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PLAY88 反撃! そして……④

 ここからはエドによる、エドにしか理解できないエドの思考の世界に入り込む。


 彼があの時何を考えてあのようなことを言ったのか。それを解明するためにエドの思考の世界に入り込む。



 ◆     ◆



 エドはあの時言った。


()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 と。


 続けて彼は言った。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 と。


 その言葉を聞いた時点で、京平は何かに気付いたのだが、その心意に関してエドはまだ疑いのそれを持っていた。


 どころか疑いが大きいようなそれを感じていたが、もしこれが当たっていれば自分達のことを必死になって追う気持ちも分からなくもない。そう思ってしまったのだ。


 それと同時にそうではなく、もしかすると手当たり次第に倒そうとしているのではないかと言う選択肢も生まれてしまうのも事実なのだが、エドはその思考を速攻で消去した。


 それはあり得ない。


 というよりもそんなことしなくてもこれはおかしいと思ってしまったが故、エドはその思考を即刻で消去をした。


 それを考えながら、京平に回避を任せながらエドは思った。


 なぜあの四頭は自分達のことを追っているのか。


 そしてなぜ自分達のことを優先にして、浄化の力を持っているハンナやヘルナイトのことを狙えばいいのに、なぜか自分達に対して執着を持っているかのような追い方をして来ている『残り香』四体のことを見て……、彼は考察をした。


 なぜ彼らエド達のことを執拗に追っているのか。


 そのことに関してエドは追われながらも黙々と、虎視眈々(こしたんたん)とした面持ちで平静のそれを作り、自分達の背後で必死になって追い、怒涛とも云える様な攻撃を繰り出している『残り香』のことを見ながらエドは続けて思案をし、ふと思いついた仮説を思い出す。


 それは――自分の弱点属性とその属性に出会った時のことを思い出したのだ。


 その時エドはこのゲームを始めたばかりの存在で、その時はまだ自分のアバターのことをよく知らなかった。ステータスや自分の所属のことは知っていたが、応用としての自分のことをよく知らなかった。


 それを知るにはそれを体感しないとわからないことであるが、エドはその時自分が一体どんな種族で、どのようなことが苦手なのかをよく理解していなかった。ゆえに彼は初めてすぐ倒れてしまうような失態を貸してしまっていた。


 それこそ苦い記憶ではあるが、良い教訓にもなったことでもあり、その時エドが体験したこと、学んだことは簡単なことだった。


 それこそが――弱点。


 弱点と言うものは、ゲームの世界ではよく聞くことであり、それはきっと、前にも話したことがあるかもしれない。


 身近な人でそのことについて説明をすると……、こうなる。


 まず、ハンナ達と一緒に行動しているキョウヤは蜥蜴人の亜人で、彼は雷属性が無効。炎属性に耐性があり、氷属性が最もい苦手でそれを受けた瞬間大きなダメージを受けてしまうアバターである。


 そしてシェーラは人魚族とマーメイドソルジャーの魔人族であるが、彼女の場合はキョウヤとは異なり、氷属性無効、水属性を受けた瞬間回復をする体質であり、最も苦手な雷属性を受けてしまった瞬間大ダメージを負ってしまう体質のアバターである。


 悪魔族であるショーマとティズは闇属性の力に対しては回復の作用を備えているが、光属性や回復のスキルを受けてしまった瞬間、予想以上のダメージを負ってしまう。


 他にも色々と弱点思っている亜人と魔人がおり、当たり前な話をしてしまうかもしれないが……、各々得意な属性と苦手な属性を持っているが、その中でも最もダメージを追うような属性のことを弱点属性と言う。


 エドはその時巨人族の亜人が一体どのような種族なのかをあまり理解していなかった。それゆえに彼は自分の弱点属性――風の属性を受け続けてしまったせいで倒れてしまった恥ずかしい過去を持っている。


 ゆえにエドは自分のことについて色々と知り、そして現在に至っているのだが、それと同時にエドは理解する。


 ゲームをする人ならばすぐにわかることかもしれないが、エドは長い間ゲームとは無縁の世界にいたので、そのことに関しては全然理解すらしていなかった。


 これは遅まきながらの学習と言っても過言ではなかった。


 何が言いたいのか? それはこう言うことである。


 エドはこの時――自分にも弱点を持っているのであれば相手も同じ。そしてその相手に勝ちたいのであれが弱点の属性で攻撃をして戦闘を有利に進めることを、あまりにも理解していなかったのだ。


