PLAY84 vs死霊族(ネクロマンサー)? PIECE:CHAT⑥
『真実の鳥籠』
和訳すると真実の鳥籠と書く詠唱。
この詠唱は真実の話を聞きたい内容を嘘偽りなどないことを聞くために、聞く対象者を閉じ込めて情報を聞き出すことだけに作られた詠唱。
この中に入ってしまった瞬間――閉じ込められた人には四つの制約を課せられる。
一つ――『質問に対して無視を徹した者、虚言を吐いた者はその口に激痛を与える』
二つ――『質問に対して質問を拒否した者は腹部に衝撃を与える』
三つ――『質問に対して無言を徹した者は全身に衝撃を与える』
四つ――『質問に対してその質問に該当しない言葉を放ってしまったものは手足に激痛を与える』
以上がトリッキーマジシャンが与えた詠唱の内容。
だが、これは本来対象者をその中に閉じ込めて真実を聞きだすために使われる詠唱であり、詠唱者が入ることはまずない。
このことを踏まえると、この詠唱は詠唱者が入ることは絶対にありえない。
つまりトリッキーマジシャンがこの詠唱内に入ることは異例なのだ。
異例であり誰もやったことはないだろう。
しかしそれをやってしまったのはトリッキーマジシャンただ一人。今のトリッキーマジシャンしかこの詠唱の使い方はしていないだろう。
その結果――トリッキーマジシャン自身もマキュリの質問に対して嘘偽りなどない答えを出さないといけない。無視もできない。話を変えることもできない。
つまり……、トリッキーマジシャンもマキュリと同じ状況の中で話をすることになる。
一時の油断も許されない――緊迫の他愛もない会話を……。
その種も分かっていないマキュリは、悠々と自分のことを見降ろしているトリッキーマジシャンのことを見上げながら、彼女は腹部に感じる激痛が少しずつ、本当に少しずつ鈍痛へと変わっていく最中、彼女はその制約のことを聞きながらふと思った。
――そう言うことか……、アタシがあの時、質問に対して逸らしたから、答えなかったから体に激痛が……。
――これは本当に拷問だ……。拷問を直に受けているような感覚……。
――でも、この中に入ったらでしょ? つまりそれは相手も同じ。罠に自ら嵌るとはね……。
――何が目的なのかはわからない。けれど、上等じゃないか。
――この会話、アタシから振ったんだから、望み通り最後まで喋ろうじゃないか。
そう思い、マキュリは痛みに耐える様な笑みを浮かべると、彼女はトリッキーマジシャンに向けて、ふっと笑みを零すと……、その笑みを聞いて、トリッキーマジシャンはその笑みを続行の合図とみなし、仮面越しでにっと笑みを浮かべた。
◆ ◆
「それでは――私の質問に答えてくださいね? いいですか? もう一度言います。あなたのその魔祖は一体どのようなことができるのでしょうか? できれば詳しく教えていただけると嬉しいです」
「アタシの、魔祖ね……」
気を取り直してなのか、トリッキーマジシャンは椅子に腰かけ……、足を組みながら彼は優雅な面持ちをマキュリに向けて聞く。先程と全く同じ質問を。
その言葉を聞いたマキュリは、腹部を押さえながら顔を上げ、トリッキーマジシャンのことを見ながら彼女は言う。自分が持っている魔祖のことを――
「アタシの魔祖は水に見えるかもしれないけど、自然の力を持っている魔祖を操ることなんて絶対にできない。だからアタシの魔祖は八大魔祖の一つ――『水』ではないことは分かるだろう? そのことに関してアタシも調べたよ。んで分かったことは、これは異国の地……、この女が生まれ育った土地では毒として有名だったもので、確か……、『水銀』っていうものだった。そのことからアタシはこれを『水銀』の魔祖と呼んでいる。使い方は手や足から出てくる銀色の液体を手足のように使い、攻撃をしたり、物を作ったりできるだけ」
マキュリの話を聞いていたエレン達は、その話を神妙に、真剣に耳を傾けて、彼女が使う魔祖が『水銀』であることを知ると同時に、思っていた通りだと驚きと安堵を浮かべる。
現代人でもある彼等ならばわかることかもしれないが、この世界はあくまでもファンタジーを基盤にしている世界観。
外国に近いものでそう言った科学に精通するものはあまりないことも事実だが、マキュリの言うことが正しいならば、彼女が住んでいる異国は現代の世界とあまり変わらない世界観なのかもしれない……。
そうエレンは思った。
