PLAY80 悲嘆②
その叫びよりも少し前――その頃アクアロイアに来ていたかオスティカの六人は『聖霊の緒』の周辺を散策していた。
彼等がなぜこの場所にいるのか。その理由はもうわかっているかもしれないが、おさらいとして話しておこう。
彼等がここにいる発端を作ったのは、ボロボ空中都市から来たエドの提案を聞いてその提案を他の冒険者に対して提案として話した『創成王』。
『創成王』曰く――ハンナ達と一緒に巨大な徒党を作り、この世界を救ってほしいというものだった。
本来と言うよりも――今までゲームの世界であれば主人公とその仲間達だけで巨大な敵に立ち向かい、世界を平和にする。
これが今まで見たことがあるゲームの世界のハッピーエンドだろう。
しかし現実はそれほど甘くはない。むしろ厳しい事こそがこの現実の世界なのだ。
厳しい理由は簡単なことだ。
それは――敵が多すぎること。
ハンナ達は確かにこれまで多くの敵を仲間達と一緒に倒してきた。
最強の鬼士と仲間達と一緒に凶悪な敵にも立ち向かい、そして勝ってきた。
が――それでもこの短期間の間に浄化することは不可能であろう。
ハンナ達がこのゲームに入り、そしてガーディアンまで浄化をしてきた期間は――数ヶ月。
通常であれば何年もかからないとできない至難の旅でもある。
だからこそクエストを『白』にしていたのだ。
ならばなぜハンナ達はこの短期間の間に四体もの『八神』を浄化できたのか。なぜここまで早いのか。
言っておくが、ヘルナイトが最強だからは答えではない。そのような答えであれば即刻で罰マークがつき減点だ。
それは協力があってこそ。
協力がなく、多くの敵を倒すとなれば、浄化も遅くなっていたに違いない。だからこそここまで早く浄化が進んだ。これはとてつもない功績と言っても過言ではなかった。
しかし……、それでも敵はハンナ達の行く手を阻んでいた。
まるで――浄化を邪魔するように、ハンナを殺すように、敵は彼等の道の真ん中に立っていた。その進行を妨げるように……。
ハンナ達が知っている敵は一つではない。この世界にとっての敵と言えば魔物だけではないのだ。
この世界を『終焉の瘴気』に染め、その『終焉の瘴気』から生まれた聖霊族の亜種でもある存在――死霊族。
この世界の者達だが、アズールにあるという『滅亡録』に記された者達が、反乱を起こしてこの世界を無理やりにでも変えようと、自分たちの世界を築き上げようと企てるテロリスト――『六芒星』。
そして、この世界にもいる野心を持った人。更には他国から来てよからぬ企みを立てているもの。カイルのように国を乗っ取ろうと企てるものなど……、様々な者たちがこぞってハンナ達に襲い掛かってくるだろう。
そうなってしまった瞬間……、袋のネズミと化してしまえば――アズールの希望も潰えてしまう。
そのためにも、多くなる敵と同様に、味方達も多くする。
それが提案であり、『創成王』はハンナと親しい関係者もとい冒険者を見つけて提案を促したと言うことである。
その案に対してハンナ達と一緒に、一時期行動した者達は快く承諾したと言うことである。
ゆえに彼らはハンナ達が浄化をしている間――ほかの国で情報を収集したり、敵を少しでも減らすように行動していると言うことである。その行動を功労賞として――報酬も与える。
まさにウィンウィンの関係が築き上げられると言うことである。
余談ではあるが、この提案を持ち掛け、そして聞いてきた『創成王』は内心――安堵をした。
この承諾ももしかすると長引く可能性、そして拒否される可能性があると思い、国のためにも何としてでも承諾をしてもらわないと困ると思っていたので、『創成王』はある程度の交渉を踏んでいたが……、それも杞憂に終わってしまった。だからこそ安堵したのだ。
それもそうだろう。
今回承諾をした人達は全員が善人であり、彼女に対して感謝もあれば浄化のおかげで救われた人もいる。
