PLAY86 国が抱えるもの④
「えっと……、京平さん、で、いいんですよね?」
「おう。よろしくな!」
「は、はい……、京平さん」
あれからたった五分もの間だけど、長いようにも感じた気がする。
なにせ、京平さんの名前を覚えるのにみんな必死になっていたから少し時間がかかってしまった結果――現在に至っていると言うことである。
やっと覚えた私はほっと安堵のそれを吐きながら頭を上げると、京平さんは顔に似つかわしくない笑みを浮かべて「へへへ!」と言いながら私のことを見降ろしている。
にっと――笑みを浮かべて……、だ。
その顔を見た私は、本当に人は見た目で判断をしてはいけないと言うことを今更ながら教訓をした。
見た目が怖い人でも本当は優しい人もいるし、優しい人だと思ったら本当は極悪な人だっている……。
そう――
ハクシュダさんやクルーザァーさんのように本当は優しい人や、スナッティさんやヴェルゴラさんのような悪人がそれに該当する……。
そう思いながら京平さんのことを見てふと、ヴェルゴラさん達のことやスナッティさんのこと、そしてそれと同時に思い出されるあの時の……、元バトラヴィア帝国のことを思い出してしまった。
あの時――ヴェルゴラさんと一緒にいたジエンドと、冷たい眼を浮かべたメグちゃんのことを……。
「っ!」
そのことを思い出すと同時に、私ははっと息を呑むとそのままぶんぶんっと頭を左右に揺らして、メグちゃんの記憶を一時的に記憶の奥底にそっとしまう。思い出したとしてもその記憶を消すのではなく、一時的に封印をするように、私は首を左右に振りながらその記憶を脳内から消す試みを施す。
私のその行動を見ていた京平さんが驚いた顔をしてエドさんと私を交互に見ていたけど、エドさんはそんな私を見て、その後で京平さんを見た後、エドさんは一言――真剣な音色で……。
「京平……。やっぱりその顔、女の子受けしないんだよ」
「そんな真剣な目で見るんじゃねえべっ! この目は生まれつきなんだから仕方ねえだろうがっっ!」
という声が聞こえた瞬間、私は首を振ることをやめて、慌ててエドさんと京平さんに向かって静止の声を掛けながら私は理由を述べる。
「ち、違うんですっ。生まれつきの目を見て怖いとかそう思ったわけではなく、ちょっとした思い出が思い出されただけです。そんなおおそれた理由ではないので大丈夫ですから……」
「え? ああ、それって、思い出し笑いのシリアス的なもの?」
「えっと……、はい。そうです。すみません、なんか変に勘違いされるようなことをしてしまって……」
「いや、いいよ。そっか――よかったね京平。怖がっていないって」
「俺のMHPはゼロになりそうだべ……」
「? MHP?」
「MHPの略だべ」
エドさんは私の話を聞いて、安心した笑みを浮かべて京平さんの肩を叩くけど、それを聞いていた京平さんは真剣な音色と共に怒りのもしゃもしゃをマグマのように流しながら真剣な音色で言うと、それを聞いてエドさんは京平の言葉から出た聞いたことがない言葉に首を傾げて質問をすると――そのことに対して京平さんは答える。
真剣な音色で、なんだか納得してしまいそうなことを言って――だ。
エドさんと京平さんの会話を聞きながら、私やアキにぃ達、そしてしょーちゃん達はなんだかほっこりとするような光景を見て立ち尽くしてしまう。と言うか、足を止めてエドさん達のなんだか漫才に似たような光景を見ながら心を和ませてしまう。
ドラグーン王もその光景を見ながら腕を組み、うんうんっと頷きながら「穏やかなものだ」と言っている。
この空間に対して誰も遮らず、そしてさっきまでの緊迫がほぐれたようなそれを感じてエドさんと京平さんの漫才じみた話を聞いていた。その時だった――
