PLAY80 悲嘆①
唐突ながら――この場で時間を遡らせる。
遡る時間は、ハンナ達が王都に着いて、ハンナが気絶したその日だ。
その時王都ラ・リジューシュでは、今回異例となる二回目の『国王会議』が開かれたのだ。
年に一度行われるか行われないかと言う頻度で開かれる『国王会議』を二回も開くことは異例で、その召集を呼び掛けたのは――『創成王』である。
招集をかけた理由は――バトラヴィア帝国の帝王が失踪したせいである。
元々バトラヴィア帝国は『略奪の欲王』こと――ガルゼディルグト・イディレルハイム・ラキューシダー王十四世が統べている国であったが、その『欲王』が突然失踪したということを帝国に派遣した王都の兵から聞き、『創成王』はそのことに関して事態を重く呑み込み、今回の会議を開くことにしたのだ。
それが――その召集に応じて、前アムスノーム国王でもあり今となってはアクアロイア王でもある『改革の導王』……パルトリッヒ・ルーベントラン・ノートルダムが元バトラヴィア帝国に来て、レズバルダ、カカララマ、更にはカグヤ達とハンナ達を王都に連れて行こうとしたきっかけの根本である。
そしてハンナ達がアクアロイア王と一緒に王都に着いた後すぐに――『国王会議』が開かれた。
その時王都に集まった国王はこの前と同じ面々ではあるが、少し違うところがあったのも事実だ。
まず――アルテットミア王でもあり、『不動の盾王』の名を持つエルフの女性――ロズレイド・ウィズ・アルテットミア王十二世。
そしてアクアロイア王もとい『導王』の兄でもある最古参王の一人……、『奔放の見王』――二十七代目・ベンセントラレント・ルーベントラン・ノートルダム国王。
王の中でも特に謎を多く抱えているアノウンの王――『孤高の無王』と言われているナム王。
そして雪の大地の『戦乱の軍王』モトミヤ将……、ではなく……、モトミヤ将の孫娘――カナタ・モトミヤ。
『創生王』の古き友人であり、創世記の時からいる初代にして英知の種族――ボロボ空中都市の『英知の永王』アダム・ドラグーン王。
女神サリアフィアの血族とも言われ、天界からの人望もある、天界フィローノアの女王――『悲愛の涙王』メザイァ・サリア・ンレフィリオス王女。
そして最後に――新しく王に……、ではなく、前々帝王カカララマの推薦によって選ばれた王候補、そして王位継承が終わっている元『盾』の一人、レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッドがその場所にいた。
もちろん……、推薦をしたカカララマも同伴だ。
この状況の中、やはり姿を現すことができない『創成王』の代わりに、『創成王』の側近でもある鬼不神がその場に代理出席をして、今回異例となる『国王会議』が幕を開けることになった。
今回の議題は今やいなくなってしまったアクアロイアとバトラヴィア帝国の王を誰にするのか。と言うものであり、その議題に関しては案外すんなりと事が進んだ。
元々あの二人の王は日頃のことやマドゥードナで起きたことも相まって、前アクアロイア王は現在『永久監獄』に収監され、前バトラヴィア帝王も失踪と聞かされているが、あの時起きた暴動の最中、帝王であるにも関わらず何もしなかった。
そして色んな非道な行為もしたこともあって、帝王剥奪は時間の問題だったそう。
それが早まっただけの話で――結局前帝王に代わる新しい帝王の存在を決めなければいけなかったことを鬼不神は『創成王』の代わりに代弁した。
因みに――『創成王』不在の理由に関して言うと、他国との交流が突然この日に入ってしまったがため欠席をとらなければいけない状況になってしまったことになっている。
もちろん――『創成王』の姿を晒さないための嘘なのだが……。
そんなことで、結局正統な王位継承はとんとん拍子に事が進んだのだ。もちろん――前回のように反対する者もいなかったので、今回の会議はスムーズに事が進んだ。
今の状況で二人の王がいない (厳密には一人は急遽と言う形だけの王なので、事実上は一人しか決めるだけ)。且つその素質を持っているものを選ぶことが最初なのだが、前々帝王でもあったカカララマがレズバルダに対して王位継承をしたので、事実上もう決まっているようなものでもあった。
が、その場で決めたところで、正当な王位継承をしたという事実にはならない。
