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PLAY86 国が抱えるもの①

「えぇ……っ!? マジかよ……!」

「アダム・ドラグーン王。この国の王様」

「おぉ、これはまた見たことがない種族じゃな」


 突如として私達の目の前に現れた竜人の王様――アダム・ドラグーン王のことを見ていたキョウヤさんとシェーラちゃん、虎次郎さんは驚きの声を上げながら私と、そしてアダム・ドラグーン王のことを見ていた。


 それはしょーちゃん達も同じで、突然現れたドラグーン王のことを見た瞬間、恐怖や憔悴、あとは疲れなどが一気に吹き飛んだかなのような目の形 (黒い胡麻(ごま)のような目)をして、ドラグーン王のことを凝視していた。


 その光景を見ながら、ドラグーン王私のことを見つつ、そのままアキにぃ達に目を向けると、王は私のことを見ながら、どことなく納得をしたような雰囲気を出してこう聞いてきた。


「ほほぉ、この者達は貴殿の仲間達かな?」

「あ、はい。そうです。えっと、エルフのお兄さんがアキで、私はアキにぃと呼んでいます。そしてその隣にいる蜥蜴人の人がキョウヤさん。人魚族とマーメイドソルジャーの魔人族の女の子がシェーラちゃん。そして人間族のおじいさんが虎次郎さんで、この帽子の中にいるのが……ナヴィちゃんです」

 

 そう言って私はみんなのことを振り向きながら見て紹介をしつつ、最後にもう一人の仲間でもあり、あの嵐に入る前に帽子の中に待機させたその子を見せるために私は片手で自分の帽子をそっと脱ぐと、その光景を見たドラグーン王は私の頭の上を見て目を見開いた。


 その目に映るその光景は驚きそのもの。


 でも、分かる気がする……。


 だって、私の頭の上に、帽子の中にいた存在が――フワフワの体毛に覆われた楕円形の可愛らしい顔立ちの生命体なのだから、無理もないだろう……。


 その生命体――ナヴィちゃんはいつのまにか寝ていたのか、「きゅぅ?」と言う声を出しながら私の頭の上できょろきょろと辺りを見回していた。だって――私の頭でうごうごと動いている感触が伝わってきたから、そう思っただけなんだけど……。


「?」


 ナヴィちゃんが私の頭の上でうごうごという動きを感じて目の前にいるドラグーン王のことを見た瞬間、私は首を傾げる様な面持ちになり、そのままドラグーン王のことを見た。


 なぜ疑問を思ったのか。それはドラグーン王の表情を見たから。


 だって――ナヴィちゃんのことを見ているドラグーン王の目が、なぜか真剣で驚きが混ざっているような面持ちだったから、誰だって驚くだろう。


 一体全体どうしたんだろうという面持ちで、みんな驚きと疑念の顔を出していた。それはクロゥさんも、アクルさんも同じ顔で、ドラグーン王のことを見て首を傾げていたくらいだ。


 その光景を見ていたむぃちゃんは、コウガさんに向かって「どうしたんですかね?」と聞くけど、それを聞いてか、コウガさんはむぃちゃんに向かって小さな声で「横入りすんな」と念を押す声が聞こえる。


 そんな声を聞きながら、私は首を傾げつつ、ドラグーン王に向かって「どうしたんですか?」と聞くと、その声を聞いたドラグーン王は意識を現実に戻したのか、はっと息を呑むような声が聞こえると同時に、ドラグーン王は私のことを見て驚きを隠したかのような声で、微笑みながら――


