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PLAY84 vs死霊族(ネクロマンサー)? PIECE:CHAT②

 ――ネクロ……ッ、マンサー……ッ! ダト……!? 何故コノヨウナ所ニ……ッ!


 フォスフォは驚きの声を上げようとしたが、(ワニ)のように口を塞がれてしまっているが故うまく声を出すことができず、フォスフォは声を出さない状態で目の前にいる女性――死霊族のマキュリのことを見ながら思った。


 自分の目の前で己の鼻をそっと撫でている彼女のことを見ながら、フォスフォは疑念と言う名の焦りを感じながら思う。


 なぜこんなところに死霊族がいるのか。


 一体何の目的を持って自分に近付いたのか。


 そして……、こいつは一体何をするつもりなのか。


 フォスフォはそのことを思いながらじっと、マキュリのことを竜の眼で見つめる。威嚇をするように見ながら、フォスフォはマキュリのことを見る。


 少しばかり鼻がむずむずするが、そんなことは関係ない。


 生理現象ではあるがそれを堪えながらフォスフォは未だに自分の鼻を撫でつつ、「ふーん。へーん。ほーん」と曖昧な相槌を打ちながら見ているマキュリのことを見ていると……。


「? あぁ。もしかしてこそばゆい? なんかくしゃみしそうだったけど、ごめんねぇ~。竜なんてこの場所では珍しい存在で、神聖な生物だから間近で見ることはないから、はい」

『ッ!』


 マキュリはフォスフォのことを見て悪いと思ったのか、触っていたその手をパッと離し、そして距離を置くために少し後ろに引いて行く。


 やっとこそばゆさも無くなり、そしてしっかりとマキュリのことを見ることができたフォスフォだが、肝心の体を動かすことは未だに叶うことはなく、銀色の何かによって拘束されている光景を見ながらフォスフォは唸るような声を上げながらこう思う。


 ぐっ! ぐっ! と、腕の拘束を解こうと力で引きちぎろうとしてできないことを認識しながら……。


 ――固イナ……。コレハナンナンダ? 固ク、ソシテ千切レナイ……。噛ミチギルトイウ手モアルガ……、コノ(クチ)デハデキナイ。


 ――ナンナンダ……。コレハ。


 そう思いながら、フォスフォは再度両手を左右に伸ばすように引っ張ると、その光景を見ていたのか、少し離れていたマキュリはくすくすと白衣の手を突っ込み、少し背中を丸めで視線を下に向けながら――彼女は笑いながらこう言ってきた。


「気になるよね? それ」

『!』


 そう言いながら、マキュリはピッと銀色の液体が出ていない手でフォスフォのことを縛っているその何かに向けて指を指すと、それを聞いたフォスフォははっと息を呑みながら塞がれた状態でマキュリのことを見ると、マキュリはくすくすと口元を隠してニヒルに微笑みながら――


「あ、やっぱり気になるよね? なにせ『六芒星』にいた 蜥蜴竜族(リザ・ドラゴン)のガザドラとおんなじ系統の魔祖だもんね。誰だってそう思うよ」

『――ッ! ――ッ!』

「お? 聞きたい? 知りたいのかな? でもだめ~」


 と言い、マキュリはフォスフォのことを見つめて――けてけてと笑いながら小馬鹿にするように笑みを浮かべて言う。


 その言葉を聞いたフォスフォは口が塞がれた状態でもありながら、このまま口についている拘束具 (?)をあらんかぎりの力で引きちぎろうとしたが、それも叶わず、フォスフォは唯一自由が効く目だけでマキュリのことを睨みつけるが、マキュリはそんな彼に対して踵を返すようにくるりと後ろを向くと、その状態で彼女はフォスフォに向かってこう言ったのだ。


 顔は分からない。しかし音色だけは真剣さと陽気さが混ざっているような音色で、マキュリは言う。


「言っておくけど、それを引きちぎることはできないよ。それはねアタシの……、じゃないな。()()()()()()()()()()()()使()()()()()魔祖で、ちょっとやそっとでは引きちぎれないよ」

『――ッ! ――ッッ!』

「おおー! コワイコワイッ。まさかアタシの背後から噛み付こうとしているのか? やめておきな。それ以上のことをすれば上と下の顎が悲惨なことになるよ」

『ッ!』


 そう言いながらマキュリはゴロゴロと出している手を上に上げ、その人差し指をくいっと動かした。

 

