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PLAY87 悪の一部⑤



「――『大天使の息吹』!」



 その言葉を放った瞬間、私は肺に溜め込んだ息を全て吐き捨てるように絡めていたその手を受け皿のように形を作り、ふぅっと息を吹きかける。


 黒い靄が細切れになり、ところどころ素肌を晒したぐるぐると絡まった竜の姿を見せている『残り香』に向けて私は息を吹きかける。


 自分が持っている――『終焉の瘴気』を浄化するための力を長く、長く吹きかける。


 白くて微かにキラキラしている息を『残り香』に向けて。


 吹きかけると同時に吐息がどんどんと形を変えていき、白い息が慈悲深い聖女と言うのか、天使の女性になってその息吹は『残り香』に向かって飛んで行く。


 その息吹とすれ違うように、ヘルナイトさんを乗せたナヴィちゃんは素早くその場から離れて、私達がいるグワァーダのところに戻ってくる。


 その光景を見てか、リカちゃんが「戻ってきた!」と言いながらシロナさんの手袋を嵌めていたその手に、茶色い小さなツボに入れた緑色の軟膏のようなものを塗りながら言うと、その声の後すぐにナヴィちゃんはグワァーダの近くに寄る。


 まるで船と船が並列して止まるように、並列して寄ると、ナヴィちゃんの背に乗っていたヘルナイトさんがそのまま乗り換えをするようにふわっと跳び、そのままグワァーダの背に乗り移った瞬間……。


 ぼんっ! と白い煙を発生させたナヴィちゃんは、そのまますぐに白い煙の中からぴょんっと飛び出て、そのまま私の胸にダイブしてきた。


「きゃぁ~!」


 と、満面の笑みで喜びながら私の胸にダイブしてきたナヴィちゃんを両手でしっかりと支えて、そして「わっ」という声を出しながら私はナヴィちゃんを器用に抱えると、私は今まさに自慢げに鼻をふかしているナヴィちゃんの頭を撫でながら……。


「よく頑張ったね。ありがとう」


 とお礼を述べた。


 その言葉を聞いてか、ナヴィちゃんは嬉しそうな顔をして私の胸の中で「きゅきゅきゃぁ~!」と喜びの声を上げて嬉しそうにする。


 ナヴィちゃんのその顔を見ながら、私は再度頭を撫でながら控えめに微笑む。労いと可愛いという双方の感情を天秤にかけ、その天秤が同じ重さになるように撫でながら……。


「あのもふもふ……、立場を利用して好き放題かよ……羨ましいべ……」

「………………ん」

「『おい蜥蜴鳥。お前大概にしろ』って善が言っているぞ」

「京平。その助兵衛治せないの?」

「――しゃーねーべっ! 俺達のチームにはそんな奴らいねーしっ!」

「あぁっ!? なんか言ったかこのやろぉおおおっっ!」

「京平ひどぉい! 私のことをそんな目で見ていたんだっ! なんかすごく嫌な気持ち~!」


 なんだろう……。エドさん達の声が聞こえる気がするけど……、気のせい……。だよね。きっと。うん。


 そう思いながら私はナヴィちゃんの頭を撫でていると……、突然コウガさんが声を上げて私達やみんなのことを呼んだ。


「――おい! あれ見ろっ!」

『?』


 コウガさんの言葉を聞いた私やアキにぃ達、そしてしょーちゃん達にエドさん達がコウガさんが指を指した方向――『残り香』がいるその場所に視線を向けると、私は何度も見るその光景に驚くを顔に出しながら、じっとその時が来るのをじっと、ナヴィちゃんを抱きながら見続けた。


 黒い靄が細切れになり、ところどころ肌が見えてしまっているその姿になってしまった『残り香』は、どんどん自分の周りを飛んで回る『大天使の息吹』に向かって攻撃を仕掛けていた。


 一つ一つの首の口から吐き出される黒い炎。黒い水。黒い稲妻に黒い蔦。黒い砂嵐などなどが『大天使の息吹』の大天使に向かって振り下ろされるけど、そもそも『大天使の息吹』は元は息。つまりは雲のように掴めない存在。


