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PLAY83 キモチ③

「私が提示する罰は――彼を私達、『ローディウィル』の一員に加入させることです。しかも、私と言う監視者の元で、ずっと――ね?」


 ボジョレヲの言葉を聞いたレン達と鬼不神、そしてハクシュダは驚いた顔をしてボジョレヲのことを見ていた。


 ボジョレヲはそんな彼等の驚きの顔を見てくすりと微笑みつつ、鬼不神に向かって更に自分の提案が降りるように続けてこう言ってきたのだ。


「驚くのは無理もありません。しかし……、私が言っていることはあながち間違いではないと思いますよ? 処遇と言う言葉であれば……、間違いではない。一種の正解と言っても過言ではあまりません」

「正解? この男にとってあんたが言っている処遇はもっともな処遇でもっともな罰とでも言いたいのかい?」

「何度でも言いましょう。はいそうです」


 ボジョレヲは言う。


 さも平然とした顔でにこやかに言い、且つ断言するような顔をしながら言うボジョレヲに対して鬼不神は首を傾げつつ彼の言葉に耳を傾けると、その言葉を待っていましたと言わんばかりにボジョレヲはにこりと営業のような笑みを浮かべつつ彼は言ったのだ。


 なんともはっきりとした音色で、乱れも何もない不動の心をその笑みの中に隠しながら……。


 ボジョレヲは続けてこう言った。


「処遇と言うものはいうなればその人が最も嫌だと思うことをやらせる。簡単な話罰ゲームの過激版……、と言っても過言ではないと思います。昆虫が嫌いで嫌いで仕方がない人、潔癖があって仕方がない人には――最もいたくない森の中や虫がたくさん出そうなところで伐採をさせる。他にも色々とあると思うのですが、たくさんありすぎますので今日のところはこの辺にしておきます。そのことを踏まえて、処遇と言うものはその人にとって最も重いものにしないといけないと私は思いますよ? その人が思い描く処遇を与えてしまえば……、罰になる苦しみではありませんよ?」


 ボジョレヲのことを聞き、鬼不神は喉を鳴らしながら頷くように見つめる。


 無言になりながら鬼不神はボジョレヲのことを見てこう思っていた。


 ――この男、何かを企てている……? 


 ――いったい何を企てているのかはわからない……、なわけないか。この男が企てることは十中八九、この()()シュ()()()()()()()()()


 ――この男は元バトラヴィア帝国を支配していた帝王に加担していた一味の一人だけど、種族としては私と同じ魔王族の血を引いた人間。いいや亜人。亜人と言えど魔王族の血を引いている奴なんて稀に見ない存在だ。


 ――私自身薄い血を引いているとはいえ、魔王族の亜人を殺すようなことは本当は躊躇いを感じている。だが処罰は絶対。


 ――が、こいつは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――なんとも姑息なことをする。やはり冒険者の中には曲者もいると思ったほうがいいのかもしれない。


 ――けどね。そこまでこの世は甘くない。お灸を据えてやろうじゃないか。大人げないかもしれない。魔王族にとってすればこんな餓鬼赤ん坊ほどの歳。この王都で最も強い私に歯向かったという大失態を、その身に刻みな。


 確かに、鬼不神自身大人げないかもしれないと思うであろう。


 しかしそれでも彼女にも気位――プライドと言うものがある。


 全盛期の時は確かにヘルナイト以上の強さを持っている最強の名を持っていた魔王族。


 しかし今となってはその最強の名はヘルナイトに渡してしまっているのでその名を使うことはない。だが、それでも手が劣ったとは思わない。むしろ今でもその力は健在だと思っている鬼不神。


 ゆえに彼女自身老人と見ているボジョレヲに対して少しばかり怒りを覚えると同時に、こんな餓鬼に対して先をとられるわけにはいかない。むしろこのまま相手の流れに乗るわけにはいかない。相手を逆に自分の流れに乗らせよう。


