表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/831

PLAY90 ラドガージャの試練④

 ラドガージャさんがエドさん達五人に与えた試練の内容は『クィーバの拘束』。


 総勢千人で行動していて、エドさん達はその人数を殺さず、大きな外傷を与えずに捕まえることが試練の概要。


 多少の小さな傷。


 つまりはアザやちょっとした切り傷は見逃す代わりに、それを守りつつエドさん達が無傷で、武器を使わず、且つシリウスさんの助太刀なしで五人だけで一人二百人拘束・捕まえること、制限時間三十分以内にそれができれば――試練の合格。


 それができなければ試練の失格。


 この注意事項は絶対事項。


 簡単に言うと――エドさん達は丸腰で千人の『クィーバ』を捕まえるということ。しかも三十分もの間に……だ。


 普通に聞いていると絶対にできないことでもあり、丸腰で爆弾を持っている相手に楯突くこと自体無謀なことともいえる。


 私は所属上武器なんて使わないというか使えない所属だけど、武器を使う所属の人はその武器を使わないということはかなりの致命傷で、スキルが使えなかったらできないこともあるし、もし武器がないままグーで殴るとかをしたところで、さほどダメージが出ない可能性だって高い。


 つまり――素手は危ないということであるんだけど、ラドガージャさんはそれに対して淡々とした口調でやれと言い出したのだ。


 しかも無傷の状態で捕まえるだなんて……、ヘルナイトさんでもきっと無理かもしれないこと。


 それをエドさん達に『やれ』というラドガージャさんは今でも冷静な顔で淡々とした本気のそれを浮かべている。


 嘘なんてない。おちゃらけなんてない顔で彼はエドさん達に向かって言っている。


 誰もが思った。


 この男は――あ、違う。この蜥蜴人の魔女は心が無くなってしまったのか? と。


 湿地帯のザンバードさんは感情的なところもあったけど、里のことを第一に考えている優しい人だったのに、この人の心に優しさと言うものが一切感じられなかった。


 あの時も私達のことを敵として……、クィーバの残党として疑っていたし、この人は本当に優しさというものが欠如しているのか? そう思ってしまうほど冷たい言葉ともしゃもしゃをラドガージャさんは放っていた。


 そのことに関してはアキにぃも口論した。おかしいって、みんなもおかしいと訴えていたけど……、その訴えも虚しく散ってしまう。


 本当に……、優しさなんてないような音色で、ラドガージャさんはアキにぃに言った瞬間、エドさんはアキにぃにお礼を言うと同時に、ラドガージャさんに向けてこう言葉をかけた。


「いいですけど、ちょっと()()()()()()()()()()()()()んですけど……いいですか?」

「一体……、なにが気に食わないんですか?」

 


 □     □



 エドさんは言った。ラドガージャさんに向けてはっきりとした音色で言うと、それを聞いたラドガージャさんは首を傾げる様な怪訝そうな顔をしてエドさんに向かって聞く。


 その言葉を聞いて困惑のそれを浮かべていたシロナさんと善さん、不安そうな顔をしているリカちゃんといつもと変わらない顔で胡坐をかきつつ頬杖を突いて京平さんは聞いていた。さほど怖がってもなければ困惑のそれを浮かべず、いつもと変わらない顔でエドさんの話を聞いている。


 シロナさんや善さん、そしてリカちゃんとは違った態度をしながら、京平さんは聞いていた。


 その光景を見て、京平さんを見ながら私はなんであんなに普通の顔をているのだろう……。もしかしたらエドさん達ひどい目に遭うかもしれないのに……。と思いながら、その時私は京平さんのことを少しだけ薄情な人なのかな……。と思ってしまった。


 でも、その想いも京平さんの顔をよく見た瞬間消え失せてしまう。


 なにせ――京平さんの顔がいつもと変わらないのに、エドさんのことを心から信じているような、そんなこともしゃもしゃを放っていたから……薄情と言うそれが消えたのだ。そしてそれと同時にこんな結論に至った。


