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PLAY79 王都ラ・リジューシュ④

「え?」


 開口、と言うか、水晶玉から聞こえた声を聞いたアキにぃが、その言葉を聞いた瞬間あんぐりとした口で言葉を発した。


 でも……、アキにぃの気持ちは察してしまう。誰だってそうなってしまうだろう。


 アキにぃがあの言葉を発しなかったら、誰かがその『え?』と言うに違いない。


 私もその一人でアキにぃが言わなかったら私が言いそうになった。


 そのくらい驚いた。と言うか、驚きのあまりに驚きの表情ができなかった。


 理由は明白。ううん……、この場合は見た方が早いという言葉が正しいのかもしれない。


 だって……、私達の目の前にいるその人は人ではない。と言うか人なのか? という疑念がふつふつと湧き上がってしまうような状況だからだ。


 大きな大きなドアを開けてくれた鬼不神さんも、王様の椅子の傍にいるイェーガー王子は全然平然としている。


 いつも通りと言う顔をしてその場所にいるけど、私達初対面方からして見れば異常な光景だった。


 色んな経験をした身ではあるけど、こればかりは驚くどころか、固まってしまうことは必然だと思った。


 なにせ……、私達の目の前にというか……、王様が座るであろう玉座にいる存在が人ではなく物で、その物が水晶玉で、その水晶玉が中心から光を放って言葉を発しているのだから、驚くのも無理はないし、驚きを通り越して愕然としてしまうのも――無理はないだろう……。


「これが、王様?」

「『創成王』なの? このガラス玉が?」

「これまたけったいな……。長生きをしているといろんな珍しいものを見れるのだな」


 キョウヤさん達も驚きのあまりに目を点にしているし、虎次郎さんの言葉を聞いても、キョウヤさんは突っ込むことをしない。そのくらい唖然としてる証拠で、それくらい混乱している証拠だと思う。


 だって――みんなのもしゃもしゃがマーブル色になって混ざっていき、その混ざりも微妙な色だから、混乱のあまりにどんな反応をすればいいのかわからないんだ。


 私も……、その一人です……。


『驚かせてすまないな。できれば私自身の姿で会いたかったが、現状私自身で姿を現すのが難しい。それゆえにこの姿で出ることを許してほしい。武神。そして武神と一緒に行動する異国の冒険者達よ』

「――っ!? 喋ったっ!?」

『先ほども喋ったはずだが?』


 水晶様越しに聞こえた『創成王』の声に、アキにぃは肩を震わせるように引きつった声を上げて小さな叫びを上げると、『創成王』はアキにぃのことを……見ているのかな? 一応そう言うことにして……、アキにぃのことを見て『はて?』という声を上げる『創世王』。


 その光景を見ていたイェーガー王子は困ったような微笑みを浮かべ、鬼不神さんは呆れたような溜息を吐き捨てる。


 アキにぃはわなわな震えながら引きつった笑みを浮かべている。顔も青く染まっているので、アキにぃ的にはお化けを見たかのような感覚なのだろう……。


 今の今まで忘れていたけど、アキにぃ……、お化けとかホラー系苦手だった……。


「お師匠。これは一体……」


 でも、ヘルナイトさんはその光景を見ても驚く仕草をしないで、冷静な面持ちを保ちながら凛とした音色で鬼不神さんに聞いていた。


 ヘルナイトさんのもしゃもしゃも私達と同じマーブルだけど……。


 そんな状況でヘルナイトさんが鬼不神さんに聞くと、鬼不神さんは私達がいる方向を振り向きながら『創世王』 (?)のことも見てこう言う。


 いたって冷静で、もう慣れたかのような音色で彼女は言ったのだ。簡単な説明で……。




「見た通りさ――あの水晶玉が()()『創成王』の姿だよ。この王都を統べている存在として君臨する第四十五代目国王。シャロワーダ・リジューショ創成王()()さ」




 と言った。


 困惑のせいで驚きのまま固まっている私達と、目を点にして固まってしまったアキにぃに平然と告げて。


「あれが……? 想像と違う。と言うか絶対に違うだろうっ!? だってそんなことありえないし、水晶玉から言葉を発するだなんて電話じゃないんだかふぁっ!」

「アキ落ち着け。あと呂律が回ってない」

「だってあの水晶玉が王様なわけないだろうっ!? なに? 水晶玉に人魂的なものが入って喋っているっていうの? ファンタジーがホラーになっているし! このままじゃ俺達呪われちゃうよっ! 人魂に取り憑かれて日に日に衰弱してしま」