内心――現代に似ている異世界って、どんな感じなんだろう……。と、少しばかり場違いなことを思いながら……。
エレンの場違いに近いような思考をよそに、マキュリの質問を聞いたトリッキーマジシャンはふむっと喉を鳴らし、マキュリの言葉に驚きを浮かべながら彼は「なるほど……」と言葉を零す。
マキュリの口、手足、腹部に激痛が起きていないところから察して、この言葉は嘘ではない。本当だと言うことを理解しながら……、トリッキーマジシャンは頷くと、彼はそのままマキュリに向けて手で指を指すと、彼は余裕の音色でこう言ってきた。
「分かりました。それでは次はあなたが私に対して質問を」
「! は?」
トリッキーマジシャンは言う。自分に対して質問をしろと。その言葉を聞いたマキュリは一瞬目を点にしてトリッキーマジシャンのことを見る。エレン体もその言葉に対して驚きの目を彼に向けていると、とうの本人はきょとんっとした目でマキュリのことを見ている。
まるで――なぜ驚いているんだと言わんばかりの顔で、トリッキーマジシャンはマキュリに向けて「どうしたのですか?」と聞き……。
「ほら、あなたも私に対して質問をしてもいいと言っているんですよ? どうしたのですか?」
「質問……? そうか。あんたが質問をしたらアタシが次質問をしていいっていうターン制ってことか……」
「そうです。第一先ほどまでそうではありませんでしたか?」
「ああ。確かにね。忘れてしまっていたよ。あのボディーブローを受けてしまったらね」
「それはすみませんでした」
そんな会話をしながらマキュリは思い出す。トリッキーマジシャンと何にも気付いていなかったマキュリが話した内容を。
なに、なにこれっ? 光ったと思ったら突然こんなことになっているっ! ナニコレ、なんの魔法っ? 見たことないっ!
そうですね。あなたにとってすれば見たことがない魔法でしょう。しかしこれは魔法ではありません。種を明かしてしまいますと……、これは、詠唱です。
それで、これはどんな詠唱なの? どんな力を持っているの?
ああ。それは簡単な話――この詠唱は特殊な部屋のような空間を作り出す詠唱です。大丈夫です。殺傷能力も付加魔法系も状態異常魔法系も何もない……、ただの空間系の詠唱です。
内容を思い出すと同時に、彼女は理解する。
トリッキーマジシャンは、確かにマキュリの質問に対してしっかりと答えていた。詠唱が放たれた瞬間から彼は彼女の質問に対して嘘も偽りもなく答えていた。
そのことを思い出すと同時に、マキュリは確信する。これは本当にターン制の会話。相手が質問をしたら自分はその質問に対して答えないといけない。だがその逆も然りで、自分もトリッキーマジシャンに対して質問をすることができる。
しかも、嘘も偽りもない情報を『12鬼士』から聞けるのだ。
こんな絶好な機会――滅多にない。こんな好機、絶対に逃すわけにはいかない。
そう結論づけたマキュリはにっと笑みを浮かべ、もう残りが少なくなってしまっている銀色の容器に入ったクッキーをそっと手にとり、それを乱暴に口の中に放り込むと、マキュリはにっと狂気の笑みを浮かべてトリッキーマジシャンに向かって聞く。
「そう……、それならアタシも質問をするよ。あんたのこととかね……」
「どうぞ。私も拒否権などないので。お好きなように――」
彼女の言葉にトリッキーマジシャンは肩を竦めながら溜息交じりに言うと、それを聞いてマキュリはもぐもぐと口の中に広がるチョコレート味を堪能し、転がしながら彼女はトリッキーマジシャンに向かってあることを聞いた。
最もシンプルで、最初であった時に気になったことを。
「それじゃぁ……、あんたやあんた達冒険者は、なんでこんな危険地帯に来ているんだい?」
「――!」
マキュリの言葉を聞いた瞬間、エレンは顔を驚愕に染め、青ざめる表情でマキュリのことを見る。心の中ではいきなり核心を突くようなことを……! と思うと同時に、膨れ上がった激情がどんどん沈下すると同時に……、いいや。それは最初に聞くことでもあり、聞かれること間違いなしの質問か……。と思いながら二人が話しているその光景に目を移す。
もし、エレン自身がトリッキーマジシャンに対して質問をするのであればきっとそのことを質問するであろう。
なぜこんな危険地帯に来ているのか、会話の常套手段であり、会話を弾ませるための小手調べでもある。
