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PLAY09 捕食の魔物①

 唐突な回想。


 今回はあまり興味がそそらないかもしれないが、それでも今回のキーパーソン (?)めいた人物をしようと思う。


 一体誰なのか? その人物は――彼である。


 そう――今回の回想の主役はゴロクルーズ。


 彼のことを語ることは、きっとただの漫画の一場面を見るようなもの。


 ゴロクルーズの現実名は長曽我部(ちょうそかべ)友則(とものり)


 何とも仰々しい名前ではある。しかし名前は名前。名前通りの偉大なことを遂げるなど、それは親の虚しい願いと言えるだろう……。


 友則の家族は親と三人の三つ子。その末っ子にあたる友則。


 三人揃って男なのだが、親はそんな彼らに、期待などしなかった。


 何に対しても、どんなことがあっても――


 三つ子を褒めなかった。むしろ……褒めることはなかった。


 簡単な話。


 彼等は頭が悪かったのだ。


 漫画で描くような、毎回テストで零点。通知もすべてに於いて最底辺。


 三つ子の内誰かが、ではない。三つ子共……頭が悪かったのだ。


 母曰く……。


 ――出来の悪い子を、なんで三つも生んでしまったの? と……。


 父曰く。


 ――結果も出せない屑どもめ。


 それを聞いていた三つ子は、何度も何度も親から、しまいには世間から見下されて育ってきた。


 それを見て、受けて育ってきた三つ子は中学校を卒業して、別々の道を歩んで――一人暮らしをし、アルバイトをしながら……、実家でも貧乏だったがもっと貧乏に暮らして……。


 引き籠った。


 友則もその一人で、彼は一日中パソコンとにらめっこをする日々。


 そんな彼でも、密かに優越感に浸る思いがあった。


 それは三つ子の片割れ達も同じで、彼等はパソコンを見ながら自分で作ったキャラクターを使って、モンスターを倒しまくっていた。


 倒した後で住人と話すと、感謝してもらえる。


 なんという優越感。


 今まで見下されてきた日々が、嘘のように消えていく。


 彼等のお腹は肥大しているが、それでもよかった。


 理由は簡単。ゲームの世界の自分は、違うから。


 MCOでも、自分の姿を筋骨隆々の姿にして、多少体重の詐称もしたので、そうなったのだが、まあまあまんざらでもない日々だった。


 アップデートの後も、きっと大丈夫だろう。消えていく人々を見ながら、彼は思った。


 しかし……。


 ふっと現れたのは……、目元を苛立ちのそれに変えているマイリィ。


 彼女を見たゴロクルーズは、ぎょっと驚きながら後ろに引こうとした。その時……。


「あんた……、誤魔化しているでしょ?」

「へ?」


 マイリィに言われ、彼は呆けた声しか出なかった。そして……。


「――ペナルティね」


 と言って、彼の視界を手でふさいで……世界が真っ暗になる。


 次に目を開けた瞬間、彼は自分の手を見た。すると……、手を見た瞬間、下の床を見て、そして、己のお腹に触れる。


 ぶよんっと揺れる()()


 それを見て、ゴロクルーズは目を疑った。


 彼の姿は、あまりにも違和感の塊だったのだ。


 彼のお腹は、ゲームの時は引き締まっているお腹で、まるでナチュラルなダンディだったのだ。しかし今はそんな面影などない。顔や足、腕はゲーム時のまま。しかしお腹だけぶよぶよの贅肉。


 いうなれば……、肥満腹。


 それを見た彼は、驚きのあまりに目を疑い、そして周りを見る。


 自分を見て、物珍しそうに見ている眼もあれば、薄気味悪そうに見ている眼もある。しかしその比は、後者が圧倒的に多い。それを見たゴロクルーズは、昔体験した見下される劣等感が込み上げてきた。


