PLAY84 vs死霊族(ネクロマンサー)? PIECE:CHAT①
レンとハクシュダが帰ってきてから、エレン達は他愛もない会話を楽しみながら夕食を食していた。
初めて食べるララティラの料理にハクシュダとレンは驚きの顔と感極まる顔をしながら感動している光景を見て、エレンは驚きつつも二人のことを見て安堵の息を気付かれないように吐く。
二人の間にあった見えない壁がなくなっていることに、蟠りがいつの間にか無くなっているような雰囲気を見たエレンはふっと気付かれないように笑みを浮かべて、小さな声でエレンは言った。
「なんだか……、丸く収まったみたいだけど、これはこれでいい結果ってことでいいんだよな……」
そんなことを言いながら、エレンはその風景を見ながらこんな殺伐とした空気の中に生まれる他愛もない日常を満喫しながら、エレンはその口に残っていたブラウンシチューを平らげると同時に入れ込む。
しかし他愛もない何事もない時間は永遠に続くわけでもなく、その時間を含めてすべての空間には有限と言う制限時間がついている。ゆえにその夕食も、頃合いを見て唐突に終わりをエレンの口から告げられたのだ。
それを聞いていたガーネットは「もっと食う。食いたい食いたい」と駄々っ子のようにごねると、エレンはガーネットのことを見て「だーめっ。というか後の言葉微妙に文字が違う気がするのは俺の気のせいかな?」と言うと、ガーネットは大きく大きく、舌打ちを零した。
驚いているエレンのことやみんなのことを無視して、吐き捨てるようなそれを零しながら……。
ガーネットのことをルビィは多少の暴力で諫めて鎮めると、一同は明日の捜索のためにもいそいそと急かすように後片付けをはじめ、そして女性テント、男性テントと分けたところで、エレンたちが寝ようとした時――
「ちょっと男性陣。あんた達何寝ようとしてんのよ。勝手に寝ないでよ」
「え?」
唐突に、そして突きつけるような音色でシャイナが寝ようとしているエレン達に向かって言ったのだ。鋭い音色で、且つそれ以上の行動をさせない様な目つきで。
その言葉を聞いた男性陣は驚いた顔で表情を固めてしまっている。特にシャイナの真後ろでその言葉を突き付けられ、且つシャイナの言葉を間近で聞いて委縮してしまっているエレンは、驚いた面持ちでシャイナのことを見降ろしながら彼シャイナに向かって言う。
「え、と? 何寝ようって……、どういうことですか?」
「どういうことって、そのまんまの意味よ。なに? わかんないの? 大の大人のくせに、あたし達よりもお年なくせにわからないの?」
「……そのお言葉、傷つきますのでやめてください……」
「傷つくなら察してよ」
しかしシャイナはエレンに対して依然とした態度……、いいや、年下とは思えないような威圧を出しながらシャイナはエレンに向かって言う。ところどころに棘が出ているような言葉を吐き捨てて。
そんな彼女の言葉を聞いていたエレンは、内心泣きそうになりながらシャイナのことを見つめていると、エレンとシャイナの言葉を聞いていたダイヤが心の中で (この女、まるで野獣だな。)と思いながらエレンに近付き、そしてエレン越しにシャイナのことを見ながらダイヤはシャイナの名を呼ぶ。
ひょっこりと顔を出しながら――
シャイナはそんなダイヤのことをエレン越しに睨みつけ、「なに?」と、低い棘の言葉を吐きながら聞くと、エレンの居た堪れないような空間を横目で見つめながらダイヤはシャイナに向かって聞く。
「なぜそのようなことを言うんだ? 私達のような男が寝てはいけない理由があるとでも言いたいのか?」
「はぁ? あんたも男でしょ? なんでこんな簡単なことわからないのよ。察しなさいよ。男でしょ? 英語で言うとジェントルマンでしょ?」
シャイナの言葉にダイヤは目元を座らせなが無言になってしまう。『ふーん』や『へーん』と言う声すら出せないくらい、ダイヤはシャイナの言葉に内心困惑していた。
見てもわからないシャイナの気持ち。自分達に対して理解してほしいという感情は見えるのだが、それでも確信には至らないのでダイヤはそんなシャイナのことを見つつ、シャイナが一体何が言いたいのかを考えながらダイヤは続けてこう言う。
「ほぉ……。ジェントルマンか。それは英国にとってすればありがたい言葉だが、お生憎様だ。私やフォスフォ、そして他の英国プレイヤーはそんなことを言われても心を読むようなことはできない。つまりはシャイナ――お前の言葉に対していまいちピンッとこない。一体何が言いたいのか、私達に対してはっきりと言ってほしい。」
