PLAY90 ラドガージャの試練③
火山地蜥蜴人の長――グラドニュードさんと、高地蜥蜴人の長にして『砂』の魔女でもあるラドガージャさんの案内の元、私達は彼等が言っていた族長が話し合うその家に向かった。
どこにあるのかわからないというような、始めて来る私達に向かって『ついてこい』と言わんばかりに歩んでいるグラドニュードさんとラドガージャさんの後を追いながら私達は後を追う。
追っていると、近くで歩いていた白い鱗を持つ子供の蜥蜴人と老人の蜥蜴人……、きっと彼らはラドガージャさんと同じ高地蜥蜴人の人達だろう……。
その人達は私達のことを物珍しそうに『じぃーっ』と見て、子供達は老人の尻尾をつんつんっと指で突きながら「あの人達って人間ー?」と聞いている声が聞こえる。
声を聞いていたシェーラちゃんはその方向を見ずに、虎次郎さんに向けて……。
「この集落にとって、私達はけったいなものなのかしら……? エルフの里でも私『ケロッティクレ ピピティ』って呼ばれていたけど、他国から見ると私って変な種族なのかしら?」
「ん? しぇーらよ。今なんと言ったんじゃ? けろてっくぴぴっと……? ? ??」
と言っていたけど、虎次郎さんはその時一緒にいなかったから一体何を言っているのか理解できないまま首を傾げて目を点にしている。
まるで突然難しい方程式を口頭で言われ、それを聞いている人の顔だ。
と言うか、シェーラちゃんエルフの里で聞いたこと覚えていたんだ……。意外だ。私でさえもう忘れかけていたのに……、すごい記憶力。
そんなことを思って再度集落の光景を見ていると、やっぱりと思いながら私は心の中にできた違和感と対峙していた。
私が感じた違和感。それはこの集落にいる人達……、じゃなくて、蜥蜴人の人を見て違和感を感じたのだ。
この集落にいる蜥蜴人は集落の広さと人数が1:1の割合で、密度も丁度いいような数字比だけど、比は比でも目で見てみれば違和感しかない光景だ。
はたから見れば全然わからないけど、よくよく見ればその違和感が一体何なのかもわかる……気がする。
何が違和感なのか? それは――この集落に大人の男……蜥蜴人がいないということだ。
シャズラーンダさんがいた集落では大の大人の男の蜥蜴人はいた。そしてエルフの里で出会った………、えーっと、あ、そうだ! 思い出した。砂の蜥蜴人――オヴィリィさんに後から聞いたんだけど、ジューズーランさん達は確か砂丘蜥蜴人という種族らしく、ジューズーランさん達の種族にも大人の蜥蜴人はいた。
けど、この集落だけは違う。
高地蜥蜴人は子供と老人しかいない。
火山地蜥蜴人は筋肉質だけど、女の蜥蜴人しかない。
どこを見ても子供と老人、そして女の蜥蜴人しかない。大人の男がだれ一人としていないのだ。
その光景を見た私は、昔本で読んだ……、村の男達を連れ去って奴隷にしている悪者のお話を思い出し、まるでその光景と同じだと思いながら前にいるラドガージャさん達に聞こうとした時……、ラドガージャさんとグラドニュードさんは突然足を止め、私達はその止まった光景に驚くと同時に、足を止めることができなかった瞬間そのままドミノ倒しのようにみんながみんな前にいたその人の背に鼻をぶつけてしまうということをしてしまった。
ぼふんっ! という音と同時にみんなの潰れるような声が聞こえてきて、私もその唐突な止まりができないまま、私の前にいたアキにぃの背に鼻をぶつけて「うぶっ!」と声を上げてしまう。
本当のドミノのように倒れてしまったら面白かったかもしれないけど、そこまで行くことはなく、そのまま鼻を押えるというなんとも見たことがある様な光景になってしまっていた。いたた……。
私の背後にいたヘルナイトさんはどうやらその前に止まっていたらしく、そのまま足を止めて私のことを見降ろしながら「大丈夫か?」と声を掛けてきたので、私はぶつけてしまった鼻を押さえながら背後にいたヘルナイトさんに向かって――
「だ、大丈夫でふ……」
と、潰れてしまったような声を出しながら控えめに微笑む。
ちょっと鼻が痛いような鈍い感触を覚えたけど、その言葉を聞いたヘルナイトさんはそれ以上のことを聞かず、私のことを見降ろして「そうか……?」と、本音の疑問のそれを出してその会話を終わらせた。
何かヘルナイトさんに気を遣わせてしまった……。なんかすみません……。
