PLAY86 国が抱えるもの②
私は見た。
視界に広がる大きな大きな黒い渦巻雲を。
私は見た。
渦巻雲の目から覗いていた小さな光を。
私は――見てしまった……。
その渦巻雲の……、台風の目のようなところから一瞬の内に出てくる、太くて大きな、黒い稲光を。
□ □
その黒い稲光を見た時、みんなも私と同じようにその場の異変に気付いて私と同じように上を見上げていた。そして驚愕のそれを顔に出して固まってしまっていた。
アキにぃも。キョウヤさんも。シェーラちゃんも。虎次郎さんも……。
しょーちゃんも。つーちゃんも。コウガさんも。むぃちゃんも……。
エドさんも。イェーガー王子も……。
みんながその光景を見て驚きの顔を剥き出しにして、上空を見上げたまま固まってしまっていた。
逃げるなんて気にもなれない。
ううん。それをしたところであんな大きな稲妻から逃げることなんてできないと思っているのかもしれないし、単に逃げるという選択肢が消えてしまっているのかもしれないけど……、その稲妻を見た瞬間誰もが思うだろう。
あ、これは死んだ。と……。
私だって思った。一瞬思うと同時に、稲妻が私達……、ううん。この空中都市の中心に落ちていくその様子を見ながら思った。
この国はもしかしたら、崩壊してしまうのでは?
もしかしたら私達はおろか、この国にいる人達も死んで、ジ・エンド?
そんな最悪の想定の妄想がどんどん頭の中に思い浮かんで、逃げれるんじゃないか? いや、できなかった。
色んなプラスなこと、ポジティブなことが思い浮かばなかった。
ポジティブな思考がネガティブによって覆い被さってしまい、溶けてなくなる様な気持ちがどんどんと湧き上がってしまう。
簡潔に言うと――最悪なことしか思い浮かばない。である。
でも、それはみんななのかもしれない。キョウヤさんは電気に耐えれる体質だから大丈夫かもしれないけど、私達は耐えれないかもしれない。じゃない……、即死してしまうような稲妻だ。
受けたくなくても落雷の速さは光の速度並。一瞬のうちに感電する。
今現在は私が思考をしているせいかスローモーションに見えるけど、目に見えるものがスローモーションになると言うことは、死ぬ前に時間が遅くなるというどこかから出てきた法則と同じ。
つまりこれは……、死亡してしまうというフラグ。
死亡フラグなのだ。
長い間こんな風に話しているけど、すでに黒い稲光は――稲妻はどんどん私達に向かっている。落雷の様に落ちて来る。その距離は分からないけど、それでもこの時間が元の時を刻んでしまったら……。
そう思ってしまい、私はそのネガティブをかき消すように、死ぬかもしれないというその思考を消しながらどうやったらこの状況を打破することができるのかを必死になって、硬直しながらも脳だけはフル稼働させて思案する。
スローモーションになっているという状況を利用して私は打算する。
この状況を打破する術を。
――稲妻が来る。どうにかして逃げる? 全速力で逃げる?
無理だ。落雷の速度は光並みの速度、一瞬で感電する。そんなことできるわけがない。
――キョウヤさんに向かって叫んで、あの雷を受けてもらう?
だめ。そんなことをしてもしキョウヤさんが大怪我をしてしまったらどうする。キョウヤさんが死んでしまったらだめだ。そしてむぃちゃんもだめだ。あんな小さな体であれ防いでしまえば、大けがなんて言う問題では済まされない。
――土属性の魔法で退いてもらう?
それでうまく言えばいいけど、ここにいる魔導士はシェーラちゃんとつーちゃん。でもシェーラちゃんは水属性吸収、氷属性に耐性があるけど、雷属性は弱点と言っていた。つまり彼女にそのようなことをさせると言うことは『死んでくれ』と言っているようなものだ。つーちゃんも土属性系の魔物を使役しているかわからない。
――私が持っている『盾』スキルでなんとかする?
私が使える『盾』スキルで、この状況で使えるものは――『電撃囲強盾』しか使えない。
もしその『盾』のスキルを使ったとしても、絶対に防ぐことはできない。どころか壊れるだろう。だから使えない。
色々と思考をした結果……、私が今できることは全然ない。むしろ、何もできない。これだけスローモーションの中考えてみたけど、何も思案どころか何にも思いつけない。
つまり――お手上げ状態。
何もできない中、非常にも稲妻は私達に向かって落ちていく。どんどんと、私達に向かって落ちていき、この場所にいるすべての人達を殺す勢いで、稲妻は落ちていく。
真っ黒くて、まるで黒い刀身の様に落ちていくその様子は、さながら処刑の様。
その風景を見ながら、何もできないという苦痛を味わう私は、何もできないままぎゅっと唇を噤み、そして奥歯を噛みしめて顔を苦痛に歪ませてしまう。
何もできないという状況に嘆くしかできないのに、苦痛に歪ませながら、私は見上げる。どんどんと私達に向かってくるその稲妻を…………。
落ちて来る時を見上げながら私は思った。もう終わりと嘆くのではなく、まだ終わっていないのに、こんなところで……。
死にたくない。
それだけを一心に思った。
瞬間だった。
□ □
――バチィッッッ!