 まるで手招きをするように動かした瞬間、フォスフォの口に巻き付けられている銀色の拘束具がぎゅうっとベルトを締めるように引き締まったのだ。


 その衝撃と締め付けを受けたフォスフォは、上顎と下顎の骨の悲鳴を竜の耳で聞き、そしてその激痛を全身で感じながらフォスフォは声にならないような声を上げる。


 その激痛の神経が異常を起こしているのか、縛られた手の指先が『びくんっ! びくっ!』と、第一関節を曲げるように痙攣を繰り返す。


 今まで感じたことがない激痛。人間の時下顎の骨が砕けるような衝撃は感じたが、上顎の骨が折れる音と激痛を感じたのは初めてで、その激痛を感じたフォスフォは大人だから我慢しなさいという常套文句が通じないような顔をして激痛を堪えていた。


 唸るような声を零しながら……。


 フォスフォの唸り声を聞きながら、マキュリはけてけてと笑みを浮かべながら笑い、フォスフォの痛がるその姿を見てか――


「へぇーへぇーへぇーっ! 竜の鱗は武器の如く固くて打撃や斬撃はあまり効かないって聞いていたけど、顎の攻撃が効果的なんだ。これはいい情報を入手したよ。あはは」

『――ウ、グゥ……、グググググ……ッ! ウゥゥ!』


 と、フォスフォの痛がる様を見てか、マキュリは驚きと興奮、そして新しいものを得たかのような喜びを顔に出しながら笑いを声に出す。


 その声を聞いてか、フォスフォは拘束されてしまってる口を器用に歯軋りをしてぎろりと睨みつけると、その顔を見ていたマキュリは大袈裟に己の腕を掴んで、抱きしめるような動作をしながら「おおぉ! コワイコワイ」と言いながらもう二、三歩後ずさると……。


「あははは、………とぉ、さぁて、ん?」


 と言って、マキュリはそっと木々の木の葉に隠れている半月を見上げ、その半月の端にいる一つの影を見上げて彼女はポツリと……、疑念を浮かべるような声を上げて首を傾げた。


 その光景を見ていたフォスフォは、首を傾げるように唸る声を上げると、その唸り声を聞いてマキュリはふとフォスフォのことを見て、不敵にニッと笑みを浮かべると、彼女はフォスフォの目をじっと見つめながら陽気な音色でこう言ったのだ。


「気になるよね? なんでアタシが疑念の声を上げたのか。なんで『ん?』って言ったのか。気になるよね~。なにせあんたは拘束されている状態で首が愚か眼球をぐるぐるとしか動かせない状態。ご自慢の爪でアタシのことを切り裂くことができないどころか、掴むこともできない。まるで流のかば焼き。丸焼きの方がいいのかも? あ、でも下に大火事がないから丸焼きもかば焼きもできないか……。あはは! でも安心しな、あんたが気になることはもう沈下しちゃった。と言うかもうあの場所にいないから、移動しようと思うよ。ごめんね話し相手になってもらっちゃって」


『ウゥ! ウググ! グゥウウウウウッッ!』


 そう言ってその場からどこかへ行こうとするマキュリのことを見て、フォスフォは体を動かしてマキュリが仕掛けたであろうこの拘束を自力でほどこうと暴れようとするが、踵を返すと同時にマキュリは、フォスフォのことを見ずに、フォスフォに向かって彼女は言ったのだ。


 真剣で、且つ威圧を込める様な冷たい音色で――彼女は言ったのだ。


「ああ、でもあんたの拘束は解かないよ。だってアタシはそいつに用があってここまで来たんだ。邪魔されてしまったらここに来た理由もおじゃんになっちゃう。だから邪魔されないようにあんたをこの場にとどめておく。悪く思わないでよ? アタシはアタシの目的のためにここに来た。その目的がやっと……、何百年と言う時を超えて成就するんだ。この絶好の機会を逃したら永遠に逃す。だから邪魔をしないでね?」

『グゥゥゥ! ウウウウウウッ!』


 マキュリは言う。


 しかしマキュリの言葉の心意を知らないフォスフォは内心――一体何を言っているんだと言わんばかりの面持ちを出しながら見ると、その雰囲気を察したのか、マキュリは踵を返していたその行動を一旦止めて、首だけでフォスフォのことを横目で見ながら彼女はにこりと、不敵な笑みを浮かべて、静かにこう言ってきた。