「ああ、いや大丈夫だ。少々珍しい生き物を見て驚いてな」


 と言ってきたので、その言葉を聞いた私は、少し違和感を感じたけど、違和感の原因が一体何なのかも理解できないまま私は曖昧に「はぁ……」と零す。


 その光景を私の頭越しに見ていたナヴィちゃんは「きゅきゃ~?」と言う声を上げながら体を斜めにして傾げていた。


 それもそうだろう。だってナヴィちゃんのことを見た瞬間のあの表情。そしてもしゃもしゃの乱れは、今まで見てきた中でも見たことがないような動きだった。


 そんなことを考えつつも、この状況に対して少しばかり驚きの余韻がまだある中――私はみんなのことを見回す。


 皆は依然として、驚いた顔のまま固まっている光景を見て、私もみんなの意見と同じで、驚きと混乱、そしてナヴィちゃんを見たときの違和感がごちゃ混ぜになろうとした時、突然凛とした声は私の頭上で聞こえてきた。


「ハンナ――ようやく出たのか」

「は!」


 その声を聞いた瞬間、私はその場で垂直跳びをするかのように直立で驚き跳びをし、そのまま上を見上げると、すぐに目が合った。もちろんその相手はヘルナイトさん。


 ヘルナイトさんは背後にいた私のことを振り向きながら見降ろし、そのままの状態で聞いてきたので、私はその声に驚きつつ、ついさっきまでしてきたことに対して恥ずかしさを今更ながら感じてしまう。


 なにせ――イェーガー王子が現れる前に有無を言わせる前に隠れてしまったのだ。突然小さい子供のように隠れて、そのまま息を潜めて――なんという馬鹿な行動をしたのだろう。


 今となってすれば、その行動は本当に恥ずかしいもので……、今年十七歳になる女の子がすることではないと思ってしまう。そのくらい恥ずかしいものだった……。


 ヘルナイトさんのことを見上げ、先程あったことを謝罪したかったけど、それができない自分の心境と気持ち、行動できないジレンマに苛立ちを覚える前に、今までの羞恥が集結したかのように、私は固まったまま硬直を徹してしまう。


 こちーんっと、まるで凍ってしまったかのように、私は体の動きも、思考も停止してしまったのだ。あまりの恥ずかしさに……。


 うぅ……、あんなことやこんなことで、これが穴があったら入りたいってことなのかな……。


「は、ハンナ……?」

「おーい。大丈夫かー?」

「どうしたんじゃろうな」

「きっとさっきの行動があまりにも恥ずかしすぎてショートしてしまったんでしょう? すぐに治ると思うからそのままにしておきましょう。ヘルナイト。今ハンナに何を聞いても無意味よ。むしろ逆効果だと思うし、そういうのは多分女特有のそれだと思うから。何を聞こうとしていたのかは聞かないでおくけど……、聞くなら後でにしておきなさいよ」

 

 遠くでアキにぃとキョウヤさん、そして虎次郎さんとシェーラちゃんの声が聞こえた気がするけど、その言葉に対して私は返答もできずに固まったまま。


 本当ならこのまま話したい。


 このまま『ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃって。でも大丈夫です』っていつものように言いたいのに、今回に限ってそれが言えない。硬直と緊張、そして羞恥のせいでそれが遮られてしまっている。


 一言でいうと、恥ずかしさのせいで全然正常な行動が、言葉ができないと言うこと。


 言い訳に聞こえるかもしれないけど、こんなことは初めてなことで、私は何とかして、急いでヘルナイトさんに向かって声を掛けようとした時……、ヘルナイトさんは私のことを見たまま無言になり、そして――徐に手を伸ばそうとしていたその時……。




「確かに、このような場所での会話は命とりを招いてしまうやもしれん」




「!」


 突然、少しの間黙っていたドラグーン王はその場で徐に立ち、そして私達のことを見ながら王は言った。


 さっきまでの穏やかなそれとは正反対に、張り詰める緊張を乗せながら言う王ドラグーン王。


 空の国を横切るように吹いてきた風が私達の服を靡かせ、頬と肌を撫で、そして――目の前に広がる旗を揺らし、近くの港の機材を数ミリほど揺らす。


 ぎぃ……。ぎぃ……。と、今までならなかったその音を鳴らしながら……。


「うお。風が吹いてきたな」

「今までなかったのに……」

「何かが来るのかしら」

「ううむ。これは一体……」


 今まで無風だった世界に来る突然の荒い風。


 その風を受けながら私達はあたりを見回し、心の中に突然現れた困惑のもしゃもしゃを纏わせながら辺りを見回す。


 正直――何が起きたのだろうと思いつつ、あの時起きた嵐を連想してしまう脳内の中――混乱して、正常な思考があまりできていない私達に向かって、憔悴のあまりにぐったりとしているしょーちゃん達に向かって、ドラグーン王は王らしい威厳のある音色で――宿の天井……、ではなく、今いる場所からでも見える空を見つめながら、こう言った。