『創成王』や、『創成王』代理でもある鬼不神の前で、その王位を決めると同時に、王としての二つ名をもらってこそ――真の王位継承となる。つまりは……、王になるための手続きと言っても過言ではない。
その手続きを済ませ、アクアロイア王とレズバルダは――鬼不神の言葉を借りて『創成王』から与えられた王の名を賜ったのだ。
アクアロイア王は――前まで使っていた名をそのまま使うことに決まり、パルトリッヒ・ルーベントラン・ノートルダムはそのまま『改革の導王』として、アクアロイア王に正式に決まり……。
レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッドは今回の件で帝国の機能を失ってしまったその国は、もう帝国ではなくなり、その日からバトラヴィア帝国は『元バトラヴィア帝国』となり、レズバルダもとい――『再興の善王』の名を貰ったレズバルダ王は、新しく生まれ変わる『バトラヴィア共和国』のために――その身を国のために捧げると誓った。
この日から――二人の王が新しく加わり、それと同時に『創成王』からハンナ達にも話した大きな徒党を築き、アズール全土で協力をして『終焉の瘴気』立ち向かう旨を話したのだ。
これはもう冒険者達だけで解決できるようなことではない。他人事で済ませてはいけない。これを話し合いで可決か否決を決める様な安い事ではない。
国の存亡をかけた、アズール全国民と冒険者達の戦いでもある。
ゆえにこの議題に可決や否決を決めるようなことはしない。アズールの存亡をかけた戦いゆえ、協力をしてほしい。
その言葉を聞き、そして戦う意思を固めたのであろうか『盾王』と『見王』、そして『永王』と『善王』に『導王』とカナタは、『創成王』の言葉にすぐに承諾をした。
その言葉を聞いていた『無王』も、少しの間黙っていたが、『創成王』の言葉に承諾するように頷き、何かがあれば協力をしようと進言したその言葉を聞いて、鬼不神は微かに微笑みながら『無王』のことを見つめていた。
まるで――彼のことを知っているかのような目で…………。
これが――ハンナ達は来る一日前に行われた『国王会議』の内容。
この日を境に、アズールの国が大きく変わり、今まで参戦もしなかった国が『終焉の瘴気』打ち勝つために戦おうと決意をした瞬間でもあった。
その国の王が、その国に足をつけている魔女が、共に手を取り合って冒険者と共に戦おうと決めた歴史的瞬間の一ページが、今ここに刻まれたのだ。
ただ………。
そのことに関して快く受け入れていない王――『涙王』ただ一人を除いて………。
そして――時を現在に戻す。
□ □
「そっか……、むぃちゃんはそれからしょーちゃん達と一緒にいるんだね」
「はいなのです! ショーマさんすぐに足を滑らせたり何もないところで蹴躓いたり底なし沼に嵌ったりとむぃとコウガさんとデュランさんはショーマさんのせいで五年ほど命が削れてしまいましたよ。大変だったのです」
「……気持ちはわかる気がする。でもなんで王都にいたの? さっきから話を聞いていたんだけど、アクアロイアに向かおうとしていたのに……?」
「簡単な話ですが、船に乗った時ショーマさんなにも見ないで間違えて王都行の船に乗りまして、最初は間違えたからすぐにアクアロイア行の船に乗ろうとしていたら王都にいた砂のお国の兵士さんに捕まってしまいまして、むぃ達は違うと言ったのですが、ショーマさんが言った『ハゲ』発言のせいで即刻牢屋生活になってしまったのです。むぃ冷たい地面でのお眠は辛かったです……。背中やお尻が痛かったのです……」
「そうなんだ……。つらかったね。もっと早く行けば……」
「お姉さんが謝ることではありませんよ。これは百パーセントショーマさんのせいですから、それでそのあと……」
「ねぇむぃちゃぅんっっっっ!! はなっぺに変なこと教えないでっっっ! 全部俺の所為のように変換されているけど、むぃちゃんの失礼な発言とツグミの小声の毒舌、あとコウガの兄貴の『うぜぇ』発言も相まってこうなったんだって話してよっ! そのお話だと十中八九俺の所為のようになってしまうからやめてっ! 嘘は泥棒の始まりよっ!」
とまぁ、こんな感じで、私達は現在空の旅を優雅に楽しんで (?)いる。のかな……? でもまぁこんな風に和気藹々と話すことなんてなかったから、楽しく話していると言うことにしておこう。うん。
