PLAY86 国が抱えるもの③
「なら――王宮で話そう。この国で起きていることを全て」
余すことなく――な。
その言葉を聞いた後ドラグーン王は踵を返し、クロゥさんとアクルさんに破壊されたところどころの建物の修繕と、封魔石の微調整の命令をしながら歩みを帰路に向ける。
王の言葉を聞いたクロゥさんとアクルさんは即座に返事をして、背についている大きな翼を羽ばたかせて、近くで息を潜めて隠れていた人達に声を掛けながら飛行をする。
「やっぱり竜人なんだな。飛んでいるところなんて初めて見た気がする」
「ファンタジーならば見るかもしれない光景ね。でも本当の竜の時のあれは、さすがに怖かったわ」
「あ、怖かったんだ」
「………………」
「無言になった」
「とか何とか言いながらにやけるな。人の弱みを手に入れたような顔をすんな」
「そのようなことは弱者がすることじゃ。馬鹿なことをする前に己の心と体を強くする。それこそが強き者がすること」
「ほれ悟られた」
するとその光景を見ていたキョウヤさん達がクロゥさん達の背中姿を見ながら会話をしている。
竜人の姿を見ていたキョウヤさんとシェーラちゃんがその光景を見て話していると、率直な感想が出てしまったのか、シェーラちゃんの零れた本音を聞いたアキにぃはその言葉に対して質問のような言葉を返すとシェーラちゃんは無言になった。
しかも……、そっぽを向きながら。
そんなシェーラちゃんのことを見てアキにぃは弱みを手に入れたかのようなにやけ顔をしてシェーラちゃんに向かって言うと、シェーラちゃんは肩を僅かに震わせ、人魚の耳を真っ赤にさせていく……。
アキにぃの顔とシェーラちゃんのことを見てか、キョウヤさんは冷たい眼をアキにぃに向けて冷たい突っ込みを吐くと、虎次郎さんがその突っ込みに対して追い打ちをかけるように言葉を付け加えると、キョウヤさんがアキにぃに向かって再度言う。
すると――アキにぃは無言になり、シェーラちゃんと一緒にそっぽを向いていた……。
その光景を見ながら私はアキにぃのことを見て、少し恥ずかしい気持ちもありながら「もぉ……」と小さな声で呟く。
あんな恥ずかしいことをして……、そんなことを思いながら……。
すると、アキにぃ達を見ながら視界の端に入るしょーちゃん達が目に映った。
しょーちゃん達はと言うと、コウガさん、むぃちゃん、つーちゃんにひどく責められたせいでしょーちゃんの顔が何だかやつれているように見える。と言うかやつれている……。しかもさっき異常に憔悴しているような……、あれ? なんか糸人間に見えるの、私だけなのかな……?
そんな糸人間 (?)のしょーちゃんはずんずんっと歩みを進めているつーちゃん達の後を追うように、ちょこちょこと歩みを進めている。
見るからに転びそうな足取り、いや折れそうな足取りで……。
なんだかしょーちゃんのことが心配になってしまうような光景を見ていると、しょーちゃんの背後にいる人物を見て、私は首を傾げた。
しょーちゃんの背後にいたその人物は――デュランさん。
デュランさんは頭がないがゆえに表情も伺えない。と言うかわからないからどんな顔をしているのかがよくわからない。
それはシェーラちゃんやつーちゃんが言っていたことでもあり、私自身見ても分からないことがある。
けど……、デュランさんは分かりやすい人だ。
顔が見えなくても雰囲気とか、あともしゃもしゃをすぐに出すので、その感情がよく見えることがある。きっとそれができるのは私だけかもしれないけど……。
だから私はデュランさんの雰囲気の変化に気付いて、首を傾げたのだ。
デュランさんの体を纏う不安定な色のもしゃもしゃ。しかもその色は青色に近いようなそれと、くすんだ赤が混ざっているようなもしゃもしゃ。
その不安定の色が一体何を表しているのかわからないけど、雰囲気で私は理解した。
デュランさんは、焦っている。
そう思った瞬間、いつの間にか足を止めていたのか、先に向こうに行ってしまったアキにぃの呼ぶ声を聞いて私はアキにぃ達がいる方向に目をやり、再度デュランさん達に目を向けながら王宮に向かっているドラグーン王の後を追うために足を進める。
背後から発せられた言葉に耳を傾ける暇もなく――
