PLAY80 悲嘆③
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」
突然聞こえた絶叫に、いいや――これは絶体絶命と唸の叫び。
命の危機に瀕した時の叫び声だ。
その声を聞いたジルバ達はその方向に向けて振り返ると……、ジルバ達は驚愕にその顔を染めていき、目の前に広がっていく光景に思考と感情が追い付けなくなっていくと同時に彼等は冷静に理解してしまう。
これはまずい。自分達と彼が。と…………。
◆ ◆
そんな絶体絶命から場面を切り替え……、場所と時間が変わり、ジルバ達よりも前に別の大きな叫びを聞いたカグヤ達は……。
◆ ◆
――ドスンッ!
という重い物が落ちるような音が聞こえた。
土煙が辺りに立ち込め、それが枯葉のように静かに落ちていくような光景が辺りに広がり、その光景を見て鎖を持っていたカグヤと、鎌を持って攻撃をしていたのだろう――体中に残る埃を払っているズー。
そして倒れた本体を背にして「はぁ……、はぁ……」と息を荒くしているコノハ。
最後に、本体の背に乗って大きな刀を突き刺していたが、それを乱暴に引き抜き、そのままくるりと片手で回すと、身の丈以上に大きな刀を背に回す青年――航一。
そのあと航一はその何かから飛び降りて地面に着地すると、それと同時に航一の足元にあり、そして背後に見えていたそれがどんどん黒く変色していき、そして黒一色に染まると――そのまま黒い靄を出して消滅してしまう。
ぼとぼとと肉のような素材や羽根。鋭く尖った足。あとは嘴のようなものが地面に落ちていく光景を見ながら、その光景を見ながらカグヤはほっと安堵の息を吐いてこう言った。
「どうやら――終わったようだね」
「結構大きかったですね。しかも砂の国にはいなかった珍しい魔物。レア種ですかね……」
「レアなのかはわからないけど、それでも珍しい魔物って言うことは確かだね。僕も前のゲームではたまにしか見なかった」
「僕は初めてですけど……、あの魔物……五月蠅かったです」
カグヤの言葉に対して、やれやれと言わんばかりに溜息を零すズー。
それもそうだろう。
彼らが倒したそれとは魔物のことで、その魔物は甲高い声で耳が壊れそうと言われるほど有名な魔物であった。
その魔物の名は――『鴛鶏鴦』
その名の通り鶏のような体格をしている魔物で体長は五メートルほど、ぎょろりとした目が印象的で、尖った嘴で相手を啄み、そして殺すという攻撃方法を持っている魔物。相手のことを突いた瞬間に体力も回復するという厄介な魔物ではあるが、それでも倒せない相手ではない。
ゆえにカグヤ達はその攻撃が来る前に、される前に攻撃をして倒したということだ。
「この鳥大きかったなー! 俺っちの刀でも貫通しなかったぜ」
航一が背に刀を背負って、陽気な笑みを浮かべ、犬歯が見えるような笑みを浮かべると、それを聞いていたカグヤは「そうだね」と言いつつ――
「鶏の肉の厚みのせいで貫通まではいかなかったけど、それでもダメージの蓄積があってよかったよ」
「………これから鶏肉食べたくないですね。あんなものを見てしまったら、食べる気もしばらくは失せますよ」
と、カグヤの言葉を聞いて、先ほど倒した時の鶏の形相を思い出したのか、ズーは口元に手を当てて吐き気を催すような顔をしながら青ざめて言う。
しかし、ズーの気持ちもわからなくもない。そうカグヤは思った。
詳細までは明かせないが……。何せ、攻撃された瞬間、ぎょろっとした目がひどいことになっていたところを見てしまえば、誰だってトラウマになってしまうかもしれない。特にメンタルが弱い人からしてみればホラーを通り越してショッキングであったから……。
