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PLAY83 キモチ④

「なぁなぁー。なんであん時あんなことをしたんだよー。俺だってまだ戦えたぜー?」

「……………………」

「おい聞いてんのかよ? 耳つんぼすんなって。なぁなぁその強さの秘訣っていうのを教えてくれってー」

「……………………」

「つんぼすんなって。そんなことをしていると、お前のこと本当につんぼっていうぞー? おーいつんぼー」

「……………………」

「無視とかきついぜー。つんぼ」

「おいおっさん。何してんのさ。人の名前を勝手に改名すんな。そんな名前を与えられたら誰だって無言になるって」


 この会話をしているのはダンとハクシュダ。そして最後に言葉を放ったのはシャイナ。三人はその場所の中央に()かれている焚き火を取り囲みながら会話をしていた。


 と言ってもダンの言葉に対して無言を徹し、そんな光景を見ながらデジャヴを感じていたシャイナは呆れるように突っ込みを入れたのだが……。


 三人がこのような会話をしている時、空はもうすでに青いそれを隠して黒く、青が微かに見える様な空を出してアズールの世界を黒く染め上げていた。


 そんな黒い世界を真上から照らす半分の月を見上げ、エレンはそんな三人のことを見つつ、特にハクシュダのことを見ながら彼はこんなことを思っていた。


 もちろん――ボジョレヲから聞いたあの話 (鬼不神との会話の件)を思い出しながら、彼は思ったのだ。


 ――あれから見るに、かなり不貞腐れてんな……。ありゃ相当時間をかけないとだめだし、それにボジョレヲにも言っておこう。


 ――事情を説明して、謝った方がいいって。


 そんなことを思いながら彼は再度夜空を見上げ、半分欠けた月を見上げ、深い深い疲れたような溜息を吐く。


 その手に底が深い鍋を抱えながら……。


 あれから――『殺戮蟷螂』と異常に知性が高い『殺戮蟷螂』の戦闘を終えてから、彼等は疲れた体を休める……。


 なんてことをせず、時間も限られている中、エレン達は疲れている体に鞭を撃つように、その野営地を後にして自分達の目的の場所でもある『歴史碑の散策道』で捜索を開始した。


 もうあと二日しかない。


 いいや、もしかすれば一日もないかもしれない。


 そんな中、エレン達は『創成王』の命令により、サリアフィアが残したかもしれない歴史碑を、彼女が残したかもしれないというメッセージのために彼等は賭けのような任務を遂行――いいや、捜索を承諾したのだ。


 そのメッセージがあれば、もしかするとこの状況を大きく覆すようなことを手に入れるかもしれないことを願って……。


 そんな思いを胸に捜索を全員で行った。


 もちろんハクシュダも渋々と言った形で、散策道に転がっている正方形の石碑を見ながら誰もがマークが彫られている石碑捜索をしていた。


 エレンも、ララティラも、モナもシャイナ、そしてシャイナの影でもある『無慈悲な(サディスト・)牧師様(ミニスター)』も捜索に加わりながら周りを探し (ダンだけは「めんどくせぇ! もう『ない』ってことでいいんじゃねえのかっ!?」と言いながら任務放棄を仕掛けたが、そんなダンのことを怒りながら『やれ』と促したエレンは、心身共に疲れたような顔をしていた)。


 セレネ達は部下でもあるルビィ達と一緒に一生懸命になりながら捜索をして (ガーネットはそれほど真面目に捜索していない。そしてフォスフォは空を飛びながら敵がいないかを偵察をしていた)。


 ボジョレヲ達は全員真面目に歴史碑の捜索をしていた。もちろん――セスタの影でもある『陽気な(ジャック・)南瓜道化(オー・ランタン)』も彼の肩に座りながら。


 気力も体力もすり減る様な状況の中、必死になって雲を掴むような任務を遂行するエレンたち。もちろん生活費のためでもあるが、それ以上にこの状況が一変して、この世界の幽閉が少しで短くなれるように、彼等は奮起した。


 だが……、その日の収穫は悲惨な結果として終わってしまった。結果として言うと――





                  ゼロ。





 何も見つからないまま日が傾き、夜を迎えてしまったのだ。とっぷりと、真っ暗な世界が辺りを包むような情景になるまでエレン達は探したが、結局状況が変わることはなかった。