私はそう思いながら、ヘルナイトさんに気を遣わせてしまったことに申し訳なさを思い、心の中で謝罪をしてもう一度控えめに微笑みながら「ごめんなさい」と言うと……。
「は、ハンナ……っ! 大丈夫?」
「あ、アキにぃ。大丈夫だけど……、アキにぃも大丈夫?」
「俺は大丈夫……っ。ただキョウヤの尻尾が鼻の中に入って……」
「人のせいにすんな」
そう言いながら、アキにぃは鼻の中に入ったのか、鼻を押さえながら涙目で言うと、アキにぃの前にいたキョウヤさんが怒りの声で振り向かずに冷静だけど怒りがこもっているような音色で突っ込みを入れると、ずっと前からラドガージャさんが私達に向かって――大きくて張りのある声でこう言ってきた。
「つきました。ここです」
ラドガージャさんの声を聞いた私達はその声を聞きながら目の前にあるであろうその家屋を目に映し、そして記憶に刻む。
私達の目の前にあったその家屋は、今まで見てきた高床式の家だけど、その大きさはこの集落の家と比べたら一段と大きくて、しっかりとしたつくりになっている。しっかりとした木製の階段も相まって、その作りがしっかりとしていて安心感を醸し出している。
それを見ていた京平さんは「ほぉー」と驚いた声でその家を見上げながら……。
「かなりいい家だべなー」
と言うと、それを聞いていたグラドニュードさんはぐるんっっ! と勢いのある振り向き方をして京平さんのことを見ると、グラドニュードさんは持ち前 (だと思う)の大きな声で近くにいるにも関わらず、京平さんに向かって叫び出した。
「それもそうでしょうっっ! この家屋は蜥蜴人の重鎮が集まるときに使うものであり、築数百年以上は経っていますからねぇ! そんじょそこらの家屋とは違うんですよぉ!」
「だぁーっ! うるせぇ! 近くなんだからそんなに叫ぶなっ! 耳が、鼓膜が破れる! やめてくれべぇ!」
「おぉーっっ!? 五月蠅かったですかぁーっっ!? それは失礼いたしましたぁっっ!」
「それ! それがうるせぇのっっ! 聞いていますかこの体育会系ジジィッッ!」
「京平っ! ちょっと煽りはやめてっっ! そんなことをしたら余計にヒートアップしそうだから静まってくださいっっ! どうかそのお怒りを鎮めてください!」
「怒ってねえよっっ! エド後で覚えてやがれっっ!」
グラドニュードさんの言葉を聞いてか、京平さんは怒りをぶつけるように叫ぶと、それを聞いてか申し訳なさそうに大きな声で叫んで謝罪をするグラドニュードさんなんだけど……、正直その大声で言ってしまうと本当に耳は破裂してしまうんじゃないかって思ってしまう。
本当に心配になってしまうんだけど、それでも大声をやめたグラドニュードさんを見て、京平さんの言う通り本当に体育会系なのかな……。と思ってしまった。
なにせ、郷戸先生もこんな感じだったから……。
そう思っていると、グラドニュードさんのことを呆れるような目で見ていたラドガージャさんは呆れたような溜息を吐きつつ、私達のことを見ながら冷静な音色で――
「無駄な時間を費やさないでください。すぐにでも試練の内容を話したいのですから」
と言いながら、ラドガージャさんは階段に足を乗せて、『ぎしり』という気が軋む音を出しながら歩みを進めて上がっていく。
それを見て、そして聞いた私はラドガージャさんのことを見て、一体どんな話と言うか、試練を話すのだろう。そう思いながらも、みんながぞろぞろと歩みを進めてその家に入ろうとする。
あ、でもエドさんと京平さん、そしてグラドニュードさんは未だにぎゃーぎゃーと騒いでいるそれを無視しながらみんな歩みを進めている。無視しても……、いいのかな? そんなことを思いながら私は困ったようにエドさん達のことを見ようとして、ちらりと視線をその方向に向けようとした瞬間――
「先にみんな入ってて! おれは京平のことを諫めてから行くからっ!」
「俺は何なんだっ!」
「………はぁ」
エドさんは真剣そのものの顔で京平さんのことを何とか止めようとしている。その光景はまさに緊迫しているその物の顔で、その顔を見た私は頷きながらも溜息のような声を出してしまい、困ったように目を点にしてしまっていた。
本当に行ってもいいのかな? 止めるのを手伝わなくてもいいのかな? そんなことを思っていると、前にいたアキにぃがその思考を遮るように――