「おやおやおや。この国にいてはいけない種族が、なぜ万物の頂点にいる竜族の進行を阻んでいるのですかな?」
『――?』
「「!」」
「――!」
エドさん達の背後から……、と言うよりも、京平さんの背後からなんだか重みを感じる様な歩みをして近付いて来る人の声が聞こえた。
どす。どす。どす……。と、ドラグーン王とは違った重みのある足音を立てながらこっちに近付いて来る。
その音を聞いてか、エドさんと京平さんの顔色が急に曇った。しかも、ドラグーン王も僅かに顔を変化させたけど、すぐにいつもの顔に戻していたけど、もしゃもしゃはエドさん達と同じ。
嫌な人に出会ったという嫌な感情。
その感情を出しながら背後を振り向くと、私達に首を傾げて頭に疑問符を浮かべてエドさん達越しに王宮から来たその人を見る。
どすどすと歩みを進めてきたその人は、ドラグーン王よりも背が小さく、きっと私と同じくらいの背丈の大きなお腹……と言うか、えっと、ゴロクルーズさんと同じお腹を持っていて、跳べなくなってしまったよろよろになった翼が目立つ濃い緑色の竜人で、服装はドラグーン王よりも絢爛と言うかなんと言えばいいのか……、簡単な言葉で言い表すのならば――金品の品々で身を包んでいるような服装で、指にも金色の指輪を十指全部にはめている。手に持っている杖も金で作られているようなそれで、体全体に金を装備していると言っても過言ではないような見てくれだった。
一言で言うと――キンキラキンの竜人。そんな見た目の人だった。
その竜人さんはエドさんのことを見て、心底見下すような目を向けながらこう言う。
「ほほぉ。あなた様は異国出身の出稼ぎ者ですか。最近見ないと思っていましたら……、お出かけだったのですか。てっきり呆気ない最期を迎えたのかと思っていましたなぁ。ぐっふっふ。いやはや生きていて私は嬉しいですぞ」
「……そうですが、有難きお言葉です。ディドルイレス・ドラグーン大臣、あなた様も、その見てくれで息災ないようで安心しました。京平も、そして他も仲間も安心をしたでしょうね。あなた様のその体を見て――」
その言葉を聞いたエドさんは、今までの穏やかなそれが消え去ったかのような冷たい眼でその竜人さん――ディドルイレス・ドラグーン大臣のことを見つめる。
その目を見て、そして京平さんの目もエドさんと同じ目になっていることに気付いた大臣さんはすっと贅肉で潰れそうになっている瞼をそっとしぼませ、二人のことを見つめながら剥き出しの舌打ちを零す。
明らかに隠していないその舌打ちをすると同時に、大臣はエドさん達のことをゴミを見るように見下すと、小さな声で――
「なんとも礼儀がなっていない下等種族めが」
と零していた。
その言葉を聞いていたアキにぃ達は、私の背後でイラついているもしゃもしゃを放っている。それは私も同じで、この大臣を見ているとなんだかDrのことを思い出され、そして前アクアロイア王のことを思い出してしまう。
自分のことしか考えていないあの二人と同じ目をしている大臣のことを見て――
本当は思い出したくもない。
というか――こんな光景見たくなかったのだけど、思い出してしまった瞬間その時の感情も思い出されてしまう。
あの時Drがしたこと、そして前アクアロイア王がしたことを思い出してしまうと、無性にと言うか……、無意識にその時に感じた感情がぶり返してしまう。
そのことを思い出してむっとしていると、大臣さんは私達に気付き、「ん?」という声を出しながら私達……、と言うか、私のことを見て大臣は今まで見せていたごみを見るような目を百八十度変える。
ごみを見る目から――小馬鹿にするような笑みに変えて、エドさんから私に標的を変えた。
「ほほぉっ!? またもやお客人ですかな? いやはやここまでくると竜人の故郷であったこの国がどんどんっと下等生物の思想に染まって来ていますなぁ! まさかこんなところになぁんにもできない天族の小娘が来るとは……!」