 京平さんはエドさんがいい方向に事を運んでくれると信じていると――


 そう言えば……、『残り香』の時もエドさんと京平さんはずっと一緒に戦っていた。きっと一緒に戦うにはそれ相応の信頼関係がないといけないだろう。そのくらい二人は信頼を築き上げているに違いない。だから京平さんはエドさんのことを信じているんだ。


 まるで――しょーちゃんとつーちゃんのような……、そんな関係……。


 これ、しょーちゃん達に言ったら、つーちゃん怒るだろうな……。絶対に。うん。


 そんなことを思いながら再度エドさんのことを見ると……、エドさんはラドガージャさんに向けて話を始めた。ううん、違う――


 これは――交渉。


 エドさんはラドガージャさんの試練に対して、交渉を始めたのほうが正しいのかもしれない。ラドガージャさんの話を聞いたエドさんは、『えほんっ』と鉄のマスクで覆われた口の前に柔らかく握った握り拳を持っていき、そのまま咳込みながら一度間を置くと、エドさんはラドガージャさんに向けてこう切り出した。


「えっと、まず……『何が気に食わない』? と聞かれて『あ、ないですなんて言う人はいないと思いますし、それにおれ自身あなたが課す試練の内容には、些かと言いますか……、もしかしてと言いますか、それって()()()()()()()()()()()()()()()?」


「!」


 エドさんの言葉を聞いた瞬間、一瞬ラドガージャさんの顔に変化が生まれた。


 いたって冷静な顔だったそれに曇りと言うか……、驚きが混ざった顔になったのを私は見逃さなかった。


 そしてそれを聞いていたキョウヤさんが胡坐をかきつつ、尻尾をうねうねと動かしながら「あー」と言って、何か納得したような顔をしながら言うと、キョウヤさんはラドガージャさんとエドさんに向かって話に割り込んできた。


「その私情って、まさか『クィーバ』の件ってことっすか? 最初オレ達のことを『クィーバのならず者』とか言っていたし」

「そう、それ」


 キョウヤさんが思い出したように言った言葉に、エドさんはキョウヤさんに向けて指を指しながら『イエス』と言わんばかりの顔で頷きを見せる。


 すごいキメ顔が見えたけど、誰もそのことに関して突っ込むことはせず、エドさんは再度『こほん』と咳込み、そのままラドガージャさんのことを見ると、エドさんはラドガージャさんに向かってこう聞いた。


「多分なんですけど、この村にいない火山地(マグマード・)蜥蜴人(リザードマン)の雄の成人蜥蜴人と……、高地(ハイランド・)蜥蜴人(リザードマン)の雄と雌の成人蜥蜴人がいないことに関係しているのかなって思っていまして……」

「!」

「!」

「え? マジ?」

「あまり見ていないけど、雰囲気から察して本当みたいだね。なんでこの場所にその特定の蜥蜴人がいないのか……もしかしたら、そのクィーバとなんか関係があるんですか?」

 

 エドさんの言葉を聞いた瞬間、ラドガージャさんとグラドニュードさんの顔に驚愕と言うか、息を呑むようなそれを浮かべた。


 まるで――図星と言わんばかりの顔で、彼等はエドさんのことを見ていた。そんな顔を見ていたシェーラちゃんは小さな声で呆れながら「分かりやすいわね……」と言うけど、しょーちゃんはそんな族長二人の顔を見ながら首を傾げてしまっている。


 つーちゃんはしょーちゃんのことを呆れるような顔で見ていたけど、その状況を見てか少しばかり驚きもあるのも事実。その証拠に、みんなも驚きの顔をしながらエドさんとラドガージャさん達のことを交互に見ていた。


 そしてこの中で最も驚いていたのは――


「な、な、な、なぜそのことを早く言わなかったのだっっっ!」


 クロゥさんだった。


 クロゥさんはまるで目が飛び出しそうな驚き方をして、今まさにそののことを話していたエドさんとラドガージャさんのことを見ながら手振り身振りを大袈裟に動かし、ワタワタとしたそれを表しながら続けて言う。


