表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
509/836

PLAY88 反撃! そして……⑤




『『『お……、お……! おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁぁっッッ!!』』』




 けたたましい咆哮と共に『残り香』三体は挑発をしたエドに向かって、その身を使って攻撃をするように突進してきた。


 そんな光景を見ていた京平はエドのことを吊り上がった目で見上げつつ、焦りの声でエドに向けて――


「うぎゃーっっっ!? 何してんだべエドッ! お前の挑発予想以上に効果てきめんだったべ!」


 と、泣きべそをかきながら言うと、それを聞いていたエドは「ああ」と驚きの顔を浮かべ、頬を伝う汗を拭いながらエドは京平に向かって言った。


 自分でしたことに対して驚きのそれを浮かべながら彼は言ったのだ。


「おれも驚いている。と言うかここまで効果絶大たっだとは……!」

「そのせいで俺にも被害が被るんだよっ! 挑発したんだから何とかしろっ! エド!」

「そんな、おれは攻撃と防御担当でしょ? この場合は京平が頑張らないと」

「俺は回避と移動担当ってかっ! 人をタクシーみたいに言うなっ! 俺が相当苦労することだろうがっ! 絶対に俺が損しているからっ!」

「あ、ほら来た! ほらほら京平早く逃げて! ほらほら!」

「急かすなこのやろぉっ!」


 エドの言葉を聞いた京平はエドの行動を予測していなかったのか、まるで何かをなすりつけられた人のように激怒しながらエドに向かって言うが、エドはそのことに対してあまり考えていないのか、それともそれよりも今は逃げろと言いたいのかはわからないが、エドはそんな激怒している京平に向かってさらりと恐ろしいことを告げた。


 それを聞いた京平は再度怒りの突っ込みをぶちまけ、そして自分のことをタクシーだと思いながら突っ込みを入れたが、エドはその言葉を無視して京平に向かってきたという合図を送った。


 全く動かないエドが、回避と逃避、そして移動を担当する最も大事な役割を担っている京平に向かって、エドは言い放つ。


 なんとも人任せな奴だと言いたいが、しかしエドの言うことは一理あるかもしれないのも事実。


 なにせ……今いるこの場所は上空。つまりは空。人間もとい翼を持っていない存在は絶対に移動することができない領域だ。


 まぁ……、風に吹き飛ばされれば別の意味で移動は可能だろうが……、それではだめだ。根本的な意味で……。


 ゆえにエドの言うことは正しい。京平の言うことも正しいかもしれないが、今は京平の足が――翼が何より大事な命綱なのだ。


 その辺を踏まえてエドは京平に向かって言い、どんどんと迫ってくる『残り香』三体のことを見て、エドは京平の頭をバンバン叩きながら続けてこう言った。


「ほらほら京平! 早く逃げる! ランラン! ランラン!」

「~~~っっっ!」


 エドは言う。『走る』という英語――『RUN』という言葉を連呼しながら……。


 その言葉を聞きながら、京平はぎりぎりぎりっ! と歯を食いしばり、内心他人事だと思いやがってぇぇ……っ! と思いながら (実際のところ飛行能力があるのは京平だけなので、結局は他力本願するしかない。ゆえに他人事のように聞こえてしまうかもしれないが仕方がないのだ)、だが自分もこの攻撃で死にたくないと思い、京平はエドの声を無視するように、遮るように上を向くと……。




「ああああああああああああああああああああああああああああーっっっ!」




 と、大きく大きく腹から声を出すように叫ぶと、その声に驚いたエドは驚きを浮かべると、それと同時に京平は言った。


 大きな声で――投げやりと言わんばかりの音色で彼は言った。


「しゃーねぇっっ! しっかりつかまっていろよぉ!」

「え? ええ? あ、はいっ!」


 そう言うと同時に、エドの返事が聞こえ、京平はそれを良いという合図に変換すると同時に、そのまま体の向きを変えながら『残り香』三体から逃げるように飛んで行く。


 ばさ! ばさ! ばさ! ばさ! 