「結局、何年経ったとしても、追いつけない……っ!」
□ □
それから私達はドラグーン王の後を追うように歩みを進めた私達は、あの黒い稲妻が消滅をした後商いを再開した露天商の人達で溢れているエドさん曰く『露店街頭』を歩いていた。
王都の出店とは違って、その場所は日に当たらないような日陰が目立つ場所なんだけど、それは太陽の向きによって変わると思うから、今の時間が日陰になる時間帯なのだろう。その日陰になっている真っ直ぐな道を歩みながら、私は辺りを見渡す。
露天商の人達……と言っても、全員が竜人で、竜人の露天商の人達は布で作った屋根と木箱の上にカラフルな布をかぶせて、その木箱の上に商品を置いたり、さっきの崩壊で崩れてしまった瓦礫の破片をどかしたりとしながら整理をしている。
すごく手慣れた様子で、せかせかと手を動かし、あのことがもう日常茶飯事のように手を動かしている。
その光景を見た私は、ヘルナイトさんの前を歩いているドラグーン王に向かって声を掛けた。
あ、因みに順番は――ドラグーン王が一番最初。その次にヘルナイトさんで次が私。私の後ろはアキにぃ、虎次郎さん、シェーラちゃん、キョウヤさんと言う順番。しょーちゃん達は見えないからわからないけど、エドさんはどうやら最後尾を歩いているみたい。その最後尾の前は王子と心士卿さん。
だって……、後ろから声が聞こえるから……。
その順番の中、私はヘルナイトさん越しにドラグーン王のことを体を傾けな柄見て、おずおずと言った形で呼ぶと、ドラグーン王は私の方に目を向けるように首を回して見ると、「なんだ?」と言葉を返す。
私はその声を聞いて、ドラグーン王のことを見てから辺りに並ぶ露店を横目で見ながら私は聞いた。
「あの……、ここにいる露天商の皆さん、すごく手慣れた手つきで掃除していますけど……、もしかしてあんなことが起きたらいつも……、なんですか?」
「ああ。まぁそうだな。もう慣れてしまっている傾向もあるな。なにせこんなことが毎日一回来るんだ。慣れない方がおかしいかもしれないが、慣れてしまった方がおかしくなってしまっているのやもしれんが、今回は異例の二回目だったからな……、警戒を怠ってしまった。不甲斐ないところを見せてしまったやもしれんな」
「慣れ………」
「左様だ。このようなことは毎日一回起きる。しかもそれは二百年前からずっとだ。そうなってしまえばどの竜族も、この国に住んでいるものにして見れば――この凄惨な事態がもうすでに日常茶飯事と認識をしてしまうものだ。拙僧はそのようなことはないと思っていたのだが、どうやら拙僧自身見くびっていたようだ。なんとも恥ずかしいところを見せてしまった」
私はそれを聞いて、言葉を失いながら絶句の顔をしてドラグーン王の横顔を見た。
ドラグーン王は辺りを見渡しながら言葉を発しているけど、その横顔を見ながら私は王の言葉に対して愕然と絶句、そして……。
納得をしてしまった。
何故そう思ったのか。その理由はドラグーン王が言っていたことを聞いたから。
私達は今回初めてだったから対応も何もできない状態だったけど、ドラグーン王含めたボロボ空中都市の人達はこのような体験を一日一回している。今回は二回だったから警戒を怠ったと言っているけど、こんなことを毎日一回味わう恐怖は凄まじいもの。
あの黒くて太くて、当たったら即死してしまいそうな雷を目の当りにする。
それは何度も何度も死を体験するのと同じ。私達が突然体験する恐怖と同じ。日常が突然非日常の不幸になるのと同じような体験を何度もするのと同じなのだ。
こんなことが毎日起きる。そんな体験私には耐えられないと思う。
だけど……、人間と言うものは……、あ。違う。この国の人達は竜人だ。竜人だけど結局は人間と同じなのだ。
ドラグーン王の言う通り、人間と言う存在は、生きている人と言うものは恐ろしい存在だ。なにせ――心を持つ存在は慣れる存在でもあるから。
慣れてしまったらその恐怖でさえも恐怖でなくなってしまう。死ぬかもしれない恐怖も次第になくなっていく。つまりは何度も死ぬかもしれない体験をして、何度も九死に一生を終える様な、そして死なないような体験をしてしまうと、また来たとしても死なないから平気だろうと思ってしまう。