そして何より交友関係があったからこそ、力になりたいと思った。恩返しとは言えないようなそれではあるが、それでも協力したい。それ彼らの本音だ。
エレン達やショーマ達、みゅんみゅん達やティズ達、ボルド達やセレネ達、ボジョレヲ達にカグヤ達。そして――今回登場するカオスティカもそんなことは思っていない。
善意で協力するという面目で――彼らは承諾したのだ。
なんともいい話に聞こえる。が……、これだけは覚えておいてほしい。
中にはそうでもない人種もいることを………。
◆ ◆
長くなってしまったが、ここで本編に戻るとしよう。
アクアロイアの『聖霊の緒』の周辺を散策していたジルバ達は、辺りに『六芒星』がいないか確認をしながら探していた。
「なぁシイナー。何かあったかー?」
「えっと……、何もありません。ど、どころか、形跡も何もありませんね……。ほ、本当にろ、『六芒星』がまだアクアロイアにいるのか……、疑いますね」
「だよなー。俺その『ロクボウセイ』とか言う輩と会ったことねーんだけど……、相当厄介な奴らなんだろ? 俺達出会ってぼこぼこにされるとか……、ねーよな……?」
「そこは大丈夫なんじゃないですか……? だ、だっておれ達……、ネクロマンサーも倒したんですから」
「それはシイナくんと正義聖騎士様が倒したんですよっ!? 俺達何もできんかったから過大評価せんといてっ! 俺すんごく重荷だからっ!」
そんなことを話しながら『聖霊の緒』の草むらを漁り、痕跡がないかどうかとまるで似非探偵のように足で稼いで情報を探っていたシイナとブラド。
二人の顔には草木がこびりついており、シイナに至っては髪の毛に草が刺さり、髪の毛の一部となっていた。
……草が張り付いていても、舞い込んでくるのは塵程度……、否、塵以下の情報しかない。
簡潔に言うと――収穫なしである。
そんな収穫もない中、ブラドとシイナは漁ることを一旦やめる。
ここ一時間は腰を曲げての捜査が続いていたため、腰への負担が高かった二人。
老人になる前にぎっくりを起こしそうな体制であり、特にブラドの腰は相当危ない橋を渡っていたことは、本人しか知らないこと。
「あ~~~~っ! が~~~~~っっ!」
「すごい声ですね。なんだか怪獣の様です」
「この顔の状態でそれを言うな。俺現実の世界だとかなりのイケメンなんだぜ? 信じられないと思うけど」
「………………………」
「おいなんか言え。言わんと俺も反応しずらいわ。でもまぁイケメンであることは否めないけどな」
腰に手を添えて伸ばして野太い声を上げるブラド。
それを聞いていたシイナは困ったように笑みを浮かべながら言うと、ブラドは癇に障ったのか、少しイラついた顔をしてシイナのことを横目で見るも、その場の空気を和ませるように冗談交じりのことを言った。
しかしその言葉を聞いた瞬間、シイナは真顔になり無言になってしまったところを見て、ブラドは汗を飛ばしてワタワタしながらシイナに話しかける。
内心――もしかして、冗談って思ってねーんじゃ……。と、焦りを覚えつつ困惑ながら。
そんな話をしていると――『亜人の郷』方面から来る人物が、『ざっ。ざっ。ざっ』と、砂利を磨り潰すような音を立てた足音をさせてシイナ達に向かって近付いて来た。
その音を最初に聞いたシイナは、髪と同化しているような犬の耳を『ピクッ』と数回ほど揺らし、その方向に目を向ける。ブラドもそれを見て、頭に疑問符を浮かべてシイナが見た方向に目をやると――
「お! やっとか」
と言ってブラドは亜人の郷方面から近づいてきたその三人に向けて大きく右手を分度器のように振りながら「おーい!」と声を掛ける。
陽気に、警戒心もなくだ。
それはシイナも同じで、休んでいた体にも体力が戻ってきた様子でそっと立ち上がり、その方向に目を向けながらシイナは安堵の息を零そうとした。
その方向から来る人物――自分達の仲間の無事を確認して……、安心のそれを無意識に零そうとした。
その時だった――!
