PLAY85 空の都市と竜の王①
エレン達やジルバ達の戦いが起きてから一週間が過ぎた頃……。
それぞれの人物達がそれぞれの意思を持ってそれぞれの思惑を企てていたその頃――ハンナ達の優雅な飛行旅行も終わりを告げようとしていた。
ハンナ達は今から一週間と三日ほど……、次の浄化があるボロボ空中都市に向かうために、久方ぶりの再会となるショーマ達と、ボロボ空中都市から来た使者 (?)エドにボロボ空中都市に用があるというイェーガー王子と王子のボディーガードと一緒に大きな竜の背中に乗って、現在ボロボ空中都市がある領域に踏み込もうとしていた。
否――この場合は入るとは言わない。足がつかないので足を使う言葉は相応しくない。
この場合はこう言うべきだ。
入ると――
□ □
「おぉ……、おぉぉ……?」
「おわぁああっ! すげーっ! アニメとかで見る様な景色だぁーっ!」
「アニメとか言うな、ドキュメンタリーと言えや」
私の場所から少し遠いところで、シェーラちゃんとしょーちゃん、そしてキョウヤさんが各々言葉を口にしながら目の前に広がるその光景に目を奪われていた。
あ、でもキョウヤさんは違う。しょーちゃんの言っていることに対して突っ込みを入れてるだけだ。うん……。
そんなことを思いながら私は目の前に広がる大空の世界を目に焼き付けて、感動を顔に出しながらその光景をナヴィちゃんと一緒に見ていた。
「わぁ……、すごい」
「きゅきゃ~っ!」
思わず声が漏れてしまう。ナヴィちゃんでもこの景色を見た瞬間つぶらな瞳をキラキラと輝かせながら今目の前に広がる景色を見ている。ぴょんこぴょんこと跳ばず、じっと座りながら……。
アキにぃ達のことを横目で見ると、アキにぃ達もその光景を一望しながら言葉を出さずにじっとしている。まるで――目を奪われたかのようにじっと見ていた。
でも、その気持ちも無理もない。私だってそうだ。
だって……、目の前に広がる景色を見れば、誰だって目を奪われて魅入られてしまうのも無理もないから。
私達の前に広がる光景。それは――大きくて縦長の積乱雲がまるで地用の山のようにいくつもできており、その下を道を掻い潜るようにできている薄くて細い雲らしきもの。そして地上を覆っている雲海。まるで空の別世界に迷い込んだかのような……、壮大で見たことがない絶景が私達の前に広がっていたのだからみんな目を奪われても仕方がないだろう。
大人でもあり常に『うぜぇ』と言っているコウガさんでさえも、その光景に感動してるのか、傍らで鉄柵に乗りかかりながら驚きと感動をの顔を浮かべているむぃちゃんの横で何も言わずに見つめている。
そのくらいこの光景は都会で暮らしている人にとってすれば……、ううん、多分大自然で暮らしている人でも驚くような美しさと壮大さが私達の心を掴んだのだ。
「おぉぉ……っ! こんな風景田舎でも見れないぞ!」
「スマホの写メで残してインスタントに投稿したい」
「絶景かな」
「今日の積乱雲は一際大きいな。こんなことおれでも初めてだよ」
この絶景に感動をしていたアキにぃとつーちゃん。そして虎次郎さんと、何回も見ているけど今回の様な風景は初めてのような口ぶりをしているエドさんがそんな言葉を言いながら目の前に広がる光景を一望していた。
ばさり、ばさり……、と、紺色の竜の翼が大きく扇ぐと同時に、近くにある小さな雲が四方に飛散していく。
その光景を見て、ヘルナイトさんとデュランさんは二人同時に「おぉ」という声を上げながらこんなことを言っていた。二人だけの会話なんだけど、声が私の耳に入って来てしまうので、厳密には盗み聞きをしているような感じだ。
それでも私は二人の会話を耳の中に入れて、絶景を目に焼き付けながら聞き耳を立てた。
「これは、ボロボ空中都市の領域にしかない絶景だな」
「ああ、積乱雲がいくつも立ち込めるこの空間はまさにボロボの領域特有の光景。見た限りは美しいが、周りには確か……、雷雲があることをも追い出したんだが……、大丈夫なのか?」