死ぬことはないと認識をしてしまうと言うこと。
そのことをドラグーン王の口から聞いた瞬間、私は納得をしてしまったのだ。
みんなこんなことを何度も体験して、危機感が怠っている。死ぬかもしれないようなことに慣れてしまっていると。
それを聞いた瞬間、私は納得をしてしまった。と言うか、私自身そうだと思ったから。
この世界に来て――このゲームの世界に閉じ込められた時は恐怖のあまりに怖いと言う感情が心を支配していたはず。でも今はそんなことはない。むしろ――みんなと一緒に旅ができて楽しいと思っている自分がいる。
更に言うと――死ぬことに対しても恐怖を感じていない自分がいる。
それに慣れてしまっている自分に、私は私自身に恐怖を覚えた。ぞくりと――背筋を這うものを感じた。
私自身そんなことはないと思っていた。頭の片隅で持っていたかもしれないけど……、人間離れる生き物。少しずつ適応していく生き物。年月が経てば違和感も無くなる。この世界に対して順応してしまう。この世界の異常性に慣れてしまっている自分がいることに対して、私自身もここにいる人たちと同じだと思ってしまったのだ。
だから私は納得してしまったのだ。
同じで、やっぱり私もその一人にすぎないんだと。そう思ってしまった。
「あんなことが毎日……、普通なら考えられないことね」
「あれが毎日となれば俺も肝が据わるどころか引いてしまいそうになるな……。あの落雷が毎日一回――普通に考えると自然災害が毎日起きるようなことだからなー」
「お前ら案外平然と言えるんだな。こんなこと毎日起きていたら普通は頭イカれるだろうが。そのくらい分かれ」
「「う……」」
するとドラグーン王の話を聞いていたシェーラちゃんとアキにぃが首をひねりつつ、毎日あんなことが起きていることに恐怖すら覚えるような面持ちでいると、その言葉を聞いていたコウガさんが私が思っていたことを言う。
言葉や想いは違うけど、それでも同じようなことを聞いてか、二人はうっと唸るような声を上げて頭を垂らす。
やっぱりコウガさんも私と同じことを思っていたのか、呆れるような溜息を吐いてアキにぃ達のことを見ながら頭をがりがりと掻くと、その光景を見上げてとてとてと歩いていたむぃちゃんはコウガさんに向かって――
「? どういうことなんですか?」
と聞くと、それを聞いていたコウガさんは何も言わずに前を見据えて歩く。その光景を見て、むぃちゃんはむすっとした顔をしてコウガさんの足を何度も何度も猫の手でパンチをして「何なんですか教えてくださーいっ」と抗議をしていた……。
不覚にも、その光景を見て可愛いと思っていた私は、さっきまであった負の感情が少しだけ、本当に少しだけ緩和されたので、私は心の中でむぃちゃんにお礼を述べた。
すると……。
「王様! 今日は災難ですね。あの雷が二回も来るだなんて!」
「ああ、拙僧も気を抜いてしまっていたやもしれんな」
「それはそれは! あ! それでしたらこのマルグルィ鳥の胸肉どうですか? 疲労にもいいそうですよ! 差し入れでどうぞ!」
「おぉ。これはこれは新鮮な。ありがたくいただこう」
王のことを見ていた肉を売る露店の竜人が王様と少し話をすると、薄ピンクの肉の肌が丸見えになっている大きくてぷりぷりしている鶏肉を布に包んでそれを差し出してきた。
ずずいっと笑顔で、差し入れとしてそれを差し出すと、それを見て聞いていた王はふっと微笑んでそれを布越しで受け取る。
そんな王の言葉を聞き、満面の笑みを浮かべた露店の店主の背後からもう一人の竜人――見るからに女性の竜人が顔をひょっこりと出して、手に持っている野菜を五房ほど持ちながら駆け寄ってきた。
現実の世界で言うところの青梗菜を手に持った状態でその竜人は王に駆け寄りながら――
「王様! これ今日収穫できたカルティラッカ草です。今日の前菜に」と言うと、それを聞いたドラグーン王はそれを手に取って「ああ。料理長に頼もう」と言ってそれを難なく手に収める。
鶏肉や青梗菜を手に収めながら歩む王を見ていると、周りではドラグーン王のことを呼びながら安心の笑みや元気づけるような声を掛けている竜人の人達。子供達もその中に入って「おうさまーっ!」と言いながら笑顔を向けている。
