PLAY87 悪の一部⑥
現在――ナヴィはアキ、ツグミ、リカとシリウスを乗せた後、ハンナのことを己の背に乗せている。
竜特有の唸り声を上げ、ドラグーン王専属の竜グワァーダのことを見て、竜の言葉で何かを話しているナヴィとグワァーダ。
要約をすると――ナヴィは『僕が旋回をするから、後方支援は任せて!』と言い、その言葉に対して人間年齢で言うと老人という年頃のグワァーダは『ああ、その言葉に甘えよう。どれ――この老兵、もう少し暴れてみようかの……』と言って、二頭は今目の前で痛みで暴れて、こちらのことを見て殺意を向けている『残り香』のことを睨みつけていた。
手に持っている刀身をそっと下げ、そのまま『残り香』に視線を向けながら王は思った。
――とうとうここまできた。ここまで長い間――貴様には色々と世話になったな。色々と……、拙僧の国を壊してきたな。ここでその借りを返そう。この場で、貴様の骸に拙僧が持つ武器を以て打ち壊す!
――今の今まで、長い間拙僧の……、いいや、国の者達を苦しめ、いくつもの亡骸を作り、その亡骸の弔いをさせなかった……! のうのうとその場所で稲光を放った分、この手で…………。
というところで、ドラグーン王はつい先ほどまでふつふつと込み上げてきたその感情に驚きつつも、いつの間にか吹き上がっていたそれを一度鎮静化させるとドラグーン王はかぶりを振り……、己のことを未熟と罵りながら思った。
――だめだ……、拙僧はボロボを統べる王。今は一国の王として、国を恐怖に陥れているこの巨悪を何とかしなければならない。殺生は私情。私欲。
――その感情に流されてはいけん。感情に流されてしまった瞬間……、拙僧は制御できないだろう。そうなってしまえばボロボは、いいや――
アズールは――音を立てて崩れ去る。
――それだけは、避けないといけないのだ。
そう思いながらドラグーン王は『残り香』の周りを旋回するように飛ぶフワフワの体毛で覆われたドラゴンの背にいるハンナ達のことを見つめながら、王は心の中で少なからずの謝罪を述べて続けてこう思う。
――今の現状の中、拙僧は何もできん。何もできんと言う歯がゆさも感じるが、こうするしかないのだ。
――一介の冒険者に国の存亡を託すようなこと。そしてアズールの命運を委ねる様なことは、本当ならばしたくない。
――しかし……、こうなってしまったのならば、拙僧はしなければいけない。
――国のために、貴殿達を利用することもやむを得ないと思っている……。それが本音と聞かれれば……、頷く以外の行動はしない。
――時に非道の選択をしなければならない。たとえ……、その者達のことを利用することになろうと、また数多の犠牲を生んだとしても、拙僧はこの国を守らないといけないのだ。
ドラグーン王は思う。幾年もの間行ってきた……、今までしてきた失敗や成功のことを思い出しながら、またこれからも長い長い失敗と成功を繰り返す。そしてその選択に対して悔いを残さないことを誓いながらドラグーン王は思う。
彼は生きている間――いくつもの究極の選択をし、その選択のおかげで得たもの。そしてその選択の所為で無くなったもの。それを何度も何度も体験してきた。何度も、何度も……、心がすり減りそうなくらい、壊れそうなくらい彼はそれを選択してきた。
それは始祖王と言われている彼だからこそ体感できる。何千年物間王として勤めを全うしてきた彼の責務であり運命でもある枷。
始祖王だからこそ全うしないといけない王としての重責ともいえるが、それ以前に彼は王として死んではいけない責務もあり、そして国を守るために常に最善の選択をしないといけない存在でもある。
ゆえに今回も国のために最善の選択をした。
国のための、浄化の力を持っている少女と鬼士ヘルナイトの力。そしてその仲間達とボロボのことを守ってくれているエド達にも力を借り、長い間苦しめられた『残り香』の討伐を選択した。
が……、その選択のせいで、エド達は幾度となく死にかけた。
否――何度も死んだ。の方がいいだろう。事実上何度も死んだのだ。ハンナ達には話していないが、それでもエド達は何度も死んだ。もう何回という数えることも面倒なほど、彼等は『残り香』の手によって屠られた。
