PLAY88 反撃! そして……⑥
やっとと言うべきなのか……。それともようやくなのかはわからない。
しかしドラグーン王にとってすれば、ようやくでは足りないほど長い長い時間を費やしたと思った。
きっとこの場にいる誰もがそれを初めて見、ドラグーン王も今まで始祖王として生きてきた身でありながらも初めて見るその光景に驚きを隠せなかった。
長きに渡りボロボ空中都市に恐怖を植え付け、その恐怖を日常化にさせて幾もの命を貪ってきたその存在――『残り香』の心臓をその目に焼き付けたのだ。
目の前に大きく、まるで巨大で血によって真っ赤に染まった月を目の当りにしているかのような光景。圧巻。そして……、それが生きているという悍ましい光景と僅かにふつふつと吹き上がった怒り。
最後に湧き上がった感情は王の私情に近いものであり、それは大切なものを壊したそれと同等の怒りに似ているもの。
王が大切にしているもの――それに関して詳しくは言わないが、これだけは言える。
王の怒りは国の怒り。それを彼は代弁しているのだ。
四つの感情を同時に湧き上がらせながらドラグーン王はその光景を見て、握りしめていた己の剣に更なる力を加えた。それはもう……、罅が入ってしまうのではないかと言うくらいに、だ――
が、その怒りを瞬時に収めたドラグーン王。
湧き上がっていたその怒りをまるで幻であったかのように一瞬で退かせて、ドラグーン王は再度目の前に広がる……、否。エドが持つ聖武器が一つ――『聖槍ブリューナク』が放った攻撃のおかげでがら空きになってしまった心臓を見つめながら思った。
――先走るなアダムよ。拙僧はボロボを統べる王。
――確かに、目の前にある心臓の持ち主は拙僧が、皆が今の今まで築き上げてきた大切な場所を壊した元凶である。
――だが、それを己の怒り任せで、感情で動いてしまえば必ず痛恨となることが起きる。
――それすなわち、この状況を作ってくれた冒険者達への……、否! この世界を救ってくれる者達の苦労を壊してしまう結果になってしまう。
――ようやくここまで来たのだ。だからこそ、だからこそここで感情論を優先にしてはいけないのだ。拙僧は、王だ。そのことを忘れるな。
――耐えるのだ。その感情を押し殺せ。拙僧にできることをしろ。いいや……、するのだ。アダム・ドラグーン!
そう思いながら、ドラグーン王は己の感情に喝を入れ、そして冷静な判断を優先にすると同時に、視界に端に映ったその光景を見てすぐにグワァーダに向かって命令を下す。その方向に指を指しながら――王は言ったのだ。
「グワァーダ!」
「ごぉおおおおっっ!」
すると、王の言葉をいち早く理解をしたのか、それとも察していたのか、グワァーダは返事ともいえる様な鳴き声を放ち、王の命令と同時にそのまま大きな翼を『ぶぉぉ!』っと羽ばたかせ、王が見ていたその方向に向かって飛んで行く。
その方向で、どんどんと地上に向かってパラシュートなしで落ちていく――ショーマのことを捉えて。
「うぎゃばばばばばばばばっっっ!」
それと同時刻……、なんとも変なぶるぶるとした声を出しながらショーマはうつ伏せになるような体制のまま落ち、右の片足が無くなっている状態で――右足が部位破壊されている状態のまま彼はスカイダイビングをしていた。
スカイダイビングと言っても、ショーマ自身はそれをする気などこれっぽっちもない。
どころかこの状況はショーマがエドが放った光の剣から逃げようとした時にうっかり落ちてしまっただけの話で、彼自身これは予想外の事態なのだ。
足が無くなってしまっていることも予想外で、ショーマは顔面、腹部、足と腕の贅肉の下から襲い掛かる突風を直に受け、顔の贅肉が風圧で伸びるような感覚を覚えながらどんどんと地面に向かって、地上に向かって真っ逆さまに落ちていく。
声が変なのも口の中に入る空気のせいで風船のようになってしまい、うまく声が出ないからである。
どんどんと大の字になって落ちていくショーマだが、手足を動かして何とかしようという無駄な足掻きをしているだけで結局はなんの効果もないまま落ちていくだけで、それをしながらも何とかショーマはどうにかしようともがき、もがきまくっていた時――
――ぶぉぉっっ!