今私達は次の『八神』がいる国――ボロボ空中都市に向かうために、ドラゴンに乗って二週間の空の旅を満喫している。
アクアロイアでは一週間だけどボロボに行くためにはもう一週間かかるとなると、相当長い期間空の世界を満喫しながら英気を養えることになる。
なので私達は一番広い空間で久しぶりに会ったしょーちゃん達とコウガさん、デュランさん、そして猫人の女の子――むぃちゃんとエドさんと一緒に穏やかな会話を楽しんでいた。
その広い空間はまるで談話室のような空間で、畳のような少し広い場所と、いくつもの白い椅子と白くて大きなテーブル。その空間の中央にある円状の机はまるでバーテンダーのような作りになっている。円状のバーカウンターと十二個の丸椅子。その縁の中央には円状の食器棚が置かれている。丸太をくりぬいて作られたかのような食器棚にはにはグラスや食器。そして食器棚のしたには冷蔵庫のような四角い入れ物が組み込まれてる。
外も見えるような作り……。と言うか、上を見上げても横を見上げても空の世界が一望できるような世界が広がっている。その作りはまるでオープンカーのようなものを連想される。一応雨とかになったらボロボ空中都市で作られた特性のシェルターが発動して私達のことを守ってくれるらしい。
そこらへんは……、砂の国のようなものをというか、ハイテクなものを感じる。
そして私達は正座や胡坐をかいて座れるところで白くてふわふわしているクッションを抱いている私達と、胡坐をかいたり立ったり、椅子に座ったりして話をしていた。
このお話を提案したのはエドさんで、エドさんは出発早々私達のことを見て――
「長くなる旅で、お互いのことよく知らないと思うからさ――自己紹介がてらのんびりとお話でもしようよ。おれも話をしたいし」
と言ったことで、私達は雑談を開始したと言うことである。
あ、因みにイェーガー王子は別の部屋にいるらしいんだけど、私達は入ることを許されていないので門前払いだけど、仕方がないと思って割り切っているのも事実。
さて――少し話が逸れてしまったのでお話を変えます。
最初に私達は各々自己紹介をした。最初は私達から。そしてそのあとでしょーちゃんたちのチームが紹介をしたのだけど、その時私達は猫人の女の子の名前をむぃちゃんを知り、むぃちゃんはシャイナさんにクエストを頼んでエストゥガに向かったらしい。
その時にコウガさんと知り合って、それ以来エストゥガに残っていたのだけど、しょーちゃん達やロフィーゼさんと偶然鉢合わせになった後で交流を深めた時、ヴェルゴラさんと相対してしまい戦う羽目になってしまい、苦戦を強いられたけどなんとか勝つことができたらしく、その縁があってかしょーちゃんたちは一緒に行動することになったらしい。
……コウガさんはその時、グレグルさんに追い出されたとか言っていたけど、本当なのか定かじゃない。
そこまで聞いた私達は、しょーちゃんも大変なことに巻き込まれていたんだなと思ったけど、つーちゃんはその時呆れた目をしてしょーちゃんを見ながら……。
「本当こんな奴と一緒にいたら僕も巻き込まれるから嫌なんだけど。マジでやめてほしいを巻き添え」
と言っていたけど、それを聞いていたしょーちゃんは泣きそうな顔をしながらつーちゃんのことを睨みつけて「長い付き合いだろうがっ! 少しは大目に見てくれよっ!」と涙目になっていたけど……、つーちゃんはそれを無視したことは言うまでもない。
そのあとむぃちゃんが話した言葉を聞いて最初の言葉に至ったと言うことである。
「おいちょっとむぃの発言俺傷つきましたー! これは傷害罪に当たりまーす!」
「そんなメンタル問題で傷害罪に当たったらあっちこっちで傷害罪祭りだっつーの。んなことでその言葉を使うな。うぜぇ」
「アニキィィィィィッ! 無慈悲っっ!」
「兄貴っていうんじゃねえ」
「お前ら仲がいいな」
とばっちりを受けてしまったしょーちゃんは泣きそうな顔をして……、あ。もう涙流しているから泣いているか……。しょーちゃんは泣きながらむぃちゃんに向けて指を指して叫んでいたけど、それを聞いていたコウガさんが呆れた目でしょーちゃんのことを睨みつけていた。