 と、両手の翼を急かしなく動かし、精一杯の速度で飛びながら京平はエドを乗せたまま飛ぶ。背後から来る『残り香』から逃げるように、そのまま行方をくらまさないように飛びながら、京平は飛び続ける。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」


 勿論、彼自身であろうとこのような状況でエドのように熱血の中に潜んでいる冷静さを持つような器用さも、度胸もない。どころか今まさに死んでしまうのではないかと思ってしまっているので、冷静の『れ』の字も消え去ってしまっている状況だ。


 それと相まって、京平とワイバーンの意志が連結されているかのように、京平の恐怖とワイバーンの焦心が重なるように、混ざるように飛行の加速も――頭皮の加速も上がっていく。


 この場で言うのもなんだが、補足として説明をしよう。


 ワイバーンは一体だけで行動する魔物であり、通称『空のギャング』と言われているほど一体で行動することを好んでいる種族であるが、それは同種族に対しての度胸があるという意思を伝えていることがあると聞くが、本当はそうではない。


 元々は小心者で、見栄っ張りと言うなんとも見た目に反してと言う性格を持つとと、MCOの魔物詳細時点に記載されているほど、ワイバーンは肝が小さい存在なのだ。


 その存在と京平のシンクロしているような姿を見ながら、エドは京平のことを見降ろして……。


 ――おぉ、流石はチキンワイバーン。すごい加速……っ!


 と思いながら、どんどん加速しながらくるりとドリルのように回ったり、そして高速旋回をしながら避けている京平の背にしがみつきながらその振り回しに耐える。耐えながら……、エドは喉の奥から込み上げてくるそれに耐えながらその時が来るのをじっと待つ。


 京平が必死になってエドのことを背に乗せて逃げている最中、エドの挑発に乗り、煽られて追いかけてくる黒い水を吐く『残り香』と黒い氷を放つ『残り香』。そして泥を吐く『残り香』はエドの背と京平の後を追いながら、今現在無数の『残り香』相手に戦っている彼らにも届くような雄たけびを上げた瞬間。三体の『残り香』はエド達に向けて、まるで散弾銃ともいわんばかりの砲撃を放った。




 ――どぅんどぅんどぅんどぅんどぅんっっ!




 と、黒い大きな水の塊を放ち。




 ――ばぎばぎばぎばぎばぎ! ばしゅぅ!




 と、黒い水溶液を凍らせたかのような大きなつららを弾丸のように放ち。




 ――ごぼぼぼぼぼっ。ぼぉ!




 と、いくつもの泥の塊を生成すると、そのままエド達に向けて砲弾の如く放つ三体の残り香。


 その威力ははたから見てもすさまじく、まるでいくつもの総攻撃がエド達に向かって放たれているような――容赦のない総攻撃。


 否――三体の追撃。


 そんな三体の攻撃を背後から見ていたエドは、どんどん迫ってくるその光景を見て、不敵に――にやりとマスク越しに浮かべると同時に、彼は己の正面を切り替えた。


 ぐるんっと、京平の頭の方に向けていたその頭を逆の――尻尾がある方に体を………攻撃が放たれているその方向に立ち向かうように、エドは体を向け、盾を己とエドの前に向けた。


 否――エドの前に、京平の背後を守るようにその盾を向け、どんどん迫りくる三つの巨大な攻撃から避けず、立ち向かう……、いいや、絶対に防ぐという意志を込めたような目でその攻撃を見つめるエド。


 エドの盾を前にしても相手は……、いいや、その攻撃が止むことはない。どころかエド達のことを倒す勢いを増すかのように、どんどんと迫ってくる。その光景を見て、あまりに凄まじい光景を目の前に固唾を飲む音が豪風の中でもはっきりと聞こえるよう気がする。


 ごくりという音が余計に聞こえる様な感覚を感じたエド。


 ――この緊張感の中、あまりに緊張しすぎて五感が研ぎ澄まされてしまったのかな……?