そのことを思い出すと同時に、セレネはその詠唱のことを見てふむ……。と喉を鳴らすと、セレネはエレンのことを見て彼のことを呼ぶと、エレンとボジョレヲはセレネのことを見る。それはもう首を傾げるような顔で。
そんな二人の顔を見てか、セレネは二人のことを真剣な目で見つめ、そして真剣そのものの音色で彼女は二人に聞いた。
「今の今まで思っていたのだが、あの時、最初にあのマキュリと言う女に会った時、トリッキーマジシャンはなぜか怒りを剥き出しにした顔になっていた。気持ちも激情に狩られている顔だったのだが……、私の見間違いならいいのだが、二人はあの時見たトリッキーマジシャンの顔、どのように見えた?」
「………あぁー。そう言われると……」
セレネの言葉を聞いて、エレンはあの時、マキュリに初めて出会った時のことを、相対したときのことを思い出す。
あの時、確かにトリッキーマジシャンはマキュリに対して激情に狩られたような怒りを剥き出しにしていた。初めて見る様な怒りを見せながら……だ。
エレンは記憶の箪笥を色々とくまなく漁るが、トリッキーマジシャンが過去にあの時と同じ顔をしたのか思い出そうと頭をひねるが……、生憎、その記憶はなかった。
どころか、あれが初めてだった。
そのことを思い出したエレンは、セレネに向かって正直に――
「確かに、怒りを剥き出しにしていたな。あんな顔、初めて見た」
と言うと、それを聞いたセレネは、エレンのことを見上げて頷きながら「そうか」と言い、そして再度トリッキーマジシャンのことを見てから、彼女は神妙な音色で言葉を零す。
彼らのことは見ていないが、それでもエレン達に向ける言葉として、セレネはエレン達に向かって、とあることを口にする。
トリッキーマジシャンのことを見て、トリッキーマジシャンの気持ちが分かるというような雰囲気を出し、神妙に眉を下げながら、彼女は言った。
「初めて……、か。なぜ怒りを覚えるのかは明白かもしれない。あの女はネクロマンサー。この国を壊し、そして、サリアフィアを殺した一因でもある。だからトリッキーマジシャンは怒り狂っている。トリッキーマジシャンと同じ気持ちにかられたものを、私は知っている……。そして、私自身も感じたことがある。だからわかるんだ。殺したものに対して、恨まないものなど、絶対にいない」
たとえ、善人であろうと、聖職者であろうと、その恨みが消えることはない。そのものが、消滅をするまでは……。
セレネは言う。神妙に、そして思い出すような物言いで――だ。
その言葉を聞いていたボジョレヲは首を傾げながら「セレネさん……?」と首を傾げるが、エレンはそんな彼女の顔と雰囲気を見て、なんとなくだが察した。
この娘は――何かを抱えている。
それは、人に言えないような重くて辛いもので、永遠に消えない傷のように残っているものだと。
ゆえにエレンはその言葉に対してかける言葉はいくらでもあったが、あえてエレンはその言葉を一旦脳内で消去をして言わないでいた。
この気持ちは、知らない人が知ったかぶりをして言ってはいけないことだとエレンは察し、何の言葉も発せず、彼はセレネの言葉を自分の脳のしわとして刻む。
そしてエレンは、そのまま再度トリッキーマジシャンのことを見て、ぐっと顎を引きながら彼は願う。
いいや、この場合は謝罪の方がいいかもしれない。
こんな汚れ役を担わせてごめん。本当は殺したいかもしれないのに、殺せないという事態。自分達が人質にならなければ、もしかしたら未来は変わっていたかもしれない。なのにその未来を壊したのは完全に自分達だ。
だからエレンは後悔をする。トリッキーマジシャンに対して、ごめんと思いながら、彼は願う。
無理だけはするな――と。
そうエレンが思っている中、トリッキーマジシャンに対してマキュリが質問をした『あんたやあんた達冒険者は、なんでこんな危険地帯に来ているんだい?』と言う言葉、トリッキーマジシャンは一瞬困惑する表情を浮かべていたが、この詠唱内での黙秘、虚言などの行動は制約に反する。
どころか、拷問まがいの激痛が体を走る。
そうなってしまえば本末転倒だ。
トリッキーマジシャンが放ったこの詠唱は詠唱者本人――つまりはトリッキーマジシャンが重傷を負ってしまえば詠唱が解けてしまう。
それゆえにトリッキーマジシャンはこの場でダメージを負うわけにはいかないのだ。相手に対しては嬉しい限りなのだが……。