ダイヤの真剣で知りたいという気持ちが込められた顔を見て、シャイナはそんなダイヤのことをじっと見つめると、はぁっと大きくため息を大袈裟に吐き捨てる。
あからさまに、わかっていないのかという顔をしながら……だ。
シャイナのその顔を見ていたノゥマは、内心マウントみたいだ……。と思いながらその光景をモナと一緒に見ていると、シャイナはダイヤ達のことを見上げ、吊り上がった目で見つめると――彼女は大きな声で言ったのだ。
「だから! あんた達男でしょ? なら女の子を守るために見張りしてって言いたのよっ! かわりばんこで!」
「え?」
シャイナの怒涛めいた発言。その言葉を聞いた瞬間ダイヤは目を黒ゴマのような目に変えてぱちくりとさせて固まってしまう。それはほかの誰もがそうであり、その話を聞いて目も黒ゴマになっていない状態で見ていたノゥマはシャイナのことを見て――
「見張りってことは、それは僕の特権でしょ? 一晩寝ないでやるなら僕が」
「あんたは女でしょうが! ここは男に任せるべき! 大体男っていうのはそうやって女が下手に出るとすぐに調子こくのよっ! 黙って話聞いてて男装女子っ!」
「だ………、ダンソウジョシ………」
と言われたので、ノゥマは体中を『カチンッ』と強張らせて固まると、その状態のまま直立になってしまうと、モナはノゥマの光景を見て驚きつつも「大丈夫ですか~?」と、内心びくびくしながら彼女の背を撫でで宥めようとする。
石像になってしまったノゥマには効果はいまひとつかもしれないが……。
そんなノゥマとモナのことを背にして、シャイナはエレン達に向かって腰に手を当てながら彼女は畳み掛けるようにして言う。
エレン達にそれをさせるために、シャイナは言ったのだ。
「で! さっきも言ったけど、この辺りは強い魔物が現れるんでしょ? ならその魔物が来る前に追い払う人が必要! だから男性たち、しっかりとその任を全うしてよ! 女性陣は寝るから!」
「待て待て待て!」
シャイナがそれだけを言って、くるりと踵を返そうとした瞬間、それを聞いていたエレンはやっと現実に意識を戻したのかかっと目を見開いてシャイナの背中を見ながら怒鳴り声を上げる。
唾が出そうなくらいの怒鳴り声を上げながら、エレンはシャイナに向かってこう言ったのだ。
「なんだよそれ! 男性陣に危ないことを任せるのかっ! それこそ差別だろうかっ!」
「それは同文だな。男女ともに平等にしないといけないのではないのか?」
「俺は一人でも戦えるぜっ!」
「はいダンくんお静かにっ! 今は俺が話しているからっ! ちょっとこじれるようなお話はしないでねっ!」
「そーだ~。そーだ~」
エレンの言葉に便乗するようにダイヤがエレンの背後からにゅっと方から頭を出してうんうん頷くと、その会話を離れて聞いていたんか、テントの中から頭をにゅっともぐら叩きの様に出すダンとセスタ。
ダンの覇気がある言葉に対してエレンは怒りの突っ込みで制すると、それを聞いていたセスタはエレンに対して応援をするようにダンのことを見上げながら声を発する。
そんなセスタのことを見て、ダンのことを応戦しようするような光景だったのに、エレンに便乗するような光景を見て、空を飛んでいた声をフォスフォは驚いた顔をしながら――
『セスタヨ。オ前ハドッチノ味方ナンダ……?』
と突っ込みを入れていたのは、フォスフォだけの秘密。
フォスフォの声は誰にも聞かれていないが、エレンの言葉に対してシャイナは腕を組みながらくるりと再度エレンに向けて顔を向けると、彼女は胸を張る様な度胸のある顔で眉を吊り上げながらエレンに向かって――
「男女平等なのはわかるよ。そこはあたしだって理解している。そんじょそこらの非常識とは違う。けどさ……、女に見張りをさせて何かあったらどうするの? 責任とかそういうの取れるの?」
「せ、責任……?」
「何かあったらと言うのはどういうことだ。何かあったとしてもスキルを使って――」
「あーあ。そう言うことじゃないのっ」
と、シャイナの言葉に素っ頓狂な声を上げつつ、顔を引きつらせながらシャイナのことを見降ろすエレンだったが、そんなエレンの肩から今もなお覗くように見降ろしているダイヤは首を傾げるように疑念の声を上げて言おうとした瞬間――シャイナは肩をすくめてため息を吐きながら言う。