 だからなのか、『大天使の息吹』はその攻撃を受けながらも体の一部をブワリと雲が離れる様な姿になったりはした。けどすぐに元に戻ってそのまま『残り香』に巻き付くようにどんどん回っていく。


 ぐるんっ。ぐるんっと――いくつもの白い光の線を回して、巻き付けるように作りながら……。




『おぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッッっっっっッッッ!!』




『残り香』はその行動を見つつ、どんどん自分のことを縛るように巻き付いて行くその光景を見ながら、何とかその場所から逃れようと動こうとしたけど、雲で出来ているような姿なのに、『残り香』はそれに触れることもできず、ちょっと触れただけでその箇所から『じゅっ!』という焦げるような音が放たれる。


 その音と共に『残り香』は激痛が走ったかのような声を上げて天に向かってその首を上げると――その光景を見てか、もしくはそうするつもりだったのか……、『大天使の息吹』は上に向かって飛び、そして『残り香』頭上に回り込む。


 そのまま――顔と顔が至近距離で、息がかかるのではないかと言うほど、『大天使の息吹』は『残り香』に顔を近付け……、千ほどある頭のうちの一つの頭を両の手でそっと包み込むと、『大天使の息吹』はそのまま『残り香』に向けて――


 ふぅ。


 と、優しく息を吹きかける。


 そしてその息が――白くてキラキラしたものも含まれる吐息を掛けられ、その息が『残り香』の前進に行き渡ると同時に……、『残り香』の体が眩く光り出し、そのまま私達の視界を明るく照らす。


 それはもう目を塞がないとだめだと直感して、目を隠すほど『残り香』は光り出した。




『おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああがががあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッっっっっッッッ!!』




 けたたましく激痛の咆哮を上げる『残り香』。眩しさのせいでよく見えないけど、なんだか暴れているようにも見える。その光景を見ていた私は思った。


 あの時……、『八神』のサラマンダーさんやライジンさん、リヴァさんにガーディアンさんを浄化した時と同じだと。


 そう……。私が思った通り、『残り香』に纏わりついていたその瘴気が『大天使の息吹』の力によってどんどん浄化されているのだ。


 黒い靄は灰となり、塵と化して、どんどんと空気を同化して消えていく。


 そんなことが起きている中でも、『残り香』の叫びはどんどんと大きくなり、そして切羽詰まったかのような断末魔のようになっていく。この世の終わりを悟ってしまったかのような断末魔の叫びを上げて、『残り香』は暴れる。


 暴れて……、抗う。




『おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああああああああがががあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああッッっっっっッッッ!!』

 



『があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッっっっッッッッ!!』




「………………っ!」

「うるせ……っ!」

「っ!」

「にゃあああああああっっ!?」


 轟くような『残り香』の叫び。それはもう大音量で発せられる放送の音の様な響きで、かすかに『キィーンッ!』という音が聞こえてきたような気がしたけど……、それを気にする暇もなく、『残り香』の断末魔めいた叫びはなおも続き、私達の耳をダイレクトに攻撃をして戦意を少しずつ、本当に少しずつ削いでいく。


 でもそれは言葉のあやで、みんながみんなこの声を聞いて戦意を削がれているわけではない。どころか……みんな戦意が削がれていない状態で耐えていた。耳の攻撃を受けつつも、みんなはその怒号に耐えて、次の一手が来る前に避ける準備を、心の準備を整えているみたい。


 もしゃもしゃを見たらわかる。


 みんな――もう怖いとかそんなもしゃもしゃをなくして、戦って勝とうというもしゃもしゃで溢れている。


 もうみんなは大丈夫。皆――怖がっていない。


 それを見た後、私は控えめに微笑みながら安堵のそれを鼻から吐き出すと……。


 突然――光が消えたのだ。


「?」


 唐突な消灯…………、だったら変だね。唐突な消滅の方がいいのかな……?