 そう思った鬼不神は、無言になりつつもボジョレヲのことを見て、静かに次にかける言葉を考える。


 貴婦人とボジョレヲの静かな言葉の攻防戦……、と言うよりも、舌戦の様な光景を見ていたボルド達は、おどおどとしながらその光景を凝視し、どちらが勝つのだろうと思いながら静観していた。


 静かに、ただならない雰囲気をその身で受け、つぶれないように気を常に張りながら……。


「ね、ねぇ……、あれ、どうなるんだろうね……」


 この空気に対して耐性も何もない。どころかこの空気に耐える様なメンタルもないボルドは、だいぶ前に鬼不神の手によって殴られ気を失ってしまったギンロのことを横抱きにして抱えながらその光景を震える子犬のような目で言うと、その光景を見ていたダディエルは頬を伝う冷や汗を手の甲で拭わないまま彼は言った。


 ボルドのことを横目で見つめて――彼は言ったのだ。


「知らねえよ。と言うかそんなこと俺に聞くなって。なんで聞いたんだよ」

「だ、だって……、ダディエル君って暗殺者の家系でしょ? だからこう言ったことって日常茶飯事だと思っていたから……」

「あんた暗殺者に対して偏見持ち過ぎだろ。あとギンロを横抱きにすんな。もう一回卒倒するかもしれねえぞ?」

「え? ええ?」


 ダディエルの言葉を聞いていたボルドは、驚きよりも悲しさが勝っているような包帯の顔でダディエルのことを見つめながら力ない声を零した。


 明らかに……、ダディエルの言葉に傷ついた顔をしながら。


 しかしその光景を無視しつつ、メウラヴダーは隣にいる戸惑いを見せているレンのことを横目で見ながら、彼は言った。


 冷静で、その中に含まれる真剣さを出しながら、メウラヴダーは言ったのだ。


「なぁ――あれ、どう思う? レン」

「………正直」


 と言って、レンはメウラヴダーのことを見ずに、戸惑いを見せながらレンは言葉を零す。


 その音色に含まれる困惑、悲痛、そして希望を抱くような混沌とした音色を出しながら、レンはメウラヴダーのことを見ずに、ボジョレヲと鬼不神のことを見ずに……、鬼不神の背後にいる――同じように困惑しているハクシュダのことを見ながら、彼女はか細い音色で彼女は言ったのだ。


 心の本音を――


「――混乱しています。と同時に、ボジョレヲさんの言葉が勝ってほしいという気持ちと、ハクシュダの気持ちを汲み取ってほしいという気持ちが混ざって……、なんだか、変です」

「………………」

「私自身、ハクシュダには戻って来てほしいからボルドさん達と一緒に直談判したんですけど……、結局折られてしまう結果になりましたけど、何でしょうかね……。うまくまとめることができないんですけど、この結果を見届けたい……って思ったんです」

「見届ける? 何もしないでか?」

「何もしないと言うか、何もできない。何かをした結果逆転負けになっちゃったから、何もできないだけで……。って、なんか言い訳がましいですよね? でも、正直な話、鬼不神さん相手に言葉で勝つことはできないなーって思っちゃったんです。私達」

「そうか……、なんかしれっと俺達に対してのディスりも入っていたけど、そこはスルーしておくとするよ」

「だから、ボジョレヲさんの言葉が通っても通らなくても、しっかりと受け止めようと思います。もちろん――通ったらすごく嬉しいですよ? でも、通ったとしても、通らなかったとしても、永遠の別れじゃないから、私は何があったとしても――受け入れようと思った。それだけです」

「そう、だな」


 そう言いながら、メウラヴダーとレンは再度、ボジョレヲと鬼不神の重みがあり、圧がある様な会話を耳を傾ける。


 そんなレン、メウラヴダー、ボルド、ダディエル、気を失っているが一応ギンロのことを無視しながら、ボジョレヲは鬼不神に向かって言う。


 笑みを絶やさず、張り付けているような顔で彼は言ったのだ。


「なるほど、あんたの言っていることも一理ある。けどこの処遇を決める権利を持っているのは――私にあるんだよ? あんたのような一介の冒険者風情がそんなことを言って良いと思っているのかい? もしそんな無礼な発言をこれ以上すれば……、あんたや先ほど直談判をしたそこの数名にも、多少の処遇を与えるかもしれないよ……?」


 それでもいいのかい? 