 でもその硬直からいち早く抜け出したのか、アキにぃがはっと息を呑むように気付くと『創成王』のことをじっと目を下敷きの細さくらいに細めてじっと見つめると、アキにぃは首を傾げて腕を組む。


 そして長い長い口論の末――何かを言おうとした瞬間――




「アキッッッ!!」




 続けて意識を取り戻し、アキにぃの言葉に危機感を感じたキョウヤさんの手によって――ううん。尻尾によって口を塞がれてしまう。


 しゅるんっ! という音と共にアキにぃの口元にそれが巻き付き、それを受けてしまったアキにぃは「むぎゅぅ!?」というへんてこな半音高い声を上げて驚きのそれを私達に見せる。


 顔を真っ赤にしてキョウヤさんの尻尾の拘束を両手でほどこうとしているアキにぃ。気道と言うか……、呼吸が塞がってしまっているのか足をバタバタとばたつかせてる。


 その光景を見たとしても、キョウヤさんは尻尾をほどくどころか、口元に人差し指を添えて、口の形を死角にして必死な形相で「しぃーっ」と息を吐いた。


 静かにしろと言わんばかりに……だ。


 そんな光景を見ていたシェーラちゃんがみんなに見えないようにグーサインを出したのは、私だけしか知らないことで、虎次郎さんはキョウヤさんのことを見て珍しく驚いた顔をして――


「背伸びするほどその口を止めたかったのか……?」


 と言っていた。


 確かに、キョウヤさんはアキにぃの口を止めるために、その場で背伸びをして口を尻尾を使って塞いでいたけど……、アキにぃの言葉にも原因があるから、今はあまり言わないでおこう……。


 そんなことを持っていまだに口を塞がれてもがもがと手足をばたつかせているアキにぃを見ていると……。


『よい。そう言われることにはもう慣れた』

「!」


 私から見て正面から声が聞こえてきた。その声を聞くために正面を向くと、鬼不神さんの前にいる――『創成王』が私達に向けて言葉を発した。


『信じられないのも無理はないな。誰が見たとしても、私のこの姿は異形だろう』


『創成王』は水晶から言葉を発して、アキにぃの言ったことに対して許し、そして怒っている素振りなどないような音色で言う。


 その言葉を聞いた私達は、驚きと気まずさを合わせたような、複雑な心境で『創成王』のことを見る。


 発端を招いたアキにぃは未だにむごむごともがいているけど、キョウヤさんはその尻尾の拘束を解こうとしない。


 また何かを言うのかもしれないという警戒かもしれないけど、ひどい話……、誰もアキにぃのことを一瞬忘れかけてしまっていた。


 理由は至極簡単。


『創成王』の言葉に偽りなんてないような音色だったから。今までこんなことを受けてきたかのような音色だったから……。


 そんなことを考えていると……、その玉座にある『創成王』の水晶玉を手で包み込むように掴んで持ち上げたイェーガー王子が、その水晶玉を見つめながら私達に説明をしてきた。


「この水晶が私の父と言われても、にわかに信じられないだろうが――厳密には、()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったほうがいいだろう」

「水晶玉を通して? 益々(ますます)わからないわよ。どういうことなのかしっかりと説明して……っ! ………ください」


 イェーガー王子の言葉を聞いていた私達は、更に首を傾げていたけど、私達の疑問に対して、代表して質問したシェーラちゃんはイェーガー王子に向かっていつものようにツンッとした面持ちで聞いたけど……、鬼不神さんの顔を見て、その背後から出ている怒りのもしゃもしゃを見た瞬間、すぐに敬語に変えて聞いたシェーラちゃん。


 ……私も鬼不神さんの雰囲気を察した瞬間、背筋に寒気が走ったから、気持ちはわかるよ……。うん。


 でも、イェーガー王子は優しい人だから――シェーラちゃんの質問に対して返答するように、水晶玉を見落としながら『創成王』に向かって聞いた。


「父上……」

『ああ、イェーガー。話してくれ。私の代わりに話てくれ。こうなってしまった理由を話さねば、誰も信じないだろう』

「……………………」

『鬼不神。助太刀をするな』

「はい。仰せのままに」

『イェーガー。包み隠さず話せ。いいな?』


 その言葉に対して、イェーガー王子は一瞬躊躇うような、悲しいような、苦しそうなもしゃもしゃをゆらりと放ち、それを少しの間ゆらゆらと揺らしていると、その揺れが止まると同時に静かに頷いた。


