PLAY84 vs死霊族(ネクロマンサー)? PIECE:CHAT⑦
※今回使われている英語『CHAT』の和訳は『会話』です。
「し、知らないだなんて言わせませんよっ!」
トリッキーマジシャンは今まで溜めていたその怒りを爆発させるように水銀で作られたテーブルの勢いよく手を付き立ち上がると、テーブルに乗っかっているマキュリのことを見降ろして叫ぶ。
彼女が言った言葉に対して、知らないという言葉を全否定するように――トリッキーマジシャンは叫んだ。
正直に言っているマキュリに対し、詠唱の中にいて本当のことしか言えない空間内で嘘と支離滅裂な断定をしながら……。
「あなたは確かに言いました! その老人はダグディラットだと! そしてその人物のことを私は知っています! 記憶が消えた時、あれは『終焉の瘴気』が出始めた時のこと! あの時私は今のアクアカレンではないアクアカレンと一緒の行動をしていました! その時ですよ。その老人と豚の男が現れ、アクアを殺したんですよっ! しかも戦利品として彼女の両足を持って行って! しらばっくれる気ですかっ!?」
「? ??」
トリッキーマジシャンの言葉に、そしてその気迫に、マキュリは更に首を捻らせながら困惑のそれを深くする。それは――エレン達も同じだが、それと同時に彼らは驚愕もしていた。
なにせ――今のアクアカレンの前にもアクアカレンがいて、そのアクアカレンがダグディラットと豚の男……、エレンはその人物に会ったことがあるので、すぐにその男がザッドと言うことを理解した。
その理解と同時に、エレンはトリッキーマジシャンが怒り気持ちに対して……、深く、深く同意をした。
トリッキーマジシャンの言うことが正しければ、彼は目の前で仲間の死を見てしまったのだ。しかも目の前で、ザッドとダグディラットの手によって無残にも殺され、あろうことか大切な仲間の体の一部を奪う。人の命を、その人の気持ちを、人の命と言うものを、その者の遺したものを冒涜するような行為だ。
そのことを聞いたエレンは、トリッキーマジシャンのことを見て一言思った。
――仲間を殺した相手……じゃないけど、その仲間が目の前にいることへの怒り。そして、アルテットミアで出会ったあのオークに相対した時、のうのうと逃がしてしまった怒り。
――その二つが合わさった感情と記憶があいつの気持ちを逆上させている。
――いいや、許せなかったんだ。
――逃がしたこと、目の前で殺せないじれったさ。本当なら拷問をしてでも相手の無念を晴らしたいだろうに……。
――辛いだろうな……、トリマーも、セレネも、みんな……。
そのことを思いながら、エレンはトリッキーマジシャンとマキュリの会話を再度見つめると、マキュリは驚いた顔で立ち上がり、両手を出してその掌で盾を作りながら彼女は「待った待った!」と慌てるような音色で制すると、彼女はトリッキーマジシャンに向かって困ったようにこう言ったのだ。
「ちょっと待った。アタシは本当に知らないって! あんたが放った詠唱が何にも反応していないことがその証拠でしょ?」
「!」
「それに、その豚の男って『六芒星』の天気の魔女――ザッドランフェルグルだろう? アズールに豚人族なんてあいつだけし、それにあんたも知っているだろう? アタシ達死霊族は『六芒星』のことを心底毛嫌いしていることを!」
「!」
「「「え?」」」
マキュリの言葉を聞いて、トリッキーマジシャンは何かを思い出したかのような顔を仮面越しですると同時に、エレンとセレネ、そしてボジョレヲは対照的に衝撃の言葉を聞いて声を漏らしてしまう。
素っ頓狂……、ではないが、それでも半音高いような音色で彼らは声を零す。
零した理由は明白で、そのことを思い出したのか、トリッキーマジシャンは頭を抱えて唸るような声を零しながら彼はマキュリのことを見降ろして、少し考える様な顔の顰め方を仮面越しですると、トリッキーマジシャンは神妙で真剣な音色で言葉を零した。
「そういえば……、そうでしたね……。あなたたち死霊族はこのアズールでしか住めない存在。聖霊族と同様にこの国が無くなれば自然に消滅する運命を持っている者。最も……、『終焉の瘴気』が亡くなればそんなこと関係なく消滅をするのですがね」
「そう。アタシ達は『終焉の瘴気』がなければ生きれない存在でもあり、聖霊族、死霊族はアズールと言う国がなければ消滅をしてしまう存在。そのきっかけを作ったのは――『慈愛の聖霊』と呼ばれ、聖霊族の始祖にして聖霊魔王族と呼ばれている『12鬼士』。異端の魔王族――ディーバがこの国を作った輩たちと一緒に作ったから……。いうなれば呪縛っていうのかな」