 劣等感が苛立ちに変わり……、そして。


 ――とん。


「あんた……、大丈夫?」


 彼の背中を叩いて声をかける人物がいた。ゴロクルーズは振り返り、その人物を見た。


 その人物は……。黒い服装で身を包んでいる……。


 今まさに、ゴロクルーズを強襲している少女だった。少女は心配そうな顔をして……。聞いた。


「あんた大丈夫? 顔色悪いけど」


 が。


 ゴロクルーズは彼女の手をはたき、そして声を荒げて言ってしまったのだ……。


「何が大丈夫だっ! 大丈夫なわけないだろう!? お前のような」



 回想強制終了。



 □     □



「むぅううううううううっ!」


 むずっとしたままゴロクルーズさんと私達を見る女の人。


 その人は私達を見ていない。見ているのは、未だに蹲っているゴロクルーズさん。ゴロクルーズさんは頭を抱えてぶるぶる震えながら隠れている。


 そんな姿を見ながら、女の人は「っち」と舌打ちをした。


「何女の子の後ろでびくびくしているの!? それでも男? みっともないっ! ちゃんと男だっていう証明があるのっ!?」


 その子は怒りを露にしながら罵倒し、鎌の持つところでどんどんっと地面を突きながら怒る。


 それを聞いていたキョウヤさんは引きつった笑みを浮かべて「おーおーおー……。なんだあの怒りよう……」と、青ざめながらその子を見ていた。


 アキにぃはそれを聞いて、ハァッと溜息を吐くだけ。


 ヘルナイトさんは大剣を逆手からちゃんと持って、ざっと構えながら女の子に聞いた。


「――いったい、何が目的なんだ?」


 すると、その子はだんっと地面にそれを突き刺すように、めり込むくらい突いて、苛立った口調と表情で、彼女は怒鳴った。


「決まってるわよ! そいつを殺すっ! 殺すのよっ!」

「っ」


 殺す……。


 その言葉を聞いて、私はずくっと、また胸のところが痛みだした……。


 それは、ヘルナイトさんと、一時期別れた時の痛みとは違う。黒い刃が、私の心臓を深く突き刺して、そのまま刃をぐりぐりと動かして、私の傷口を大きくし、掻き出すように回しているような……、そんな痛み。


 私は胸の位置に両手をやって、そして祈るように、両手を絡ませて……、痛みに耐える……。



 おじいさんの視線に私は気付かなかったけど……、女の子は「ちょっとぉ!」と声を荒げて、私達に言った。


 私はびくっと驚いて、そのまま「あ、はぃ……っ」と聞くと、女の子は苛立った口調と表情。そして今度は足をかつかつと足踏みして、苛立ちがマックスのようで、彼女は荒げながらゴロクルーズさんを指で指して怒鳴った。


「あんたじゃないけど、その男をこっちに渡してっ! あたしはそいつの命を狙いに来たの! リッパーらしく!」

「……リッパー?」


 私は驚いた声で聞くと、アキにぃはそれを聞いて『へぇ』と声を漏らして……。


「君、リッパーなんだ」


 と言うと、女の子は腰に手を当てて「そうよ」と怒っているけど、少し自慢げにして自分の名を名乗った。


「あたしはリッパーのシャイナッ! 十九歳っ! そいつに用があってここに来た! あんた達には関係ないし、早く」と言った瞬間だった。


「は?」


 シャイナさんは私達を見て呆けた声を出して見た。目を点にして見た。


 私達は女の子――シャイナさんの話を聞いていた。誰も事の発端を見ていない。ゆえに見逃していた。目を離していた。なので……。


「?」


 キョウヤさんはシャイナさんのそれを見て、私の方を振り向いて首を傾げて、次第にことの事態を飲み込んだかのように……、目を見開いた。


 私はそんなキョウヤさんを見て、ゴロクルーズさんを見る。


 ゴロクルーズさんは……そこにいなくて……。


「あ」

「あ!」

「む」

「?」


 私、アキにぃ、おじいさん、ヘルナイトさんはその事態を少しずつ飲み込んで……、ゴロクルーズさんがいた場所を見て、少し奥の方を見た瞬間、察した。というか見てしまった。



 ゴロクルーズさんは一目散に逃げていた。



 それを見てしまったのか、シャイナさんは後ろで大きな声を放った。


「――逃がすかあああっっっ!」


 じゃきんっと鎌を両手で持って、そしてぐっと肩に力を入れるように前屈みになる。


 そして……、彼女は叫んだ。


「出てこい……っ!『無慈悲な(サディスト・)牧師様(ミニスター)』ああああっっっ!」


 叫んだ瞬間、シャイナさんの背中から『ごぽり』と零れだす黒い液体。それは段々肥大していき……、形を成していく。


「おいおいおい……っ!」

「リッパー……、暗殺者っ!」


 キョウヤさんとアキにぃが驚きの声を上げ、武器を構えていると――ヘルナイトさんは大剣を構えて私達に言った。


「ハンナ、探検家の防御を。二人はシャイナという少女を頼む。私は上の……」


 ヘルナイトさんは上を、そのゴポゴポしたそれを見上げながら言った。


「あの影を相手にする」


 アキにぃは驚きながら「はぁっ!?」と言うと、ヘルナイトさんを見て怒鳴るように言った。


「何言ってるんだっ! それって俺達だと信用できないって言いたいのかっ!? 三人であの一人……、あ、いや、二人か? を、相手にすればいいじゃないか! その方が理にかなっているっ!」