「――ぶぁっっ!」
突如ショーマの目の前に来た何か。それを見た瞬間顔と胴体に当たった衝撃と背中と髪から感じた靡くそれ。
それを感じたショーマは驚きつつも顔を落ちながらもしっかりと刀を持った手で押さえ、「いてて……」と呻きながら顔を上げると、ショーマは目を点にして自分の視界の下にある赤い鱗を見つめ、鞘を持った手を付けたまますっと撫でるように手を動かす。
ざらざらした鱗の感触を指の先で感じると、ショーマは驚きのまま何が起きたのかと首を傾げながら言葉を失っていたが、そんなショーマに向かって……。
「無茶なことをする」
「!」
と、ショーマに向かって言ったその人物――赤い鱗の竜の主、ドラグーン王は背後にいるショーマのことを見ずにショーマに向かって言うと、ショーマはそれを聞いてすぐに振り返りながら王の背を見た。
ドラグーン王はショーマのことを見ずに、剣を持ったまま旋回をしている状態で彼はショーマに向かって言う。
呆れているような、それでいておかしいというような音色で、王はショーマに向かって言った。
「真っ向勝負すると思えば真っ先に捕まり、そして逃げようとしてそのまま飛び降りるものか? 拙僧は竜の血を引いている竜人だが、貴公は悪魔族。飛行の力も持っていない。且つあのまま落ちてしまい、地上についてしまえば、その命も永遠ではなくなる。つまりは死を意味していたのだぞ? よくあの状態で歩けるところに逃げるということをせず飛び降りたものだ。しかも、足がない状態で」
貴公は、怖いものを知らないのか?
そう聞いてきたドラグーン王の言葉に、ショーマは驚きつつも「うーん」と唸るような声を上げて首を捻ると、すぐに自分のことを見ていない王に向かってショーマははっきりとした音色でこう言った。
「でも――結局王様助けてくれたでしょ。それに、王様言ったじゃないっすか。『そのあとの足場のサポートは拙僧とグワァーダに任せてくれ。ここまで手伝ってくれたのだ。そして貴殿たちが戦っているのに、拙僧だけはただ傍観するなど、あまりにもひどい話ではないか。できるだけ助力をさせてくれ』って」
「!」
その言葉を聞いた瞬間、王は驚きのあまりにショーマがいる背後を振り向きながら見ると、ショーマは当たり前の様な顔つきで、そして片足がない状態だったその足がいつの間にか裸足になった状態になり、その状態で胡坐をかくと、ショーマは当たり前と言わんばかりの顔と音色でこう言った。
「それを信じてやっただけっすけど、なんでっすか?」
そんなショーマの濁りも何もない言葉を聞いたドラグーン王は、一瞬目を疑うような目をし、そのあとすぐに、ふっと鼻で笑いながら再度前を見据えた。
何も言わず、ショーマの首の傾げを見ずに、王は前を向いた。
――あの言葉を信じてあそこまでやるとは、聞くだけだと大馬鹿のすることだが、これはこれで、大物のそれを感じる。
――そう。あの時、荒れ果てた大地に国を作ろうと言ったあの男……、レパンダイル・リジューシュと同じ雰囲気と、初めて会う拙僧に向かって同じことを言い放ったあいつと同じ。
――本当に、同じものが三人いるという噂があると聞いたが、これほど似ているとは、全く同じ言葉を言い放つとは……。
そう思うと同時に、ドラグーン王はふっと鼻で笑い、そして再度ショーマのことを横目で見ると、王は言う。
その言葉をいとも簡単に有言実行 (危ない事ではあったことと、一歩間違えれば命取りになってしまうような事態だったが)をしたショーマに向かって、王はもう一つの頼みを告げる。
「なら――その言葉を信じようか。そこまで言うのであれば……、頼みを聞いてくれ。内容はこうだ。拙僧の後に続いて来てほしい」
「へ? いいっすよ」
その言葉を聞いた瞬間、ショーマは一瞬目を黒い胡麻の様な黒い点にしたが、そこまで深く考えることをせず、むしろ何も考えないまま彼は頷いてしまった。
何も考えずに、王の言葉を疑わずに信じて――だ。
それを聞いた王は心の中で良しと頷くと、もう一度前を向き、その視線を心臓がむき出しになり、満身創痍となっている『残り香』に向けると――王はグワァーダに向かって続けて命令を下した。