 今の今まで『大天使の息吹』は『残り香』に向けてその息吹を吹きかけていた。今回ばかりは『八神』よりも少し長めに――息を吹きかけていたと思う。


 そう思いながら私は光がなくなったその方向――『残り香』がいるその空中を見た瞬間、私は……。


「あ」


 と、声を漏らす。


 その漏れた私の声を聞いてか、みんなも『残り香』がいるその場所を見て驚きの声を上げる人や、歓喜の声を上げる人など色々いたけど……、その中でも一際大きな声を上げたのは……。


「おおおぉ……! これは……!」


 一際声を上げた存在――ドラグーン王はその光景を見て驚きの声を上げながら言葉を失いかける。けど何とか言葉を繋げようと『残り香』がいるその光景を見つめながら言葉を発する。


 エドさん達もそれを見て声を殺したかのような声を上げ、しょーちゃん達はそれを見て驚きのまま固まってしまっている。コウガさんだけはその光景を見ながら……。


「久方振りの光景だな」


 と言いながら驚きと脱帽の様なそれを出す。


 私達もその光景を見て、そして私は安堵のそれを吐きながらナヴィちゃんと一緒にその光景を見て……。


「――成功……、したでいいのかな?」


 と言いながら私はその光景に目を向ける。


 黒い瘴気によって体を覆っていたそれが無くなり、ぐるぐる巻きになった状態でその体を丸の形にしたような姿に、千頭ほどの首の竜が辺りを見回して、自分の素肌を、何もなくなったその体を見る。


 いくつもの眼球が埋め込まれているかのような赤い眼光で自分の体を見て、困惑しながら『残り香』は見つめていた。


 自分のことを守っていたそれが無くなり、今まで攻撃も魔法攻撃も通らなかった体が()()()()()()()()()()()()()それを見降ろして……。


「これは、瘴気がなくなった……?」

「マジか? マジですっぽんぽんだべ……! てか」

「何にもない無防備状態………!」

「ん!」

「と言うことはー?」


 その光景を見て、エドさんと京平さん、シロナさんに善さんとリカちゃんが次々と言うと、その言葉を聞いていたシリウスさんは『残り香』を見て――手に持っている青い瘴輝石を掲げるように持つと、シリウスさんはその方向に向けて大声を放つ。


 これでできる。それを確信したかのような笑みで――


「攻撃できる! マナ・イグニッション――『水竜(ウォタドラ・)舞踏(ダンスタック)』ッ!」


 と言うと、シリウスさんは握りしめていたその瘴輝石を力強く握り、唱えると――手から零れる真っ青な光と同時に、私達が乗っているグワァーダの真下から勢いをつけて登ってくる水――ううん。これは、海の水だ。


 鯉の滝登りのように上がっていく水はどんどんと形を形成していき、そしてけたたましい咆哮を上げてぐるぐると円を描きながら私達がいる近くまで登って飛んでくる。


 まるで――水の竜のように、その姿を変えて!


「いっけぇーっっ!」


 シリウスさんは叫び、そして無防備となってしまった『残り香』に向けて指を指した瞬間――海の水の竜は軌道を変えて、私達から『残り香』に向かって飛んで、突き進んでいく。


「ゴォオオオオアアアアアアアアアッッッ!」


 と竜の叫びを上げて飛んで行き、そして『残り香』がその水の竜に気付いてその場所から一目散に逃げようと体を斜めにした――その瞬間……。


 ――バグゥンッ! と、何かを嚙み切るような音と何かをかみちぎる様な音が聞こえた。


 そしてその地切れると同時に、水の竜は一瞬の幻想のように水と化して、そのまま地上の海に向かって『ばたたっ』という音を立てて落ちていく。


 その光景を見ていた私達だったけど、すぐにその光景を見る暇もないくらい、私達は驚くことに巻き込まれていく。




『があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!』




「わっ」

「きゃぁぁぁ~!」


 一際大きな声で叫び、千もの竜の首をあらんかぎりに振り乱し、口から零れる黒い液体を上空からまき散らして暴れる『残り香』。


 しかも……、シロナさんの攻撃でも、キョウヤさんの攻撃でもかすり傷程度しか与えられなかったのに、シリウスさんが放ったその箇所からは黒い己の体を回るガソリンがどろどろと流していたのだ。