 ――いつもなら掃除機の音でも目を覚まさないってよく言われるのに、こんなにうるさく感じることも、喉の渇きが異常なのも、手のサブいぼが異常に感じられるのも、そして……、肌を突き刺すこの刺激も研ぎ澄まされ過ぎて敏感になりすぎている……。知覚過敏が前線に広がっているような感覚だ。


 ――なんだか、盾が微かに震えている。ああ、これはおれのせいか。


 ――でも、今はそんなことで怖気づいてはだめだ。


 エドは思う。己が今体験していることに対して恐怖していることも、そして逃げたいという感情に押しつぶされていることも重々承知する。


 いいや――これは強制の承知。


 こうでもしないと、己の心がおかしくなるかもしれない。もしかすると恐怖のあまりにできることができないかもしれないという恐れから、エドは自分が怖がっていること、そして恐れていることを受け入れ、それでも――戦わないといけない。恐怖に負けるなと自分に言い聞かせながら、エドは己の弱い心を受け入れようとしていたのだ。


 無理矢理でも、その気持ちを受け入れ、けじめをつけるために――


「ふぅー…………」


 息を一度、大きく吸い、そして吐いて呼吸を整えるエド。そして覚悟を決めると同時に、エドは前を見据えた。目の前に迫ってくるその攻撃の衝撃波を見つめながら、エドは盾を持ちながらも震えているその手に、槍を持っているその手をガッと乱暴に乗せ、そのままエドは前を見据えると、背後から京平は言った。


「エド!」

「大丈夫! いつも通りの方法でやってみる!」

「おうそうだな! やれやれぇ! 逃げは俺に任せるべ!」

「頼むべ!」

「真似すんなっ!」


 京平の合図を聞いて、エドは頷きながら大きな盾を『がちゃり』と構える。その最中でも三つの魔祖の攻撃はどんどん加速していき、直線で飛行回避をしている京平と、その背に乗って盾を構えているエドに向かわせるように放った攻撃。


 勢いの加減と言うものを知らないのか、その攻撃は砲撃者でもある『残り香』三体から離れていても、威力が落ちない、どころかその威力を高め、速度を速めていく。


 そんな中でも、エドは攻撃するどころか防御に徹している。否――それしかしない意思を固めながら、エドは防御を続ける。


 盾を前に出し、絶対にうまくいく。そう信じながら、エドは思い出す。


『聖楯アナスタシア』という武器が持つ――()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして思った。


 ――『聖楯』アナスタシア。お前の力、()()()()()()発動できるのならば、おれに力を貸してくれ。


 ――今まではゲームの世界だったけど、この世界でもお前の力が使えるならば……、力を貸してくれ。


 ――おれ達や、この世界で頑張っているプレイヤー。そしてこの世界に住んでいる人達のために、力を貸してくれ!


 そう思ったエドは、盾を前に掲げながらもガーディアンらしい立ち振る舞い、そして雰囲気を纏いながら、エドは攻撃の向こうにいる『残り香』三体に向かって――再度叫ぶ。


 今度は挑発ではない。この声は――この言葉を例えるのであればこうだ…。これは――





             宣言!





「――()()()()()()()っっっ!!」

 

 その言葉と同時に、エド達に向かって放たれた水、氷、泥の三つの攻撃は、エドの盾に吸い込まれて行くようにそのまま直進し、そして………。


 どぉぉぉんっっっ!


 と…………、上空でもわかるほどの威力、風圧、衝撃波を与えながら、どんどん四方に飛散していく。


 四方に四散する衝撃波は周りをふわふわと飛んでいた厚い雲を振り払う風となり、そしてその衝撃波はみんなに音の知らせを速達と言わんばかりに運んで飛んで行く。


 まるで――攻撃の破片が当たりに散らばるように、それはどんどんと周りに飛んで行くと、その衝撃音とわずかな風を感じたハンナは、その音がした方向に目をやり、まさかと思いながら彼女は小さな声で呟いた……。


「エド……さん? 京平……さん?」


 そのか細い声を聞いていたアキも、ツグミも、リカもその声を聞きながら唖然とし、二人が飛んで行った方向に目をやりながら、脳内では『そうではない』と思いつつも、本音の最悪の想定ことばかりを思ってしまい、神力が少しずつマイナスになっていく。


 だが、シリウスだけはその光景を見ても、神力が減ることもなく、むしろニッとを見浮かべる笑みで上空を見上げていた。


 死んでいない。むしろ――その逆のことを思いながら、シリウスはその光景を見上げ、勝ったような笑みを浮かべていた。


「?」


 ――なんで笑っているんだ? 仲間が死んだかもしれないんだぞ? 頭おかしいんじゃないのか?