たっ。と――亜人の郷方面から戻るように近付いて来た三人の内、唯一女性であるその女は、シイナ達のことを認識すると同時に歩みを走りに変えて駆け出す。
それを見ていた傷の男と鎧の男は驚いた声を上げてその女性を目で追うと、鎧の男は女性が向かうであろうその方向を見た瞬間、はっと息を呑み、内心まずいと思ったのか、右手を振りかざし、その女性のことを止めるように手を伸ばすと――
「おいっ! 待て!」と声を荒げる。
しかし、女性はそんな鎧の男の声など聞く耳を持っていないかのように、たったったったった――と駆け出していく。
ヒールを履いているにも関わらず、速度を少しずつ上げて、シイナに向かって接近する女性。
それを見ていた傷の男も「あらら~」と陽気な声を上げて、止めようとせずにその光景をみて言うと、その声と同時に女性はシイナに向かって低く低空の跳躍をする。
とんっと――両手を広げて、シイナに向かって突っ込むように跳ぶ女性。
シイナはそれを見て、はっと何かに気付くも、もう遅し……。ブラドもそれを見て止めようとしたが、それも遅く……、シイナはそのまま女性の腕の中に吸い込まれるように抱き寄せられて、そして――
「シイナくぅ~んっ! 大丈夫だったぁ? わたしぃ――心配したのよぉっっ?」
「っっっ!?」
なんとも甘ったるい声。なんとも妖艶な声。
そんな声がシイナの犬の耳にダイレクトに入り込み、シイナの思考を混乱させて血液の温度をどんどん上昇させる。声と同時に感じる熱も相まって――その温度もどんどん上がっていき、やがては温泉と同じ温度になっていくような感覚を味わったシイナ。
ぎゅうっと抱き寄せられ、そのまま女性の腕の中に納まるように頭を抱えられたシイナは、女性のタックルに耐えきれず足をよろめかせ、踵のバランスが崩れると同時に、シイナはそのまま背中から地面に転んでしまう。
漫画の効果音で言うところの――『どてーんっっ!』と言う音がそのあたりに響き渡り、その光景と共に砂埃と草木が舞い上がり、そのままひらり、ひらりと舞い落ちていく。
その光景を見て、傷の男はけらけら笑いながらその光景を見降ろし、近くでその光景を見ていたブラドは驚きと唖然、更に青ざめる顔でその光景を見て、白目をむき、その光景を見ていた騎士の男も唖然とした顔でその光景を見降ろしていた。肩にいる小さな犬と共に――
一方その女性の攻撃 (と言う名の抱擁)を受けたシイナは、顔面蒼白になり気絶しそうな顔をしながら女性の抱擁を成す術もなく受けている。女性はすりすりと頬擦りをしながら――
「もぅ。探して探して疲れちゃったぁ~。やっぱりシイナくんは凄く癒されるわぁ~」
と、すりすりしながらシイナと言う存在に癒されていた。ぎゅうっと抱きしめ、その癒しを体に浸透させるように。
「………おっかねぇ」
ブラドはシイナとシイナのことを抱きしめている女性のことを見て、一言零す。女性の妖艶で抱きしめている光景を目にしながら……、自分は絶対こうならないようにしよう。そしてシイナすまない。そんなことを思いながら……。
彼らはカオスティカ。ハンナたちと一時期行動した冒険者で、現在は『創成王』の命令で動く冒険者の一チーム。
このアクアロイアに来た理由はもうわかっているかもしれないが、この地にいたであろう『六芒星』の残党がいないかを確認し、確認し次第拘束をして王都に連行する。
それが――カオスティカと、この地にいるであろうもう一チームの最初の合同クエストである。
◆ ◆
「いや、マジであれは怖かったわ……。あれが本当の束縛女子ってやつだな。あれを見て俺はまた女性恐怖症が悪化しました」
「失礼ねぇ。わたしだって休息が必要なのよぉ? ブラドのようにグースカが休息だと思ったら大間違いなのぉ。人によって癒しなんて人それぞれなのよぉ。わかるぅ?」
「ぐーすかは余計だって、俺は今現在進行形で精神削られているから、わかった。わかりましたからそれ以上顔を近づけないでっ。お願いしますっ」
それから……。
女性――ロフィーゼの癒し堪能が終わった後で、彼らカオスティカはそこら辺にある石に腰かけて情報収集の結果を言い合い、共有をしあっていた。
