表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
500/831

PLAY87 悪の一部②

 それから――私達は王の案内の元、王が乗る専用の船……、じゃない。この場合は王様専用の竜に乗って、私達は『巨悪』がいるというその場所まで飛んで向かった。


 勿論……、その光景を何度も見たエドさん達も連れて……だ。


 最初に王が乗っているという竜を見た瞬間、私達としょーちゃん達はその竜を見て驚きの顔を浮かべながら口をあんぐりと開けてしまうほど、その大きさは桁違いだった。


 一言で言うと……、私達のことを運搬してくれたあの竜よりも一回り大きい竜だった。


 そんな光景を見ていたエドさんはうんうんっと頷きながら私達の横で「だよねー。おれもだったよ。驚いたよー」と言っていたような気がしたけど、その言葉に関して誰も突っ込む人はいなかった。


 あのキョウヤさんでさえも突っ込まなかったのだから、これは想像以上の驚きに違いない。


 だって――私達の目の前にいるそのドラゴンは私やみんなのことを丸呑みにしてしまいそうな大きな口を持っていて、鋭くて爬虫類特有の半付きの様な目をぱちぱちと瞬きさせながら、大きな鼻の先にいる私達のことを見降ろしている。


 私達のことを運んでくれたあの竜と大差変わらないんだけど、変わっているところと言えば、その竜の鱗は赤で、その鱗を突き破るようにいくつもの傷跡が残っている。


 まるで戦乱を生き抜いてきたかのような貫禄 (?)の様な雰囲気も兼ね備えているような、そんな竜が私達のことを見降ろしていた。


「でっか……」

「大きすぎますね……。食費はいくらほどかかるのでしょうか」

「聞くところそこかよ。もっと別のことを聞けって。お前十歳だろう? ブラド以上に年上に見えるぜ」

「いやはや~」

「褒めてねえって」

「わぎゃああああああっっっ! キズアリィイイイイイッッッ!?」

「うるせぇ」

「すいませんね。トラウマ刺激してしまったみたいで」

「何のトラウマだよ……」


 その竜のことを見ていたのか、開口を開いたのはシェーラちゃん。シェーラちゃんは大きな赤い竜のことを見上げて唖然とした面持ちで言うと、それを見てかむぃちゃんが「ほえー」という驚きの声を上げながら首を傾げていた。


 でもむぃちゃんのその言葉はあまりにも場違いなもので、それを聞いていたキョウヤさんは呆れた目で背後にいるむぃちゃんのことを見て冷静な突っ込みを入れると、むぃちゃんはなぜなのか、頭を手で掻きながら照れてしまった……。


 褒めていないのに……。


 その意見に関してはキョウヤさんと同意見だった……。


 すると、竜のことを見たしょーちゃんがなぜか発狂めいたことを言い出して、まるで恐怖そのものを見てしまったかのような顔をして叫びを上げた時、それを聞いていたキョウヤさん達は眉間にしわを寄せ、明らかに怒っていますという顔を剥き出しにしながら突っ込みを入れたけど、なぜかつーちゃんはそんなしょーちゃんのことを宥めるように背を何故ながらみんなに向かって優しい音色と表情で言う。


 最後に言い放ったコウガさんの言葉を無視して……。


 私自身、一体何が起きたんだろう。私がいない間に何があったんだろう……。と思いながら、未だに発狂しているしょーちゃんのことを見つめていると……。



「ん」



『!』


 ふと、背後から声が聞こえた。ううん……、これは、声かな? なんか……、唸ったようにも聞こえたような気がする……。


 その声から察するに、男のような声にも聞こえるけど、女の人が低い音色で唸ったかのような声にも聞こえる。たった一言――『ん』しか聞こえなかったから、一体どんな人が言ったのかがわからない様な声が私達の耳に入ってきた。


 みんな辺りを見回して――『誰が言ったんだ?』と言わんばかりにその声の本人をみんな探している。


 私もヘルナイトさんのことを見て、もしかして……? と言わんばかりの顔で見上げたけど、ヘルナイトさんは私の視線に気付いたのか、私のことを見降ろしてはたりと一瞬小さな驚きを現した後――ヘルナイトさんは私のことを見降ろして……。


