表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
489/831

PLAY85 空の都市と竜の王②

「心士卿様、此度のお無礼申し訳ございません。そして武神卿御一行。誘い卿御一行方々も、此度の御無礼申し訳ございません。先ほどは敵だと思いまして本性を露にしてしまいました……。誠に申し訳ないです。申し遅れました――我々は『英知の永王』アダム・ドラグーン王に仕える近衛騎士。ボロボ空中都市へと案内をする使者です。皆様方のご到着をお待ちしておりました。これからは我々があなた方をボロボ空中都市へとご案内いたします。救世主様御一行よ」


 その言葉を聞いて自分の緊張を張り詰めた私だったけど、その行動をしたのは私だけではなかった。


 ヘルナイトさん、デュランさん、心士卿さんとエドさん以外のみんなが私と同じように張り詰めた緊張のもしゃもしゃを放っていた。


 ううん……。もしゃもしゃを見なくても分かる。雰囲気が重くなったのだから誰だってわかる――


「え? マジかっ! とうとう未知の領域ボロボ空中都市に行くのかっ! 長かったなぁここまでの間! 今の今まで()()()()()()()()()()()、で()()()()()()()()だったから――楽しみっすよぉ!」


 ううん……間違えた。


 唯一この空気を察しいないのか、しょーちゃんだけは好奇心を持った小さな子供の様に目をキラキラさせながら二人の竜人さん達のことを見ている。その光景を横目に見ながら私は思い出す。


 そう言えば……、メグちゃんのことを助けた時もこんな感じで状況を呑んでいないような発言をしていたような……、そんな気がする。


 そのことに関してはみんな思っていたらしく、この重苦しい空気に気付いていないしょーちゃんは「え? どうしたんすか?」と、何も気付いていない顔をしながら自分のことを睨んでいるみんなのことを見る。


 みんなの眼からでもわかる――苛立ちに似たものを見ても、しょーちゃんは臆することもしないでみんなのことを見て首を傾げていた。頭の上に見えるお花はきっと気のせいではない。そう思いながら……。


「楽しみ。そう言っていただけると感謝しかないです」

「!」


 するとその話を聞いていたのか、黒い鱗を持った竜人さんは私達のことを見てなのか、静かな音色で言う。その声を聞いて私達ははっとしてから竜人さんのことを見る。


 黒い鱗の竜人さんはどうやら私達の光景を見て、しょーちゃんの言葉を聞きながら目を伏せていたらしく、私達の視線に気付くと同時にその目をそっと上げ、私達のことをしっかりと見つめながら彼は言ったのだ。


「我々の地――竜達の聖地は地上の者達からしてみれば神聖な地であり、それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあり、地上の者達を毛嫌う者達が住むところでもあります。ゆえに地上から来る者達は数少ないのですが、そう言っていただけるのであれば――『永王』も喜ぶことでしょう」


「………毛嫌う」


 黒い鱗の竜人さんの話を聞いていた私は、その一言を脳内に刻みながら自分の口で呟く。


 しょーちゃん自身目を点にして首を傾げながら「え? どゆこと?」と言っていたけど、私はその言葉を聞いて、今まで地上で冒険してきたことを思い出す。


 私が冒険をしてきた土地は――アルテットミアとアクアロイア。


 アルテットミアではそんな差別や苦しいことはあまりなかったけど、アクアロイアに来てから、その差別が大きく露見していた。


 元バトラヴィア帝国がアクアロイアの国の人達を奴隷にしようとしているところ。


 前アクアロイア王がクルクくんのお母さんの亡骸を使ってリヴァアサンを操ろうとしたこと。


 砂の国に入ってからはそのようなことが多くあり、ザンバードさんが言っていた苦しさもあり、ヨミちゃんの村で起きたことも、オヴィリィさんの里で見た衝撃的なこと、そして駐屯医療所で起きていた真実も、元帝国がしてきた悪行とその思考。


 色んな事があったことを思い出し、それと同時に、ボロボ空中都市の人達が地上の国を毛嫌うのも無理ないと思ってしまった。


 特に、元バトラヴィア帝国がしてきたことを思えば、毛嫌うのも無理はないと思う……。黒い鱗の竜人さんの言葉は正しいことだと思って俯いて黙ってしまうと、黒い鱗の竜人さんの言葉を聞いてか、アキにぃは荒げる声でこう言ってきた。