 一目見てわかる様な慌て方をして――


「そのような一大事なぜ王に報告をしなかったのだっ! 報告一つすれば私であろうとアクルジェドでも行けることだった! 何故それを口外しなかったんだっ!」

「口外しなかった? よく言いますね」


 でも、クロゥさんの言葉を聞いたラドガージャさんは、クロゥさんのことを睨みつけながら冷静だけど怒りが込み上げてきたかのような荒げそうな音色でこう言ってきた。


 かぶりを横に振り、クロゥさんの言葉を否定するような音色で――ラドガージャさんは言った。


「最初こそ、私達は国に要請しました。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ご丁寧に大臣が私達の前に現れ、ご丁寧に『集落のことは集落同士でなんとかしてくれ。崇高なる種族の休息をそのような()()()()()()()に潰さないでほしい』と、そう言っていたではありませんか」

「きょ……、拒否……っ!? 大臣、ということは……ディドルイレス・ドラグーン大臣のことか……?」

「しらじらしい、嘘をのたまうようなものであったとは思っても見ませんでした。ただ蜥蜴と竜と言う種族の違いがあるだけなのに……。失望です」

「?」

 

 ラドガージャさんとクロゥさんの話を聞いていたみんなは、何だろうか、『ディドルイレス・ドラグーン大臣』の名を聞いた瞬間に嫌そうな顔をした。それはエドさん達も同じで、リカちゃんなんてその名を聞いた瞬間に梅干しみたいなしわくちゃな顔をしていた。正直……、笑いそうになったのは言わないでおくけど……。


 でも、ラドガージャさんの言葉を聞いた瞬間、私は首を傾げながらその話を聞いていた。当たり前だけど、なんだか話がかみ合わないようなそれを感じていたからだ。


 ラドガージャさんは言った。クィーバのことに関してちゃんと要請をした。


 でもそれに対してクロゥさんは聞いてない。一目見て真面目と言えるようなクロゥさんの耳に届いていない。更にこの事態を聞いていたのは――大臣。


 一見して見ると大臣が怪しいような気がする。なにせ私の頬を強く握りつぶしたのはあの人だし、それにラドガージャさんの話を聞くに大臣が何かをしているのは明白、つまり――大臣が怪しいのだ。


 でも……、一国の大臣がそんな小さなことでそんなことをするのかな……? と言うか、今こんなことをしている暇なんてないんじゃないかな……?


 私自身、もしかしたらそのことを根に持って疑念を抱いているのかもしれない。人って嫌なことをされた人のことをとことん信じないって聞くし、それで私も疑念を抱いているのかもしれないけど……、今はそのことで言い合っている暇はない。


 どころかそれをする場面ではない。


 それを思いながら、私はおずおずといった形で手を上げようとした時……、徐にエドさんが左手をすっと上げると……、エドさんは自分のペースを持った音色で……。


「えっと、確かに国のやり方に対して不満を持っているのは分かります。おれもそうでしたし、おれたちの仲間もそうでした。大臣に対して本当に苛立ちも覚えていますが、今は試練ですから、詳しい話を聞かせてください」


 と言うと、それを聞いたラドガージャさんは一瞬だけエドさんのことを見ると、そのまま短く溜息吐くと、そのまま俯いた状態で、中央を見つめながらラドガージャさんは静かな音色で言った。