 ゆえにこれを知ったのは初めてから半年した後で、そのことを京平に告げた瞬間――大笑いされたことは別のお話。


 それを踏まえて、エドはなぜ自分達のことを必死になって追い、そして攻撃をしている『残り香』のことを見て、執拗に攻撃しているところを見て、微かに見える焦りのそれを見てエドは思った。


 相手は、自分達に攻撃する隙を与えないようにしている。と――


 それを見て、もし自分がその立場になり、執拗に相手のことを責めるその様子を見て、もしかするとと思いながら、エドはこのような仮説を立てた。




 もしかすると――自分達は相手にとって嫌なものを持っている可能性があり、それが最も苦手だから奴らは自分達のことを狙ったのではないか? 




 と――


 何故そう思ったのか。それは――京平と一緒に行動していた時、京平に何げなく戦闘の攻略について聞いたときのことを思い出したからだ。


 京平はこの時このようなことを言っていた。


「はぁ? んなもん簡単だろうが。シュミュレーションとか戦略系だったら俺苦手だけど、こう言った弱点属性あるとかレベル上げるだけのRPGは得意だからそんなこと考えたことねえよ。まぁお前の様なゲームしらしたことがない人種だったらわかんねえことも無理はねえけど、一応言うとすれば……、物語、そして勝つために必要なことその一! レベルを上げろ! これはもう必要事項で高ければ高いほど勝てねえ相手なんていねえべ! その二はそのレベルと同時に武器も最高ランクの物を買い、そしてステータスの補助をする! これも必須だべ! 三つ! アイテムは必須! 特に蘇生や回復は重要だべ! これ無かったら後で後悔するからそれは忘れるな! 蘇生があれば何でもできる! また戦うこともできるからな! 最後に四つ! 敵の弱点を突く! これはまぁ初心者でもわかることなんだけどなー。お前は全然わかってねえから教えてやるよ。エド――お前の弱点は風属性だろ? 俺はこう見えて氷と水属性が大の苦手だ。相手もそれは同じで、弱点を持っている且つその弱点の技を使う輩がいたら、誰であろうとそいつを倒せばこの先の戦い持久戦にもつれ込むし、それと同時に戦況も大きく傾く。有利にな。それを考えると、どっちも弱点属性攻撃を持っている人を倒せば安心なんだよ。どんな相手でも、どんな輩でも、その属性を持っている奴がいなくなれば、こっちのもんなんだからな。と言うことで、攻略の極意は四つ! 以上だべ!」


 そのことを思い出したエドは、京平から聞いた極意のことを思い出しつつ、執拗に追ってくる『残り香』四体のことを見て、エドは冷静に長考を開始する。


 長い長い兆候を……。


(京平が言っていたことを照らし合わせる……。きっと相手はそのことで執拗におれ達のことを追っているんだ。浄化の力を持っているヘルナイトは強すぎる。そしてハンナちゃんのことを狙ってもヘルナイトが難なく切りつけてしまう。その辺を踏まえて、相手から見て弱くて最も嫌なものを持っているおれ達に目をつけてこのような結果になっている)


(ということは……、おれは相手が嫌なものを所持している可能性が高い)


(まぁ――京平が持っているなんてことはないだろう。なにせ京平はだらしないせいでよくおれが管理しているからそれはない)


(なら……、相手はおれの何を毛嫌いしているのか……だな。問題は)


 そう思いながら (若干京平に対してひどい言葉を投げかけたような気がするが、そのことに対しては置いておくことにする) エドは自分が持っている所持品を改めて見直す。


 この場で、逃げているその場所で開くことはできないので、覚えている限りの所持品を脳内で再確認するエド。黙々と、京平の躱しに対して驚きのそれを見せ、そしてアトラクション並みの動きに翻弄されながら、エドは黙々と再確認をする。