何度も何度も、神経がマヒしてしまいそうなほど、エド達は死んだ。しかしリカとシリウスだけは死んでいないので、厳密にはエド、京平、シロナと善が何度も何度も斃れた。
王には見えないがリカは何度も見た。彼等の死の宣告――『デス・カウンター』を。それを見ると同時に、リカは医療技術が発達しているボロボの力を借りつつ、自分のスキルを駆使して四人を何度も何度も生き返らせた。
それはもう――常人では神経は麻痺してしまいそうなほど……。
そのことを考えると同時に、ドラグーン王は己が下した選択に対して後悔をした。否――いち日でも早く『残り香』を討伐したいと願っていた。強く……、強く……、心の奥底から願っていた。
ゆえにドラグーン王は今の今まで願っていた討伐を心待ちにしていたのだ。
己の我儘のために何度も死を体験したエド達のためにも、国ためにも――王は誓う。今この場で、『残り香』を倒すと。
そう思っていると、ハンナ、アキ、ツグミ、シリウスとリカを乗せたナヴィは、グワァーダから離れるようにばさりと大きな羽ばたき音を出して、そのまま少しだけ距離を詰めた状態で『残り香』の周りを旋回する。
旋回するその光景を見ながら、そっと立ち上がったシロナは口元に付着していた己の赤いそれを腕で拭うと、彼女はドラグーン王に向かってこう聞いた。
「で? どうするんだ? このままアタシが特攻してもいいし、もしくはいつも通りに無茶をしていくって手もありだけど?」
「いつも通りって……、あんたら一体どんな戦い方をしてんだ?」
「まぁ――無茶苦茶だね」
「はっきりと言うなはっきりと」
王に向ける言葉ではないガサツで言葉遣いが汚い言葉だが、彼女はこのあとどうするのかと言うことを聞くために王に向かって聞く。言葉の最後に口に残っていたのか、唾液交じりのそれを空中に向かって吐き捨てながら……。
その光景を見ていたむぃはどうか地上の人の頭に落ちないようにと願っていたが、それは無視しつつ……、コウガはシロナの言葉を聞いて呆れと悍ましさ、そして過酷であったことを言葉でなんとなく察しながら聞くと、それを聞いていたエドは乾いた笑みを浮かべてさらりとコウガの言葉に対して返答をしたのだ。
さらりと、周りに花が浮かぶような笑みで……、曖昧で隠した過激なものを……。
それを聞いたキョウヤも察したらしく、その言葉を聞きながら青ざめる顔をして突っ込みを入れると、そんな会話に対していい加減本題に入ってほしいような顔をしていたシェーラは、むすくれた顔をしつつ頬を膨らませながら――
「それで? どうするの?」
と言いながら、彼女は真っ直ぐな目つきでキョウヤ達のことを見つつ、びしりと右手をとある方向に――『残り香』にその指先を向ける。何かに足して指を指し、そしてそのことに対して強く追及をするように彼女は聞いた。
冷静な音色の中に潜む怒りの牙を向けながら――シェーラは聞いた。
「あれに対して、どうやって、攻撃を入れるの? 考えているんでしょう?」
早くしなさい。
と、彼女はどす黒い音色でドラグーン王を含めた一同に向かって、射殺さんばかりの目つきで睨んで聞く。
その声を漫画の吹き出しのように表すのであれば……、黒く塗りつぶされ、その周りを筆の様なもので囲ったかのような吹き出しで、彼女は聞いたのだ。今にも呪いそうな文字で……。
シェーラの鬼の様なその言葉と顔を見て、聞いていたエドは驚きの顔を向けて肩を震わせていたが、そんなシェーラの気持ちは何度も聞いているので、キョウヤと虎次郎は平然とした面持ちで彼女のことを宥めるようにこう言った。
「いやそこまで怒るなって。ちゃんと考えているからさ」
「そうじゃぞしぇーら。何事も焦りは禁物。その焦り一つで何もかもが崩れることもある。ここは焦りなどせず、じっくりと相手を見て策を考えるのじゃ。相手を殺すための秘策をな」
「………キョウヤの言葉に対しては分かったとしか言えないけど……、師匠の言葉を聞いても、師匠本当に考えているのか疑問しか湧き上がらないわ」
「なぬ?」
