PLAY08 昔話ととある男④
それを見たアキにぃは、それと、気絶しているその人を見て。
「となると……、この人も俺達と同じぷ……っ。冒険者ってことか……」
と、一瞬だけ『プレイヤー』の言葉を口に吐き出しそうになったけど、すぐに訂正の『冒険者』の言葉を吐きながらさっきまで敵だった人のことを見下ろす。あの時の銃の操作を思い出したのか、呆れた顔をして。
だけど……。
「てか、このおっさんがな……、一人か?」
そんなアキにぃとは対照的にキョウヤさんはしゃがんで、その人の左腕を指でとんとんっと優しく叩きながら言う。
首を捻りつつ頭の中で考察をしながら……。
それを聞いて、私は正直に「わからないですけど……」と言った後、三人に向けて「起きたら聞いてみますか?」と聞く。
それを聞いた三人は即答と言わんばかりに頷く。
するとその時はすぐに来た。
カッと見開かれる眼。それは落ちてきた人の目。血走った目と白目が目立つその目をカッと見開いていた。
落ちてきた人は目できょろきょろと辺りを見回し、そして私達を、特に私を見て……、ガバリを起き上がった。
ぎょっと驚く私達。
落ちてきた人は私をじっと見て……、小さい声でこう言った。
「な、なんて……」
「?」
落ちてきた人は私を見て、まるでこの世の救いの使いでも見たかのような、清々しい笑顔で、私に手を伸ばして……。
「なんて……、きれいな天」
「おう変態。 俺の妹に触るなよ……」
と思ったら、アキにぃはその人の額に銃口を突き付けていた。しかもどすの利いた声で……。
それを見たその人は、大胆に驚きながら「ぎゃあああああっ! 待って待って! わかりました! もう触りませんっ!」と、両手を上げながら手を引く。
アキにぃ怖いよ……。怖い……。
「アキ……。なんか、キャラ変わった?」
そうキョウヤさんは、驚きながらアキにぃに聞いていたけど、アキにぃはそれを無視して……、銃口を突き付けているその人に聞いた。
自分のバングルを見せながら……。
「お前……、何者だ?」
そう低く聞くと、その人は驚きながらも、アキにぃのバングルを指さして「あ! お前それ!」と言いながら、その人は自分のバングルを見る。そして、私達と、ヘルナイトさんを見て……。
「そ、それはこっちのセリフだっ! というか、何でENPCのヘルナイトがここにいるぅ!?」
と、驚きながら指をさして叫ぶ。
ヘルナイトさんはきょとんっとしながら「いー、えぬ、ぴーしー? なんだそれは? 異国の言葉なのか……?」と顎に手を添えて考える。
そんなヘルナイトさんの声を聞いたその人は「しゃべったああああっ!?」と、素っ頓狂に驚きの声を上げる。
それを聞いていたキョウヤさんは、うんざりしながら頭を掻いて、「めんどくせー」と言いながらその人に聞いた。
「お前さ、さっきオレ達を襲おうとしたよな? それなら、今この状況なら、あんたの方が不利だろう?」
キョウヤさんがその人に向かって言うと、その人は、ついさっき行ったことを思い出し、そして私達をもう一度見る。今度は……、やばい。これはやばいという、恐怖と混乱が混ざった顔で、だ……。
私はその人に言う。
「あの……、せめてお名前だけ教えてください。その人だと、呼びにくいですし……」
しょっちゅう『その人』というのも、失礼だし。
そう思って私は怖がっているその人を落ち着かせるように、控えめに微笑むと、その人はにまーっと顔の筋肉が緩んだかのように崩れる。
私はそれを見て、なんだろうと思ったけど、その人は私の背後を見た瞬間、ぎょっと驚いて、「あああああっ! そうだったな!」と、勢いよく立ち上がって、その人は言った。
豪快に、ポーズをとりながら。
自分の親指で指さし、サムズアップをしながら、ニカッと白い歯を見せつけるように、その人は言った。
「俺は、通称『孤独の探検家』! 幾万の大冒険を積み重ねた男! 凶悪な猛者達を束ねる……ナイスガイッ! 人は俺を『ダンディワーカー』と呼ぶ! そして、俺の名は……ゴロクルーズッッッ!」
私達はその人――ゴロクルーズさんを見る。
顔を見て……。そして……。
だんだん視線を下にして、寝ていた時は気付かなかったけど……。ううん、気付いていた方がよかったのかもしれない……。
私達は、ゴロクルーズさんのお腹のところを見て……。黙ってしまった。
本人は、華麗にポーズを決めているのに……、なんだろう。それを言うことが、急に恐ろしくなってきた。
すると――ゴロクルーズさんを見ていたヘルナイトさんは……、申し訳なさそうに言った。
「その言葉は、真で、いいんだな」
「そうとも!」
そう言って、力強く肯定するゴロクースさん。あれ?