 どころかあと一日、この場所でまだ捜索をしようかしないかを迷うほどの徒労を得ると同時に、帰ろうかという諦めも出始めたのも事実だ。


 本当にこの場所にあるのか。本当に『創成王』の賭けで、その賭けも結局無駄になってしまったのかもしれない。そうエレンは思っていた。


 なにせ――『歴史碑の散策道』一帯をくまなく探したのだ。部屋の埃一つを見つけるように探したんだが、それでも見つけられなかった。


 何の収穫もない状態の中、エレン達は落胆する気持ちを抑えることができなかった。どころか、露見してしまったの方がいいだろう。セレネはそんな彼らに対して――


「希望を捨てるなっ! 今日は時間が押してしまっていたからくまなく探せなかったかもしれない。だから明日も根気強く探そう! 今度はくまなく、隅々まで探そう!」


 と言って、エレン達の折れかけていた士気を高めようと奮起させた。


 これも、セレネなりの気配りなのかもしれない。彼女自身今回の件に関してはかなり心と体の疲れが残っているだろう。


 それでもそんな顔を一切出さずに、且つ人のことを優先にする姿勢は、まさに王女の佇まい。


 エレンはそれを見て、一瞬諦めようかと思っていたが、それを何とか踏み留まらせてセレネの言葉を聞いて、今日のところは一旦終了して、野営地で夕食をとることを提案した。


 その提案に関しては、誰もが承諾をしたのは明白。さんざん動いて探したのだ。体力が減ると同時に空腹も鳴り止まなくなる。特に大きな傷を負っていたダンのお腹の虫の体長が大きいのか、一際大きな音を立てていたのは言うまでもない。


 その音を聞いて、もう夜になる風景を見ながら――エレンは言ったのだ。


「それじゃ……、今日のところは捜索をやめて、一旦夕食でも作って明日に備えるか」


 エレンの言葉をきっかけとして、ボジョレヲ達ローディウィル、セレネ達レティシアーヌ、そしてアストラの五人は遅くなる夜の世界を歩きながら野営地に向かい……、そして合計十八人分の夕食づくりを開始して――現在に至ると言うことである。


 現在……、エレンは鍋を手に持って調理をしているララティラのところに向かおうと急いで歩いている。


 せかせかと、急がないとなと思いながら、彼は少し重い鉄製でできているそれを手に持って、駆け出したらバランスを崩して落としてしまいそうなそれを持って焦りながらも走ることをせず、危険を冒さないで早足でララティラのところに向かっていた。


 ――急げ急げ。ティラが次の料理を作るからな。しっかり持って行かないと。


 しかし、それを見た誰もが思うであろう――そこまで急かすことはないのでは?


 そう思う人がいるかもしれないが、考えてみよう。


 大きく、底が深い鍋なのだが、それでも十八人分の料理を作るとなれば――これでは足りないのだ。十八人分の料理を作ることはかなり骨が折れる。そして器具も多く使う。更に言うと材料も多く使う。現実的に言うと――その時に使う調味料で食費がかなりかかる。


 そしてエレンが持っている鍋は六人分のカレーが作れる量しか入らない。


 つまり――何度も何度も作らないといけないのだ。クルーザァーがこれを見ると、不合理と罵るであろう。しかしこれしか買えなかったのも事実。エレンたちはこのくらいの調理器具しか買えなかったのだ。


 理由は明白――お金がなかったから。

 

 そしてなぜセレネ達が持ってなかったのか――それは、彼らの料理が簡素な保存食だけだったことと、砂の国ではギルドも何もなかったが故、変えなかったことも事実。


 それゆえに、彼等が持っている調理器具はアストラが持っているものしかないと言うことである。


「てか……、ギルドもない国ってどんな国なんだ……? 俺達はアルテットミアから出たことがないからどんな風なのかわからないし……、と言うかギルドもない砂の国での生計ってどんなふうにしていたんだ……? 保存食っていうところも引っかかるな。…………後で聞くか」


 エレンはセレネとボジョレヲ達から聞いた言葉を思い出し、その言葉に衝撃を覚えてしまったが、それと同時に好奇心も感じていたので、洗い終えた鍋を抱えながらぶつぶつと言葉を発する。