「その件に関しましては分かりませんよ。あの女もそこまで詳しく自分の過去を話しませんし、その過去も本当なのか、それとも嘘なのかもわかりません。まぁ貴方達が言うのであれば、真実なのでしょうかね」
「アタシ自身ももううろ覚えだから確証とは言えない。でもそのきっかけを作ったのがディーバって言うことは確信を持って言える。証拠はあんたの詠唱が語っているよ」
「………そう、でしたね」
そう言いながら、トリッキーマジシャンは自分とマキュリのことを覆っている己の詠唱を見上げる。内心……、逆上したことを思い出し、我ながら恥ずかしいと思いながら。
トリッキーマジシャンが現在進行機で発動している詠唱は嘘をつけばすぐにわかる詠唱で、その現象が起きてないのであれば、マキュリが言っていることが本当であることが理解できる。
しかし、トリッキーマジシャンはその状況を見ずに、己の感情論でマキュリのことを疑った。
仲間を屠った集団ならば殺して当然の思考を持っている。そしてその体の一部を奪うという異常な思考を持っている。ならば平気で嘘をつくのも当たり前だと思っていたが、それもいとも簡単に詠唱によって消される。
いいや――そもそもこの場で嘘をつくこと自体デメリットしかない。詠唱的にも。
ゆえに彼女が嘘をすくことなどないのだが、トリッキーマジシャンはそれを感情の先入観で決めつけてしまい、案の定――詠唱そのものを否定するようなことをしてしまったのだ。
………いいや、彼が言っていることに対しても、詠唱は攻撃などをすることはしなかった。
つまり――トリッキーマジシャン自身マキュリのことを、死霊族のことをそう思っている。快く思っていないことが今更ながら知らされただけ。
その機能を知ったトリッキーマジシャンは、内心ため息を吐きながら思った。
――この私としたことが、感情論で物事を考えてしまいました……。
――この詠唱は正真正銘嘘をついてしまえば終わりのような拷問の詠唱。私は好きではありませんが、詠唱の威力は本物。つまりは詠唱そのものが私達の心を読んでいると言っても過言ではない。
――己の本性を知らされたことは痛手ですが、同時にマキュリと言うこの死霊族が言っていることが、すべて本当だと言うことを知ることができただけでよしとしましょう。
――そして……。
そう思ったトリッキーマジシャンは、思わぬところで入手をした情報を聞き、そのことを聞くついでに、死霊族が何をしようとしているのかを聞きだそうと試みる。
彼女が言っていた――聖霊族、死霊族はアズールと言う国がなければ消滅をしてしまう存在。と言う言葉をネタに。
「………ふぅ」
と、トリッキーマジシャンは一度深い呼吸を吐き、すぐにマキュリのことを見つめると、立ち上がっていたその行動を押さえ、沈下させるようにその場で座ると、彼はマキュリに事を見て、もう一度座った状態で足を組み、そして仮面の中で平静を装いながらこう言った。
傍らで驚きと困惑、更には混乱までついている顔で自分達のことを見ているエレン達のことを横目で見ながら、トリッキーマジシャンは言ったのだ。
「申し訳ございません。私としたことが少しばかり取り乱してしまいました。今はもう大丈夫ですので」
「…………それならいいんだけど、あんたが言いたいことに関して、アタシ自身でもそうすると思うよ。なにせ、目の前で仲間を殺され、その殺しに関しても否定するとなれば、堪忍袋の緒だって切れる。そうアタシは思うよ? アタシ自身……、その感情は多分欠落しているけどね」
その言葉を聞いた瞬間、詠唱が発動していないところを見てトリッキーマジシャンは思った。
マキュリが言っていることが本当で、そして自分自身に対しての自己評価に対しても本当だと――そう確信をした。
だが、トリッキーマジシャンの意思がその言葉を聞いて揺らぐと言うことは決してなかった。
死霊族がしたことは――大罪。
女神を殺し、そして同胞を殺したという事実は、変わらない。
そして――それを捻じ曲げると言うこともできないのだから、その言葉を聞いて心に響くや、彼女のことが少し可哀そうに見えるという感情は一切なかった。
エレン達はそんな彼女の言葉に対して困惑していたその顔を、少しだけ悲しそうに見ているが、そんなこともしないトリッキーマジシャン。
まるで――心を持っていない人の様に、だ……。
その点を踏まえれば、自分ももしかすると人額が歪んでしまっているのかもしれない。そう思ったトリッキーマジシャンだったが、そのことを深く考える余裕など今はない。
むしろ――死人風情がと思ってしまっている。
