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PLAY85 空の都市と竜の王⑤



「――使者のくせに酔うな」



 その言葉を聞いた瞬間、シェーラちゃんの今までの毒が一気に吐き出されたかのような撃墜が『氷河の(リ・アブソリュート)再来(・ゼロ)』並みの寒さと共に吐き出されると共に、その場の空気が一気に氷点下まで下がったかのような感覚を覚えた。


 エドさんの酔いを見てのことだけど、誰だって船酔いが治らない人もいるし、そういう人もいることは私だってわかるけど、シェーラちゃんの声と真っ黒なその目と共に見下すようなそれを見て、私はその言葉に対して追言することができなかった。


 と言うか、それをしてしまうと何かされそうで睨まれそうでできなかったことが事実。


 そんな目を見ながら、みんな誰もエドさんに対して優しい言葉しかかけることができなかった……。



 □     □



 それから少しして――厳密に言うとたった一分の間に、私達を乗せた竜とクロゥさんは、アクルさんに言われた場所に停泊した。


 その場所は王都やアルテットミアと同じような港のような場所で、積み荷となっている木箱がいくつも積み重なっていて、その木箱を見上げながら働いている竜人さん達は見上げて手に持っている資料を交互に見て確認をしていたりして、飛んでその木箱の中に入っているものが何なのかを確認しながら記録して、この国の住人でもある竜人の人達は、こつこつとその作業をこなしていた。


 でも、それ以外は地上で見る光景を同じで、違うところがあるとすれば海が雲海であるところだけを除けば殆ど地上の港と同じ風景。


 栄えていたアルテットミアや王都と同じ風景が私の目に映っていた。


 あ、でも停まっている船は船ではなく、宿や積み荷を乗せる何かを背負った大きな竜だったけど。それと雲海を除けば――私達が降りた場所は地上の港と同じ光景だった。


「うわぁーっ! 新世界ですぅーっ! 新世界ですぅーっっ!」

「うるせぇぞむぃ。というか本当に来ちまったんだなぁ……。ボロボ……本当に空を飛んでいやがる」

「流石は空中都市。名を体で表しているな」

「お前……、それ言葉あっているのか?」


 その光景を竜の背の上で見ていたむぃちゃんはコウガさんの腕の中できゃーきゃーと言いながら興奮した面持ちで見ていて、コウガさんはそんなむぃちゃんのことを見降ろしながら呆れるような顔でむぃちゃんのことを見ると、こうしてボロボに来たことに関して今更ながら実感をしたのか、溜息交じりに驚きと少なからずの感動、そして困惑を入り混じりながら言う。


 コウガさん自身……、多分アルテットミアと王都以外の場所に行ったことがない。そして空を飛んでいる国に降り立ったのだから、驚きが混乱になって、来たという実感ができないのだろう……。


 それは私も同じだし、感動と同時に混乱も驚きもあるから、コウガさんの気持ちはわからなくもない。


 コウガさんの表情と言葉を見て聞いていたキョウヤさんは、コウガさんとは違うけど、ボロボ空中都市と言う初めて見る国と空を飛ぶという初めての国を見て、コウガさんと同じ驚きと、コウガさんとは違う感動を顔に出して、辺りを見回しながらボロボ空中都市の感想を述べると、コウガさんは呆れたような顔をしてキョウヤさんのことを横目で見て呆れた声を吐き捨てる。


 私は正直、不正解でもなければ正解でもないような思いを口にしようと思ったけど、私自身自信がなかったのでそのことに関しては口にすることはなかった。


 そんな話を聞きながら――私は再度その国の全貌を竜の背中越しに見つめる。


 私の目に映るその光景は、まさに異世界。竜の世界に迷い込んだかのような風景が目の前に広がっている。人間やエルフ、そして亜人と言う存在は見えない。アルテットミアとは違う風景だけど、穏やかで平和的な風景であることは一目瞭然。


 その光景を見ながら私は「すごい光景……」と言いながらボロボの風景を見つめていた。


「まだ空の世界なの……?」

「地面に帰りたい」


 そんな私とは正反対に、しょーちゃんとつーちゃんは未だに真っ青な顔をしながらボロボ空中都市の平和な一風景を見つめていたけど、正直その顔に感動も驚きもない。


 あるとすれば……、ただの恐怖だけ。ただのトラウマだけ。


 もしゃもしゃがそれを告げているので、二人はきっとあの時体験したことが相当堪えてしまったのだろう。


 かなり怖がっているので、私はそんな二人のことを見て、そんなに怖かったんだねと思いながら二人のことを見た。


 ん?