 一体どんな生活をしてきたのだろう。そんなことを思いながら……。


 因みに――野営地での係分担は決まっており、エレン率いる食器洗い担当はアクアカレンとセレネ。


 調理はララティラとレン、そして意外と料理が得意なダイヤでララティラお手製のブラウンシチューと植物系の魔物から勝ち取った素材を元にして作ったサラダを調理している。


 野営地の守備はハクシュダ、ノゥマ、ダン、シャイナ、ルビィとルビィの影の中に入って待機しているシノブシが行っている。シノブシは通常はセレネの影の中に入っている時もありが、状況に応じてほかの影の中に入ったりもできるので、今はルビィの影の中に入ってて奇襲に備えている。


 そして――残っているトリッキーマジシャンとボジョレヲ、そしてガーネットは、少し遠出して魔物を倒しながら食材となる素材を拾って野営地にいるララティラたち調理班にそれを渡している。


 それを受け取ってララティラは料理をしていると言うことである。


 ――あの素材の量……、半端なかったな。


 と思いながら、エレンはトリッキーマジシャン達の手に収まり切れない素材の量を思い出しながら、内心汗を流しながら引きつった笑みを浮かべていたのは、言うまでもない。


 それのおかげで腹を減ることはない。そして問題の料理も時間はかかるがもうすぐ出来上がる。


 ――早くいかないとな。あいつの手料理すごくうまいからな。早く行って追加を作ってもらわないと。ティラも張り切っていたしな。


 エレンはそう思い、そしてララティラが作る手料理のことを思いながら、自然と駆け足になるその足でララティラたちのところに向かう。


 不安や驚き、疲れや落胆をかき消すように、エレンは駆け出す。


 本人も太鼓判を押すほどの腕を持つ、ララティラの手料理を食べるために。


 そして………。



 ◆     ◆



「おいしーいっっ!」

「これば美味だな。」

「うまし。美味」

「おいしいわね。これならすぐにお嫁に行っても問題ないと思うんだけど……、と言うかこれはおいしいわねーっ」

「ほわわぁ! おいしいぞ! これはおいしいぞノゥマ、セスタ! 妾気に入ったぞ!」

「よかったね」

「おれも好きになったな~。うまいうまい~」


 それからララティラが作った手作り――魔物の素材で作ったブラウンシチューは初めて口にするセレネ達やボジョレヲ達の味覚を魅了し、絶賛の言葉をララティラに向けて浴びせた。


 これが本当に――胃袋を掴まれた人々の光景と言えばいいのだろうか。


 あれからエレンは持ってきた鍋を使って、ララティラたち調理班は黙々と、せかせかと手を動かしながらブラウンシチューを作った。その間魔物の奇襲も何もない状況であったので、さほど時間をかけずにブラウンシチューを調理することができた。


 彼女は持ってきたそのブラウンシチューはおいしそうな湯気を漂わせ、その皿に乗せられた予め買っておいたパンも相まって、さらにおいしそうにみえる。本当においしそうと言う言葉が出て来そうな出来で、誰もがそれを見て賞賛の声を上げた。


 翔さんの声を上げた後で、一同は焚火を中心に円を描いて座ると、その手にブラウンシチューを手に持って一口、ブラウンシチューをスプーンに掬って入れると、最初の声を上げた。と言うことである。


 因みに――順番として十二時の方角から時計回りに……、セレネ (シノブシとフォスフォはそんな彼女の背後で座っている)、ダイヤ、ルビィ、ガーネット。ボジョレヲ、セスタ、アクアカレン、ノゥマ。エレン、モナ、ララティラ、シャイナ、ダン。という順番で、最初に一口口に入れて声を上げたのは――モナとダイヤ、ガーネット、ルビィ、アクアカレン、ノゥマとセスタである。


 この場にいないトリッキーマジシャンは近場の偵察に向かい、ハクシュダとレンに関しては、のちに明かそうと思う。


 トリッキーマジシャンとハクシュダ、そしてレンがいないことに関してはみんなも承知し、ハクシュダとレンは二人で話すことがあるのでその場から離れていることを承知して、帰ってきてから食べれるように三人分の食事とおかわりを用意して、残りの一同は先に食事を楽しむことにする。