「私は雷の魔祖に対しての態勢があるから大丈夫だが、デュラン――お前は確か……」
「ああ、我は光と水の魔祖が弱点だが、雷に対しても若干……」
「幽鬼魔王族は光を極端に嫌うからな。その反応は至極普通だと思うぞ」
「貴様……、我のことを馬鹿にしていないか?」
聞き耳を立てながらヘルナイトさんとデュランさんの話を聞く私だけど、二人の話を聞きながら私は内心驚きのそれを浮かべると同時に、新事実を得たかのような微かな衝撃を受けて私は思った。
デュランさんは幽霊なんだ……。
そう言えば……、メグちゃんが言っていたな……。攻略サイトで書かれていた情報によると、『12鬼士』のデュランは光属性が苦手だと。
そう……、メグちゃんが……、メグちゃん……。
そう思うと同時に、私は思い出されていくメグちゃんとの楽しい記憶に、今から二週間前に体験したことを思い出しながら壮大な景色からそっと目を離し、複雑な心境を物語っているのかもしれないような目でヘルナイトさんのことを見つめた。
ヘルナイトさん自身、体の傷は癒されたけど、心の方はまだ本調子……、ううん、癒されていないかもしれないと思いながら、ヘルナイトさんの横顔を見る私。
私だってこれほど時間がかかったとしても、受け入れると努力をしたとしても、結局のところ……、未だに夢であってほしいと思ってしまうこともあった。
そのくらい――メグちゃんがしたことは衝撃的で、且つ抉る様な事だった。
引きずりすぎではないか? そんなことでうじうじ考えるなと言われてもおかしくないけど、私自身、受け入れようと、今はもう敵なんだと認知をしようと努力をしてきたつもりだ。でも……、その努力でさえもできない、甘えを優先にしてしまう私はもっと愚かなのかもしれない。
あの時……、ガーディアンの浄化をした後、この国を『終焉の瘴気』で覆いつくした自演とと一緒にいたヴェルゴラさんとメグちゃんのことを、まだ信じている時点でおかしいのかな……?
もしかして、私の頭がおかしいのかもしれないと、ふと思ってしまったことだってあった。
ストイックなところがあるシェーラちゃんはそんな私を見て――
『あんたね……。まだ引きずっているの? もうあんな人でなしのことなんて忘れなさい。あんたのことなんて友達と思っていなかった。馬鹿にしていたのなら縁を切っても文句なんて出ないわよ。あんたが人より優しいところはアキもキョウヤも師匠も、そして私も知っている。ヘルナイトは私達よりもあんたの優しさを一番知っている。でもそれを敵に向けることはない。絶対にない。だってあいつらは殺す気で来たんでしょ? ならあんな奴らに対して優しさを向けること自体おかしい事なの。だからもう引きずるのはおしまいにして。いいわね?』
と、私に対してきつく言い聞かせるような音色で言っていたけど、これはきっと私のことを思っての言葉だと言うことは、私だってわかる。
けど……、その言葉を素直に受け入れるほど、今の私には備わっていない。と言うか……、それで心を入れ替えるということができないのも事実で、結局は受け入れたくない気持ちが大きいことが正直なところ。
しょーちゃんもつーちゃんも、あんな風に興奮しながら壮大な光景を見ているけど、本音はどうなんだろうか……。と思ってしまうけど、きっと二人自身メグちゃんのことに関して受け入れたくないところもあるかもしれない。
だって、長い間友達として接してきたのだから、そうそう簡単に受け入れるほど、私達はうまくできていない。最も……、メグちゃんに意地悪なことをされていたのならば縁を切ったり絶好もしたりなどできて、話しが別になるかもしれないけど、そんなこと一切ないからこそ、私は縁を簡単に切ることができずにいる。
それはヘルナイトさん達だってそうかもしれない。
だって、今の今までこの国を一緒に守ってきた仲間が、ジエンドがこの国を壊してきたのだから……。