 と、私は二人のことを見てふとした疑問を頭の中をよぎった。


 しょーちゃん達は元々、私のことを追うためにアクアロイア行の船の乗ろうとしていたんだけど、結局元バトラヴィア帝国の人に捕まってしまい、そのまま牢屋に入ったけど、そのあとのことはしょーちゃんが遮ったせいで聞けなかった。


 と言うか、忘れていたことが事実。


 そのことを思い出すと同時に、私は今代青ざめた顔をしているしょーちゃん達のことを見て思った。


 なんでしょーちゃん達はバトラヴィアの牢屋から王都に来て、そして私達と一緒に行動をすることになったのか。


 些細だけど聞き逃してしまったことを後悔しながら、いつか聞こうと思いながら再度ボロボの街を見降ろそうとした時――


「あ、もう着いたん……? まだ空にいるの……?」

「あ、起きたわね絶叫チキン」

「!」


 背後から聞こえた声を聞くと同時に、シェーラちゃんの安定の毒吐きを聞くと同時に、私は背後を見るためにくるりと振り返る。私を含めて、キョウヤさんとヘルナイトさんも振り返っていたらしく、驚いたような声を漏らす声が聞こえた。


 虎次郎さんも零しながら振り返っていたけど、シェーラちゃんの言葉を聞いて疑念の声で「ちきん……、焼き鳥か?」と言う声を零しながら振り返っていたけど、その声と同時に、私達の背後に現れた人を見た瞬間、私はその人の名を呼びながら喜びのそれを上げた。


「アキにぃ!」

「あ、ハンナ……、おはよう……。もう朝?」

「朝じゃねえよ。ついさっき気絶しただけだって、一日どころか半日経ってねえよ。たったの一時間前だ」


 アキにぃのことを見て、安堵のそれと同時に私は思わず駆け寄って、アキにぃの前に立つと、アキにぃは顔面蒼白ともいえる様な白くなった顔で私のことを見降ろし、そして私に向かって頓珍漢(とんちんかん)のようなことを口にする。


 きっと――倒れてから一日経過したのかと思ったのだろう。すかさずキョウヤさんは訂正を加えるように現実にアキにぃを引き戻す。


 でも、アキにぃが言っていることはあながち間違っていないというか、私ももし倒れてしまったら、さっきと打って変わって穏やかな空気を見て、一日経ったと思ってしまうかもしれない。


 だって――あの嵐のような飛行を体験して、その後で倒れたのならば、誰だって思うかもしれない。よくある嵐の中の後悔の最中――気絶をしてしまっていつの間にかその国の近くに漂流していた的なことかもしれないから……。


 まぁ――それは漫画のお話だから……。うん。


 アキにぃはキョウヤさんの話を聞いて驚いた顔をしつつ、覇気のない音色で「え……っ? マジ?」と聞いてきたので、私とキョウヤさん、シェーラちゃんと虎次郎さん、ヘルナイトさんはアキにぃのことを見て、素直に『うんうん』と頷いて肯定を示すと、それを見たアキにぃの目に驚愕が浮き彫りになっていく。


 信じられない。そんなことありえないだろうという顔をして……。


 でもアキにぃ、信じて。本当なんです。


 そう思って私は控えめな微笑みと共に汗を飛ばしていると……。



「ようやくか」



「――っっ!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ううん。その声を聞いた瞬間、私は全身の血が逆流したかのような異常な気持ちになり、それと同時に私は即座にヘルナイトさんの後ろに隠れた。


 しゅんっっ! と、まるで忍者のような動きを模したかのように、素早く隠れて、隠れると同時にヘルナイトさんのマントの中に入り込んで、何とかその中にくるまるように隠れた私は、ヘルナイトさんのマントの中で蓑虫(みのむし)になりながら息を殺した。


 蓑虫になったせいで、周りは真っ暗……、に見えるけど、マント越しに差し込む光のおかげで蓑虫になった世界が紫に近いような世界に見えたのは気のせいではない。マントの中に入った私はヘルナイトさんの背中にくっつき、その時が過ぎるのをじっと待った。