「ん? あれ? もしかしてアタシの目的、知りたい的な人? そうかそうか。気になる人はやっぱり気になるよね。動けなくなっているのにそれを聞かずにそのままっていうのも苦しいよね? なら特別に教えてあげる。アタシがここに来た理由」

 そう言って、マキュリは縛られているフォスフォのことを見て、不可解な笑みを浮かべながらゆるい弧を描いてこう言ったのだ。


 それを今まさに有言実行するような面持ちで――


「――アタシは、おしゃべりをするためにここに来た」


 と、はっきりとした音色で言い切って……。



 ◆     ◆



 それから少し時間を遡らせ、エレン達はその頃……、シャイナの要望 (彼女やほかの女性陣が刺激臭が異常に強烈の虫系魔物と出くわしたくないという心の叫び )に応え、エレン達男性陣は代わりばんこで見張りをすることん決めた。


 もちろん――男性陣平等に振り分けて、だ。


 振り分ける時、ダンが駄々っ子のように『全部俺がやるぜ!』と豪語していたが、その意見に対してエレンは速攻で却下をし、そのあとすぐにエレンは平等に、かつ恨みっこなしで振り分けるいい案を思いついた。


 それは、誰もが知っている道具いらずにして手軽に振り分けることができる運試し。


 じゃんけん。


 である。


 そのじゃんけんで勝った人が順々に抜けて、その勝った順番で見張りの順番を決めるというシュール且つシンプルなルールをエレンは決め、それを聞いた男性陣は頷きお互いの運を信じてじゃんけんを出す準備をする。


 と言っても、運そのものが武器なのでそのようなことをしなくてもいいのだが、一応心の準備として――だ。


 その準備が終わると同時に、エレン達は自分の右拳を出してじゃんけんを開始する。


 お互いが大きな声で『最初はグー』と言い、そして『じゃーんけーん』と言ったと同時に、エレン達はその手に模した武器を出す。それを何回か繰り返した結果……。


 一番目――セスタとダイヤ。


 二番目――ダンとハクシュダ。


 そして三番目――エレンとボジョレヲと言う結果で順番は決まった。


 なぜか男性陣の人数が少ないように見えるかもしれないが、これには理由があり、トリッキーマジシャンは現在進行形で帰ってこない。


 シノブシの分の寝床も用意したのだが、彼自身セレネの影の中なのでその必要もない。


 フォスフォは言わなくても分かる。

 

 そして肝心のルビィは確かに心は女ではあるが体は男。エレン達と同じところにいなければいけない存在なのだが、ガーネット曰く、ルビィは女性人のところにいないといけないらしい。


 その理由は……、セレネにあった。


 セレネは確かに見た限り気品溢れる王女のような存在で、文武両道の雰囲気を漂わせているが、彼女はそこまで何でもできる存在ではない。そのためセレネにはルビィがいないといけないのだ。


 文武両道であるセレネにできないこと――よく聞くお嬢様の身の回りの身だしなみは全くできないという欠点を持っているがため、セレネの身だしなみを一任しているルビィがいないと、彼女はだめらしい。


 ゆえにルビィはなぜか女性人のテントにいるとのこと。


 そのことを聞いたエレンは内心――テンプレ通りのお嬢様だ。と思っていたが、現実にいる。そしてあの髪の毛の手入れもできないのならば仕方がないと言うことで、今回の見張りから外れるという結果になった。


 ……、話しが逸れてしまった。本題に話を戻そう。


 見張り番を決めた後、それを一時間交代と言う区切りで行うことを決めたエレン達は、最初に見張りをするセスタとダイヤに任せてエレン達は休息をとる。


 ……微かに聞こえるセスタの陽気な声と、ダイヤの真面目で真剣な声がダイレクトに耳に入っていくせいであまり眠れないと思っていたエレンだったが……。


 そのあとダンとハクシュダと言う異質な組み合わせが見張りをすることになった。エレン自身五月蠅くなると覚悟をしていたが、驚くことにそれが一切なかった。


 セスタの時の一時間の騒音が嘘のように静かな時間で、エレンとボジョレヲの見張りに時間が来た時、二人はテントから出てダン達のことを見た瞬間――納得した。


 すぐ納得した。


 理由は簡単な話……、ハクシュダが自分の得物でもある糸を使ってダンのことを拘束していたのだ。全身にその糸を括りつけて、操り人形のように動かしながら、ハクシュダはダンの動きを止めていたのだ。