 クロゥさんも神妙な面持ちで耳を (竜って、どこに耳があるんだろう……)傾けると、ラドガージャさんは静かな音色でなぜこうなっているのかと言うことを説明してくれた。


 その内容をわかりやすくまとめるとこうだ――


 今から一ヶ月前、突然この集落にクィーバのならず者たちが現れた。


 彼らはギルドでは通らないようなクエストのためにここにきて、質のいい蜥蜴の皮を手に入れるために最も希少な高地(ハイランド・)蜥蜴人(リザードマン)を攫おうとした。


 攫う対象は――大人になった女性の蜥蜴人で、それを聞いた集落の蜥蜴人はクィーバのやることに猛反発をした。


 武器を持って、そのままクィーバの人達を殺す勢いで立ち向かったのだけど……、相手はクィーバの住人。アズールの人達は知っているらしく。彼らは『卑怯なんて俺たちの中では日常茶飯事の法律』らしく……、如何なることであろうとどんな手段も選ばないらしい。

 

 どんな手段も使う。それは爆弾も容易に使う集団と言うこと。


 ラドガージャさんはその爆弾を集落で使われてしまったせいで、集落では死者が出てしまった。そのことに関して危機を感じたラドガージャさんとグラドニュードさんは交渉を始めようとしたのだけど、相手曰く――こんな手軽な『潤い』 (彼ら曰く――『潤い』とは儲けのことを指しているらしい)を簡単に手放したくないので、その交渉に乗ることなくその時は数十人の女蜥蜴人とラドガージャさん以外の高地(ハイランド・)蜥蜴人(リザードマン)の男蜥蜴人全員を連れ去って行ってしまった。


 帰るのではなく……、近くの山岳地帯に向かって行ってしまったのだ。


 そのことに関してラドガージャさん達はなぜそっちに行ってしまったのかと思っていたけど、その真実はすぐに知ることになった。


 それから――一人のクィーバの住人がまた集落に来て、そのままラドガージャさんに向かってとあることを言いに来たのだ。


 その時丁度ボロボ空中都市の王宮に向かって帰ってきたところだったので、あまりにも偶然にしては偶然過ぎるタイミングに、ラドガージャさんは疑念を抱くような顔をしていたけど、クィーバの一人はラドガージャさんのことを見て、にっこりとした笑みを浮かべながらこう言ってきたのだ。


 にっこりと……、極悪な笑みと共に、その人は言ったのだ。


「俺達のこと――チクったな。チクったから罰として……、集落にいる蜥蜴人を俺達に差し出せ。餓鬼と老人は売り物にならねえから、最初に赤鱗の輩を俺達に献上しろ。その後で白い鱗の蜥蜴人を差し出せ。その後でお前達をぶっ殺さないで、永遠に飼ってやるよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ラドガージャさんは思ったらしい。


 国は――自分たちを売った。商品として売ったのだと思ってしまった。


 正直国に対して失望もしてしまったのも事実。国はなぜ自分達を売ったのかも知らなかったけど、事実として国に通達したと同時にこれが来たのだ。疑うこと以外選択肢はなかった。


 そんな状況でも、ラドガージャさんはクィーバ達に向けて期限を設けてほしい。


 ゆっくりと考える時間が欲しいと言って、その場は何とか帰らせることができた。


 一ヶ月の間に決めることを条件に。


 そして――あと六日で一ヶ月になるときに私達の試練の話が来て、そしてあと三日というところで、私達が来て、襲撃をしたということらしい。


 襲撃した理由は集落の者達を売った、自分達のことを見捨てた国の刺客に対して、嘘をついてここまで来たのかもしれないという警戒心から。そして王が言っていた試練を利用して、私達を殺してその首を王国とクィーバに手土産として持っていき、そのまま彼らを殺そうと目論んでいたらしい……。


 集落の危機を見過ごし、そして保身のために売った王を、この手で殺すために……。


 それを聞いて、しょーちゃんが頬をぷくっと膨らませて吐きそうな顔をしていたけど……、つーちゃんはそんなしょーちゃんの背を撫でながら「吐くなよ』というけど、しょーちゃんの顔はますます青ざめるばかり。


 私はそれを聞きながら、対照的に――胸が苦しくなった。


 たとえ嘘のことであろうとも、ラドガージャさんはそのことを聞いて相当心を傷つけた。王様のことを信頼していたのに、裏切られた。それは信頼しているものに対して史上最強の攻撃ともいえる様な精神攻撃。