 これから来るかもしれないその人との接触を避けるために……。


「っ?」

「むぉ? どうした?」

「ハ…………、ハンナ…………? あれ? あれれ?」

「おーい。どうしたー? なんで蓑虫になってるんだよ……。人見知りのガキかよ」


 私の即座に行動を見てか、ヘルナイトさんの動揺が体の揺れで感じて、その感触を感じた後で虎次郎さん、アキにぃ、キョウヤさんの声が聞こえたけど、シェーラちゃんだけはなぜか無言の状態でいたみたい。


 何にも見えないから一体何がどうなっているのか、さっぱりなんだけどね。


 そんなことを思っていると、ヘルナイトさんのマント越しからまたあの声が聞こえた。


 王都でもあったけど、面と向かってになると()()()()()()を思い出してしまい、なんだか恥ずかしくなってしまうようなその人の声が――私の耳にしっかりと入って、そして足音と共に近づいてくるその音を聞きながら、私はヘルナイトさんの蓑虫マントの中でその会話に耳を傾けていた。


 見ないだけでこんなに安心するなんて、驚きながらも自分のこの羞恥心にも驚きさえしている。


 まぁ――()()()()()があったんだから、仕方ないのかもしれない……。


 そんなことを思っていると、ヘルナイトさんのマント越しから声が聞こえてきた。


「あ! あんたは確か……」

「キザプリンス」

「シェーラシャラップッ!」


 まず最初に聞こえたのは、アキにぃ、シェーラちゃん、そしてキョウヤさんの声。


 その声が聞こえてから、歩み寄る足が私の近くで止まると、私の近くでまた声が聞こえてきた。


「イェーガー王子。無事だったのですね」

「ああ、心士がいてくれたおかげでな。何とか無事だった。それよりも……、なぜ彼女はそのマントの中に入ってしまっているんだ?」

「申し訳ございません。私にもこればかりは……」

「――っ!」


 今度はイェーガー王子とヘルナイトさんの声。二人は最初こそ穏やかな会話をしていたと思ったんだけど、ふとヘルナイトさんの背後で丸まっている私に気付いてしまったのか、イェーガー王子は私のことを指さしている……と思う。


 マントのことを見つめているイェーガー王子と同じ人影をしているその人が、私のことを見降ろして近づいてきているのだ。


 見間違えるわけなんてない。と言うかあまり今は会いたくない気持ちである。


 あの時――王都で再会した時はそんな気持ちよりも衝撃と話に集中していたのでその間で気にはならなかった。


 でも、王子と面と向かってしまうと――あの時、アクアロイアで話したことやあの時私にしたことがフラッシュバックして、一気に全身の血が噴火したような熱さになり、全身の肌が赤く染まる様な感覚を覚えたので、私はそのままヘルナイトさんの中で息を潜める。


 勿論――隠れることをしたとしても無意味というか、もうばれてしまっているのでそんなことをしても無駄なことなんだけど、それでも私はヘルナイトさんのマントの中でひっそりと息を潜める行動を続行する。


 安心できるヘルナイトさんの背の中に隠れながら……。


 まったく意味なんてない。むしろ意味ない行動を続行しているだけなんだけどね……。えへへ。


 そんなことを思っていると……。


「あぁ。ヘルナイトにデュラン。ご苦労様。初めての嵐体験はどうだった?」

「!」

「! し……っ! 心士卿どのっ!」


 また遠くから声が聞こえた。声を発すると同時に、ずんずんっという大きな足音を出しながら近づいて来る心士卿さん。その声を聞いて、ヘルナイトさんは驚きの声を上げて振り向く動作をして、デュランさんも驚きの声を上げて心士卿さんのことを呼ぶ。


 私はヘルナイトさんのマントから離れないように、必死になってヘルナイトさんと同じ動きをすると、心士卿さんは見えないけど……、ヘルナイトさん達に近づいて、足を止めて心士卿さんはこう言ってきた。


「お。そうやら大丈夫そうだな。感心だ。こんな嵐、ボロボだと毎日というよりも、しょっちゅうだからな。慣れておかないと後で痛い目を見る。それにそんな状況でも他者を守らないといけないから――たったあれだけの()()()()でへこたれるだなんて、鬼士失格だぞ」

「わかっております。できる限りの最善の方法をいたしました」

「……………………わ、わかりました……」

「よろしい」

 