それを聞いていたダイヤは更に首を梟のように捻ると、ダイヤのそんな光景を見て心底呆れてしまったのか、シャイナはエレン達のことを睨みつつ、女性専用のテントを親指で指を指しながら彼女は、なぜ突然見張りをしてくれと頼んだのか、その真相を明かしてくれた。
「この場所で強い魔物が多いのはよくわかった。けどその魔物の種類で言うと、虫系の昆虫の魔物が多かった。昼に出た『殺戮蟷螂』や、人を丸呑みにして食べる多い名芋虫系の魔物『アナコンワーム』、『クイーンモスラ』や『単騎蜂』もいて、この道には昆虫系の魔物が多すぎるの。分かる?」
「ああ。わかっている。しかしそれは炎系のスキルで燃やせばいい話ではないか。何が嫌なのか?」
「あたしならいいけど……、ララティラは虫嫌いで卒倒しかけたじゃん。あとモナもグロイって言って躊躇っていたし、殆どの女の子は虫が大嫌いなんだよ」
「そう言うものなのか。ただ足が節足の六本足で触角がついていて翼があるだけのかさかさと動くだけの」
「ヤメィ! それ以上言うなやっっっ!!」
シャイナとダイヤは互いの顔を見ながら、エレンを壁にして会話を続ける。
二人の会話を聞いていたエレンは少しずつ、本当に少しずつだかシャイナが言いたいことを察していくと、ダイヤの話を聞いていたのか、テントから素早く顔を出して怒りと絶叫の顔を晒しながらララティラはダイヤに向かって半音高い声で叫ぶ。
その声を聞いていたエレンは、驚きつつもララティラのことを見て半分呆れるような汗を流しながら目をすっと伏せる。
そう言えば……、ティラここに来る道中生きた心地がしていないような顔をしていたような……。
ララティラのことを思い出しながら、エレンがそう思うと――それを聞いてかシャイナはエレン達に向かってびしりと……、人差し指を突き付けながら彼女はエレン達に向かって続けてこう言ったのだ。
「わかった? 女性や女子はそう言った虫の魔物が嫌いだし、生理的にも受け付けないからあんた達男子で対処してほしいってお願いしているのっ。女が怖がっているんだから、男として何とかしてよっ」
「結局男に丸投げかよっ!」
シャイナのお願いとは言えないような横暴めいた (本人はそんな気はさらさらない)発言を聞いていたエレンは、驚きと怒りが混ざっているような顔でシャイナに向かって突っ込みを入れる。
エレンの言う通り、丸投げめいた発言を聞いて――
シャイナの話を聞いていたダンは鼻息を荒くし、握り拳を目の前に突きつけながら「よっしゃ!」と、なぜか喜びを表しているような豪快な笑みを浮かべているが、それを背後で盗み聞きしていたハクシュダは、呆れた目でダンの背中を見つめながらため息を吐くと、共に背後で見ていたボジョレヲは上品な笑みを浮かべてダンのことを見ながら――
「今の時点で『よっしゃ』はないと思いますよ。そこは反論をすべきでは?」
と言った。
そんなボジョレヲ達の会話を無視して、エレンは無理難題を突き付けてきたシャイナに向かって反抗を示すように右手の人差し指を突き付けながら彼も言う。
このまま泣き寝入りで承諾なんてしない。女性だけが優遇の様なその要求を呑むわけにはいかない。そう心に誓いながら、エレンはなけなしの意地を使って反論をする。
「そんなことで丸投げするなっ! 確かにティラの虫嫌いは分かっているけど、ほかの人は全然虫が嫌いとか、病的な虫嫌いじゃないだろうっ!? 男にも虫が嫌いな人だっているのに、それはないんじゃないのかっ!? シャイナも虫嫌いじゃないだろうに全部全部男にそれを押し付けるなっ!」
しかし……、それを聞いたシャイナは、エレンの言葉に対して何かを感じたのか、肩をピクリと揺らしながら目元を地面に向けて伏せ、そしてその方と体をぶるぶるとマッサージ機のように揺らしながら、シャイナはエレンに向かって、小さな声でこう呟いてきた。
「……………なにが、…………よ」
「え?」
シャイナの小さな声に対し、エレンは驚きの半音高い声でシャイナの俯く頭を見降ろすと、それを見ていたダイヤも首を傾げながらエレンの肩越しにシャイナのことを見る。
シャイナはそんなエレン達の視線に気づいているのか、気付いていないのか、彼女はその細くて華奢な肩を震わせると、シャイナはエレンの疑問に対して半ば八つ当たりのような怒鳴りの声を上げると同時に、彼女は顔を上げてエレンに向かってぶつける。