『――っ!?』
突然だった。突然上空から鼓膜が破裂しそうな音が聞こえ、その真下にいた私達の顔を苦痛に歪ませ、それと同時に驚愕に染める。と言うか……、驚愕の方が大きくて、耳を塞ぐことすら忘れてしまっている状況。
私は当たり前として、アキにぃやキョウヤさん、シェーラちゃんに滅多に驚かない虎次郎さん。
お互いのことを抱きしめ合って茫然としているつーちゃんにしょーちゃん。そして驚いた顔をしたまま固まっているむぃちゃんに、そんなむぃちゃんのことを庇おうとしているコウガさん。
あろうことか……、ヘルナイトさんとデュランさん、心士卿さんにイェーガー王子も驚きの顔をしたまま固まっている状況だ。
唯一驚きを見せていないエドさんは、安堵の息を吐きながら上空を見上げ、そして――なぜかこの場所に落ちてこない黒い稲妻を見上げながら彼は安堵の音色で言う。
「間に合ったんだ。良かったぁ~」
その言葉と同時に、上空を見上げ、片手に角笛を持ったまま立っていたドラグーン王は、ふぅっという安堵のそれを吐くとともに、溜息交じりの声で王は言う。
その上空で、私達に向かって落ちてこようとしている黒い稲妻が、透明ななにかによって止められて『バチバチバチッッッ!』という音を出しながら何かを破壊しようとしている。
私達のことを守るように――私が出すスキル『強固盾』のような、薄黄色い半球体のようなものが、黒い稲妻から私達のことを守っている。
その光景を見上げた私は、さっきまで思っていたことがなんだか馬鹿らしいと言うか……、さっきまでの試案が無駄な行動に思えた瞬間、私と同じように見上げていたアキにぃ達が驚いた音色でこう言う。
「なんだこれ……」
「何が一体どうなっているんだ……?」
「もしかして……、これって魔障壁みたいなものなのかしら……? ハンナの『盾』スキルのようなものが出て、私達のことを守っている?」
「もしやと思うが、はんな。おぬしがこの障壁を張ったのか?」
「え?」
アキにぃとキョウヤさん、シェーラちゃんと言う順番で驚きの言葉が私に耳に入っていくと同時に、虎次郎さんが驚きの顔を表情に出しながらも、冷静な面持ちでもしやと言う仮説を証明するためなのか、虎次郎さんは私に向かって聞いてきた。
その言葉を聞いた私は、今まで茫然としていたその面持ちから驚きの顔に変換し、肩をわずかに震わせ、驚いた声で背後にいる虎次郎さんを見る。
私の視界に入る世界――それは虎次郎さんは私のことを見て疑念と驚きを浮かべている顔と、上を見上げたまま固まっているアキにぃ達。しょーちゃん達も同じように固まっていて、この世界の住人でもあるイェーガー王子と心士卿さん、ヘルナイトさんとデュランさんは、真上に広がる障壁を見ながら驚きのもしゃもしゃを出して固まっている。
その光景から見るに、ヘルナイトさん達もこの光景は初めての光景なのだろう。
唯一知っているであろうエドさんとクロゥさん、そしてアクルさんとドラグーン王は、私達とは対照的に真上に広がるその障壁を見て安堵のそれを吐いている。もしゃもしゃもその色で、心の底から間に合ってくれて本当に良かったというそれがひしひしと伝わる。
その光景を見ていた私は、一体何がどうなっているんだろうと思いながら虎次郎さんに向かって、質問の返答でもある言葉を吐く。
「いいえ……。私は何も」
「ぬぅ、そうか……。ならばこの薄っぺらい壁は……」
私の返答を聞いた虎次郎さんは唸るような声を出して再度上空に出ている魔障壁を見上げる。
魔障壁は現在進行形で黒い稲妻から街を守ろうと『バチバチッ!』と音を立てて拮抗を保っている。
時折『バチィッ!』と稲妻の破片が町から零れ、周りにある雲を貫くように突き抜けていく。突き抜けた瞬間、雲には小さな穴が開いて、その光景を見ていた私は、再度あの雷に当たったら死んでしまうと言うことを認知する。
あの黒い雷は危険だ。そう思っていた時――
「ああ、壊れるっていう不安はあるかもしれないけど、大丈夫だよ」
「!?」
また突然だった。突然声が私達の背後に響いたのだ。その声を放ったのは――未だにマイペースを維持していたエドさん。エドさんは私達のことを見ながらも上空に広がる障壁を見上げると、エドさんはマイぺーしを維持した音色で上空の障壁を指さしながら説明を始めたのだ。
