復興作業しかできなかったことをグラドニュードさんに謝ったけど、グラドニュードさんはそのことに対して大して気にすることもなく、むしろ戻ってきた仲間達と共に復興をすると喜びながら言っていた。そして感謝の言葉もかけられた。


 大きな声で……。


 クィーバの残党達に関してはクロゥさんがアクルさんに頼んで王都に連行し、そのまま処遇を王都に任せることになった。


 クロゥさんも今回の国の行動に対してすごく申し訳なく思っていたらしく、ずっとラドガージャさんとグラドニュードさんに謝っていた。それはもうしつこく……。


 でも二人はそのことに対して謝らないでほしいと言って、今度はしっかりとしてほしいという注意だけで終わった。


 それ以上の(こじ)れも亀裂も入らないような和解を見て、私は安堵のそれを吐く。


 もう大丈夫だ。そう確信しながら……。


 集落にいる間はそれほど長くなかったから名残惜しいけど、今はそれどころではない。私達にはまだ試練が残っているのだ。


 そう――二つの試練を達成して、ドラグーン王に認めてもらわないといけないのだから。


 でも……この時の私達は、ううん。次の試練を受けるであろうしょーちゃん達は知らなかった。


 次の試練で――しょーちゃん達は……。


 何度も、何度も、何度も――


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………。


































 

 死にかけることに……。

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