 その光景を見て、ハクシュダの冷静は判断とダンの幼稚な言動を聞きながらエレンは思った。


 ハクシュダに対して――この子、本当はこんなにもいい子で強い男の子だったんだな……。と。


 対照的にダンに対して――それに比べてこいつは、マジでこの性格すぐに直ってほしいなぁ……。と。


 そしてエレンとボジョレヲはハクシュダ、そしてダンに変わって見張りをすることになった。その最中ハクシュダはボジョレヲに対して何かを言っていた雰囲気を出していたが、あいにく小さな声であったが故、エレンには聞こえなかった。


 雰囲気としては真剣で神妙でどことなく穏やかな空気が流れているような空気。はたから見れば何かがあったのだろうかと言うそれかもしれないが、その空気の中に含まれる穏やかなそれを見て、エレンは何かを察してボジョレヲに対してそのことを聞くことはしなかった。


 敢えてそれをしなかった。


 きっと、それはボジョレヲ達が抱える問題であり、自分たちが詮索するようなことではない。そう悟ったから。


 だからエレンは聞くことをしなかった。もちろん――見張りの最中に話題が減ったとしても、決してそれを口にしなかった。


 口にはしないが、エレンはその判断に少しばかり後悔をしそうになった。理由は明白――というよりも誰かが予測していたかもしれない。


 ボジョレヲと見張りをしながらエレンは内心冷や汗をかきつつも野営地の前に二人で横に並んで立ち、薄暗くその風景を変えている周辺を見回していた。


 二人は無言のまま暗くなった世界を見渡して見張りを続ける。あれからもう何時間も経ったかのような空気だが、現実の時計はまだ五分ほどしか経っていない。その五分の間にエレンの精神(神力)はかなりすり減っていた。


 もう心のバランスが崩れるほど、エレンは心がすり減っていた。


 その原因は――ボジョレヲである。


 ボジョレヲは表面上は整った顔立ちで上品な面持ちを出しているが、何を考えているのか少しわからないような雰囲気を出している。だが、それはエレンが見たボジョレヲのたったひとかけらの一場面だったのかもしれない。


 ボジョレヲと一緒に見張りをして気付いたことがある。それは――


 大真面目であると言うこと。


 ボジョレヲのことを見て、エレンはそう思ったのだ。ボジョレヲはかなりの大真面目だと……。


 ――いや、大真面目ってわけじゃないな……。やることに対してはちゃんと成し遂げる様な使命感を持っているような、そんな感じ?


 エレンはそう思いながら、最初に思ったことを訂正しながら思い返すと、エレンは腕を組み、そして頭をあぐねるように唸り声を上げて考え込む。一言で言えば――長考。


 エレンは長考する。


 ――まぁそう言う人って意外と多いし、そう言う人が仲間の中にいるだけで仲間の輪が整っていくんだよなー。


 ――俺のチームにもあんな真面目な人がいればよかったなー。


 エレンは長考した。ボジョレヲのことを見て、自分達のチームにはない何かを考えながら、彼は長考を続ける。一言で言うと……、愚痴である。


 ――そうだよ……、俺達アストラは元々遊び仲間として組まれた最初は三人だけのチームだった。ティラとダン、そして俺の三人だったけど、いつの間にか二人の女の子と一人の騎士……『12鬼士』とまぁ、賑やかになったのはいいよ。


 ――なったのはいいけど……、その分騒ぎ具合がどんどん上がっているのも事実。そのせいで疲れるのも事実なんだよな……。もう少しみんなも騒がないように心がけるってことをしてくれても……、って思っても、変わらないだろうな。


 あ、でも……変わったらなんか違和感もある。特にダンが静かになったら気持ち悪いな……。うん、今思うと気持ち悪くなった。うんだめだこれ。うんやめておこう。うん……。


 愚痴から肯定に変わる思考回路。


 その状態で唸っていたその雰囲気を自分の判断で終わらせると、エレンはその気持ちを吹き飛ばすために、別の話題を頭の中で思い描きながら長考をする。


 今彼が思い描いていることは――仲間のことである。


 ――モナちゃんは意外と抜けているところもあったり何かを考えている時もあって少し危なっかしいところもある。


 ――シャイナは最初に『シャイナちゃん』って呼んだら激怒したり、何気ないところで激怒もしたりとしかして導火線の短さが露見している。いうなれば起こるきっかけがわからない。だから気を使うことも事実。