そう言いつつ、どすどすと歩みを進めて私に近付いて来る大臣さん。
大臣さんのその顔を見た瞬間、私は背筋を這う寒気に驚きつつ、あの時――マドゥードナで見たアクアロイア王の顔を思い出すと同時に、気色悪い気持ちが身体中を駆け巡る。
そんな私の気持ちなど知る由もない……、ううん、これは違う。大臣さんはそんな私の気持ちを知ってもなお、自分の行動を優先させるようにどすどすと歩みを進め、そして至近距離まで近付いた後、大臣さんは私のことを至近距離で見降ろし、ぐにっと爬虫類の口で怖くもあり気色悪いというそれが合わさったかのような笑みを浮かべると……、大臣さんは私に向かって…………。
「ほほぉ……? 見てくれだけはなかなかなものだ。しかしこれで竜人であれば、大臣専属の侍女として雇えるのだが、いやはやおしいおしい」
と言い、徐に杖を持っていない右手を私の頬に向かって伸ばし、私の頬をガッと包むように……、ではなく、林檎を掴むように強く触れる大臣。
掴んだ光景を見てエドさんと京平さんが声を上げて大臣さんの名を呼ぶ。ドラグーン王もそれを見て目を見開く。
そんなエドさん達とは対照的に――摘ままれた感覚に私は「うぎゅっ」という声を上げてその掴みに声を上げてしまったけど、大臣はそんな私のことを無視しながら、大臣さんは私の頬を掴む状態のまま『ずずずっ』と肌の油を使って滑らせていくと、さっきの言葉に続くような言葉を私に向かって言う。
「竜人にしては華奢すぎる。何よりどの女性竜人と比べても弱すぎる見てくれ。こんな存在竜人であれば『役立たず』と言う汚名を与えるのだが、顔だけは専属の侍女よりもいい。人間族と顔が見ている天族ではあるが、顔だけ及第点であるから良しとしよう」
「い、いた……、うぅ……っ!」
ぎり……っ! ぎり……っ!
肉が抉れるような痛みが私の頬を中心に広がっていく。仄かに熱を帯びているようなそれも感じてきた。
皮が剥がれてしまいそうな痛みと、食い込む爪のせいで頬に来る小さな激痛が私を襲っているにも関わらず、それを続ける大臣はそれを続けながらこう言い続ける。
「だがなぜこの竜人の聖地に穢れている血を持っている種族達がのこのことその汚らしい足で歩んでいるのか……、それこそ虫唾が走るものだ。この国は竜族だけの国なのだ。竜族こそ至高なる存在。至高なる種族なのだ……! なのにあいつは、あいつはあんな下賤な種族と……」
「痛い……っ! 痛い! 痛いです……! 離して……っ!」
ぶつぶつと聞こえる大臣の独り言。そしてアキにぃ達の慌てた声。その声を聞きながら、私は必死になって大臣さんの手首を柄で引きはがそうとするけど、竜人と天族。男と女の力の差なのか、全然引きはがせない。
どころか、掴む強さが増している気がする。
掴む力に驚きつつも何とかして引きはがそうと奮起をする私。皆もすでに怒りが心頭しているようなもしゃもしゃを出している。特にアキにぃとシェーラちゃんの怒りが凄いことになっているし、背後から聞こえるむぃちゃんの声も聞こえる。
状況からすると――すでに空気が重苦しいものになっていたと言った方がいいかもしれない。これから王様から大事な話があるという時なのに、それが突然こうなってしまった状況。
突然の出来事と言うものは本当に恐ろしいことだと頭の片隅で思ってしまうほど、今回のこの出来事は予想外だったかもしれない。
と言うか、この状況を打破できない私も私で、何もできない状況に怒りさえ覚えそうになるけど、成す術もない状態。いうなればお手上げ状態。
どうすればこの状況を変えることができる? そんなことを頭の片隅で考えながら何周したかわからない思考を再度往復しようとした……その時――
――がっ!