その笑顔を見て、王は声を掛けている竜人の人質に向けて威厳を持ちながらも安心するような笑みを浮かべて手を振ったり声を掛けたりとしている。
その光景は今まで見てきた王様とは違って、何と言うか、フレンドリーに近い……。ううん。これは信頼の証に近いそれだ。
アルテットミアでも王様のことを信頼している人達はたくさんいた。それと同じように、この国の人達はドラグーン王のことをすごく信頼しているみたいで、もしゃもしゃからでもその気持ちが強く伝わった。
アクルさんやクロゥさんと同じように、心の底から信頼しているそのもしゃもしゃを。
「……………………すごい信頼」
私は心の中で思ったことを口にして言うと、それを聞いていたヘルナイトさん私の上から凛とした音色でこう言ってきた。
「ああ、この国の者達はドラグーン王のことを心の底から信頼している」
「!」
ヘルナイトさんのその凛とした声を聞いた私は顔を上げてヘルナイトさんのことを見ると、ヘルナイトさんは私のことを見降ろしつつ、歩みを続けながら私のことを見降ろして続けてこう言う。
「この信頼はたった数年で築き上げてきたものではない。この信頼は、何百年もの間生き続けているものにしか得ることができない信頼でもある。人間族の王でも、エルフの王でも、ましてや――私みたいな魔王族であろうと、竜族のように長く生きれるものはそうそういない」
「へ、ヘルナイトさんみたいな魔王族でも……、長くないんですか?」
「ああ。私の今の年齢は大体千二百歳。人間年齢で言うと二十歳だが」
「えっ?」
何かを伝えるために言葉を交わすヘルナイトさんだったけど、私は一瞬目を点にしてヘルナイトさんのことを見上げて素っ頓狂な声を上げてしまう。
その声を聞いてヘルナイトさんは首を傾げながら私のことを見て私の名を呼ぶけど、私はそのことに関して慌てながら「だ、大丈夫です……! 気にしないでください」と言うと、ヘルナイトさんは私の言葉に対して、渋々と言った形で頷く。
でも……、私は未だに驚きを隠せない気持ちを必死に控えめな顔に隠しながらヘルナイトさんのことを見上げるけど、ヘルナイトさんの言葉から零れた千二百歳と言う言葉に驚きを隠せないでいた。と言うか……、それでアキにぃ達と同じ人間年齢って……、どうなっているんだろう……、魔王族。
そんなことを悶々っと思っていると、ヘルナイトさんは私のことを見降ろし、再度話を戻すようにこう言ってきた。
「そして、竜人族は最高五千年生きると言われている存在。そしてその中でも最年長でもあるドラグーン王は始祖の時からずっと王の座を守ってきた最古の王だ」
「さ、最古の、王様」
「ああ。だからなのだろうか、長い間始祖王のことを見ている人にとってすれば、王の存在こそが絶対の安心を得ているのかもしれないな。私と比べれば、ドラグーン王はとてつもない年上、そして人生において年長者と言える存在だ。これは長年積み重ねてきた信頼の証と言うことになるな」
人生の年長者。長年の信頼。
その言葉を聞いた私は、再度ドラグーン王の背を見つめる。
王は今もなお竜人の民から貰ったものをその手に収めようと奮起をしている。
その光景を見ながら小さい竜人の子供や老人の竜人が安心した笑顔を向けているそれを見て、私はヘルナイトさんの言葉に対して納得をした。
ドラグーン王に対する信頼は偽りもない真実。
国の人達のもしゃもしゃを見ても、さっきあんなことがあったにも関わらず安心と信頼を寄せているそれを出して、そのもしゃもしゃを王に向けている。
それは王のことを信じている証拠。
王のことを心の底から信頼している証拠。
これからどうなるのと言う不安も、さっきの脅威に対しての恐怖も感じさせない。ううん――その恐怖も王が何とかしてくれる。王がすべてを終わらせてくれる。この恐怖をなくしてくれる。自分達は何千年も生きる存在だから、長い長い時間は慣れている。
きっとその間に終わらせてくれる。
それを信じているからこそ、安心して王にその命を預けることができるという意思が、遠くからでもひしひしと感じられる。国にいる人たちの中に反乱分子が一人もいないような空間を作っているかのように……。信頼と言う温かい絆が、もしゃもしゃが伝わってきた。