「どうしたハンナ――私の顔に何かついているか?」


 と聞いてきた。凛とした音色で、少しだけ斜め上の様な返答をして。


 それを聞いた私は内心驚きつつヘルナイトさんに向かって「あ、何でもないです。ごめんなさい。何もついていませんよ」と言って謝る。正直な話……、ヘルナイトさんの返答に対して驚きもあったけど、それは言わなくてもいいと思いながら……。


 すると……。


「なんか言ったか? アキ」

「俺は何も言っていない。虎次郎さんじゃないの?」

「儂でもないぞ? しぇーらは」

「私はあんな野太い声で唸ると思ったの? それは、私の声が男声だなーっていう痛みとして受け止めた方がいいのから?」

「そんなこと一言も言ってねえよ。お前の声そんなに低くねえだろうが。滅茶苦茶凛々しい女の声だぞ? だからそんなことで牙を向けるな」

 

 その声を聞いたキョウヤさんは私やヘルナイトさんのことを見た後、右隣にいるアキにぃのことを見て首を傾げながら聞くと、それを聞いたアキにぃは首を振って自分ではないことを言うと、後ろにいた虎次郎さんに向かって聞く。


 でも虎次郎さんも首を横に振って違うと言うと、最終的に、消去法というか……、一応確認としてシェーラちゃんに聞いた虎次郎さんだったけど……、それを聞かれた瞬間何かの気に障ってしまったのか、シェーラちゃんはなんだかむすくれた顔をアキにぃ達に向けて睨みを利かせる。


 その睨みを見てしまったアキにぃはぎょっとした面持ちになりながら肩を僅かに震わせると、その光景を見てかキョウヤさんが宥めるようにシェーラちゃんに向かって弁解をする。


 そんなことはない。だから大丈夫と言わんばかりの音色で――


 それを聞いてか、シェーラちゃんはなんだか腑に落ちないような顔を一瞬していたけど、そのあとすぐにふぅっと息を吐いて「そう」と言いながら視線をまたドラゴンに移した。


 その光景を見ながら私はしょーちゃんかな? と思いながらその方向に目をやると……。


「今のショーマでしょ? 嘘つかないで正直に話してよ」

「恥ずかしかったんですか? 何も『こほんっ』としようとした瞬間に変な声になったからって頑なにそんなことをいうのは少々恥ずかしいですよ?」

「ちげーってっ! 俺じゃねえ! というか俺最初の言葉を言ってから全然言葉発していないけどぅ!? そしてあんな野太い声なんて出るわけねえだろうが!」

「いやちょっと美形めいた声だったじゃねえか。おまえだろ? こんなところでちょっと見栄を張ろうとか。あとは格好いいところを見せようとか思ったんだろ? ここんところ全然見せ場ねえからなって……、うぜぇ」

「そんなこと思ってやせんよ兄貴っ! 手か兄貴もそんなことを思っていたんすかっ!? ひどいっすよ――俺あんたのことをかなり尊敬していたのに!」

「そのかなりってどのくらいなんだよ? 百パーセントのどのくらいなんだ? そんな尊敬なら俺は尊敬されない方がまだましだと思っているぜ」

「ひ、ひでぇ……っ! 血も通っていないかのような言動……! 人間じゃねえっ! 人間族だばーか」

「言葉のあやと言うものを使いやがって……っ! くぅうううううっ!」

「あやじゃねえし、嫌味として捉えろうぜぇ」


 うーん……。なんだかつーちゃんとむぃちゃんが真顔になりながらしょーちゃんが犯人だと思って (断定して)何かを言っているけど、しょーちゃん自身は泣きながら『自分ではない』ことを必死な形相で弁解してる。けどそれを聞かないまま、コウガさんにも疑われ、結局しょーちゃんは地面に膝と手をつけ、がくっと項垂れるような体制になりながらその地面に湿った点々を残していく……。


 正直、その光景を見て本当にしょーちゃんのことが可哀そうと思っていたけど……、そんな可哀そうなしょーちゃんのことを助ける人は………誰もいないのも事実で、その光景を見ながら私は、心の中でしょーちゃんに向けて『ドンマイ』と言う言葉をかけた。


 そんなことを思って、ふとしょーちゃんのチームの中で声を発していない人物がいると思った私は、ふと声を発していない――コウガさんの背後にいるデュランさんに目を移すと……。


「?」


 私は首を傾げ、顔を不思議に潜めながら首を傾げた。


 だって――デュランさんの顔が……、あ。顔ないからわからないけど、雰囲気でわかる。


 今でもデュランさんは何かに対して思い詰めているような悲しそうでもあり、寂しそうでもあり、苦しそうなもしゃもしゃを放っている。一言で言うとこれは……。


 悩んでいる……?