「行こうハンナ――きっと大丈夫だから、ね?」
と止めるようにはっきりとした声で言ってきた。
まるで私の行動を見越していたかのような言葉に、私は驚きつつもアキにぃのことを見上げると、アキにぃはそのまま私に向けて手を伸ばし、そして優しい音色で「行こう――本人もああ言っているんだから」と言って促しをかけてくる。
その促しを聞いてエドさん達のことを見ると、エドさんは私達に向かって京平さんのことを止めながら「はよ行ってっ!」と叫んでいる。
その音色ともしゃもしゃを見て、その言葉は本気で言っているみたいだ。
そう思った私はエドさんのことを信じ、その言葉に従うように私はアキにぃの手を握りながら小さな声で「頑張ってください」と言いながらその場を後にし、木で作られた階段を上っていく。
ぎし……、ぎし……、ぎし……。
木が軋む音が聞こえ、折れるかもしれないという恐怖を抱えつつもだんだん上がっていくその光景を見上げながら、私はアキにぃと、背後にいるヘルナイトさんの間に挟まりながらその木の階段を上っていく。
いくつもの軋む音を聞きながら、やっと高床の家のドア…………じゃない。簾のような木の皮で作られたそれの前に立つと、アキにぃはそれを慎重に、手の甲を使ってぱらりとめくる。
めくった瞬間――ぱらぱらと何かが簾から零れたような気がしたけど、それを気にすることもなく、アキにぃはそれをめくり、そして家の中を見た瞬間……、私達はきょとんっとしてその家の中を凝視してしまった。
その家の中は――一言で言うと……、何もない。
ううん。厳密には獣の皮で作られた座布団のような薄いものと、周りにあるいくつもの大きなツボしかない。いくつもの部屋があるのかと思っていたら、ただだだっ広い部屋だけの家。一言で言うと……、LDKのがないただの一部屋のと言ったほうがいいのかな……?それを見て、誰もがその光景を見てきっと思っただろう。
殺風景だと。
そう思ったと同時に、その家の中央より少し奥川で座っていたラドガージャさんが私達のことを見つつ、胡坐をかきながら彼は冷静な音色で言った。
「さぁ――座ってください。今から試練の詳細を話しますので」
その言葉を聞いた私は、虫気に固唾を飲むような動作をしてしまい、本当の口の中に溜まっていた唾液をごくりとのどを潤すように飲み干すと、アキにぃの顔を見上げ、お互いの顔を見てから頷くと、私はすぐに背後にいるヘルナイトさんの顔を見降ろす。
ヘルナイトさんは私の後ろにいて、私あ見下ろしたとしても身長差があってか見降ろしていなうような状態だけど、ヘルナイトさんは私のことを見上げると、アキにぃと同じように頷く。
二人のそれを見て、私は意を決するようにラドガージャさんがいるその方向を見据えて、そしてアキにぃ、ヘルナイトさんと一緒にその家の中に入る。
ぱさり……と、木の皮で作られた簾がゆらりと揺らめき、その揺らめきと同時に木の粉が舞い落ちる音が微かに聞こえたけど、それを聞くことなく、私達はそのままラドガージャさんの話を聞くために、みんなで輪になるように座る。
座る順番は、十一時、十二時、一時のところに人がいない時計回りで言うと……、二時のところにシロナさんが女の人らしくない、スカートを穿いているのに胡坐をかくような姿勢になって、その隣に善さん、リカちゃん。その間二つほど開けて、虎次郎さん、キョウヤさん、シェーラちゃん、私、アキにぃ、コウガさんとむぃちゃん (むぃちゃんはなぜかコウガさんの胡坐に座ることに拘っていたので、むぃちゃんの好きなようにさせた)、しょーちゃんにつーちゃんと言う座り順。
そして入り口付近にヘルナイトさんとデュランさん、そしてシリウスさんにクロゥさんは立ってラドガージャさんのことを見ていた。
とまぁ――エドさんと京平さんはきっとリカちゃんと虎次郎さんの間に入るから、一応この順番で座る順が決まった。
座った瞬間、この家の空間がそうさせているのか……、なんだかピリッとした空気が私達の心に巣食う緊張を活性化させているような気分になる。
どことなく落ち着きが無くなる様な、そんな気持ちに駆られている。
その雰囲気を見てか、ラドガージャさんは至極冷静な音色で再び私達に受けて告げる。
「それでは――王からの命令で、あなた方に試練を言い渡せと言われましたので、ここで私から課せる試練を言い渡しましょう」