「この国を救う存在がこの国に来ると聞いて()()()()()が、この場所での話は竜人ならば至らないかもしれないが、並の人間や地上の者達ならば、()()()()()()()()』はきつい。拙僧としたことが見落としていたか。今の今まで――警戒をしていたにも関わらず……、高鳴る期待が裏目に出てしまったか」

「? これから来る『天災』?」

「「ひぃっっ!?」」


 天災。その言葉を聞いた瞬間、ようやく憔悴と疲弊が落ち着いたアキにぃは、ドラグーン王の言葉に首を傾げて疑念の声を上げる。


 そんなアキにぃとは対照的に、つーちゃんとしょーちゃんは未だにその疲れが残っているのか、青ざめた顔の状態で互いのことを抱きしめて悲鳴を上げる。


 その光景を見ていたコウガさんが、小さな声で何かを言っていたような気がしたけど、それを聞くこともできないまま、ドラグーン王は私達のことを見て、そして王子のことも見ながらこう言ったのだ。


 踵を返し、そして真正面に見える大きなお城を背景にしながらドラグーン王は私達に向かって言った。


「それでは案内をいたしましょう――王宮でゆっくりと、色々とお話をしたいのでな」



 □     □



「え? 王宮って、かなり遠くね? どうやって行く気なんすか? まぁ……、歩いて行くんならそれはそれでいいんだけど、観光もできるし」


 キョウヤさんはドラグーン王の言葉を聞いた瞬間、首を傾げる様な面持ちで腕を組んだ後、この町の中では一番デカい建物を見つめて疑念の声をドラグーン王に向けた。


 後半歩きでもいいという言葉を付け加えながら言うと、それを聞いていたのか――ようやく吐き気が収まったのか、エドさんがキョウヤさんに向かって少なからず反論をするようにマイペースな声で――


「あ、それはできないよ」


 と言ってきたのだ。


 エドさんのはっきりとした、嘘も偽りもないような言葉を聞いたキョウヤさんをはじめ、みんなが驚きの声を上げる。「えっ?」と言うみんなの声が合唱をするようにぴったりと揃ったな……。と思っていると、それを聞いていたつーちゃんが、未だに二人で抱き着いた状態で青ざめた顔で震えながらエドさんに向かって――


「え……? なんで……? どうしてできないんですか? まさか……っ!」


 と聞くと、それを聞いたエドさんは頷きながら、はっきりとした音色でつーちゃん達に畳み掛ける。




「うん。そう。『天災』が来るからきっと露店の人達は一時的な店じまいをしていると思う」




「「ぎゃああっっ! あんなことがここでもぉおおおっっ!?」」

「ツグミ、ショーマ。あのことがトラウマならば仕方がないが、そこまで過敏になることはないぞ……。あんなこと、この国では日常茶飯」

「「日常的なのぉおおっっ!?」」


 エドさんの言葉を聞いたつーちゃんとしょーちゃんは、更に抱き着きを強くしながら顔面蒼白にさせて絶叫に近いような叫びを上げる。


 二人の周りを見ると、その空間だけは青黒くなっている。相当あの嵐に嫌な思いをしたんだなぁ……。と思いながら私は二人のことをよく頑張ったと言わんばかりの目で見ていると、二人のことを見ていたデュランさんが、呆れたような音色で歩み寄りながら言うと、デュランさんの言葉を遮るように、再度二人は青ざめた絶叫を上げながらその身を凍り付かせる。