 まるで――傷をついてしまったらその箇所から流れる血のように……、『残り香』は痛みで暴れて方向を上げていた。




『があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!』




 長く……、長く、その咆哮を上げて。


「効いている……! なら――!」

「このまま総攻撃と行くかのぉっ!」


 その光景を見ていたシェーラちゃんと虎次郎さんが、武器を構えながら血気盛んな顔をして武器を手に持って構えようとしていると、その光景を見ていたのかドラグーン王はみんなに向かって――私達に向かって横目で見ながら叫んだ。


「ならばグワァーダを足場にして戦いを行えっ! 良いなっ!?」


 その言葉を聞いたみんなが同時に頷き、私も頷きながらナヴィちゃんのことを見降ろしてこう言った。


「私はナヴィちゃんに乗りながら後方支援をしますっ!」

「承知したぞっ!」

「あ、じゃぁ俺も!」

「僕も肉体労働は無理なんで魔物を使って支援しまーす」

「私もー!」

「俺もー!」

「く………っ! 人が多い……!」

「わがまま言うな年上っ!」


 私がそのことを言うと、それを聞いたドラグーン王は頷きながら声を張り上げると、私の言葉を聞いて後方支援をすると志願をしてきたアキにぃ。


 私はアキにぃのことを見て安心感を感じながら安堵のそれを吐いてアキにぃにお願いをしようとした瞬間、それを聞いてか、つーちゃんとリカちゃん、そしてシリウスさんがとんとん拍子で手を上げて支援をすると志願をすると、それを聞いていたアキにぃは唸るような声を上げて、なぜか肩を震わせて俯きながら言葉を零した……。


 なぜそんなにも暗しいもしゃもしゃを放っているのかわからないけど、それを見ていたキョウヤさんは呆れなような顔をして突っ込みを入れて槍を構える。


 キョウヤさんの言葉を聞いて、目の前で起きていることに集中をする私はそのまま暴れながら私達のことを殺意が込められた目で睨みつける『残り香』のことを見る。


 明らかに――私達のことを殺す気満々の目で……。



『おぉぉぉぉぉおおおおおおごおぉぉぉぉオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉっぉォォぉォぉォぉおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッっっっっッッッ!!』



 明らかに――私達のことを強敵と見なしたような目で、『残り香』は睨みつける。


『残り香』のそのどす黒いもしゃもしゃと、血みたいに真っ赤な怒りのもしゃもしゃを見た私は、腕の中にすっぽりと納まっているナヴィちゃんのことを見降ろして、疲れているのにもう一度動いてもらうことに対して申し訳なさそうな気持ちにかられながら、私はナヴィちゃんに向かってお願いをする。


「ナヴィちゃん。またお仕事だけど、頑張って」

「きゅっ!」


 すると、私の言葉を聞いたナヴィちゃんは鼻息をふかしたかのような顔で意気込みを入れると、そのままナヴィちゃんは私の腕の中からするりと飛んで抜けて、そのままグワァーダから飛び降りた瞬間――


 ぶわぁっ! と――真っ白い体毛で覆われたその姿を現して、グワァーダと並行しながら飛んでいた。


 まるで――翼を足場にして渡ってくれと言わんばかりに、ナヴィちゃんは私のことを見て「グルゥ」と唸った。


 そんなナヴィちゃんの姿を見て、私は頷くと、近くにいたヘルナイトさんのことを振り向いて――私は控えめに微笑み、そして信じていることを示唆するような顔をしながら私は言った。


 正直……、しっかりと安心させられるような笑みを浮かべているか、私自身わからない。もしかしたらぎこちないような笑みを浮かべているのかもしれないけど、それでも私はヘルナイトさんと、近くにいるキョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さん、そして――しょーちゃん達やエドさん達に向かって、はっきりとした音色で言った。