こんな緊迫した状況の中――マイペースを維持した音色で、彼はこの状況では似つかない説明を始めだした。
「この障壁はね――この国の周りを飛んでいる鉱石から発せられる防壁で、この鉱石があるからこの国がこの状態を維持することができると言うか……、壊れずにいるって言ったほうがいいのかな。まぁあれのおかげでおれ達は無事ってことだけは言えるね」
そう言いながら、エドさんはすっと慌てず、騒がずの様子である方向に向けて指を指した。
エドさんが指さした方向に向けて、私は首を動かしながらその方向に視線を向けると、その視線の先には――竜に乗っていた時に見えた真っ白くて大きな結晶が眩く光り出している光景。
その結晶を見た私やアキにぃ達は驚きの声を上げながら言葉にすることもできず、そのまま驚いた顔のまま固まってしまう。あの白い結晶が私のことを守っているのか。そんな疑念が沸き上がりそうな気持を抱きながら……。
そんなことを思っていると、ヘルナイトさんはそれを見て、そしてドラグーン王のことを見てからヘルナイトさんは凛としているけど、驚きの音色が勝っているような音色で聞いた。
本当なのか。その気持ちを出すように、ヘルナイトさんはドラグーン王に聞く。
「まさかと思いますが、あれは……」
「ああ、察しの通り――あれは封魔石だ。魔王族が最も嫌う物でもあり、あの稲妻を止める唯一の鉱石。あの石がある限りこの国があの稲妻で崩壊することはまずありえん。はずなのだが……」
そう言いつつ、上空をふっと見上げたドラグーン王は、そのあと神妙で、少しだけ不安を帯びている音色で見上げたまま言って、少しの間無言を貫く。
私達プレイヤーは、あの大きな白い鉱石がまさか封魔石だったことに驚き、改めて封魔石の力に驚くことになった。そして同時に、今まで見てきた封魔石は黒いものだったから、白い封魔石があることに対しても驚いてしまったけど……、ドラグーン王の顔を見て、不安そうなもしゃもしゃを見た私は、なぜ不安そうにしているのだろうと思いながら首を傾げた瞬間、ドラグーン王は言ったのだ。
未だに『バチバチッ!』と言う音を発して、黒い稲妻から私達のことを守っているその障壁を見ながら、ドラグーン王は言う。
はっきりとした音色で――言ったのだ。
「今回はどうなのか……」
「? 今回は、とは?」
そんなドラグーン王の言葉を聞いたヘルナイトさんは、首を傾げながらその言葉の心意を聞こうとしたその時――今まで拮抗を保っていたその状況に変化が出始めた。
『バチバチバチッ!』と言う電撃の音が出て数分経った頃だろうか、未だに障壁と稲妻が拮抗を保つように互いの力をぶつけあっている。
最強の矛と最強の盾がそれぞれの力を存分に出し合っているような風景がこれからも続くと思っていたその時、その風景も呆気なく終わりを迎えたのだ。
びしり! と……、封魔石で作られた障壁にひびが入った瞬間――空気が凍り付くのを感じた。
「え?」
誰かがそんな声を上げたような気がするけど、その声の人物がだれなのか、そのことを考える暇も余裕もないので、その声を出したのがだれなのかは今は詮索なんてしない。ううん。できない。
ゆえにその声のことに関してはおしまい。
おしまいと思うと同時に、罅割れたその障壁から、どんどんとその罅割れの音が聞こえてくる。ビシビシビシッ! と、その音が大きくなると同時にその罅も大きくなって、私達の不安をどんどん大きくしていく。
「なんだよあれ……っ!」
「封魔石って壊れないんだろ……っ! なんで壊れるんだよ……っ!」
少し遠くでアキにぃとキョウヤさんの声が聞こえる。これだけはしっかりと聞き取れた。しっかりと認識することができた。けれど、そんな認識よりも私は、上空で起きている状況に固唾をのむ……。ううん、最悪の想定を頭の片隅に入れながらその最悪が起きないように願う。
このまま割れて、私達に落ちてこないで。人に落ちないで――そう願いながらその場から逃げようと足を動かそうとした。その時……。
バチィッッ! バキィンッッ! ビリィッ!