 その顔はまさに――絶望と言うそれが一目でわかる様な顔で、その顔を見たデュランさんは、それ以上言葉をかけることはなかった……。


 すると、その光景を見ていたのか――ドラグーン王はしょーちゃん達のことを見て威厳を保つ笑みを浮かべながら……。


「安心しろ。今回起きる『天災』はさほど大きいものではない。すぐに止む通りのようなものだが……」


 と言うと、それを聞いた瞬間、アキにぃが握った手をもう片方の手にぽんっと乗せて、閃いたかのように「ああ、それって通り雨のようなものか」と言う。


 アキにぃの言葉を聞いたドラグーン王は腕を組みつつ、アキにぃのことを見ながら「あぁ。確かに通りだな……」と言うと、それを聞いていたキョウヤさんは緊張していた肩の力を抜くように項垂れると、溜息交じりに「んだよー……。だったらそんな『天災』っていう言葉で驚かすなって」と言って安堵のそれを吐き捨てる。


 確かに、その件に関してはキョウヤさんに同意見だ。


 ドラグーン王は確かに『天災』が来るって言っていた。けれどアキにぃの言葉が正しいのであれば、『通り雨』に近いようなものであれば、そこまで怖がる必要もないんじゃないかと思ってしまう。


 でも――その考えは一瞬のうちに消し去った。どころか……、砕かれた。のほうがいいのかな……。


 その考えを壊した人物は私達の言葉を聞いて、今の今まで膝をついて頭を垂らしてたクロゥさんは、私達に向かって張りのある声で――


「いいえ。『天災』を甘く見ないでほしいです」と言ってきたのだ。


 その言葉を聞いた私達は驚いた顔をしてクロゥさんのことを見ると、ドラグーン王はクロゥさんのことを見て彼の名を呼ぶと、クロゥさんはその声をきっかけに、全身の汗が吹き出し、そして変温動物の様に急激に体温を抱けたかのような顔色をして、顔の色素を薄くさせながら強張りを見せると、顔のまま彼は頭を下げて――ドラグーン王に向かって震える声で、精一杯声を上げた。


 もしゃもしゃからでもわかる。クロゥさんは怯えている。


 ドラグーン王に対して、この国の王に対して、()()()()()()()()()()もしゃもしゃを――


 クロゥさんは精一杯の声を上げて、ドラグーン王に向かって、頭を下げた状態で言った。


「も、申し訳ございません王よ……っ! 許可もなく発言をしてしまいまして……!」

「よい。此度の件は拙僧の見解の甘えが招いたことだ。通りであったとしても『天災』は必ず来る。そして異国の者達の世界には『天災』がない。そして、『天災』に関してはクロゥディグル。貴様がよく知っている。拙僧よりも――な」

「お、恐れ多いお言葉……っ」

「? ??」


 でも、クロゥさんの謝罪の言葉を聞いたあと、ドラグーン王はその威圧とは正反対に、思っていたよりも優しい言葉をクロゥさんにかける。クロゥさんの方が『天災』をよく知っている。そのような意味深な言葉をかけて――だ。


 その言葉を聞いた私やプレイヤーのみんなは前もって予習をしていたかのように、一糸乱れない動きで首を傾げている。


 私もその一人で、一体何の話をしているんだろうと思いながらクロゥさんとドラグーン王の会話を聞いていたけど、今の今まで無言だったアクルさんがはっと息を呑む声を出して、ドラグーン王のことを呼びながら彼は空に向けて指を指しながら荒げる声でこう言ってきた。


「ドラグーン王っ! お急ぎを。来ます」

「「!」」

『っ!?』


 アクルさんの言葉を聞いた瞬間 (と言うか、アクルさん王様の前ではちゃんとした敬語を喋るんだ。失礼だけど)、ドラグーン王とクロゥさんはその声を聞くと同時にアクルさんの方に顔を向ける。