 そんな攻撃を受けて、ラドガージャさんはどんどんと負の感情を増幅させてしまったのだろう……。


 だから……、あんなことを言って、私達に向けて攻撃をしようとした。


 首を……、持っていくために……。わざと承諾をして……。


 聞けば聞くほど、なんで大臣さんはあの時王様に言わなかったのだろうと思ってしまう。あの時、王様に言えばこうならなかった。ラドガージャさんもグラドニュードさんも苦しい想いをしないで済んだはずなのに……、それを何故、苦しませるようなことしかしないんだろう……。

 

 そんなことを思っていると……、ラドガージャさんは続けて私達に説明をする。


 最初こそ殺そうとしていたけど、私達の話を聞いて、試練と言うこの状況を利用してクィーバ達を捕まえようとしたのが今回の試練の内容らしい。

 

 クィーバの拘束をすれば、集落の蜥蜴人も戻って来てくれる。殺されずに済むし全部が片付く。だからこの試練の内容を何度も何度も死んでしまったエドさん達『レギオン』に任せようと思ったとのこと。


 勿論――試練を行うのだから、しっかりとその条件も付け加えて。


 あ、一応言っておくけど……、条件に関しては自分もこんなことをされたからこれが妥当かと思っていたらしく……、本人的には意地悪で条件をつけたわけではなかったらしいとのこと。


 それを聞いたエドさんは小さな子で「天然ドS」と言って真っ青な顔をしていた。そしてしょーちゃんとつーちゃんも青ざめた顔をしながら肩をがくがくと震わせていた……。


 その頬や額から流れる滝のような冷や汗を流しながら。


 しょーちゃん達の光景を見ていたキョウヤさんは首を傾げながら二人に『大丈夫か』と聞いてきたけど、二人は答える余裕もないのか、そのままの状態で固まっていた……。


 そして――その話を聞いてエドさんは一旦考える仕草をしてから――ラドガージャさんに向かってエドさんはこう話を切り出した。


「えっと、その試練に関しましては乗ろうと思います」

「マジかよっ!」

「んんっっ!?」


 エドさんの話を聞いたシロナさんと善さんは驚きの顔を浮かべながらエドさんに向けて身を乗り出すと、それを聞いてかエドさんはシロナさん達の方に視線を向けると……、肩を竦めながら――


「仕方ないよ。王が言っていることも事実だし、ラドガージャさんが言っていることも間違いじゃない。たとえすごい武器を持っていたとしても、おれ達が弱かったら武器も悲しむだろうし、ここは俺達の肉体面と精神面を鍛えると思って受けないと」

「あたしは拳強いからいいだろうがっ! てかこいつあたしたちのこと殺そうとしたんだろうっ!? なんでそいつの言うことを受けようとしてんだよっ!」

「そうだよ。殺そうとした。でもそれはこの集落を守るためにの苦渋の決断だと思うし、もしおれがその立場ならそうしてしまう。誰も味方がいないなら、どんなことを使ってでもしてしまいそうで、なんか断れないよ。それに好都合じゃないか。この人の言った通り武器だけ有能でおれ達がへっぽこだと、本当に宝の持ち腐れだし、この際へっぽこから卒業するための試練と思って頑張ろうよ」

 

 と、エドさんの説得にも聞こえるけど宥めるようなそれを聞いたあと、シロナさんと善さんは互いの顔を怪訝そうに見つめた後、呆れるような音色で座り直すと――シロナさんはエドさんに向けて呆れるように肩を竦めて苛立つそれを大袈裟に零しながら――


「あーあ! そう言うってことは、断るなんていることはしねえんだろっ!? わかったよ。わかった! こうなったらどうにでもなれってんだっ! てかこれで何かあったらエド! お前が責任全部とれ! 些細なことがあってもだからな!」