すると、ヘルナイトさんは今ちょうど、私達が見ているところを見て……。
「……そのお腹で、か……?」
「あ、あ? あ……、あぁ……」
ゴルクースさんはギクッと強張らせながら、だんだん覇気が無くなっていく声音で、肯定した……。
その場所……、それは腹部で、お腹がまるで、妊娠のような張り具合のお腹で、私達はそれを見ながら驚いて声が出なかったのだ。
それを見て、ヘルナイトさんは聞いたんだ。すごい勇気……て。あれれ? 名前違うような……。
□ □
ゴロクスーズさんは私達を見ながら、腕を組んで、その腕をお腹に乗せるようにして、聞いた。
……なんだろう、違う気がする……。
「君達も同じプレイヤーか?」
「そうっすけど、今は冒険者で通してほしいっす」
「おっと、失礼」
キョウヤさんの言葉を聞いて、ゴロクリーズさんは手を上げて謝礼する。
……、やっぱり、変な気が……。
「俺も君達と同じ冒険者なんだ。そして、この先の『緑の園』で、とある特殊討伐クエストを受けている最中でね」
グリウーズさんが言うと、私たちは聞いて、確信した。
この人が、『入国許可証』のクエストを受けた人だと。
聞いている限りだと、まだクエストクリアしていないみたいだ。
それを聞いて、私達は互いに顔を見合わせ、そして――私は聞いた。
「そのクエスト……、すごく難しいんですか?」
「ん? ああ、そうさ。天女の少女よ。すごく難しい。なんでも、『緑の園』に突然現れた魔物で」
それを聞いて、キョウヤさんがゴゴロースさんに詰め寄って聞いた。
……すごく違和感が、というか、さっきも……。
「そのクエストで苦戦してんすか? ゴロケローズのおっさん!」
「あはは。そうなんだ。恥ずかしい話な。というか誰それ」
あれ? キョウヤさんも変だ。
そう思っていると、アキにぃが冷静に聞いた。
「そうなると、俺達の手助けが必要ですか? ソロって大変でしょう? ゴミクソーズさん」
「ははは。君は口が悪いな。というか誰がごみ?」
そんな話をしていると、ゴロクススースさんははたっと何かを察して、そして私達を見て聞いた。
うん。違和感がある……。
「ちょっと待て、なんで俺が受けているクエストのことを、そんな詳しく聞いているんだ? というかなんで一緒に戦おうと促している? そして何でみんな間違えるの?」
そう聞かれて、私達はその言葉に対し、代表として、私が説明した。
すると――
「そうなのか……、君たちも『入国許可証』が……」
うんうんっと頷いて、理解してくれた様子のグルグルースさん。
そしてゴロクルーズさんは顔を上げて、真剣な眼差しでこう言った。
「――だが断る」
「ぅおいっっっ!」
「ここは肯定する場面じゃなかったっけ!?」
その言葉を聞いたキョウヤさんとアキにぃが突っ込む。
私も驚きながら「あらま」と小さく突っ込む。
ヘルナイトさんはそれを聞いて「なぜ断るんだ? 苦戦しているのならば、私達もともに戦う所存だ」というのだけど、ゴロクロースさんは首を横に振って言った。
「残念だが、現実は甘くない。俺と一緒にそいつを倒したとして、それで俺が『はいどうぞ』と、それを渡すと思うか?」
それを聞いた私達の答え……。
きっと全員、イエスだ。
ヘルナイトさんは「ふむ……、確かに。言い分はあっている」と、ちょっと納得してしまっている。それを聞いたゴロクルーズさんは言った。
「俺なら絶対に渡さない。これは、俺が最初に受けたクエストだ。横取りなんて、ご法度同然だぞ?」
そして、と続ける。
「俺は……、アムスノームに行ったら、やらなければいけないことがある……」
それを聞いて、私達の周りに緊張が走る。
ゴロクルーズさんは静かに、緊張している声で言った。
「それは……」
ごくりと、私は生唾を飲んだ。ゴロクルーズさんはすぅっと息を吸って、叫ぶように言った。
「アムスノームにしか売っていない――課金でも手に入らなかった超激レア『レインボーリボルバー』が売っているから、買いたいから、俺は行きたいんだぁっ!」
言い終わった直後――キョウヤさんは槍を取り出し、刃がついていないところで、ゴロクルーズさんのお腹の部分を一気突きした。
あ、今思い出したけど、あの違和感は名前が違うんだ。
ゴロクスーズさんが、本名……。あれ?