でも、私はヘルナイトさんを見ると……、ヘルナイトさんはさほどショックを行けていないような顔ともしゃもしゃでこの景色を見ている。いつも通りの凛とした面持ちで。
そんなヘルナイトさんの光景を見ていた私は、ヘルナイトさんの心の強さに感服すると同時に、自分の心の弱さ、更に言うと友達の苦しみを分かり合えなかったという不甲斐なさもあって……、私はそんなヘルナイトさんの見ながら、自分と照らし合わせる。
まったく違う私とヘルナイトさんを照らし合わせながら……、私は思う。
「……私はやっぱり、弱いのかな……」
思わず、その心の声が口から飛び出したことで、ナヴィちゃんが首を傾げるように体を傾けて「きゅきゅ?」と鳴く声を聞いて、私ははっと息を呑んで手で自分の口を隠した。慌ててそれ以上の声が出ないように、私は自分の口を手で覆う。
「? どした?」
そんな私の行動を見てか首を傾げて鉄柵に寄りかかりながら見ているコウガさんを筆頭に、みんなが私のことを見て首を傾げている。
アキにぃだけは慌てた様子で私のことを見ているけど、そんなアキにぃのことを見ることができず、私は下を向いて、耳までも熱くなるような感覚を感じながら、必死に口を手で覆って塞いでいると……。
ふっと――目の前の明るさに陰が、影が突然出たのだ。
まるで――なにかによって光が遮られたかのような影の付き具合。
『?』
それを感じた私はおろか、みんなが思っただろう。おかしいと……。今まで晴天だった世界に影ができる――というよりも、こんな何もないところで影ができること自体おかしい。しかも魔真正面にできること自体おかしいと思った私達は、目の前に広がった日の光を遮るものを見ようと目の前を見た瞬間……。
ひゅっと、息が詰まる様な気持ちに、私は押し潰されそうになった。
でも、それはみんなも同じで、アキにぃやしょーちゃん達はその光景を見て、絶句と驚愕を合わせたような顔をして、顔面蒼白を浮かべながらみんなはその光景を見ていた。エドさんだけは普段と変わらない顔をしていたけど、それでも私達は言葉を失うような光景に、逆に目を焼き付けてしまう。
壮大な風景を一掃するような――目の前に広がる爬虫類特有の鋭い眼光に、黒い鱗で覆われた竜と、青い鱗で覆われたドラゴンの姿を焼き付けて。
「……………………っ!?」
突如として目の前に現れたドラゴン二匹は、小さい私達と私達のことを運んでくれている竜のことを見降ろしながら紺色の竜以上に大きな……、ううん。もっと大きな姿を私達に見せつけていた。
紺色の竜の二倍はある体格を見せつけるように、一際大きな翼を上下に大きく動かしながら飛んでいる黒い鱗の竜と青い鱗の竜。
黒い鱗の竜は剛腕の手足鋭い爪を私達に向け、胴体にあるいくつもの傷がくぐってきた修羅場を見せつけている。そして左側だけ斬られて無くなってしまっている枝分かれをした角。更には灰色の鋭い牙に隻眼の金色の眼が私達のことを捉え、低く唸るような声を出して威嚇をしている。
青い鱗の竜は黒い鱗の竜とは正反対に、手足がない日本の龍を彷彿とさせているけど、その背には青くて今まで見てきた竜と比べても大きな翼を持っている。でもその尻尾にはいくつもの棘があり、その棘にも帰しがついているようにも見える。あれに刺さった瞬間取れなくなることは確実かもしれない……。うぅ。そんな龍は、黄緑色の爬虫類の目で私達のことを睨みつけ、大きな牙を私達に向けながら「ぐがあああっっ!」と叫んでいた。
二匹とも――ううん、この場合は二体ともの方がいいかな? 二体は私達のことを睨みつけながら、敵意を剥き出しにしながら私達に向けて攻撃を仕掛けようとしていた。
もしゃもしゃでもわかる。殺すつもりの赤黒いそれを出して……。
「ね、ねぇ」
「げっっ!?」
「これ……っ! マジか!」
「フォスフォよりも大きいドラゴンッ!?」
「奇襲かっ!?」