そんなことを考えながらトリッキーマジシャンはマキュリのことを見て、椅子に腰かけた状態で前のめりになりながら彼は続けて聞く。
先ほどの言葉を聞いた上での言葉を、彼はかけたのだ。
「ですが、あなたは言いましたよね? 『聖霊族、死霊族はアズールと言う国がなければ消滅をしてしまう存在』と、その件に関しては思い出しましたが、それとこれとであなた達と『六芒星』が犬猿の仲だという理由にはならないのでは?」
「いいや、なる」
すると――案の定というのか、それとも彼女自身何かを企てているのか、トリッキーマジシャンの言葉をあっさり……、いいや、バッサリと切り捨てるように言い放ったのだ。
そのことを聞いたエレンたちは驚いた顔をしていたが、それとは対照的にトリッキーマジシャンは仮面越しに笑みを浮かべ、そして彼の思考にもう一つの流れが見え始めた。
――よし、計算通りです。
そう思いながら、トリッキーマジシャンは思考の中で流れている流れに足をつけ、先ほどできた流れに身を預けてその水に浸かり、そして流れに乗る。
その流れに乗っているトリッキーマジシャンのことを見ながら、マキュリは断言したことに対して詳しく、そしてエレンたちにもわかるように説明をした。
神妙に、そして手振り身振りで話をしながら、彼女は説明を始める。
「勘違いしているかもしれないけど、アタシ達死霊族と聖霊族はこの国がなければ生きることもできない存在。他の国にも行けない身体だからどこかへ行こうとか、どこかへ亡命することもできない。だからこの国がなければ生きられない存在でもある。逆を言うとこの国では永遠の力を有することができる存在。けれど――『六芒星』は革命のためにこの国を変えようとしている。この国そのもの変えようとしている輩でもある。変えると言うことはこの国の根元を変えることだってする。元々あいつらは『滅亡録』に記載されてしまった存在達が、そんな世界のルールを作ったアズールを根本から変えようとしている輩に対して、そのルールの中でしか生きられないアタシたちにとってすれば、あいつらがしていることはもはや脅かすようなこと。アタシたちという存在を消すようなことをしているから、あいつらと手を組むことはもはや味方を命の危険に晒しているのと同じ。と言うか……、そんなことをするとなれば、仲間を売った罪でアルタイルの処罰行だよ」
「なるほど」
「! 何がなるほどなんだ?」
「ん? ああ、いや」
一通りマキュリの話を聞いていたエレンは、神妙な面持ちで頷きながら話を聞いていると、彼女が言った言葉に対して納得をするようなそぶりで頷く。
そんな彼の行動を見ていたセレネは、首を傾げながらエレンに向かって聞くと、エレンは疑念を持っているセレネのことを見て、一通り聞いたことをまとめるようにこう言った。
「今の話をまとめると――あいつらは何らかの制約で、アズールの中でしか生きれない身体になっている。一歩出たらどうなるのかはわからないけど、そのくらい彼女たちネクロマンサー。そしてセイレイゾクは、アズールと言う存在そのものが生きられる環境と思ってほしい」
「そう言っていたのは分かる。しかし彼らはこの国を我が物にしようとしている点を加えるのであれば、利害の一致が成立していると思う。国を変えることが目的の『六芒星』とネクロマンサーがしていることは一緒の様にも感じるのだが……」
「確かに一致していうように見えますが、実は違うんですよ。何もかもが」
「?」
セレネはエレンの言葉を聞いたとしても、ネクロマンサーがやっていることは一緒のこと、この国を脅かしている輩と一緒のようなことをしていると思ったが、その言葉を否定したのは――ボジョレヲだった。
ボジョレヲはセレネのことを見て、エレンの説明に対して付け加えように彼は重ねて言葉を零す。
「ネクロマンサーはまだ見ぬ『12鬼士』が一人、ディーバの制約、いいえ、この場合は呪縛なのでしょうか。彼らはこの地でしか生きれない身体になっています。それとは対照的に『六芒星』はこの国を我が物にしようとしています。彼らはそれを革命と豪語していますが、結局は腹いせ、最終的にはアズールを自分達の思い通りの国にするつもりなのでしょう。そうなってしまうと、ネクロマンサーは終わりです。」
「それは分からないが、それがネクロマンサーにとって『終り』に…………あ」
「気付いたか。俺もそうだと思う」
ボジョレヲの言葉を聞いてようやく気付いたのだろう。
セレネははっと息をのんで、ようやく彼らが相容れないことに気付いた。
セレネの言葉を聞いて、彼女の表情を見てエレンはふぅっと息を吐くと同時に、トリッキーマジシャンのことを見ているマキュリのことを見て、彼はセレネとボジョレヲに向かってこう言った。