その光景を見て、しょーちゃんの涙腺ダムが結果して大泣きしながらコウガさんに向けて手を広げようとしたけど、コウガさんはしょーちゃんの顔面に蹴りを入れて止めながら突っ込みを入れると、それを見ていたキョウヤさんが驚いた目をして言葉を発した時、それを聞いていたシェーラちゃんがしょーちゃんのことを見て一言……。
「子供を責めるとかどういった神経しているのよ。今すぐ転生していい大人になりなさい」
「死ねって言っているのかこの野郎っ! 皆さん緊急事態です! エマージェンシーですっ! この魔人俺に向かって死ねと言いましたっ! 心傷つきましたっ!」
「そのくらい悪いって言っているのよ。と言うか五月蠅い。少し黙ってて。口閉じてて」
「チャックゥッッ!?」
………一言じゃない。こうなったら毒舌に等しいような言葉。
シェーラちゃんのその言葉を聞きながら、初めて経験したしょーちゃんは大泣きしながら床に拳を叩きつけた。
最後の言葉だけ……、半音高い音色で叫びながら……。
その叫びを聞いていたエドさんは「はははっ」と笑いながら私達のことを見て、椅子に腰かけて器用に胡坐をかきながら――
「いやー。面白いねみんな。おれが見てきた人達よりもすごく面白いよ」
と言っていたけど、それを聞いた瞬間しょーちゃんは突っ伏していた頭をガバリを上げて、エドさんのことを涙目で睨みつけながらこう叫んだ。
「面白がるんじゃねえこののっぽぉっっっ!」
魂のソプラノを上げながら……。
そんな叫びを聞いていた私は困ったように笑みを浮かべながら「あはは……」と零すと、それを見ていたアキにぃが私のことを見て安堵の笑みを浮かべながら胡坐の状態で前のめりになりながらこう言った。
「久し振りの団欒だね」
「うん。なんかホッとする」
「俺も思ったよ」
「ふふ。同じだ」
アキにぃと会話しながら私はくすりと微笑みながら口元を手で隠す。アキにぃの言った通り――今行われているこの空間は久しぶりの空間で、今まで殺伐としていたそれを忘れさせるような時間だった。
なんとも穏やかで楽しい空気。
あの時感じていた殺伐を空気と同化させて消していくような時間。
その時間はまるで時が止まったかのような気持ちをどんどん膨れ上がらせて、この時間がいつまでも続いてほしいと思えるような雰囲気を出していた。
私自身こんな楽しい空気が終わらないでほしい。そう思っていたけど……、それと同時に物足りなさを感じていたのも――事実。
物足りなさ。
それはこの場所にいる人のほとんどがわからないかもしれないけど、私や多分しょーちゃん、つーちゃんはきっと物足りないと感じるだろう。
私達三人しかわからない感情――それは誰かがいないという物足りなさ。喪失感。
そう――メグちゃんがいれば、と思ってしまうのだ。
メグちゃんがいれば、もっと楽しくなるのではないか? そんな思考が頭の片隅を飛び交い、私の楽しい気持ちをどんどん沈下させていくのだ。
しょーちゃんとつーちゃんは物足りなさで止まるかもしれない。けど……、私は違う。
私は知っている。メグちゃんが今どこにいるのか。
今メグちゃんがジエンドとヴェルゴラさんと一緒になって行動していることを――私は知っている。だからこの喪失感は大きいものだった。
そんなことを思いながら俯いていると……。
「そういえば――まだ聞いていませんよね?」
「?」
突然むぃちゃんが私達のことを見ながら満面の笑みで聞いてきた。
それを聞いた私達は首を傾げながらむぃちゃんのことを見ていると、むぃちゃんは私達のことを見てこう聞いてきたのだ。
「お姉ちゃん達は一体どんな冒険をしてきたのですか?」
むぃちゃんの言葉を聞いた瞬間、私は今までの穏やかに流れていた空気が一気に変わるのを感じた。
もしゃもしゃを使わずともその空気は肌で感じられた。
穏やかな空気は一気に氷点下にまで下がり、そしてそのまま氷河期に入るような寒さになる様な急変。
急変した理由なんて簡単な話――話そうか話さないか迷っていたから。
なぜ迷う必要がある? 素直に話せばいいじゃないか。
そう思うかもしれないけど、私はおろか、アキにぃ達だってこのことを簡単に口にすることはできないと思ったのだろう。皆少しだけ俯いて言葉を詰まらせている。
しょーちゃん達やエドさんは首を傾げて私達のことを見ている。
むぃちゃんは私達の空気を察したのか、おろおろして慌てた顔をしてワタワタとしてあたりを見回すように左右に首を振っている。