目の前に現れたドラゴンを見て、エドさんの声と被るようにアキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さんは驚きながらも携えていた武器を手に取り、そのまま引き抜こうと構えをとる。
「あ、あの~」
「で、でかいっ!?」
「ひぃえーっ! なんなんですかあの竜は!」
「とおせんぼってか? 上等………って言いてえけど、この状況だとそんなこと言えねえな。うぜぇ」
「ぎゃああああああああっっ!? 隻眼かよぉ! これはめっぽう強いパターンだぁああああっっ!」
「「「うるさい (うるせぇ) (うるさいですぅ)っっっ!!」」」
対照的に……、またエドさんの声を消すようにしょーちゃん達はなんだかほくそ笑んでしまいそうなことを言いながらも、目が飛び出そなくらい驚いているしょーちゃん以外のみんなが武器を手に取って引き抜こうとしている。
そんな光景を見ていたエドさんは、驚いた顔をしていたけど武器をとることはなく、私達に向かって何かを言おうとしていたけど、エドさんの言葉を遮るようにみんなが目の前にいる二体のドラゴンに攻撃を仕掛けようとしている光景を見て、ワタワタしながら止めようとしている。
その光景を見ていた私は、一体どうしたのだろうと内心思いつつも、今の状況の中会話などできる余裕などなく、私はその光景を見るにとどめて――再び二体のドラゴンに目を向けた。
黒い鱗のドラゴンは「ふーっ。ふーっ」と鼻息を吐きつつ、少しだけ細めた目で私達のことを見ているに対して、青い鱗のドラゴンは気性が荒いのか、私達の戦闘態勢に牙を向けて「ぐあああああああっっ!」と威嚇を向けている。
その威嚇に対して、みんなは上等だと言わんばかりに武器を構えようとした。その時――
「――待て。攻撃はするな」
『!?』
突然だった。本当に唐突に、そしてドラゴンのことを止めるではなく、私達の行動を止めに声を張り上げたヘルナイトさんは、驚いてヘルナイトさんのことを見てるみんなのことを見て、普段と変わらない凛とした面持ちで、横目で二体のドラゴンを見ながら彼は言う。
凛とした音色で、武器も何も持たずにヘルナイトさんは言ったのだ。
「この竜に攻撃をしてはいけない。せっかくの歓迎が台無しになるぞ」
「はぁ? 歓迎だぁ?」
ヘルナイトさんの言葉に素早く反応したのは――コウガさんだ。
コウガさんは苛立つような顔をしながらも手に持っている忍刀だけは手を放さずに、握った状態でヘルナイトさんのことを見ながらにらみを利かせるけど、ヘルナイトさんはそんなコウガさんの威圧に負けることはなく、逆にヘルナイトさんの横にいたデュランさんも武器を持たずに、首のない顔でコウガさんのことを見ながら (体がコウガさんのほうを向いているから、きっとコウガさんのことを見ているんだと思う)――
「ああ、そんな敵意を剥き出しにするな。こいつらは敵ではない。我もそのことに関しては保証をする」
「記憶なくしている奴が何を言ってやがるんだ。んなこと言われても全然信じられねえよ」
「な………っ!?」
「兄貴にデュランの兄貴! それ以上は坂撫でになりますってっ! ここは似たもの同士、落ち着きましょうよっ!」
「「喧嘩を売っているのかお前は (貴様は)っ!」」
と………、デュランさんはコウガさんの怒りを収めようと声を掛けたけど、それこそ逆撫でになってしまったらしく、コウガさんはデュランさんに向かって怒るようなことを煽るように言う。多分これはわざとではない。本気だ。
そんなコウガさんの本気の言葉を聞いたデュランさんは先ほどの落ち着いたそれが嘘の様に顔を……、って、見ても分からない。でももしゃもしゃは見えて、そして正直だったのか、慌ただしいもしゃもしゃの動きをしながら感情を爆発させているそれが目に見えていた。
デュランさんとコウガさんのいざこざを聞いていたのか、しょーちゃんはそんな二人の間に入り込んで、両手を上げながら制止をかけようとしているけど、結局しょーちゃんが逆撫でをしているのか、二人の怒りを煽ってしまい、そのまま喧嘩になりそうな雰囲気になっていく。