「だったら――あんな風に俺達をことを襲撃するようなことしないでくださいよっ! おかげでこっちは竜相手に戦うところだったんですよっ!? もしそうなり、万が一の可能性で俺達が死んでしまったら――どう責任を取ってくれるんですかっ!? 保険とかかけてくれるんですかっ!? どうするつもりだったんですかっ!?」

「アキ。お前……、こいつらの中に敵意がないと知った途端強気になったな。目がもう水を得た魚の如く潤っているし……。チンピラかよ」

「弱者の常套手段ね」

「シェーラ、お前毒は健在だな」


 アキにぃの言葉を聞いてか、キョウヤさんとシェーラちゃんが呆れた目を半開きにして見ている。


 アキにぃはそんな二人のことを敢えて無視をするようにずんずんっと黒い鱗の竜人さんに向かって歩んで近付きながらアキにぃは言う。


 ずんずんっと、黒い鱗の竜人さんに近付きながら、指をさしつつも強気な姿勢を見せながら――アキにぃは言った。


「と言うかなんであんなことをしたんですかっ!? 本当にあなた方はボロボの使者なんですかっ!? エドさんのことに関しても未だに半信半疑なところがありますけど」

「えぇっ!?」

「それでもあんた達はエドさん以上に怪しすぎる! 砂の国でもこんなことあったけど、その人は極悪人だったし、その証拠さえあればいいんですけど、それがなければ信用も何もできませんからね! さぁ俺達に対して証拠と謝罪を出してくださいよ! ほらっ!」

「うわぁ……、大人げないです……」

「おいむぃ。お前は見るな。これは子供が見るような代物じゃねえ」

「あきよやめよ。妹も見ているところでそのような失態を晒すでない」

「うわー。マジかよ。よく見る常時気なしの人のような行動をしている……。僕初めて見たよこんな常時気なしの人」

「お前も半分常識ねえゃねえか。良かったなツグミ、同類ができて」

「………弁慶に蹴り入れますよ?」

 

 アキにぃの衝撃発言にエドさんは壮絶なショックを受けたかのような泣き顔を浮かべ (私自身衝撃的だった)、黒い鱗の竜人さんに畳み掛けるようにアキにぃはずんずんっと歩みながら畳み掛けようとする。


 さっきの恐怖がきっかけになってしまったのか、アキにぃはもう止まることを知らない戦車の様にどんどん言葉の砲撃を黒い鱗の竜人さんに向けている。


 正直な話……、私、恥ずかしい……。


 そう思いながら私は顔を覆って、そして顔をほんの少し赤くさせて俯いていると、その光景を見てなのか、ヘルナイトさんが私の頭に手を置いて小さな声で「大丈夫か?」と声を掛けてくると、アキにぃのことを見てか、むぃちゃん、コウガさん、虎次郎さんにつーちゃんの声が聞こえてきた……。


 つーちゃんの言葉に対してコウガさんが攻撃の言葉をかけたけど、つーちゃんがその言葉に対して物理的な攻撃を仕掛けるような言葉を低い音色で言っていたけど、私はその光景を見ることができず、アキにぃの行動に対して、今更ながら恥ずかしいと思いながら顔を伏せて手で顔を覆い隠していた……。


 アキにぃの気持ちも分からなくはないよ。でも……、人前でさすがにこれは……。ううううう……。


「ハンナ? 大丈夫か?」

「きゅ~ぅ?」


 私の姿を見て心配になったのか、ヘルナイトさんは私の顔を覗き込もうとしゃがみながら優しく問いかけ、ナヴィちゃんも私の肩に乗りながら鳴き声を放っている。


 二人の……、あ、違う。ナヴィちゃんは人じゃないから、この場合はナヴィちゃんとヘルナイトさんの優しさを感じ、私は更に申し訳なさを感じながら俯きを深くして、顔を見せないようにする。


 アキにぃ達のぎゃんぎゃんわんわんこらこらの声を耳に入れながら……。


「おれ……、まだ信用解かされていなかったんだ……。どこが悪かったんだろう……? もしかして、この鉄のマスク? でもこれはな……。うーん……」


 ただ一人、エドさんは愕然とした顔で、顔から見てもショックというそれがわかる様な顔をしながら両手で自分の両頬を覆っていた時、その光景を見てなのか、とある人が声を掛けてきたのだ。


「っは! なにへこへこしてんだクロゥディグル! こんな下等な種族に対して頭を下げても、結局解くなんてねえんだよっ! 神聖な竜族たるもの――堂々としていろっ! 結局こいつらは俺達に食われるような存在なんだからよ! シャシャシャ!」