そんな絶大な信頼を得ているドラグーン王を見て、今まで見てきた王様たちとは一味違う風格を感じた私は……、王のことを見て、そしてヘルナイトさんのことを見ずに、ヘルナイトさんに向かって言葉を零す。
「すごいですね……。ドラグーン王は、長い間この国を、守ってきたんですね」
「ああ。ずっとな。私も思うよ」
すごい人だと。
そう言うと、ヘルナイトさんは私の頭に大きくて温かい手を『ぽすり』と置く。
その温もりと重みを感じた私は、その手の重みとぬくもりを感じながらヘルナイトさんのことを見ずに歩みを進めていく。
ヘルナイトさんの言う通り、本当にドラグーン王は凄い人なんだと思いながら……。
そして――背後から聞こえる『グギギギギギギッ!』と言う久し振りの声と、キョウヤさんとシェーラちゃんの静止の声に困惑しているしょーちゃん達の声を聞きながら、私達が歩みを進めていくと――ようやくなのかは分からないけど、ボロボ空中都市の王宮に着いた。
王宮はやっぱり竜の背中から見ていたその外観と同じで、白で統一されたアラビアンな外観が私達の目に焼き付く。
その光景を見ていると、ドラグーン王は手に収まりきれなくなっている鶏肉や青梗菜、あとそのあとからも差し入れとしてもらったものを門番に手渡して……。
「この材料を今日の宴に使ってくれ。この者達と、王都の王子と元『鋼帝』をおもてなしに使え。ふんだんにな」
「はっ!」
と言って、門番の人は手に収まり切れないその差し入れを尻尾も使って王宮の中に持っていく。
器用に赤黒くて重そうな門を開けて、そのまま開けた状態でせかせかと足を動かして王宮の奥に消えていく……。
きっと、厨房に向かっていると思うんだけど、ドラグーン王の言葉を聞いたしょーちゃんは興奮した面持ちでドラグーン王の背後に回って張り切っている顔でこう言ってきた。
正直――下心が丸見えな顔で、荒い息使いをしている顔で……。だ。
そんな顔でしょーちゃんはドラグーン王に向かって聞いてきたのだ。
「え? え? え? もしかしてその宴って、今夜やるんすか? マジでやるんすか? 盛大にっすか?」
「きったねえ顔」
「厭らしい心が浮き彫りになっていますね。ショーマさん気持ち悪いです」
そんな汚いしょーちゃんを見て、つーちゃんは心底汚そうな見下し方をして吐き捨てると、むぃちゃんも汚いという顔をしてしょーちゃんのことを見つめている。
コウガさんは何も言わないけど、すごく冷めた目をして見つめているので、気持ちはつーちゃんと同じ気持ちなのだろう……。
私はそんなつーちゃんを見て、心の底からしょーちゃんの顔が汚いと思ったのは、これが初めてだった……。
でも、それでもドラグーン王はしょーちゃんのことを見て威厳を盛った笑みを浮かべながら王は言う。
「ああ、楽しみにしててくれ。話が終わった後――夕方時に宴を始めようと思う。ちょうどいい肉も仕入れたからな」
「おぉー! あの鶏肉ですねっ! 鶏のから揚げかな? それともクリスマスの時に出る丸焼きみたいなものっすかねっ!?」
王の言葉を聞いていたしょーちゃんは、口の端から汚らしい涎をだらだらと流しながら目をぎらぎらと光らせている。きっとあの時貰った鶏肉がどうなるのかを想像しているのだろうけど……、そんな光景を見ていたのか、シェーラちゃんのどす黒い声が私の耳に入ったけど、私は聞いていないふりをする。
背後から聞こえた……、『宴と聞いた瞬間にただ飯ぐらいをするとか、最低』と言う言葉を何とか無視をして……。
そんなことを思ったその時………。
「ちげーべよ。今日の宴のメインは遠くで取れた魔物の肉を大量に使った料理だべ。その肉はここいらでは格別にうめーんだべよ」
私達の会話を聞いていたのか、門番が開けた門の向こうから 一人の男性がつかつかと歩みを進めてポケットに手を突っ込んだ状態で私達がいるところに向かって近づいてきた。なんとも訛りがある言葉で。
かつかつかつと――門番の人とは対照的に、薄暗い王宮の中から、少しずつ姿を現してくるその人は、私達のことを見ながら「けけけ」と言う声を上げて近付くと、私達にその姿を現して、ポケットに手を突っ込んだ状態でその人は私達のことを見つめる。