「グワァーダ! 攻撃を仕掛ける! できるだけ接近してくれ!」
「えぇっっ!?」
王の言葉を聞いた瞬間、グワァーダは頷き、己が持っているその翼を大きく羽ばたかせると、そのまま『残り香』の心臓部に向かってどんどん旋回をしながら接近する。
ぐるぐると――渦巻きのように接近し、王の言葉を聞いた瞬間、ドラグーン王がやろうとしていることが何なのかを今になって気付いたショーマを無視して……。
ぐぉぉぉっと横殴りの様な風を受けながら、ショーマは叫びを上げながらグワァーダにしがみつくと、少しずつ接近してくる心臓を前に、ドラグーン王は手に持っている剣を構えて、その時を待つ。
エドが開けてくれた突破口を、無駄にしないために。
が――
――ぐにゅにゅにゅっ。
「!?」
剣を構えた瞬間、王はその光景を見て目を疑った。いいや――この場合誰もがその光景を見降ろして、自分の目が変になってしまったのかと疑ったが、そうではない。
疑っていたその光景は――真実を映し出していた。
真実。
そう……。目の前でぱっくりとその核が斬られ、中身ががら空きとなっている『残り香』の心臓部分からその音は発せられ、それと同時に斬られた核が再生を始めたのだ。
ぐにゅにゅにゅと、まるで細胞分裂を繰り返し、新しい細胞を、肉体を生成しているかのような音を発し、どんどんと黒い肉体が核を覆っていく姿を見て、その光景を見上げていたシェーラと虎次郎は、驚きの顔をしながら――
「なぬっ!? まだ抗うのかっ!」
と虎次郎が驚きの言葉を発し、再生していくその光景を見てシェーラは無知形状に変えていた剣を鞭のように振るい、その鞭の周りに光の粒子を纏わせながら、彼女は荒げと焦りが含まれた音色で虎次郎に向かって言う。
「上等! それと同時に上等文句の、再生される前に切り刻めばいいのよっ! 属性剣技魔法――『大閃光鞭ッ!』」
そう言うと同時に、シェーラは二本の剣に纏わせた光の魔祖 (スキル)を最大限に活用し、それと同時にエドの攻撃を見て、彼女も『残り香』の弱点が光属性であることをすると同時に、鞭の剣を使って細切れにしようと目論み、そして実行に移す。
「――はぁっっ!」
シェーラは声を発すると同時に、二本の剣をしならせると核に向けてその剣の攻撃を繰り出す。
が――瞬間的に彼女に目の前に現れた『残り香』の一体がシェーラと核の間に入り込むように、『ばっ!』と顔を出してきた。
シェーラの目の前に、至近距離の状態で前に出た『残り香』。その光景を見てシェーラはぎょっと目をひん剥かせて声を途中で止めたかのような変な声を出してしまう。虎次郎はそれを見てはっと息を呑むが、その行動も虚しく散った。
まるで核を守るように、身を挺してその攻撃から核を守るように身を乗り出した『残り香』は、シェーラの攻撃を受けた瞬間、少しの間微動だにしなかったが、すぐに黒く変色をしていき、そのまま黒い靄となって空気に溶けて消えていく。
「――っ! ~~~~~っ! なによ……っ! こいつら……っ!」
最初こそ、『残り香』の頭を刈ることに専念をし、消滅すると同時に活路が見えてきたと希望を抱いていたシェーラだったが、その表情からはそのような希望すら消えかけており、逆に絶望と焦りが浮き彫りになっている。
むしろ、その頭を相手にすること自体が無駄なことだと思えるような思考になりながら、シェーラは身を挺して核を守った頭に苛立ちを募らせていた。
その心境は虎次郎も察しており、虎次郎はその光景を見たあと、すぐに理解してしまう。
「こやつら……っ! 再度持久戦にもつれ込ませる気か……っ!」
その言葉を聞いてか聞いていないのか――シェーラ達の光景を見ていたキョウヤも頭を抱え、がりがりと掻きながらキョウヤは苛立つその顔を表すと同時にその顔と同じ感情の音色を零す。
「マジで勘弁しろよ……っ! こっちはもうスタミナも限界……! HPもあるかないかの奴らもいるのに、これ以上多くなっちまったらオレ達が全滅だ……!」
キョウヤがそう言うと同時に、シェーラの光景を見ていた誰もがその光景を見て、今の今まで何とかなると持っていたその感情が失せる様な焦り、そして不安とこれから起きるかもしれないという苛立ちを覚えながら、それぞれが言った。