嘘もつけない。無言も無視もできない状況の中、マキュリとトリッキーマジシャンに残された選択は――たった一つしかない。
その選択しかないことはもう百も承知だったトリッキーマジシャンは、すぅっと息を吸って、すぐに吐くと――彼は足の組を崩し、反対の足で組み直すと彼は正直に言った。
その質問に対して、嘘も偽りもない正直なことを口にした。
正直なことを言いつつ、何とか悟られないような物言いで、彼は言う。
「私達がここに来た理由はたった一つ。王都にいる『創成王』の命令でここに来たのですよ」
「王の命令? 『創成王』って……、あの『創成王』のこと?」
「ええ」
トリッキーマジシャンの言葉に対して、マキュリは驚いた顔をして前のめりになり、机に体重を乗せながら彼女は聞くと、トリッキーマジシャンは頷きながら肯定をする。
彼自身嘘はついていない。ここに来た理由は確かに、『創成王』の命令でここに来たのだ。これは嘘ではない。具体的に言わずとも、『創成王』の命令できたと言えばそれだけで正直な証言となる。
後だしじゃんけんのような雰囲気にとらえてしまうかもしれないが、人とはその言葉だけで納得をしてしまう人間もいれば、具体的に話してもらわないと理解などしない人間もいる。
マキュリはトリッキーマジシャンに向かって――あんたやあんた達冒険者は、なんでこんな危険地帯に来ているんだいと質問をした。
決して……、なんでこんな危険地帯に来て、『どんな目的でここに来たんだ』とは聞いていない。
なのでトリッキーマジシャンは彼女の質問にちゃんと答えたのだ。
なんでここにいるのかという質問に対して、『創成王』の命令でここに来たと。
――うまい。
――言葉巧みに重要なところを躱しましたね。しかし相手が追及をしてしまえばそのことに対しても返答をしないといけない。油断は禁物ですね……。これは……。
魔王族と死霊族の会話を聞いていたボジョレヲは、真剣な顔でそのことを思うと、油断できない心境に少しばかりの緊張を走らせていると……、マキュリはトリッキーマジシャンの返答に対して「ふーん」と相槌を打つと……、彼女は前のめりになりながら――
「と言うことは、『創成王』に会ったんだ。へぇーあんたラッキーだねー。『創成王』なんてめったに会えない存在なのに、よく会えたね。殆どの国民が会えない。もしかしたら幽霊かもしれないっていう噂もあったその『創成王』に会えるとは……、かなりの幸運だね。まぁ――どんな目的があったのかなんて、庶民性が大きいアタシたちには到底考えられないことを考えているんだろう。それはあんた達にもわからないことだしそれを聞くと言うこと自体野暮かもしれないからこのお話は終わり終わり。はい次」
と、にこやかに含まれる狂気の笑みで言う。
その言葉に対してトリッキーマジシャンは「ええ。私自身驚きましたよ。滅多に会うことがないそのお方に会うだなんて、幸運としか言いようがない機会でしたね」と、他愛もない会話のように二人はその会話を進める。
トリッキーマジシャンはこの話を聞きながら――マキュリがあまり詮索をしない人であったことに感謝をし、それと同時にマキュリの言葉に対して不覚にも同意してしまった自分がいることに戸惑いを必死に隠そうとする。
内心……、この場所に言ってほしいと言われた時、その理由を聞いたとき正気なのか? と驚きを隠すのに必死だった。
そのことを思い出すと同時に、トリッキーマジシャンは心の中でマキュリにひどく同意したが、その感情が芽生えると同時に素早い速度で消去をする。
――死霊族と同じ思考になるだなんて、死んでもごめんです。
そう思い、トリッキーマジシャンは次にマキュリに対して質問をしようとした瞬間……、ふと、脳裏に突然砂嵐と共にある映像は映し出された。
それは……前アクアカレンが殺された時の光景。
あの時トリッキーマジシャンは前アクアカレンと一緒に行動をしていたが……、その時現れた二人の存在に彼女は屠られた。
目の前で、無残に――だ。
思い出したかったが思い出したくなかった。
思い出した瞬間、なぜ野放しにしてしまったのか。そしてなぜ忘れていたのかという怒りが、今この時でもふつふつと込み上げて来る。
彼女をその手で葬った存在――『六芒星』の懐刀と、彼女の両足を戦利品として奪っていった人物……、黒い瞳孔が印象的な背丈が小さい老人なのだが、その人相からして死霊族だろう。