「皆さん――しっかり回復を行います。だから、心配しないで戦ってください」



 私のはっきりとした、ぎこちない笑みがついているかもしれない様な言葉を聞いて、ヘルナイトさんは頷きながら――



「ああ、信じるさ。私も、みんなも、君のことを信じている。頼むぞ――ハンナ」



 と言うと、それを聞いていたキョウヤさん達も頷きながら私のことを見て、コウガさんたちの頷いていた。しょーちゃんはぶんぶんっと頭を上下に振って、「うんうんうんうんっっ! するするするするするっ!」と言いながら肯定を示し、デュランさんは私の言葉に返事はしなかった。そしてエドさん達も頷き――「頼むよ」というエドさんの声が聞こえたと同時に……。


 私はみんなの顔を見ながら、アキにぃ、つーちゃん、大きな圧縮球に乗っているリカちゃんとシリウスさんと一緒に、ナヴィちゃんの背に向かって飛び移る。


 私が最後らしく、そのままナヴィちゃんの背に乗り移り、その場で座ると同時に、ナヴィちゃんは私達のことを一度横目で見てから、大きくてふわふわした体毛を生やした翼を動かし、ふわりと靡かせながら――ナヴィちゃんは大きく、大きく羽ばたき、そして『残り香』の周りを飛んで旋回を開始した。


 飛んで旋回をすると同時に、引こうと同時に生じた追い風が私達の衣服をはためかせ、そして髪の毛を乱し、私に至っては帽子を脱がせようとして来る。


 その脱がせに耐えるように、私はスカートと帽子を両の手で押さえ、ちらりと背後にいるグワァーダに乗っているみんなのことを見ようとした瞬間――


「とまぁあんなことを言ったのはいいですけど……」


 そう言いながら、つーちゃんは私達の横にいる巨大で悍ましい姿をしている『残り香』のことを見つめながら、震える声と顔でこう言ってきた。


「あれ……、どうやって倒すの……? いくら攻撃系の高い所属の人達がいたとしても、たった数人で倒せるわけないと思うんですけど……」」

「その前にボロボの騎士団の人達がかなりの数殺されちゃったから、俺達はそれ以下の数かもしれないなー。いいや、悪く言えば三分の一」

「もう死亡フラグ立ったんじゃないっ!?」

「しぼーふらぐ? 何それ」

「これから死ぬキャラクターが言う言葉だったり行動だったりするときに立ってしまう未来予知だよっ!」

「………………………それ言ったら終わりだろうが」

 

 つーちゃんの言葉を聞いて、シリウスさんが訂正めいた言葉を言うけど、シリウスさんの話を聞いてつーちゃんは泣きそうな顔になりながら一昔流行った言葉を頭を抱えて言い放つと、それを聞いていたリカちゃんは首を傾げてしまう。


 本当ならばそんなこと話さなくてもいいと思うんだけど、混乱しているのかつーちゃんは丁寧に教えてしまっている……。きっと、そのくらい今回のことはつーちゃんにとって絶体絶命に近いようなことなのだろう……。


 そんな言葉を聞いていたアキにぃは苛立ちの言葉を吐き捨てて銃を『残り香』に向けて構える。


 私もその光景を見て、未だに暴れている『残り香』のことを見た後、手をかざして、その時が来るのをじっと待つ。その時が来るのを……、じっと待ちながら……。


 そう思っていると――


「グルゥ? グルルルルルルッッ!」


 突然――ナヴィちゃんは唸るような声を上げたと思ったら――これまた突然『残り香』の周りを飛んでいたその航路を変えて、今度はどんどんとその場から離れるように旋回をする。


「っ!? ナヴィッ!? どうした?」


 アキにぃは聞く。どんどんと離れていくその光景を見ながらアキにぃはライフル銃にサラマンダーさんから貰った瘴輝石をはめ込みながらナヴィちゃんに向かって聞くと、それと同時にリカちゃんの「あ!」という声が鼓膜を揺らす。


 きぃーんっとなるほどの声量ではないけど、その声量だけでびっくりしてしまいそうな声量であったので、アキにぃは苛立ちをリカちゃんにぶつけるように「今度はなにぃ!?」と荒げた声で言い放った瞬間――