また間違えた?
□ □
ゴロクルーズさんを突き飛ばしたキョウヤさんだったけど……、なんだかまんざらでもない様子でそれを見てて、曰く……。
「なんか、すっきりした……」とのこと。
そのことについては、アキにぃも同文だったらしい。
ゴロクルーズさんはよろめきながらも立ち上がって、私達を見て……、震えながら震える口で……。
「わ、わかった……、助太刀……、感謝する……」
「「よし案内しろ」」
「は、はい……」
アキにぃとキョウヤさんの低い声を聞いて、ゴロクルーズさんは震えながら頷く。
「……、これで、よかったのか?」
ヘルナイトさんは私にそう耳打ちをしてきたけど、私は首をかしげて……。
「たぶん。大丈夫です。たぶん」と曖昧に返事をして言うと、ヘルナイトさんはそれを聞いて、ふっと笑って……。
「なんだ。それは」と言った。
それを聞いて、私もくすっと微笑んでしまう。そのあとすぐにキョウヤさんが大声を上げて呼んでいる声が聞こえて、私は慌てて、ヘルナイトさんはその後を追うように走る。
走りながら私達は、幻想的な地層を抜け、今度はその地層に生えているような草木が生い茂っている場所についた。
前にはゴロクルーズさんが。ゴロクルーズさんは私達の方を振り返って、おっかなびっくりになりながら言った。
「こ、ここが、『緑の園』だ……」
その場所を見る私。
草木が生い茂っているけど、そこは本当にジャングルとかそう言った感じの風景ではない。日本の北海道のような、まるで森の妖精が居そうな場所。
緑豊かな一本道だった。
さわさわと草が風に煽られ、音を奏でている。
そこだけ、別世界のように見えたのは、私だけだろう……。
すると、その奥の道から、ざっと、足音が聞こえた。
私達はその向こうを見て、身構えてしまうけど、ゴロクルーズさんは手を上げて、おずおずと……、「あ、あれは大丈夫」と言って、目の前から歩いて来る人に声をかけた。
「いやぁ。申し訳ないな……。ちょっとな」と、申し訳なさそうに言うゴロクルーズさん。
すると……。
「――なに。逃げたということはわかっていた。それに理解したわい。あんたは不適任だと」
「うぐ……」
剣で突き刺すような舌剣。
それを聞いていると、前から歩いてきた人は、私達を見る。
黒いフードで顔を隠しているけど、その中から覗く白くて長いひげ。そして、ちらりと見える顔の傷。その人は全身黒い布で体をすっぽりと覆い隠している……。老人だった。
老人は……おじいさんは私達を見て、ふむっとうなって……。
「あんたらは……?」
と聞いてきたけど、おじいさんはヘルナイトさんを見た瞬間、はっと息をのんだ気がしたけど、すぐに私達を見て平然とした表情で見てから……。
「もしやと思うが……。あんた達の中に天族がいるのか……?」
と聞いてきた。
それを聞いて、私は手を上げる。
すると、おじいさんは私を見ているのだろうか……。ただ、「そうか……」としか言わなかった。
そして――
「ならば、あんた達はわしが出したクエストを受けようと思って、ここまで来たんだろう? 『入国許可証』を手に入れるために」
「はぁ!? おっさんがっ!? なんで持ってんの!?」
そうキョウヤさんが驚いて聞く。私達も驚いていたけど、それでもキョウヤさんが全部言ってくれたので追求はしなかった。おじいさんは溜息を吐いて「そんなもんどうでもいい」と吐き捨てるように言って、そしてゴロクルーズさんは見る。
ゴロクルーズさんはギクッと引き攣った笑みを浮かべて体を強張らせている。
それを見たおじいさんは、首を振って溜息。そして……。
「お前さんには失望した。さっさとどっかに行け」
と、しっしと手で――どっかいけと促すようにするおじいさん。というか言っている……。
それを聞いたグロクルーズさんはびきっと口角を不自然にあげて……。
「オイオイオイ……ッ! おじいさんっ! その言い方はないだろうっ!? こっちはあんたのために必死で戦おうとして」
「現実は結果論だけがすべてだ。ほかなどゴミだ。結果として、負けたんじゃろ?」
ぴしゃりと、ゴロクルーズさんの言葉を論破するように遮るおじいさん。
おじいさんはそのままゴロクルーズさんに言った。
「あんたは戦うとか何とか抜かしておったが、何の役にも立たんではないか。こんな老体一人守ることすらせず、あんたは本当に冒険者なのかと疑った。それは真実だったようだな。わしの目が悪くなったようだな……。やれやれ、失望どころか……、お前さんは冒険者失格だのぉ。そんな不健康な贅肉をとってから、わしの前に現れろ。出直せ」