まるで仲間内での喧嘩に対して、呆れた目で何が何だかわからないという顔をしているしょーちゃんに攻撃を仕掛けようとしている二人のことを見て、つーちゃんはため息を吐くと……。
「それで? なんでこれが歓迎なのさ」
「うそだろっ!? スルーするのかよっ! 仲間だろうがっ!」
完全にスルーをしたつーちゃんはヘルナイトさんに向かって殺気の言葉についての質問をしてきたけど、そんなつーちゃんのスルーを見て、キョウヤさんは驚きながら突っ込みを入れるけど、つーちゃんはキョウヤさんのことを見て一言――
「ああ、あれいつものことだから」と、きっぱりとした声で言った。
その言葉にもキョウヤさんはさらに驚いた顔で「いつもなのかよっっ!」と驚いた顔で再度突っ込みを入れたけど……、つーちゃんの言葉を聞いていた私は、内心――本当です。と思いながらキョウヤさんに私は心の中で謝った。
そんなことをしていると……、私達の目にいた二体のドラゴンは攻撃をしようと少しだけ動く素振りをする。動く光景を見たアキにぃはすぐさまライフル銃を構えようとしたとき……。
「ああぁ! 待って待って! 撃たないでっ! 撃ったらだめだってっ!」
今の今まで黙っていた……じゃない。今の今まで遮られてしまい声を掛けるタイミングを失いかけていたエドさんが、アキにぃが持っているライフル銃を下に向けて押し付けるように押さえると、驚くアキにぃをしり目にエドさんは慌てた様子で私達のことを見て、そして背後にいる二体のドラゴンを背にして宥める様に動作をしながら彼は言ったのだ。
「本当に撃ったらだめ。この二人はこう見えていい人……、あ、違うか。良いドラゴンだから、大丈夫だから」
「? いいドラゴン?」
「どう見てもいいドラゴンさんには見えませんよっ! あわわわっ! むぃを食べないでくださぃ!」
エドさんの言葉を聞いて私は首を傾げながらエドさんの言葉を繰り返し言うと、その言葉を聞いたとしても目の前の光景が真実と思っているむぃちゃんは、焦りの顔を浮かべながら大きな顔を近付けて来ている青い鱗のドラゴンのことを見て泣きそうな顔をしている。
確かに、むぃちゃんの言う通りこのドラゴンを見たとしてもいいドラゴンに見えないのが事実。エドさんの言っていることが真実とは思えないのも事実なのだ。
今まさに私達のことを食べようとしているこのドラゴンが、いい人もといいいドラゴン? きっと誰もが頭に疑問符を浮かべてしまいそうなことだろうけど、私はその言葉を聞いて、もしゃもしゃを聞いて、それが真実だと知った。
だって――エドさんの言葉に嘘なんて一切なく、逆に真実しかないそのもしゃもしゃを見て、エドさんは根っからの正直な人なんだと言うことを再度理解すると同時に……、私達の背後から、リヴァイヴとしょーちゃんチーム、そしてエドさんがいる状況の中、突然聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
「おぉ。もう来たんだな。案内お願いするよ」
「!」
「え?」
その聞き覚えがない声を聞いたと同時に、私ははっとして素早い動きで背後を振り向く。その振り向きと同時にシェーラちゃんの声が聞こえたけど、私は背後から聞こえた聞き覚えの無い声の主を見るために振り向いたまま向こうから来た人物に向けて目を凝らす。
目を凝らして……、そして少しずつ姿が露になっていくと同時に、その人は私達に向かって――
「お? 君達か。鬼不神さんが言っていた武神と一緒に行動をしている女のことその仲間達は。初めましてだね。そして……、そこにいる悪魔族の坊ちゃん達はお久しぶりって言ったほうがいいかな?」
と言うと、その人はすたすたと私達のことを見ながら歩みを進めて近づいてきた。
