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PLAY09 捕食の魔物③

 その言葉が起因となったのか、それとも……、すでに勝負は決していたのか。


 キョウヤさんは槍を下から上へと振り上げる。そして……。


「んなのわーってるって!」


 大声を上げながらシャイナさんに向かって走る。


 その瞬間、キョウヤさんは槍をぽーんっと上に放り投げる。


 それを見たシャイナさんは驚きながらも滑稽に見えて……、彼女は笑いながら言った。


「ちょ! なんで捨ててんのよ! それって王道漫画の『自ら武器を捨てて戦う』ってやつ? バッカじゃ」


 と言った瞬間、アキにぃは銃を発砲しまくった。


 ――パァン! パァン! パァン! パァン!


 と、それはもう弾丸の残りなど考えないような発砲。


 それを見てシャイナさんは鎌でうまく受け止め、切り裂いて、そしてはたきながら防御する。


 ヘルナイトさんを見ると……。


『YEARRRRRRRRRRRRRRッッ! そろそろ、フィナーレェ!』


 叫んだ牧師様は、右手に持っていた大きな棺をバカンッと開ける。


 そこから出てきたのは……、金具。それも、反っているそれだ。


 それを見て、残り六つの棺もバカンッと開いて、中から同じものが出てきた。


 それは一人でに、刃がついた十字架に引き寄せられるように『ガシャン』『ガシャン』とくっついていく。


 十字架を取り囲むように、それは段々形を成していく。


 その形は、円。


 決して日本通貨のそれではなく、丸の円。


 丸の中に十字架が入っているようなそれで、丁度十字架のクロス部分を掴んでいる牧師様。


 じゃこんっと円の外側から出てきた刃。


 忍者が使う手裏剣のように、牧師様はぐっと腰を捻って構える。


 ヘルナイトさんはそれをじっと見て……、ただ大剣の刃に触れていただけ。


 その間にも牧師様の攻撃は終わってない。今から攻撃が来るのにヘルナイトさんは……、動かない。全く動こうとしない。


 諦めたのか? そう誰もが思うかもしれないけど……、私は違っていた。私はその光景を見て、確信していた。


 違うと、私は確信したのだ。


 私は、キョウヤさん達を見て、そしてヘルナイトさんを見て、両立してみる。


 最初に終わったのは、アキにぃとキョウヤさん。


 シャイナさんは防御しながら、一瞬の隙をついたのか、至近距離で近付いて来たキョウヤさんに向かって、ぐわんっと鎌の刃がついていない――持ち手のところでキョウヤさんの腹部を突く。


「っ!」


 キョウヤさんはぐっと、胃液が込み上げてくる感覚を覚えたのか、くの字に曲がったまま、止まってしまった。


「よしっ!」


 シャイナさんはそれを見て、勝ったと思ったのか、そのまま前に足を踏み入れた瞬間……。


 ――べちゃ。


「?」


 私にも聞こえた。何かを踏んだ音。粘着質を含んだそれを聞いて、シャイナさんの足元を見ると……。私ははっと気付く。


 シャイナさんはそれを見て、ぎょっと驚いた。


 そう。


 シャイナさんの足元には、ネバネバした粘着質のなにかを踏んでしまっていたのだ。


「っちょ! なにこれっ!」


 足を上げても、ねちょっと粘って取れないそれを見て、シャイナさんは驚きを上げながら、慌てて取ろうとする。


 しかしその一瞬で、キョウヤさんはだんっと地面に着地して、形勢を立て直していた。


 地面にまるで、力士のように腰を落として、そしてがに股で踏んで……。


 それを見たシャイナさんは更に驚きを濃く染めて、後ろにいたアキにぃを見ていた。


 アキにぃは銃を下して……、私を見てニコッと微笑んで見ていた。そして……。


「さっき連射したあれ。スナイパーのスキル『トラップショット』って言うんだ。通称……トリモチ弾」


 それを聞いて、私はすぐに察した。


 さっき連射して、シャイナさんが防いでいたあれこそが『トラップショット』なのだと。


「うそ……っ! スキル詠唱なしっ!? ナニソレ……、聞いてないっ! てか、何よそれっ!」


 シャイナさんが言った瞬間、キョウヤさんは尻尾をしゅるんとしならせた。


 そして、落ちてきた槍を――パシリと掴んだ。


 尻尾で、掴んだのだ。


 キョウヤさんはそのまま器用に槍を回して、驚いているシャイナさんの隙を突き、そのままぐんっとすごいスピードで、シャイナさんの額めがけて――


「へ?」


 あまりに唐突なことで、シャイナさんは驚いて声が裏返ってしまっていたけど……、そんなの関係なしに、キョウヤさんは……。


 ――コォンッ! と、シャイナさんの額を強めに小突いた。


「ぎゃ!」


 シャイナさんは痛みで顔を歪ませ、そして痛みで額を押さえながら、ぐらっと後ろに倒れそうになる。でも、片足の自由が利かないので、結局は後ろに倒れ……。


 べちゃっと、後ろにもあったトリモチに捕らわれてしまった。


「うぇっ! 最悪……っ!」


 シャイナさんはすでに種がわかっていたので、自分が蒔いた種によって身動きが取れなくなってしまったことに、嫌気をさしながら唸る。


 それを見て、尻尾でくるくると槍を回していたキョウヤさんは、さっきシャイナさんの額を小突いた槍の刃がついていない方を指さして……。


「これで動けねーな。わりーな。刃じゃなくて」


 にへっと笑うキョウヤさん。アキにぃも銃を下して、立ち上がって私を見て、手を振った。


 私はほっとして、ヘルナイトさんを見ると……。


『マスタァアアアーッッッ!』


 大きな声で叫びながら、牧師様は手に持っていた唯一の武器を腰を最大に捻って――投擲する!