そんなことを思い出しながら、カグヤは困ったように笑みを浮かべると同時に、すぐに真剣な目の色に変えて、背後を振り向きながら彼は言葉を発する。
「それで、コノハ」
「あ……はい。カグちゃん何でしょう……」
鋭い刃のような声に、コノハは今の今まで荒い呼吸をしていたそれをやめ、その場でしょんぼりと頭を垂らし、そのまま項垂れていると、カグヤはコノハに向かって、彼女の後頭部を鋭く見降ろしながらこう言ってきた。
「コノハ、一体今の今までどこを探していたの?」
「えっと……。あそこらへんの草むらをごそごそと……」
カグヤの質問に対して、コノハは後頭部を下げつつもぽつりぽつりと言った形で返答を心細くする。まるで親に怒られている子供のように。
否――年齢的にはあっているかもしれない……。
その光景を見ながら、ズーはコノハに対して『インガヨーホー』と言う言葉を口ずさんだが、その言葉を聞いた航一が体をズーの方向に向けて横に傾けながら「それって因果応報じゃね?」と訂正を促すが、そんな二人のことを無視してカグヤは続けてこう言う。
「ごそごそして?」
敢えて優しくカグヤは聞く。俯きながらなぜか泣いているコノハのことを見降ろし、無意識にその圧をかけながらカグヤは聞く。
嗚咽を吐きながら、親に怒られているような顔をして泣いているコノハのことを見降ろしながら……。
コノハは言う。ボロボロと涙を流し、怒られていることを自覚し、これを言ってしまえば怒られることを自覚しながら、でも言わなければいけないことを覚悟しながら、コノハは言った。
「それで、探していたんだけど……、なんだかだんだん面倒くさいって思っちゃって、えぐ……」
「僕は怒っていないから、聞いているだけだから。だからちゃんと教えて? それからどうしたの?」
「えっと……。ふぐ……、ひぃ……、あの、そのあと……。ううう、面倒くさくなって」
「面倒くさくなって?」
「そ、しょれで……っ。もう面倒くさいやって思って……『豪血騎士』を出して辺をまったいらにして……」
「更地にして? それからどうしたの?」
「ううう。あぅぅ……。ずびっ。ずずずっ。ううう」
「泣いても何も終わらないし、始まらないよ? ほら、怒らないでちゃんと聞くから、そのあとどうしたの?」
「怒らない……?」
「怒らない。だから早く言いな」
「ううううう。じゅびびび。じゅじゅっ。ふぐぅうううう」
ズーと航一は、カグヤとコノハが話している光景を見て、顔中を青く染めながら思った。二人同時に、同じことを思った。
精神的にきついしかり方だ……。と。
そう思った理由として上げるのであれば、カグヤの冷静ではあるが冷たく、突き刺すような言葉を聞いて、嗚咽からどんどん本当の無きに変わっていくコノハの光景を見て、そして地面に残る涙の痕を見て、カグヤの怒りが尋常ではない。冷静の中に隠れているそれがすごい怒りだと察知したから。
そしてこの話を一時中断させようとしないカグヤも鬼である。
だが――この場合はカグヤの感情は正当なのかもしれない。少しずれているかもしれないが……。
なにせ、安全に終わるはずだった仕事が突然危険な目に合うような仕事に変わり、最悪怪我をするのかもしれないというところまで迫っていたのだ。
魔物なんて出ない仕儀とだったはずが、魔物が出る仕事に切り替わる。
それは命にかかわる問題が突然現れると言うこと。そして万が一のことがあったらたまったものではない。そう思ったカグヤは軽率な判断をしたのだろう――その魔物に言われていたコノハに理由をしっかりと聞こうとしていたのだ。