ロフィーゼの初めてでもあるきつい抱擁を受けたシイナは、口から涎を垂らして茫然とした面持ちで顔を青ざめている。そんなシイナのことを見て心配そうに見ていた鎧を着た男――SKもといセイントは膝に乗せている相棒犬さくら丸と一緒にシイナのことを心配していた。
シイナの肩に手を乗せ、「大丈夫か?」と聞いたが、シイナはそれを聞いて小さな声で「大丈夫です……」と答えていた。正直――セイントはそれを見て、全然大丈夫じゃないな。と思ったが、それは喉の奥にしまい込んで、胃の中で消化を施して消し去った。
そんな光景を見ていた傷の男――ジルバはけてけてと笑いながらお腹に手を添えて……。
「いやー。意外な一面見れて面白かったヨー。ロフィ俺たちと一緒にいるとき、すんごい負のオーラを出していたからネ」
と言うと、それを聞いていたロフィーゼはむぅっと頬を膨らませるようにムスクれた顔をジルバに向けると、ロフィーゼは少し怒った音色で「仕方ないでしょうぅ」と言い……、続けてこう言ってきた。
「人間必ずしも心のよりどころが必要なのぉ。苦しい時とかには特に必要ぉ。ジルバは分からないかもしれないけどぉ、わたしにとって癒しはシイナ君なのよぉ? そのくらいわかってよねぇ」
「まぁいいんだけど、それを受けている人が死にかけているからネ。程々にした方がいいと俺は思うヨ」
ロフィーゼの言葉を聞いたジルバは呆れた笑みを浮かべながら平静を装う笑顔を向ける。
シイナのことを一瞥し、君も大変な女の人に好かれたね……。と思い、難儀だなと同時に思いながら……。
その話をしていると、突然五人が座っていたところに向かって優しい風が吹く。
ふわりと靡くような風を受けながら、ジルバ達はその風が舞った方向を見ると――ジルバ以外の四人は「あ」と声を漏らし、ジルバはその光景を見て、にっと不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
彼らの近くで舞い降りた仮面の巫女のことを見ながら――ジルバは言ったのだ。
「おかえり~。どうだった?」
そんなジルバの言葉に対して、仮面の巫女は肩を竦めて――溜息交じりに……。
「全然よ」
と言い、それと同時に彼女は言う。
『12鬼士』が一人――天魔魔王族の一人にして『桃源の巫女』と謳われる存在……、キクリは続けて言ったのだ。
「この国の周りを飛んだけど、『六芒星』がいたという痕跡すら残っていなかったわ。もしかしたら嘘の情報だったのかもね。アクアロイア王の情報も」
「……なるほど。お空から飛んで見て、その痕跡もないとなれば、お手上げだネ。アジトらしき建物もなかった?」
「ないわね。と言うか……『六芒星』の本拠地でさえも特定できないでいるのに、小さなアジトが見つかったら探すなんてことはしないわよ。人探しも期待しないでほしいわ」
「だヨネ~………」
キクリの言葉を聞いてジルバは笑みを浮かべているが、その笑みに隠されている落胆が見え隠れしている顔で項垂れると、セイントはそんなジルバの肩を叩き――
「だが、それもいい情報として捉えようではないか。この国に潜伏していたかもしれない『六芒星』がいない。それを聞けば、『創成王』もこの国の民も安心する。それでいいではないか」
と言うと、それを聞いていたキクリも頷き、顎に手を添えながら彼女は安心してと言わんばかりの音色で続けて言う。
「まぁ、『創成王』自身魂胆は……『六芒星』のアジトを突き止めて未然に防ごうとしたらしいけど、それも無駄足、でもここにいないのならば、確実な安全も確保できるでしょ? それを報告して、良しとしましょう」
「確かに……、逃亡中の犯罪者が捕まった瞬間に安堵するのと同じようなもんかな……? それと同じようなものだったら、キクリたちの言う通りこれはこれでいい情報なのかもしれねーのかも」
キクリの言葉を聞いたブラドが、神妙な面持ちで納得するような仕草をして唸ると、それを聞き、やっと意識を取り戻したシイナがブラド達のことを見て頬を指で掻きながらこう言った。
いいや、この場合は聞いたの方がいいのかもしれない。
「それじゃぁ……、もしかしてロフィさんも……?」
シイナはロフィのことを見ながら聞く。それを聞いたロフィは石に腰かけて、その場所で膝を抱えながらその皿に頬を乗せて頷く。