 ――ティラはなんだか俺に対しての対応が少し変な時もあるけど、それ意外は普通。でも虫が嫌いなのは変わらない。


 ――ダンは言わなくても分かる。


 ――トリマーは『トリマー』っていうと怒るけど、それ以外は普通の『12鬼士』だ。強いし頼りになるけど……。


 と思いながら、エレンはふと、とある風景を思い出すと同時にその思考を止めてしまう。その思考とは……、トリッキーマジシャンが時折見せる頭痛がした時の動作と、その時に見せた苦痛と悲しさが合わさったかのような顔。


 その顔を思い出したエレンは、今の今まで己の足を見つめていたその視線をそっと上に向けてあげ、その動作のまま上を見上げるように――何の障害物も弊害物もない空間で夜の世界を淡く照らすその半月を見上げながら、彼は思った。


 なぜあんな顔をするのか。何があって彼はあんな顔をするのか。


 そして……、()()()()に何があったのだろうか。


 そう思っていると……、それは突然、唐突に射撃されるようにエレンに飛んできた。


「何をお考えで?」

「!」


 その言葉を聞いて、その言葉を投げかけてきたボジョレヲの突然の言葉に、エレンはぎょっとした面持ちを顔に出しつつ、驚いた顔でボジョレヲのことを横目で見ると、ボジョレヲ本人はにっと優雅な顔でエレンのことを見て微笑んでいた。


 何かを察していたのか、それともエレンのわかりやすい顔を見て筒抜けだと言わんばかりの思いを抱いているのかはわからない。だが、ボジョレヲはそんなエレンのことを見ると、再度真正面に視線を向け、魔物が来る警戒をして見張りを続行していると、彼はエレンのことを見ずに、エレンに向かってそっと口を開く。


 そして――言ったのだ。


「顔に出ていましたよ。思いふけっている中での喜怒哀楽が」

「え、ええ………? 俺そんなに顔に出ていたの? そんなに顔に出して考えていたの?」

「ええ。まぁ。でも安心を。口外はしませんから」

「口外されなくても、自分が知らない光景を聞かされてショックは隠しきれないよ……」


 ボジョレヲの言葉を聞いて、エレンは頭を抱えながらその場でしゃがみ、項垂れるような唸り声を上げて言葉通りの顔をする。


 まさに――隠し切れないショックのせいで俯いてしまうとはこのことだ。


 そう思ったボジョレヲ。


 しかし彼はそんなエレンのことを視界の端に入れつつ、目の前の風景を見つめながら続けてこう言う。


「ですが、そのように顔に出せる表現力は私自身も羨ましいと思います」

「………嫌味にしか聞こえない」

「嫌味ではありませんよ。これは正直な思いです。普通に笑いたい時に笑い、悲しい時に悲しみ、苦しい時に苦しい顔を出す。それがありのままに出せる人は心底羨ましいと私は言ったのです。私のように、表現力が少しばかり乏しい人にとってすれば、羨ましい才能ですよ」

「? 乏しい? どこがだ? どこからどう見ても涼しい顔をしていて冷静で羨ましいって思っていたのに……、俺たちのどこが羨ましいんだよ」

「言葉通りです。そして()()()()()()()()()のに、なぜわからないのですか? と言いたいのですがね」

「?」


 どことなく冷たく、そして苛立っているような音色だが、冷静が勝っているような音色でボジョレヲは言うが、その言葉に対してエレンは『はい?』と言う声が出そうなそれを出そうとしたが不発に終わってしまい、それと同時に疑念のそれでボジョレヲのことをしゃがんだ状態で見上げた。


 見上げるエレンのことを見て、ボジョレヲははっと声を零し、内心しまったと思うと同時に、ボジョレヲは冷静な感情を表に出して、エレンのことを見ずに言葉の続きを零す。


「失礼……。ですがこれは私の本心と思ってください。確かに、あなたからしてみれば冷静に見える私にも、怒りや悲しみと言った感情があるんです。それをうまく隠しているだけで、本当のところはあなたが思っているような人間ではないと言いたいのですよ」

「はぁ……、成程……。でもなんでそんな風に?」

「その件に関しましては、十中八九砂の国での出来事です。あの国は本当に地獄でしたから、心を保つためにはそうするしかなかった。自分を誤魔化すしかなかったんです」

「………………誤魔化す?」

「ええ」

 

 そう言いながら、ボジョレヲはそっと顔を上げ、丁度薄く黒い雲が半月の一部を隠すように現れたその光景を見て、その突きを見上げてこんなことを思いながら小さく、溜息を零す。