 素早く、緊迫を張り付けたような顔で――だ。


 その顔を見た私達も緊迫を見て驚きつつ、そして気持ちを強張らせながらアクルさんのことを見ると、アクルさんはついさっきエドさん達が見ていた空をまた見つめているらしく、私達もその方向に目をやってみて見る。


 けど………。


「?」

「何よ……、驚かせちゃって」

「何も来てねえな」

「強いて言いますと……雲が渦巻きになっているだけですね」


 私がアクルさんの言葉を聞いてその方向を見た。けど……、シェーラちゃんとコウガさん。そしてむぃちゃんの言う通り――何もなかった。


 ただボロボの上空に広がる白くて大きな渦巻き模様の雲が出ているだけで、あとは全然変わりのない風景だった。


 それだけ。


 本当に――それだけで、何も危険が迫っているような雰囲気は一切感じられなかった。


 その光景を見て、アキにぃが安堵の息を吐きつつ、胸に手を当てながら――


「な。なんだよ……。驚かせないでくれよ」


 と言うと、その言葉を聞いていたキョウヤさんは呆れるような笑みでアキにぃのことを見ている。


 きっとつーちゃん達と同じように、あの嵐を連想していたのかもしれないけど、アキにぃはその恐怖でさえ杞憂だったと確信したのか、緊張から解放されたかのようにどっと息を吐き捨てる。


 それは今も恐怖しているしょーちゃんとつーちゃんも同じで、アキにぃと同じように安堵のそれを吐いているし、虎次郎さんも刀を持とうとしていたその手をそっとその場から離してふぅっと息を吐いた瞬間……、ドラグーン王は王宮がある方向に体を向け、そのまま歩みを進めると――


「すぐにこの竜から降りよ! これから避難に入る――早くその場所からの降りるのだっ!」


 と、私達に向かって荒げる様な、それでいて急かしているような音色で言うドラグーン王。


 その言葉と迫力を受けた私達は驚いた顔をして体を『がちんっ!』と強張らせていると、その言葉を聞いて即行動をしたのは――


「すまない――抱える」

「!? ひぇっ!」

「きゃぁっ!?」


 私達に近くにいて、そして女性の私とシェーラちゃんを素早い動きで、しかも触れられたかどうかもわからないような速さで私達横抱きにして、そのまま流れるように高い場所から飛び降りたヘルナイトさんだった。


 はたから見れば本当に何をしているんだと言ってしまいそうになる行動だけど、驚くキョウヤさんと虎次郎さん、そして驚愕の顔をしているアキにぃを無視しつつ――鉄の柵に足をかけ、そのまま高い場所から飛び降りていくと、そのまま地面に向かって急降下していく。


 一瞬に感じた突然の行動に驚きつつも、その終わりも一瞬で、ヘルナイトさんは私達のことをしっかりと抱えながらもそのまま地面に向けて足を伸ばして、衝撃を緩和させるようにゆっくりと着地をする。


 すと……っという音が聞こえそうな着地をすると同時に、私達が苦しくならないように前屈みになると、跳ぶと同時にはためいていたマントがゆっくりと、ゆっくりと地面にふわりと落ちていく。


 その音を聞き、その光景を目に移しながら衝撃が来ないことに対して驚きを感じていた私とシェーラちゃん。着地をすると同時にアキにぃ達がヘルナイトさんの背後から走ってくると……。


「くぉらぁヘルナイトォッッッ! 何妹を勝手に抱えてるんじゃっ! 兄である俺の許可なくするんじゃねえ!」

「いやいや許可なんていらねえだろうが。でも元のお前に戻ってくれて嬉しいよ。オレ自身なんでこんな感情を抱いているのか分からんけど」

「どうしたのじゃ()()()()()よ。何を焦っておる」


 アキにぃはそのまますっと立ち上がり、私達のことをそっと下したヘルナイトさんに向かって指を指しながら怒鳴りつけていたけど、その光景を見て安堵と困ったという顔が混ざったかのような顔をしているキョウヤさんがいつものように止めると、虎次郎さんは突然の行動をしたヘルナイトさんに向かって聞くと、その言葉を聞いてかヘルナイトさんはアキにぃ達に向かって――神妙で、これはまずいと言ったような音色でこう言ったのだ。


