PLAY09 捕食の魔物②
メグちゃん講座曰く。
暗殺者の影は、どうやらアンデッド系に近いところがあるらしい。
ゆえにエクリスターの浄化スキルを使うと、一定時間の間、暗殺者はその影を使うことができないらしい。
私の『浄化』でできるかはわからないけど、やってみるしかない。
でも、それを発動する間もなく……。
牧師様の口がビキッと割れて、口と思われるところを開けていき……。
『YEARRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ! やっとこの時が来たのデースネェ! テンションアップッ! デェス!』
と、テンション高め叫んだ。
それを聞いた私は耳を塞いでしまう。それくらい大きくて五月蠅かったのだ。
キョウヤさんとアキにぃも耳を塞いでいたけど、ヘルナイトさんだけは違った。
「それが、お前の影か」
そう聞くと、シャイナさんは少し顔を赤くしながら「そ。そうだよっ! 悪いかこのぉ!」と怒ってしまった。
それを見ていた牧師様は……。
『OH! マスター! どこか痛いのデースカァッ!?』
見た目にそぐわず、シャイナさんを見降ろして心配するような顔で見る。それを聞いていたシャイナさんは、もっと顔を赤くしながら……。
「違うからっ! ほら! 行くよっ!」
『ラジャ! デェス!』
と言って、二人は……走っているのはシャイナさんだけで、シャイナさんはヘルナイトさんの隙を突くように、姿勢を低くしながら、鎌を持っているにも関わらず、素早くヘルナイトさんの脇に入り込むように走る。
滑るような身軽な動き。
それを見て、私は驚きを隠せず、「えっ!?」と驚きの声を上げてしまった。
「っ! 来るっ!」
「わーってますって!」
アキにぃとキョウヤさんはゴロクルーズさんを守るように前に出て、シャイナさんと牧師様に立ち向かおうとする。
「どけぇ!」
シャイナさんが自分の身長以上の鎌を左手だけで振り回して、大きく、反時計回りに薙ぐように走りながら構える。そしてそのまま――
と思った時、シャイナさんはぐわんっと後ろに逸れた。
「うきゃぁっ!?」
シャイナさんは驚いて甲高い声を上げる。その逸り方はまるで後ろから引っ張られているような――そんな動き。
そしてバランスを整えてシャイナさんは後ろを見た。後ろを見たシャイナさんは、「え、えぇっ!?」と驚きの声を上げて叫ぶ。その方向は、ヘルナイトさんがいる所。
私達もヘルナイトさんを見た。
ヘルナイトさんはなんと、棺を持っている六本の手のうちの一本の手首を掴んで止めていたのだ。
ヘルナイトさんは私達に言った。
「宣言通りに、貴様の相手は私だ。『無慈悲な牧師様』」
そうヘルナイトさんは、引っ張られている牧師様を見上げる。
牧師様はシャイナさんを見ながら『マスターッ! ソーリーデェス!』と叫んで謝る。
その音色は、申し訳なさと慌てる音色が混ざったそれで、シャイナさんはアキにぃ達を見て、その背後にいるゴロクルーズさんを見て……、鎌を持って言う。
「いいよ! 今回は離れて戦闘! いいね!?」
『ラジャ! デェスッ!』
そう言うと、シャイナさんはダンッと鎌を持って、また反時計回りに薙ごうとしている。両手でしっかり持って、彼女はダンッと跳躍した。高さはそれほどでもないけど、それでも、アキにぃ達を斬るという意志は、残っているようだ。
「『暗鬼鎌――『魂狩り』』ッ!」
ぶぅんっと、鎌に青い何かを纏わせて、そのままアキにぃ達ごと斬りつけよとする。落ちながら斬ろうとしていた。
「うぎゃああああああああああっ!」
ゴロクルーズさんが涙でぐちゃぐちゃのなった顔を、更にぐちゃつかせて、泣きながら顔を隠す。
よくよく見ると、アキにぃ達は目を細めてしまっている。
それは――シャイナさんの位置が、ちょうど太陽とかぶるところにいるから。そんなところにいるからこそ、逆行を利用したそれを使って、攻撃を仕掛けたんだ。
私はすぐに手をかざして――
「『強盾』ッ!」
アキにぃ達の前に半透明のそれを出す。それを見たアキにぃは私を見て「ありがとう!」と言いながら銃を構える。銃口は、シャイナさんに。
しかし、シャイナさんはそれを見て、まるで読んでいたかの如く……、にっと口元にを描いていた。
「え?」
私はそれを見て、驚きながら見ていると……。
「『状態異常呪術――『毒の鎌』!」
ずぉっと青い何かを纏っていたそれが突然刀身が紫に変色したのだ。
シャイナさんはそのまま、ぐあっと鎌を上に振り上げながら一気に振り降ろす!