 そんな光景を見ながら、ララティラは焚火越しに彼らのことを見て照れた顔をしながら彼女は言う。


 ぱちり――と、焚火の声を聞きながら、彼女は言ったのだ。


「そ、そこまで言われると、逆に恥ずいわ……。うちそこまで言われたことなくて、耐性が追い付けへん」

「いやいや、事実だろう? 受け入れろって。俺もダンも太鼓判を押すし」

「う、うう……。そんなに言わんくても……」

「俺も推すぜ! もっと量があれば合格だがな!」

「ダン――あんたは味よりも量なんやな……。今思い出すと、あんたからの褒めの言葉はちょいちょい斜め上のような言葉が飛び交ってるわ」


 ララティラは言う。


 照れた顔をして褒めの言葉をかけたノゥマ達に向かって言うと、それを聞いていたエレンは「ははは」と笑いながらララティラに向かって言い、当の本人はより一層照れた顔を……、いや、それ以外にも()()()()()()()()()()()()()()を出しながら彼女は照れながら言う。


 しかし、そんな彼女のことを思ってなのか、ダンはがははは! っと笑いながらももう一押しの声を上げると、ララティラはそんなダンのことを見て、先ほどとは対照的な冷めた目をして冷たい突っ込みを入れる。少しばかり昔のことを思い出しながら……。


 そんな光景を見てか、ルビィはけらけらと男なのに女のように優雅に笑みを浮かべながら「仲がいいわねー」と言いながらエレン達のことを見ていると、彼らのことを見て首を傾げて、そんな彼らのことを見てダイヤは疑念の言葉をエレン達に向けて言った。


「なんだか異様に仲が良いな。お前達。視ているとその親交具合も良好だ。」

「? 視るだけで友好具合がわかるのか? そこまで露骨だったのか……? 俺達」

「あ、いや……。そう言うことじゃなくて……、何と言えばいいのか……。」

「?」


 ダイヤの話を聞いてか、エレンは首を傾げながら驚くと同時に、更に露骨だったことにも驚いて、最後に『まじか……』と呟きながらダイヤのことを見る。


 その目は凄いという眼差しなのだが、ダイヤに至っては自分の目のせいでひどい半生を歩んでいたので、エレンの言葉と表情を見て傷つけてしまったのかと思い訂正を言おうと言葉を濁す。そんな光景を見て首を傾げて見ていたモナのことを見ずに……。


 そのあとでやっと言葉を見つけることができたダイヤは――エレンに向かって冷静さを取り戻した音色で……。


「いいや、悪いように言ったわけじゃない。そのくらい仲良く見えて羨ましいと言っただけだ。」

「あ、そうなの? そんなに羨ましいかな……」


 と、ダイヤの言葉を聞いて首を傾げるエレンと、傾げた後でダンとララティラのことを見るエレンだったが、ララティラ達も首を傾げながらエレンのことを見ていた。


 自覚はなかったらしい。


 そんなことを思いながらダイヤは三人のことを見ると、そんなダイヤに疑問に対して同じことを思っていたのか、ノゥマもブラウンシチューをもぐもぐと頬張り、パンを頬張りながら彼女は三人に向かって率直な思いと共に聞く。


「んぐんぐ。でも、僕も思ったな。三人の仲の良さ。もしかして三人って――古い付き合いの仲なんですか? はぐはぐ。もぐもぐ」

「食べながら喋るな。行儀悪い」


 そんなノゥマの行動を見てか、シャイナは冷静な音色で冷たい声で突っ込みを入れる。


 それを聞いていたエレンは驚きながらノゥマのことを見ている。


 そんなエレンと同じように、ララティラとダンも驚いた顔をし、その後で互いの顔を見た後――一瞬その場に静寂が訪れる。


 ぱちっ。


 焚火からもう一度声が鳴る。


 その音を聞くと同時に、エレンはノゥマとほかのみんなのことを見ると、彼はダンとララティラのことを横目で見ながら、懐かしむような笑みと共に口を開く。音色にも懐かしさがこぼれるような音色で、彼は言ったのだ。


「ああ。確かに俺達は仲がいいけど、大学の時に知り合っただけの縁だよ」

「? ダイガク?」


 エレンの言葉を聞いたセスタは、大学と言う言葉に関して聞き覚えがいないのか、スプーンを片手に首を傾げながら聞く。その言葉に関してはアクアカレンも口にべったりとブラウンシチューのルーをこびりつけながら首を傾げているが、その言葉を聞いたセレネは、おぉと言う声を上げてエレンのことを見ながら……。