轟音に近いような雷の音とガラスが割れるような音が同時に聞こえた瞬間、その黒くて大きな稲妻はその障壁を壊すことで力使い果たしたのか、一部を除いてそのまま障壁を壊すと同時に黒い靄となって消滅をしていく……。
障壁もそのまま黒い稲妻に相殺されたように、障壁だった欠片はそのまま地面に落ちていく。
けれど、その欠片は地面に落ちることなく、そのまま空気に溶けるように白い靄となって消滅をしていく。もちろん――その破片が地面に落ちる前に、だ。
その光景を見つつ、今までの緊迫が嘘のような光景を一部を除いて目の当りにしながら、嵐のような静けさの中で突然終わり、先ほどまで起きていたその上空を見上げる。
本当に、あんなことが起きていたのかが嘘のような青空。曇り空が嘘のような光景だった。
そう。一部を除いて――
みんな誰もがその光景を見て、相殺されたと思っているかもしれないけど、私だけはその音を聞いて、そしてその光景を見て、まだ安心できないと思った。まだ相殺されていない。あの黒い稲妻は生きている。そう確信をしつつ、それが飛んで行った方向に慌てて目をやる。
私から見て――右斜め下に向かって行ったそれを。
なぜこんなことをするのかって? 私自身は目はよくもなければ悪くもない視力だけど、その時だけはしっかりと見えたのが事実で、その前にも現象が起きていたから、それを目で追っただけ。
え? そんなこといつ起きたかって? それは、多分聞いているだろうけど、一応念のためにこの場でもう一度言おうと思う。
あの黒い稲妻は、本当に障壁が壊れると同時に力を使い果たしたのか、そのまま黒い靄となって消えてしまったけど、障壁が壊れると同時に、何かが聞こえたと思う。
そう――『ビリィッ!』と言う音が聞こえただろう。
それは……、黒い稲妻が障壁を壊すと同時に、資産をした時に発生した小さな小さな稲光。小さな小さな静電気と思ってほしい。それが障壁が破壊されると同時に、たった数センチほどの黒い静電気は壊れてしまったその障壁の向こう――つまりはこの国に入って行ったのだ。
小さな虫が隙間に入る様な素早さで、それは私から見て右斜め下に向かって急速な速度で迸ってく。
びりびりと、黒い静電気を走りながら、それは私の視界から消えると同時に……。
ドォンッ! と――遠くで何かが壊れるような音が聞こえた。
『――っ!?』
「にゃぁっ!」
「んだぁっ!?」
その破壊音はみんなにも聞こえたらしく、その音を聞いた瞬間むぃちゃんは猫の耳を両の手でしっかりと塞いで悲鳴を上げると、コウガさんもその破壊音を聞いてあたりを見回した時、また遠くから鈍い破壊音が聞こえた。
ドォン……。ドォン……。ドォン……。
均等感覚に聞こえる破壊音。破壊音は最初こそ大きかったけど、その痕は聞き耳を立てないと聞こえないほど小さな破壊音だったけど、それがどんどんと大きくなっていく破壊音。
まるでドミノ倒しのように聞こえてくるその音と同時に、辺りに広がる小さな土煙。
それを見ていたヘルナイトさんは、強張るような音色で「あれは……」とこぼすと、それを聞いていた私も首を傾げつつも、不思議と心の中にある嫌な予感が心臓の外側に纏わりついて、黴汚れの様にこびりついていく。
どんどんと大きくなる破壊音と、土煙がだんだんこっちに向かって近付いて行く光景を目の当たりにしながら……、私は見つめる。何もできないまま、仁王立ちになった状態で見つめる。
「あれ?」
「あれ……、まずいんじゃないの?」
「てか、なんかとんでもないことが起きそうな気がする」
「いいや、完全に来るやもしれんぞ? なにせ、この音――どんどんとこっちに近づいて来ておるからのぉ」
「それを言うな。現実逃避させてくれって言いたけど、今回はそんなこと言えねえな……。マジで本当に近づいてきているし」
どんどんと近付いて来る破壊音を聞きながら、土煙が舞うその光景を見ながら、アキにぃとシェーラちゃん、キョウヤさんに虎次郎さんが困惑と僅かな不安を顔に出したそれで見上げている。
頬を伝う汗を拭わないまま、仁王立ちになって、目をぱちくりとさせながら……だ。
虎次郎さんの言葉に対して突っ込もうとしていたキョウヤさんも、今回ばかりは困惑が勝っているせいで突っ込む気力もないみたい……。
でも、それはアキにぃ達も、コウガさん達も同じ顔をしながらどんどんと近付いて来る破壊音を聞いて、そして何かが近付いて来るその光景を逃げることも忘れてしまい、ただただ見上げていたその時、私達の近くで、港にあった機械に向かって何かが『ひゅーんっっ!』と言う音を立てて飛んできた。
「あ」
「なんだ?」
その音と飛んできたものを見上げたつーちゃんとイェーガー王子は、見上げた状態で飛んで行くそれを目で追って見る。
私達も目で飛んで行くそれを見つめると、それはすぐに近くにあったコンテナを持ち上げる機械に――
――ゴンッッ!