キョウヤと虎次郎の言葉を聞いていたシェーラも、流石に焦りすぎたのかと思ったのか、さっきまで湧き上がっていたその怒りと焦りを一旦鎮静化し、キョウヤ達に対して謝りを入れる (虎次郎に対しては疑念だが)と、その落ち着きを見て再度『残り香』のことを見る王。
『残り香』は現在、シリウスが放った技――『水竜舞踏』の攻撃により負傷をしてしまい、その負傷に対してまるで怪我をした子供のように大泣き……、否。大声で叫びながら暴れている。
今の今まで攻撃も受けない鎧を纏っていたのか、『残り香』は初めて受ける攻撃に激痛を訴えるように暴れ、辺りにある雲を尻尾で裂き、そして絶叫と言わんばかりの咆哮を上げながら荒れる姿をさらしていた。
――あの一撃だけであの雄たけび……。まるで子供だな。
今の今まで恐怖した。畏怖した存在がこんなちっぽけなものだったと思いつつ、こんなちっぽけなものに対して国は臆していたことに対して呆れを感じながらも、王は思った。
――さて、こんなちっぽけな存在に対し、一体どのような攻撃手段をとればいいのか……。
と。
「だが、ここで冷静に考えたとしても、どうやってあの状況から攻撃をすればいいんだ? 我らは近距離に特化したものか、中距離に特化したものしかいないぞ。今のまま攻撃をすることは、馬鹿のするようなことだ」
デュランは言う。今まさに自分達の視線の先で、千もの首をぐるんっ! ぐるんっ! と、ばらばらに暴れ動かし、そして尻尾を四方八方に急かしなく振り回している『残り香』のことを見て、彼はどのように攻撃をすればいいのかと思案をした。
そう。デュランの言う通り――このまま真正面に向かって戦えればヘルナイト側としてもとても好都合なのだ。それは海で船と船が隣り合わせになって船員同士が戦うのと同じことなのだが、その方がヘルナイト達にしても戦いやすく、常に敵の上で戦うよりも疲れない方法なのだ。
が、それが今はできない。
理由はもうわかること、先程も話したが――今『残り香』は暴れている。
しかも人が乗れない状態で、足場があまりにも不安定過ぎる状況を作り上げている。まるで強風によって揺れる足場の如く、今の『残り香』に攻撃することは不可能なのだ。
もし攻撃に成功したとしても、足場があまりにも不安定過ぎているので――足を滑らせる可能性もあれば……、振られた首か尻尾によって……。
その辺を踏まえて、彼らは試案をする。暴れ狂っている『残り香』に向けてどのように攻撃をすればいいのか。そのことを思案しようとした瞬間――
「え? 横が駄目なら上からとか、下から攻撃をすればいいじゃないっすか」
当然のように言葉を発したのは――今まで言葉を発さずにその光景をじっと見ていたショーマだった。
ショーマの言葉はあまりにも唐突で、そして話を聞いていなかったのかと言わんばかりの言葉であったが故、それを聞いていたコウガはショーマの首根っこを掴み上げ、そのまま持ち上げると、彼はショーマのことを見降ろして、低い音色で「おいお前……、話聞いていなかったのか? それができれば苦労なんてしねえんだよ……っ!」と言う。
そんなコウガのことを見て女のような叫び声を上げながら恐怖に染まっているショーマのことを助けようと、善が「ん! んん!」と言いながら止めようとしているが……、無駄な足掻きとはこのことだろう。コウガはそんな善のことを無視しながらショーマのことを睨みつけてなおもドスの利いた尋問を続けている。
だが、そんなショーマの言葉を聞いていたドラグーン王は、すぐに『残り香』のことを見つつ、その周りを見渡しながら注意深くその周りを見る。
左右に揺れている竜の首。そして下にある尻尾の乱撃。その光景を見つつ、そして最も攻撃の回数が少ない箇所を見つめた後――ドラグーン王はみんなのことを見て、ヘルナイトたちに向けて声を掛ける。
王としての威厳を持った音色で言うと、それを聞いたヘルナイト達ははっと息を殺し、ドラグーン王のことを見ながら緊張した面持ちで見つめると、ドラグーン王はヘルナイト達に向かってはっきりとしたそれで断言する。
これからすることに、拒否権も変更もないような音色で王は言う。
「今から『残り香』の上空に回る。拙僧が合図を出したらすぐに飛び降りろ」
いいな?