あえて優しく――怒らないように。
「で? どうなの?」
「ううううう。あの……、『豪血騎士』を使って、辺りを平らにしたら……、ぐゅ。暴れだら……、モンスターが起きて」
「そうか……。そう言うことだったんだね。それは、僕達のためにしてくれたことなんだから、まぁそこで強くは言わないよ。だって情報を得るために必死になった結果なんだから」
「!」
コノハの言葉を聞いていたカグヤは、心底納得したように頷き、そして腕を組みながらコノハのことを見降ろす。至って優しい顔と音色で、怒っていない顔と音色で。
その声を聞いたコノハは、一瞬本当に怒らないんだ。という顔をして表情をパァッと明るくさせカグヤのことを見た。許してくれるのかな? そんなことを思いながら……。
が………。現実はそうそう甘くはなかった。
「でも――結果としては怒るけどね。そう言う時こそ慎重に行動しないといけないのに……、ね」
「ずび」
カグヤの鶴の一声のような言葉を聞いて、そして冷たい氷のような目の色を見たコノハは、渇きそうだった涙と鼻水をまた決壊させ、ぐしゃりと顔を歪ませながらカグヤのことを見上げた。
そんなコノハのことを見降ろしながら、カグヤは再度腕を組んでコノハのことを見降ろしつつ、怒るわけでもない、しかし穏やかな音色でぐちぐちと長々とした説教を開始する。
それを聞きながらコノハはボロボロと零れる涙を拭わず、カグヤのお叱りを真摯に受けて耐える光景を見ていたズーと航一は、内心コノハのことを哀れに思いつつ、カグヤのことを見ながらこう思った。青ざめながらこう思った。
――怖。
まさに顔面蒼白と言えるような光景。
そんな顔をしてコノハ達のことを見ていると、草むらの向こうから足音が聞こえてきた。
がさがさ。ざくざく。
草をかき分ける音と切り刻む音が耳に入った時、航一は今まで蒼白だったそれを一旦隠して平静を顔に出して、背後から聞こえてきた音を確認するために振り向くと――航一は「あ」と声を漏らしてその草むらの向こうから来た人物のことを見て名を呼んだ。
「おぉ! クイーン! どこに行ってたんだ?」
「! クイーンさん」
二人は怖かったその感情を隠しつつ、背後から現れた存在――クイーンの名を呼んで、安堵を零しながら言う。航一に至っては陽気が混ざっているような顔で言う。
そんな二人の言葉を聞いていたクイーンは、鼻で笑うように怒りを剥き出しにし、そして歩みを進めて、かつんっ! と鎧のヒールの音を大きく鳴らしながら、彼女は言う。
航一とズーに向かって、不機嫌剥き出しの顔をして――
「クイーンクイーン五月蠅いって。私のことはちゃんと――クイーンメレブって呼びな。覚えられないのか? ええ?」
そう言って……『12鬼士』が一人――『猛毒の女帝』クイーンメレブは吐き捨てた。
そんな彼女のことを見て、彼女の言葉を聞いていた航一は頭を掻きながら「なっはっは! わりぃわりぃ!」と、あまり悪く思っていないようなへらへらとした顔で言い、ズーもあまり悪く思っていないのか。平然とした顔で「すみません」と平謝りする。
そんな二人の顔を見て、クイーンメレブは大きな舌打ちを零し、歩み寄りながら――
「ちっ。反省しろ青二才」
と、毒を吐いた。
クイーンメレブの毒を吐く光景を見ていた航一とズーは、互いの顔を見合わせて困ったように笑みを浮かべた。
と、ここで唐突な疑問が出るだろう。
なぜクイーンメレブがカグヤたちと一緒にいるのか。
その疑問に対しての回答をするのであれば簡単な話になるかもしれないが、話そうと思う。
なぜクイーンメレブがここにいるのか。なぜ一緒に行動しているのか。