『!』


 その声を聞いた誰もが驚いた顔をして声がした方向を見る。私も顔を上げて見ると、青い鱗の竜人さんが『シャシャシャ』とくつくつと笑い声を上げながら肩を揺らしている。


 その笑い声を聞きながら、殺気の言葉を言ったのはこの人で間違いけど、その竜人さんは私達のことを見ながらよく見る『ケケケ』という声を上げながら私達…………というよりも、私のことを鋭く尖った爪で指を指しながら――


「てか――そこにいる餓鬼が本当に浄化を持つ女なのか? そのことですら嘘かもしれねえじゃねえか。本当にその小娘が本物なのか――お前はどうなのよクロゥディグル。俺は信じてねえほうだけどなっ!」


 と、青い鱗の竜人さんはシャシャシャと大声で笑いながら言う。


 私のことを本物と信じていないような言い方で――だ。


 そのことを聞いていたアキにぃは、今の今まで黒い鱗の竜人さんに詰め寄ることをぱったりとやめて、そのまま青い鱗の竜人さんに向けてゆっくりと歩みを進めていく。


 その目ともしゃもしゃから――明らかなる殺意を込めながら……。


 アキにぃの異変に気付いたキョウヤさんは、慌ててアキにぃの両脇にその両手を滑りこませて、流れる様な素早い動作でアキにぃのことを羽交い絞めにする。


 しゅっと言う音を出しながら、キョウヤさんはアキにぃに向かって――


「おいおいアキ待て待てっ! ストップだ! ストップザバイオレンスだっ!」


 と言いながら、アキにぃのことを止める。言葉の中にユーモアが溢れていたような気がしたけど、その言葉に対して和みも何もできない私達はその言葉を聞きながら張り詰めていた緊張感の重苦しい気持ちでその光景を見つめる。


 私はその気持ちと同時に困惑も入り混じって、ワタワタとしながらその光景を交互に見ることしかできなかった。


 この重苦しい空気を何とかしないと、そのためには私が浄化を持った人物であることを証明しないといけないから……、浄化を持っている――つまりは『終焉の瘴気』を倒すことができる、浄化ができる『大天使の息吹』をここで出せばいい。


 証明できないからこの空気で、悪くなったのだから――その証明をすればこの空気もよくなるはず。そんな思考回路で思い至った私の思考回路は、多分ショート寸前だったのかもしれない。


 なにせ、突然大きな二頭の竜が現れて、そのあとで心士卿さんが現れて、そしてこの二人の竜人さん。思考回路が追い付けないにもほどがあるようなことが多すぎた。


 私はこの時――すでに混乱の渦の中に嵌っていたのかもしれない……。だから私は、行動こそがいい証拠になると、思ってしまった。


 そのことを思い至った私は思いついたのであれば行動あるのみと思い、その場ですぅっと息を吸って――詠唱を唱えてこの空気を何とかしないと。何とかして私のことを証明しないとと思いながら息を吸った。


 瞬間――


「待てハンナ」

「!? ふむっ?」


 突然、隣にいたヘルナイトさんが詠唱を放とうとしていた私の口をそっとその大きくて温かい手で塞ぎ、私に対してやんわりと制止をかける。その塞ぎを与えられた私は、驚きと同時にへんてこな声を上げると、今の今まで混乱していた思考回路が、少しずつ……、本当に少しずつ正常になっていくのを脳内で感じる。


 簡単に言うと、今まで混乱していた感情が冷静になって、正常な思考になるというものなのかもしれない……。


 そんなことを思って、今まで混乱のせいで謝ったことをしそうになった自分に対して――何をしよとしていたんだろう……、恥ずかしい。と思いながら顔を少しだけ伏せると、その光景を見ていたのか、ヘルナイトさんは私に向かって――凛とした音色でこう言ってきたのだ。


「そのようなことをしなくても大丈夫だ。ハンナが本物であることは、傍にいる私が証拠となる。そして、君がその力を持っていることはその証明は――()()()()()

「? ふふふ?」


 ヘルナイトさんの言葉に私は首を傾げながら聞く。もちろん口を塞がれているので、もごもごとした言葉しかかけれないけど……、私はヘルナイトさんに向かって聞く。


 その言葉を聞いてヘルナイトさんは「ああ、いずれ来る」と、凛とした音色で言うと、そんな私達の会話など聞いていないみんなは、未だに緊張と困惑が入り混じっている空間を作り上げている。