それだけ言うと、ドラグーン王は自分達のことを運んでいるグワァーダに向けて命令をするように、二回ほど右足を使ってとんとんっとグワァーダの硬い鱗で覆われた背を叩く。
するとその合図を感じ、鱗から伝わる振動を察知したグワァーダは、『ごぉおっ』と唸ると同時に、大きな翼を羽ばたかせて、そのまま大きく、大きく旋回し、そしてどんどんと上昇をしていく。
その上昇と同時に起きる風を受けながら、コウガは「はぁぁぁっっ!?」という素っ頓狂な声を上げ、縛った黒髪を振り乱しながら彼はドラグーン王に向かって怒鳴りつける。
「――ざっけてんじゃねえっ! なに勝手に行動してんだよっ! こういう時こそあんたが冷静に判断しねーといけねえんじゃねえのかっ!? なんで攻撃もできねーような暴れ方をしている奴に向かって下りなきゃ毛ねえんだよっ! 少しは考えろくそ王っ!」
「………………………」
「無視か……! うぜぇ野郎だな……っ!」
「おいおいおいおいおいお! それ以上の過度な失言はやめろっ!」
「それ以上は切腹もんだべっ!」
「うるせぇ! 俺は正論を言っているだけだっ!」
キョウヤと京平の言う通り、コウガは若干王に対して失礼な言い方をしているかもしれないが、それでもコウガは自分にとっても、相手から考えても正論の様なことを追うに向かって言っていた。
今暴れて攻撃どころか返り討ちに遭ってしまいそうな状況の『残り香』相手に、王は攻撃をしてくれと。飛び移れと言ったのだ。それはまさに死を連想させるような無理難題の命令。
つまり――王の命令に従い、その命に従い死ね。
そうコウガは思ったのだろう。
コウガの暴走を止めるためにキョウヤはアキにするような羽交い絞めをして止めていたが、それを聞いていたデュランもコウガの言葉に対して賛同するようにドラグーン王に向かって神妙で慎重な音色で言った。
「王よ。この者の無礼に対して深くお詫びを申し上げます。しかし我自身もこの者の言葉には同意です。あの中に飛び移ることは至難の業だと思います。我であろうと、ヘルナイトであろうと、あの中に入って攻撃はできるでしょうが、不意を突かれて攻撃をされる可能性もあるやもしれません。そうなってしまえば……」
デュランは言う。遠巻きながら、コウガが言っていることは至極当然であり、今していることはまさに賭けに近いと。それの言葉を聞きながら、ヘルナイトは思い出す。
『残り香』と相対する前、デュランはハンナと自分に向かってこう言っていた。
結局――努力をしたところで、貴様達と言う経験の差と天性の力には敵わないのかもしれない。
その言葉を聞いていたヘルナイトは、その時デュランのことを見ながらこんなことを思っていた。
――なぜ、お前らしくもないような弱音を吐くんだ? いつものお前は日頃から己に対して厳しく、そして相手にも厳しく接するストイックなそれを持っていた。
――そして、何事にも動じない信念もあった。心があった。
――だが、なぜ貴様の様な鬼士が、そのようなことを言うんだ? なぜ、敵わないと決めつけるんだ。殺気の言葉もそうだ。
――お前らしくない。
そんなことを思いながらヘルナイトはデュランの様子がおかしいことを察知していたが、その理由に関しては何も理解できていなかった。
否――その根本的な理由を認識していなかったのほうがいいだろう。
デュランがこうなってしまった理由。それは十中八九……ヘルナイトのせいなのだが、それに気付いていないヘルナイトは、なぜデュランがこうなってしまったのかと思いながらその光景をただじっと見ていた。が……、そんな思考も王の一言により、一旦頭の片隅に追いやってしまうことになる。
王はヘルナイト達に向かって言った。