「――やめろ」
「!」
突然聞こえた声。でもその声はヘルナイトさんの声ではない……。そう思うと同時に私はそのまま離された拍子にバランスを崩し、後ろに向かって尻餅をつきそうになったけど、固い地面にすとんっと落ちることなく、なぜか『とすり』と言う感触と共に、安心する温もりと同時に腰に何かが巻き付くような感触を覚えた。
絡まっているような強さではなく……、支えられているような安心感。
声と同時に来た何か掴まれるような、掴まれたような音、そして突然引きはがされる感触と顎の付近にあった痛みが消えていくのを感じると同時に、よろけた体を支えるように抱えているその感覚を感じた私は、そっと顔を上げて支えている人物を見つめると……。
「あ」
「すまないハンナ――大丈夫……、ではなさそうだな。痛むか?」
「あ、えっと、その……、驚きのあまりに痛みが引きました……。ありがとうございます」
そう。私のことを支えていたのは――ヘルナイトさん。
ヘルナイトさんは私のことを腰に手を回すように抱えて、自分を椅子の様に見立てながらしゃがんだ状態で私のことを支えていた。その椅子と支えを受けている私は、さながら小さな子供の様だ。
そんなことを思いながら私はヘルナイトさんのことを見上げた状態で、申し訳なさそうにして掴まれていたその頬に支えていない手の指先で私の頬を添えるその手の温もりを感じる。
その温もりを感じつつ、触れた瞬間に来た小さな痛みにびくっと肩を震わせてしまったけど……、耐えられないという痛みではないので私は痛みに耐えながらヘルナイトさんに向かってお礼を含めた言葉をかける。
私の言葉を聞いて、ヘルナイトさんはなんだか腑に落ちないような雰囲気を出していたけど、私の言葉を汲み取って小さな声で「そうか」と言ったあと、すぐに私ははっと声を漏らし、そう言えば……。と思いながらぱちぱちと目の開閉を二回ほどした後――私は混乱しながらも状況を把握しようと目と首を動かして今の状況を見た。
目の前にはさっき私の顎を掴んで品定めをしていた大臣さんだけど、私の顎を掴んでいたその手は背後にいたドラグーン王に手首絵を掴まれ、捻るように持ち上げられていたので、大臣さんは痛みをこらえるような顔をしながら背後にいるドラグーン王のことを睨んでいる。
なんで邪魔をしたんだという顔だ。
その顔を遮るものを見て――遮る手を見た私は、その手の主を目で追いながら見上げていくと、私は再度目を見開いて言葉を失った。
なにせ――私とヘルナイトさんの目の前に立ち塞がっていたのは……、手を伸ばして腰に携えている剣に手を添えているイェーガー王子だったから……。
私のことを守るように、手を伸ばして壁のように見立てているその行動を見て、私は驚きのあまりに目を点にして見てしまう。
でも、イェーガー王子はそんな私の前に立ったまま大臣さんのことを見て一言……。
「何をしているんだ――ディドルイレス・ドラグーン大臣」
「っ」
イェーガー王子は言う。今まで聞いてきた優しい音色ではなく……、初めて聞く真剣で静かな怒りを込めたかのような音色を放って――だ。
その声を聞いた大臣さんはびくりっ! と、肩としわくちゃになって使えなくなってしまった翼を大きく揺らしながら息を詰まらせる。
その詰まらせた声を聞いたイェーガー王子は大臣のことをじっと見つめ、目を離さないばかりにじっと見つめながら続けてこう言ったのだ。
今もなおその場所で仁王立ちになりながら――王子は言う。
「なぜあんなことをしたんだ? と聞いているんだが……、聞いているのか? ボロボ空中都市『法番竜』――ディドルイレス・ドラグーン大臣」
「……………………っ! い、いえ……! 聞いていました。いましたとも……!」
「ならいいが、できればすぐに返答をしてほしい。どうなんだ? 『法番竜』よ」
王子は言う。すごく低くて、こっちまでも怖いと思ってしまうような音色を――
その音色を聞いてしまった大臣さんは、更にびくぅううう! と肩を大きく大きく震わせ、上ずりそうな声を上げそうな声を上げながら大臣さんは震える声でイェーガー王子に向かってこう答えた。