(……えっと、今俺が持っている所持品は、おれの心臓ともいえるバングル。そして控えとして持っている『蘇生薬』と『回復薬』三本。あとは『煙玉』だ。これは回避用として持っている……。うん。アイテムの中でおれが追われている理由となるものはない。どころかおれの生命線。これだけは死守)

 

(あとは……)


 と思い、エドは次に目に映り込んだ己の武器を見つめながら彼は思う。


(おれが持っている武器は聖槍『ブリューナク』に、聖楯『アナスタシア』……。京平は)


 と思った瞬間、エドは今の今まで突っかかっていた疑問が一気に解消されたかのようなすっきりとした感覚を衝撃として受け止め、そしてその衝撃と共にどんどんっと穴だらけのパズルにぱちぱちと合わせていき、そしてなぜこうなっているのかという結果を導きだした。


 エドは確信した。そしてそれを本当の確信にするために、心の声でその証明を完全なる正解に導く。


 なに、簡単なことだ。本当に簡単すぎて……、なぜこのようなことに気付けなかったのかと思えるほど、エドは己の知識不足、そしてゲーム経験不足を呪うような簡単なことだったのだ。


 まず――『残り香』の特性上黒い靄で体を覆って敵の攻撃を受けることなくそのままの状態を維持していた。いうなれば無敵の靄の鎧を身に着けていた。纏っていたと言っても過言ではない。


 その靄はエド達の攻撃でさえも通さなかった。そしてエド達は何度も死んだ。何度も何度も攻撃を繰り出したとしても、相手はただ面倒くさそうにあしらう程度の攻防でエド達の攻撃を払い、そして殺す。それの繰り返し。本当に――繰り返しだった。


 その攻防の中でエドは思った。


 自分達はさほど相手にされていない存在。ゴミかすと同じ存在なんだ。


 そう思っていた。


 だが――その状況を、相手の優勢を劣勢に切り替えた出来事のせいで、エド達のその基準が大きく変わってしまったのだ。


 靄の中にいれば効かないそれも、靄が無くなってしまえば効くものに――殺せる刃になってしまう。そう思った『残り香』は自分たちの弱点を知っているからこそその弱点を持っているものを殺そうと躍起になったのだ。


 靄を斬るヘルナイトと、靄を消す力を持っているハンナを殺して、もう一度靄を生成しようとし、そしてエド達を唯のゴミから脅威にランクを上げて襲い掛かってきたのだ。


 それが指す理由――それは……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。である。


 しかし、これを見て、聞いて誰もが第一声こう言うであろう。


『だから――なに?』と。


 確かに、エドが持っている武器と防具で相手があそこまで必死になってエドと京平の後を追うということ自体おかしい話かもしれない。もっと別の理由があるかもしれないのに、なぜエドはそう思ってしまったのか……、理解できない。


 と言う人がいるであろう。


 しかし、その理由にもしっかりとした明白なものがあるのだ。


 まず――エドはあの靄がハンナの詠唱『大天使の息吹』によって空気に溶けてなくなっていく光景を己の目で見て、そして記憶をした。そこまではいい。そこまではいいのだが……、問題はそこではない。

 

 誰もがその光景を見て『浄化に成功できた』や、『丸裸になった』と喜ぶかもしれない。エドもその時は思っていたが、今そのことを思い出すと、その浄化にもしっかりとした法則があったのだ。


 簡単なことだ。靄は邪悪なもので――『大天使の息吹』は聖なるもの。


 悪と聖。対になる存在にして相容れないであろう存在同士。


 その光景はまるで――魔法スキルの『闇』と『光』の存在と同じ。


 そう――同じなのだ。


 同じと言うことは……、『大天使の浄化』は『光』属性のもので、靄は『闇』属性の力と言うことになる。


 ヘルナイトがあの靄を斬った属性が一体何なのかはわからないが、それでも『大天使の息吹』の力と靄が合わさり、そして魔法スキルの弱点関係と同じ関係であるのならば――説明がつくのだ。


 本当に何が言いたいのかって? 