 そんなことを言って、鬼不神はすっと睨みつけるようにボジョレヲのことを仮面越しに見ると、その睨みを感じたのか、ダディエルたちはぎょっと目をひん剥かせながら驚き、ボジョレヲはそれを聞いた瞬間、今まで張りつめていたその笑みをすっと消し、無表情で鬼不神のことを見つめる。


 否。ボジョレヲの場合、無表情ではなく……、緊張を張り巡らせたと同時に、表情金が強張ってしまったかのような顔と言ったほうがいいのかもしれない。


 鬼不神はそんな彼らの顔を見て、内心呆れを見せながら内心――やっぱり、一端で口先だけの冒険者だね。と思いながら、続けて鬼不神は思う。


 ――人間は己の身に危険が迫ると、他人を蹴落として己の命を優先する。


 ――いうなれば保身の権化になるということ。


 ――結局、こいつ等は口先だけでこの男のことを助けようと言ったが、本心は自分が可愛すぎるんだ。どんな性格を持ったとしても、どんな人格者であろうと、冒険者と言う存在は――自分が好きな輩まみれと言うこと。


 ――結局、と言うことか。


 そう思いながら、鬼不神はもう終わっただろうと思い、ハクシュダの方に目を向けるように踵を返そうとヒールの鎧の足を動かし、『かつんっ』と音を鳴らしながら動こうとした――


 ――瞬間。



「おやおや。そんなことを言ってもいいんですか? そんなことをしてしまえば――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



「!?」


 突然だった。


 突然ボジョレヲの声が背後から――いいや、彼女から見て、左耳から入って脳内に入る様な声が聞こえると同時に、鬼不神はボジョレヲがいるであろうその方向……、左を見るために首だけを動かしな柄彼女はボジョレヲのことを見た。


 ボジョレヲは鬼不神のことを見ながら――くすりと、先ほどと同様の張り付けたかのような整った笑みを浮かべている。


 その顔を浮かべると同時に、ボジョレヲは言ったのだ。


 鬼不神に向かって、絶対に自分の言葉に状況が転じる様な言葉を、彼はかけたのだ。


「貴女達は私達に対して協力を申し込んでいますよね? 一応同盟と言う形で……、ですが」

「同盟……。確かに私達は、『創成王』はあんた達に対して協力を提示した。私達アズールの国民が何百年もの間成しえなかった『終焉の瘴気』を消すこと、そしてその『終焉の瘴気』によって侵されてしまった『八神』の浄化を、あんた達冒険者……、いいや。一人の天族の冒険者と馬鹿な弟子の力によってどんどん浄化することができている。何百年もの間の苦労があっという間に四体も。何もできないからこそ私達はあんた達の脛にしがみつくことしかできないのは確かな話だよ」

「でしょ? でしたら――その冒険者の要望でしたらその要望に従うのか、あなたたちがするべき行いではないのですか? 多少我儘に聞こえるかもしれませんが、()()()()()()()()()()()()()()()

「………まさか、あんたが考えていることと言うのは、その戦力に対してのことかい?」

 

 ボジョレヲの言葉を聞いた鬼不神は、はっと息を呑むように言葉を零すと、ボジョレヲはそんな彼女のことを見てふっと、勝ち誇ったような笑みを浮かべると同時に、ボジョレヲは鬼不神に向かって畳み掛ける言葉を言う。


「ええ。見ての通りと言いますか、聞いた通りと言った方がいいでしょうね。私達ローディウィルは六人いるところに五人しかいないチームです。ほかのところは六人と言うのに私達だけは五人のチーム。魔王族のアクアカレンさんがいますけど、それでも人数が多いと何かと便利でしょう?」