 びりびりと……、まるでここ一帯が感電地帯なのかと言うような緊張感。


 その緊張感を感じてなのか、「シャシャシャ」と笑いを込み上げている青い鱗の竜人さんに手を出そうとする人はいなかった。あの虎次郎さんでさえも、攻撃をすることはしなかった。


 その光景を口を塞がれた状態で見ていた私は、なんとなくだけどみんなが何では向かおうとしないのか、そしてキョウヤさんが何で即座にアキにぃを止めたのか、その理由についてなんとなく、本当になんとなくだけど察した。


 エドさんと心士卿さんだけは攻撃をする素振りを見せなかったのでエドさんだけは例外だけど……なんとなくだけど察した。


 理由は簡単。


 ここにいる二人の竜人さんが、強すぎるだけ。


 これはRPGにおいて普通だろうと思えるような展開かもしれない。そして当たり前なのかもしれないような展開でもある。普通に考えれば、ボスを倒した後次のステージに行くと敵や味方のレベルが上がっていること――つまりは強くなっていることは普通にあること。


 でも、この世界はゲームでもあり現実の様に感じられるような世界。


 その世界で、私は……、私達は体感したんだ。


 この場所にいる竜人さんたちは、強いと――そう直感が囁いた。私の場合は目を凝らして、もしゃもしゃを感じ取ったらわかるけど、みんなは直感したんだ。


 勝てないと、ここで喧嘩を売ってしまえば、殺されるかもしれないと。そう直感したんだ。


 だからキョウヤさんはアキにぃに事を止めて、二次被害を避けようとした。虎次郎さんも攻撃をすることをしなかった。私でもわかる。これは賢明な判断だと……。


 あ、でもこの状況唯一わかっていないしょーちゃんはコウガさんとつーちゃんの手によって絶対に声が出ないように塞がれていた……。コウガさんがしょーちゃんの動きを羽交い絞めにして止めて、つーちゃんはそんなしょーちゃんの口を両手でしっかりと塞いで、だ。


 そんな一触即発のような空気を感じて、その空気が永遠に続くと思ったその時、青い鱗の竜人さんの言葉を聞いていた黒い鱗の竜人さんが、じろりと青い鱗の竜人さんのことを睨みつけた。


 本当に、蛇に睨まれたかのような睨みで、その睨みを見た青い鱗の竜人さんは「おっ?」という声を上げて驚きのそれを見せる。


 表面上はさほど驚いていないと言うか、何だろう……。大袈裟に驚いたかのような顔をしている。明らかにおちょくっているようなそれだけど、黒い鱗の竜人さんはそんなこと気にも留めず、冷たい眼を向けながらその人は青い鱗の竜人さんに向かってこう言ったのだ。


「おいアクルジェド。『永王』の客人の前だぞ――慎め」

「シャシャシャ! へーへい」


 黒い鱗の竜人さんの言葉を聞いて、青い鱗の竜人さんはけらけらと独特な笑いを浮かべながら両手を上げて……、『参りました』と言うポーズを向ける。


 その光景を見ていた黒い鱗の竜人さんは、青い鱗の竜人さんに向けて小さい声で舌打ちを零すと、ぽかん……としている私達をしり目に黒い鱗の竜人さんは私達のことを見て、もう一度深く頭を下げると、「申し訳ございません」と言う言葉の後で――黒い鱗の竜人さんは私達に向かって再度頭を上げて、そして真剣な目と音色でこう言ったのだ。


 その時にはもう私はヘルナイトさんに塞がれから解放されていたので、肺にたくさんの空気を入れながら黒い鱗の竜人さんのことを見上げると、黒い鱗の竜人さんはみんなのことを見て、私達のことを見ながら言ってきた。


「こいつは実力こそ認める者なのですが、なにせ人格に難がありまして」

「は、はぁ…………」

「! 重ねて申し訳ございません。まだ私達に名を名乗っていませんね。私はボロボ空中都市憲兵竜騎団第二部隊隊長を務めております。クロゥディグル・ウルダ・ギルデログルと申します。気軽に『クロゥ』と呼んでいただけると幸いです」

「く、くろ……、クロゥさんっ」

「はい。クロゥです」


 黒い鱗の竜人さん――くろうで……、えーっと………。く、クロゥさんの名前を聞いた私は長い名前をしっかりと覚えて言おうとしたけど、結局覚えることもできずに短い名前を言うと、その名を聞いたクロゥさんはぺこりと頭を下げて、あまり怒ると言うことを見せずに丁寧な口調で言う。


 その言葉を聞いていたシェーラちゃんが、首を傾げて心底嫌そうな顔をしながら……。


「……長すぎんのよ。もうちょっと短い名前の人っていないのかしら」


 と言っていたけど、誰も聞いていないのか、シェーラちゃんの言葉に対して誰も突っ込みを入れることはなかった。と言うか……、私この国の人以外で長い名前の人いたような気がするんだけど……、誰だったっけ……?