「ひぃ……! え、えっとですな……。あんなことをした理由としましては……、その。えーっと、あーっと……、そ、その……えっと……!」
「……………………」
「……………………! えーっと、そ、! そうです! あれは確認です! はい! 私なりの確認なんです! あそこにいる小娘が真の浄化を持つ者なのかを品定めした次第です……っ!」
「確認……? 品定め……?」
長い長い模索の間、大臣さんは鱗の隙間から零れる汗を拭わず、ドロドロとそれを流しながら焦りのもしゃもしゃの中で考えていたけど、やっとその答えを見出したのか、焦りの顔でイェーガー王子に向かって言う大臣。
それを聞いたイェーガー王子は首を傾げながらオウム返しのように言葉を返す。その言葉に関しては、私も同じことを口にする。あれのどこが確認なんだろうと思うのは無理もない話だし……。
「なぁにが確認だコラァ……ッ! 妹の桃のような肌に傷をつけやがってぇえええええ……! 天誅じゃ……! 天誅を与えてやる……! 我が魂をかけて呪いをおおおおおおぉぉぉぉぉ……っ!」
「待て待て待て馬鹿っ! そんなことをこの場でしてみろ! オレ達もショーマと同族になるぞっ!」
「牢獄はごめんよ。そんなことしないでシスコン馬鹿」
「落ち着くんじゃ。こう言う場合は深呼吸じゃぞ。あ、それ――すぅー。はぁー。だ」
「てか今俺のディスりが入ったような……?」
そんなことを思っていると、ヘルナイトさんの背後から声が聞こえて、その声を聞いた私はくるりと背後をヘルナイトさん越しに振り返ると、言葉を失てしまったかのような顔をして、顔中を青くさせて口をあんぐりと開けながらその光景を見た。
私が見たその光景――それは……。
今にも大臣さんに向けて発砲をしようとしているアキにぃ……、に似た、鬼? の手足をがっしりと掴んで止めているキョウヤさんとシェーラちゃん、そして虎次郎さん。
キョウヤさんはアキにぃらしき鬼の腕を羽交い絞めにして、シェーラちゃんと虎次郎さんはそんなアキにぃらしき鬼の足を掴んでその進行と行動を止めている。ぶるぶると震え、アキにぃらしき鬼の進行を止めるために必死になっているその光景を見た私は、内心申し訳なさそうに心の中でごめんなさいと謝罪をした。
背後でしょーちゃんがシェーラちゃんに対して失礼なことを言ったことに小さな突っ込みを入れていたけど、誰もその言葉に対して突っ込むことはなかった……。
そんな光景を見て心の底から本当にごめんなさい……! と思っていると、大臣の『ひぃっ!』と言う上ずる声が鼓膜を揺らし、その声を聞いて私は再度大臣の方を見ると、大臣はイェーガー王子のことを見ながらがくがくと体をこれでもかと揺らしている。
まるで大臣がいるところだけ地震が起きているような揺れ方だ。
そんな大臣とは対照的にイェーガー王子は未だに剣に添えられている手を乗せた状態で大臣のことを見つめているけど、私は王子の顔を見ることができないのでどんな顔をしているのかが全然わからない。
もしゃもしゃと雰囲気で察するしかないんだけど……、それだけを察知した結果――なんとなくだけど大臣が怖がっている理由が分かった。
王子は――怒っている。何かに対して――怒っているんだ。と……、私は理解した。
「なら――『国王会議』で聞いたはずだ。何故その言葉を信じないのだ?」
でも、大臣の言葉に対して更なる怒りを湧き上がらせたのか、王子はすっと歩みを進めるように一歩足を踏み込みながら言うと、その言葉と行動を見て大臣さんはぎょっと目をひん剥かせるような顔で強張りを見せると、慌てた素振りで王子に向かって必死な形相で反論をした。
「っ! そ、それは当たり前でしょう……っ! 偽りなど誰もがつくものです! その偽りの理由はアズールにあるんですぞ……っ! この国は豊富な資源を有する国! いかなる偽証をする者がい多としても過言ではありませんっ! 魔法国家――ヌゥークルディレル帝国は五十年ほど前にアルテットミアを侵略しようと偽装兵を送り込み、北に位置するナーヴィスは全面戦争を仕掛けようとした! もしかすると、そこにいる小娘も他国のスパイやもしれないことを踏まえて、私は」