なぜ見張りを男性でもあるエレン達に任せるのか。そして自分は――否、女性人達はなぜ見張りをしたくないのか。今の今までしていたのになぜこの時に限ってしたくないのか。
それを包み隠さず、エレン達に向けて吐き捨てながら――いいや。エレン達に向けて絶対に見張りなんてこの場所ではしたくないその気持ちを剥き出しにしながら、シャイナは言ったのだ。
「なにが『虫嫌いじゃないだろう』よっ! あたしだってこんなところにあれがいなかったら余裕であんたたちと一緒に見張りくらいはするわっ! ララティラはしたくないだろうけど、今回ばかりはごめんよっ! だってこの場所にはあいつがいるからそんなことをして万が一出くわしたら嫌だもんっ!」
「あいつ…………? あいつって、なに?」
「知らないのっ!? 聞いていなかったのあのば……っ! 鬼不神からっっ!」
シャイナの言葉にエレンは首を傾げながらシャイナのことを見て、テント越しに見ていたダンたちも、エレンの肩越しに見ていたダイヤもシャイナの言葉に首を傾げて頭に疑問符を浮かべる。
シャイナが言うあれ。
それが一体何なのかがエレン達男性陣にはいまいちピンとこなかったのだが、シャイナの言葉を聞いて、そして虫嫌いでなくても嫌いな虫のことを思い出した瞬間、エレンははっと息を呑み、頭を抱えて青ざめながら狼狽している彼女のことを見降ろしながら、エレンはまさかと思い、シャイナに向かって質問をする。
まさか……、そんなことを思いながら……。
「ま、まさか、それって……」
が――その質問をする前に、シャイナは「ぎぃえええええええっっっ!」と甲高い奇声を上げ、己の腕を両手で抱きしめ、そしてさすさすと高速で温めるようにさすりながら彼女は奇声めいた言葉を発する。
顔を上に向け、その首を急かしなく左右に動かしながら、彼女は奇声を発し、そしてその言葉がエレンの口から出ないように必死になりながら、彼女は言う。
まるで――この世の終わりのような言葉を口にしながら……。
「それ以上言わないでっ! それ以上言ったら『状態異常呪術』で呪い殺すわよっっ! それを聞いた瞬間に思い出してしまうから――本当にやめろっっ!」
「………………」
「ものすごい嫌悪感だな。見ていてその剥き出し具合が目に見えている……。それほど嫌いと言うことだな。」
シャイナの言葉と嫌悪感が剥き出しのその顔を見て、エレンは青ざめながらそれ以上の言葉を発することを躊躇い、そんな光景を見ていたダイヤは驚いた目をしてシャイナのことを観察していた。
物珍しそうにシャイナのことを見ていたが、二人の男性のその顔を見ていないのか、シャイナは「ぎゃああああああっ!」と絶命寸前のような奇声を上げ、そしてエレン達に向かって――
「いいから何も聞かないで! あいつのことを思い出すと……、本当に寒気とぶつぶつが出るのっ! 手に触れた瞬間に強烈な匂いが付着して、たまに飛ぶようなあいつのことを思い出しただけで気持ち悪くなるあいつのことを思い出させないでよっっ!」
「へ?」
と言う言葉を発した瞬間、それを聞いたエレンは驚いた顔をしてシャイナのことを見て、そして首を更に傾げながらエレンはシャイナに向かって、おずおずと言った形で聞いてみた。
彼女のことを刺激しないように、オブラートに包みながら……。
「シャ、シャイナ……。まさかお前が言っているムシって……、刺激をしてしまうとにおいを発して、その臭いで自滅をしてしまうこともあるあの」
「ぎゃあああああああっっっ! その虫の名前を言わないでよっ! 名前を聞いた瞬間に寒気が来たからそれ以上は禁句よっ!」
と言って、エレンのそれ以上の言葉を紡ぐ前に、シャイナは猛スピードで近くにある女性用テントに向かって走ると、彼女はそのテントの中に身を顰めるように素早く入ると、彼女はテントの入り口から顔を出して、唖然としているエレン達のことを『ぎっ!』と睨みつけながら彼女は言ったのだ。
微かに、目に涙を溜めながら、本当に嫌いだと言うことを顔に出しながら彼女は言う。
「そうよっ! この近くにはあたしやほかのみんなが嫌いなあの虫が現れるのよっ! しかも巨大な状態でっ! 一番いやな虫もいるけど、その虫も上位にランクインするくらい嫌いな虫なのっ! 他の女性陣も嫌いだから、今回だけは男性陣だけでしっかりと見張っててよっ! そいつが来ないように見張ってて! それじゃがんばっ!」
そう言ってシャイナはしゅっとテントに頭を入れ、そのままテントのチャックを即座に閉めると、それ以降シャイナがそのテントから出ることはなかった。