そのことを思い出し、そして目の前にいるマキュリのことを見て、トリッキーマジシャンはそっと口を開いて次の質問を言葉にする。
「それでは、次は私が」
「どうぞ」
トリッキーマジシャンの言葉に対して、マキュリは腹部の鈍痛がどんどん引いて行くのを感じてはいるが、まだ完全に引いていないこともあって腹部を押さえながら彼女はそっと手を差し出す。
次を促すようなその行動を見て、トリッキーマジシャンは行動に、言葉に甘えるように彼はマキュリのことを見て、真剣な思いを声に込めて質問をした。
勿論――ストレートにではない、探り探りを入れながら、トリッキーマジシャンは質問を投げた。
「あなた達は確かに死霊族ですが、あなたはあの時言いましたよね? 研究班と」
「ああ、言ったね。確かにアタシはダグディラットが管轄としている研究班の副リーダーを務めている。それが? なに? もしかして興味ありな感じ?」
「まぁ、そうですね。私情としましてはいったいどれほどの死霊族がいるのかと言うことが本音ですが、今はそのことに関しましては聞かないでおきます。それでここからが本題です。あなたたち以外にもその班と言うものあるのですか?」
「まぁいるよ。と言ってもそれほど多くない」
トリッキーマジシャンの質問に、マキュリはようやくだろうか、腹部の痛みが和らいできたところで腹部を押さえていたその手をどかし、そのまま両手を絡め、その両手の甲に顎を乗せる様な動作をし、にっこりと笑みを浮かべながら彼女は質問の返答をする。
真剣な目をしているトリッキーマジシャンと見て、その傍らで神妙に傍観をしているエレン達のことを横目で見ながら、彼女は答えた。
「アタシ達死霊族はそんなに多くない。本当は多くしたいんだけど、生憎『屍魂』の瘴輝石はレアなもので、この良い未練を持ったものにしか効力がない。だから死霊族になる確率なんて一万分の一と考えてもいい。仲間の面で言うとアルタイルがその作業をして、仲間が増えればアルタイルの側近ヴィーナとウラヌスが教育をする。その教育の中で、小隊に入るか入らないかを決めるんだよ。入れないと見なされる。一人でも大丈夫とみなされたら一人での行動をメインとする。たまに二人になる時もあるけど、ほとんどは一人。でも永遠に一人っていうやつもいる。そいつは集団行動をしたところで仲間も殺してしまうからそれを避けるために一人にさせているってだけ。グリーフォがその典型的なタイプ。その典型に入らない仲間で行動している輩は――今のところ四組」
そう言って、マキュリは両手の指のから目をそっとほどき、右手の人差し指をトリッキーマジシャンに突きつけながら彼女はニヒルな笑みを浮かべて「一つは――」と響くような音色で放つと、そのあと彼女はこう言う。
「特攻隊――これは反逆者を探して始末したり、アルタイルの命令で連れ戻すのが役目の最も戦力がある三人集団。前は四人だったんだけど、その四人がどこかへ姿を消してしまったから、今は新って感じかな? まぁそのリーダー……、えーっと、ハンザブロウだっけ? アタシのこの体の女と同じ出身国だとか何とか言っていたけど、今はそんなこと関係ないか。これで一組」
そう言って、マキュリは突き出していた右手の指を人差し指から中指を追加した指に変えて、その指が出ると同時に「二つは――」と言うと、彼女は続けて言う。
「遊撃隊――これはこの詠唱のように拷問を主にするような集団。でもその遊撃隊ももうプレアデス一人だけ。マリアンダもカスピとスピカもいないから……、もう遊撃隊も崩壊寸前ってところかな?」
困ったように笑ってマキュリは言う。
その言葉を聞いていたトリッキーマジシャンも流すような相槌を打つと、マキュリは続けて突きつけていたその手を三本指にして突き立てると、彼女は大きな声で「話を戻して三つ」と言うと同時に、彼女はこう言った。
「諜報隊――これは最近できた集団で、もともとは一人の死霊族アースってやつがその諜報を担っていたんだけど、急に新人の確か………、リョクシュってやつがそいつの配下になって二人になったから、急遽諜報隊ができたんだよ。面倒くさいけど、アルタイル曰く情報も馬鹿にいい素材になるとか何とか……、そんなこと言っていたね」