みんな、同じことを思いながら――
「こいつ……、頭を囮にして時間を稼いでやがる……!」
コウガは言う。恐怖で震えているむぃを背負いながら言い。
「このままでは圧倒的に不利だ。我が攻撃をしようにも頭がすべてを受けてしまう! 我は大丈夫だが……、じり貧になってしまうぞっ!」
デュランは言う。核に向けて攻撃をしようとするが、その攻撃を見ていた頭たちがどんどんとデュランに群がっていき、その攻撃と進行を阻害してくるが、それを何とか倒し続けながら言い。
善はそれを見ながら言葉を失ったかのような目の見開き方をすると同時に、シロナはその光景を見て苛立ちの言葉を吐き捨てた。
「こいつら……っ! エドの攻撃を無駄するために再生を始めて――アタシたちのことをじっくりと嬲り殺すつもりかよっ!」
そんなシロナの言葉を肯定するかのように、今の今まで攻撃に専念していた『残り香』の頭達が今度は核を守るために己の体を挺して防ぐような行動に切り替え、キョウヤ達に襲い掛かってくる。
まるで――自分たちの心臓を守るように、それぞれがそれぞれの思考で行動をし、核を守るように、『残り香』の頭たちは動いて行く。
その光景を見つつ、迫ってくる『残り香』相手に拳を使って叩き潰していくシロナは、彼女らしくない焦りと怒りを込めた顔を『残り香』が守っているであろう核に向けると、シロナは己の目に映り込んだ――核の部分がどんどんっと治っていくその光景を見ながら舌打ちを零し……。
「このやろう……っ! なんてせこいやり方をしやがるんだって……っ! このままじゃ……、エドの攻撃が無駄になっちまう……! どうするんだ……っ!? この状況……!」
と言いながら、どうすればいいのかを模索するシロナ。
どうすれば相手の核に攻撃ができるのかを模索しながら、シロナは迫って守ろうとする頭に向けて拳の攻撃を打ち込んでいく。
それは善も同じことを考えており、彼自身も影――『虐殺愛好処刑人』を出して頭の殲滅に専念しているが、その間にも核の周りの肉がどんどんと再生を始めている。
ヘルナイトを見ても、彼の方にも頭が守るように行く手を阻んでいるのでヘルナイトの攻撃が届くという希望は薄い。
そう思いながら、善は残りの数が百を切った『残り香』、そしてどんどんと再生を始めていく核を交互に見、どうすれば核に攻撃をすることができると模索をしながら防いでいる頭に向けて攻撃を繰り出す。
誰もがその光景を見て、アキたちのその光景を見て、また持久戦にもつれ込む。この戦いに終わりがないのかと思い、疲弊と同時に芽生えていく諦めを感じながら、その戦いを見ることしかできなかった。
しかし、その状況に対し、強制的に終止符を打つことができる人物が、動いた。
手をかざし、そしてその手を『残り香』に向けた瞬間――言ったのだ。
「『集団大治癒』!」
◆ ◆
その言葉を放ったのは――この中で唯一の回復要因ハンナ。
ハンナは手をかざすと同時に、自分が持っているスキルを『残り香』に向けて放った。もちろん――彼女自身深く考えていない……、などと言うことはなく、ハンナ自身もいろいろと考え、打開策がないかと思いながら絶望に染まる中必死に考えていたのだ。
それも、長く……、長く……。
その長い思考の計算の中、彼女は思い出した。
それは――砂の国でティズが言っていた言葉だ。
覚えているだろうか。彼はあの時、ハンナの『回復』のスキルを受けることを拒んでいた。いいや、厳密にはスナッティとリンドーが止めてくれたことで発覚したことでもあったのだが、彼はあの時ハンナに向かってこんなことを言っていた。
『悪魔族って、回復系のスキルにすごく弱いんだ。受けたら逆に、傷つく』
その言葉を思い出すと同時に、ハンナははっとなにかに気付き、そして行動に転じたのだ。
みんなを守るために、そして『残り香』の動きを止めるために――『回復』のスキルを。
なぜハンナはこの時防御ではなく『回復』のスキルを使うことを選択したのか。それにも理由があり、彼女が持つ『回復』の力は、悪魔族にとってすれば大きなダメージを与える恐怖の武器でもあるからだ。
何故武器なのか?