と、大きな音を立てて当たった。
それはもう大きな効果音として書かれるほど、大きな音で。
その音を聞いて、飛んできたそれが地面に『からり……』と落ちると、それを見降ろした私はそれが小さな小石だと言うことに気付くと、どこからか鉄が軋むような音が聞こえた。
「?」
その音を聞いた私やみんなは、その音が聞こえたであろう小石が当たった機械を見上げると……。
「あ」
私は、呆けた声で、青ざめた顔をしながらその光景を見上げて呟く。
私達の頭上でゆぅっくり、ゆぅっくりと左右に揺れ、その揺れと同時に聞こえる『ギィィ……ッ。ギィィ……』と言う鉄の軋む音を聞きながら、私達は不安が増幅した顔でその光景を見上げて、たじろいた。
なにせ、ゆっくりと動いていたそれがどんどんと、少しずつ大きな揺れになっていく光景を見たら、誰だって倒れるのではないかと思うであろう。揺れているところは掴むところと、それを支える鉄製の日もなんだけど、その紐のつなぎ目のところから変な音が聞こえる。
今にも取れそうな勢いで――だ。
それを見上げながら、私は「あ、わわ……」という声を上げて震える足をどうにか動かしてその場から逃げようとする。
勿論――それはアキにぃ達も同じらしく……、どんどんと揺れを大きくしているその機械を見上げて、困惑と驚き、そして落ちて来るかもしれないという恐怖に耐えながら、攻撃に自信があるキョウヤさんやシェーラちゃん、虎次郎さんは武器を構えて落ちて着た瞬間に斬ろうと準備をする。
それとは対照的に、アキにぃは逃げようとしていたけど……。
でも、この光景を見た大半の人は、その被害から生き延びようと逃げようとするだろう。攻撃をして防ごうと言う人はまずいない。この世界で力を持っていたとしても、そんなことは絶対にしない。
この揺れ動く機械を止めることができるのかすら、半信半疑なところがある。と言うか、大きなコンテナを掴んで動かしていたそれを壊すということができるのか……? という疑問が沸き上がると……、ゆっくりと揺れていたそれがどんどんと揺れを激しくし、鉄の軋む音を『ぎしっ。ぎしっ』と大きくさせ、振り子の様に動く光景となったそれを見ていた私達は、その揺れがどんどんっと揺れと同時に方向を転換していることに気付いた。
「あれ?」
「なんか、振り子のように動いているな」
「いいや。それよりも置時計に見える……。てかあれ、どんどんと」
と言いながら、私の言葉をはじめ、キョウヤさんとアキにぃがその言葉を言うと、その機械は……、と言うか、揺れている掴むところがどんどんっと風の影響で揺れ動く向きを変えていく。
それも――しょーちゃん達がいるところに向けて……。
「「え?」」
「にゃ?」
「ん? んんっ?」
「おいおいおい……っ! マジかよ……!」
ゆっくりと揺れていたそれがどんどん自分達に向いていることに気が付いたのか、しょーちゃん達は引き攣った顔を浮かべてその光景を見上げている。大きく揺れ動いているそれを見ながら、自分たちに落ちて来るのではないかと言う不安のもしゃもしゃを抱えている顔で……。
デュランさんもその光景を見て驚きつつも、上半身を左右に動かしつつ、蹄を動かそうと足に力を入れる。『かっ!』という蹄を引っ掻く音が響いた。
その瞬間だった。
――バキッッ!