ずばずばと言われながら、ゴロクルーズさんはぶるぶると体を震わせ、そして……。
どたんっと、膝から崩れ落ちて、言葉を失ってしまった。
それはまるで……、ぐぅの音も出ないということだ。
アキにぃが何かを言った気がしたけど……、それですら聞こえていない。私はゴロクルーズさんの肩に触れて、大丈夫と言おうとした時……。
「できるやつが、できないくずに情けをかける行為は褒められんことじゃの。それとも、憐れんでのことかな?」
そう言ったおじいさん。
おじいさんの言葉に私は少しむっとした。キョウヤさんもその言葉には苛立ったようで……。
「おいおっさん。その言い方はねぇんじゃねえの? おっさんが困っているからって引き受けたのに、その言い方は失礼ってもんだろうが」
「ん? 何を勘違いしておるのか……わしは何一つ失礼なことを言っておらん。わしは正直に答えただけだ」
そんなキョウヤさんの言葉に対し反論するおじいさん。
キョウヤさんは尻尾をフリフリとさせて怒っている。アキにぃは腕を組んで聞いていたけど、怒っていないようだ。今にもつっかかりそうなキョウヤさん。だけど、それを制したのは……。
ヘルナイトさんだった。
そっとキョウヤさんの前に手を上げて、通せんぼをするように遮る。それを見たキョウヤさんは、驚いてヘルナイトさんを見た。
「キョウヤ。それ以上は止めておけ」
「はぁっ!? なんで」
キョウヤさんの言葉に対し、ヘルナイトさんはおじいさんを見て、凛とした声で、おじいさんに聞いた。
「ご老人。これはあなたなりの品定めなのでしょうか?」
その言葉を聞いて、おじいさんはふんっと鼻で笑って……。
「品定めなぁ。確かに、そう言われればそうかもしれない」と、はてはてさてさて? はたしてそうかなぁ? と言った感じで、なんだか私達をバカにしているような言い回しで答える。
それを聞いても、ヘルナイトさんは至って平然としている。そして私達を見て、こう言った。
「このご老人は、アムスノームの住人だろう」
「そうなの……?」
私が聞くと、ヘルナイトさんは頷く。
「ああ、あの黒いローブ。あれは魔導機器で作られた、魔法の糸で刺繍されているローブだ。わずかだが感じる。それに、ご老人は『入国許可証』を持っている。それは入国しようとした他国の者か。アムスノームの住人であるという証明となる」
「ああ……確かに」
納得してキョウヤさんが頷く。
私も納得して聞いていると、ヘルナイトさんは言った。
「クエストは本来その村の人達が困っているが故、力を持っている冒険者に頼んで討伐や採取をしてもらうものだ。だがこの老人は、それを逆に、試練として受けさせようとしている。アムスノームに入るのに、相応しいかという試練をな」
詳しいことは、私にもわからないが……。
そんなことを言うヘルナイトさん。
私達は老人を見る。老人はただ私達を見定めるようにじっと見ているだけだ。
それを見て、アキにぃは腕を組んで言う。
「なんでそんなことをするのかはわからないけど……、今あのおじいさんは俺達が相応しいかと見定めているってことだよね……?」
「そうだ。だからこそ、余計な言葉は慎んだ方がいい」
アキにぃはヘルナイトさんに聞くと、ヘルナイトさんは頷いてキョウヤさんを見る。キョウヤさんは申し訳なさそうにして、うぐっと声を洩らして……。
「わかったよ……、少し頭を冷やす」とガジガジと頭を掻く。
それを見た私は心でキョウヤさんを応援しつつ、ゴロクルーズさんを見る。ゴロクルーズさんはぶるぶる肩を震わせ立てない状態。ううん。心が折れている状況だ。
その姿を直視する時間を与えないかのように……。
「で? お前さん等はどうなんじゃ?」とおじいさんは聞く。
それを聞いて、私達はおじいさんを見る。
アキにぃはそれを聞いてなのか、腰に手を当てて宣言する。
「もし、俺達が目的のそれを倒したのなら、『入国許可証』――くれますか?」
そう聞くと、おじいさんは髭から見える口元を、ぐにぃっと歪ませて……。
「――なら、試練開始じゃな」と言った。
アキにぃは私達を見て、手と表情で、申し訳ないと謝るジェスチャーをした。それを見て私は首を横に振って、キョウヤさんは肩を竦めて仕方ないという感じの笑みを浮かべる。ヘルナイトさんは頷いただけだった。
こうして……、奇妙なおじいさんの奇妙な試練が始まった。