それは――ジエンドを追うために、一時的な協力関係を築いた。それだけ。
クイーンメレブは最初、ジエンドのことを追って砂の国に来ていたのだ。あの時ヘルナイトに対して怒った理由も、躍起になって攻撃をしたのも――すべて自分の手でジエンドを止めるための行動でもあるのだ。
クイーンメレブはその名の通り『猛毒の女帝』であり、呪腐魔王族の一人でもあるが故、『終焉の瘴気』の瘴気に対して耐性があった。その体制が功を奏したのか、彼女だけは記憶がなくなることはなかった。
そう――ジエンドのことも、すべて、覚えていたのだ。
ゆえに彼女は、ジエンドが起こそうとしている行動を止めるために、単体で追い、そして砂の国で追い詰めよとしたのだが、結局はヘルナイトの手によって止められてしまい、何もできずに終わってしまった。
また逃げられた。それだけの後悔が彼女の脳内を行き来し、残っていたカグヤ達の手によって何とか降ろされ、そのまま一時期いた。もちろん、本当に一時期のこと。王都に着いた瞬間すぐに旅立とうとしていたが、それでさえも止められてしまった。
止めた人物は――カグヤだった。
カグヤはクイーンメレブのことを見て、真っ直ぐな目でこう言ったのだ。
『あなたのお気持ちは察します。ですが今のあなたの力では負けてしまうかもしれません。ハンナたちでも、『最強の鬼神』でもたおせなかった。むしろ傷を負ってしまうくらい――ジエンドは強いと聞きました。そんな人物に対して、あなたが勝つと言うことは絶対にあり得ないと思います。だって……、ヘルナイトのあの攻撃に対して成す術もなく歯が立たなかったのですから、負けるのは当然だと思います』
その言葉を聞いたクイーンメレブは、ピクリと眉を顰め、カグヤのことを至近距離で見降ろし、どんどん距離を詰めながら近づき、彼の真正面で足を止めた瞬間――彼女は低い音色でこう聞いたのだ。
『それは……、私が完敗するって言いたいのか?』
『ええ』
クイーンメレブの言葉に対して、はっきりと答えるカグヤ。
その光景を見ていた航一達はカグヤとクイーンメレブの間に蔓延る黒い何かを察知して、その中に入らないように距離をとりつつ、言葉を発しないようにの光景を見ていた。
内心――怖いと思いながら。
そんな二人の心境を無視しつつ、己たちの世界に入りながら、カグヤとクイーンメレブは互いの顔を鋭い眼で見つつ会話を進めるのだった。
あえて――脅迫のぶつかり合いではなく、会話として……。
カグヤは言う。
『あなたは言いましたよね? ヘルナイトは最強だと』
『ああ。言った。でもそれは全盛期のことを指して、今がどうなのなかんてわかんないよ』
『わかりますよ。最強は最強のままで、あなたはその最強の足元……、足の小指の甘皮にも至っていない。つまり――全然弱いってことですよ』
『………………………良く回る舌だ』
「ええ。そしてこの舌は更に回ります』
その言葉を金切りに、カグヤは畳み掛けるようにして言ったのだ。
『コノハから聞きました。ヘルナイトと、そのジエンドは、互角ほどの力だったと。その最強を相手にしても互角のような存在に対して……、最強に呆気なくやられてしまったあなたが立ち向かったところで、瞬殺どころか塵も何もないですよ。いうなれば――瞬殺です』
二度目の言葉を強調して言うカグヤ。
その言葉を聞いたクイーンメレブは仮面越しに目元をぴくつかせてカグヤのことを見降ろすが、カグヤは恐れるようなことをしない。どころか立ち向かうようにクイーンメレブのことを見上げて仁王立ちになっている。
――こいつ……、恐怖ってもんがないのか?