『『円剣(カット・ギロチン)』ッ!』




 ぶぅんっと投げて、ギャルルルルッと音を上げながら投げられたそれを見て、ヘルナイトさんは触れていた手を……、すぅーっと、上に向かって触れていく。指を切らないように、慎重に。


 すると……、大剣から黒い焔が……。


 触れ終えて、放した時には――すでに轟々と燃え、黒い焔を纏った大剣となっていた。


 それを見て、感じた私は、凄まじい熱気を感じ、それを見た……。


 ヘルナイトさんはがちっと左手に持っていた大剣を、内側に振って、そして――自分に向かってくるそれから目を離さないように、彼は――


 一気に振るう。




「――『極焔の一閃』」




 ブンッと振るった直後、まるで衝撃波のように飛ぶ炎を纏った斬撃。投擲された円形の手裏剣は、その焔に呑まれて、じゅぅっと言う音を立てて熔解してしまう。そしてそれを見て、逃げようとするけど、シャイナさんを見てもたもたしている牧師様……。


 でも、そうしている間に、炎の斬撃は牧師様を呑みこんで、ボオオオオォォォォッと燃え盛る。


 声にもならない叫びをあげることのできず、牧師様は、ずるずると溶けて、ぼたぼたと地面に落ちたかと思うと、黒い影となってそのままシャイナさんのところまで地面を泳ぐように進んで、シャイナさんの影に戻ってしまう。


 それを横目で見ていたシャイナさんは、目を疑うような目で、見ていた……。


 ヘルナイトさんは、大剣の焔を消して、そのまま背中に収める。


 すぐに私を見て……。


「終わった」と、凛とした声で言った。


 私は、それを見て、きゅぅっと心臓が圧迫されたような感覚を感じたけど、私はそれを嬉しさと認識して……。


「……はい」と頷いて言った。


 それを見ていたおじいちゃんは、ただただそれを見て……、「ふん」と鼻を鳴らして笑う。


 アキにぃはそれを見ていたのか……、私たちに近づきながら「……やっぱゴロ野郎助けて正解だった……」と、低く小さくいう。


 あ、やっぱりなんだね……? そう私は納得する。


 キョウヤさんは未だにトリモチに捕らわれてるシャイナさんを助けようと、トリモチを掴みながら話している。


「早くしてぇ! 気持ちわるいぃっ! さっきのことは謝るからぁ!」

「わーったって。暴れる……、って。暴れられねえかうぉ! すっげぇねばねばっ!」


 そんなことを話している二人を見て、私は和んでいると……。後ろから声。


「はーっはっはっはっはっはっは! ざまぁないな死神少女よ!」


 その声を聞いて振り返ると、そこにはゴロクルーズさんがいて、ゴロクルーズさんは木でできた塀に上って、そこにしがみつきながら叫んでいた。


 いつの間に……。


 私はそれを見て、素直にすごいと思ってみていた。


「何そんなところに逃げて笑いこけているんですか?」


 アキにぃがそれを聞くと、ゴロクルーズさんは笑いながら私達に向かって叫んだ。


「逃げるに決まっているだろう!? そいつは昨日から俺を殺そうとしている死神なんだっ!」

「死神……、確かにリッパーは死神っていうイメージですけど……、違いますよ?」


 そう私が言っても、ゴロクルーズさんは止まらない。聞いてないかのように自分の話を続ける。


「なぜ俺を狙うのか、それは……、俺の魅力に」

「違う」


 ゴロクルーズさんの言葉に、シャイナさんは即答して遮って……、今度はシャイナさんが話し始めた。


 私達はそれを交互に見て、聞くことしかできなかった。


 もはや蚊帳の外だのだけど……、それでも二人の確執が聞けるかもしれない。


 そう思って私は耳を澄ませて聞く。


「あんた、ここ二日でいろんな奴から金を盗んでいるって聞いたよっ! 善人な()()()()()ウィ()()()()の女の子も被害にあったっていうし……、それに関して、被害にあった人たちがクエストを出したんだよ。あんたを捕まえて『腐敗樹』前の駐屯地ギルドに連行してくれって!」



 え?



 今、シャイナさんは……、なんて言ったの。


 私の脳内で、鈍器のような衝撃が走る。


 今、天族の……、ソードウィザードと言ったの?