 そんな感じのもしゃもしゃを放って、デュランさんは体格のいいその体を斜めに項垂れている。その雰囲気からは気を失ったかのようなそれを放って。


 その光景を見ていた私は、どうしたんだろうと思いつつも、そのことに関して一回も追及もしないしょーちゃん達のことを見て、なんて薄情なんだとか、なんで心配しないんだろうという少しばかり怒りを覚えそうな気持を押さえつつ、現在進行形で項垂れているしょーちゃんにデュランさんのことを聞こうとした。


 その時だった。


「ん! んんっ!」

「!? ひぃぇっっ!?」


 突然、本当に突然で、足音ももしゃもしゃも感じられなかった。そのせいなのか私は背後からではなく、真横から突然大きな「ん」という声に驚き、そのままその声から離れるようにその場から離れる。もちろん、声が響いた耳を両手で押さえながら……、驚きの催促のせいで心臓がバクバクなるその音を体の中で感じながら……、私は見る。


 私の横にいた――黒いマントと黒い編み上げブーツを履いて全身を黒で統一させているけど、その黒いマントから覗く白い軍人の服装に身を包んでいて、腰にはサーベルの様な剣を携えていて、後ろで縛っている黒い髪の毛、一部だけ前に出して、そのだけ伸ばしている前髪の一部、そして耳の近くにある短い毛が、まるで渦を巻いているかのようにうねっている――爬虫類の様な目が印象的な耳が長い男性が、私のことを血眼で凝視するように睨みつけていた。


 その睨みを見たから私は驚きの声を上げて後ずさったんだけど……、誰が見たとしても後ずさりしてしまいそうだ……。すごく怖いから……っ!


 そんな私の顔を見て、そしてその声を聞いたのか、アキにぃは血相を変えて私の名を呼ぶと、すぐに黒髪の人のことを見て……。


「こんの野郎……っ! ハンナが怖がるようなことをしやがってぇ……っ!」

「おいおいアキやめろって」

「そんなことをして親交が崩れてしまったらどうするの? そのきっかけを作ったあんたのことを一生恨む結果しか残らないわよ?」

「シェーラもシェーラで通常運転かよっ。アキやめろっ! 険悪はよせっ!」


 アキにぃはいつものように怒りを露にしながら (なぜ怒っているのかは今でもわからないけど)向かって行こうとしていたけど、それをいつものように止めてくれるキョウヤさんとその光景を見ていたシェーラちゃんが呆れた顔をして冷たい言葉を放っていた。


 もうこれが見慣れてしまっている光景で、私はそれを見ながら困ったような顔をすることしかできなかった。なにせ――私では止められないと悟っているから……。私だけではきっとアキにぃのことを止めることはできないと自覚しているから。


 ――本当なら……、アキにぃのことを止められる力も欲しいんだけど……、それは欲張りなのかもしれないな……。はぁ。


 そんなことを思っていると――黒髪の男性は私のことを見て困ったように辺りを見回す。おろおろと、きつく口を閉じてワタワタと汗を飛ばし、困った顔を左右に振りながらその人は――


「ん……。んんっ! ん! んん!」


 と、なぜか言葉を発さずに『ん』と言う言葉だけを声で発しながら首を左右にぶんぶんっと振り、両手をぶんぶんっと振って『違う』ということを示そうとしていた。


 何故か、言葉を発さずに……、だ。


 その光景を見ていた私は首を傾げながらどうしたんだろうと内心思っていると、その光景を見ていたアキにぃは私と思考が違っていたのだろう。逆撫でされたかのように眉間にしわを寄せ、その人に向かって怒声と苛立ちを剥き出しにしながら荒げた声でこう言った。