クイーンメレブは思う。
自分と言う恐怖の存在に相対しても臆するようなことなどせず、むしろ立ち向かうように睨みつけているその光景を見て、クイーンメレブは驚きながら思ったのだ。
いいや――疑念交じりの驚きを心に出したのだ。
なぜ、彼は『12鬼士』と言う存在に対し、しかも『猛毒の女帝』に相対しても、対等と言う立場で見上げているカグヤのことが気になって気になって仕方がなかった。
――この男に、恐怖と言うものがないのか。この男の心は恐怖を捨ててしまったのか。そんなことを思いながら……だ。
しかし、それは間違いであり、カグヤにだって恐怖はある。しかし――それをうまく隠して見せないようにしているだけなのだ。
忘れているかもしれないが――カグヤはこう見えてもノンフィクション作家。
フィクションを文に綴る作家ではなく、ノンフィクション――つまりは現実を文に綴る作家なのだ。
その現実を綴るうえに置いて、危険なところに入ることだってある。大けがを負うようなところにも入り込み、その時感じたこと、その時経験したことを綴ることだってあるのだ。
ゆえに恐怖なんて感じていては――仕事にならない。
警察が犯罪者を怖がってしまっては仕事にならないと同じように、ノンフィクション作家も怖がってしまってはいけないのだ。
なのでカグヤは動じない。どころか相手を動じさせるような勢いで畳み掛ける。
あの時……、コノハ達の前で見せられた光景はまさにカグヤの正念場のシーン。ノンフィクション作家が心の底からその現実を色んな人に知ってもらうというための真剣場でもあり、一言でいうのであれば――カグヤの本領発揮の場面を、コノハ達は怖がりながらも見ていたと言うことになる。
そんなカグヤの目を見たクイーンメレブは、言葉を発さない。
ただただカグヤのことを見降ろし、一体どのようなことを言いだすのかと言うわずかな好奇心を募らせながらクイーンメレブはカグヤの言葉を待つ。
そのクイーンメレブの感情を察知したのか、カグヤはクイーンメレブのことを見つめ、そして細く笑みを浮かべながら彼女に向かって言った。
少しずつ、少しずつ右手を動かしながら――
『でもですね……。瞬殺される自分でも、束になればその瞬殺の確率も低くなります。更に言うと――すごい攻撃力を持っている伏兵。二人の様な伏兵に盗賊がいれば、もしかしたらさらに確率が低くなり、もしかしたらジエンドを捕まえることだって夢じゃない。と僕は思います』
『………つまり?』
『最後で言わせるつもりですか。まぁこの際言いますけど……、はっきり言って僕たちは戦力が十段階の三です』
『『三っっっ!?』』
『二人とも、声が大きすぎです』
と、カグヤは言ったが、クイーンメレブはそんなカグヤの言葉に対して、敢えて首を傾げるように問い詰める。一体何を言いたいのか。それを諭すように――
それを聞いたカグヤは呆れた溜息を吐き、これは単刀直入だなと思いながら彼は告げる。カグヤが思っている心意を。そしてこれ以上逃がさないように、彼は言ったのだ。自分達が置かれている現状を。
それを聞いていたコノハと航一は、目が飛び出そうなくらいに驚きを見せ、素っ頓狂な声を上げてカグヤの背中に向かって射殺さんばかりの目を向けると、それを見ていたズーは、そんな二人のことを見て呆れた目をして見つめる。
心境としては――そりゃそうだろう。と言う目で……。
しかし、コノハ達のことを完全に無視しているカグヤは、二人の声など聞こえていないかのようにクイーンメレブのことを見て、ゆっくりと動かしていたその手をとあるところで止めると、彼は最後に――彼女と自分たちを繋ぎ止めるような言葉を投げかけたのだ。
『もし、あなたがジエンドと対等に渡り合いたいのであれば、僕達も加勢して勝率を上げます。その方が効率もいいし、あなただって単体で挑んでその場に治療要因がいなかったら死んでしまったんなんていう嫌な落ちなんて――作りたくないでしょ?』
『………………………』
『目的が達成されましたけど、達成した後でむごたらしく死にたくもないですから、次は足掻くことを目標にして、あなたの力を頼りつつ、あなたの力になろうと思います。報酬はと聞かれたらそんなことどうでもいい。と言うか、この目標は――この戦いに金なんて必要ない。必要なのは――結果。倒せたという結果か。殺されてしまった結果こそが最高の報酬。その報酬で――倒せた報酬を完全遂行できるように、あなたに僕達が協力する。逆に僕たちの協力をあなたがする。それが僕から提示する交渉』
いかがですか?