黒い長髪を足のかかとまで伸ばして、オールバックにして白いヘアバンドで止めている、黒い革製のジャンバーと黒いジーパン、黒いショートブーツに黒いチョーカーと言った黒で統一されている服装で吊り上がった目が印象的な、性格が悪そうなその男の人は――私達のことを見て一言……。
「ようこそボロボへ、だべ」
その言葉を聞いた私は驚きつつもなんだか怖い印象を植え付けてくるその人のことを見て、おずおずとした面持ちで頭を垂らし、頭を下げた後、私は「よ、よろしくお願いします……」と言葉を交わすと、その言葉を聞いてか、その人はけらけらと笑って「おう!」と言葉の返答をする。
でも、その言葉を聞いてというか……、その人の雰囲気のせいなのか……、アキにぃはなんだか敵意を剥き出しにした面持ちでその黒髪の人のことを睨みつけ、コウガさんもその人の顔を見て吊り上がった目に対抗するように (本人はきっとそんな気は一切ないと思うけど、見た限り睨みつけている)じろりと睨みを利かせると……。
「ちょっとちょっと待ってっ! この人はそんなに悪い人じゃないんだっ! 視た目で騙されやすいと思うけどいい人なのっ! 不良学生と同じあれなのっ!」
突然後ろにいたエドさんが私とその人の間に入り込み、その人のことを庇うように両手を振ると、エドさんは必死な形相で真剣な音色で私達に向かって言う。
エドさんの背後にいる人が悪い人ではないことを証明する言葉を……。
「この人はおれの友達で、ちょっと助兵衛なところがあるけどいいやつなんだっっ!」
「うぉいエドこの野郎! その言葉のせいで女性人の目が一気に冷たくなったぞこの野郎っ!」
うん。
驚愕の顔で突っ込みを入れた黒い髪の人の言う通り、エドさんの『助兵衛』と言う言葉を聞いた瞬間、シェーラちゃんとむぃちゃんのもしゃもしゃが氷のように冷たくなっていったのを感じた。
それと同時にアキにぃの空気も冷たくなった気がするけど、エドさんはそんな私達に気付いていないような面持ちで続けて言う。
背後で慌てながら静止をかけている黒髪の人のことを無視して……。
「それにこの人はおれの大親友でメンバーの仲間なんだっ! 信じて――お願いっ!」
「!」
私は目を見開いてエドさんのことを見る。エドさんの『メンバーの仲間』と言う言葉を聞いた瞬間、さっきまで冷たいそれが流れていたその空気が幾分か温かくなるのを感じると同時に、私は首を傾げながらエドさんに向かって……「仲間……、と言うことは、まさか」と聞くと、エドさんは頷きつつ、自分の背にいるその人のことを手で指をさしながら私達に紹介を始める。
「そう。他にも仲間がいるんだけど、先に紹介しておくね。彼は京平。おれ達『レギオン』の一員で、『ワイバーン』の魔獣族なんだ。きっとこれからも京平の力は必要不可欠だと思うから、おれから先によろしくって言っておくよ」
「いや――おめーのせいで俺最悪の第一印象になったんだと思うべ。おめーのせいだってなんで気付かねーんだべ?」
エドさんの言葉を聞きながら、黒髪の人――京平さんは怒りを露にした顔でエドさんのことを見つめる。
見た限り、そこまで強くないような印象を見せている京平さんのことを見て、疑念を持った顔で見つめているみんなとは対照的に私は驚きの顔を浮かべながら京平さんとエドさんのことを見つめる。
内心――この人がエドさんの仲間なの……? ぱっと見悪人みたいな印象なんだけど……。という疑問を胸の内に秘めながら……。
するとそんな私の心境を無視しつつ、疑念を持った顔で見ていた虎次郎さんが京平さんのことを見てこう言った。
「うむ! 京平だな! 覚えたぞ」
「おいおっさん。インプットし直すべ。俺の名は『きょうへい』でもなければ『きょうべい』でもねえ。俺の名は――『きょうべぇ』だべ」
「キョーベー?」
「きょうべぇ! ちっちゃい『え』がポイントだべ!」
あ、きょうべいじゃなくて、きょうべぇさんなんだ。
虎次郎さんときょうべぇさんの言葉を聞いて、その言葉に対してシェーラちゃんが首を傾げながら聞くと、その言葉に対しても反論をして注意点を細やかに指摘をして言ってきた。
その名前に対してしっかりとした正解の名を告げるように――きょうべぇさんの声が門の前で一際大きく反響をしていたのは、言うまでもない……。