「お前……っ! ふざけるのも大概にしろよっ!」

「馬鹿アキッ!」

「さっきから『ん』しか言わない……! 俺達のことを馬鹿にしてんのかよこの野郎が」


 と言いながら、アキにぃはキョウヤさんの羽交い絞めからすり抜けようとして、そのまま襲い掛かろうとしたその時――


「あー。違う違う。馬鹿にしてないって、むしろ逆逆」

 突然、黒い髪の男性の背後から出てきた白い服装の女性が、私達に向かって歩みを進めながら胸を張るような雰囲気と表情を出してきた。


 その女性――袖の部分とスカートの部分、そして首元が赤い布で覆われ、白い半そでのロングスカートに白い手袋をしている――紅白のコントラストがよく合うような服装を着ていたのは――白い長髪を踵より少し上を赤いリボンの髪留めで止めている女性で、その女性は肌も白くて、まるで雪女なのかと思わせるような印象を持っていたけど、彼女の耳の部分を見て、輝にぃと同じ猫人の勝気な印象を持った猫人の女性は私達のことを見ながら黒い服の男性のことを見てこう言ってきた。


「こいつ――ほとんどの会話『ん』しか言えないんだよ。キャラとかそういったことじゃなくって、マジで」

「はぁ?」

「『ん』しか言えん……じゃと?」

『?』


 その女性の……あ、思い出した。そう言えば名前シリウスさんが言っていた。


 確か白い服の女性はシロナさん。黒い服の男性は確か……、『ゼン』さんだ。


 その名前を思い出すと同時にシロナさんはアキにぃ達のことを見て腰に手を当て――呆れたような顔を向けながらシロナさんはゼンさんのことを見降ろして言った言葉に、アキにぃは素っ頓狂な声を上げて首を傾げる。キョウヤさんとシェーラちゃんも首を傾げながら顔で『なんだそりゃ?』という意思を向けて、虎次郎さんもそれを聞いて顎を撫でながら驚きの声を上げる。


 その話を聞いたしょーちゃん達も疑問を持った顔でこっちを見てきたけど、それを無視しつつ、ゼンさんと言う人のことを見降ろしながらシロナさんは言った。



「こいつ――善は人前ではほとんど『ん』しか言わないんだよ。絶対に人前では『ん』で、アタシしかその『ん』の意味を知ることができないってこと。だから悪意があってあんなことをしたわけでもないし、馬鹿に知るかのようにあんなことをしたんじゃない。こいつなりにコミュニケーションをとろうとしただけ。因みに――最初に言っていた『ん』は、『やっぱりでかい』で、次に言った『ん! んんっ!』は『俺! 俺が言ったんだっ!』で、そんで最後に言った『ん……。んん……っ! ん! んん!』が、『いや……。そうじゃないんだ……っ! そうだ! 俺はただすごく心配になって、それで声を掛けただけなんだけど、なんだか怖がらせてしまって申し訳ないです……。ごめんなさい!』って言っていただけ」



「『ん』の中に秘められている思いがすごく重く感じる……! てかマジでそんなこと言っていたの? 『ん』に込められた言葉が長ったらしすぎるんだけど!?」


 シロナさんの言葉を聞いた私達は背後にいるゼンさんのことを見て言葉を失う。あ、キョウヤさんだけはしっかりと突っ込んでくれたから言葉を失っていないか……。


 本当にそんな人がいるのかと思いながら、そんなキャラじみたようなことしか言えない人がいるとは思えず、私達はゼンさんのことを見降ろしながら言葉を失っていた。


 だって――殆ど『ん』しか言わないなんて……、漫画の世界でしか見れないし、本当のそれしか言わない人がいるだなんて、驚きのほかに何があるんだというようなそれである。


 それを聞いてか、ゼンさんは顔を真っ赤に染めながらそっぽを向いていると、それを見ていたシロナさんは『けけけっ』と犬歯が見える様な笑みを浮かべて意地悪そうに微笑みながら善さんの背中を見つめると、すぐにシロナさんは私達の方を見て――勝気な笑みを浮かべながら彼女は胸を張るようにこう言ってきた。


「ああ、そう言えばアタシ等の名前言っていなかったよね? そこにいる青髪ひょろひょろ小娘。アタシ『レギオン』のシロナ。こう見えてモンク。そんで同じチームで『ん』しか言わないこいつは善。善って言っても善悪の善で、キラーだから。よろしく」

「ひょっ!? あ、はい……、初めまして、善さんとシロナさん……。よろしくお願いします」

「ん」

「ほいよ」


 シロナさんの言葉を聞いた瞬間なんだかショックを受けてしまうような衝撃を感じたけど、それを顔に出さないように私は顔を横にフルフルと振りながらシロナさん達のことを見て、私は頭を下げてシロナさんとゼンさん改め善さんに挨拶をする。