 突きを隠すように現れた黒い雲……、まるで自分の心を投影しているかのような光景だ。と思いながら……、ボジョレヲは言った。


「砂の国では王都やアルテットミアのような平和な国など一切なかった。あるのは困窮している村。そして帝国の逆らったせいですべてが滅茶苦茶になって変わり果ててしまった村。挙句の果てには村そのものが滅んでいることもありました。砂の国に住んでいた人々の顔には、笑顔などと言うものは一切なく、あるのは絶望や憎しみだけでした。帝国に対しての感情でもありましたが、私達冒険者に対しての感情でもありました」

「………………なんでだ?」

「理由は簡単です。自分達のような不幸者を救わない輩への八つ当たりです」

「八つ当たり……」

「ええ。その八つ当たりも厳しいもので、憔悴しきってしまいそうなほどの八つ当たりでした。言葉にできないほどの罵詈雑言。そして投げつけられる敵意。それらがあの国に来てしまった私達の心を疲弊させていきました。アクアカレンさんなんて夜中に泣き出してしまうほどのものでした。レンさんはノゥマさんと言う存在がいたおかげでなんとか持ちこたえていましたけど、セスタは例外で、彼自身メンタルは異常なほど強かったです」

「分かる……。なんとなく察するよ」


 ボジョレヲの言葉を聞きながら、エレンは先ほどあったセスタのことを思い出して言葉を零すと、渇いた笑みが自然と零れて冷や汗を流す。


 確かに、あれは凄いと思いながら……。


 そんなことを思っている間にも、ボジョレヲの会話は続く。それがいつまで続くのかはエレン自身わからないが、ボジョレヲは続けた。


「ですが、私はそこまでのメンタルを持ち合わせていません。なので疲弊もして、頭がおかしくなって苦自分に恐怖すら覚えました。どうしたんだろうか。なぜ私はこんなことを考えてしまっている? なぜ私の体はこんなに平常なのに、苦しく感じたりするのだろうと……。今にしても思うと、あの時の私はかなり無理をしていたのかもしれません。それと同時に、あの国の在り方があの国全土を苦しめていたと言うことも、更に……、プレイヤーの精神をじわりじわりと殺していることも分かりました」

「精神を、殺す……。俺はそんな経験あまりしたことがないから……、どんな風に言えばいいのかわからないな」

「ええ。わからないことは当たり前です。あれは砂の国と言う腐った国に入ってしまった私達が経験したことでもあり、あれは異常だった。それだけです。あなたたちは普通なのですよ。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思い話しかけたんです。そうなってほしくない。喜怒哀楽を表に出しているあなたが羨ましい。そう言っただけですので、あまり深く考えないように――」


 ボジョレヲは言う。


 人差し指を口元に添えて、まるで静かにと促すような動作をしながら目だけをエレンに向けて言うが、その光景を見ていたエレンは内心ボジョレヲがそんな日々を送っていることに対して驚きと、そんなことがあったのかという複雑な感情を抱いて、エレンは一言……、ポツリと零す。


「顔を、隠す………。まるで笑顔がマスクみたいだな。それも付け替え可能な」


 エレンの独り言を聞いたボジョレヲは、ぴくりと眉を顰める様な動作を一瞬したが、それを見上げたエレンははっと息を呑み、背筋が震える様な寒気を感じたあとで慌てながら「いやいやいや! 面白くしようとは一切合切思っていましぇんっっ!」と噛んでしまったのような声を上げた後で、冷静になるために一呼吸置いた後――エレンはボジョレヲのことを見上げて頭を掻きながらその言葉に対して、自分の意見を述べた。


「で、でもそうやって隠すことっていろんな人にもあるだろう? 嫌な奴に対して嫌な顔をしないで我慢をして、平静を装っている時とか。裏ではキーキー言って愚痴を吐き捨てる人とか……。そんな人って結構いるし俺だってそうだよっ! ………て言いたいけど、その質が違うのも明白なのは分かっている。もしかしたら『そんなちっぽけなものと一緒にするなー!』って言われてしまいそうだけど、だからこそ――疲弊をしたら仲間に頼ってもいいんじゃないか? キャラもプライドも捨てて、思い切って話をしたりして、少しでも心を軽くした方がいいんじゃないかなって思うんだ。そうやって心に重荷を背負わせていくと、どんどん心って傷ついていくし、あとから後悔もするからさ……。ほら、心の病的なものを呼び寄せそうで、うん。あ、一応言っておくけど、これ大真面目に言っている。俺の高校の時の同級生もそうなったからさ……。うん」