 と言うと、それを聞いた善さんも頷きながら「ん」と言う。それを聞いて、エドさんははははっと穏やかに笑いながら「ありがとう」と言うと――リカちゃんと京平さんはにっと笑みを浮かべながらエドさんのことを見ていた。


 なんだか、こうなることを想定していたような顔で――だ。


 そしてエドさんはすぐにラドガージャさんのことを見ながら真剣な音色と目つきでこう聞いた。


「試練は受けます。数多の監視の元、その試練を受けようと思いますが、条件がありますが、いいですか?」

「ああ、言っていましたね。一体どんな条件なんですか?」

「条件は二つ――一つは拘束する対象をリカはゼロで、俺が四百を担います。リカは後方支援しかできないので、こればかりは承諾してくれると助かります」

「そうですか……、その子の負担をあなたが担うのでしたら、それでいいですよ」

「ありがとうございます。それからもう一つ。これで最後の条件何ですけど、ちょっと心の準備も必要な気がして、その試練――明日の早朝に行えませんか?」

「早朝……、ですか? 寝込みを襲うのですか?」

「いいえ。きっかり午前六時に行くことを約束します」

「………わかりました。承諾しましょう」

「ありがとうございます」


 長くなるのかなと思っていたその交渉も、一瞬の間に終わってしまった。ただ――エドさんが四百になったことと、早朝に行うということを変えただけなんだけど、それを聞いていたコウガさんも呆れるような顔をしながら「もっと言わねーのか? 有利になるような条件」と言うと、それを聞いていたエドさんは乾いたような困った笑みではははっと言いながら、コウガさんに向かってエドさんはこう言う。


「いやー。これでもかなりの要望言ったんですよ? これ以上は本当に我儘になるから、それ以上は言ってしまったら、それでこそ破綻ですって」

「………面倒くせぇ考え方をしやがって……、早死にするかもな」

「多分、自分でもそう思っています」


 そう言いながらエドさんはコウガさんの言葉を受け取りつつ、このお話は終わりとなり、試練を受けるエドさん達はそのまま仮眠をする場所を案内するラドガージャさんの後をついて行くことになった。


 あ、そういえば今まで黙っていたグラドニュードさんもやっと喋ることと動くことができたらしく、ラドガージャさんの後を追いながらエドさんやみんなに集落の中を案内しようと意気込んで、そのままその場を後にした。


 その話を聞き終え、コウガさん達がいなくなり、シリウスさん達もいなくなり、残った私達。その中でも私は、今まさにその場所へ行こうとするエドさん達のことを見つつ、そして自分の両掌をじっと見つめながら私は考える。


 試練に出れないことに関しては、この後来るであろう試練で私達の試練が出るだろうということを考えながら……、さっき聞いた話を思い出しながらこう思った。


 試練の内容は内容だ。でも、ラドガージャさんのように私怨にまみれて試練に乗じて殺すようなことをしようとしていた。


 それくらい――ラドガージャさんは苦しかったんだ。憎かったんだ。悲しかったんだ……と思う。


 今まで信じていた国に裏切られた。国を救ってくれなかった。そしてそれと偶然にクィーバが来て、正常な思考ができないままラドガージャさんは私怨と言う名の渦の中に入ってしまった。


 誰も助けてくれない。国とクィーバの人達が手を組んでいるのではないか? そして自分達のことを売ろうとした。国は――自分達のことを憎んでいるのかもしれない。助けようとしていないのかもしれない。


 そう思ったからこそ、ラドガージャさんはこのようなことをしたのだ。


 それは……、一種の復讐。一種の――報復。


 クロゥさんは言っていた。知らなかった。大臣から聞かされていなかったって言っていたけど、それもきっとラドガージャさんからして聞けば、嘘にしか聞こえないくらい……、追い詰めていた。


 でも最終的に、それも何とか治まる結果になったのはよかったけど、もし、もしあのまま私達が殺されてしまっていたら……? この国は――どうなっていた?