「アクアカレン……。深海魔王族の出来損と言われている餓鬼のことかい……?」

「ええ。ですがすぐに訂正をお願いいたします。彼女は出来損ないではありませんよ。彼女は彼女なりに頑張っているのですよ? そんな努力をするお方に対して出来損ないはいけない言葉です。訂正をしてください」

「ほぉ……。努力ね。まぁ訂正なら後でするよ。でも今は目の前の宣言に対しての詳細をお願いしようか。それが終われば、しっかりと訂正をしよう」

「そうですか。そのお言葉――忘れませんからね。さて、話を戻しますと……、私達のチームは事実上もう一人の戦力が必要なのです。もちろん……、ワーベンドにも必要なんです。彼らの必要な遠距離の物理攻撃と、私達に必要な属性の遠近両用の攻撃が。そして、レンさんと言う存在を守る存在が、必要なんです」

「レンに? あそこにいる楯天使の小娘に?」

 

 ボジョレヲの言葉に首を傾げ、はてはて? といわんばかりに首を傾げてレンのことを横目で見つめる鬼不神。鬼不神の目つきに驚きつつも直立を維持しようと背筋をぴーんっと伸ばすレンの心は混乱の嵐だ。


 なんでボジョレヲはあんなことを言ったの? なんで私がここで突然出るの? そんなことを思いながらレンは二人の会話に耳を傾けると、ボジョレヲはそんな彼女のことを横目で見つつ、ふっと微笑んだ後……、鬼不神に向けて視線を移す。


 ………………否。彼は鬼不神のことを見たわけではない。


 彼女の背後にいて、そして驚きの顔を浮かべたまま固まっているハクシュダのことを見て、ボジョレヲは微笑んだのだ。


 その微笑みが表すものは何なのだろうか。それはハクシュダでもわからないし、長い間一緒にいたレンでも、ボルドでも、ダディエルでも、メウラヴダーでもわからない。


 唯一わかるのは――その思考をしているボジョレヲだけ。


 ………もしかすれば、この場にセスタがいれば、なんとなくだがボジョレヲがこの時考えていたことをいち早く理解したかもしれない。


 そんな状況の中、ボジョレヲは鬼不神に向かって続けてこう言う。


「そうです。ノゥマと言う私達の仲間が彼女のことを守っていますが、それでも守りと言うものは強固の方が安心するでしょう? バリケードも更なる硬いものすれば、もっと安心でしょう? それと同じで、私達には守りがもっと必要なのですよ。この仮想空間(世界)で最も貴重な存在でもある彼女のためにも……。ね?」

「…………確かに、メディックは希少だ。この国でもそんな高度な技術を持った輩はそんなにいないが、だからあんたは要求したということかい? そこにいる女を守る存在として、ここにいるハクシュダを自分たちのチームに入れろと」

「はい。そうです」

 

 鬼不神はボジョレヲに向かって言う。


 ボジョレヲが企てた策――レンを利用して、ハクシュダを自由の身にする。もちろん……、信用もできないだろうから自分たちのチームに入れてボジョレヲ自身が監視役として彼を見る。


 これがボジョレヲが企てた策。付け焼刃程度の策でもあったが、その策をもっと強力なものにするために、ボジョレヲは張り付けているような笑みを浮かべながら彼は鬼不神に向かって言った。


 これで仕上げ。そう思いながら――彼は言ったのだ。


 ボルド達にとっても、鬼不神に取っても衝撃的な言葉を。




「もし、この要件を呑まなければ――私達ローディウィルは()()()()()()()()()()()