 その挨拶を聞いてか、善さんは国利と頷きながらそっぽを向いたまま微動だにしない。そしてシロナさんは猫特有の牙を剥き出しにしながらにっと笑って言葉を零す。


 さも何の緊張もないような状態で、普通にクエストに出かける様な余裕を醸し出しながら……。


 そう、本来このような状態ならばこんなにもほんわかとしたような……、和むような空気なんて絶対にない。どころか緊張で誰も言葉を発さないだろう。


 だって今私達はこのドラゴンに乗って向かう場所は――巨悪がいる場所。


 つまり……『終焉の瘴気』がいるであろうその場所に向かうのだ。


 それはもう緊張の嵐だ。


 なにせ――この世界を蝕んでいる、『12鬼士』が一人でもあり、この世界を壊そうとして『創造主』として君臨しようとしたジエンドが放った詠唱なのだから、怖いと言う言葉が嘘ですとは言えないほど、怖いという気持ちが石を積み重ねるようにどんどんと重く、そして大きくなって、高くなっていった。


 けど、シロナさん達はそんな気持ちを出さないどころか、そんな恐怖のもしゃもしゃを一切出すこともなく、余裕のそれを顔ともしゃもしゃに出しながら善さんと会話をしている。


 その光景を見ながら私は驚きを顔に出しつつ、私は正直な心境を心の中で思った。


 声には出さないでこう思ったのだ。


 ――怖く、ないのかな……? と……。


 あれ?


 と、私はたった今思い浮かんだことを思い出すと同時に、近くにいたヘルナイトさんのことを見上げて呼ぶと、ヘルナイトさんは首を傾げながらその場でそっとしゃがみ、私のことを見ながら「なんだ?」と聞くと、私はそんなヘルナイトさんの耳があるであろうその場所にそっと唇を寄せ、小さな声で言う。


 勿論――声が漏れないように片手で簡素な壁を作りながら――私は聞く。


「あの……、ヘルナイトさん達はドラグーン王から話を聞いたんですよね?」

「ああ。そうだな。あの黒い稲妻が『終焉の瘴気』で、その巨悪の対策としていろんなことをしたことも、そしてこの国を守るために大きな犠牲も伴ったことも、そして――これから行く場所も聞いている」

「もしかして……、このことエドさんたちも聞きましたか?」

「ああ。エドと京平、そしてあの四人も一緒になって聞いていた。王子も心士卿殿も聞いていたが、あの二人は先にやることがあると聞いて今は別行動だがな」

「あ、そうなんですか……。あ、そうじゃなくて。あの善さんはドラグーン王の話を聞いていた時何か言葉を発していなかったんですか? みんな初めて聞くような顔をしていましたけど……」

「そのことに関してはアキはおろかみんな驚いているだろうな。私自身も驚きを隠せない。なにせ――『永王』の話を聞いていた時、彼はずっと無口だったからな。てっきりシノブシと同じ性格かと思っていたんだが……、違っていたようだな」

「そう……ですね」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いた私は――なるほどと思うと同時に、安堵のそれも感じながら息を吐いた。


 一つは善さんにあったはずなのに、善さんのことを知らなかったところを見て不思議と言うか、なんでと思いながら聞くと――案の定みんな善さんの声を聞いていないので、てっきり無口かと思っていたらしい。確かに――顔を見るとそんな雰囲気を出しているから、間違えるのはあり得る話かもしれない……。


 そしてもう一つは――今まで姿を見せなかった王子たちは現在別行動中と言うことを聞いて、私はほっと胸をなでおろして安堵の息を吐く。


 何故王子がいないことに関して安堵をしているのか、それは私自身わからなかったけど……、それでも失礼な話だけど、この状況で王子と一緒に行くということに関してすごいプレッシャーと言うか……、なんとなくだけど、詠唱が成功しないような気がしたから、私は失礼ながら王子がいないことに安堵のそれを吐いた。


 その光景を見てか、ヘルナイトさんは私のことを見降ろした状態で無言になり、しゃがんだ状態で徐に手を上げると……。


 ――ぽふり。


 と、ヘルナイトさんは私の頭に手を置きながらゆるゆると頭をなでる。


 勿論――ナヴィちゃんが寝ているであろう帽子の場所を避けながら、器用に頭を撫でて……だ。


 久し振りに感じる頭の撫で。そして私の頭を通して伝わっていく温もりと優しさ。それを感じながら私はヘルナイトさんのことを見上げていると……、ヘルナイトさんは私のことを見て、ふっと微笑むような声を放ってから凛とした優しい音色で、ヘルナイトさんは私に言ったのだ。