漆黒の鬼不神さんとは違い、赤と黒が混ざっている深紅の鎧と牛のような角がついている甲冑が印象的な筋骨隆々の人で、鎧を着てても筋肉が鎧で隠しきれないほど筋肉質だった。その背には大きな斧を抱えていて、その鎧から出ている白銀の長髪にその髪の毛をまとめている赤い紙紐をしてまとめている。そこ上半身を見ただけならば普通の筋肉質の騎士に見える。でもその下半身はなぜか赤い布で覆っていて、足元が全然見えない。まるで何かを隠しているように、その布で足を覆っている――鬼不神さんとは違い、威圧なんて言うものはこれっぽっちも感じない体格に似合わず穏やかなもしゃもしゃを出している二メートルを優に超えるくらいの大柄な人だった。
そんな大柄な人は私達のことを見てからしょーちゃんのことを見ながら目の前に手を出し、片手で合掌をするように申し訳なさそうな顔を甲冑越しでしながらその人はしょーちゃんに向かってこう言った。
本当に申し訳なさそうにこう言ったのだ。
「あの時は散々疑ってごめんね。なにせああでもしないと君達のこと、鬼不神さんは信じないと思ったから」
「あ、え? えー。あー…………。ああああああーっっ! 思い出したーっ! あんたあの時のおっさんっ! あの時の恨み、まだ俺は覚えていますからねーっ! 一日たりとも忘れた」
「いや忘れてたじゃん。ちゃっかりと忘れて今現在思い出したところじゃん。それでよく覚えているって言うよねー。というかショーマ。さっき自分が言った言葉覚えている? 思い出したってついさっき」
「それはそれ! これはこれだ! そんなこと俺は忘れた!」
「おわー。ご都合のいい脳味噌だこと。そんな脳味噌僕も欲しいよ」
「とにかく話を戻します――って! もういねぇっっっ!」
その人のことを見ていたしょーちゃんは一瞬目を胡麻のような目にして首を傾げていたけど、少ししてから思い出したのか、胡麻の目から元の目に戻して突然来たその人に向けて指を指しながら怒声を浴びせたけど……、つーちゃんはしょーちゃんのことを冷めた半開きの目で見て呆れた突っ込みを入れたけど、しょーちゃんはお構いなしと言わんばかりにつーちゃんに言葉を返す。
私はそんな二人の言葉を聞いてつーちゃんと同じことを思ったと同時に、『それはそれ。これはこれ』と言う言葉、久し振りに聞いたな……。と思いながら、私はしょーちゃんから目を離し、しょーちゃんに声を掛けていた深紅の鎧の騎士は『がしゃがしゃ』と、鉄特有の足音を鳴らしながらヘルナイトさんとデュランさんに近付き――
「久し振りだな。今は『武神』と、『誘い卿』って呼ばれているんだっけ。本当に無事でよかったよ」
と言うと、その言葉を聞いてか、ヘルナイトさんとデュランさんは軽く頭を下げて、その人に向かって二人は頭を下げたままの状態で言葉を零す。
「お久し振りです――『心士卿』」
「あ、あの時はとんだ御無礼を」
「いいよ。それにあの時の君は記憶がなかった状態だ。だからあの時のお前にとってすれば俺との面識は初めてのことで警戒だってあることは当たり前だ。だからそんなに気にしていないから――気にしない方がいい。体壊すよ?」
「う」
ヘルナイトさんはその赤い鎧の人――その人の名はどうやらシンシキョウと言う人らしく、シンシキョウさんに頭を下げながら言うヘルナイトさんはと対照的に、デュランさんはなんだか申し訳なさそうな顔をして頭を下げている。
頭がないのに、なぜか汗が流れているのがわかる様な面持ちでデュランさんは謝っていたけど、シンシキョウさんは至極穏やかで、鬼不神さんとは対照的に優しい言葉を掛けながらデュランさんのことを心配している。
でも、シンシキョウさんの言葉を聞いたデュランさんは言葉を詰まらせたように唸る声を上げると、その光景を見ていた私に視線を移したシンシキョウさんは、私に向かって少し覚束ないような足取りで近付き、困惑するアキにぃ達をしり目に、シンシキョウさんは私のところで歩みを止めて、そしてその大きな手を私の頭に乗せながら、シンシキョウさんは私のことを見降ろしながら穏やかな音色でこう言ったのだ。