このような姿でも妖艶に見えたことは伏せておくことにする。
その頷きを見たシイナは「あー……」と言葉を零し、落胆を現したが、それと同時に心の中ではやっぱり……。と、自分達と同じことを聞けて存外ほっとしていた。
ブラドもロフィーゼの行動を見て、すぐにセイント達のことを見ながら「マジかよっ」と声を荒げると、セイントはそんなブラドのことを見て頷き――
「キクリの方も収穫がないことは薄々予想はしていた。私達の方は先にアクアロイアやユワコクに向かって捜査をしていたが、結局『六芒星』につながる情報はなかった。前アクアロイア王が匿っていた『六芒星』も、新しい王になる前に雲隠れした。痕跡も何も残さず――だ」
と言い、膝に乗せているさくら丸の頭をゆるりと撫でながら言うセイント。
セイントの撫でを受けたさくら丸は嬉しそうに、こそばゆそうにその手に甘える。
『くぅ~ん』と嬉しそう鳴きながら。
そんなセイントの言葉にジルバが畳み掛けるようにシイナ、ブラド、キクリに向かって顔を上げ、飄々とした笑みを浮かべて言葉を発する。片手で頬を突き、ニコニコと笑みを浮かべながら、彼は発する。
「でもいたことは確か。それに俺達も見たでしょ? いないと思っていた『六芒星』が――突然現れた。その件に関しても、いつの間にか俺達軍勢に入っていたあのガザドラ? って人に聞こうにも、なぜか姿を消している。聞こうにも聞けないから俺たちが足を使って情報と言う名の経験値を集めている。でもその経験値も塵以下になってしまった。これはいわゆる――取り越し苦労だネ。何だったんだろうネ。あの情報」
「誤情報にしてはおかしいと思うわぁ。シェーラちゃんが前に話していたけどぉ、『六芒星』はこの国を隠れ蓑にしていたって話じゃなぁい。でもぉ……、亜人の郷とぉ、あとは港のところでしか動きを見せていないぃ。どころか大きな街ではそんなこと全然起きなかったぁ……。これっておかしくなぁい?」
「ろ……、『六芒星』は元々、て、テロリスト……? と言うか、革命集団なんですよね? それなのにま、街で行動しないって……、おかしいですよね? アルテットミアでも大きな騒動だったんですけど……、それでも被害はおれ達のおかげでだ、大事には至りませんでしたし……。漫画では街で暗躍するようなイメージだったんですけど……。大きな騒動もなかったですよね? お、おれ達が国境の里にいる間も……」
「となると……『六芒星』関連で大きな話と言うと、アルテットミア、港の件と亜人の郷、そして蜥蜴人の集落の三つ。一つは大きな街での騒動だったが、アクアロイアになった瞬間大きな街ではないところでの騒動……か」
「私が全盛期の時でも――大きな組織は大きな街に隠れ、民衆に紛れながら生活をし、着々と勢力を上げていき満を持して暴動を起こしていた。街に気付かれず、カムフラージュをしながら勢力を拡大していたのだけど、『六芒星』は異質。隠れることも何もしないで勢力を上げつつ、誰もそのアジトを知らないという組織。死霊族のように瘴輝石を持ってワープをするわけでもないから、結局足でさえもつかめない状況。暗躍があると言われても結局ないまま姿を消し、なかったと思った瞬間不意を突くように現れる。こっちの藩王を見て嘲笑うように彼らは現れたり消えたりするから……、今回の件もその例に当ては待っちゃうわね」
「その暗躍もなかったってことか? でもちゃんといたってことはこのアクアロイアをまだ隠れ蓑にしていたってことだろ? 新しい王になってもまだ。もうどういうことか弾の中滅茶苦茶になったんだけど……、俺。いるって聞いていたのに忽然といなくなって……、でもいなかったのならいなかったでいいじゃねえかって思うんだけど、なんだか閉まらねーって言うか……何と言うか……。うー、あー、がー」
キクリが歩みを進めてくる最中――ジルバの言葉を聞き、ロフィーゼもシェーラから聞いたことを思い出すように指を指しながら言い、シイナも頭を抱えるように腕を組みながら唸ると、セイントもシイナの言葉に頷きつつ『六芒星』が目立った行動をしたことを思い出しながら言うと……、キクリが『六芒星』のことを明かして言うと、それを聞いていたブラドが首を傾げ、全身の血が頭に集中し、熱暴走を起こしてしまいそうな熱と頭痛を感じながら頭を抱えて唸りだす。