ラドガージャさんの冷静な音色を聞いた瞬間、波立っていた緊張が大波となり、更なる緊張を私達に植え付けていく。
ドラグーン王が私達に言った強くなるための試練。
それをクリアして私達は戻らないといけないのだ。
シルフィードの浄化を、そして『終焉の瘴気』を浄化する旅に。
こんなことをしている場合ではないなんて言えない身分で、『残り香』相手にてこずってしまった結果こうなってしまったのだから、仕方がないのかもしれない。
でも、強くなれるのならばこれからの旅にも役立つと思う。そして……、経験も積み重ねることができる。
試練に関してはドラグーン王に感謝しなければいけない。私達のことを思ってこの試練を忙しい中も受けてくれたんだ。なら――その想いに、応えよう。そう思った私は、ぐっと膝の上に置いた握り拳に力を入れながら……ラドガージャさんの次の言葉を待つ。
みんなも私の耳に入るほど生唾の音が聞こえて、みんなもきっとどんな試練が待ち受けるのだろうと思っているのだろう。
そう思いながら私はラドガージャさんの言葉を待っていると、ラドガージャさんの言葉は思ったよりも早く出てきて、そしてその言葉を聞いた瞬間……、私は、私達は目を点にして驚きのあまりに固まってしまうことになる。
「と言いましても、この試練全般は全員が受ける試練でもありますが、全部が全部全員が受けれるものではありません。一つの試練に一組の者たちがその試練を受けるという仕組みになっています。ですのでこの試練を受けている時、ほかの二組の者たちはこの集落で待機をお願いいたします。それはファルナやアルダードラ様の試練も同じですので。そして、私が試練を課す組は――『レギオン』の方々です」
□ □
「え? ってことは……、オレ達待機ってことっすか?」
「そうなりますね」
ラドガージャさんの言葉を聞いたキョウヤさんは、愕然としてしまったかのような、それでいて呆気に取られてしまったような顔でラドガージャさんのことを見ると、ラドガージャさんは頷きながら即答する。
それを聞いた私はおろか、その話を聞いていたコウガさんたちも驚いていたし、戻ってきたエドさん達もそれを聞いて、そして自分たちの出番と言うことに驚きながら目を点にしている。
更に言うと、ヘルナイトさんとデュランさん、シリウスさんとクロゥさんもそれを聞いた瞬間驚いた顔をして固まっている。クロゥさんの顔から見るに、ドラグーン王から聞いていなかったのだろう。もしゃもしゃもそれを知らせている。
もしかして……、この試練の内容って、ドラグーン王とその三人の魔女にしか知らせていなかったのかな……?
そう思いながら私は隣にいるシェーラちゃんの体を寄せ、そして小さな声でシェーラちゃんの名前を呼ぶと、シェーラちゃんは私の声を聞いて彼女も私に向けて体を傾けながら耳を私に向ける。
私はその状態でシェーラちゃんに向かって小さな声でこう言った。
「試練って聞いていたけど、こうなること――想定していた?」
「そんな想定できると思う? 私は予知能力者じゃないし、誰もこんなこと想定していないわよ。全員試練を三つ受けるだろうと思っていたし、こんな展開拍子抜けよ」
「あ、もしかして……、シェーラちゃん三つ受ける気満々だったんだ……」
「当り前でしょう? だって強くなるのよ? こんなおいしい案件、断るなんてもったいないもの。でもなんで私達が待機なのか、意味わからないわ。しかも『レギオン』が試練に出るだなんて……。ショックだわ」
シェーラちゃんは言った。すごく期待していたのに、『レギオン』の名前を聞いた瞬間ショックを受けたような、拍子抜けのような顔をしている。心底そんな……。という顔をしていたので、私はそれを聞きながら内心シェーラちゃんの戦闘本能すごいと思ってしまった。
もしかしたら……、ダンさんと渡り合えるかもしれない。
そんな全く関係のないことを思っていると、エドさん達と一緒に戻ってきたグラドニュードさんはラドガージャさんの隣で胡坐をかきながら大声で――
「なぁに! ご安心して下され! 『レギオン』どのが試練の向かっている間、暇などないのでご安心を!」
「何が『暇なんてない』だ。それを聞いた瞬間何をされるのか別の意味で不安になったぞ。重労働か? あとうるせぇ。うぜぇよ」
「むぃもぞぞぞっとしました」