「ふ」


 エレンの言葉を聞いて一瞬目を点にしたボジョレヲだったがすぐに理解し、納得すると同時にその手があったかと最も簡単なことを思いつかなかった自分の無知に対しておかしくなり、くつりと笑みを零す。


 この笑みは取り繕った笑みではない。本心の笑み。


 その笑みを浮かべながらボジョレヲは思った。


 確かに、人は色んな境遇を歩みながら成長をする生き物。


 よく聞く――人生そのものが勉強だと言わんばかりの人生を歩み、学習をして生きている。それが人間だ。が……、人間はそこまで万能ではない。


 嫌なものを見れば嫌な気持ちになる。苦しい過去があれば立ち向かう人もいれば見毛出したくなる人もいる。そう――人の心は繊細なところがあるのだ。そして壊れてしまえば……、元通りになるのに相当な時間がかかる。


 しかし、その壊れそうになる心を何とかとどめるために思考を変える人やその気持ちを隠す人もいる。ボジョレヲはその分類に入っていた。表面上は強い面持ちを表している彼でも、心の方は弱いところがある。


 それは誰にでもある心の弱さでもあり、父と母の教えをもってしても強くなれない心の弱さ。


 その弱さも、バトラヴィア帝国の時だった村の惨状を見て、どんどんすり減ってしまい、心が壊れそうになる不安からボジョレヲは苦しんでいた。


 無意識に、心が叫んでいたのかもしれない。


 それゆえにボジョレヲはその心を、弱さを隠すために笑みでそれを隠していたのだ。


 リンドーと同じように、彼も冷静と笑みでその弱さを隠してきたのだ。


 だが、エレンの言葉を聞いてボジョレヲは驚いた。そして呆気にとられた。更には自分の無知に対しておかしくなった。昔の自分もそうしたのに、そんな簡単なことですら忘れていた自分に、おかしくなったのだ。


 小さい時、修行がうまくいかないときその鬱憤を母にぶつけたが、そのあとなぜかすっきりしたかのような感覚を思い出し、ボジョレヲは――ああ。と思うと、ボジョレヲはこう思い至った。


 確かに、エレンの言う通りかもしれない。と。そう思ったのだ。


 苦しみを抱えることは確かに悪い事ではない。が、その苦しみが背負いきれない量になってしまえば自分自身が苦痛になってしまう。なら、その前に誰かにその苦しみを話せばいい。カミングアウトをすればいい。


 苦しむよりはましだから。


 そう言いたいのだろうと思い、ボジョレヲはくつくつと喉を鳴らしながらエレンのことを見降ろし、そしてエレンの名を呼び、顔を上げるエレンのことを見降ろして、彼は整った顔でこう言った。


 心の底から感謝をしているような顔で――彼は言う。


「ありがとうございます。少しばかりですが、気が晴れたような気がします」

「……………………あ、ああ。そうか。俺みたいなアドバイスで気が晴れたのならば、よか」


 というところで、エレンの言葉がそれ以上紡がれることはなかった。


 いいや、この場合は何かによって遮られたせいでそれ以上の言葉が紡げまかったと言った方がいいだろう。


 なぜそんなことが起きたのか。それに関してもエレンやボジョレヲも予想だにしていない。むしろこうなるだなんて誰も思っていないだろう。





 夜風の(せせらぎ)しか聞こえない空間で、()()()()()が聞こえるなど、誰も予想などしないから――





 その乾いた音を聞くと同時に、ボジョレヲとエレンはその音がした方向――真正面を見つめて今まで流れていた雰囲気を一旦取り壊して、張り詰める空間を形成していくと、ボジョレヲとエレンは互いの顔を見てすぐに頷き合うと――エレンは武器を手に、ボジョレヲは拳を握りしめた状態で音がした方向に足を進める。


 足音を立てずに、暗闇の中を明かりもつけずに走りながら、二人はその方向に向かって突き進む。


 もぞりと……、背後の方で何かが動いたそれにも目もくれず……、たったった。となるべく足音を立てずに音がした方向に向かうエレンとボジョレヲ。


 走っている最中でも銃の音は鳴り止まず、むしろ銃弾の音がどんどん近付いていることにエレンはボジョレヲに向かって言う。


「近付いているな!」

「ええ。確かに近付いています。しかし私達二人だけでここに来てよかったのでしょうか……。ダンさんたちを連れてくればよかったのでは」

「いいや。もしかしたら違う可能性もあるし、それにあの銃声……、聞いたことがある。もしかしたらなんだけど、この銃声の持ち主は――あいつしかいない」

「あいつ?」

「ああ。あいつだよ。もしかしたら呼んでいるのかもしれない。一時その場所に向かって何かがあったらボジョレヲがダン達を呼んでくればそれでいい」

「………まさか」

「まぁそれ以上は多分死亡フラグ立ちそうになるからこれで会話終了だ! ほら――目の前に発砲の光!」

 