 それでは――長い長い照明の作業も大詰めであるので、ここで明かそう。


 確かに、属性にはそれぞれ弱点と言うものがあるが、光と闇はそれぞれが嫌いな属性同士であることが今回の鍵だったのだ。


 つまり……、火属性は水属性が苦手である。という概念があるのだが、光と闇はそれぞれが苦手で得意と言うそれがない希有な属性なのだ。光は闇が。闇は光の力が苦手と思ってほしい。


 そしてこれは――ハンナが出した浄化にも大きく関係しており、浄化をした後、黒い靄は空気に溶けてなくなるが、それと同時に『大天使の息吹』も空気に溶けてなくなるだろう。


 あれはそれぞれの力を使って相殺されており、そのまま打ち消すこともできずに消えてなくなっているだけなのだ。


 所詮は光と闇の属性同士、相容れない相性なのだ。


 そう、相容れないからこそ、『闇』の力を持っている『残り香』はエド達のことを追って倒そうとしていたのだ。




 エドが持っているこの世界で三つしかない(シャイニガル・)武器(ウェポン)の内の二つ――『聖槍ブリューナク』と、『聖楯アナスタシア』をエドごと壊すために、『残り香』は追っていたのだ!




 それを知ると同時に、エドは京平に向かって最初に聞いたのだ。なぜ自分たちを追うのかと。それを疑問として、証明できたそれに答え合わせをするように問いかけていく。


 最初こそ、京平は首を傾げながらエドのことを見上げて首を傾げていたが、エドが少しずつ、本当に少しずつ言葉を発していくと、まるでヒントがこぼれていたかのような衝撃と脳の刺激を感じ、京平はすぐに気付いた。


 気付くと同時にエドのことを見上げて、次々と零れるヒントを拾いながら京平はエドの言葉に耳を傾けていた……その時。




『おぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉがああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっっっっッッッ!!』




 背後から聞こえてきた『残り香』の激昂。


 その声を聴くと同時にエド達はすぐさま背後を振り向くと、もうすでに事態は急変していた。


 今の今までばらばらに攻撃していたその行動をやめ、四体一緒になって大きな口を開けて、その口から出ている水、氷、泥、岩を出しながら発射する時を待っている。

 

 それを見た京平は旋回をしようと動いたが、その時――否、その前に『残り香』はエド達に向けて四つの魔祖を纏ったその咆哮をエド達に向けて放った!


 塵一つ残さない勢いの咆哮。三つの魔祖と特殊な魔祖がが入り混じった攻撃。


 その攻撃を見ても、京平は何とかして避けようと専念をして飛んでいたが、エドだけは違った。


 一瞬……、本当に一瞬だけ、死を悟った。


 その衝撃波を見た瞬間。脳裏に川のようなものが見えたような気がしたが、それを考える暇もなく、エドはそのまま…………。


 死を覚悟した。



 ◆     ◆



 だが、そんなことで神は彼の死を受け入れるということはなかった。


 どころか転機をくれた。いいや――その光景を見ていた存在が、エド達に転機を与えたのだ。


「――エドォッ! キョーベェッッ! よけろぉーっっ! マナイグニッション――『氷壁(ブリザード・)瀑布槍(スパイランス)』ッ!」


 突如として聞こえた真下からの声。その声を聞いたエドははっと息を呑んで下を見ようとしたが、それをする前に京平はあらんかぎりにその場所から避けるように――『残り香』から避けるように大きく旋回をする。


 その光景を見て『残り香』は下から聞こえた声を無視し、今はエド達を一刻も早く殺そうと奮起をしながらちょこまかと蠅のように飛んで逃げている京平達のことを目で追い、そして体を使って追おうとした。


 が――


「――!?」


『残り香』四体はそれを行う前に、首元に来た何かの違和感を感じた。どんな違和感? と聞かれたとしても、すぐに答えられない様な違和感を感じたのだ。


 感触で言うのであれば……、首のところどころに――()()()()が当たっているような、そんな感触と言えばいいのだろう。


 それを一瞬感じた――次の瞬間!






 ――どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どすっ! どしゅぅっっっ!!