 アキはそんな顔をして見上げているシリウスのことを頭がおかしい人と認定をしつつ、やっぱり人間ではない種族は人間の心があまりないのかと思いながら呆れるように、そして失望をするように見つめていた。


 なぜ死んだかもしれないのに、笑っているんだ。と言わんばかりの顔で、呆れながら。


 そんなアキの失望の傍ら、ハンナはその光景を見上げながら唖然としていた。が……、それもすぐに蚊の世の顔から消え去ってしまった。と同時に――


「?」


 ハンナは衝撃音がしたその方向を見ながら、かすかに雲に隠れているいろんな色の雲を見つめながら、もしゃもしゃを見つめながら目を見開いていく。


 そして、そのもしゃもしゃの持ち主がだれなのかを認識した瞬間、ハンナははっと息を呑んだ。


 口元に手を当て、もしゃもしゃを放っているその人物がまだ生きていると認識をすると同時に、ハンナの心にかすかな嬉しさがこみあげてきたのだ。


 エド達は――生きている。


 それを再認識しながら…………。



 ◆     ◆



 そんなハンナの嬉しさとは正反対に、上空でエド達に向けて攻撃を放った『残り香』三体は、目の前で起きたその光景に対して驚愕の眼を剥き出しにしながら、目の前で起きたことを受け入れずにいた。


 たとえ、魔物であれど、『終焉の瘴気』の一部であれど、彼らは生物。


 生物だからこそ、この場で適切な感情を出したのだ。


 驚きの、驚愕のそれを……。


『ぐぉぉぉおおおおおおお………?』

『ぐぐぐうううううううう………?』

『ぐぅおおおああああああ………?』


 それぞれの首が、『残り香』三体が唸るような声を上げて、首を傾げながらその光景を見つめ、目の前で起きている光景を疑いのそれで見つめると、そんな三体を見て――




「驚いた?」




 と、三体の声を聞いていたその人物は、混乱と驚愕に身を染めている三体に向けて、更なる感情を上乗せするように語り掛けてきた。


 その声を聞いた瞬間、三体の『残り香』はびくぅ! っと首を震わせ、目の前を見つめると、彼らのいくつもの眼球が埋め込まれているその目から覗く眩く光る何かが差し込んでくる。


 雲に覆われてその姿の全容は見えないが、それでも光っていることは厚い雲越しでもわかる。


 まるで太陽に見えるその光景を見て、視界が拒絶反応をするように目をつぶると、目の前にいたその人物……、盾を構えていた無傷のエドは、同じように無傷の状態で飛び、そしてエドのことを乗せたまま飛んでいる京平と一緒に『残り香』のことを見つ目ながら、落ち着いた音色で安堵のそれを吐きながらこう言った。


 あの攻撃を受けたにも関わらず、服に汚れ一つもついていない状態で、二人は『残り香』三体に向かって言ったのだ。


「確かに、あの攻撃を直で受けたら、おれ達は死んでいた。骨も何も残らない状態になっていたかもしれない。けれど……、そうはならなかった。何故って?」


 そう言いながら、エドは目の前にかざし、両の手でしっかりと掴んでいたそれを『がちゃり』と、音を鳴らしながら上げると、彼はそれを『残り香』三体に見せつけるように前に掲げながらこう言った。


 少しだけ焦げた跡が残っているにもかかわらず、盾その物に罅が入っていないそれを。それから羽場唯光を放っているそれを見せつけながら、エドは言った。


 手にある『聖楯アナスタシア』の――この世界に三つしかない(シャイニガル・)武器(ウェポン)の聖なる光を見せつけながら、エドは言った。


「おれが持っている『聖楯アナスタシア』は、普通に扱えば普通の盾として使うことができる。けれど、この武器にはたった一つだけ、それを持つと発動する特殊スキルを使うことができるんだ。もちろん――おれが持っている『聖槍ブリューナク』も」