「ダイガク……、と言うことは、カレッジか。そうなるとエレン達は相当頭がいいんだな」


 と言った。


 それを聞いていたモナははっとセレネの言葉に気付き、そう言えばと言いながら彼女は思った。


 日本では大学だけど、英語にすると大学はCOLLEGE(カレッジ)だ。聞き慣れないしカレッジの方が聞きなれているから首を傾げてたんだなー。セスタさんは。いい勉強になる。


 と、そんなことを思いながらモナはみんなの話を聞いて、もう一度口の中二ブラウンシチューを入れる。ほどなくして味が口に中に広がり、幸せな気分が彼女のことを包み込む。


「~~~~~っ」


 包み込まれると同時に、頬が解けてしまいそうな幸せそうな顔をしてしまうモナを見て、シャイナは内心青ざめながら気色悪っ。と思った。


 そんな中――セレネの話を聞いていたエレンは頷きつつ、ララティラ達のことを見ながらこう言った。


「そう。大学で偶然知り合っただけの仲なんだよ。最初に仲良くなったのはティラ。偶然ぶつかったときにティラが今の関西弁を言ったことがきっかけだったかな」

「も、もう昔の話やて……!」

「でもあの時すぐに普通の言葉に変わって、なんだかしどろもどろだったからすごく印象深かったけど、今思うと……、関西弁のような訛りがある方が好きだって言ったことが、交流を深める奇異賭けだったのかもしれないな」

「そ、そやね……、うん」

「あ」


 エレンとララティラの話を聞いていたモナは、はっとしてとあることを思い出す。


 そう、ララティラは現実世界にいたとき、その関西弁特有の訛りのせいでいじめに遭っていた。そのことに関してはサラマンダー浄化の夜に聞いたので、よく覚えているモナ。


 しかしそんなコンプレックスとなっていた訛りに関して、『好き』とエレンは言ったのだ。その言葉を聞いて、モナは内心なるほど……、と思いながらエレンと、若干頬を赤くさせているララティラのことを見る。


 そんな光景と、ララティラの過去を聞いていたモナは――なんとなく、ではない、はっきりと理解した。



 これは……、()()だと。



 しかし、あれになっているのはララティラだけであり、エレンはそんな彼女のことを見ても一向に気付く気配がない。それを見ながらモナは先は長いが、ララティラの行く末を応援しようと心の中でニマニマしながら思った。


 いいや――誓った。のほうがいいのかもしれない。


 ニマニマしているが、それでも応援と言う気持ちの方が勝っている気持ちで、モナはララティラのことを見る。そんな中――ボジョレヲはそんな彼らのことを見て。


「単なるきっかけであれど、その人にとってすれば転機になるような出来事ですね。何という偶然、いいえ。必然と言ったほうがいいのでしょうか」

「あーははは……。そこまで深く考えたことはないんだけど」


 と言うと、エレンはそんなボジョレヲのことを見て困ったように笑みを浮かべて頭を掻くと、それを聞いていたルビィはがつがつとパンやブラウンシチューを喰い漁っているダンのことを見て、彼はエレンのことを見てふと疑問に思ったことを聞いた。


 その疑問の中心となる存在は――ダンなのだが。


 ルビィはうーんっと唸るような声を上げて、エレンに向かって聞いた。


「ふーん。それじゃぁダンは? ダンは一体どんなきっかけがあって仲良くなったのかしら? もしかしてサークルとかで?」

「きかっけって、そんな大したことじゃないんですけど……。まぁティラと俺は同じサークル『仮想空間同好会』に入っていたんです」

「『カソークーカンドーコーカ』?」

「『仮想空間同好会』だよガーネットさん。まぁやることはもっぱらゲーム関連のことをするだけの集まりみたいなもんやな」

『ソレハサークルトハ言ワナイノデハ?』


 ルビィの言葉に、エレンはうーんっと唸りながら考えて、思い出すように自分たちが入っていたサークル……。と言っても、ただの集まりのようなサークルを言うと、それを聞いていたガーネットが首を傾げながら片言交じりに言葉を発する。


 それを聞いてか、ララティラは訂正した言葉を言い、わかりやすくやることを提示したが、それを聞いていたのか、セレネの背で寝るように体を丸めていたフォスフォは顔を上げて、ララティラのことを見降ろしながら呆れるような音色を発すると、それを聞いてか、いいや、突然顔を上げたせいで驚いたのか……、アクアカレンは「ほぁっっ!?」と肩を震わせ、そのまま手に持っていたブラウンシチューの皿を地面に落としてしまう。