 と、ハンナ達からしてみれば上空から聞こえた無数の突き刺す音。その音はよく聞くキョウヤやシェーラがよく突きの攻撃をするそれと比べると、キョウヤ達の音の方が優しく聞こえてしまいそうな慈悲の無い攻撃音。


 そんな無慈悲の音を聞いていたヘルナイト達は驚きの顔を浮かべ、そんな彼らのことを奇襲せず、その音が発せられると同時に動きを止めてしまった『残り香』達。


 更にはその音を聞いてグワァーダの背に乗っていたドラグーン王は驚きの顔を浮かべ、そしてすぐにハンナ達が乗っているナヴィがいるその場所に視線を向けると……、王は小さな声で呟く。


 前にもあったかのような音色と、やれやれと言わんばかりの疲れがあるような溜息を吐きながら、ドラグーン王は言った。


「なんと……、イグニッションクラスでもあそこまで大きなものは放てん……。その点を考えれば、流石――と言えばいいのか? それとも、序の口なのか……?」


 その言葉が言い終わると同時に……。




『があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッっっっッッッッ!!』




 上空から聞こえくる『残り香』の絶叫。


 その声を聞いた瞬間、誰もが思ったのだ。


 まるで――断末魔だと。死ぬ瞬間に聞くような声だと、この場所で戦っている誰もが思った。しかし、そう思わなかった人物が何人かいたのも事実で、その声を聞きながら、ナヴィの背から真上の上空に向けて白い瘴輝石を力を込めるように握りしめながら見上げているシリウスは、安堵とニヒルが合わさったかのような笑みと荒い息を繰り返していると――


「あぶなーい……っ! でも、エド達、ちゃんと逃げたならいいんだけどなー……!」


 俺にはこれしかみんなのサポートはできないから。


 そう言いながらシリウスが言うと、その上空から――何か小さなものが落ちてきた。


「? なに……あれ」


 上空から落ちてきたものを見ていたハンナは、首を傾げながら何なのだろうと首を傾げていると、それはちょうどナヴィの真下からふって来ており、それを見上げたまま、ハンナやアキ、ツグミやリカはそれを見て、どんどん落ちていくその光景を目で追っていた。


 まるで林檎が落ちて来るその光景を目で追うかのような行動。


 その光景を見て、そしてどんどんっとその首が上から前を向くようになっていくと――


 ――()()()()。と……、ナヴィの白い体毛が覆われている翼の上に唐突に落ちた。


 その場所に黒い点を残して、それはナヴィの白い体毛を汚すが、その光景を見ていたハンナたちは、その黒い点を見て、そして再度上を見上げた瞬間、彼女達は目を見開いてその光景を目に焼き付ける。


 いいや――本当であれば焼き付けたくはないが、それでも嫌でも焼き付けてしまうのが人間と言うもの。


 焼き付けているその光景と同時に、ハンナ達も気付いたらしい。


 この黒い点の正体と、そして上で何が起きているのか。更に言うと――シリウスが一体何をしたのかを、察してしまった。


 そして、その行動をしていたドラグーン王も、内心流石だ……。と思いながらその光景を見て、そして再度ナヴィの背に乗って、未だに安堵とニヒルが合わさったかのような笑みを浮かべて、汗を流して荒い息を零しているシリウスのことを見て王は思った。


 ――たった一回の攻撃しかできないあの攻撃を、十一回に増やすとは……! 並大抵の聖霊族にはできん所業。否……、唯一できる存在から受け継いだとされる二代目の力がこれか……。


 ドラグーン王はそう思いながら、シリウスのことを見て続けてシリウスと言う存在を――畏怖した。


 唯一その力をとある存在から受け継ぎ、そしてその座を持つ異例の聖霊族のことを見て――


 ――これが王の力なのか。いや、まだ本領を発揮していないはずだが、この男が敵でないことに感謝をしなければいけない……。この国を作ったとされる一人、異例の魔王族であり聖霊族の王として君臨をしていた『慈愛の聖霊』――聖霊魔王族・ディーバの力を一部受け継いだ異例の聖霊族……、『聖霊王(フェアリード)』シリウスが、国の味方になってくれていることを!