 そう言いながら、エドは片手に持っている聖槍を見せつけながら『残り香』三体に向けて言う。


 言葉を理解しているのかはわからない。しかし『残り香』三体はどうやら察してしまったらしい。


 いいや――感じてしまったらしい。


 エドが危ないと。そしてエドが持っているその武器は――予想以上に危ないと。


 そんな『残り香』のことを見つめながら、エドは続けてこう言った。煌々と光っているその盾に向けて、槍で指を指すように『ごんごんっ』と軽く叩きながら、エドは言った。


「この盾が持っているスキルは――『防御変換』。いうなれば防いだ攻撃を、この武器が持つ性質と()()()()()()()()()()()()()()物なんだ。水属性の攻撃が当たったらこの盾の場合(シャイニガル・)武器(ウェポン)の属性は光属性だから光の属性を溜める。それが一気に三つの攻撃が当たったから、今この盾には三つの光属性の攻撃が溜まっているってこと。簡単に言うと――三倍の光属性がこの盾に溜め込まれているってこと。あ。そう言えばこの世界には確か……、(ディザスター・)武器(ウェポン)があって、その武器にも溜める特性を持っているものもあるって聞いたけど、それはおれが知ることもないだろうから置いておくとして……」

 

 その言葉を言いながら、エドは続けてもう片方の手に持っている槍――『聖槍ブリューナク』を天に向けて掲げながら、彼は続けて説明をする。


 ()()()()()()()()()()()()その槍の刃を見せつけながら、エドは説明をした。


「でも――ここであれって思ってしまうよね? 『()()盾に溜まっている光属性って一体何に使うつもりなの?』って、そのことに関しては、多分ゲームと同じで、簡単に言うと――この盾に物理攻撃をしてしまった敵に対して、跳ね返しと同時に光属性の攻撃を当ててしまう。シャーマーと同じようなそれを感じるけどね、この盾に溜まっているものは三倍の光属性。つまりはその三倍の攻撃が一気に来るということで、さっきの攻撃を防いだからそれと同等の光属性の攻撃が来るってこと。これが種であり、この『聖楯アナスタシア』が持つ力」

 

 その言葉を聞いて、人が話す言葉を理解したのか『残り香』三体はたじろくようなそれを見せ、そのまま相手の目を見て、ゆっくりと、ゆっくりと後退をしていく。


 もし、エドが持つ『聖楯アナスタシア』に向けてもう一度攻撃を仕掛けた瞬間、その時こそ本当の終わりになってしまうことはもう目に見えてわかる。

 

 いくら魔物と言う存在であろうと、人間並みの知識を持っているわけではない。他の魔物よりも知識は豊富な方だが、人間を食べて知識と言うものを得る摂食交配生物と比べれば劣る方だ。


 だが、こればかりは頭が悪い魔物であろうと分かることだ。

 

 エドに対して、攻撃をすれば終わりだと。


 物理の攻撃をした瞬間に――先ほど防いだ属性攻撃の三倍が帰ってくる。


 属性攻撃をしたところで、結局エドが持つ『聖楯アナスタシア』がそれを全て防ぎ、そしてまた溜め込んでしまうだろう。


 結局――相手にとって勝ち目がないようなこと。それを無意識に、本能の囁きに従った『残り香』三体はこの場で最も賢明とも云えるような行動――相手のことを伺いつつ逃げるという選択をして、『残り香』三体はそのまま伸ばした首をそっと、そっと縮めていく。


 そんな光景を見たエドは、内心――あ、やっぱりな。と思いつつ、それと同時にエドは思った。


 ――やっぱり、()()()()()()()()()()()。あのまま逃げられてしまえば――みんなにも迷惑が掛かる。そして……、この場で逃がしてしまえば、戦況が傾くかもしれなかった。


 ――喋りすぎちゃったかな? でも、今のおれはそんなことで逃がすような優しさはない。心がないようなことを言うけど、この場でお前達を倒さないと、だめなんだ。だから……。