そう言いながら彼女は残り少なくなっているクッキーに手を伸ばし、チョコのクッキーを手の取ろうとしたが、一瞬その手を止めてクッキーの頭上で空を彷徨う。
選んでいるのか、はたまたはトリッキーマジシャンに対して一口だけでも残しておけばいいのかという心境があるのか、そのことに関しては分からない。
トリッキーマジシャンはそんな彼女のことを見て、どうぞと言わんばかりの動作で手を差し出すと――彼は呆れた音色で彼女に向かって――
「どうぞ。魔王族は他人に顔を見せるこができません。ゆえに食べるところは顔を見せるのと道理、お好きに食べてください」
「………ありがと。それじゃ最後に」
と言って、トリッキーマジシャンの言葉を聞いたマキュリは素早い動きでチョコクッキーを手に取ると、それを口に放り込む瞬間、三つの指を立てていたその手を四つ指を立たせると同時に、彼女はクッキーを己の口の中に放り込み、それを一度『サクッ』と噛んだ瞬間――彼女は最後に告げる。
自分が所属しているその小隊について――彼女は語った。
「そして最後に残ったのが、アタシが入っている研究班。研究班は主に死霊族の体のケアや縫合接合。素材の調達をしたりと大忙しな集団。あたしは副隊長で、アタシにはブローネっていう助手がいる。あ、ブローネはあんた達の仲間のことを人質にしている奴で、その隊長が、ダグディラット。通称『死体を接合する』、二つ目は『屍科医』っていう名を持っているおっさん。大体はこんな感じかな? 死霊族って増えたり減ったりを繰り返しているから――アタシが覚えているのはこれだけ」
マキュリの話を聞いたトリッキーマジシャンは、顎に手を添えながらうーんっと唸るような声を出して考える仕草をする。神妙に、長考をしながらトリッキーマジシャンは思った。
――案外、色んな死霊族の名を聞くことができました。
――まだ全員と言うわけではありませんが、それでもこれは重要な情報ですね。しっかりと覚えておかないといけませんね。
――さて、こちらの質問が終わったところで、
そう思いながら、トリッキーマジシャンは彼女の質問に対して感謝を述べようとした時――マキュリはトリッキーマジシャンの顔を見て、にっと、狂気的な笑みを浮かべながら彼女はトリッキーマジシャンのことを見つめる。
じぃーっと、蛇の様に見つめる。
あまりに唐突であまりに異様な目つきにトリッキーマジシャンは驚きながら彼女のことを見ると、マキュリは笑みを浮かべたまま鼻息が荒い目つきで唐突に聞いたのだ。
唐突にして急に芽生えた質問を。
「それじゃアタシの質問。なんでそんなことを聞いたの?」
「っ」
その言葉を聞いた瞬間、トリッキーマジシャンはうっと唸るような声を出しそうになる。
急にして核心を突くような突拍子もなく心臓に悪い質問。まるで相手の心を揺さぶる様な、相手の心理を攪乱させるような表情。怒りを誘うような表情。
その顔を見てトリッキーマジシャンは昔のこともあってか、少しばかり苛立ちを覚えたが、今は平常を装って彼女のことを見降ろすとトリッキーマジシャンは正直に――
「……、敵情を探りたいという気持ちもありますが、私は記憶が曖昧なのです。その記憶の中に、老人の死霊族と豚の種族がいた記憶がありまして、そのことに関して聞こうと思っていたんですよ。『六芒星』にも豚の種族がいましたからね。もしかしたら共犯をしている可能性もありますし、そのことも踏まえていかないといけないので。………?」
と言うと、それを聞いてかマキュリは目を見開き、驚きの顔を向けながら彼女は言葉を閉ざした。
まるで――不意を突かれたかのような……、いいや、思っていたことと違う衝撃を受けた顔を浮かべて……。
「は? 何それ、その老人ってアタシ達死霊族の中で言うとたった一人……、ダグディラットしかいないけど、なにそれ? それ、本当のこと?」
「ええ。本当です。と言っても、少し前に思い出したばかりですので。その老人は魔王族の両足を戦利品として持っていきました。その件に関しては聞かされていると思いますので、知っているのでしょう?」
その顔を見てトリッキーマジシャンは頭に疑問符を浮かべるような顔を仮面越しで浮かべ首を傾げると、マキュリはそんな彼に向かって告げる……。
トリッキーマジシャン自身も驚くようなその事実を――
「――知らない。足のこともそんな事実も全然知らない。なによそれ」
「は?」
 