 遠くで……『ドォンッッ!』という音が聞こえた。


 その音と同時に、その衝撃によって生じた風圧も私達に向かって迫り、そしてそのまま私達のことを吹き飛ばす勢いで突撃してくる。


 みんなで息を殺し、その突風に耐えながら私達は目が開けられる風になるまで待つと……、少ししてどんどんと弱くなってくる突風になったところで……、私やアキにぃ達はその迄そっと目を開けて、風圧が来たであろうその場所を見た瞬間――言葉を失った。


 遠くで細部まで言えないけど、一目で見てわかったことがある。


 今まで球の形をしていた『残り香』の姿が、ブ-メランのような形になって凹んでいた。千もの竜の口から零れる黒い液体を見て、そして私は確信をする。


 あの攻撃は、ヘルナイトさん達が繰り出した奇襲の一手だと――


 それを見たアキにぃは、ナヴィちゃんに向かってほくそ笑む様な声で「そのまま旋回を続けていろよ……。あともう少し近付いてくれると尚良し」と言いながら、アキにぃは銃を構え、つーちゃんもやけくそと言わんばかりに顔を歪め、リカちゃんも椅子の様に乗っていた圧縮球の跨り、シリウスさんも無数の瘴輝石を手に持った後――私もその場所に向けて手を伸ばす。


 これから攻撃をするヘルナイトさん達のことをサポートしようと心に決めながら……、私はその時を待つ。


 アキにぃの言葉を聞いて、できるだけ激痛の咆哮を上げている『残り香』に近付いているナヴィちゃんに感謝をしながら、私は意を決する。


 これからみんなの反撃を手伝うことを――



 ◆     ◆



「!」


 ――あれは。


 ドラグーン王は見た。二度目となるその光景を見ながら、ドラグーン王は視線の先に映る光景――白いふわふわとした体毛で覆われているドラゴンことナヴィの姿を見ながら、ドラグーン王は思った。


 ――やはり……、ナヴィ(あの子)は、()()()()()()()なのか……? そのことを知ることはできないが、聖獣になって確信した。


 ――あの子は……、あの方の子だ。


 ――しかし、知らなかった。いいや、どころかこんなこと……、今まで聞いたことがない。このような事例も聞いたことがないのも事実だ。


 ――拙僧自身長い間生きてきたが、このようなことは初めてだ。


 ――なぜ、あの生物がこのような場所で、そして、あの浄化の娘と一緒にいるのだ?


 そのことを考えながらも、ドラグーン王はナヴィのことを見ながらクリアになっていない思考の中でその仮説にまみれた結論を組み込もうとした。その結論を仮説として提示し、それを追求しようとしたが、ドラグーン王はそのことを考える前に、ふぅっと息を吐きながら――


 ――いや、そんなこと今は考えている暇はない。


 と思いながら、ドラグーン王はすぐにナヴィから視線を外して、そのまま己の視線を目の前にいる巨大な黒い竜の塊――『残り香』に向けると同時に、睨みを利かせながらドラグーン王は意志を固める。


 これから――二百年以上も国を苦しめてきた魔物を、この場で倒すのだからな!


 そう思うと同時に、ドラグーン王は予め腰に差していたその剣をすらりと抜刀する。


 まるで氷の様な透明度と煌きを持った刀身を――


 否――氷と言う言葉では不十分なところがあるだろう。ドラグーン王が持っているその剣は、本当に透明な素材で作られたかのような姿をしており、その先の景色が透けているどころか……、ガラスの先を見ているかのような錯覚を思わせる。


 鍔と柄は白いそれで統一されているが、刀身だけは透明なそれで、刀身があるのかないのかわからないほど、その刀身の透明度は目を凝らさないといけないほど見えない技者。


 その柄の中央に埋め込まれている緑色の宝石が赤い鱗を持つグワァーダの背の一部を緑色に照らし、その刀身の透明度と緑色の石の煌きによりその美しさをより一層引き立たせる。


 その剣を引き抜くと同時にその剣先を『残り香』に向け、ドラグーン王は心の中で決意を固める。


 今、この場でこの『残り香』を倒し、そしてこの国を、世界を脅かす存在……『終焉の瘴気』に一矢報いることを。

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