でも、私が発動した『強盾』のおかげで、なんとか攻撃は防いだ。『ガンッ』と、金属音特有の音が出たから、防いだのはいい。でも、問題はここから。
シャイナさんは鎌を振り降ろしたまま引こうとしない。そのままぐるんっと、……刀で言うところの刃がないところ……、棟と言うらしいけど、そこと同じところを使って、空中で前転したのだ。
それを一瞬驚いて見ていた二人。私もその一人で、シャイナさんはころんっと前転を終えて、そのまま下に降りる。
降りたところは――アキにぃ達の背後で、ゴロクルーズさんの目の前。ゴロクルーズさんの目の前に現れ、毒を纏った鎌を、反時計回りに、一気に薙ごうとする。
「あ」
ゴロクルーズさんの声が聞こえた瞬間、私は手をかざして……、ゴロクルーズさんの前にも『強盾』を出そうと思った。
その時だった。
私には見えなかったけど、シャイナさんは驚いた顔をして脇を見た瞬間、だんっと左に跳んで避ける。
直後に『パァンッ』と放たれる発砲。
アキにぃが、シャイナさんの死角から銃を放ったのだ。
「ほほぅ……。なかなか……」
おじいさんは『強固盾』の中で、驚きながら興味津々に見ている。無表情なのに、音色だけはすごく感情がこもっていたから。
「っ! っだぁ!」
シャイナさんは空中でくるんっと一回転して地面に着地し、ずささっと土煙を上げながら踏ん張る。
キョウヤさんはそれを見て槍を構えてダッと駆け出し、アキにぃも銃を構えながら――
「援護するっ!」
「おう!」
と掛け合いながら、キョウヤさんはすぐに駆け出して、シャイナさんに槍を突き付ける。
それを態勢を整える前に見たシャイナさんは、ぎょっと驚いて鎌の腹で防ぐ。
それを見て、キョウヤさんはダンッと尻尾を使わないで、刃がついた方で、一気に突く!
ごぉんっと言う鈍い音。
そしてずささっと一気に押し出されて、地面に二本の線を作る。
シャイナさんは「――ちょ! なにそれ!」と驚きの声を上げる間もなく、アキにぃが銃を使って放つ。
――パァンッ!
「うわっ!」
放った場所は足元で、シャイナさんはそれを見て驚きながら片足を上げてしまう。その隙に、キョウヤさんはシャイナさんに一気に近づいて、そして至近距離で槍を連続で突こうとする。
「っふ」
「っ!?」
でも、シャイナさんも何とかしようと、苦虫を噛み締めたかのような難しい顔をして、鎌を両手で掴んで、そしてそのままぐるぐると回しながら、キョウヤさんのその連続の突きを防ぐ。
ガン! しゅんっ! ガン! ギィン! しゅんっ。ぶしゅっ! ギィン! キィン! ぶしゅっ! ギャリッ!