「確かに、貴殿達の言い分も正しい。しかし生きとし生けるものには常に死角と言うものがあり、隙と言うものがある。拙僧にもあり、貴殿たちにもあり、そして――生きている『残り香』にも、大きな隙がある」
「隙……とな?」
「スキ?」
「ショーマさん、こんなところでボケないでください。引っ掻きますよ?」
「猫の爪はやめてっ!?」
王の言葉に対し、首を傾げる虎次郎の言葉とは裏腹に、言葉違いをしたショーマは頬を赤く染めながらその単語を繰り返し言ったのだが、むぃはそんなショーマの返答に対し真顔になりながら猫の爪をにゅっ。と出すと、それを見たショーマは顔面蒼白にさせて首をぶんぶんっと高速で横に振るう。
そんなショーマの言葉を無視しながら王は続けてこう言った。すっと透明な剣先を『残り香』に向けながら、王は言ったのだ。
「ああ。大きな隙――というよりも、あの頭の乱撃を見てみよ。横側は激しい乱撃の嵐で近寄れない。舌も尻尾の攻撃で近づけないのが目に見えるであろう」
「ん」
王の言葉に対して善は頷きながらこくりと首を動かすと、王は続けて言う。すっ――と、『残り香』から上もとい頭上に剣先で指さす位置を変えながら、王は言ったのだ。
「しかし……あの頭上だけは比較的穴がある。しかも……何回も無防備になることが多々あった」
『!』
王の言葉を聞いた瞬間、誰もが驚きの顔をして、即座にその視線を『残り香』の頭上に向ける。その頭上に攻撃があるかどうかを見るために、ヘルナイトとデュラン以外の冒険者達は目を凝らしながらその光景を見つめた。
すると――
「あ。確かに……」
「マジであの場所だけ攻撃がおろそかじゃねえか……」
シェーラとコウガがその光景を見ながら唖然とした顔で見つめると、その先で『残り香』は確かに横にはものすごい攻撃の連撃を繰り出して暴れている。下も尻尾の攻撃の乱舞が繰り広げられている中――上空の方だけはなぜか疎かな乱撃……、いいや。この場合は一定のリズムの休みがある様な攻撃ではなく、不定期に休みがある様な攻撃の仕方をしていた。の方がいいだろう。
音で表すのであれば――横は『ブンブンブンブンブンッッ!』という音が出ているにも関わらず、上だけは『ブン! ………………。ブンブンッ! ………………。ブンッ!』というような感じと思ってほしい。
つまり――『残り香』の上空は無防備になることが多々あるということ。
王はそれを見て上からの攻撃……、奇襲をしようと考えたのだ。
「おぉぉぉ! マジっすかぁ! 珍しく俺の意見が通ったんですかぁっ!?」
「すげーじゃんがきんちょ! あんたのこと評価が『おこちゃま』だと思っていたけど、今日から『クソガキ』に昇格なっ!」
「ありがとうございますっ! 全然嬉しくねえけどっ!」
そのことを知ったショーマは満面の喜びを顔に出しながら嬉しそうに言うと、それを聞いていたシロナが手に持っている『回復薬』を飲み干した後、瓶を持ったまま勝気な笑みでショーマに向かって言うと、それを聞いたショーマは嬉しく、そして複雑そうな言葉を返す。
内心……、『おこちゃま』と『クソガキ』の差ってさほどないんじゃないか? と思いながら……。
「と言うことは……、あのまま無防備の瞬間に私達が落ちて、奇襲を仕掛けるってことでいいのよね? あの『残り香』を魔物のように倒すように、コテンパンに」
「ああ。それでいい――そのあとの足場のサポートは拙僧とグワァーダに任せてくれ。ここまで手伝ってくれたのだ。そして貴殿達が戦っているのに、拙僧だけはただ傍観するなど、あまりにもひどい話ではないか。できるだけ助力をさせてくれ」
「結局、俺達がかなーり無茶をする結果になると思うんだけどな……、面倒くせぇ」
シェーラの言葉に王は頷く。そしてその後のサポートもするという断言もすると、それを聞いていたコウガは溜息を吐きながら頭をがりがりと掻いて舌打ちを零す。