それは、悪魔族が闇属性の力を吸収する力を持っており、その反面光属性に対して絶望的に耐性がない。どころか、大きな弱点と言っても過言でもないからだ。
エドが言っていた弱点属性。
それが悪魔族は光属性が弱点であるということ。そして、悪魔族と同じ属性の『残り香』も同じ弱点。
つまり――ハンナが持つ『回復』も一応光属性でもあるが故、ハンナはこれに賭けた。光属性でもある『回復』を、『残り香』とみんなに向けて――!
「『集団大治癒』!」
ハンナは言う。大きな声で、うまくいってと願いながら――ハンナはその回復を『残り香』全体を覆うように、ヘルナイトたちも覆うように放つ。
その声と同時に、『残り香』の周りにどんどんと出現をしていく黄色い靄の壁。その壁は『残り香』とヘルナイトたちのことを閉じ込めるように、楕円形の形を作りながらその壁を形成していく。
まるで『残り香』が卵の中身になってしまったかのような形になり、その光景を見ていたアキたちはハンナのことを見て驚きの声で『何をしているんだ』と詰め寄ろうとした。
こんなことをしてしまえば回復の進行が早まってしまう。それを危惧しての責めの言葉だった。
しかし、ハンナはその行動をやめることをせず、スキルの維持を優先にする。手をかざしたまま動かないでいるハンナ。そんな光景を見て、ツグミが止めようとハンナの手を掴もうとしたその瞬間。
『おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっっっっッッッ!!』
突然――『残り香』が叫び出したのだ。
それも、激痛を言った得ていたあの時と同じ……、否、それ以上の叫びを上げて。
『っ!?』
その声を聞いたアキ達は驚きの顔をし、ハンナも驚きの顔をしたまま、手をかざす態勢を止めずに『残り香』のことを見た瞬間……、支援に徹してた一同がその光景を見て言葉を失っていたのだから……、無理もない話だ。
なにせ――ハンナが『集団大治癒』を放ち、それと同時に全体を覆った瞬間、『残り香』がまるで火傷を負ったかのように痛みで暴れ、頭たちはその痛みに耐えるように、緩和させるようにヘルナイトたちの邪魔を放棄して首をぶんぶんっと振り。
そしてその頭たちに邪魔を任せていたのかは分からないが、核でもあるその場所の再生も止まるどころか、少しずつだが再生したところからどんどんと溶けていたのだ。
どろどろと、アイスのように溶けていく核の肉。
その光景を見ながら、『残り香』の叫びを聞きながら、ハンナは驚きと茫然が混ざっているかのような呆けた音色で――
「――本当に……、弱点だったんだ」
と、半信半疑の様な言葉を放った。
だが、彼女自身もこのことに関しては半信半疑だったので、この言葉と音色は正解と言えるであろう。
そんな『残り香』の苦しみとは正反対に、今の今まで戦い、疲弊をしていたヘルナイトたちはハンナが放った『集団大治癒』の中で、驚きに包まれながらも、己の体に感じる癒されるような温かい温もり、そして傷ついていた体の痛みがなくなる感覚を感じていた。
かすれたところのわずかな痛みも、腹部に感じていた鈍痛も、すべての傷が癒え――HPも善回復するような活性感を感じたキョウヤたち。
そんな感覚を感じながら、今までの傷が癒えていく温もりを感じ、そして握り絞めていた大剣に力を込めたヘルナイトは、心の中で彼女に対して感謝のそれを述べた。
だが、戦いが終わったわけではない。ただ持久戦の恐れが少なくなっただけで、勝利が決まったわけではない。
みんなに傷が癒されている中でも、『残り香』はしぶとく激痛に抗い、ハンナの回復を受けながらも再生を試みようと畝き声を上げながら体に力を入れる。
そんな『残り香』のことを見ていたドラグーン王は――
「グワァーダ! 接近するんだっっ!」
と叫び、グワァーダが跳ねるように驚き、素早く動くと同時に、ショーマの叫びが背後から聞こえると同時に、王は手に持っていた剣を風呂ことにいれるように構える。
横に薙ぐような体制をとり、そしてどんどんと接近をし、ハンナの『集団大治癒』の膜に『ずぼっ!』と入ると同時に、『残り香』の核に急接近した瞬間――
「――はぁっっっ!」
王は手に持つ得物を勢いと己の力量を使って、力のある限りを使い、横に薙ぐ。
それも、今まさに目の前にある『残り香』の核に向かって――!