『――!?』


 ボジョレヲの言葉を聞いたレンは目を見開いてボジョレヲの背後を見て、鬼不神はそんなボジョレヲに言葉に驚きを見せながら顔を正面に向ける。


 ……そんな二人以上に驚いているボルド達三人を無視して、鬼不神は突然の発言をしたボジョレヲに向かって、驚きを見せる様な困惑の音色を少しだけ出しながら彼女は言った。


 伊達に『12鬼士』最強の名を己がものにしていた女。


 感情を隠すことはお手の物である。その面持ちを隠しながら彼女はボジョレヲに向かって言った。


 その言葉は――訂正を促す言葉。


「何を言っているんだか……。そんなことをすればこの世界がより一層闇に染まってしまう。鎮魂魔王族のジエンドが発動した『闇永の息吹』の力が強まってしまう。その前に対処しないといけない」

「ですが――その件に関しては私達には関係のない話です。結局は協力を無理矢理煽ったあなた方の策略でしょう? その策に乗らない。そう言っただけのことですよ?」

「……………………っ」

「そうなってしまえば――あなた方にはデメリットしかない。そうなれば、デメリットを避けるために私の要望を聞くほかに選択肢はない。結局のところ……、私の要望を聞くほか選択肢はないということです」


 どうしますか?


 そうボジョレヲは鬼不神に向かって聞く。まるで悪人が善人に足して嘲笑うように言う音色で。


 確かに、ボジョレヲの言う通り鬼不神には彼らに対してデメリットしかないのは事実なのだ。


『創成王』はこの国の――アズールの危機を何とかするべく、急速な勢いで浄化をしたハンナ達。そしてそんなハンナ達と一緒に行動し、浄化の下端をしたチームを一つにして――巨大徒党を結託させた。


『創成王』の提案の元、彼らの承諾を得て――この巨大徒党が一時的だが出来上がった。が……、その巨大徒党にも大きな脆い弱点があるのも事実。


 その脆い弱点とは……、彼らの意思である。


 彼等の意思。


 つまりは冒険者視点の意思でもあるが、それがなぜ弱点になるのかと言うと、彼らは『創成王』の提案をもとにここに集まった。が、()()()()()()と言うことである。


 逆。


 逆ということは、彼らが『創成王』の提案を承諾しなかったという違う未来の道のことを指し、その逆を道……、つまりは徒党を離脱をしてしまえば、大きな弊害になるかもしれないのだ。


 大きな弊害が一体何なのかは、今の鬼不神にはわからない。もしかしたら巨大な徒党で一つの徒党が無かったら成しえないことが起きるかもしれない。保険のようなことだが、戦力は多い方がいい。何よりレンと言う存在を失うわけにはいかない。


 そう思った鬼不神は、ボジョレヲの言葉を聞いて、一旦考えた後――彼女はくるりと踵を返してハクシュダに視線を移した後、彼女はハクシュダに向かってゆっくりとした動作で歩みを進めながら彼女はボジョレヲたちに向かって言った。


 音色こそ威厳を持っている冷静な音色だが、心の中では――少しばかり侮ったことに対して自分に対して呆れながら、彼女は言う。


 ――ちょっとばかし、油断したね。まさか曲者がこんな近くにいたとは……。そんなことを思いながら――彼女は勝ったような笑みを浮かべているボジョレヲに向かって言った。


「……処遇に関して、改めて考えてみるよ。あんたたちの意見も取り入れながら――」

「! ちょっと待てっ!」


 そんな鬼不神の言葉に対して反論をしたのは――ハクシュダだった。


 ハクシュダは今の今まで黙っていたが、鬼不神の言葉を聞いて声を荒げながら怒鳴る。


 納得がいかない。


 そんな感情を剥き出しにしながら彼は言った。


「なんでこいつらの意見を取り入れるんだよっ! 俺は自分が犯した罪を受け入れるって言ったんだっ! それを無駄にされちまったら俺の気が済まねえんだよっ! なに勝手に変えようとして――」