 浄化の力を持つ私が死んでしまったら、この世界を救うことはできない…………どころの話ではない。下手をすれば、反乱が始まってもおかしくなかった。


 一つの裏切りのせいで、大きな戦争を引き起こすかもしれなかったのに、なんで大臣さんは言わなかったの……?


 そんな憤りが私の心を襲う。見ていた焦点もふらつき始め、手が震えているようにも見えた。


 定まらない目で自分の手をぎゅっと握りしめ、私はなんでこんなことをしたのかわからないけど、これを多分意図的に引き起こした大臣さんに対して……、怒りを覚え始めた。


 その時……。


 ぐっ! と――私の両手を包み込むように、握りしめてきた両手。


「!」


 その両手を見た私は驚きながらも握ってきたその張本人がいる目の前を見た瞬間、私は驚きの声でその人の名を呼んだ。


 いつも私の手を握ったり、撫でたりしているその手の持ち主――ではない。


 その人は私と同じ身長の女の子で、私のことを鋭い眼で見つめながらその子は――シェーラちゃんははっきりとした音色で言ったのだ。


「あんたの気持ちは分かる。でも――今はそれよりも試練。でしょう?」

「…………………………」

「怒りたい気持ちは私だってあるし、キョウヤにも、師匠にも、ヘルナイトにもある。大臣の話を聞いた後で、怒りが再熱したもの。あんたは何もしていないのに頬を傷つけるなんて常人ならしない。でもした。身勝手な大臣に対して怒りを覚えているのはあんただけじゃない。あの時、あの場所にいた誰もが怒りを覚えているし、エド達なんて滅茶苦茶怒っているに違いないわ」

「…………………………」

「でもね……。今はそれで起こっている暇があるなら、その怒りを試練に向けて、その試練から帰った後で滅茶苦茶抗議すればいいのよ。告訴すればいいのよ」

「こくそ……」

「そうよ。国が滅ぶかもしれないような、戦争になるかもしれないようなことをしでかしたのよ? 告訴ものでしょうか。クロゥも『それは言う』って言っているから、その時に、最後にその怒りをぶつければいいの! 見ていないけど、アクロマやDrにしたように、その怒りをぶつければいい。だから――」


 今その怒り――温めておきなさい。


 次の怒りのために、溜めておきなさい。


 シェーラちゃんの、芯のある様な言葉。


 それを聞いた私は驚きつつも、一理あるような言葉に衝撃と同意を受けると、私はそんなシェーラちゃんのことを見て、握ってくれているその手に自分の手を重ねるように握ると――私は頷いてシェーラちゃんに向かって言った。


「わかった。温める。その時が来るまで……、温めておく」

「ふふ…………。ええ。そうしなさい」


 そんな私の言葉を聞いてシェーラちゃんはクスリと微笑みながら言うと、その後私の顔を見ながら肩を竦める様な笑みで「でもその前にエド達に持っていかれそうね。あいつらきっとストレス抱えていると思うから」と言ってきたので、それを聞いた私は驚きながらあわあわと焦りのそれを零すと、それを見ていたキョウヤさんが大きな声で――


「おーい! 早くしろよー! なんかグラドニュードさんがまだかまだかって待たされた犬のようにそわそわしているぞー!」

「蜥蜴なのに犬っ?」

「あ、はい……、今行きます!」


 という声を聞いてシェーラちゃんは驚きの顔をしながら突っ込みを入れると、私は慌てながら声を上げて、そしてシェーラちゃんの手を両手で退きながらくるりと回ると私は控えめに微笑んで――


「行こう。そして――ありがとう」


 と言って、私はシェーラちゃんにお礼を述べた。


 それを聞いてかシェーラちゃんは呆れるような笑みを浮かべると同時に「お互い様」と言いながら、私に手を引かれるがままアキにぃ達がいるその場所に向かった。


 明日――エドさん達の試練が行われている間、集落の修繕をするその場所を覚えるために観光をするために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