「なぜネクロマンサーと『六芒星』がともにいがみ合っているのか。それは国を根元から変えようとする『六芒星』に対し、その根元に縛られているネクロマンサーにとって『六芒星』の行動は死に値する行為。だからそれを危惧して、きっと彼らは争っているんだと俺は思う」
そう――エレンの言う通り、死霊族と『六芒星』は現在進行形で争いをしている。それも……、多少の犠牲が出るほどの争いを。
はたから聞けばなぜそんなことをする? 意味が分からないという言葉が出るかもしれないが、そうではない。むしろ争うきっかけがあるからこそ彼らは争っているのだ。
死霊族は始祖の聖霊族――いいや、この場合は聖霊魔王族のディーバのこともあって、聖霊族と死霊族はアズールから出てしまうとその命を保つことができない。つまりはその外に出た瞬間命を潰えてしまうのだ。
しかし逆に言うと、ディーバの呪縛のおかげで彼らはこの世界では永遠に生きられるという誓約も持っていることも事実。
死霊族に至っては人間の魂が入っているだけで作りが違うのだが……、それでも死霊族にとって、聖霊族にとってこの国の呪縛はなくてはならない存在なのだ。
だが、『六芒星』はそんなアズールを変えるために、革命を起こそうとしている。
自分たちを追いやった『滅亡録』のせいで全部が滅茶苦茶になってしまった。ゆえにその根源でもあるアズールを根元から変えるために彼らは過激な革命活動をしている。
その根元と言う接点で、彼らは争っているのだ。
根元がなければ生きれない死霊族と。
根元を捻じ曲げてでも変えようとする『六芒星』が……。
日々争いを続けているのだ。
ハンナ達は知らないかもしれないが、この世界で起きていた争いの均衡は三角になっていたのだ。とは言うものの、ハンナたちの方がかなり重荷となってしまっているが、それでも三角になっているのは事実。
その三角関係に気付いたエレンは、顎に手を添えつつ唸るような声を出しそうになった声を口の中で焼失させ、視界に映るマキュリのことを見て彼は思った。
――共に一致しない信条を掲げて争いを続けているネクロマンサーと『六芒星』
――俺達普通の人間にはない意志と信条だけど、トリマーの言う通り……、なぜ犬猿の仲でもあるネクロマンサーと『六芒星』が前のアクアカレンを殺したんだ……?
――殺して両者にメリットでもあったのか?
――何か……、利害が一致するようなことがあったのか?
そんなことを思いながらエレンはトリッキーマジシャンたちの話に再度耳を傾けた瞬間、マキュリは一通り話し終えるとふぅっと溜息のようなと息を吐き捨てると、彼女はテーブルに体重をかけるようにのしかかると、彼女は銀色の容器の中に入っている最後の一枚を見つめると、彼女は自嘲気味な音色でふっとつかっれ多様な笑みを浮かべながら彼女は言う。
エレン達にとっても、トリッキーマジシャンにとっても衝撃的なことを。
「だからこそアタシ達も急いでなんとかしないといけないんだよ。『六芒星』がボロボ空中都市で何かをする前に、ね」
「!」
「「「っ!?」」」
マキュリの言葉を聞いたトリッキーマジシャンははっと息を呑んでマキュリのことを見降ろすと同時に、エレンたちも驚愕の顔でマキュリのことを見る。
それはもう、驚愕が二乗になったかのような顔で、エレンたちは青ざめた顔で脳裏に浮かぶ浄化の力を持った少女達のことを思い出すと同時に、エレンは小さな声で、マキュリとトリッキーマジシャンには聞こえない声で、彼は呟く。
まずい……! と。
そう、まずいと直感で思ったのだ。
それはボジョレヲとセレネも同じように思い、そしてボロボ空中都市に浄化に向かった彼らが危ないといち早く理解をした瞬間だった。
そのことに関して、トリッキーマジシャンも気づいたらしく、彼女のことを見ながら勢いよく立ち上がり、テーブルに手を付きながらトリッキーマジシャンは荒げた声で――
「そ、その話……、詳しく――」
と聞いた瞬間、トリッキーマジシャンの言葉がそれ以上紡がれることはなかった。
いいや、この場合はこう言えばいいのかもしれない。
トリッキーマジシャンの言葉がそれ以上紡がれることはなく、その行動を妨害したものの手によって、この会話も強制的に終了となってしまった。
の方がいい。
そうトリッキーマジシャンがその言葉を言い切る前に、マキュリは首を傾げた状態でその光景を斜め上を見上げるようにして見てしまったのだ。
トリッキーマジシャンの右肩越しに見える小さな光を。
そしてその光が消えると同時に、どんどん大きくなる光――
否――
菱形に見える光ではなく――矢の先!