()()()()()()()

「!」

「思い出した……? って、まさか……」


 ヘルナイトさんは言う。凛とした音色で――はっきりと。


 そんなヘルナイトさんの言葉を聞いた私は、驚いた顔をしてヘルナイトさんのことを見上げると、シェーラちゃんも驚いた音色でヘルナイトさんに向かって聞くと、その言葉を聞いてか、ヘルナイトさんは「ああ」と頷き、そして次に私達のことを見降ろしたヘルナイトさんは言ったのだ。


 はっきりとした音色で――どんどん荒れていく風と共に渦巻く白い雲だったそれが、どんどんと黒くなっていくその光景を背景にして、彼は言ったのだ。


 ざざぁ……! という荒い風を受けながら、ヘルナイトさんは言う。




()()()()()()ことにだ」と――




「? これは……、まずい?」

「何がまずいのよ……?」


 でも、ヘルナイトさんの言葉を聞いた私達は、いまいちピンッと来なかった。当たり前な話――そんな曖昧なことを聞かされたとしても、何も知らない私達にとってすれば何がまずいのかが理解できていなかった。


 実物を見たヘルナイトさん達とは違い、私達は見たことも聞いたことがないものを想像しろと言われてもすぐにはできない。ゆえに何がまずいのかがいまいちピンッと来なかったのだ。


 それはアキにぃ達も同じで、ヘルナイトさんの言葉を聞いても意味が分からないという顔をして黙ることしかできなかった。


 けど――ヘルナイトさんと同様に理解できる人達はヘルナイトさんの言葉に対して信憑性を乗せるように畳み掛けてくる。


「ああ、確かにまずいぞっ! すぐに避難をするんだっ!」

「あいあいさ~~っっ!?」

「あぁっっ!? んだよ勝手に行動しやがって!」

「いつもは『我の背に人など乗せられん!』とか言っているくせに」

「ひゃーっ! なんなのですかーっ!?」

「――我の背ではしゃぐなっ! 今は緊急だっ! 振り落とされるなっ!」


 同じくヘルナイトさんの言葉に対して追い打ちをかけるように言ってきたのは――デュランさん。デュランさんは自分の背にしょーちゃん、コウガさん、つーちゃんにむぃちゃんを乗せてヘルナイトさんと同じようにあの場所から飛び降りるように馬の脚で着地をする。


 カカッ! という蹄の音が辺りに響くと、私達のことを見て逃げるように促す。でも、その痕から聞こえてきたしょーちゃん、コウガさん、つーちゃん、むぃちゃんのざわつく声を聞いて怒りをぶつける。


 そんなデュランさんよりも少し離れた場所で、エドさんとイェーガー王子、そして心士卿さんがその場から飛び降りると、竜人でもあるドラグーン王達は、自分達の背についている翼を使ってそのまま降下していく。


 ばさり、ばさりと羽ばたく音を出しながら降りていくと、降りてきた王のことを見て――心士卿さんはドラグーン王に向かって冷静な音色で聞いた。


 上空を覆っていく灰色の渦巻雲を見上げながら、心士卿さんは聞いた。


「話には聞いていたが、()()が……、()()()()()?」

「ああ。()()()()()()


 心士卿さんとドラグーン王の話を聞いた私は上空に浮かぶ灰色の渦巻雲を見て、ヘルナイトさん、デュランさん、心士卿さんとエドさん、イェーガー王子とドラグーン王にクロゥさんにアクルさんのもしゃもしゃを見て、私は確信をする。


 さっきまで半信半疑だったその気持ちが、一気に反転したかのように信じるという気持ちに変わると同時に、私は今まで息を潜めていたかのように急に現れた不安を心の中で抱え、そしてその心があるであろう胸の辺りをぎゅううっと両の手で握りしめると、私は口の中に溜まっていた唾液を一気に喉の奥に流す。