ヘルナイトさんの手と比べたら大きくて重い手で、その中にある温かさが私の緊張をほぐしてくれているような感覚を覚えたけど、私はその手のぬくもりを感じ……、でもやっぱりヘルナイトさんの手の方が凄く安心するな……。と、少しばかり失礼なことを思いながら、私はシンシキョウさんのことを見上げて耳を傾ける。
「初めまして。君がハンナちゃんだね。俺の名前は『心士卿』と言う通り名で呼ばれている。読み方は心に紳士の士で心士だから心士卿だよ。よろしく」
「あ、えっと……、はい、初めまして……。こちらこそよろしくお願いします」
私の言葉を聞いてか、心士卿さんはうんうんと頷きながらゆるゆると私の頭を撫でて、そしてその腕を乗せながら心士卿さんは目の前で飛んで威嚇を向けている二体のドラゴンに目をやる。
私の背後で、なぜか心士卿さんに向けて銃を向けようとしているアキにぃを止めているキョウヤさんと剣を向けて止めているシェーラちゃんのことを無視しながら……、心士卿さんは二体のドラゴンに向かってこう言った。
「しかし、随分と仰々しい歓迎だな。これだと初めて来た人達にとってすれば食べられてしまうと思われるから、こっちに来て、しっかりと味方だと言うことを示しなさい」
心士卿さんの言葉を聞いた二体のドラゴンは、今の今まで警戒していたそのもしゃもしゃを一気に鎮火させ、それと同時に敵意を無くすと同時に、拳と牙を向けることをやめる。
「えぇっ? うそでしょ?」
「こいつら、言葉理解できていたのかよ……。面倒くせぇことしやがって」
「ね? だから言ったでしょ? 歓迎しているって」
「あれが歓迎か。随分と変わった歓迎じゃな」
今の今まで敵意を向けていたドラゴンが、心士卿さんの言葉一つでその敵意をなくす光景を見てつーちゃんとコウガさんの言葉に、エドさんがやっとと言わんばかりの安心と泣きが混ざった顔を二人に向けていた。
その光景を見ながら虎次郎さんは首を傾げながら唸ったけど……、二体のドラゴンは私達のことを見て、そして互いの顔を見つめながら唸る声を出している。
ぐるるるる。ぐるるるると――あの時ナヴィちゃんと私達のことをボロボに向けて運んでいるドラゴンと同じ会話の声を出しながら、二体のドラゴン達は何かを会話している。
「唸り合っている?」
「何の会話をしているんだ? って! アキ静まって! お願い静まって頂戴っ!」
「アキって、唐突に何かに取り憑かれたかのように暴れるわね……。これ病気じゃない?」
その会話を聞いていたみんなは首を傾げながら二体のドラゴンを見てその理解できない会話に耳を傾けている。シェーラちゃんとキョウヤさんはアキにぃのことを止めるのに必死になっている……。
ああ、ごめんなさい。アキにぃがご迷惑を……。
今更ながら二人に対して申し訳なく思いながら頭を垂らしていると――突然、目の前で大きな爆発音と同時に白い煙が辺りに立ち込めた。
ぼふぅん! と、ナヴィちゃんの時と同じように、白い煙が辺りを包み込み、私達に向かって追い風が来てしまったせいで、白い煙が私達を包み込むように――襲うように降りかかってきたのだ。
『っ!?』
その光景を見た私達は、驚きながらも白い煙をかき分けるように扇いだり、その煙が目に入らないように目で覆う人などいたけど、私はその光景を見て、驚きで肩の力を入れながら、いつの間にか私の肩に避難していたナヴィちゃんと一緒に驚きながら見てしまう。
ごぁっという追い風と白い煙が私達の視界を襲い、そしてその視界がない世界の中、一体次は何が起きるのだろうという不安を増幅させるように、その煙は容赦なく私達を襲う。
危害はないけど、それでも何が来るのか、一体何が起きるのかという不安を抱えてしまうところは、人間の性なのかもしれない。よく霧が立ち込めていると目の前が見えなくなると何が来るのかと不安に思ってしまう。きっと今私達はそのような状況に陥っている。