「――っ!」
その光景を見たマキュリはその矢が自分に向かって来ることを見て、即座に椅子から立ち上がると椅子とテーブルにした物質を『ぐにゅり』と元も水銀に戻す。うねうねと、粘着質を帯びたそれに変える。
その光景を見たと同時に、テーブルに手を付いていたトリッキーマジシャンはうねる水銀に手を奪われ引きずり込まれそうになったが、背後から聞こえる風を切る音を聞き、背後を見た瞬間トリッキーマジシャンも気付く。
偶然にも、エレン達のことを捉えていたその水銀もなくなったが、それどころではない。
エレン達の動体視力ではその速度を視認できるほどの力を有していないので、一体二人が何に反応したのかが理解できていない。
だが――その理解をする前に、トリッキーマジシャンは右手の人差し指をすっと矢が放たれた方向に向けて突き出し、そして己が持っている力で……、魔力を指先に溜める。
ひゅぅお! と、小さな竜巻を作り出し――トリッキーマジシャンは反対の手をいびつなグーの形にして、そして指を『パキンッ!』と乾いた音で鳴らす。
瞬間――トリッキーマジシャンとマキュリのことを縛り付けていた詠唱――『真実の鳥籠』を解除すると、マキュリはその場から逃げ出すように後ろに跳躍し、トリッキーマジシャンはその矢が迫り来るその方向に向けて魔法を放つ。
「――『突風散弾』ッ!」
その言葉を放つと同時に、トリッキーマジシャンの指からは小さな風の玉がぱしゅぅっと射出され、されると同時にその玉はトリッキーマジシャンの指先で四方に分かれて飛んで行く。
まるで散弾銃のように、小さい風の玉が何回も分裂をして、そのまま放たれた矢に向かって飛来する。的が外れる確率を低くし、その玉が一個でもあたると同時に、その矢を放った人物にもあたるようにトリッキーマジシャンはいくつもの風の弾丸を放つ!
その光景を見ていたマキュリは後ろに跳び退いて運よく地面に降り立つと、彼女は辺りを見回しながらどこに潜んでいるのかを確かめると、その行動をすると同時の、風の弾丸の一つが矢に当たり、矢はそのまま軌道を不規則に変え、軌道修正ができないまま風の弾丸の威力に負けて後ろに向かって跳ね返されてしまう。
くるくると回り、力を失った矢はそのまま地面に軽く突き刺さり、すぐに地面にむかってぱたりと倒れ込む。まるで棒で道を決めるかのような動きでだ。
だが――それで終われば苦労はどしない。いいや、むしろこれからが本番――いいやいいや、これこそが相手の狙いだった。
「――!?」
矢が地に倒れた瞬間だった。
マキュリは背後からゾゾゾッと出てくる悪寒を感じて、息がかかるほど近くにいる何か――背後にいる何かを察知すると同時に彼女は即座に足から銀色の液体――水銀を出し、その水銀を使って防御と攻撃を繰り出そうとする。
勢いよく――鋭い剣山と銀色の壁を出し、彼女は言うまでもない攻防を繰り出した。
しかし……、狙っていた相手はそんなマキュリの行動を予測していたのか、彼女の背後にいた人物が素早い動きで跳躍をする。
瞬時問も言えるような跳躍で先ほどまでいたその場所から出てくる剣山と銀色の壁を飛びながら見降ろすその人物は、空中で後転をするように回ると同時に大きな弓矢を装填し、くるんっと頭が真下を向いている状態で構える。
黄色い長髪で一つに縛り、耳が長く、弓を持っている左手は少し痩せこけている血の気のない手。右手は熊のような黒い体毛に覆われた手。足は豹のような足をしてる、半裸で、顔には錆びた甲冑をかぶっている死霊族のような体をしている男はマキュリに向けて矢を向ける。
錆びた甲冑から覗く――異常なまでの殺気を放ちながら、彼はその矢じりからそっと手を放そうとした。
が――
「――『パ」
刹那、その一瞬の間に、エレンは矢を構えてマキュリに追うとしているその光景を見て矢を装填して放とうとする。
幸い――マキュリはイスとテーブルを戻すと同時にエレン達の檻も解除していた。これは偶然なのか、それとも容量があるのかはわからないが、それでも彼らを縛るものが亡くなったことに関しては幸運だった。ゆえにエレンはその場で矢を装填して放とうとした。