 えっと……。うーんっと……。


 うん、思い出せない……。


 誰だったんだろう……。そんなことを思っていると、クロゥさんは後ろにいる青い鱗の竜人さんのことを手で指を指しながら冷静な音色で続けて紹介をした。


「そして私と一緒に来たこの青い竜人は、ボロボ空中都市憲兵竜騎団第三部隊隊長を務めている――アクルジェド・ナード・ヴィルデド。通称は『アクル』です。言葉、素行こそは問題ありですが、彼の実力は本物です。どうか気に障らず」

「シャシャシャ! 言い方考えろ黒野郎っ!」


 クロゥさんの言葉を聞いて、青い鱗の竜人さん――アクルさんはげらげらと笑いながらもまるで怒りをぶつける様な口ぶりをクロゥさんに向ける。


 表情こそけらけらと笑っているそれだから、本当に怒っているのか、それとも馬鹿にしているのかわからない。そんなアクルさんのことを見て私は――表情が読めない人……、じゃない、竜人さんと思いながらヘルナイトさんの隣でその光景を見ていた。


 クロゥさんはその挨拶を終えると同時に、キョウヤさんの手によって羽交い絞めにされているアキにぃのことを見て、もう一度、深く、深く頭を下げて、驚いて目を見開き、言葉を詰まらせているアキにぃ達に向かって、クロゥさんは続けてこう言ったのだ。


「救世主様御一行よ。此度の非礼申し訳ございません。何分アクルジェドは竜人の古き風習を重んじている輩であります。言い方によっては救世主様御一行の気分を濁すようなことをするやもしれませんが、どうかお気になさらずに」

「え……、あ……、えーっと……」

「アキ……、頭下げてまで言っているんだぞ? オレ達よりも強い人がご丁寧に頭を下げてだぞ? その人のご好意を無下にするつもりなのか? そうなったらエルフ失格……、いいや、人間として――失格だぞ?」

「そそそそそおそそそそそそんなこと考えていないって!」

「おいどもるな。益々疑いが濃くなるぞ」


 クロゥさんの言葉を聞いてアキにぃは突然の切り替えと謝罪に驚いて困惑をしながらどもる様な口調を浮かべていたけど、背後でアキにぃのことを羽交い絞めにしていたキョウヤさんはアキにぃに向かって聞いて (どことなく半目で軽蔑が含まれていたけど……)いたけど、アキにぃはそれを聞いて半音高いしどろもどろの口調になってしまった。


 そんなアキにぃの言葉を聞いたキョウヤさんは半目だったその疑心の目をさらに深くしてアキにぃのことを見つめていたけど……、真相はどうなのかは私自身わからない。


 すると――その話は終わった時、エドさんがクロゥさんに駆け寄りながらクロゥさんの名を呼び、手をひらひらと振りながら駆け寄ると、エドさんの姿を見た瞬間クロゥさんは「おぉ!」という声を上げて……。


「エドどの! 無事に王都に着いたのですね!」

「あー。はい……、何とか、危ない道も渡りかけましたけど……」

「いえいえ。無事に戻ってこられただけでもうれしい限りです。この辺りにも()()()()()()()()()()やもしれませんから」

「――?」


 エドさんはクロゥさんの生きていた喜びを分かち合うと同時に、がっしりとした挨拶の抱擁を受けながらエドさんは「あははは」と嫌な顔をせずにクロゥさんの背をとんとんっと叩いた。


 まるで心の底から……、ううん。まるでなんていらない。本当に心から再会を喜んでいるようなもしゃもしゃを出しながら、クロゥさんはエドさんのことを抱きしめていた。


 でも、私はその嬉しさのもしゃもしゃを見ながら安堵とよかったという感情を出すことを後回しにした。なぜなら――クロゥさんの言った言葉に違和感を覚えたから。


 奴の痕跡が潜んでいる。


 その言葉を聞いた誰もが首を傾げていて、私だけではなく、しょーちゃん以外のみんなが首を傾げて目を点にしたりしていた。


 唯一、何もわかっていないしょーちゃんだけは目を点にして、ぱちくりとさせながらつーちゃんの塞ぎを受けていたけど、あの表情からして、本当に何もわかっていないみたいだ。