その光景を見ていた私は、さっきまで流れていた空気を変えてしまったことに深く後悔をし、そして謝りたいという気持ちが込み上げてきたけど、その言葉が喉の奥から出ない。
まるでその言葉を出す場面ではないと喉のダムがせき止めているかのような感覚だ。そして……、この場で本当のことを話せと促しているようにも感じられた。
私達リヴァイヴしか知らないこと。
それは今までの戦いの最中で再会したメグちゃんのことを話さなければいけないと言うことだ。
「はなっぺ?」
「はなちゃんどうしたの? もしかして……、何か嫌なこととかされたとか?」
「もしそれがあったら俺がぶっ殺していますけど?」
「「でしょーねー……………………」」
しょーちゃんとつーちゃんが私達の違和感を察知したのか、何があったのかと聞くと、それを聞いていたアキにぃが真顔で真面目な音色で返すと、それを聞いていた二人は青ざめた顔をしてそっぽを向きながら引きつった笑みを浮かべていた……。
私はそんなしょーちゃん達に対して真実を話そうか。話さないかという瀬戸際に立たされて悩んでいた。
メグちゃんはあんなことを言っていたけど、しょーちゃんとつーちゃんはそれでも友達として見ていた。接していた。みゅんみゅんちゃんにも話さないといけないから、私はその二択に頭を頭を抱えてしまう。
今話した方がいいのか? それともはぐらかして逸らすか?
でもはぐらかしたとしても、結局は話さないといけないときがくる。
そして……、メグちゃんに再会した瞬間、しょーちゃんとつーちゃんが私と同じ運命を辿るかもしれない。
そうならないためにも……、やっぱり、話した方がいいのかもしれない……。
私はそっと左上を見上げる。
その視線の先にいたのは――腕を組んで私の視線に気付いたヘルナイトさん。
ヘルナイトさんは私の顔を見て、そして辺りを――アキにぃ達の顔を見て一瞬黙ると、すぐに私の方を見降ろし、そして静かに頷く。
頷いたそれを見た私は、その返事をイエスと捉えて、私はしょーちゃんのことを見て、静かに言った。
「そうだね……。長くなるけど、いい?」
その話を聞いて、しょーちゃんたちは疑問を持った顔で互いの顔を見合わせたけど、すぐに誰もが頷いて肯定をする。
私はそれを見て、しょーちゃん達に向かって私が知っている限りのことを話した。
しょーちゃん達に話したことは、もちろんこれまでの戦いの日々。
エストゥガのサラマンダーさんの浄化。『腐敗樹』での悲劇と激闘。
アムスノームで起きた暴動と浄化。
アルテットミアで起きた『六芒星』との死闘。
聖霊の緒での戦いや亜人の郷の戦い。
マドゥードナで起きた裏切りや戦い。
国境の里での再会やその時に起きた死闘。
エルフの里での戦いも話したし駐屯医療所での出来事はアキにぃ達が話してくれて、その時に起きた裏切りもこと細やかに話した後、『デノス』。元バトラヴィア帝国の戦いも浄化も話して……。
メグちゃんのことも話した。
それを聞いていたしょーちゃん達は言葉を失ったかのように愕然としてて、むぃちゃん達も驚いた顔をして見ていたけど、デュランさんだけは私達の話を聞いて驚いている雰囲気を出していたけど、デュランさんは平静を装った音色でヘルナイトさんの方向に体を向けながらこう聞いてきたのだ。
「ヘルナイト――貴様もジエンドに会ったのか」
「! も? と言うことはデュラン、お前もなのか?」
「ああ」
ヘルナイトさんはデュランさんの言葉を聞いた瞬間驚いた顔をしてデュランさんのことを見ると、デュランさんは頷くように体を傾けて会釈をするように頷くと――続けてこう言った。
「アルテットミアで一瞬だけな。ショーマ。お前が異常な黒騎士と相対したときだ。その時に我も一瞬見たのだ。あの男を」
「アルテットミア……だと?」
「ああ、最初はなぜこんなところにいるのか不思議に思ったが、今聞いた話を聞いて合点がいった。ジエンドはその男のことを待っていたのかもしれない」
「何のためにだ」
「分からん。が、何やら良からぬことなのは察した。何なのかは――わからなかったがな……」
そんなデュランさんの言葉を最後に、誰も言葉を交わすことは無くなった。
さっきまで和気藹々としていた空間が一気に鎮火して、沈むような空気になってしまったのは一目瞭然だった。