が、それをする前に、エレンがスキルを放つ前に矢をマキュリに向けて装填をしていた人物は背後をの方をちらりと見て、装填をやめてぐるぐると空中で回りながら落ちていく。
「え?」
その光景を見て、突然の攻撃をやめた行動を見て、エレン達は驚いた顔をするも、すぐにその人物がその攻撃をやめた理由を知る。
ぐるぐると回りながら落ちていくその人物は、空中で新体操をするように足を抱え、腕でその足がはみ出ることがないように抱え、そのまま地面に向かって落ちていく。だが尊家人物の背後から聞こえる微かな潺――否。物音。
がさり。という草木が揺れる音を何とか聞き取ったマキュリは、その音がした方向――奇襲を仕掛けてきた人物が着地するであろう背後を素早く見て……。
「ブローネッッ!」
彼女は振り向きざまにその名を大きな声で放った。
ぐにゅにゅっと、地面に水銀を染み込ませ、ちょっとやそっとでは取れないように、彼女はその体を固定する。
その声を聞いてなのか、その人物の背後にいたマキュリの仲間――ブローネは、マキュリがいる方向に手を伸ばすと、その手をずずずっと音を立ててその形を変えていく。
人の手から――蛇の頭と胴体に変え、手の先を頭に変えたそれで、手だったそれは『しゃーっ!』と細長い舌をちらちらと見せながら威嚇を剥き出しにする。
威嚇と同時に手だったそれは――蛇は胴体の筋肉を酷使するように伸縮し、目の先にいるマキュリに向かって――
ぎゅんっ! と、体をゴムの様に伸ばし、がさりと草むらの中から勢いよく飛び出す!
大きな大きな口を開けて、自分の目の前に右手を差し出しているマキュリの腕に向かって蛇はどんどんと加速し、そして大きな口を開けてマキュリに向かい……。
がりっっ!
と、マキュリの腕に力強く噛みつく!
「――っ! 痛っ!」
その痛みを感じたのか、マキュリは顔を痛覚で歪ませると同時に、その光景を見ていたエレンたち、トリッキーマジシャンは驚いた顔をしてその光景を見るが、もうひとりの登場人物――マキュリ向かって矢を放ったその人物はそのままぐるぐると回った後、そのまま地面に猫の様に着地をすると、彼はその豹のような足の筋肉に力を入れ――
「――っふ」
と、息を吐くと同時に――どぉんっと、その場の地面と草が抉るような踏み込みを繰り出す。
それと同時に伸縮と筋肉を利用して、マキュリのところにぐんっと引っ張られていくブローネ (マキュリが地面にその水銀を根っこの様に伸ばしているおかげで、ちょっとやそっとでは逸れない状態になっているのでマキュリ自身が引っ張られることはない)。その姿も素早い動きのせいでよく見えないが、それは今のところ関係ない事。
どどどどどっと急加速で走るその人物。目に見えないその光景を見た誰もが一体どこにいるのかと目を泳がせてしまうくらい、その人物の速度は速く、そして捉えることができない。
目で捉えることができない急加速で走り、これから繰り出すであろう蹴りを入れるために、彼は至近距離まで近付こうと試みる。
憎き死霊族を殺すために、マキュリの腕に噛みつきその場所に行こうとしているブローネをいとも簡単に老追い越し、その身を犠牲にする覚悟を持って――
「あれは……!」
「ええ、やはりそうですよね」
「やっぱりか……、俺も、見たことがある。と言うかアルテットミア王から聞いた……、まさかこんなところにいたんだな……」
そう言いながらセレネ、ボジョレヲ、エレンはゆっくりと立ち上がり、目の前で起きている人間離れした戦いを見ながら、そしてマキュリに向かって急加速して走っているその人物を見て、エレンは言葉を零す。
つぎはぎの男のことを見て、見たことがあるその姿を見て、エレンは頭を抱えながらこう零した。
「『12鬼士』が一人――新緑の森妖精。キメラプラント」
そう零すと同時に、マキュリに奇襲を仕掛けたキメラプラントは、エレン達のことなど無視し、そしてトリッキーマジシャンのことも見ていないのか、急加速をしながらその場で跳躍をし、そして腰の捻りを使って回転をかけた蹴りを、時計回りに繰り出そうとした――
瞬間。
「待ちなさいキメ」