 心士卿さんの言葉を聞いてか、ヘルナイトさんは変わらず凛とした音色で言うに対して、デュランさんはなんだか覇気のない音色で言ってきたので、多分反省をしているんだと思う。


 その言葉を聞いて心士卿さんは納得したような音色で言った。


 三人の話を聞きながら、私は内心――あの嵐でまだ小さいんだ……と思いながら驚きの顔で聞いたけど、ヘルナイトさんのマント越しで一通りの会話を脳内のしわとして刻み込んでいく。


 あ、一応言っておくけど……。出るという選択肢をすればいいんじゃないかと言う声が聞こえそうだけど、私はその選択肢があったとしても、その選択をすることは絶対にしなかった。


 なぜならというか……、何度も何度も話しているけど、イェーガー王子の前に出ると不意にあのことが思い出されてしまうし、目が合った瞬間一体どんな顔をすればいいのかわからないことも理由の一つで、一言でいえば出る勇気がないのが事実。


 なので私はこのままヘルナイトさんの背中に隠れる選択をした。二択の内即一択を選んでの結果と言ってほしい。


 別に王子のことが嫌いとかそんなことは一切ない。むしろそんな感情はない。


 王子は元々鬼族で『創世王』の養子として王都で暮らしているけれど、私はその王子に対して嫌だとか王子だから絶対に嫌な性格をしているとかそんなことは一切思っていない。負の感情一切ない事だけは理解してほしいだけで。


 これだけ言っているけれど決してこれは言い訳とかそう言うことでもなければ混乱のあまりに頭の中がショートしてかける言葉が見つからないだけです。うん。そう。そう……。


 そう……、そう思いたい……。うん…………。


 なんだろう……、あまりにも混乱をしているのか、自分の脳内で言い訳のような言葉をつらつらと言ってしまったような気がする。


 本当は前に出てお話をしたい気持ちなんだけど……、なんだかそのことをする前に隠れてしまった気がする……。


 本当は話したいことがいっぱいあって、本当は面と向かってお話をしたかったのになんでこんなことをしてしまったのか、今更ながら私は首を傾げてしまう。


 王子の声を聞いてしまうと、あの時された行動を思い出されて、無意識に自分でも驚くような行動をしてしまっている。でもこの行動のおかげで安堵をしている自分もいれば、なぜこんなことをしてしまったのだろうという自分もいる。


 早く出ればいいのに、その行動ですらできない自分がいることにも驚きながら……、私は今まで感じたことがない悶々としているような……、それでいて熱湯のようにぐつぐつとしているような感情を抱きながら、私はみんなの言葉に耳を傾ける。


 安心するヘルナイトさんの背に、申し訳なく預けながら……。


「おお、ボロボ空中都市か。ここの来るのも何時以来だろうなぁ」

「心士卿も都市に来たことがあるのですね」

「ああ、と言っても――前の『創世王』と一緒に永王と対談したとき以来だけど……、確か――二百五十一年前だったかな……?」

「対談……、ですか」

「なんかすんげースケールの話をしているみたいだけど、どんだけ長生きなんだよ……。その永王って。てか心士卿さん全然ヘルナイトの背後見ていないな」

「配慮ってやつじゃない? キョウヤもあんまりいじめないでよ。あれは早々治るものじゃないし、私もなる可能性大だもの。だからあまり詮索をしないこと。いいわね」

「え? お、おぉ……」

「でもハンナの気持ち――わかる気がする。初心ね」

「へ? 鵜船(うぶね)?」


 まず最初に聞こえたのは心士卿さん。


 心士卿さんはどうやら前にもボロボに来たことがあるらしく、そのことを聞いたヘルナイトさんは私がいることを気に掛けて、最小限の動きで、多分心士卿さんがいる方向に体を向けながら言葉を発する。


 ヘルナイトさんと心士卿さんの話を聞いていたのか、背後でキョウヤさんとシェーラちゃんが驚きと、背後に未だに隠れている私のことを話していたけど、シェーラちゃんが私のことを汲み取ってくれたのか、呆れたような、それでいて和むようなそれを含ませたような音色でシェーラちゃんは言ってきた。