そんなコウガの言葉に対し王は困ったように蜥蜴の顔で微笑みながら「すまないな」と謝りの言葉をかけるが、コウガはそんな言葉を一周するように「気にすんな。いつものことだ」と言って、コウガは忍刀をすらりと引き抜き、そして構えを取る。
奇襲と同時に、『残り香』の頭部にその忍刀を深く突き刺すイメージを固めながら……。
「ああ。かなり面倒かもしれんが、この方が手っ取り早く、そして――」
と言い、ドラグーン王はその言葉を述べると同時にちらりと目だけで下を向くと、王は続けてはっきりとした音色で言う。
今まさに――暴れ狂っている『残り香』の頭上を見降ろしながら……、いくつもの首が蛇の様にうねり、その中央に心音を立てて光ったり消えたりを繰り返している赤い何かを守るように絡まっているその光景を見降ろしながら……、王は言った。
「これだけ大きい的がいくつもあるのだ。持久戦になるやもしれん。だが奇襲が成功できればそれも早く終わる!」
そう言ったと同時に、王以外のヘルナイト達はグワァーダ越しに『残り香』のことを見降ろし、各々得物を構えながらその時をじっと待つ。
しかし、エドだけはワイバーンになっている京平の背に跨り、『聖槍ブリューナク』と『聖楯アナスタシア』を装備すると、京平はエドを乗せたままばさりと、グワァーダから離れて飛行を開始する。
その光景を見つつ、そしてナヴィの旋回を横目で見つつ、暴れて痛みの咆哮を上げている『残り香』の攻撃を見て、そしてその時が来る瞬間を見逃さないように、王はじっと『残り香』のことを見降ろす。
そして……。
ブンッ! ブンッ! と振ってたそれが一瞬止んだ時、王は叫んだ!
「――今だっっ!」
その掛け声と同時に、ヘルナイトを先頭にキョウヤ達、そしてショーマ達、善とシロナがグワァーダから飛び降り、そして急加速で『残り香』に向かって落ちると、ヘルナイトは最初の攻撃と言わんばかりに大剣の柄を両手でしっかりと持ち、そして地面を深く突き刺すような体制になりながら落ちて、そのまま――
ドズゥッッッ! と、ヘルナイトは突き刺す!
『残り香』の赤い光が零れているその箇所を、深く、深く――
その突き刺しと同時に生じる衝撃の風。そしてブーメランの形に曲がる『残り香』の体に、線の首の口から零れだす黒い液体。
これが――ハンナ達が見たその時の状況であり、この状況を機に今まで後手に回っていた後手と言うよりもな術もなくやられていた立場から逆転し、一気に攻撃する方に回った瞬間でもあった。
ヘルナイトの攻撃を機に、攻撃をする手段を持っている者達は一部を除き……、一気に奇襲を成功させていった。
キョウヤは一つの竜の額に槍を突き刺し。
シェーラは二本の剣を使って竜の首に深い傷を作り。
虎次郎は刀の居合抜きを駆使して竜の首を刎ね。
コウガはいつの間にか背中に引っ付いてきたむぃと一緒に忍刀を使って浅くも先手を勝ち取り。
善は持っていたレイピアで突きの連撃を繰り出し。
シロナは虎の拳による打撃を骨がへし折れるほどの威力を打ち付け。
デュランは五つの首を音もなく狩り。
ショーマはそのまま切ろうとしたが『スカッ』と空振りとなり、そのまま叫びを上げて竜の首にしがみつく。
エドと京平はそのまま旋回をしつつ、攻撃の機会を伺いながらその光景を見つめ、ハンナ達もサポートをするために旋回をしながら状況を見る。
ドラグーン王も旋回をして絶対に倒す。その意志を固め、透明の刀身を持ったまま構える。
これから始まるであろう反撃に備えて。そして……。
『おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッっっっっッッッ!!』
『残り香』の叫びを合図に――開始する。
アズールの者達と冒険者の反撃が――