「安心しろ。心配なのはわかる。なにせ――今まで相対しなかった存在との対面なのだ。それは私も同じ気持ちだ。怖いのは誰にでもある。だが――安心してくれ。私がいる。私が君のことをこの命を賭してでも守る。君と、もちろんアキ達のこともみんな――私がこの手で守る。約束しただろう? ユワコクで」


 だからそんなに心配をするな。


 そう言いながらヘルナイトさんは私の頭をゆるゆると撫で続ける。


 それを感じて、私は頭からどんどんと浸透していく優しさとぬくもりを感じながら、今まで感じていた不安や恐怖が少しずつ、本当に少しずつ緩和されて行く感覚を覚えていく。


 ヘルナイトさんから与えられる温もりと優しさを感じて、私は控えめに微笑んで、頭を撫でてくれているその手を徐に両手できゅっと掴む。指を掴むように、ヘルナイトさんの手を掴みながら――私は言った。


「はい――知っています。そして、いつでもヘルナイトさんのこと、信じています」

「………ああ。信じてくれ」


 そう言って、ヘルナイトさんは頷きながら私の頭から手を離す。その離れを感じると同時に、私は掴んでいたその手を離すと、そのままヘルナイトさんは流れる様にすっと立ち上がり、そして私のことを見降ろす。


 見降ろされている私はそんなヘルナイトさんのことを見上げながら、くすりと微笑むように控えめに笑みを零すと、遠くから声が聞こえてきた。それも――幼い女の子の声が。


「おぉーい! 早くしてよーっ! もう出発するって言っているよー! 早く乗ろうよーっ!」

『!』


 今まで雑談めいたことをしていた私達のことを呼んだのは――この中で最も幼い人格でもあるリカちゃんで、リカちゃんは大きな大きな圧縮玉に体を伸ばしながら乗っている状態でドラゴンの背中に乗ろうとしている。もちろんその背後にはエドさんと京平さんも一緒で、その光景を見ていたシロナさんと善さんは慌てた様子で「今行くよー!」とシロナさんが言いながら駆け足でリカちゃんの元に向かう。


 その光景を見ながら、シリウスさんも歩みを進めて善さんの後を追う。もちろん――ゆっくりとウォーキングをしながら……。


 その光景を見て、コウガさんも面倒くさそうにしてため息交じりに「んだよ……、少しは人のペースを考えろ……、って、この状況なら俺たちが悪いか」と言いながらぶつぶつと何かをつぶやきながら歩みを進めると、その背中を追うように、むぃちゃんとが『とてとて』と慌てながら走る。


 むぃちゃんのその姿を見て、つーちゃんは慌てながら「あぁ! 待って下さいよ! ちょっとは後輩を待つ気持ちになってみたらどうですかーっ!?」と言って、現在進行形で泣き崩れているしょーちゃんの首根っこを掴んで引っ張って歩みを進める。

 

 ずりずりっと引きずると同時に、その後を重い足取りで着いて行くデュランさん。


 やっぱり、元気がない。何があったんだろうか……。


 そんなことを思って見ていると、アキにぃはその光景を見て慌てながら――


「やっば! 早くいかないと端っこにされてしまうっ!」

「それ――座るところの話しか? そんなことあったらいじめだろうが」


 と、慌てながら急いでその場所に向かおうとするけど、キョウヤさんの言う通りそんなことはないと言わんばかりの顔でアキにぃのことを見ているけど、そんなことお構いなしに、アキにぃは私に駆け寄って、私の手を掴みながら「さぁ行こう!」と言って、そのまま私の手を引っ張りながら駆け出してしまう。


 その引っ張りにされるがままとなってしまった私は、困惑しながらも私はアキにぃに手を引かれながらエドさん達が待っているそのその場所まで駆け出す。その後を追うみんなの足音も聞こえる。そして、これから巨悪の場所に向かうのに、まるで満点の空と言わんばかりの晴天の世界を見上げながら、私は眩しさで目を凝らしながらその外の世界を見つめる。