「「っ!」」
私とヘルナイトさんは驚きの声を殺してしまったかのような声を上げてしまう。
一瞬何が起きたのかわからなかった。けれど何かが折れるような音が響いた瞬間、コンテナを掴む機材と鉄の紐を繋ぐ金具が壊れる音が私達がいる一帯に広がった瞬間……、コンテナを持つ機材が、その光景を見上げたまま一瞬固まってしまったしょーちゃん達に向かって落下しだしたのだ。
落下している光景を見上げている人にとってすれば遅く、それを傍で見ている人にとってすれば、大きく、そして遅くもなければ早くもない速度で落ちている光景。
落下の光景を見た私は、すぐにしょーちゃん達に向かって――
「――しょーちゃんっっ! 『囲強固盾』ッ!」
と叫び、手をかざしてしょーちゃん達に向かって『盾』スキルの『囲強固盾』を放つ。
瞬間、しょーちゃん達の周りに半透明の障壁が出て、しょーちゃん達を包み込む。その光景を見てか、しょーちゃん達は驚いた顔をして『囲強固盾』を見ていると、どんどんっとしょーちゃん達に近づいて落下してくる機材。
「うぎゃああああああああっっっ!?」
「い……っ!?」
「にぃ……!」
「「っ!」」
落下してくるそれがどんどん大きくなって、その光景を見て言葉を失い、泣きそうになって叫んでいるしょーちゃん。恐怖と困惑しか出ていない顔になっているつーちゃん。怖くて目を塞いでしまっているむぃちゃん。そしてその光景を見て成す術もないような顔をしているコウガさんと、何とか攻撃をしようとするデュランさん。
すると――私の叫びと同時に動いていたのか、ヘルナイトさんが即座に右手を丸めた状態で上に向けて掲げ、その状態で何かを叫ぼうとした。ううん、唱えようとしている。
アキにぃ達もその光景を見て武器を構えて、しょーちゃん達に向かって落ちて来る機械に向けて攻撃を仕掛けようとする。そしてイェーガー王子も腰に携えていた剣に手を伸ばして抜刀しようとし、クロゥさんとアクルさんも動こうとして、エドさんも持っていた盾を手に持った瞬間――
みんなが一斉に――、ううん。私達のチームが先に動いて、落ちて来る機械に向けて攻撃を仕掛けた!
まず攻撃を仕掛けたのは――キョウヤさん。
キョウヤさんは手に持っていた得物の槍を構える。でも構えると言っても、普段通りの構えではなく、やり投げのように構えたのだ。
右手で器用に槍を投げやすい形に変え、左手でその焦点を定めるように前にかざすと、左足をそっと上に向けて上げて右足だけで支点を固定する。
その状態でキョウヤさんは槍を持っている右手に力を込めると同時に、上げていた左足をどんっ! と地面に向けて強く踏みつけると、その威力を利用して槍を力一杯投げた。
ぶぅんっ! という音と共に、その槍は音速ともいえる様な速さで落ちてきている機械に『がっ!』と当たったと同時に、その機械が槍の威力に耐えることができずに、槍の貫通を許してしまう。
ばかぁんっ! と言う音を立てて、大きな穴を作った機械。そしてその貫通をした槍は、運よく建物に突き刺さり、びぃんびぃんっと左右に揺れて止まる。
大きな穴が開いたその光景を見ていたしょーちゃん達は、驚いた顔のまま固まってその光景を見つめていると、次に動いたのは虎次郎さん。
虎次郎さんは刀の柄を持ったまま駆け出し、近くに辿り着くとその場でできるだけ高く跳躍をすると、その状態で鞘に収まった刀を徐に自分の顔の前まで持っていくと――
しゃりんっ!