「黙りな青二才」

「――っ!?」


 しかし、ハクシュダの怒りと真剣な叫びを無視して、鬼不神はハクシュダの胸ぐらをぐっと掴み上げながら、顔をぐっと近づける。


 胸ぐらをつかまれたせいで、ハクシュダは突然衝撃と首の後ろに起きた衝撃を覚えながら、鼻の先同士がくっつくくらいまで近づけられた鬼不神の顔を見る。


 鬼不神はそんな彼のことを仮面越しで鋭い眼で睨みつけながら――彼女は言ったのだ。


 今まで聞いたことがないような、低く冷たい音色で……、鬼不神は言ったのだ。


「あんたの己に対する罪の意識は評価する。けどね、断固としてそれを行ってほしいというと話が変わってしまう。それは我儘だ。我儘が通るほど甘くはない。さっきはあんたの誠意にのまれそうになったが、状況が変わった。処遇はのちに知らせることにする」

「…………っ! んだよそれ……、結局、自分の国のために、都合のいいように解釈しているだけじゃねえか……っ!」

「ああ、そうだね。事実私はあのエルフの男の言葉を聞いたとき、国のことを考えた、デメリットを回避することを優先にして考えた」

「……………………」

「結局――何の接点も何もなく、且つ手段で行動する輩は表場は仲良く見えて、結局は利害の一致が崩れてしまわないように取り繕っているだけ。何が言いたいんだって顔をしているね。わかりやすく、あんたのような単細胞な頭でもわかるような言葉で言おうか」

 

 鬼不神は言う。ハクシュダの目を見つめ――彼の目に刻まれている魔王族の目を見つめながら、彼女は言った。


「私も、あんたも、あいつも――結局は自分勝手なんだよ。自分の都合のいいように言葉を並べて、思い通りに行くために言葉巧みに人を動かそうとする。だから私は崩れないように身を引いた。そしてあんたの処遇もあんたの思い通りにさせないように阻止した。結果として――あのエルフの男の策略負けを塗ってしまった」

 

 それだけのことさ。


 そう言って鬼不神はすっと流れるように立ち上がると、目を点にして無言になったまま固まっているハクシュダの首根っこを掴んでどこかへ連れていこうと歩みを進める。


 ハクシュダの目は固まった状態で茫然としているが、絶望と唖然が混じっているような茫然とした顔をしながら、彼は鬼不神のされるがままになる。決して自分が考えた処遇以外を受けることを拒んでいるわけではない。ハクシュダは自分が無意識に思っていたことに対して、愕然としていた。


 自分の都合のいいように動かそうとしたその気持ちに、その怠慢に、頑固なハクシュダが愕然としたのだ。


 まさか……、自分がそこまでたるんでいたとは……。


 ハクシュダ自身愕然としながら動く気力も、喋る気力もない状態になり、そんな状態になってしまっているハクシュダを肩を掴み、そのまま引っ張るようにそのままその場からどこかへ行こうとする光景を見ながらボジョレヲは張り付けた笑みを浮かべている。


 ボルドとダディエル、メウラヴダーと、やっと目を覚ましたギンロはそんな鬼不神の背中を見ながら、今まで起きていたことがまるで幻であったのかと思いながら鬼不神の背中を見つめている。


 ギンロに至っては……、目と頭の上に疑問符を浮かべながらきょとんっとしながら唇を赤ちゃんの口にして……、「うぇぁ?」と素っ頓狂な声を上げていた。


 これぞ――知らない間にすべてが終わったと言う光景。


 そして……、レンは鬼不神に引っ張られながら姿を消してしまうハクシュダに向けて手を伸ばすレン。思わず、彼女はハクシュダに抜けて手を伸ばしたが……。


 現実上――届くことはないのだが、それでもレンは手を伸ばして、伸ばすと同時に突然不自然なところで手を止めて、開ていたその手を少しずつ丸め、そして弱々しく握ったり開いたりを繰り返すと……、レンは伸ばしたその手を、そのままゆっくりとした動作で――そっと下す。