私がこのことを話したせいでもある。けれど話さないといけないと思って話したのだけど……、結局こうなってしまう……。
私は思った。心の底から思った。
――人を傷つけずに話すことは、難しい……。と。
そんなことを思いながら、雲がまるで並みのように揺れ動く空を見上げる。
ドラゴンの背中から見上げる空は雲はあるけど、太陽が私達のことを照らしてくれているので、いい天気と言う言葉が似合うような空模様だ。でも――今の私の心の天気は曇り予報。
その予報を心に抱えながら、私は小さくため息を零す。零して……、そして続けて思った。
――なんで……、こうなってしまったのだろう……。
と………。
◆ ◆
そんな不穏を舞い込むような空の旅をハンナ達がしている頃――とあるところでは何やら騒々しいことになっていた。
否――そのような場面に入る前と言ったほうがいいだろう。
嵐の前の静けさと言う言葉があるが、この場合は嵐の危険地帯に入ってしまったかのような騒然が彼らに待ち受けており、それを目の当りにするであろうその者たちは、そのことが起きること自体知らなかった。
その騒然を垣間見る人物達は、とある冒険者一行。
これは――ハンナ達は空の旅を楽しんでいる最中に起きた出来事。
なにも知らずにその場所にいる冒険者たちが垣間見る壮絶とした戦闘の一場面と、そのあとに畳み掛けるようにして襲い掛かってくる悲嘆と愕然を描いた物語の一ページ。
……………………。
だが、その前に記しておこう。この騒動が起こる前に起きた――たった十行ほどの物語を。
関係ないかもしれない。しかし関係がなくても安心するような、ちょっとした小話を……。
◆ ◆
アクアロイア――亜人の郷周辺の森。
その場所はいつぞやかアキとジンジが激戦を繰り広げていた場所であり、その傷跡を残すように、地面を抉った爪の後、木の幹に突き刺さっている弾丸。斬られた木の亡骸。木に付着していた赤黒い渇き切った液体の痕などが、その場所で行われていた戦場の惨状を物語っていた。
まるで狼の爪によって切り付けられた痕が深く残っている木にそっと触れる何かの手。
その手はその傷跡を指でなぞるように一撫ですると、辺りを見回しながらその人物は言う。
「……この辺りで、アイツは戦ったんだな……。一人で……。すごいな」
僕だったらできないかもしれないな。
その人物は言う。顔の横から出る猫の耳をぴこんっ。と揺らし、辺りを見回してさらさらと木の葉の奏でを聞き取りながら、彼は零す。
その人物の功労を敬うように――男は言うと、その辺りにあるものを一瞥するように見回す。
とある人物から受けた命令を遂行し、これからもっと優位に事が進めるように、その人物は回りを見回し、とある太い木の幹の音のところに乱雑に落ちているそれを見つけ、駆け寄ってからしゃがみ、それを手に取る。
「………これか」
男は言う。手に取ったそれを見て言うと、男はそれを手に取った状態で再度あたりを見回す。
男が手に持っているものは――黒ずんで使えなくなってしまった繩だ。
微かに湿り気を含んでいるのか、縄の中で何か柔らかいものを掴むような感覚を感じた男は、それを掴んだ状態でその森にはないであろう真新しい何かを見つけて――その場所に向かって早足で近付く。
かさ、がさ、ざざっ。
木と服がすれる音が猫の耳に入りこむが、それもお構いなしに入る男。
そして――眼に入った場所に着いた瞬間、男は察した。
――ああ。なるほど。そう言うことか……。
そう思った瞬間、男は思った。
もし生きていたらなんていう淡い希望はとうになかったのだ。そしてここに来ても、結局無駄足だった。けど、無駄足ではなかった。と言うか――いいものを見ることができた。
そう思うと同時に、男はその場所はそっとしゃがみ――そして……、顔を少しだけ俯かせた。
何を考えいるなどない。しかしそれでも、その場所ですることを男はしたのだ。そして少ししてからすっと立ち上がり、一息つくように溜息を吐くと――
がざり。と、背後から音が聞こえた。
その音を聞いて、男は背後から聞こえた何かを見るために振り向く。
はっと息を呑むなどしない。
何の警戒もなく振り向くと――そこにいたのは……、死神のような服装をした大きな鎌を持った少年だった。
その姿は人間と思えばそう見えるかもしれないが、それでも人間離れしているような姿でもあった。