 ボジョレヲの言葉を聞いたエレンは、はっと息を呑みつつそうなることはないだろうなと思いながらもこの時代では昔流行っていた『死亡フラグ』を仄めかすと、エレンは今目の前で光る火花を指さしながら叫ぶ。


 その叫ぶ声を聞いてボジョレヲは指が刺された方向を見て頷き、エレンと一緒にその方向に向かって走り、その暗がりの向こうにいる人物が一体誰なのかと目を凝らして見た時、二人は目を疑うような顔をし、それと同時に言葉を失った。


 二人の目の前に広がっている光景は異様且つ異常な光景だった。


 まず――火花を出して発砲をしていたのは、エレンが予想していた通りの存在――二町の拳銃を構えた状態で荒い息使いと怒りの雰囲気を出しているトリッキーマジシャン。


 仮面越しからでもわかる怒りの雰囲気と共に、揺れ動く銃口を己の目の前に突きつけているその様子を見たエレンは、今までのトリッキーマジシャンではないことに気付き、そんな彼の感情を揺さぶっているその人物のことを視界の端で見ようとした瞬間……。


「どうしたんだっ!?」

「――っ!?」

「! セレネさんっ!?」


 突然背後から聞こえた女性の声。その声を聞いたエレンはその方向に向けて視界の端を向けると同時に、横から聞こえたボジョレヲの声を聞いて、背後から来る人物がセレネであることに気付いた。


 セレネはたったったと駆け出しながら腰に差している剣を手に持って駆け出している。さらさらとしているその髪も寝ていたせいでくせっ毛が少し目立つが、今はそれどころではない。


 セレネはエレン達に向かって駆け寄りながら「何があったんだ?」と聞くと、それを聞いたエレンはセレネに向かって今起きている状況を自分なりに口頭で説明をしようとした瞬間だった。


「あれれ~? もしかして、ギャラリー?」

「「「っっ!?」」」


 突然、聞いたことがない女の声が聞こえた。


 その声を聞いた三人はすぐさまその声がした方向――トリッキーマジシャンが銃口を突き付けているその方向に目を向けると、その女性はくすくすと笑う声を上げながらエレン達を見る。


 白い白衣だけの衣装に身を包み、黒い短めのスカートに編み上げのタイツ、そして白いパンプスを履いて白く変色してしまったかのような肩まである少しだけぼさぼさになった紙を揺らして現れたのは……、左半分は火傷の顔、そして右半分は……否、右目だけは黒い瞳孔が印象的な色素が薄い女性――



 死霊族だった。



 その死霊族を見たエレン達は驚きの顔で、もしかしたら初めて見るかもしれないその存在を見ながら言葉にすることを忘れて強張ったまま固まってしまう。


 しかしそんなエレン達とは対照的にけてけてと笑いながら彼らのことを見つつ、怒りで我を忘れているトリッキーマジシャンのことを見ていた女性死霊族は腰に手を当てながらこう言ったのだ。


「あらあら~? もしかしてアタシのような存在に会うのは初めて? そんなにアタシたちは知名度低いってことか~。あ、もしかして驚きのあまりに固まった? それなら仕方がないけど、初めて出会う人にはちゃんと挨拶をしろって言われているからね。今回()()()だけど教えてあげるよ」


 そう言いながら死霊族の女性はエレン達に向かって、今まさに銃を放とうとしているトリッキーマジシャンに向かって陽気に、そして狂気の笑みを浮かべながら自己紹介をした。


 本日――()()()となる自己紹介を。



「はじめましてぇ~『12鬼士』さんと一緒に行動する冒険者さん。アタシは見ての通り死霊族(ネクロマンサー)――一応ダグディラットが管轄としている研究班の副リーダーをしているんだけど、通り名は『得体のしれない(ミステリアシィ・)液体を(ウォータァー・)操る(ネクロユード)』で、名前はマキュリ。これからよろしこさ~ん」

 


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