 その言葉を聞いて、ヘルナイトさんは何も言わない。それが拍車をかけたのか……、アキにぃは頭を掻いて「なんだよ……それ……っ!」と愚痴を零す。


 キョウヤさんはその真意を察したのか、アキにぃの肩を掴んでニカッと笑いながら宥めるように言った。


「まぁまぁ。今は小手調べってことで、いいじゃねえか」

「――でもっ!」

「今は、あの子を倒すことが目的じゃねえだろ?」

「う」


 キョウヤさんの言葉を聞いてアキにぃは唸って口論をやめる。


 それは……、負けたからヘルナイトさんの意見に賛同するということだ。


 私はそれを見て、安堵の息を吐く。そしておじいさんから離れないように、くるっと後ろを向いた。


 ゴロクルーズさんは未だに走っている。


 それを見て、私は右手をかざして……。


「『強固盾(シェルガ)』」


 すると、おじいさんの周りに、半透明の半球体が出る。


 それを見たおじいさんは、おぉっと、驚いた声を上げてそれを指でなぞったり。触れたりしていた。


 おじいさんのそれを見た私は、興味を持つそれを見て、おじいさんの無表情以外のそれを見た……。そして気持ちを切り替えて……。


 何とかして、おじいさんは無傷で守りながら、援護をしないと……っ!


 MPが大きく減少してしまう盾スキル系統最強スキル。でも、私のMPは四万超えている。なんとかなる。そう思っていた矢先だった。


 ずんっと、背後で何か大きなものが落ちた音。それを聞いて私はそっと振り返る。すると……それを見て、絶句した。


「おいおい……。マジか……っ」

「リッパーって……、確かに暗殺者の中でも呪術っていうものが使える。しかも暗殺者の特権で、影っていうもう一人の自分が出るから、事実上二人三脚のような戦闘だって聞いたよ……?」


 でも、と……、キョウヤさんとアキにぃはもうやばいだろうというような混乱しかしてないのに、それでも笑みを続けている。ううん。これは――


 笑うことしかできないのだ。


 おじいさんは驚いた顔をしている。


 ヘルナイトさんはそれを見ているだけであまり驚いてはいない。むしろ戦う意志は削がれていないようだ。それでも私もそれを見て、驚きを通り越して……。


 これは、まずいと察知した。


 ずんっと落ちていたのは――よく西洋でも使われる棺。それが二個。違う……。二つ、なのかな?


 でもその落ちてきた棺に手を乗せるように、そして片手で棺を四つ持っている片手たち……。


 聞いた限りおかしいと思うだろう。簡単な話……。


 その手は、()()()()()()()()


 総計で六本の腕で、六つの棺を片手で支えたり、乗せていた。


 もう西洋風千手観音の六つ手バージョンだ。


 黒い服装に背中には一際大きい棺と大きな刃がついた十字架を鎖で括りつけて背負っている。独特なキノコヘアーで顔ががりがりの痩せ細っている。どんな目なのかもわからないような凹み具合の痩せ具合だ。腕も手の指も痩せてて、すごく細い。


 それなのにあの重い棺を片手で支えているのだ。


 それがシャイナさんの背中から出ている。


 それが指すこと――それは。シャイナさんの影と言うことになる。


 サディスト・ミニスター。


 無慈悲な、牧師様……。


「『無慈悲な(サディスト・)牧師様(ミニスター)』ッ! やっと見つけたよ! あいつだ……」


 シャイナさんは上を見上げて、牧師様に向かって言った。それを聞いてその影である牧師様は下を向いてシャイナさんの話を聞いている。


 シャイナさんは言った。


「――やるよ。今度こそ!」


 決意を固めた声音で言った。


 でもその決意は……、殺意に対しての決意……。には、聞こえないし、見えない……。でもゴロクルーズさんを襲うことは真実のようだ。それを聞いて私はすぐに手をかざして『浄化』を発動しようとした。

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