 そう思いながら、王はシリウスが放ったであろうその場所を見上げ、その場所が一体どうなっているのかを知る由もないまま、ドラグーン王が見つめていたその頃……。


「おおおお………」

「ひええ」


 上空に逃げてその反撃のチャンスを伺っていたエドとシリウスは、今まさに目に前に広がっているその光景を見て驚きと絶句が混じった顔でその光景を見ていた。


 反撃をすることですら忘れてしまっているかのように、二人はその光景を見ながら言葉を失っていた。


 どころか……、あまりに光景に体が固まってしまったと言ったほうが正しいであろう。


 なにせ、エド達のことを追っていた『残り香』四体のうちの一体――その四体の中で唯一岩の攻撃をしていたその『残り香』は動こうとしていたその場所で止まり…………、否。止まっていない。動こうにも体中に突き刺さっている大きく太い氷柱の槍のせいで身動きが取れずにいたから、動こうにも動けずにいたのだ。


 突き刺さった個所から零れるそれと同時に、『残り香』の体を蝕む激痛と生命の危機。


 それを感じてはいても、岩の攻撃を繰り出していた『残り香』は動くことができずにいた。動いた瞬間に激痛が体を襲うのだから、動けることなど至難の業だ。そしてその光景を見て口を開けながら驚いていた残り三体の『残り香』は突き刺さってしまった岩の攻撃を繰り出す『残り香』のことを、ただただ見つめることしかできなかった。


 助けるという選択肢もあるかもしれないが、それでさえ忘れてしまうほど、その光景は恐ろしいものだったに違いない。


 言葉を話せない竜であれど、その光景を見てしまえば、もしかしたら自分が当たっていたかもしれない。殺されていたのかもしれないと恐怖を抱くであろう。ゆえに彼らは、その恐怖のせいで動けずにいたのだ。


「………あれは」

「ああ! さっき聞こえたべ! シリウスだ!」

「だよね。シリウス……、おれ達のために」

「だな! 後の三体は――」

「おれ達で!」


 しかし唖然とし、どんどんと岩の攻撃を繰り出していた『残り香』の体が黒くなるその光景を見ていた『残り香』三体をしり目に、エドと京平は互いの顔を見て頷き合いながら唖然としている『残り香』三体に向かって叫んだ。


 エドが――大きな声で叫んだ。


「おぉーいっっ! こんのくそ竜! くそ靄やろうっっ!」

『『『っ!』』』


 エドの長髪を聞いた『残り香』三体は、岩の攻撃を繰り出していた『残り香』が消えると同時に、驚きの顔を浮かべながらかぶりを振るうようにエド達がいるその場所に向けて顔を向けた。


 その顔を見ながら、エドは言った。


 京平に跨り、さながら馬に乗った剣士……、いいや、この場合は槍使いのようにと言っておこう。エドはその状態で槍と盾を構えながら、驚きに満ちている『残り香』三体に向かってエドは言った。


 挑発をしながら、エドは言ったのだ。



「そんなに仲間が死ぬのが悲しいか? お前達にもそんな心があったんだな? さんざんボロボ空中都市の住人を無下に殺しておいて、自分の立場になった瞬間に悲しむんだな? 身勝手どころか、我儘じゃないのか? こういうのは――フェアっていうんだ。そのフェアに従っただけ。結局――自業自得なんだよ。そいつが死ぬのも、お前達がこれから死ぬのも、自業自得が招いた因果応報だったんだよっ! そんなことで仲間の死を嘆くとか、今更感情を持つんじゃねえっ!」



『『『お……、お……! おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああああああぁぁぁぁっッッ!!』』』



 エドの言葉を理解しているのか、『残り香』三体はエドと京平のことを見て睨みを利かせ、犬の威嚇のように牙を剥き出しにし、エドのことを敵視する。


 否――恨むように睨みつける。


 その顔を見てエドははっと鼻で笑い――


「ほぉ? 殺るのか? なら受けて立つよ。ほら来いよ! お前達の攻撃――全部受け止めてやるっ! かかってこいっ!!」


 と言って、エドは槍と盾を構えながらその時が来るのを待つ。京平と一緒に、ゲーム時代の武器の性能を信じて、エドは挑発をする。


 その言葉を聞いた『残り香』三体はもう怒り心頭に達してしまったのか、先程と比べて大きく、威圧的な咆哮を開けながらエド達に向かって襲い掛かろうとぐあっと迫る。


 その光景を見てエドは槍と盾を構え、その下にいる京平も移動する体制を整えながらその時に備える。



 ◆     ◆



『残り香』の頭残数――八百三十六。

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