 声からして、私を見て、最後の言葉を放ったと思う。


 その言葉を聞いた瞬間、私はぎょっとした顔でシェーラちゃんのことを見ようとした時、アキにぃの言葉でその声がかき消されてしまった。


 なんだろうか、アキにぃの言葉を聞いた瞬間、本能が囁いた気がする。『それは違う』と……。


 でもアキにぃのおかげで気持ちが幾分か和んだような、落ち着いたような気がする。ありがとう……、アキにぃ。


 すると、その話を聞いていたのか、突然とある人物が誰かに向かってこんなことを言ってきた。


「あ? あぁあんた達は、()()()の」

「久しぶりなのですー! 王子さまーっ!」

「ああ、久しいな。人間族の冒険者に、猫人の冒険者よ」

「――?」


 次に言葉を放ったのは――コウガさんとむぃちゃん、そして……イェーガー王子。


 コウガさんは王子のことを見て気付いたのか、思い出したかのような言葉でイェーガー王子に向かって言うと、それを聞いていた王子はコウガさんとコウガさんに抱えられているむぃちゃんのことを見て懐かしいような言い方でコウガさんとむぃちゃんに向かって言う声が聞こえた。


 その声を聞いた時、私はヘルナイトさんのマントの中で驚いた顔をしてコウガさんの声がした方向を見る。


 その方向に見えないけど見て、耳を傾けるように聞き耳を立てると、コウガさんの声と重なるように鈍く大きな音が辺りに響いた。


 ずずぅん……。という音が辺りに響くと、それを聞いて体験した誰もが「おぉっ」という声を上げてお退きの声を上げている最中、コウガさんは王子に向かって、苛立っているように聞こえるけど、その音色の中にはどころなく申し訳なさと、そして感謝が入り混じっているような音色で、コウガさんは王子に向かって言ったのだ。


 ずずずぅぅ………ん。大きくて鈍い音が響く中で――だ。


「あんた……。同行していたんだな」

「ああ。私もこの国に用があってな。ちょっとした話をな」

「王様にか? 使者だけなら心配だからっていう理由で来たのかよ。随分と暇なんだな」

「いいや。この国に来た理由はそれもあるが、もう一つの目的があるんだ。それが本題のようなものでな」

「へぇー。ほかにも本題があるってのか。どんなものなのか。少し興味があるのも事実だな」

「すまない。生憎だがこれは私だけで解決をしたいんだ。()()()()()()()()()()でもあるからな」

「あんたにしかできないことか……。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()特権的なものなのか?」

「それに似ているな。だが根本的には違うと断言できる」

「ほおん。そうかい。でもまぁ――あんたがしてくれたことに対しては俺たちは感謝している。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しれねえからな。そこんとこはしっかりと恩を返すつもりでいる」

「……そうか。そこまで仰々しいことはしてない。いいや、騙したと言っても過言ではないのだがな」

「んなもん人の聞き方次第だ。俺は、いいや、俺達は俺達なりにやり方を貫き通す。俺達の国ではな、諺で『恩を仇で返す』ってことがあるんだが、逆に『借りを返す』って言葉もある。俺たちはその後者に則って行動するつもりだ。それ相応の働きもするつもりでいる。まぁ、あの餓鬼はもう忘れている可能瀬ウがあるかもしれねえが、それでも俺はそうするつもりでいるからな」

「――わかった。間近で見ることはできないが、期待をしている。シルフィードの浄化作戦に貢献できれば、お前達の自由は確定でもあるのだからな」

「ああ。わかっている」


 長い長い話を聞き終えた後、私は驚きを顔に出しながらコウガさんとイェーガー王子の言葉に耳を傾け、そして会話を記憶に刻みながら、もう一度復唱をしつつ、要点をもう一度脳内で再生をしていく。


 イェーガー王子にしかできないこと。


 コウガさん達が釈放された理由の一因として、イェーガー王子が絡んでいる。


 恩を返すために、一緒に行動している。


 その言葉を聞いたとき、私はバトラヴィア帝国に捕まった後、しょーちゃんが一体なぜ王都に来ているのか、そしてなぜ牢屋から出ているのかが少しずつ、本当に少しずつと言った形でわかってきた。