至極真っ当な意見にも聞こえる様な言葉。
でも王子はその言葉を聞いたとしてもその意志を曲げることはなかった。
真っ当なことを言っている反面、はたから聞けばそんなの言い訳にしか聞こえないのも理由だと思う……。
大臣さんの言葉を聞いた誰もが言い訳だろうという雰囲気を出していると、王子は更にもう一歩足を前に出そうとした時、ふと――私とヘルナイトさんの横を通る存在を目の端で捉えて、私はその方向に目をやろうとした時……、正面から声が聞こえた。
王子でも大臣さんでもない。かといって王様の声でもない声が響いた。
「その辺にしておきましょう――ディドルイレス・ドラグーン大臣」
『!』
その声が響いた瞬間、誰もが声がした方向――イェーガー王子がいる場所を見ただろう。私とヘルナイトさんも声がしたのでその方向を見ると、私は驚いた顔をしてその人の大きな背を見上げた。
王子――ではないその背を見て、大きくて強いそれがひしひしと伝わるようなその背を見て私達は驚き、そして大臣さんもその光景を見て驚きを隠せずにいた。
そう……、怒りを露にしている王子の右肩に手を添えて、その状態でがっちりと止めている心士卿さんのことを見て……。
驚いている私達とは対照的に、心士卿さんは変わらない穏やかな音色で大臣さんのことを見ながら雰囲気も穏やかなままでこう言った。
「確かに疑心を抱くことは誰もがあることですが、彼女が浄化の力を持っていることに関しましては、私と鬼不神さん、そして側近の騎士団がこのお嬢さんと一緒に行動をし、浄化の手助けをした者達からの証言が証拠となります。それに……、彼女の功績はそれぞれの国の王達が賞賛しています。この短期間にわたる浄化は本物でないとできない力でもあり、彼女と一緒に行動をする武神と一緒に力を合わせた結果ですので、疑うと言うことは彼らの頑張りを冒涜するようなことですので……、その言動を即刻撤回してくださると大変助かります」
どうでしょうか……?
そんな心士卿さんの穏やかな音色に隠された威圧のようなそれを聞いた大臣さんは、更に体をぶるぶると震わせながら強張りを見せる。
それは私も同じで、心士卿さんのもしゃもしゃに隠れるなだらかに流れるマグマのような熱と怒りを感じ、心士卿さんも怒っていると確信ができたから私は顔には出さなかったけど心士卿さんを怒らせないようにしようと思った……。
心士卿さんの話を聞いていたのか――今まで大臣さんのことを止めていたドラグーン王は大臣さんのことを見降ろし、すっと細めた目で見つめながら王は静かで冷静な音色で大臣さんに向かって言った。
「大臣。少し席をはずせ。この者達が言っていることは本当だ。そして……、これ以上の失態をすれば、それこそ貴様が言うボロボの面汚しになる」
「………………っ!」
「貴様が最も嫌うようなことだろう? そして――またもや自分の顔に汚れをつけるのか?」
「………………! くぅ!」
王は言う。
最後の意味深なことを冷たい音色で言うと、それを聞いた大臣さんははっと息を呑むような顔をして、続けてばつが悪そうな顔をしてから声を零し、そのまま掴まれている手を振り払う。
ばっと――乱雑に振り払うと、触れていた箇所から『ちっ!』という音が響く。
振り払われると同時に、王は掴んでいたその手をその場所でとどめているドラグーン王。そんな王とは対照的に、掴まれた手首を反対の手で撫でながら歯を食いしばり、ギッと王様のことを睨みつける大臣は、背中から黒と赤のもしゃもしゃを放ちながらその場を早足で後にしていく。
露骨な舌打ちを残して……。
「行っちゃった……。なんだったんだ?」
「知らないわよ。でもわかることはたった一つだけあるわ」
「あ、奇遇だなシェーラ。俺もだよ」
「僕もでーす。奇遇ですねアキさん」
「おぉ! それはなんなんじゃ?」
「おいジジィ聞くな。聞いたところで聞かなければよかったって思うぞ」
「コウガさん言い方だめですよぅ!」
「うるせぇ。とにかくこいつらの話を」
「「「あいつと接触した瞬間に奇襲」」」