 確かに、何も考えずに言葉だけで『奴の痕跡が潜んでいる』と言う言葉を聞いたら誰も疑問に思わないかもしれないけど、深く考えたらその言葉はあまりにも変な言葉になってしまう。


『奴の痕跡が潜んでいる』ではなく、『奴が潜んでいるところに行くのだから』と言えば不思議と違和感はないかもしれない。


 けれど、クロゥさんの言葉を聞くと、まるで痕跡そのものが動いているかのようにも聞こえるし、または何かの技の中に痕跡を辿るようなものがあって、それに捕まらなかったことに対して喜んでいるように聞こえてしまう……。


 そのことを考えて、首を捻りながらうーんっと唸ると、そんな私のことを見てかヘルナイトさんはしゃがんで私の視線と同じ視線になりながら、凛とした音色で――


「ハンナ――どうした?」


 と聞いてきた。


 その言葉を聞いた私は、はっと息を呑むと同時に、近くにいるヘルナイトさんのことを見て思わず、自分の目の前に手を持っていき、そしてぶんぶんっと振りながら私は早口になりながら「な、何でもないです……っ! 少し考えていただけです」と言う。


 これは、咄嗟についてしまった嘘で、本当は何でもなくないんだけど……、その言葉を聞いたヘルナイトさんは私のことを少しの間じっと見て、そして徐に右手を上げて、その右手を私の頭に帽子越しに『ぽふり』と触れながら――


「そうか。だがあまり深く考えない方がいい。一人で考えては気持ちも暗くなってしまうからな」


 と言って、そのまま私の頭から手を離して、そっとその場で立ち上がるヘルナイトさん。


 その言葉を聞き、触れられたその頭を自分の手で静かに、ゆっくりと触れて私は思う。


 あの時クロゥさんが聞いた言葉と同時に、私の体が覚えているこの感覚を感じながら私は再度認識をする。




 やっぱり……、()()()()()。と――




 私は、ヘルナイトさんの優しくて大きな手を、知っている。と……。


 今の今まで疑問だったその曖昧な記憶が、少しずつ、本当に少しずつ確信に変わり、そのことでさえ忘れている私はその確信をもっとしっかりとした核心にしたいという気持ちが強くなった。


 親の記憶ですら忘れてしまっていた――私の本当の記憶を持ちたい。


 その気持ちを強く刻んで……。


 そう思っていると――今の今までエドさんと話していたクロゥさんが、私達のことを見るために振り向くと、張りのある大きな声で私達に向かってこう言ってきた。


「すみません。再会が嬉しくなりまして。それでは皆様、これから我々が先導を切りながらボロボ空中都市まで案内をいたします。移動の竜に伝えておきますが、この先は積乱雲が立ち込めていまして少々空路がもひどくなります。もちろん安全第一に行きますが、もしかすると()()()が現れる可能性があります。その場合私達であれど最悪の事態になるかもしれません。なので――()()()()()()()()早急に宿の中で待機をしてください」


「死ぬほどなの? ここ……」


 このまま行ったら、僕達死んでいたの?


 クロゥさんの言葉を聞いたつーちゃんは、しょーちゃんの口を塞ぎながら表情を顔色を青くさせながらクロゥさんに聞く。


 その音色は今まで聞いたことがないような、か細い声だったことは言わないでおくけど……、つーちゃんの気持ちはきっとこの場にいる誰もが思ったことでもあるし、誰もがつーちゃんみたくなっているから……、みんな思っていること、言いたいことは同じなのだろう。


 私だって思うもん……。


 そんなに危ないところに次の街はあるのかな……? と……。


 私達の大きな不安を死ぬかもしれないという恐怖をしり目に、デュランさんは首のない顔で頷き「ああ」と言い、ヘルナイトさんも「分かった」と凛とした音色で言って、心士卿さんも穏やかな雰囲気で頷きながら――


「――それじゃ、王子もいるから……、安全運転でよろしく」


 と、本当に穏やかな音色でクロゥさんとアクルさんに言った。


 私達の愕然と真っ青な顔を無視して……、私達の心の声――え? 死ぬかもしれないのに、怖くないの? というそれを無視しながら……、心士卿さんはクロゥさんに向かって頼んだ。


 これから起こるであろう一瞬の恐怖を承諾するように……。


 あ、一瞬じゃない。永遠の恐怖だ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