 これから怖いところに行くのに、こんなにも真逆な色をしている空の世界を見ながら……。


 微かに見える一匹の鳥の黒い影を見つめながら、私は思った。


 ――本当に、この空のどこかに、『終焉の瘴気』がいるのか? と……。



 ◆     ◆



 そして、ハンナがその空を見つめ、一匹の鳥の影を視界にとらえていた丁度その頃……。


 一匹の大きな大きな怪鳥が、ボロボが管轄とするその空中内を自由に、そして周りながら飛んでいた。


 ブォオオオオオオ! と、飛行すると同時に襲い掛かる追い風。その追い風のせいで鳥は少しばかりバランスを崩しかけたが、いとも簡単にそのバランスを取り戻し、滑空しながら鳥はドンドンとその場所に向かっておりていく。


 否――着地しようとする。


 この空にある唯一の動く国――ボロボ空中都市に向かって。


「――ぎゃぎゃぁっっ! ぎゃぎゃぁ!」


 鳥は鳴く。


 ガラガラになった声で奇声交じりに上げながら、口から零れるその唾液を雲に落としながら、鳥は鳴く。


 奇しくもそれはハンナが見つけた一匹の鳥の影の正体であり、その鳥は全長は五メートルほどある大柄な怪鳥で、薄桃色の羽毛を風で揺らし、顔と胴体につけられた鋼鉄製の器具に、血走ったぎょろ目がその鳥の狂気性を浮き彫りにしていくと、鋭い鉤爪と尖った嘴を『グパリ』と開け、その嘴の奥に潜ませる激臭を放ちながら、鳥は鳴く。


「――ぎゃぎゃぁ! ぎゃぎゃぁ!」

「よしよし。ここまで俺達のことを運んでくれてありがとうな。『ガリュラパーピー』」

「――ぎゃぎゃぁ! ぎゃぎゃぁ!」


 すると、どこからともなく男の声が聞こえると、その声の主はその鳥――『ガリュラパーピー』の頭を撫でながらねぎらいの言葉をかける。


 その労いの言葉を聞きとってか、『ガリュラパーピー』は猫が喜びの声を上げるような半音高い汚い声を上げて鳴き声を放つ。


 どんどんボロボの街ではない、草原に向かって滑空しながら――


「フィリクス様。とうとうつきましたね」

「ああ。この国のあの大地の近くに……、あいつがいると思うんだが……」


 そう言いながら『ガリュラパーピー』の背に乗っている二人の男達は辺りを見回し、滑空していくその大地を見回す。


 見回しながら――その怪鳥の背に乗っていた一人であり、ふくよかな体つきで、肌と髪の毛を隠すようにすべてを白い防護服で覆っているかのような姿をしているが、その背に背負っている大きな機材がそのふくよかな体よりも目立つ姿をしている。手に嵌められている緑色のゴム手袋。黒いゴム製の長靴。そして素顔を隠すかのようにつけている『六芒星』の仮面をつけた男――フルフィド・レードンゴラ・マルクリーファム・マキシファトゥマは目の前で怪鳥のかじを切っている男に向かってこう言った。


「お言葉ですが、あのお方は時折約束を忘れてしまうことが多々あります。もしかすると、今回も」

「いいや」


 と、男はフルフィドの言葉を遮るように声を大きく上げる。


 その声を聞いたフルフィドは、驚いた顔をして目の前にいる人物――自分の主であり、唯一の希望でもある存在……『六芒星』が一角、機械人(ヒューマ・ノイド)にして『憎悪機動兵』と呼ばれている男――憎悪の魔女……。型番N00(ゼロゼロ)と言う名を持っていたが今はその名も古い名前。今は――ロゼロとして行動しているその男は、滑空しているその箇所を見つめながら、機械のマスク越しで笑みを浮かべながら彼は言った。


「いる――あそこだ」


 そう言いながら、ロゼロはすっと指を指して、とあるところを示す。


 そのとあるところを見て、フルフィドも体を斜めにして見ながら、「ああ」と声を上げて驚きのそれを浮かべるとこう言った。


「これまた意外ですね。あのお方がちゃんと約束を守るとは……」


 そう言いながら、フルフィドとロゼロは滑空しているその場所を見つめる。


 彼らが滑空しているの場所で、何かをしながら待っているその人物のことを見降ろし、その場所を彩る()()()()()()()()()と、いくつもの()()()()を見降ろしながら、ロゼロは心の中で悪趣味だと思いながら気色悪いそれを剥き出しにする。