 かしゃんっ! と、大きな音を立てて……。


「ほ、ほ、ほああああ………っ」

「ありゃま~。やばいね~。これは~」

「驚きすぎだって、アクア」


 地面にひっくり返り、皿から少しはみ出ているブラウンシチューの亡骸を見降ろしながら、アクアカレンは魔王族では見せないような大粒の涙をボロボロと流す。


 それを地面に落として円状のシミを作りながら見降ろしているアクアカレンを見て――セスタはそれを見てアクアカレンの頭を撫でながら驚きの声を上げると、ノゥマは冷静に突っ込みを入れながらアクアカレンのことを見つめる。


 二人の言葉を聞いたとしても、アクアカレンの雨が止むことはない。そんな光景を見てか、シャイナは溜め息交じりに立ち上がり、そしておかわりが置いてあるその場所に向かうために足を進め、アクアカレンが落としたそれをそっと拾い上げると――彼女はアクアカレンのことを見ずに呆れるような音色で……。


「そんな小さいことでいちいち驚かないでよ。すごく疲れるし、そんなに泣かれてもまずくなるから、洗ってから新しいものもってくる。だから泣かない」


 と言った。


 シャイナの不器用な言葉を聞いて、アクアカレンはえぐえぐと泣きながら鼻をすすり、シャイナの背中を見ながら彼女は頷く。


 そんな光景を見て、モナは心の中でシャイナのことをお姉ちゃんと思ったのは――モナだけの秘密。


「話を戻すとして――お前とララティラの経緯については分かった。しかしダンはどうなんだ?」

「ああ、ダン。ダンは……」


 シャイナとアクアカレンの行動をよそに、ダイヤはエレンに向かって続けて質問を続ける。ダンは一体どこで知り合ったのか。それを聞くと、エレンは未だにがつがつと食べているダンのことを見て、彼は頬を指で掻きながらうーんっと首を捻ると……、重い口を開けるようにエレンは言ったのだ。


「ダンは……、その、ちょっと大学で退()()()()()()()()()()()()()を起こして……、それで、知り合った。うん」

「大雑把な経緯じゃない。何があったのよその時」


 エレンの言葉を聞いたルビィは、珍しく冷静な突っ込みを入れる。しかし、ルビィのその反応は至極真っ当なものであり、エレンの蒼白となった顔の色と、頭を押さえながら項垂れるその光景を見て、誰もが――一体何があったんだろう……。と思いながら聞いていると……。


「せやね……。ダンに至っては本当にあれはひどかったわ。何と言うか……、荒んでいたのかもしれんな。相当ひどいもんやったし……。今となってはいい思い出。とは言えないようなひどい思い出やわ。ダンがここまで変わってくれて、うちらはほっとしとるんやけど……、それでもこの戦闘狂だけは治らへんから、いつかは治そうと思とるんや」

「なにがあったの……? カレッジで……」


 ララティラがそのことを思い出したのか、ほろりと涙を流して明後日の方向を見つめている。その光景を見てノゥマは驚いた顔をしてララティラのことを見ていたが、それ以上の言葉が返ってくることはなかった。


 それはエレンも一緒だが、ダンに至っては聞いていないので、その時大学で何が起きたのかは、三人だけしか知らない過去となってしまう。


 聞こうにも、聞いてしまうと後戻りできないような恐怖を抱えてしまいそうなので、誰もがそれ以上のことを聞くことはなかった……。


 が、エレンとララティラ、そしてダンのことを聞いていたセレネは、自分の横に食べきった食器をことりと置き、その場で体育座りをしてフォスフォに背を預けると、彼女はエレン達のことを見て羨ましそうに――