と、すごく切れ味のいい音を奏でたと同時に、虎次郎さんは機械の向こうに着地をする。
そして――虎次郎さんは腰に携え直した刀を鞘に納める動作をして、よく時代劇でも見る様な言葉を吐きながら、虎次郎さんは鞘にそれを収める。
「これはまた、つまらぬものを斬ってしまったな」
その言葉と同時に、『かちんっ!』と言うしまう音が響き渡った時――
がしゃぁんっっ! と、今度はその機械が大きなぶつ切りになってしまった。よく料理であるぶつ切りと思ってほしいけど、大きかったり小さかったりと疎らな機材があり、その光景を見たシェーラちゃんとアキにぃは、即座に武器を構え落ちてくる機材の破片に向けて攻撃を仕掛けた。
アキにぃもシェーラちゃんも、ぶつ切りになった時に大きいままになっているその機材に向かって攻撃を仕掛け、その大きかった機械をさらに小さくさせるように斬っていったり、撃ったりして細かくしていく。
バンバン! バンバン! と――
じゃきんっ! シュパァンッ! と――
何の苦もなく、そして当たり前のように斬ったり撃っていくシェーラちゃんにアキにぃ。
そしてそのぶつ切りの光景が細かい鉄のあられになったところを見て、アキにぃは私のことを見るために振り向いた。そんなアキにぃを見て、私は一瞬はっとして驚きのそれを上げたけど、アキにぃは私と、そして背後にいるその人に視線を向けると――こくりと頷いた。
頷くその光景を見たとき、私ははっとしてすぐに振り向き、私の背後にいるヘルナイトさんに向かって――
「――ヘルナイトさんっ!」
と叫ぶと、それを聞いたヘルナイトさんは凛とした音色で――
「言われなくても分かる」
と返して、天に向けて上げたその手に力を入れると、ヘルナイトさんは唱えた。
「――『嵐爆乱』」
その言葉が放たれると同時に、ヘルナイトさんは丸めていたその手を指を鳴らす形に変えて、そのままパチンッ! と鳴らすと――
突然、しょーちゃん達に向かって落ちてきた機材の破片を取り囲むように――ううん、包み込むように大きな大きな楕円形の竜巻が起きたのだ。ゴォォォ! と言う音を立てて、驚きを通り越して唖然としているしょーちゃん達をしり目に、ヘルナイトさんは鳴らしたその手を指を突き刺すような形に変えて、その指をそっと上に向かって動かす。
すぅーっと動かして、その指の動きに連動されているかのように竜巻もどんどん上に向かって上昇していく。
竜巻の中で洗濯物のように回っているその機材が、どんどん小さくなるその光景を見せつけながら……、ヘルナイトさんはそれを上に向けて上げていく。
それを見て、そしてしょーちゃんの安全を見た私は、小さくほっと胸を撫で下ろす息を吐くと、その光景を見ていたのか、イェーガー王子が携えていたその剣から手を離して、どんどん上がって、そして小さな黒い米粒になっているそれを見上げながら――
「これは凄いな」
「ええ。彼と行動している者達も相当ですが、鬼不神さんのお弟子さんもかなりの実力者です。流石は――鬼不神さんから最強の名を受け継いだ鬼士です」
と、イェーガー王子と心士卿さんの声が聞こえた気がしたけど、その声を余裕を持って聞く暇もなく……、ヘルナイトさんはどんどん上昇して、そしてその竜巻が米粒ほどの距離になったところで、ヘルナイトさんはその場で指を指していたその手をパッとパーの形にして、そのまま――
ぐっと握りしめると……、上空で回っていたその竜巻が小さな破裂音を出して四散する。
ぱぁん。と言う音と共に、黒い破片も何も落ちないまま、その風はほかの風と同化してボロボ空中都市からどんどん遠ざかっていく。
黒い米粒と化した破片を風に乗せて……。
その光景を見上げて、私は安堵のそれを吐く。アキにぃ達も武器を下ろして、キョウヤさんはあの間に槍を引っこ抜いて手元に戻すと、そのままアキにぃ達のところに戻ってアキにぃ達と一緒に安堵のそれを吐く。
みんな……、危険を回避できたことを心の中で喜びながら……。
勿論それは私も同じだし、ヘルナイトさんだってその気持ちがもしゃもしゃから出ている。その光景を見上げて、私の視線に気付いて見降ろしてきたヘルナイトさんのことを見て、私は控えめに微笑むと、その顔を見て、ヘルナイトさんは私の頭に優しくそっと手を置く。
ぽふりと置いて、そのままゆるゆると撫でられる感覚を味わいながら、私は再度控えめに微笑み返そうとした。
良かった。その気持ちを表情にしようとした……。
その時――
「まあああったショーマのせいじゃないかああああああっっっ!!」
まるで大砲のような衝撃波のような声が――つーちゃんの声が私達のことを吹き飛ばすように聞こえ、私はその声を聞きながら吹き飛ばされるような感覚を味わい、驚きながらヘルナイトさんと一緒につーちゃんたちがいる方向を見た。
「もぉなんで毎度毎度ショーマのせいでこうなるんだよぉっ! もうこんなのうんざりなんだけどぉ!」
「手前の運の悪さは神レベルなのかよ……っ! うざってぇ分苛立ちも倍増だっ!」