 その光景を見ていた鬼不神さんも『創成王』の話を聞いて深く頭を下げて頷く。そして王子のことを見て何かを悟ったのか、静かに溜息を零して私達の方を向く。


 イェーガー王子と同じ、私達のことを見て、『創成王』――つまりは父の言う通りに、イェーガー王子はそっと、その小さな唇を開いた。


「……わかった。わかるように説明をしよう」


 そう言って、王子は私達に向かって――知らない私達に足してちゃんと、包み隠さずに語った。


「父がこうなってしまったのは、今から十五年前だ。その時は『終焉の瘴気』に対しての対策を練っている時で、私が小さいときだったからよく覚えている。その一年間のことも、その時起きたことも鮮明に覚えている。あの日――父は他国の王と共に対策を練ろうと『国王会議』の開廷の書状を出そうとある場所に向かっていた時だった」

「その時私と王子が一緒に向かい、王子に今後の経験も兼ねて見るように言い、私は護衛のためについて言ったんだよ。王都の王様しか入れない()()()()()にね」

「秘密の場所……、ねぇ」


 王子と後から入ってきた鬼不神さんの言葉を聞いていたキョウヤさんは、アキにぃの猿轡(さるぐつわ)をやめて腕を組みながら話を神妙そうに聞いてあぐねる。


 そして虎次郎さんがその話を聞いてから、王子に向かって流れるように挙手をしてこう聞いてきた。


「話を折るようなことをして申し訳ない。王子よ――一つ聞きたいことがあるですがよろしいかな?」

「なんだ?」

「その秘密の場所とは一体どんなところなのかを聞きたい。秘密であるのならば返答せずともいいですぞ。これは一人の老人のつまらぬ興味心(きょうみごころ)でありますが故」

「そうか……。しかしその返答に対しては答えることが難しいが、答えるのであれば、その場所は王都の王になったものしか入れない場所であり、私も()()()()()()()()んだ」

「ほほぉ……。入ったことが、()()とな?」


 王子の言葉を聞いた虎次郎さんはうんうん頷きながら成程……。と言おうとしたけど、王子の最後の言葉を聞いた瞬間、目をひん剥かせながら素っ頓狂な声が出そうな声を出して返答に対して異議を唱えた。


 その言葉に対しては私達も驚きの顔をしてしまったけど、王子は私達の疑問に対して付け足すように――


「ああ、そうだ。その場所には私も入るはずで、その場所に入るためには王位を継承したもの――代々王が受け継いだ王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)がないと入れないのだ。恥ずかしながら、私はまだ王子。継承もされていない身であるが故、父が入れた場所に入ることができないのだ。あの場所に真実があると言うのにな……」


 と言った王子。その話を聞いていた虎次郎さんは納得したように「なるほどな……」と頷いていた。


「ろいやっと・あーくてぃくふぁくと? 初めて聞いたな……」

「アキにぃ、もしかするとだけど……、それって、カカララマさんがレズバルダさんに託したあの砂時計と同じものなんじゃないかな? だってアークティクファクトって言っていたし……、あの砂時計を出した時カカララマさんアークティクファクトって言っていたから」

「ああ、確かに、昨日のことだけど、すっかり忘れていたよ……。ハンナよく覚えていたね」

「えへへ……」


 会話の中で納得する反面、聞いたことがない言葉が出てきたと思った私とアキにぃはひそひそと小さい声で話していた。


 アキにぃは王子の言葉から出てきた『ロイヤット・アークティクファクト』のことについて、私はすぐにそれがレズバルダさんがカカララマさんから受け取った砂時計――『継ギシ砂ノ枷』と同じものだとわかった私は、すぐにアキにぃに伝えると、アキにぃははっと思い出したような顔をして私のことを見降ろし、驚いた顔をして褒めの言葉を言う。


 私はその言葉を聞いて、こそばゆい感覚を覚えつつ頬を指で掻いて汗を少しばかり飛ばす。


 そんなことを話していると、イェーガー王子は私達に対して続きを語り始める。


 その時自分が見たことを、包み隠さず――


「あの時、父は秘密の部屋で確認したいことがあると言い、先に一人だけ部屋に入った。その時の部屋は暗く、全容が見えなかったが、広い事だけは理解できた。が――先に行かせたとにより、父がこのようなことになってしまったのだ」