 ――国のために、おれ達のために……死んでくれ。


 そう思った瞬間、エドは少しずつ交代をしていくその姿を見て、その光景を見ていた京平が大きな声で「あ! あいつら!」と言って、飛んで追おうとした瞬間――京平はエドのことを見上げて聞いた。


()()()()()()っ!?」

「ああ」


 京平の言葉を聞いて、エドは頷き――そして続けて言った。


 京平のことを心の底から信じているような音色で、彼は張りのある声で言う。


「準備オーケー! 超加速で追って! あと京平、怪我だけはしないでっ!」

「っは! 誰に言っているんだ? おめーよぉ」


 そう言いながら、エドの言葉に対して鼻で笑うように京平はにっとワイバーンの顔で笑みを浮かべて、両手の翼を大きく羽ばたかせ、そのまま加速をすると同時にこう言い放つ。



「長げー付き合いだから、それくらいもうわかってるべぇっっ!」

 


 そう言って、京平はエドのことを乗せた状態で、ジェットコースター以上の加速をして、遠くにいる『残り香』三体に向かって突進する。


 その光景を見た『残り香』三体は大きな口を小さく開け、ぎょっと言う声が零れそうな驚きをすると同時に、そのまま急加速で掃除機のコンセントを巻き付ける様な速度でどんどん後退し、エドと京平との距離を離そうとする。


 しかし……、ワイバーンの加速がそうさせず、一行の距離が離れるどころかどんどん近付いて来る。


 エドと言う魔王族の亜人を乗せているにも関わらず、その速度は魔物のワイバーン以上の速度で京平はどんどんと焦りで叫んでいる『残り香』三体に向かってどんどんと距離を詰めていく。


 ごぉぉぉぉぉっと加速のせいで耳に入る風と風圧が鼓膜の不調を促し、少し聞こえないような感覚を覚えたが、エドはそのまま手に持っている盾を構えたまま、京平の背にそっと、サーフィンをするように立つ。


 体の向きを前にし、足だけはカニのように横に開くと、盾を前に出し、槍を後ろに向け、右手でそれをしっかりと持ったまま立つエド。


 そして、その盾を向けながら、エドは徐に盾を持っている手で鉄のマスクに手をやり、そのままずっと――下に無理やり降ろす。


 普通のマスクのように簡単には下りず、少しばかり『がちゃっ!』という機械の音が響いた気がしたが、それでもエドは気にもせず、そのまま目の前で後ろ向きに逃げている『残り香』三体のことを見て、そして鼻で一呼吸をゆっくりすると――


 ぎっ! と、『残り香』三体に向けて凄む様な睨みを向けた。


 その目に映る――十字架の後ろに、罰マークがあるその眼を……、退魔魔王族の眼を見せつけながら、エドは目の前で逃げている『残り香』三体に向けると、その目を見た『残り香』三体は、その目を見て人間でいうところの『ひっ!』と上ずるような声が出そうな顔をする。


 が――その一瞬の間に、エドは盾を前に掲げた状態で、その盾に注意が向くように仕向けた後、エドは槍を持っていた手を大きく横に振るい、そしてそのまま扇のように薙ぐような体制になりながらエドは構える。


 その槍の刃から眩く光るそれを向け、その光の刃がどんどん肥大し、巨大になっていく姿を見せないまま、エドは威圧で注意を逸らすとエドは言った。


 もう一つの種を明かしてもいいだろう。そう思いながら、エドは言ったのだ。


「そういえば、おれはこう見えてももう一つの(シャイニガル・)武器(ウェポン)を持っていて、その武器の名は『聖槍ブリューナク』。このブリューナクにもアナスタシアと同じ特殊なスキルを持っているんだけど、もう放つ前だから、簡単に言うと――ブリューナクは『我慢して我慢して溜めまくった力を敵に向けて解放して攻撃をする力』なんだ」