と言うと、それを聞いていたコウガさんは怒りの顔を浮かべながら青ざめたそれを出すという器用な表情を浮かべながらグラドニュードさんのことを見ていた。
むぃちゃんもコウガさんの胡坐の上で青ざめた顔をしながら冷静に言っている。
でも、グラドニュードさんの大声を聞いてかラドガージャさんが冷静ではっきりとした音色で「五月蠅いです。大事なお話なので口を挟まないでください」と言った瞬間、グラドニュードさんはすぐに「そうか!」と言って、きつくその口を閉ざしてしまった。
その光景を見て、アキにぃは驚きと困惑が混じった顔で黙ってしまっていたけど……、そんなグラドニュードさんのことを無視しながら――ラドガージャさんは私達からエドさんに向けて視線を、目だけを動かしながら冷静な音色で続けるようにこう言ったのだ。
「『レギオン』の方々に課せる試練は至極簡単。この集落の近くにある山岳地帯に根城を立てている『クィーバ』の輩を拘束してこの集落まで運ぶこと。これが私が貸せる試練です」
「は?」
「それだけなの? 捕まえて終り?」
「そうですね。簡単にううとそれだけです」
ラドガージャさんが言った試練の内容を聞いて、シロナさんは素っ頓狂な声を上げつつ胡坐をかいた状態から身を乗り出すように言うと、リカちゃんも目を見開いて驚いた顔をしながら聞く。するとそれを聞いたラドガージャさんは頷きながら肯定を示すと、それを聞いていたしょーちゃんが頭に手を組んで、安堵のせいか笑みを零して「簡単じゃんかっ!」と言いながら体をゆりかごのように揺らす。
しょーちゃんのその言葉を聞いていたつーちゃんも頷きながら、安堵のそれを零しつつ「これならすぐに終わりそう」と言ったけど、そんな二人や私達の安堵のそれを消すように、ラドガージャさんは冷静だけど冷たさも帯びているような音色でその空気を切り捨てる様な言葉を吐いてきた。
「簡単? そんな簡単じゃないです。そんな簡単な試練を課すほど私も甘くはないです。この試練はきっと――甘くない。下手をすれば、死ぬかもしれない試練です」
「っ」
「!」
まるで零度の如くの息を吐くように言ったその言葉を聞いた瞬間、しょーちゃんやつーちゃんの顔から笑みが消え、私達の緊張が更に強張りを見せる様なそれを感じる。
ラドガージャさんは言った。
死ぬかもしれない試練です。
その言葉を聞いた瞬間、私はぞくりと……、背筋を這う悪寒を感じ、ラドガージャさんから出ているもしゃもしゃを察知した瞬間、理解した。
ラドガージャさんは、本気だ。
本気で、エドさん達に死ぬかもしれない試練を課していると、そう確信をした。
なにせ――真剣さが帯びている色のもしゃもしゃが烈火のごとく出ているのだ。そのもしゃもしゃに嘘というもしゃもしゃなど、一切入っていない。でも、かすかに怒りが込められたもしゃもしゃが入っているけど、ほとんどが真剣そのもので形成されている。
そのもしゃもしゃを見て、さらに緊張を走らせながらラドガージャさんを見ると、ラドガージャさんはエドさんのことを見て、冷静だけど冷たさが帯びているような音色でこう言ってきた。
「さて――試練の内容は確かに『クィーバの拘束』ですが、彼らは総勢千人で行動していますが、貴方達はその人数を殺すことも、大きな外傷を与えずに捕まえてください」
「つまり……、多少の小さな傷ならば大丈夫ですか?」
「ええ。多少の小さな傷。つまりは痣やちょっとした切り傷は見逃します。それを守りつつ、貴方方が無傷で、そして武器を使わず、且つシリウスさんの助太刀なしで五人だけで、一人二百人拘束、捕まえることができ、制限時間三十分以内にそれができれば――試練の合格を認めます」
「はぁっ!? ちょっとそれはあまりにもデメリットがありすぎますよっ!」
ラドガージャさんの言葉を聞いていた誰もが、大声を上げてその言葉を遮ったアキにぃと同じ意見だったかもしれない。と言うか、それを聞いていた私も、納得できない。そんなことできないだろうと思いながらラドガージャさんの話を聞いていたから、アキにぃの言葉には深く同意を示していた。
ラドガージャさんは言った。
エドさん達は無傷で、そして武器を使わず、シリウスさんの助太刀なしで一人二百人の拘束、捕まえることを三十分以内にできれば合格だと。
それを聞いた瞬間、誰もが思っただろう。