 そう言って、王子は手の中に納まっている『創成王』……、の声を通している水晶玉を見降ろす。


 見降ろしてからイェーガー王子は続けて言う。真剣で、あの時のことを忘れていない。そう私達に対して目で訴えるように、王子は鋭い眼光で言った。


「父が秘密の部屋に入ると同時に、大きな叫び声が聞こえ、その声を聞いた私と鬼不神は何とかしてでも入ろうと奮起したが――継承されていない私と開けることができない鬼不神では開けることもできず、私達はそのドアの外で言葉を発することしかできなかった。叫んで安否を聞くことしかできなかった。次第に聞こえなくなる声を聞いた瞬間、父の死を確信してしまう自分がいたのも……、事実だ」


 そして――そう言葉を一旦区切り、気が荒れそうになったのか、感情が揺られたのか、王子はその場で息を吸い、そしてそっと吐いて気持ちをなだらかにした後、王子は繋げるようにこう言葉を切り出す。


「だが、それだけならばよかったかもしれない。死ならば、どれだけ楽だったのかと、私は今でも思う時がある。()()()()()()()()()と思っている」


 イェーガー王子の言葉を聞いた瞬間、私達は言葉を失うような愕然を感じ、頭上から鈍器のようなものが落ちてきたかのような衝撃を受けた。


 簡単な理由として――父親に対して……、私はその父親が肉親ではない。イェーガー王子は鬼族で、イェーガー王子は『創成王』に助けられた関係と言うことは知っている。けど……、それでも本当に父ではないけど……、それでも父親のことを慕っているとみんなは思っているはず。


 そう思っていたけど……、イェーガー王子の言葉を聞いて、私やみんなは、なぜそんなことを言うんだという顔でイェーガー王子のことを見つめていると……、虎次郎さんは前に一歩足を出して、イェーガー王子のことを見ながら声を張り上げ――


「――っ! その言い方は儂であろうと聞き捨てならんっ! 父親に対してその言い分は」


 と言った瞬間……。




           『――慎め』




「っ!?」


 突然、水晶から声が――『創成王』の声が聞こえた。低く、氷のように冷たく、背筋を這うような声色とで、『創成王』は虎次郎さんに向かって――私達にもとばっちりがくるような音色で言い放ったのだ。


 その声を聞いた虎次郎さんはぎょっとした顔立ちで固まり、体中に電流が走ったかのようなびくつきをした瞬間、ガチゴチに体を固めてしまった。


 私達もそれを聞いて仰天したかのような顔で口を横一文字にして固まると、その顔を見てか、水晶から『創成王』はこう言った。


『今は黙って話を聞いてくれ。お願いだ』

「ぬ……………………うむ」


『創成王』の言葉を聞いて、虎次郎さんは複雑な顔を珍しく私達の前で出すと、その言葉に従うように一歩前に出ていたその足を元の場所に戻して、再びイェーガー王子の話を聞く体制になる。


 表情は納得がいかないような複雑な顔をしていたけど……。


 虎次郎さんの行動を見た王子は話してもいいなと納得し、小さな呼吸をしてから王子は話しを続けた。


「……話を戻そう。私自身これは本心だが……、それと同時に父を思っての言葉でもある。父の()()姿()を見たら、誰であろうとそう思うからだ。苦しむくらいなら、いっそのこと……と言うことだ」

「……あの姿?」


 王子の言葉を聞いた私は、首を傾げながら王子に聞くと、王子は一瞬視線を下に移し、水晶玉を一瞥する。


 その光景を横目で見ていた鬼不神さんはそんな王子のことを見守るように、何も言わずにいた。


 その一瞥が長く続くのか、そう思った矢先――王子はその視線を私達に移して見据えると、再度息を吸い、頬に伝った汗を拭わないまま王子は語りを再開した。


 理由をこと細やかに伝えるように――


「疑問に思うだろう? なぜそう思ったのか。確かに普通に聞けば、薄情と思われても仕方がない。だが……、今の父の現状を知れば、そう思うのも無理はないんだ」


 ()()()()姿()()()()()――な。


 そう言って、イェーガー王子は私達のことを見る。困惑して、驚きながらも王子のことを見ている私達のことを見つめて……。


 何を求めているのかわからない。何も求めていないのかもしれないけど、それでさえわからない。けど王子は私達の反応、返答を聞かずにそっと目を閉じて、ゆっくりと瞼を開けると、王子は意を決するように私達に向かって言ったのだ。