カグヤは言う。徐に出した手をクイーンメレブに向け。逃がさんとばかりにその手を付きだして彼は言う。手を差し伸べるという行動で、握手と言う交渉を促しながら――縛るために。
その言葉に対して、クイーンメレブはすっと目を細め、カグヤのことを頭の先から足のつま先まで凝視するようにじっと見つめ、インプットするように見つめる。驚いている三人のことを無視して……。
しかし、クイーンメレブの決断は意外にも早く、そして自分で驚くような心境の結果だった。
確かにジエンドは『12鬼士』の中でも特に強い分類だ。ヘルナイトの次と言っても過言ではない。
最古参の自分でも殺せるかわからな存在で、クイーンメレブ自身倒せるか倒せないかと言えば――倒せないの方が大きいような存在だった。
もちろん一矢報いるという言葉通りに行うとしていたのだが、その結果も無駄に終わっているかもしれない。しかしカグヤの言葉を聞いてクイーンメレブは思ったのだ。
つまりは――協力ってことか? ふざけたことを言う。でも……。
でも。クイーンメレブは続けて思ったのだ。微かに口角を上げて、彼女は思ったのだ。
カグヤの行動と言葉を聞いて、『12鬼士』が一人であり、女帝の名を持っている自分に対して、綱渡りのような交渉。肝が据わっているな、この餓鬼。
普通なら『協力してください』って頭を下げる言葉が普通なのに、逆に上から目線。
『……………………ふふ』
いいね……。
そうクイーンメレブは思った。いいや――揺さぶられた。の方がいいだろう。
正直――面白いと思ったからだ。
自分のことを恐怖する面々より、自分より凌駕する存在より、敢えて自分に対して交渉をする存在が、何よりも大知ろうと思ったからだ。
弱いくせに――交渉する。それこそ滑稽。
だからなのか……。
クイーンメレブは、差し出された手に対して握り返すように手を伸ばし、そしてカグヤの手をぐっと握りながら、彼女は言ったのだ。
『いいよ――その眼。その眼を信じて、交渉成立しよう。期限はジエンドを殺すまで。それまでに裏切ったり私が不利になるようなことが起きたら、即殺すから』
『いいですよ。僕は死にません。逆も然りなんでね。窮鼠猫を噛むと言う言葉通りに』
その言葉から、クイーンメレブはカグヤ達と行動して、現在アクアロイアにいるのだが、カグヤの説教風景を見ながら、半ば呆れつつも平和な奴らだなと思いながら、彼女はその光景を見て、航一とズーもその光景を見て終わりが来るまでずっと待っていた。
泣いているコノハのことを見守りながら……。
だが、コノハのことを叱っていたカグヤは、真剣に注意をし、説教をしながらでも、カグヤは内心この業況に対して異変を覚えていた。
その異変とは――魔物のことである。
はたから見れば普通の光景に見えるが、この魔物が出た時点でなければいけない何かがなかった。そのことに疑念を覚えながらカグヤは説教をしながら推測を立てた。
――コノハの行動に対して軽率なことはしっかりと叱っておくけど……、これはおかしい。
――普通に遊んでいたらそんなこと考えないんだけど……、このゲームが、本当に前のゲームの設定を引き継いでいるのなら……、これはおかしいんだ。
そんなことを思いながらカグヤは思い出す。コノハのことを追いかけ回しながら急かしなく鳥の足を動かし、そしてコノハのことを啄もうとしたあの『鴛鶏鴦』のことを。
――前のゲームの時、僕は魔物データを暇潰しに見たことがある。その時の魔物の設定もある程度までは覚えているから、今回の魔物に対して違和感しか抱くことができなかった。
――『鴛鶏鴦』はその名の通りおしどり夫婦をモチーフにした夫婦の鳥魔物。
――姿は鶏そのものだけど、『鴛鶏鴦』は性別によって体の羽毛の色が異なるモンスターであり、その性別が違うことによって手に入る素材も変わるという特殊なモンスター。
――特に赤い羽毛の雌鶏はレアなんだけど……、僕達が戦い、そして倒したあの『鴛鶏鴦』は……、赤い羽毛だから雌。
――そして必然として、雌がいれば雄もいるはずなんだけど……、その雄がいない……。
――考えられることは二つ。
――一つはすでに消滅したか。もう一つはもう一つの獲物がいて、その獲物を狩るために分かれて行動している……?
――もしそうなら……、一体、どこに……?
そんなことを考えながら、カグヤはコノハの説教を延々と続ける。
この後コノハに聞こうと思いつつも、今は叱らないといけないのでそのことを優先にしてカグヤは説教を続ける。泣いてしまうコノハをしり目に、カグヤのその延々と続く説教をまじまじと聞きながら……。
そして…………。