 赤く、そして大きな絵ともいえない様なそれを見せつけ、その上空からくるその人物のことを見上げ、待っていたその人物はにっと妖艶に笑みを浮かべながら「はぁ」と息を吐く。


 これまた妖艶に……、全身に渾身の力作を描いた……、否。ひと仕事を終え高揚感に浸っている……、とれたて新鮮の赤い絵の具まみれになり、周りに転がっているその赤い絵の具の張本人達の司令塔を足元にばらまきながら……、その女性は零す。


 金色のふわりとした長髪に、目元には深い切り傷が残っているが目を閉じてても妖艶な香りを放ち、黒く露出が高いワンピースを着ているグラマラスの裸足の女性は、その衣服や露出している肌にもその赤い液体をこびりつかせ、背中ある黒いカラスのような羽も赤黒く染めてしまい、全身を赤で染めているかのような姿をしながら、その女は言った。


 妖艶に微笑み、高揚としたそれを浮かべながら――彼女は言った。


「ふふ……、うふふ……。やっぱりこの感覚……、最高だわぁ。なにせ――甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振って甚振りまくった血で洗い流した後だから……、ゾクゾクが止まらないったらありゃしない……っ! あぁ……、ようやくロゼロが来るのね。待ちくたびれちゃった」

 

 ねぇ? そう思うわよねぇ?


 そう言いながら、女性は――『六芒星』が一角――堕天使(だてんし)にして『血涙(ブラディア・)天族(エンジェリナ)』血の魔女とも言われているラージェンラは、背後にいる人物に向かって高揚とした笑みで聞いた。


 彼女の背後にいたその男は――身長はショーマほどの身長で、頭には白いタオルで頭を巻き、右目を隠すように十字架の印が彫られた仮面を括りつけている紫色の髪の毛が印象的な青年ではあったが、左目から覗く鋭い眼光に口元を隠すようにガスマスクを装着し、左頬に残る三つの切り傷。首には黒いチョーカーをつけ、黒いロングコートに身を包んだ姿をしている。その背に背負っている鬼の金棒めいた棍棒も更に彼と言う存在を強調させる。


 しかしそのロングコートの左腕のところはキレイに敗れてしまい、左腕の肩から手の先まで露出してしまっている。右腕はコートの袖ですっぽりと覆われているため見えないが、左腕には黒い布で覆われ、左手に装着されている黒い鉤爪は日の光を浴びてぎらりと輝きを放っている。


 そして足は黒いズボンに白いロングブーツと言ったオーソドックスな服装に見えるが、ここでも異様な光景を見せていた。それは――彼の左足だ。彼の左足だけは右足と違い異質なそれを見せていたからだ。簡単な話だ。彼の左足だけ欠損してしまい、急ごしらえの義足 (足と言っても、松葉杖の様な足になってしまっている)をつけられているだけ。


 その姿を見ていたラージェンラは、内心彼のことを気色悪いと見下しながら表向きは平然とした面持ちで聞くが、男は何も言わずに、視線を逸らしてしまった。


 それを見て、ラージェンラはふぅっと妖艶に溜息を吐きながら、心の中でつまらないと零す。


 彼女の背後にいた男は、彼女直属の幹部ではない。むしろ彼女の部下でもないが、利害の一致でただ一緒に行動しているだけなのだ。『六芒星』として、彼は行動しているだけなのだ。


 そんな彼のことを見ることをやめたラージェンラは再度前を見て、どんどん滑降しながら降りていくロゼロとフルフィドのことを見て、妖艶な微笑みと共に上唇をぺろりと舐めながらこう言った。


「ふふふ。楽しみだわぁ……。これから、この地が私の血と、この国の者達の血で染まり、私の理想郷が出来上がるその時が……!」


 待ち遠しいわぁ……!


 そう言い放ちながらラージェンラは大きく両手を広げて声を荒げる。


 そんな彼女の高揚とした願望の声を聞いていた男は、無表情になりながらその光景を見つめ、そして滑降していくと同時に吹き荒れる風に当たりながら衣服をばたつかせる。


 ばたばたばたっ! と吹き荒れると同時に、右手を隠していた袖がばさりと舞い上が。


 その腕に隠された手と、バングルを見せつけながら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