 衝撃の事実を。


「一人になって少ししてから、秘密の部屋のドアが開いたんだが、そのドアが開いたとき、父のことを見た瞬間、一瞬何が起きているのかわからなかった。どころか、現実なのかと思ってしまった。今思えば無理はないだろうが……、現実として受け入れるしかない。そう思ってしまった」


 そう思うと同時に、現実として受け入れると同時に私は愕然としてしまった――父が、『創成王』と呼ばれた父が地面に突っ伏し、這いずりながら私に手を差し伸べて、助けを求めていたんだ――


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……な」


 その言葉を聞いた瞬間、私は愚か、みんなの顔が強張った状態で固まっていた。私はその顔の状態で固まりつつ、その時の状況を想像で構成して想像した瞬間、私はどんどんとだけど、イェーガー王子が言いたいことを察し、『創成王』がなぜ水晶玉越しなのかを察していた。


 黒い靄を覆ったいくつもの小さな黒竜。


 蛇のように王の前進を覆い、締め付ける。そして苦しんで助けを求め、それを受けた王は今人前で出れない状態。それが意味すること――それは……。


 そう思った時、今の今まで黙って聞いていたヘルナイトさんが王子に向かってこう聞いてきた。凛としているけど、その音色には神妙さも含まれているような、そんな音色で――


「まさか……『創成王』は今()……?」


 そのヘルナイトさんの質問に対し、イェーガー王子は無言で返した。


 その返しは無言と言う名の黙秘ではなく――無言と言う名の、肯定として。


 その言葉を聞いた瞬間、私はぎゅっと握りこぶしを胸のあたりに作り、その握りで落ち着きを取り戻そうと必死になって胸の辺りのスカーフの留め具を握りしめる。ぎゅううっと、それはもう力一杯。


 誰もがその言葉を聞いて絶句した面持ちでいると、王子は最後の言葉を紡ぐように、神妙な音色と共にこう締めくくった。


「ああ。武神の言う通り――父は現在体中に巻き付いている黒竜を纏った状態で横になっている。体も何も動かせない状況で、今もなお体を締め付ける痛みに耐えている。言葉だけが話せることが幸いだった。だから今この姿を他の王達に見せることはできない。国民にこのことが晒されてしまえば混乱の渦になってしまう。世話の方は世話係がしているから大丈夫だが……、私達にも被害が及ばないように、父は一人部屋に籠って隔離状態になっているが、通話だけでもと思い、父はこの魔道具――『魔水晶鏡』を使って私達と話している。いいや、これがないと話せないんだ。父は」


 これが――私が知っていることで、父が本物である証拠だ。


 そう言って、イェーガー王子は言葉を終えた。


 長い長い話に思えたけど、短くも感じるようなお話。


 そのお話はどことなく現実にも似ているようなお話で、私はその話を聞いて、他人ごとに思えなくなった。むしろ――そのようになってしまった『創成王』のことを心配してしまった。


 突然襲われ、突然動けなく体になってしまった『創成王』。それは現実世界で言うところの不慮の事故のようなもの。


 そして長い間動けなくなってしまったことも現実の世界にあるかもしれないこと。


 そうなり、言葉しか反せない状況になってしまったら、誰だってこう思ってしまうだろう。


 苦しいんじゃないか? 辛いんじゃないか? 本人は何も言わないけど、内心は苦しくて苦しくて辛いんじゃないか? こんな苦しみが何十年も続くのならば、こんなことがなければよかった。苦しみから解放してあげたいけどできない。


 そんなジレンマが沸き上がってしまう。


 それを聞いていた私は、他人事ではない気持ちになると同時に、王子たちがどれだけ辛い思いをしているのか、身をもって……、と言ったらおかしいかもしれないけど、そのくらい痛感して知った。


『これで信用してもらえたか? 私はこんな姿ではあるが、それでも本物の『創成王』であることを知んぞてもらえたかな?』

「……言われずとも、です」


『創成王』の質問が突然私達に向かって飛んできた。


 ハンドボールのように跳んできたそれをヘルナイトさんが受けとり、それを『創成王』に向かって返すと、私達もヘルナイトさんと同意見であることを示すように、首を縦に動かして頷く。