「言っちまった……、言っちまったよ。うぜぇ」
「本当に聞かなければよかったっていう結果だな。ドンマイ」
その光景を見ていた誰もが、まるで嵐が過ぎ去ったかのような顔をして見ていたけど、しょーちゃんの言葉をスタートにして、しょーちゃんの言葉に対してシェーラちゃんとアキにぃ、つーちゃんが冷たい眼で言葉を発した後、心中を察していないのか虎次郎さんが驚きと陽気が混ざった顔と音色で三人に聞くと、それを聞いていたコウガさんは何かを察しているのか、呆れた目で虎次郎さんのことを静止する。
コウガさんの言葉を聞いてむぃちゃんが注意を促そうとしたけど、コウガさんはそんなむぃちゃんに対して五月蠅いと言わんばかりの顔でシェーラちゃんの言葉に対して止めようとした時、時すでに遅し。三人は大臣さんの背を見ながらはっきりとした音色で声を揃えながら言った。
なんとも怖いような言葉を……。
その言葉を聞いて、止められなかったことに対してコウガさんは頭を抱えて項垂れると、そんなコウガさんに対して同情のそれを向けながら肩を叩くキョウヤさん。
キョウヤさんの言葉を聞いていたコウガさんは、小さな声で何かを言っていたけど、その言葉を聞きとることはできなかった。
でも……、私だけはそんな顔をすることができず、何だろうか……。心の周りを這うような重苦しい何かを嫌悪感として感じながら、大臣さんの背中を見つめる。
その背から零れる、赤と黒、そして……、かすかに見える何の色かもわからないようなもしゃもしゃを……。
あの色は、一体何の色なんだろう……。
そんなことを思っていると……。
「すまない。お恥ずかしいところを見せてしまった」
と言って、ドラグーン王は私達のことを見て、そして掴んでいたその手の手首を掴んで軽く捻りながら言ってきた。
その言葉を聞いたアキにぃ達は驚いた顔をして王のことを見て、私もヘルナイトさんの手を借りながらそっと立ち上がると、王は私のことを見て、申し訳なさそうに頭を垂らしてからこう言ってきた。
「客人に怪我を負わせることをしてしまい、申し訳ない」
「い、いいえ……、このくらいはかすり傷」
「いや、それでは客人に失礼だ。謁見の間に案内をした後で医務室に連れて行くことにする。その間顔が痛いかもしれんが、少々我慢をしていただけるとありがたい」
「あ、はい……。わかりました」
ドラグーン王の言葉を聞いた私は、なんだかそのまま断ることもできず、と言うよりも、何だか王様の威圧で断るという選択肢が自動的に消去されたので、私は王の言葉に従うようにこくりと頷く。
その行動を見て、王はほっと安堵のそれを吐くと同時に、威厳を持った顔でくるりと再度踵を返すと、そのまま王宮の門をくぐって……、「――では。こちらへ」と言って歩みを進める。
王の背を見て、エドさんと京平さんもその後をついて行くように足を進めていく。小さく「なんだよあいつ……! 俺の自己紹介できんかったべ……!」と、京平さんの悔しそうな声が聞こえると同時に、その光景を見ていた王子と心士卿さんはドラグーン王の後を追うように歩みを進めてついて行く。
微かにイェーガー王子から視線を感じたような気がしたけど、王子はこっちのことを見ていない。だから気のせいだろう。そんなことを思っていると、私の近くにいたヘルナイトさんは私の顔を上から覗き込むようにして、凛とした音色で私の名を呼んできた。
その声を聞いた私ははっとしてヘルナイトさんのことを見上げると、ヘルナイトさんは私のことを見降ろし、そして凛とした音色でこう言ってきた。
「行こう――君の怪我も心配だからな」
「………はい。そうですね」
そう言って私は頬のヒリヒリした痛みと小さな格闘をしつつ、ヘルナイトさんの言葉に対して不覚にも嬉しいと思ってしまった自分に対して驚きを感じ、ぽかぽかするような気持ちを感じながら私は歩みを進める。
さっきはひどいことになりそうだったけど、今はその気持ちを切り替えて王宮に入り、そして王様から色々と聞かないといけない。
あの黒い稲妻のことや、『風』のシルフィードのこと、色々と……。
あ。その前に私は治療だった。
 