できないと――そんな重荷を背負いながら拘束することなんて、できるかどうかもわからないと……。
その気持ちを、私達の気持ちを代弁するように、アキにぃはラドガージャさんに向かって荒げる声で訴え始める。
「大体……、そのクィーバってならず者のことですよねっ? エドさん達にそれを課すってことは……、その人達って武器とか持っていないんですか?」
「いいえ持っています。銃とか、あとは槍など、爆弾も少々」
「――なら尚更武器なしで無傷は無理でしょうがっっ!!」
ラドガージャさんから聞いた衝撃の言葉を聞いて、アキにぃは更に声を荒げながら訴えると、ラドガージャさんはアキにぃのことを見つつ、首を傾げる様な動作をしながら「なぜ無理なのでしょうか?」と聞くと、アキにぃはそんなラドガージャさんに向かって訴えを続ける。
「武器を持っている人で千人の団体! そして爆弾を持っている集団相手に戦いを挑むんですよっ!? それなのになんで武器を持ってはいけないんですかっ!? それだと丸腰でラスボスに向かうような無謀ですよっ!? そんなことをさせるだなんて、あんたは何を考えているんですかっ!?」
「何を考えているのかって? そんなの簡単です。見極めるためにこうしているだけです」
でも、アキにぃの訴えを一周するように、ラドガージャさんはアキにぃのことを見つつ、エドさん達に視線を移しながらラドガージャさんは冷静な音色で、エドさん達が持っていた武器にも視線を移しながらこう言ったのだ。
「彼らは確かに強いと聞きました。『残り香』に大きなダメージを与えたことも聞きました。しかし、それはあなた方が来てからの話しで、それまで彼らは今の今まで死に続けています」
『っ!』
その言葉を聞いた瞬間、エドさん達の顔に曇りがかかった。その顔を見てか、ラドガージャさんは畳み掛けるようにエドさん達を見つつ、私達のことを見ながら続けてこう言う。
「ボロボの医療技術がなければ即刻死んでいた存在。ですがあの時好機を作ったのは彼らのおかげではない、彼が持っていた――武器が幸運を運んだからなんです。結局、武器の性能があったからこそ勝利を掴んだだけ。その武器を持っていたとしても何度も何度も死んでしまっては、宝の持ち腐れなのです」
「!」
「ですので――今回はその武器の驕りを持たずに己の肉体だけで捕まえてください。それだけですよ。私が言いたいのは――」
「――っ!」
その言葉を、ラドガージャさんの的確な言葉を聞いていたアキにぃは、どんどんと反論する言葉も、反抗する意思も憔悴しきってしまったのか……、そのまま荒げていた感情をどんどん沈下させていき、そのまま俯きながら言葉を閉ざしてしまう。
反論できない。言っていることに間違いがない。反論をしたとしても反論返しされてしまうそれを感じながら、アキにぃは言葉でラドガージャさんに負けてしまい、そのまま俯いてしまった。
私はそんなアキにぃのことを見つつ、背を撫でながらアキにぃのことを慰めると今の今まで黙っていたエドさんが徐に大きな大きな溜息を吐くと――エドさんは突然……アキにぃの名を呼んだ。
アキにぃはそれを聞いて、憔悴しきったような痩せ細った顔をしながらエドさんのことを見ると、エドさんは鉄のマスク越しでもわかる様な笑みを浮かべて――柔らかい音色でアキにぃに向かって……。
「ありがとう。おれたちのことを考えて言ってくれたんだよね? 優しいなぁ君は。でも大丈夫。何とかするから」
「え? 何とかって……」
エドさんの言葉にアキにぃは首を傾げるような音色で聞くと、その疑問に同意をするように私達も首を傾げながらエドさんのことを見る。
するとエドさんはその微笑む顔を一瞬で消して、真剣そのものの顔でラドガージャさんのことを見た瞬間、衝撃の言葉を投げかけたのだ。
「いいですけど、ちょっとその試練の内容を変更したいんですけど……いいですか?」
「一体……、何が気に食わないんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、ラドガージャさんの顔色が一瞬曇った……、ううん、まるで気に食わないような顔をしながらエドさんのことを見て、エドさんに聞く。
まだ試練を承諾していない中――狭い空間内で繰り広げられる交渉が今始まったのは、言うまでもなかった。