でもコウガさんが言った通り……、キョウヤさんの槍を突く速度は伊達じゃない……。ゲームの種族でも、こんな速度は出せない。
つまり、目で追いつけない。
シャイナさんもそうであるのか、防御をしているのに、それでもキョウヤさんの攻撃が頬に、腕に掠って、傷を作る。驚きと屈辱、そして苛立ちが混ざった顔で、防御を繰り返しているのに対し、アキにぃが銃で形成を崩しつつ、キョウヤさんがそこを突く。
倒す勢いはない……。ただ、止めようとしている。
私のためなんて、これは我儘だと思う。
きっと二人は二人の意志で戦って止めようとしているんだと思う……。アキにぃは最初乗り気じゃなかったから渋々と言う感じだろう……。
あ。
今思い出したけど……、ゴロクルーズさんはこの特殊討伐クエストを最初に受けたから、きっとおじいさんに聞きたくないから……、二人はゴロクルーズさんを問い詰めて聞こうとしていたのかもしれない……。
「っは!」
私は思い出す。コロクルーズさんを見て私は駆け出す。
「? おい……」
「ちょっと待っててくださいっ!」
おじいさんが私を止める声が聞こえた。私は走りだしながら振り向いて、おじいさんに言った。安心させるために、控えめに、微笑みながら――
「大丈夫です。そのスキルは、ちょっとやそっとじゃ壊れません」
そう言って、私は駆け出す。
おじいさんの、無表情の顔からほんの少し、ほくそ笑むような笑みを見る余裕など、私にはなかった。
私はゴロクルーズさんに駆け寄って……、涙と鼻水。あろうことか鼻水を出しすぎて、鼻の血管が切れてしまったのか鼻血まで出して泣いている。そんなゴロクルーズさんに私はそっと彼の手を包むように両手で握って……、微笑む。
「…………おまえ……」
ゴロクルーズさんが涙声で、またブワリと泣き出す。
その顔を見て、私は……。
少し罪悪感を抱いて……、申し訳なく言った。
「――ごめんなさいっ」
「え?」
私はその手をぐっと掴んで、一気に駆け出す! 昨日コウガさんにしたようなことはせず、手を引っ張っての行為。
正直、首根っこを掴んで引っ張ることは私の腕力的に無理で、コウガさんの時もやらかしてしまったから、ここは別の方法でと判断し、一気に引っ張って、少しでも離れようとした。
けど……。
「あだだだだだだだだだだだっっっっっ!」
ずりずりと、結局引きずってしまうので、ゴロクルーズさんは泣きながら叫んでいた。
「ご、ごめんなさい……っ!」
引きずりながら必死に謝る私。でもゴロクルーズさんは叫びながら痛がっている……。
うぅ、二の舞……。なんてこった……。すみません……。
そう思って引きずりながら、ゴロクルーズさんが座り込んでいたところが湿り気を帯びているように見えたのを見て、なんだろうと思いながら見ていると……。
バカァンッと――遠くで破壊音。
それはアキにぃ達ではない。アキにぃ達は音がした方向を見て、驚いて見てしまった。シャイナさんはそれを見て「その調子!」と、防御しながら応援の声を上げていた。
そう。
音がしたのは、ヘルナイトさん対牧師様だ。
牧師様は背中に背負っていた棺と刃がついた十字架を、新たに出したであろう七本目と八本目の腕を使ってヘルナイトさんを追い詰めていた。
『どうしましたかぁミスターナイツッ! ディフェンスだらけデェッスッッ!』
確かに牧師様には傷一つもついていない。ヘルナイトさんは大剣で防御しているみたいだけど、それでも攻撃には転じていない。
それを見て、私はゴロクルーズさんの手を放した。ゴロクルーズさんは「うぉ!」と驚きながら地べたについてしまい、それを見て驚愕の声を上げた。
「ちょっ! これ大丈夫なのかぁ!? あれ最強のENPCなんだろうっ!?」
その声を聞いても私は答えられない。
なぜなら……、一気に不安に駆られたから。
防戦一方。それは攻撃に転じることができないくらい……、苦戦している。
強いと思っていたヘルナイトさんが……?
「っ」
ありえないと首を横に振るうけど、結局不安が勝っている。そんな状況で私は……、どうやって……。
「ハンナ」
と、ヘルナイトさんは私を呼んで振り向く。
その声は今まで通りの凛とした声。ヘルナイトさんは言った。
「お前の言ったことを、思い出せ」
「…………思い、出す」
その言葉を聞いて、私は……。おじいさんを見る。
おじいさんは無表情で私を見ている。それは、品定めをしているような目。
それを見て、私は思いだす。
そう、自分で言ったあの言葉……。
――信頼できる人達です。
私は息をすぅっと吸って――キョウヤさん達を見た。
アキにぃは今でも、シャイナさんを止めようと銃を放っている。キョウヤさんは女の子と闘っているからなのだろうか、深手を負わせないように細心の注意を払っている。
ヘルナイトさんを見る。
防戦一方かもしれない。でも……、それでも。
私はぎゅっと両手を握る。握り拳を作るように口を噤み、顎を引いて……。
こくんっと私は頷く。
それは……、信じているという意志表示。
負けない。傷つけない。そして……、絶対に止める。
それを。
「――信じる」