不安にならなくてもいいと言われても不安になってしまう。そんな矛盾を感じていると……。
「心士卿。此度の件に関してはとんだ御無礼を」
「そしてエド殿。使いの件――感謝する」
『!?』
また唐突に聞こえた聞き覚えの無い声。
その声を聞いた誰もが――ううん。ヘルナイトさんとデュランさん、心士卿さんとエドさん以外のみんなが驚きの顔を白い煙の向こうに向けていた。
誰もが一体誰があの声を出したのだろうと思って見ていると……、私達に気持ちが天に届いたのか、それとも偶然なのかはわからない。
でも……、今目の前で起きたことは現実で――白い煙がやっと私達を通り過ぎて、そして目の前にまた壮大な景色が映ると同時に、今の今までいなかったその場所に二人の人物が私達の目の前に現れたのだ。
先ほど私達の進路を塞いでいた二体のドラゴンは姿を消していて、そのドラゴンと入れ替わるように鉄柵に寄りかかる人物と、腕を組んで仁王立ちになっている人物が私達の目の前に現れたのだ。
「あ?」
「ひぃ……」
突然目の前に現れた存在に、コウガさんは鋭い眼を向けながら苦無を引き抜こうとしているけど、コウガさんの足にしがみついてしまっているむぃちゃんのことを見降ろしながら、苦無を持った状態で固まってしまっている。
きっと、むぃちゃんがしがみついている状態では動けないし、危ないと思ったから動かないことを選択したんだろうな……。と思いながら、私はその光景を見ていると――心士卿さんは私の頭から手を放し、目の前に現れた二人の人物……、ううん。人間ではないその二人の人物に向けて心士卿さんは言った。
目の前にいる――筋肉質の体つきをしていて、腰に二本の件を携えている胴体にあるいくつもの傷に左側だけ斬られて無くなってしまっている枝分かれをした角。隻眼の金色の眼を持った黒い鱗に黒い大きな翼、銀色の鎧を纏った人と、筋肉質の人とは対照的に細身で背に槍を携えていて、返しがついた棘の尻尾に黄緑色の眼光、青い鱗に銀色の鎧、大きな青い翼を持った人達――ううん、ガザドラさんのような人相をした竜人の人達のことを見ながら心士卿さんは聞く。
「ずいぶんと、荒い歓迎だな。どうしたんだ?」
その言葉を聞いてか、二人の竜人は心士卿さんのことを見つつ、そして私達のことをじっと見回す。
首を動かして私達のことを見てから再度にエドさんに視線を移すと、黒い鱗の竜人さんは私達に向かって軽く会釈をしながらその体格とは裏腹の冷静な音色でこう言ってきた。
「心士卿様、此度のお無礼申し訳ございません。そして武神卿御一行。誘い卿御一行方々も、此度の御無礼申し訳ございません。先ほどは敵だと思いまして本性を露にしてしまいました……。誠に申し訳ないです。申し遅れました――我々は『英知の永王』アダム・ドラグーン王に仕える近衛騎士。ボロボ空中都市へと案内をいたす使者です。皆様方のご到着をお待ちしておりました。これからは我々があなた方をボロボ空中都市へとご案内いたします。救世主様御一行よ」
その言葉を聞くと同時に、ヘルナイトさんとデュランさん、エドさんと心士卿さん以外のみんな。そして私も驚いた顔をしてその竜人達のことを見ていた。
なにせ、その人達は本当に私達が行こうとしているボロボ空中都市から来た使者だと言うことに、驚きを隠せなかった。
あ、エドさんが言っていたことを信じていなかったということではなく、さっき現れたドラゴンが、この人達だと言うことに驚いただけで、エドさんのことはちゃんと信じていた。だって、もしゃもしゃが本当だと言うことを示していたから……。
でも、黒いドラゴンさんの話を聞いた私は『ドラグーン王』と言う言葉を聞いて、今の今まで緩んでいた気持ちが一気に緊張に切り替わり、そして張り詰める。
とうとうボロボ空中都市に向かうんだ。その大地にいる『風』のシルフィードがいる大地に向かう気持ちを固めて――