と、トリッキーマジシャンは声を荒げて、その行動を止めようと手を伸ばすが、その声も、制止も虚しく、キメラプラントは急速に走った足を突然止め、マキュリの場所でその足の回転蹴りを繰り出そうと、小さく跳躍をしながら左足を上げて回転をすると、キメラプラントはそのまま時計回りに回転をして、マキュリの頭に向けてその豹の蹴りを繰り出そうとする――
頭を壊す勢いで、その攻撃を繰り出そうとした。
が――
「マキュリ様っっ!」
その蹴りが来る前に、マキュリの腕に噛みついていたブローネは、間一髪なのかキメラプラントが蹴りを入れる前にマキュリのその場所に辿り着き、彼女のことを守るように抱きしめると、蛇になっていない手で灰色の鉱物――否。灰色の瘴輝石を握りしめ、キメラプラントのことをギッと恨めしそうに睨みつけると、ブローネは叫ぶ。
白い長髪に白い肌、白衣の下に着ている黒いスカートの服が彼女の美貌を更に輝きを見せつけている。体つきもララティラに劣らないほどにだ。そして極めつけとなる整った顔立ち、その顔立ちを一瞬だけ見てしまった瞬間、数人の男性は心を奪われてしまうであろう。そのくらい彼女の美貌は美しい方であるが、彼女の手は現在進行形でマキュリの腕に噛みついている蛇になっているので、彼女の体が普通と言えど、きっとその中身は別の何かなのかもしれないが、今はそれを明かすことはできない。
だが、そんな彼女がマキュリのことをぐっと抱きしめ、キメラプラントのことを睨みつけ、ブローネはその場で瘴輝石を握りしめると、叫ぶ。
「マナ・イグニッション――『基地帰還』ッ!」
叫んだ瞬間、彼女達を覆うような円柱の光。
それを見た瞬間キメラプラントとトリッキーマジシャン、そしてエレンたちは驚いた顔をしてその光景を見て、動きを止めることができないキメラプラントは、その回転を生かした蹴りをマキュリ達に繰り出すが、瘴輝石の影響なのか、キメラプラントの蹴りは虚しく、円柱の前で『ぼよんっ!』と弾力を持って跳ね返されてしまう。
「………………………ち」
その弾力を感じて、キメラプラントはそのままの後ろに跳び退いて距離をとりながらマキュリ達のことを見る。トリッキーマジシャンも驚きの顔を浮かべながらマキュリのことを見ると、エレン達がそんなトリッキーマジシャンのことを心配し、声を掛けながら駆け寄る。
その声を聞いて、トリッキーマジシャンはエレンたちのことを見ると同時に、マキュリは声を上げる。
けてけてと、狂気の笑みを浮かべ、背後にいるトリッキーマジシャンのことを見ながら彼女はけてけてと笑い続けて――
「惜しかったね。あんな風に邪魔が入らなければ、ちゃんと話を聞くことができたのに。惜しかったねぇ。惜しかったねぇ。でも、楽しかったことは事実。もっと話したいことがたくさんあったんだけど、今はこの辺にしておこう。今日のところはここいらでお暇させてもらうよ。おしゃべりは楽しかった。お菓子もおいしかった。そしていい経験をしたからね――それじゃ。また会おう。『12鬼士』」
と言って、けてけてと笑い、ブローネに抱きしめられながら彼女はそのまま光の円柱の中からトリッキーマジシャン達のことを見つめる。
邪魔のせいでお話ができなかったが、そのおかげで嘘をつけなくなる詠唱の中から解放された。自由になったことを感謝と少しばかりのショックを受けながらマキュリは言う。
彼女の言葉を聞いてか、トリッキーマジシャンは仮面越しで怒りのそれを下唇を噛みしめるという対処方法で気を紛らわせていると、今までの会話を聞いていたエレンは、どんどんその場から消えていくマキュリ達のことを見て、徐に声を上げて「あの――」と言うと、その声を聞いたマキュリは首を傾げながらエレンのことを見ると、エレンはマキュリのことを見て一言――思ったことを、思った疑念を言葉にして聞いた。
「あんたは、本当におしゃべりをしたいがためにここに来たのか?」
その言葉に対して、疑問に対して、マキュリは答えない。どころか、エレンの言葉に対して驚きの顔を一瞬見せるが、その一瞬もすぐに消え去り、すぅっと驚きを消して……、寂しそうに……、否――まるで、本当の顔を出しているかのように複雑な顔を振り向きざまに見せると、彼女はその顔で、エレンに向けて『ぴっ』と指を指す。