しかし。
――ギャリィンッッ!
「えぇっっ!?」
一瞬の光景が終わった瞬間、その時響いた音を聞いた瞬間、ショーマは驚きの声を上げて絶句したような顔でその光景を見る。
しかしそれとは正反対に、王は冷静な面持ちでその光景を見ていた。
核に向けて斬ったにも関わらず、その核にはたった一線の小さな傷しかついていないそれを見ながら、二人は対照的な顔を浮かべた。
「これじゃあ全然ダメージ与えていないっすよ! どうするんすか王様!」
ショーマは慌てた面持ちで王に聞く。するとそれを聞いていたドラグーン王は冷静な音色で、ショーマのことを見ずにはっきりと言った。足でグワァーダにとある命令を下しながら――
「いいや――これでいいんだ」
そう言うと同時に、ショーマは「え?」と言葉を零そうとした。しかしその言葉が出る前に、ショーマは体に感じる違和感を察知し、その違和感の中心が腹部にあると感じすぐに下を向いた瞬間、ショーマは思考が停止した。
自分の体に巻き付いている――赤い鱗の尻尾を見、尻尾の根元がどこなのかを目で追い……、その根元が丁度自分が乗っているグワァーダの尻尾だと認識した瞬間……。
「これで深い傷を与えることができるっっ!」
と言った王の声に従うように、グワァーダは尻尾でショーマのことを巻き付けた後、その尻尾を大きく砂らせるように動かし、ショーマのことを持ち上げる。
まるでハンドボール投げのように、どんどんとしならせていくと……、そのしなりを感じながらショーマは辺りを見回し、「え? え? え? え?」と何度も何度も同じ一文字を繰り返し発し、混乱をしながらドラグーン王のことを見て、これはどういうことなのかと聞こうとしたが、ショーマの行動虚しく……、後先考えずに言い放った言葉のせいでショーマはもう一度死ぬかもしれない様な思い出を刻むことになる。
「な」
と、ショーマが言った瞬間、グワァーダはショーマのことを掴んだその尻尾を釣りの容量で――ブン投げる。
何の容赦もなく、あらんかぎりの力を使って――『ぶぉぉぉんっっ!』という大きな音と共にショーマを投げたのだ。
「ほぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっっっ!?」
再度体験する風圧。頬の肉がちぎれてしまうのではないかと言うような痛みと口腔内に入る風圧。
それを受けながらも、ショーマの渇きそうになる眼球で捉えらえれた王が与えた切り傷を見て、ショーマは無意識なのかは分からないが、それでもショーマは王が言った言葉を思い出すと同時に、本能的に自分が持っている刀を前に突き出す。
矢のように刀を前に出し、そのまま突っ込む勢いでその風圧を受けながら、ショーマは「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」と声を発しながらその時に備える。
その時、全身が折れないように体制を変えるシュミュレーションを脳内でしながら……。
そして――
――ドォンッッッ!