 疑問と言う名の砂を一掴みして、それを解決と言う名の砂の山を少しずつ、少しずつ作っていくように、どんどん山は出来上がってく。その光景を想像しながら私は思う。


 コウガさんたちとイェーガー王子は一体、どんな関係なんだろうと……。


 すると……、突然私達の場所の空気が少し変わった――気がした。


 その理由は、今の今まで怖がっていたつーちゃんの声が始まりだった。


「? え? あれ? あれって……」

『?』

「!」

「――?」


 つーちゃんの声を聞いたみんなが疑念の声を上げながら足音を立てている。きっと景色が見える場所に向かったのだろう。その声を聞いたヘルナイトさんも驚きの声を上げると、その声がした方向を向いたのだろう。足を動かしてその場所を見ているみたいだ。


 私はその声を聞きながら、一体何があったのだろうと思いながらくるまっていたマントから出ようとそっとマントに手を付けた瞬間……。


 ――ぐぃっと、何かによって引っ張られるような感覚を覚えた私。しかも私がいるところをひっぺがえす勢いで、それを受けた私は驚きながら何かをすると言うことができず、そのまま無理やり外の世界から出される。


 まるで真っ暗な部屋に引きこもっていたかのように、明るい世界に顔を出した瞬間その光に驚き、暗闇に慣れてしまった目のせいで光を見た瞬間目を瞑って手でその光を遮ってしまう。


 驚きつつ、少しずつ光に慣れてきた目で、周りを見ようとした瞬間、私は横にいるその人の存在を見て、驚きの声を上げそうになった。


 なにせ――私の目の前……、じゃない。至近距離だけど私の横にいたその人は、私のことを見降ろし、しゃがんだ状態で見ていた。黒い眼ではなく、金色の爬虫類特有の目と、緑の鱗を私に見せつけながら。


 そう。その人は人ではなく、クロゥさんと同様の竜人で、緑色の鱗に黒くて傷だらけの角。服装はローマの人がよく着ているような衣服と黒い丈が長い布。その腰には銀色の刀身が見えている剣を携えていて、手首には真っ黒な手錠めいたものをつけている竜人で、その人はヘルナイトさんのマントを掴んだ状態で私のことを見降ろしていた。


「………ふえ?」


 突然の登場に、私はその人のことを見上げ、目を点にしながらその人のことを見ていると、視界の端に入ったクロゥさんとアクルさんのことを見た瞬間、はっと息を呑んだ。


 その呑みは恐怖とかそういったものではない。ただの驚きで、その驚きと共に私はクロゥさん達のことを見た。


 クロゥさんはアクルさんは、今まであった雰囲気を殺し、静寂を先立たせているような緊張感を持った様子で、その場でしゃがみ、右膝を立てつつその膝に右手を乗せて、左拳を地面につけている状態でいた。


 その行動は――まさに控えている様子。


 控えているその光景を見た私は、再度横にいるその竜人のことを見た瞬間、竜人は私に向かって――


「おお。すまないな。何分このなりだ。怖がられることに関しては肯定をしておこう。小さき天族の浄化士」


 と言って、その言葉を言うと同時にその場で立ち上がり、そして自分の胸に手を付けて、私のことを見降ろしたその人は――私に向かって、私達に向かってニコリと微笑んでから自分の自己紹介をしてきた。


「挨拶が遅れたな。拙僧はこのボロボ空中都市の王にして、『英知の永王』という二つ名を持っている王。アダム・ドラグーンである」


 以後――よろしくお見知りおきを。『大天使の息吹』の詠唱者よ。


 その言葉を言って、私に向けて竜特有の手を伸ばす竜人こと――この国の王様ドラグーン王。


 その言葉を聞いた私は驚きつつもその手を一瞥し、再度王の顔を見ると……、王様は怖がらせないように微笑んでいた。


 その顔を見つつ、私は王の手を見降ろすと同時におずおずと言った形でその手をきゅぅ……、と握る。


 手を握った瞬間、王様の手はとても違和感を感じた。


 人間とは違う、爬虫類が持っている鱗のさらさらした感触と、尖った爪が皮膚をぷすりと刺していく感覚。


 その感覚を感じると同時に、その手から伝わるごつごつとした人間と同じ筋肉の感覚と優しい温もりを感じた。


 そう。ヘルナイトさんと同じ――優しい手のぬくもりを感じた瞬間だった。


 これが――『英知の永王』と言われている王、アダム・ドラグーン王との初めてのコンタクト。初めての会話。


 これを始まりとして、私達としょーちゃん達は新たな土地ボロボ空中都市でシルフィードの浄化に専念することになる。


 この後迫り来る大きな黒いもしゃもしゃとの対面を知る由もなく――

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