それは他の女性陣も同じで、エレン達はそれを聞きながら唖然とした顔で女性陣が入っているテントを見つめた。
女性人のテントからは小さな声で『よかったー』や、『それを聞いてしまったら無理だったかも』や、『はぁーっっ! 怖かったーっ! あんなに長い間出ていたらいつ襲われるかわからなかったから……、寿命が縮まった……っ!』や、『大丈夫だった?』など……、いろんな声が聞こえてきた。
いいや、声だけで聴く、その言葉を発していたのは――レン、ノゥマ、シャイナにモナの声で、その声を聞いていたエレンは腕を組み、小さく溜息を吐いて自嘲気味に笑みを浮かべると、エレンは小さな声で言った。
「あんなに怖がっているなら、仕方がない……かな?」
その言葉を聞いていたダイヤは、エレンの肩越しにエレンの顔を見上げて頭に疑問符を浮かべる。
長い間ひと悶着のような始終とてつもなく下らない舌戦を繰り広げていたが、その舌戦もシャイナの勝ちという結果に終わり、エレンはそんなシャイナの女の子らしさに負けて渋々と言った形で承諾を心に決める。
内心――勝気な女の子の苦手なところを見つけて可愛かったなぁ……。と思いながら……。
◆ ◆
そんな穏やかで笑いが飛び交いそうなひと悶着が起きていたその頃……。
そんな光景を見降ろしながら飛んでいたフォスフォは、呆れた目をしていると、視界の端に映った何かに気付き、その方向に目をやると――フォスフォは視界に入ったそれを見て、おっという顔をしてその光景を見ると、フォスフォは飛びながら浮遊していたその行動を切り替え、その方向に向かってバサリ! と、竜特有の鱗が入った大きな翼を大きく羽ばたかせながらその方向に向かって直進していく。
――アレハ……、コンナトコロデ何ヲシテイルンダ?
そんなことを思いながら、ばさり! ばさりと大きくフォスフォはその翼を羽ばたかせると、その翼によって生じた風の大砲がフォスフォの真下にある木々や草木に『ぼふりぃ!』と当たる。
当たると同時に草木は地面に突っ伏してしまい、木々も『ざざざざぁ!』と叫びを上げながらグラグラとその体を揺らしてしまう。今までの自然の風よりも、フォスフォが出す風の方が大きなダメージだと警告を上げながら……。
地面に深く根付いたそれも簡単に緩くさせる様な風の勢いを翼と言う名の武器で出すフォスフォは、その下で起きていることに目もくれず、大きく羽ばたかせながら視線の先にいる――木のてっぺんで未だに突っ伏しているトリッキーマジシャンのところに行こうとした。
瞬間だった――
――ぎゅるるるっっ! しゅるんっ! ぎちぃ!
どこからかそんな音が聞こえた。と同時に……、フォスフォは自分の体の異変に気付いた。
『――ッ!?』
フォスフォは声を出そうとした。が、その声を出すことは不可能だった。何もかもが遅すぎて、もう手遅れだった。
不可能。
その言葉で簡単に片付けられてしまっては困ると言う人もいるかもしれない。
しかしフォスフォ自身一体何が起きているのか理解ができなかった。
ゆえに彼の視点からしてみれば本当に理解できないような事態が突然、一瞬の間に起きたのだ。
突然何かによって体の身動きが取れなくなり、突然何かによって動きを拘束され、突然何かによって口を塞がれた。
しかも上顎と下顎を拘束具でぐるぐる巻きにされているかのような感覚――まるで鰐になってしまったかのような感覚を覚えたフォスフォ。
その感覚を味わいながらも、一体何が起きたのかと体を動かして暴れようと試みるが、それはフォスフォの体をきつく拘束するように、身動き一つさせないような結束力を持っている。
だが、目だけは動かせたフォスフォは、最も己の目に近い箇所――右手の手首に向けて視線を落とした瞬間、フォスフォは今の自分の姿を一部ながら知ることができた。
己の体を縛り付ける――銀色の飴細工のようなそれを見て、自分はその銀色の飴細工のようなものによって拘束されていることに気付いた瞬間……。
『――っっ!?』
フォスフォは口を塞がれた状態で、そのまま下に向かって――地面に向かって引っ張られていく。背中に来る肉の食い込み、翼の悲鳴を体で感じ、じんじんとくるその感覚を味わいながらも、フォスフォはそのバネのような引き寄せに抗おうと体を動かそうとする。
しかし、その動かしも拘束のせいかあまり身動きが取れない。どころか自由が奪われたかのように、動けない。
――ナンナンダッ!? コノ感覚ハ……ッ!