いうなれば――魔獣族。
その魔獣族の姿で現れた少年は、男に聞いた。
「どうですか? 収穫は」
死神の魔獣族の少年の言葉に対し、男は驚く顔を一瞬したが、その驚きを安堵に変えて掻き消し、そしてふっと笑みを浮かべながら言う。
「全然なかったよ。むしろ無駄足に近かった」
「でしょうね」
はぁ。と、溜息を吐く死神の少年。その溜息を聞きながら、男は「いいや」と首を振り、そしてもう一度目の前にあるそれを見つめながら、男は言った。
微笑ましく、心に残っていたしこりがきれいさっぱり消えたかのような笑みを浮かべて――彼は言ったのだ。目の前にいあるそれに向けて……、いい仲間をもったね。と思いながら。
「でも――ここに来たことに関しては、無駄じゃなかった。そう僕は思った」
「敵なのに?」
「うん。そう思う。敵であっても、仲間を見捨てるような仲間関係だったら、それでこそ本当の無駄足。それに――これがあると言うことは仲間の誰かがこれをしたと言うこと、それは仲間意識があってこそ。そしてその仲間意識があると同時に、この人がどれだけ親しまれていたのか。そしてどれだけその仲間達との絆があったのかが証明される。それだけ分かれば、大きな収穫と言わない?」
「……あったらあったで後味が悪いからじゃないですか? 僕でも、亜人の郷の人でもそうすると思います。あ、でもしないでしょうね。あの人達……、相当根に持っているって聞きましたし」
「それならそれで関係性が確信できるけど、それでもこれがあると言うことは――十中八九仲間がしたこと。その仲間がしたということは……」
「……………………」
「まぁ、生きていたらもっといい収穫があったかもしれないけど……、それも我儘だったね」
「ですね。見た限りのことを報告。と言うことでいいですか?」
「………そうだね。それじゃ……、二人と合流しようか。ズー」
「はい。カグヤさん」
そう言い、男――カグヤと死神に少年ズーは歩みを進めてきた道を戻る。
カグヤの背にあるそれから離れるように、ひっそりと、安らかに、静かに寝てほしいと密かに願いながらカグヤは歩みを進める。
彼の背にあるもの――それは地面に無造作に突き刺さっているが斜めになってしまっている石の板。その石の板はまだ真新しく、苔も生えていないもので、その石の背にある大きな太刀が斜めに突き刺さっている。まるで石の板がそれを背負うように見立てて突き刺ささり、その太刀に括り付けられている赤い糸が木々を奏でる風と共にゆらりと舞い、その石の前には白い花が添えられ、その花弁もゆらりと揺れ、その土地に安息の風をもたらす。
この状態を見てカグヤとズーはその石からそっと離れるように、寝ているところをお邪魔してしまい、早々と足早にその場所から離れるように、彼らは歩みを進める。
この地で戦い、この地で二度負けてしまい、そしてとある冒険者の手によって命の危険に晒された『六芒星』の一人の末路を見届けて。
そして――草むらから顔を出すように身を乗り出しその場所から出た二人。一瞬枝に足を引っかけて転びそうになったズーも、「おっと」と声を漏らして体のバランスを崩しかけるも、何とか体制を整えて両足を地面につけるとカグヤは右手首を左手で掴み、そのまま上に向けて体を伸ばすとカグヤは言う。
「さて――この場所に『六芒星』はいない。っと」
「ですね。あとはアクアロイアとユワコク。マドゥードナと砂の国ですね」
「まだまだ時間がかかりそうだな……」
「音を上げないでください。あなたが引き受けたことなんです。僕達のせいにされても困りますから、しゃんとしてください」
「ズー達のせいにしないよ。でも、妹のために引き受けてしまったから、やるからには徹底的にやる。職業病なのか……、徹底しないと気が済まないからね」
「………掃除マニアみたいですね」
「生粋の作家だと言ってほしかったよ」
そんな話をしながらカグヤとズーは自分達の仲間が戻ってくるのをじっくりと待つ。
エドの言葉と『創世王』の言葉を聞き、ハンナ達に協力する胸を固め、アクアロイアにいる『六芒星』の情報を探るために――別行動をして情報を探っているコノハと航一。そしてもう一人の仲間の帰りを待って。
待って――五秒後……。
「ぎゃああああああああああああああっっっ!!」
遠くで待っている人物の声が――叫びが木霊した。