 流しながら――私は思う。




 ――これから来る『天災』と言うものは、危険なものだ。




 と……。

 

 その感情を心の中で唱えた瞬間。ドラグーン王は数歩ほど歩みを進め、その歩みの最中にドラグーン王は冷静さと迫力、そして焦りを僅かにを含んだ音色で――


()()()()早い……! 間に合ってくれ!」


 と言い、歩みを進めながら懐に手を差し入れると――すぐに懐から何かを取り出した。


 それは魔物の角を切り落としたようなものだけど、角の先端には糸を巻き付けていて、首飾りにできるような状態で括り付けられていた。


 それを見たアキにぃは「おぉ! 角笛っ」と驚きと興奮のそれを上げながら言うけど、そんなアキにぃのことを無視しながらドラグーン王は歩みをビタリと止めると、私達から少し離れた場所で踵を返して私達のことを見ると――

 

「早急にしてこのような事態の時に招いてしまい申し訳ない! が――今は聞いてほしい! 耳を塞いでくれ!」


 と叫んだ瞬間、すぅーっと肺にこれでもかと言うくらいの酸素を取り入れ、取り入れると同時に息を止めると――ドラグーン王は口に角笛を『かりっ』と、角の先端を甘噛みするように加えた瞬間――




 ――ぼぉーっっ! 




 と、大きくて野太い音を角笛越しに出した。


 その音は本当に野太くて、楽器のトロンボーンのような音に近いようなものだけど、その音が出た瞬間、びりびりと私達の体を揺らすように、震わせるように迫ってくるような感覚を感じた。


 心臓もその音のせいでぶるぶると震える様な感覚で、耳に入ってくるその音を聞いた瞬間、鼓膜が破れるのではないかと思える様な音が私達に襲い掛かってくる。


 その音を聞いた瞬間、私や他のみんなも、自分の耳を守るために両手でしっかりと耳を塞いで、その野太い大きな音に耐え忍ぶ。


 びりびりと体に衝撃は走り、ぶるぶると震える心臓と共に震えて、背後から突風のようなものが来たけどそれを気にする余裕などないくらい、私達は必死に自分の耳を守った。


 守って、守って、守って……、守っていた。


 その時だった。


「?」


 私は耳を塞いでいた。眼も、口もきつく閉じて、その音が止むのを待っていた。けれど、目をつぶっていたとしても、目を閉じた世界が真っ暗になることは絶対にない。なにせ、瞼の奥からでも日の光と言うものはしっかりと分かるものだ。


 瞼を閉じていたとしても、その瞼越しに光が当たると、赤黒いような世界が目の世界を支配する。


 それはついさっきまで起きていた。しっかりと、瞼が閉じた世界は赤黒かった。


 けど、()()()()()()()()()()()()()()()()――どう思う?


 きっと……、何が起きたのだろうと思うだろう。


 そう、私はその時そう思った。だから目を開けてしまった。


 突然暗くなった原因を見ようと目を開けた瞬間――私は固まる。


 固まりながら、さっきまで明るくなっていた世界に黒いそれが混ざったかのような世界に、曇りのような明るさの世界になった光景を見たと同時に、私は無意識に上を見て……、目を見開いた。


 見開いて……、言葉を失いながら、その光景を見て……、後悔をした。


 けれどそのせいで、ううん。そのおかげで――理解できた。初めて見たのだから、これはこのおかげと言う言葉が正しい。


 正しいんだけど……、私は理解すると同時に、見てしまった後悔と共にそのままの状態で固まって……見てしまう。


 ボロボ空中都市を渦巻いていた雲が真っ黒になり、まるで台風の様に中央に目を開けたまま『ゴゴゴゴゴッ』と言う地鳴りのような音を発すると同時にその渦巻雲の目から出てきた……。




         太くて大きい、黒い黒い稲妻を――




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