 ぶらんっと、力を失ったかのように、その手を下ろして……、レンはハクシュダの背中を見つめる。


 レンのその顔を見ていたボジョレヲは彼女から視線を戻して、彼もレンと同じようにハクシュダの背中を見つめながら言った。


 はっきりとした音色で――優しい音色で。


「大丈夫です。きっと彼ならどんな罰でも受け入れて、戻ってきます」

「!」


 ボジョレヲの言葉を聞いたレンは、はっとしてボジョレヲんことを見るが、ボジョレヲはそんなレンのことを見ずに、レンの顔を知っているかのような言葉で、彼は優しい音色で続けてこう言ったのだ。


「だから――信じた方がいいですよ。大切な人なんでしょ?」

「っ。うん」


 その言葉を聞いたレンは、ボジョレヲのことを一瞬見たが、すぐに視線を下に移して、そのまま俯きながら頷く。


 心の中で、彼が戻って来てくれることを信じながら……。


 そして、ボジョレヲはそんな彼女の希望に満ち溢れた笑みを見降ろしながら、彼は『ですがね――レンさん』と、レンの名を真剣な声で呼び、見上げるレンのことを見降ろしながら、彼はレンのことを冷たく見降ろして言う。


「あなたは確かに彼のことを想ってしたかもしれません。ですが鬼不神さんは言っていることは概ね正しいです。逆を言うと、レンさん達が間違っているかもしれないと言いたいのです。ですが私も人。そしてローディウィルのリーダー。その気持ちに対して、私はただ便乗した、背中を押しただけです。ですので彼の後のことは、()()()()()()()()()()()()。いうなれば――丸投げします」

「? マツハゲ?」

「マルハゲではなくマルナゲです。丸投げ。そんなシュールな間違いは誰も求めていませんよ? 私はこう見えて真剣です。これはあなたたちが言ったことなんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。人の気持ちを一度踏みにじったのです。その修復は、あなた自身がしなさい。いい歳して人任せにしないでくださいね」



 ◆     ◆



 これが――ハクシュダの処遇を変わってしまった原因の一部始終。


 そして、ハクシュダがローディウィルに入る原因となったきっかけでもあり、それと同時にハクシュダがなぜか変わってしまった原因でもあった。


 理由はもう明白であろう。


 ボジョレヲの言葉が無ければ、自分は自分の罪を償うことができははずだ。なのにそれをさせないどころか、自分が深く傷つけてしまった人と一緒に行動することになってしまった。


 これでは自分に対する罪滅ぼしにならない。どころか自分だけ優遇になっただけの結果になってしまった。処罰されるどころか、浄化に加担したチームの一員になって、レンを守るように言いつけられる方向になってしまった。


 ボジョレヲにとってすれば計画通りかもしれないが、ハクシュダにとってすれば――拷問に等しかった。


 否……、拷問ではない。ハクシュダにとって、今レンと一緒になることは……、いやだった。それだけ。


 なぜ守りたい存在と一緒になることが嫌いになったのか?


 それはもう簡単な理由だ。


 ハクシュダは、確かに彼女のことを守るために『バロックワーズ』に入って、彼女のためにその手を赤く染めたり、聞きたくないことをして彼女の命の保証を約束されていた。レパーダによって。


 しかし、それもレパーダがいなくなればそれはそれでいいのだが、それでハクシュダの気持ちがストンッと元の鞘に収まればよかったのだが、彼の性格が頑固者。ゆえに彼は思ったのだ。


 自分のせいで傷つけてしまった。最も傷つけたくない心を傷つけてしまった自分に、レンと言う大切な人を守る資格も、抱きしめる資格もない。


 だから――彼女の隣にいることは、罪なのだと。


 そう思っただからこそ、彼は離れる決意を固めたのだ。


 それが……、ハクシュダにとって最も重い処遇。になるはずだった。ボジョレヲの策略によってそれも無駄に終わり、ハクシュダはローディウィルの一員になったのだ。


 ゆえに彼は現在のような状態になってしまったと言うことである。


 自分のことをローディウィルに入れたボジョレヲのことを少しばかり恨みつつ、レンと極力避けるようにしながら……。


 ――復習終了。



 ◆     ◆



 ――それから現在に時間を戻し……。

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