「少しはその運を上げる努力をしてくださいなのですぅ!」
その方向を見ると、つーちゃんやコウガさん、むぃちゃんはしょーちゃんに向かって怒りぶつけるような顔をしながら詰め寄っている。
今までの恐怖が拍車をかけてしまったのか、三人はもう鬼気迫るような顔をしてしょーちゃんに詰め寄っていたけど、しょーちゃん自身しどろもどろになりながら焦った顔で静止の行動をしながらこんなことを言っていた。
「おおおおお落ち着きんしゃい皆の衆っ! これは完全なる自然現象だっ! これは俺の運の悪さが引き起こしたものではないぞっ! 何でもかんでも俺の運の悪さのせいにされてしまえば俺の悪運が殺人級と認定されてしまいますんで……、落ち着きんしゃいっ!」
「落ち着いてるっつーの。クールダウンされ過ぎているくらい落ち着いているってーの」
「と言うかあれで自然現象と言えるんですか? 偶然と言えるんですかっ!?」
「あんな風にドミノ倒しのようにこっちに向かってくる時点でおかしいってっ! こうなったのも全部ショーマのせいだ! もう絶好したい!」
「絶好やめて! 俺のハートはウサギ並っ! ウサギって寂しがり屋で、その寂しさで死んじまうんだよっ!? いいのそれでっ?」
しょーちゃんの言葉を聞いてか、コウガさんとむぃちゃんが頭の後頭部に怒りマークを出しているかのように怒りを露にし、つーちゃんがぶち切れながら怒声を浴びせると、その言葉を聞いてか、しょーちゃんがやめてほしいと言わんばかりに両手を合わせて頭を下げたり上げたりしている。
それだけは勘弁をと言わんばかりの行動に、私はおろか、ヘルナイトさんやアキにぃ達は、茫然とした面持ちでしょーちゃん達のその光景を見つめることしかできなかった……。
一体何がどうなっているの? そう心の中で思いながら……。
そんな風にしょーちゃん達のことを見ていると……、背後から威厳を持った声が私の耳にすっと入ってきた。威厳を持った声が、私やみんなの耳に入ってきたのだ。
「――見事」
「! あ」
「『永王』様……」
その威厳を持った音色を聞いた私は、すぐに背後を見ると、ヘルナイトさんも背後にいた人物――ドラグーン王のことを見ると、ドラグーン王は私とヘルナイトさん、そしてアキにぃやシェーラちゃん達のことを一瞥してから、続けて威厳を持った音色で言う。
踵を返しつつ、私達から視線を外さないように、首を固定しながらゆっくりと動きながら――ドラグーン王は言ったのだ。
「その強さならば――シルフィードを浄化できるやもしれない。しかし、あ奴に関してはどうなのかはわからないが……な」
「? あ奴?」
ドラグーン王の言葉を聞いたヘルナイトさんは首を傾げていた。その言葉を聞いて、私自身も疑問を抱いていたので、歩もうとしているドラグーン王のことを止めるために私は「あの」と声を掛けた。
私の声を聞いてか、ドラグーン王は踵を返そうとしたその行動を一旦止めて、そして私のことを見降ろしながら王は「なんだ?」と聞いて来る。
それを見て、そして聞いた私は、ドラグーン王が言った言葉に対して正直に答えようと言葉を零す。
いろいろと聞きたいことを、余すことなく――
「どういうことですか? 『あ奴』って何ですか? シルフィードの他にも何かがこの国にいるんですか? そしてあの黒い稲光は、稲妻は何ですか? なんなんですかあれは? 一体この国で、何が起きているんですか?」
私のマシンガントークまがいの質問攻めに対し、ドラグーン王は口を閉ざしたまま私のことを見降ろしている。すっと細めた目と、神妙なもしゃもしゃを出しながらドラグーン王は私やヘルナイトさん。アキにぃやキョウヤさん、シェーラちゃんに虎次郎さん、未だに喧嘩をしているしょーちゃん達のことを見て、最後にエドさんのことを見降ろす。
エドさんは盾を持ったままドラグーン王の背後にいたけど、王の視線に気付き、少し考える仕草をしてから、彼はこくりと首を縦に振るう。
どんな意思疎通をしたのかはわからない。けれどその空気からわかる。
これは――重要な問題だと。
エドさんの頷きを見たドラグーン王は、再度私のことを見降ろし、みんなのことを見てから威厳を持った真剣な音色で言う。ざぁっと吹き荒れる風に当たり、着ている衣服をパタパタと靡かせながら、王は言った。
「なら――王宮で話そう。この国で起きていることを全て」
余すことなく――な。
その言葉を聞いた私やヘルナイトさん達は王の言葉に対して何だろうか……、気持ちを固める様な緊張を感じた。
今まで感じたような緊張とは違う、その緊張に潜む不安と恐怖を感じながら私はドラグーン王のことを見る。
その光景を見て、そしてヘルナイトさんのことを見て、歯痒い顔をして地面に拳を打ち付けているデュランさんのことを見ずに……、これから起きることに対して少なからずの不安を抱えながら……。
アルテットミアやアクアロイア、バトラヴィア帝国で起きた不安とは質が違うような不安を抱きながら……。