デコピンでもするように、右手でそれを動作すると、彼女の指の動きに反応したのか、足元に漂っていた水銀が即座に反応をして、『ぴゅっ!』という音を立ててエレンに向かって湾曲を描きながら飛ぶと、「うぉっ!」と驚きの顔を浮かべているエレンの目の前で止まり、細くなってしまったその先に絡めている小さな紙きれを渡してきたのだ。
「? 紙切れ?」
突然紙切れを渡されたエレンは、驚きの表情のまま水銀の触手が持っているそれを右手の人差し指と親指で挟み、そしてそのままするっと引き抜くように受け取ると、マキュリはそんなエレンのことを見て、一言――
「さぁ」
「!」
その言葉を聞いたエレン達は驚きの顔を浮かべてマキュリのことを見る。
攻撃を仕掛けようとしているキメラプラントや、マキュリのことを見て慌てた様子で彼女の名を呼んでいるブローネのことを無視して、マキュリはエレンに向かってこう言ったのだ。
けてけてと笑いながらも、その顔の裏に隠されているそれを隠すように、彼女は笑みを浮かべて言う。
「よくわかんないよ。そんなこと考えること自体――嫌になったからね」
笑みを浮かべながら言うマキュリのことを見て、エレンはその笑みを見ながらふっと思った。本当にふっと――思ったことをそのまま思考の声として脳に伝達しながら、彼は思ったのだ。
悲しそうな笑みだ。と……。
そんなことを思っていると、白くなっていたその光もどんどん面積を広げて、とうとうマキュリ達のことが見えなくなるくらい白くなると、白い世界の向こうでマキュリはエレン達に向かって、トリッキーマジシャンに向かって彼女はこの場で最後の言葉を発する。
「それじゃぁ――これで本当にまたねだから。こんなアタシのおしゃべりに付き合ってくれてありがとうね。それじゃ――またどこかで」
そう言った瞬間、マキュリとブローネは白い柱に包まれ、その馬でふっと、空気に溶けるように消えていく。
消えて入った光景を目のあたりにし、突然のことが起こりすぎて頭の回転が追い付けないボジョレヲ達は、茫然としながら死霊族二人が消えてたその場所を、ただただ見降ろし。
キメラプラントは消えて言った場所を一瞥し、そして構えを解きながら大きく舌打ちを零し。
トリッキーマジシャンとエレンは、マキュリ達が消えたその場所を見ながらも、エレンの手に握られているその紙きれの確認を、ゆっくりとした手つきで開いていく。
紙切れに殴り書きの様に記されている言葉を見つめながら……、彼女達がこの場所に来た本当の理由を知ることになるエレン達は、驚きの顔でその用紙とにらめっこを続ける。
その紙に書かれている――『北に七十歩、西に五十二歩、東に四歩、南に百五十九歩歩いた先――女神の石碑』と記されたその内容を見て。
◆ ◆
こうして、エレン達が体験した恐怖あり驚きあり疲弊あり困惑混乱ありの出来事は幕を閉じた。
しかし、閉じたとしてもエレン達は『創成王』に頼まれた仕事を遂行するために、仲間達と一緒に女神サリアフィアが遺した歴史碑を探し続ける。
そしてこれは余談だが、キメラプラントと再会をしたトリッキーマジシャンは会話 (と言う名の情報収集)を邪魔をした腹いせをキメラプラントにぶつけるも、キメラプラントは悪びれる素振りもなく淡々としていたこと。
そしてトリッキーマジシャンの話を聞いて自分も王都に行くと言い出し、勝手について行こうとするが――それはまた別のお話。
エレン達の苦労とジルバ達の苦闘をよそに――長い長い優雅な空の旅を満喫していたハンナ達はようやくボロボの領域に足を……、いいや、その領域に入り込む。
~補足~
※聖霊族と死霊族 その二
聖霊族と死霊族はアズールでしか生きることができない生命体。他の種族の様に他国に行くことができない種族で、他国に行こうとその地から足を動かした瞬間その命が消えてしまう。
アズールから出てしまえばその命は潰えてしまうが、アズールから出ない限り永遠の命を手にすることができる (死霊族は例外)。
死霊族はこのような状態を『ディーバの呪縛』と言っているが、その名がついたきっかけはこのような状況を作ったのが魔王族であり聖霊族の始祖――聖霊魔王族の『ディーバ』が作った原因だからこの名がついた。
ゆえに死霊族はこの地を自分達だけの国にしようとしている『六芒星』とは犬猿の仲。
今でも小さな争いをしているのも事実。