 最初に私が頷き、次にキョウヤさん、シェーラちゃん、最初から半信半疑だったアキにぃも信じる姿勢に入り、最後に王子に対して物申していた虎次郎さんが一幕置いて頷いて、私達は王子が言ったこと――つまりは『創成王』のことを信じた。


 その光景を見ていた鬼不神さんは、腰に手を当て首を傾げながら――


「信じてくれてありがたいよ。普通の人が聞けばそんなばかげた話ありえないと言って信じないからね。事実……、見ていなかったあいつにこのことを話したら始終信じていなかったよ。最終的に王の姿を目にして信じたんだけどね。これなら――見せなくても信じているから安心したよ」

「むしろトラウマになりそうですよ」


 と言うと、鬼不神さんの言葉を聞いたアキにぃが真剣な目で、青ざめた顔をして声を荒げる。その光景は見たくない。それを表に晒しながら……。


 そんな私達の言葉を聞いていた王子の顔に、穏やかなそれが浮かんでいたような気がしたけど……、一瞬だったからよく見えなかった……。


 すると――『創成王』は水晶越しに私達に向かってこう言ってきた。


『現実――私は今も寝たきりの状態だ。だが話すこともできる。水晶越しならば見ることができる。意思疎通ができることは幸運と思っているんだ。息子の言う通りこのような姿での対話となってしまったが、気にしないでほしい』

「は、はい……」


『創成王』の言葉を聞いた私は、納得がいかないような気持ちもあったけど、『創成王』の言葉を尊重して私は頷いて言葉通りに従う。


 アキにぃ達も私と同じように頷き、そしてヘルナイトさんは『創成王』に向けて深く会釈をして、頭を下げた状態でこう言った。


 凛としているけど、どことなく後ろ滅入るような音色も兼ね備えて――


「『創成王』。申し訳ございません。我々『12鬼士』が万全の状態で『終焉の瘴気』を撃ち滅ぼしていれば、このような事態にはなりませんでした。このような事態を招いてしまったのも、我々の……、いいえ。私の傲慢さゆえ。守れるものを守れず、この国の王を守ることができず、誠に申し訳ございません……」


 と言うとそれを聞いていた『創成王』はやんわりと宥めるように『よい』と言い、続けて――


『この件に関しては私の浅はかな判断が招いた結果だ。誰も悪くない。これは私が私自身にかけてしまった呪いのようなものだ。気にするな。顔を上げよ――武神。貴殿らの行い。そして浄化の件もほかの王たちからよく聞いている。そして――息子からも』


 と、冷静だけどどことなく優しさが含まれているような――お父さんが子供に対して落ち着いて注意をしているけど、最後には優しく接するような雰囲気を出しながら言った『創成王』。


 それを聞いたヘルナイトさんは『創成王』の言葉通りに顔を上げ、静かに顎を引いて次の言葉を待つ。


 私達もその言葉を待つようにじっと仁王立ちの状態で構えていると……。イェーガー王子の手に収まっている『創成王』は水晶越しにくすりと微笑む声を出して……。


『そう気を張らなくてもいい。ここに呼んだ理由は戒めることではない。礼と、()()を述べたいだけだ』


 ん?

 

 と、私は目を点にして前を向く。そして首を傾げて『創成王』の言葉をもう一度頭の中で繰り返した。


『創成王』は確かに……、お礼と、提案を述べたいと言っていた。


 お礼は分かる。でも提案とはいったい何なのだろう……。何を提案するつもりなのだろう……。まさか、アクアロイア王のような提案をするのかな? エレンさん達のように、ラ・リジューシュを拠点に行動してくれと言うものなのかな?