――サッキマデ飴細工ノヨウナ感触ガ、突然鉄ノヨウニ固クナッタッ!?
――ドウナッテイルンダ? ナニガ一体……!
そんなことを思いながらも、フォスフォは一体何の仕業なのかと思いながら冷静にこの後の対処を模索しようとするも、それを考えている最中、フォスフォの体が突然別の個所の激痛と共に悲鳴を上げる。
先ほどまでの背中の窮屈さが嘘のように消えると同時、今度は腹部の締め付けを感じると同時に最後に来たのは――腹部、四肢の付け根と手足、翼の締め付け。
上から吊るされているかのような感覚。否、事実そうなっているような体の状態でフォスフォは拘束されていた。さながら丸焼きにされる前の食品の様だ。
『……ッ! ………ッ!』
フォスフォは口を塞がれながら声にならない叫びを上げる。締め付けてくるその箇所の激痛とこみ上げてくるなにか。そして締め付けられると同時に中の熱がどんどん熱くなり、冷えていくのを感じながら。
視界に映りこむエレン達が歩んでいた樹海の光景を見つめ、その樹海の向こうから現れようとしているその存在を見ながらフォスフォは激痛に耐え、鼻だけで呼吸を整えながら彼はその方向に向けて鋭く竜特有の威圧を込めた視線を向けると――
「へぇー。意外と我慢強いんだ。これはいい研究結果になりそうだ」
と、樹海の向こうから草木を踏む音と木の根っこを地面にして歩む音、そして土を踏む音と同時に聞こえたヒールらしき音を聞きながら、フォスフォはその人物のことをじっと激痛に苦しむ目で見つめる。
樹海の向こうから現れたその存在――白い白衣だけの衣装に身を包み、黒い実のスカートに編み上げのタイツ、そして白いパンプスを履いて白く変色してしまったかのような肩まである少しだけぼさぼさになった紙を揺らして現れたのは……、左半分は火傷の顔、そして右半分は……否、右目だけは黒い瞳孔が印象的な色素が薄い女性だった。
その女性の右手からは、銀色の液体がどろどろと零れだしているそれを見て、それが自分に巻き付いている者の正体だと気付いたフォスフォは、その状態でなんとか動こうとしたが……、女性はそんなフォスフォの行動を見て呆れたような音色で――
「ああやめておきな。それ以上の行動をすれば、あんたの首なんて一撃スパーン! 今の状況よぉく知っておいた方がいいかもよ? あんた、囚われの姫ドラゴンなんだから」
と言って、女性はつかつかとフォスフォに歩み寄りながら地面に落ちている葉っぱを『くしゃり』と踏み潰し、フォスフォの目の前で足を止めると、彼女は口をふさがれ、四肢も拘束されて絶対絶命のフォスフォに向かって――陽気と失意が混ざったかのような目と火傷のせいで濁ってしまった目でフォスフォのことを見つけながら彼女は言う。
自分の名を――高らかにではないが宣言しながら……。
「もしかして、初めて? なら今日は特別におひとり様だけに教えてあげる。はじめまして神聖なる人の言葉を話せるドラゴンさん。アタシは見ての通り死霊族――一応ダグディラットが管轄としている研究班の副リーダーをしているんだけど、通り名は『得体のしれない液体を操る』で、名前はマキュリ。突然拘束して悪いけど、あんたにはここで少しの間息を潜めてもらいたいの。いい?」
そう言って女性――死霊族マキュリはどろどろとした何かを出していない手でフォスフォの鼻の先をするりと撫でながら言う。
狂気と気怠さ、そして高揚とした笑みが混ざったかのような歪な笑みを浮かべて、彼女は言う。
これからすることに対して、邪魔をしないでほしいとフォスフォに言って……。