その轟音に近いような音を聞いたと同時に、誰もがその音がした方角を見つめて、言葉を失っていた。この最中に戻ってきたエドと京平もその光景を見て「おぉ」という声を漏らしながらその光景を見て、ハンナたちもそれを見て、驚くを隠せなかった。
彼らが見たその光景は――まさに希望へと駆け上がる一手。
否――冒険者とアズールの者たちの勝利の旗上げを現したかのような光景。
『残り香』の核に足をつけ、まるで壁にそれを突き刺したまま這い上がる様な態勢になっているショーマは、その状態で核に切り傷を残したその場所に深く、深く刀を突き刺していた。ハンナの『集団大治癒』の中にいるにもかかわらず、体中から湧き上がる痛覚を無視しながら……、ショーマはそっと目を上げる。
見た瞬間、核に映る驚いた己の顔。そしてどろりとその核から零れるそれを見つめ、驚きつつも刺さったことに対して安堵と、茫然と重ねたかのような顔をして、ショーマはその光景を見て、そして一言……。
「やった?」
と零した瞬間――
――ぎゅるん。
「ぐえっ!」
またもや来た腹部の圧迫。それを感じたショーマは変な声を上げて、またもや腹部からきた圧迫と同時に、今度は背後からくるっ突風を感じながら、ショーマは吸い込まれるようなそれを感じて引き戻されていく。
勿論掴むなんて言う余裕もない。ゆえにショーマはそのまま刀から『ずりっ!』と手を離してしまい、核に突き刺したままそれを捨ててしまう。
彼の腹部にまた巻き付いたグワァーダの手によって。いいや――尻尾によって。
そしてその光景を見ながら、戻っていくショーマを見て、ドラグーン王は小さな声でショーマに向かって言う。
よくやった。と――
その言葉が空気に溶け込むと同時に、ショーマと入れ替わるようにとある人物が光を纏う武器を構えて降りてきた――否、落ちてきた。
まるで落ちると同時にスローモーションになる世界。そしてその人物はショーマの刀が突き刺さったその場所に向けて放つように、手にある光るその武器を構える。
頭から落ちるように上下逆さまになり。その状態で一瞬……。本当にその一瞬を狙うように、その人物は言う。白銀の鎧を身に纏い、この世界で最強と謳われる魔王の鬼士は――放つ。
「――『煌燐』
その言葉を放つと同時に、鬼士――ヘルナイトはその光の弦と矢じりを手放し、そのまま元の世界へと戻り、『残り香』の下に向かって落下をした瞬間。
――ガッ!
という音がショーマの刀から聞こえ、その音が響くと同時にどんどんと壊れる音がショーマの刀を真っ二つにするように鳴り響き、そのままどんどんと傷が入った『残り香』の核へと入り込み、歪な音を立てて中に食い込みながら進行をし、穴を掘る様な勢いで進んでいくと……。
――ガッ!
と、今度はその音が響いた瞬間、上空内に響いていた轟音や騒音。そして雄叫びや唸り声が嘘のように静まる。
何もかもが止まったかのような、そんな静寂。
それは、ハンナ達も、エド達も、ドラグーン王も感じていた。
しかしそれを長く感じる暇もなく、すぐにその静寂に終わりが訪れる。
その静寂を破ったのは、『ぴしり』という音。
その音を聞いたキョウヤは耳を『ピクンッ』と動かし、その音がした方向に目をやると、キョウヤはそれを見て驚きを隠せずにいた。
理由は簡単だ。
なにせ今の今まで暴れていた『残り香』の頭達が一斉に白く変色をしていたからだ。
体がまるで石灰質になったかのような白いそれに。
今までの黒いそれとは別の、石灰化を見ているかのような光景を見ていると、それは『残り香』全体に広がっており、それを見た誰もが驚きを隠せないまま見ていた。
遠目から見ていたハンナ達も、エド達も驚いたまま固まっている。
だが、この中で唯一安堵のそれを浮かべていたドラグーン王はグワァーダの背で寝かせている (あまりに苦しさに青ざめながら気絶をしている)ショーマと、落ちてきてなんとかキャッチしてもらったヘルナイトを横目で見て、小さな声でこう言ったのだ。
「まず――第一段階は合格だ」
◆ ◆
『残り香』の頭残数――零。
『残り香』討伐――成功。