 それをもっと簡潔に言うと――


 そう言うと同時に、エドは盾を構えていたその体制を突然解いて、盾を背に背負うと同時に両手でしっかりと持つと、エドは大きく振りかぶった槍を――刃のところが眩く光り、まるで光の剣を模したかのような姿をしているその槍を、恐怖で強張っている『残り香』三体見せつけた後、エドは言った。


 その槍を大きく振るうために、声と共に力を出すようにエドは言う。


「この槍は、光属性の力を吸い、そしてそれを倍にして返す力がある! さっき盾に溜めた三倍の光属性をこの槍に溜めたから、威力は六倍! おれ自身もどうなるかはわからないけど、お前たちを一撃で倒せることは……わかっている――」

 

 と言って、エドは手に持った槍――否。すでに盾に溜まっていたその光属性の三倍の攻撃を溜め、そしてそれを放つために二倍にしているので六倍にまで膨れ上がっていたので、その光の刃はもう大きな剣と化し、その剣をエドは、目の前にいる『残り香』に向けて、薙ぐように振るう。


 最後の言葉を言い放ちながら――!


「――よぉぉおおっっとぉぉぉぉっっ!!」


 そう言った瞬間、光の刃はエドから見て左斜め下に向かって薙ぎの線を描く。


 周りにあった雲を切り裂き、そして風を斬るように『残り香』三体の首を刎ねる。


 刎ねたと同時に『残り香』三体は体と首を黒く変色させていき、黒い靄と共に消えていくが、それを見る暇もなく、そのままエドは薙ぐ速度を落とさないまま、自分の下にいるであろうみんながいるその方向に光の刃を振り下ろしていく。


 そう――ヘルナイト達がいるその場所に向けて、光の刃をどんどんと閃光の如く振るっていく。


 そんなことも知らないハンナ達は、上空から聞こえる音を聞いて首を傾げながら上空を見た瞬間、自分達の頭上から自分達のことを斬るようにして現れ、雲を裂き、その雲を纏うようにして出現をした大きな大きな光る剣が上から下に向かって振り子のように降りてくるその光景を見た瞬間――


「げっっ!?」

「なんにあれぇっっ!」


 その光景を見て開口口を開けたのは、ツグミとアキ。二人は目が飛び出るのではないか問うような目の開き方をし、そのまま愕然としたまま固まっていると、ハンナは自分達のことを運んでいるナヴィの背を優しく撫で、焦りの音色で「ナヴィちゃん!」と叫ぶと……、ナヴィはそれを聞いてすぐに頷く唸り声を出すと……、そのまま光の剣から逃げるようにその場から飛んで回避をする。


 ぶわぁ! と来る剣と、ナヴィの飛行の即語も相まって、風がいつもより強く感じたハンナであったが、それを感じると同時に、ナヴィの背後すれすれに通り過ぎた光の剣は、そのままハンナ達が飛んでいる下の雲に切り込みを入れ、そのまま大きな剣の痕を残すと同時にどんどんとそれは振り子のように上がっていく。


 大きく薙ぐように、その威力を利用して、ヘルナイト達がいる『残り香』の本体に向かって――!


「うぉっっ! なんだありゃっ!?」

「新手っ!? ! ……………?」


 その光景を見て、キョウヤは驚きの声を上げながら近くにいた『残り香』の首を切り落とすと、近くで虎次郎とその光景を見ていたシェーラが警戒心を剥き出しにして構えるが、その手を止めるように虎次郎が前に手を出す。その眼光に浮かぶ危険の察知を剥き出しにして……。


「あれ光っていますよ? なんなんですか?」

「んな悠長に言っている暇なんてねぇっ!」


 そんなキョウヤ達とは正反対に、むぃは首を傾げながらコウガの背からその光景を見ていたが、コウガは苦無と忍刀をしまい、そのまま光の剣から逃げると――突然虎次郎がいまだに炎を吐く『残り香』相手に戦っているシロナと善に向かって、焦りの声で叫ぶ。