そんな光景を見ながら、ジルバはみんなの言葉を収集しながら整理をしつつ思考を巡らせた。
まるでパズルのように、一枚の絵を完成させるように組み立てていきながら……。
――話を聞いている限り……、あの王様は相当『六芒星』っていう存在に対して警戒心を抱いている。ネクロマンサーと同等に……、いいや。それ以上なのかもしれない。
――そんな警戒心を持っているからこそ、俺達にアクアロイアに行ってもらい、情報を入手してくれと命令してきた。あの猫の男の子の方がどうなのかはわからないけど、それでも……、塵なのはわかっちゃっている。
――塵以下の情報もない中のでの捜査。それは取り越し苦労と言っても過言ではない徒労だったけど、なんとなく、わかった気がするヨ。
――『六芒星』が一体どんな奴らなのか。
大まかではある。荒療治のような粗っぽさもあるが、ジルバはハンナ達が何度も相対した存在であり、ガザドラがいた『六芒星』のことについて、少なからずどのような組織なのかを推測することができた。
その推測はこうだ。
まず――『六芒星』の本拠地に関しては誰も知らない。どころか噂なんて一つも出ない。
その噂関連にして見ても、どの場所でも『六芒星』に関する情報が一切出ない。
『六芒星』はテロリストでもあり革命家のような思考を持っている集団で、滅亡録に記載された種族達がお互いに手を取り協力し合ってこの国を変えようとしている。もしくはこの国を自分達の国にしてしまおうとしている……のかもしれない。
どちらがいいのかと言えば、後者の方がいいかもしれないが、その動きも一切ない。どころか聞かない。
『六芒星』がいるという情報があったとしても、その行動が街ではなく街ではない簡素で一部の人間しか知らないような場所に現れ、行動を起こす。
逆にもういないという情報になれば、突然街に現れたり奇襲の様に攻撃を仕掛けてくる。
まさに神出鬼没。
だが神出鬼没と思えば、いつの間にか姿をくらまして雲隠れ。
まさに風のように去る。
以上が――大まかな『六芒星』について。
これらのピースを集め、そしてそれを脳内の額に埋めるように嵌めていくジルバ。
ぱち、ぱち――と、パズルのピースがどんどん額に収まり、数少ないピーズが埋まった時、ジルバはまだまだ埋めていないそれを見ながら推測をした。
――『六芒星』は確かに危険集団。でも行動があまりにも静かすぎる。且つ行動に出ると人の目につきやすい。
――粗があると言うか、なんだか波が大きすぎる。
――目的も何もわからない。国を変えるという理由があるかもしれないけど、そうなれば彼らは王都を奇襲すればそれはそれでいいんじゃないのか? だがそれもない。どころか王都の古株の兵士に聞いても、奇襲なんてなかったって言っていた。
――それが指すこと。それは『六芒星』が王都にまだ奇襲なんてしていない証拠。国に入ったという証拠も痕跡も情報も一切ないと言うこと。
――詰まるところ……、まだ『六芒星』は王都に一歩も足を踏み入れていないと言うことになる。
――なぜ入らないのか? なぜ襲撃しないのか。そこがキーワードだ。
――入らない理由として、俺がその立場なら……、まだその時ではないから? 準備ができていないから? はたまたは何かを待っているのか?
――シェーラ達の浄化が終わった後で、喜びの不意を突いて襲撃と言うこともあり得る。けどその襲撃を待っている間にもしかしたらと言うこともある。
――ならそれが起きる前に襲撃をすることが常套手段のはず。
――だがそれをしない。どころか本命を後回しにして、他国で小さな騒動を起こすだけ。
――その騒動が一体、何を意味するのか……。
――もしかしたら。
とんでもないことをしでかそうとしているのかも……?
そう思ったジルバはそのとんでもないことを一旦心の中にしまい込み、それはないかもしれないと思いながらもそのことを頭の片隅にしまい込む。
そしてその早まった結論を言わずに、ジルバはみんなに向かって言おうとした。
情報収集はこれにて終了。あとは猫人の男の子と合流して、帰りましょうかネ。
そう言おうとした――瞬間だった!
 