「そんなにっ!? そんなにいやだったのっ!?」

「大きいとかそんなんじゃない! あんたのようなデブっちょ腹に、ハラスメント的なことされて嫌だったって言っているの! だからあたしがクエスト受けて、あんたを捕獲しようとしたの!」


 私が知っている限り、そんな人は一人しかいない……。


 思い出される友達の背中を思い描いて……、私はシャイナさんに聞こうとした。けど二人の会話は終わっていない。それに、今はアムスノームのこともある。


「だが、俺を殺すとか……」

「そうでもしないとあんたは素直に捕まってくれないと思ったのよ! ヘタレで何もできないくずだしっ!」


 色々な事がありすぎる。それでも、聞きたいという衝動がある。


 優先すべきことはなに?


 その言葉を題材に、天秤にかける。


「第一そんなんだからヘタレって言われてもおかしくないし、正論でそのまんまでしょっ! それで八つ当たりとか、常識がない!」

「ぅおぅい! それは言い過ぎだっ! 俺はこの二日間、死ぬかもしれない恐怖に怯えていたんだぞっ!? それなのに俺のコンプレックスを当たり前のようなそれで一括りにしやがって! そういうお前だって……」


 ぐらぐらと天秤が揺れている。その子か、アムスノームか。


 ああ、シャイナさんの言葉のおかげか、所為なのか……。話に集中できない……。



「――金床みたいな絶壁じゃないかぁっっっっ!!」



「?」


 悶々と考えている間に、話が進んでいたらしく……。


 その場所の空気が重くなっていること、そしてみんながそれを聞いて、固まっていることに気付いた私はアキにぃに聞いてみる。そっと耳元で囁くように。


「……何があったの? アキにぃ」


 それに対し、アキにぃはぽかんっと口を開いて固まっていたけど、私の声を聞いてすぐにはっとする。そして……、しゃがんで小さい声で、私の耳元で囁いた。


「……えっと……。うん……。まずい。と言うことだけは、わかる」

「?」


 そうアキにぃが、言葉を濁して誤魔化したのを見て、私は首を傾げる。それを見ていたヘルナイトさんは……、何かを感じたのか、きょろきょろと周りを見だす。


 シャイナさんを見ると、キョウヤさんはひょこひょこと、抜き足差し足でこっちに近づいてきている。青ざめた顔をして。


 シャイナさんはぶるぶると、すでにトリモチが取れている状態で、そのままゆっくりと起き上って……、鎌を手に持ってカッと見開かれた怒りの目でびくぅっと驚いて震えだしたゴロクルーズさんを睨んで……、顔を赤くして彼女は叫んだ。



「ぶち殺すううううううぅぅぅぅぅぅーっっっっ!!」



 それを聞いてしまった私は、何となく……、察してしまった。


 女の子、特有の……。うぬぬむ。


 木が揺れるような叫び。


 小鳥が飛んで逃げるくらいのそれを聞いて……。



 ――ずぅん!



「「「?」」」


 遠くで何か大きな振動を感じた私達。


 ゴロクルーズさんも、シャイナさんも、その振動を感じて、頭に疑問符を浮かべながら、その音を聞く。


 その『ずぅん! ずぅん!』と言う音は、少し遠くから聞こえる。


 それがだんだん、近付いて来ているような……。


「っ! しまった!」

「へ?」

「「?」」


 ヘルナイトさんも迂闊と言わんばかりに言って、そしてこの空間の前を見る。その場所は、入り口の真正面にある場所。


 木で出来た塀を見て、私達はその場所を見ることしかできない。


「へ? なに……?」と言いながら、私はおじいさんを見ると、おじいさんは上空を見上げている。そして顔を顰めて……。


「まずいっ! ()()()()()()!」

「っ!」


 感づかれたか。その言葉を聞いた瞬間、思い出した。


 そう。ここに来た理由は、おじいさんが出したクエストの魔物を討伐すること。それが出るのは、今まさにここで、時間は正午。


 だんだん大きくなる振動と音。


 それはきっと、魔物の足音。しかも……、デカいっ!


 バキバキと気を薙ぎ倒していく音も聞こえ、少し上を見ると、何本もの木を倒していく風景が見える。


 それを見た私は、すぐにゴロクルーズさんに向かって叫んだ。


「降りて! 早くっ!」


 でも……、ゴロクルーズさんは、震えながら降りてこない。それを見た私は……、まさかと思い、恐る恐る聞いてみた……。


「まさか……降りれないんですか……?」


 その言葉に、彼はぶるぶると頷いた。


 それを見たおじいさんはやれやれと首を振って呆れている。


 その最中、私の前に出る三人。


 ヘルナイトさん。アキにぃ、キョウヤさん。


 三人は今なお大きい音を立ててこっちに来ているそれに対し、臨戦体制をとりながら言う。


「ハンナ。私達で何とかする」

「援護と回復よろしく」

「まぁ――何とかなるだろう」


 そういう三人に私は一抹の不安を抱える中、先ほどおじいさんにも言った。自分でもそう思ったそれを思い返し頷く。


 信じるしかない。


 ううん――三人を信じる。


 そう思いながら――ばきばきと(おびただ)しい音を立てて突っ込んできそうなそれに対し、私達は意を決して迎え撃つ。

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