「今すぐこの場所から逃げるぞっ! 白猫と黒装束も逃げよっ!」


 その声を聞いたシロナと善は驚きの顔をしながら、迫りくる『残り香』の攻撃を防ぎつつ、戦いに水を差してきた虎次郎に向かってシロナは――怒りの音色で叫んだ。


「アタシは白猫じゃねえっ! ホワイトタイガーの亜人シロナだっっ! あと逃げてたまるかっ! もう少しでこの野郎を」

「ん! んん!」

「あ! ちょ! なんでこんな――あぁ待て善っっ!」


 しかしその怒りを統べてぶつける前に、善は虎次郎の言葉の重さ、そして重大さを理解したのか、シロナを脇に抱えると、そのまま『残り香』との戦闘を急遽やめて首から首へと飛び移り、そのまま階段のように駆け上がっていく善。


 暴れて、善の体に向けて蹴りや殴りを入れて暴れているシロナのことを無視して……。


 デュランもそれを見て逃げなければまずいと思ったのか、倒していたその行動をやめて、そのまま逃げの一手に切り替えてデュランは光の刃から離れるように足場を変える。


 誰もがその光景を見て逃げることを優先にして逃げて行く中、ドラグーン王だけはその光景を見て、エドがしたことを理解すると同時に、驚きの顔も露にしていたが、ただ一人この状況から動けない人がいた。


 それは――


「ええええええっっっ!? なになにあれっっ!? なんであんな光線めいたものがこっちに来ているのっっ!? というか俺はどうやって逃げればいいのでしょうかっ! この状態アナコンダが俺のことを呑み込むような非常事態ですがっ!? 俺絶賛巻き付かれている状態ですが、どういたしましょうっ!? ねぇどういたしまってそんなことを言っている間にももう目と鼻の先ぃいいいいいいいいいいっっっっ!?」

 

 そう、ショーマである。


 ショーマは彼が言った通りの状態で、まさにそのままつるりと『残り香』の口の中に入って行く最中であったが、エドが放った光の剣の薙ぎのおかげで『呑み込まれてジエンド』と言う窮地を脱したが、そのあとすぐに『光線らしきものによって斬られる (焼かれる?)エンド』に直面してしまい、慌てふためいてその状況から脱しようとするショーマ。


 だが、ショーマの言う通りそれはもう目と鼻の先――つまりはもう目の前に来ていたので、それを見た瞬間ショーマは踊りて固まっている『残り香』の隙をついて、一か八かの賭けで体をくねらせて、そのままするりとその場から脱すると同時に、光の刃が来る前に誰も血をつけることができない場所――上空に向けて跳ぶ。


 瞬間――


 ――ずばぁっっっっ!


 と、ショーマの背から聞こえた斬撃音と、斬られた瞬間に小さな叫びを上げる幾もの『残り香』の断末魔。


 それはすぐに聞こえなくなりそれと同時にショーマの視界の端に入ってきたのは――黒い煤の様なもの。だがそれを見る前に、ショーマは飛び降りるようなことをしてしまったのでそれを見ることもなくショーマは叫びを上げながら地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


 ハンナがその光景を見て彼の名を呼ぶと、それと同時にシリウスが驚いたような声を上げて『残り香』の方を指さす。


 その声をハンナ達はシリウスが指を指した方向を見た瞬間、ハンナやアキ達は驚きで目を丸くした。それは逃げ切ったキョウヤ達にも見えており、ヘルナイトも、ドラグーン王もそれを見て目を見開いてその光景を目に焼きつけた。


 その光景とは――エドの攻撃によってほとんどの『残り香』の首達が消滅をした。そしてその中央にある物にも傷をつけ、卵を半分割ったかのような形をしていたが、その中央にあった――ヘルナイトが突き刺したその中央には、()()()あった。


 何か、と言っても、それを見た瞬間誰もが思ったであろう。誰もが察したであろう。


 その中央の殻に守られながら、その中からいくつもの糸を粘着性にさせて張り巡らせ、その中央にひっそりと佇んでいる赤黒くくすんでいる大きな大きな球。


 その玉からは小さな鼓動が聞こえる。


 どくん。どくんっ。


 まるで心臓のように動いているそれを見た瞬間、誰もが愕然とし、それと同時に思った。


 あれが――『残り香』の心臓だと。



 ◆     ◆



『残り香』の頭残数――三百四。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