 そんなことを悶々と、頭の中いっぱいに思い浮かべていると、きっと私と同じ疑問を抱いたのだろう。キョウヤさんが『創成王』のことを見ながらおずおずとした面持ちで挙手をしてこう聞いたのだ。


「あのー……、お礼は分かりますけど、一体何の提案をするつもりなんすか? オレ達全然理解できないんすけど……。突然過ぎて」


 そんなキョウヤさんの言葉を聞いた『創成王』は、驚いた声を一瞬だしたけど、すぐにその声を消すように威厳のあるような声を言ったのだ。


『そうか……、貴殿達は昨日(さくじつ)会っていなかったから知らないのも無理はないか。これは一昨日来た浄化に加担した者達には鬼不神から告げたのだが……、突然のことで重ねてすまなかった』

「あ、あー。いいえっすよ。大丈夫っす。こう言う突然は慣れてますんで」


『創成王』の言葉を聞いたキョウヤさんは頭をがりがりと掻いて、そこまで気にしていないような顔つきで『創成王』に言うと、王様は『そうか』と言って安堵のそれを吐くと、すぐに気持ちを切り替えたかのように私達に向かってこう言ったのだ。


『ならば――改めてこの場で話そう。まずは礼からだ。このアズールの世界を『終焉の瘴気』から少しずつだが、浄化してくれてありがとう。二百五十年もの間――成す術もなかったこの状況に希望の光を差し込み、守り神である『八神』を救い、国民を代表して感謝する』

「いやぁ……」

「あんたはただ妹の後ろをストーカーのように張り付いていただけじゃない。実際頑張っているのはハンナとヘルナイトよ。私達はそのサポート。あんたはストーカー」

「オイコラ一言多いけど? オイコラシェーラ」

 

『創成王』の威厳があり、張りのある言葉を聞いていた私は今まで感謝なんてあまりされていなかったから心臓の所や指先、後は足の先がなんだかこそばゆいような感覚を覚えて、頬が何だかつくなるような感覚を覚える。


 アキにぃは頭を掻きながら照れていたけど、シェーラちゃんの毒のある一言によってそれが一気に鎮火されてしまう。


 気持ちの上がり下がりが激しいアキにぃだったけど、キョウヤさんの一件があってかすぐに喧嘩になるようなことはなかった……。


 そんな私達のことを見ていた『創成王』は先ほどの音色に穏やかさを入れて『いいや。本当に感謝をしている。ありがとう』と言って、すぐその音色から穏やかさを引くと、私達のことを水晶越しに見つめてこう言ったのだ。


『そして――その浄化のことで一つ、私から提案があるのだ。その件で私は貴殿達を、そして浄化の旅で共闘をした者達に伝えたのだ。これから激戦となるであろう先のこと考えて――な』

「先のことを――とな?」


 王様の言葉に虎次郎さんが首を傾げ、腕を組みながら唸ると、その言葉を聞いて『創成王』は私達にある提案を告げたのだ。


 水晶越しでも伝わる――王の威厳を背後から出すような空気を私達にぶつけながら王様は言ったのだ。


『ああ。これから先のことを考え、大きな戦力が必要となる。しかし我が国やほかの国の兵力を合わせたとしても、魔女の力を合わせたとしても、怨敵『終焉の瘴気』を撃ち滅ぼすことはできない。武神。そして天族の冒険者が不可欠。いなければいけない。『終焉の瘴気』を撃ち滅ぼすためにはこの二人が飛うようなのだ。だが貴殿達六人だけで弊害となる多くの敵を倒すことは至難の業。その前に倒されてしまっては本末転倒。悪達が手を組んで奇襲をかけられてしまえば元の子もない。死霊族(ネクロマンサー)。『六芒星』。そして他国から来ているであろう裏の存在達。その者達の襲撃も考えた上で――私は提案を提示する』


 そう言った後、『創成王』は私達に告げる。


 きっと――()()()()()()()()()()()()()かもしれない。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を『創成王』は告げたのだ。


 想像よりも斜め上の提案を――


『この王都ラ・リジューシュを拠点に、貴殿達と浄化の戦いに加担したもの達と一緒に、この国のために戦う――()()()()()を作り上げる。それが私が提示する提案だ』



 □     □



 言葉を聞いた誰もが驚くだろう。


 いくつかの徒党を組んで戦うことは当たり前にあったけど、その徒党も最高でも三つ。それがゲーム上限界の徒党だった。


 けど、王様が言っていることはとてつもなく驚くことで、ゲーム脳であった私達では到底考えなかったことを言いだしたのだ。


 巨大な徒党。


 私達の旅で私達と関わった人達。浄化に関わった人達と一緒に手を組んで戦う。


 それを聞いた瞬間――私は思った。状況を理解したけど、それでも状況についてけないような気持ちを表したような思考を思ったのだ。


 ――とてつもなく大きなことを考えたんだなぁ……。と。

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