「しかし……、そのような友人がいることは、本当に心強い事でもあり、それと同時にエレン達は互いのことを信頼しているのだな」

「! え?」


 と言うと、それを聞いていたエレンは驚いた顔をしてセレネのことを見る。


 ララティラもエレンと同じような顔をしていたが、ダンは口にべっとりと食べたそれをつけた口でセレネに向かって豪快に……。


「おお! お前よくわかっているな! ああ! そうだな! 俺達はもう信頼しきっているぜ!」


 と言うと、それを聞いていたガーネットが拳を構えそうになるが、それを隣にいたルビィがその脳天に正拳をついて静止をかける。


 ごんっ! という鈍い音が聞こえると同時に、ガーネットは唸る声を上げながら頭を抱えてその甘座り込む。相当痛いというそれが分かる様な痛がり具合だ。


 そんな光景を見て、渇いた笑みを浮かべていたボジョレヲは、すぐにその顔を優雅な笑みに変えて、エレンのことを見るとボジョレヲは納得したような音色でこう言ったのだ。


「信頼しきっている。と言われていますね。エレンさん。あなたはただのきっかけで仲良くなったと言っていますけど、他の人にとってすれば、あなたの言葉一つで救われた人なのかもしれません。ララティラさんもダンさんも、あなたと出会ってから人生が変わったと言っても過言ではありません。いうなればあなたは恩人みたいなものです」

「大袈裟だと思うんだけど、俺は本当のことを言ったまでで。恩人なんて大層なことはしていない。当たり前なことをしたまでだって」

「大袈裟ではありません。更に言うと大層なことをしていないわけではありませんし、当たり前だと思っていてもそれを聞いた本人達からして見れば当たり前ではありません。あなたが当たり前だと思っていたその本当のことを言ったからこそ、今があるんだと思います。そしてその偶然のおかげで、あなた達の人生が今に向かっているとなれば、それはもう運命なのではないのでしょうか? その運命を作ったのはあなたで、その運命と共に歩もうと、ララティラさんとダンさんは救われたあなたに対して恩を返そうとしている。私はそう思いますけど?」


 しかし、なんとも素敵な友情ですね。妬みそうなくらいの友情です。


 その言葉を聞いて、エレンは驚いた顔をしてボジョレヲのことを見ると、その近くで座っていたルビィもうんうん頷きながら「そうよねー」と言って、ボジョレヲの言葉に納得の意を見せる。


 誰もがうんうんと頷きながらエレンのことを見ていると、エレンは何が何だか理解できないような顔をして首を傾げてしまっている。しかしそんなエレンのことを見て、ララティラはにっと、意地悪そうな笑みを浮かべて「ふふ」と微笑み、ダンはエレンのことを見て「がはは!」と笑っていた。


 二人とも、そんなエレンのことを見てまんざらでもない。いいや……、そう言ってくれたことに対して、嬉しいと感じているような顔で……笑っていた。


 ボジョレヲの言った通り、エレンに対して救われたことを感謝しているような笑顔で。


 確かに、ボジョレヲの言った通り――偶然と言う言葉はこの世界にいくつも散らばっている。


 その偶然のおかげで人の人生が変わることもいくつかあるのだ。


 確立としては数万分の一に相当するような偶然の中でも、エレンはララティラ、そしてダンと出会い、そして交友を深め合うことで、固い固い信頼を結び、そして今でもその信頼は壊れていない。むしろ固くなる一方だ。


 その信頼は――絆はララティラ、ダンにとってすれば、救いの糸なのだ。


 コンプレックスと思っていた方便を、関西弁を可愛いと言ってくれたエレンに。


 荒んで、退学騒動にまで発展しかけた己の行いを止めてくれたエレンに。


 二人は――感謝しかなかった。感謝を耐えても伝えきれないほど、二人は心では感謝をしていた。その感謝も今となってはそれと同時に混ざり合ったものが勝ってしまい、現在に至っているが……。


 だから二人はエレンと一緒にいる。一緒にいて、これからもずっと、おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいようと思っている。そのくらいエレンには感謝している。感謝しているからこそ二人はエレンと一緒にいて、恩返しと言わんばかりの交流を深めているのだ。


 ボジョレヲの言った通り……、妬みそうなくらいの友情だ。


 いや――固い絆だ。


 そんな彼らの絆を見てセレネもボジョレヲも……、いいや、この場にいる誰もが思っただろう。





 彼等の絆を断ち切るものは――誰もいない。と……。





「ふぅ」


 そんな彼らの絆を垣間見たボジョレヲは背筋を伸ばすように胡坐をかき、そして溜息を吐きながら夜空を見上げる。


 黒い空にはいくつもの星と半月が辺りを微かに照らしている。


 その光景を見て、エレン達の絆を垣間見てボジョレヲは思った。


 あの二人に、エレン達のような絆があるのか。と。

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