PLAY77 帝国の死、そして新しい国に――⑥
一体何が起きたんだろう……。
一瞬の間に、一体何があったんだろう。
私はそんなことを思いながらヘルナイトさんの腕の中にすっぽりと納まり、あの赤い血の波に呑まれたにも関わらず、赤く染まっていない服に驚きながらも辺りを見て更に驚きを顔に出してしまう。
理由は簡単だ。
だって最下層中に広がっていた血の波が、海……、池……? 湖……? うーん……。詳しいことは置いておくとして、とにかく最下層中に広がっていた血が一瞬のうちに無くなっていたからだ。
一瞬のうちに広がったと思ったら、一瞬のうちに無くなる。本当に一瞬の間だ。
一瞬のうちに血が無くなり、そして……、ジエンドとヴェルゴラさん、そしてメグちゃんがいなくなっていた。
まるで――そこにいなかったかのように、三人はその場所からいなくなっていた。
「いなくなった?」
その光景を見て私は呟くようにポツリと言う。いなくなっていたという驚きと、心にある喪失感とぽっかり空いた痛みだけが私の心を支配している状態で、私はぽつりと言った。
そんな私の話を聞いたヘルナイトさんが抱き寄せていたそれをほどいて、私のことを見降ろしながらヘルナイトさんはこう言ってきた。
「ああ、きっと逃げたんだろう。あれはきっと……、ジエンドの詠唱――『波血転召』だ」
「ナミテツケンショウ?」
「『波血転召』だ。言葉通り、血の波を使っての、ジエンドにしか使えない転移系詠唱。私が使う『『死出の旅路』と同じ詠唱でもある」
私の場合――攻撃と転移の二つの効力を併せ持っているがな。
そうヘルナイトさんは言う。
それを聞いた私は驚いた顔をしてヘルナイトさんの顔を見て話を聞くと、ヘルナイトさんは頭を抱えて少し痛むような顔をしたけど、すぐに元の顔に戻ると続けてこう説明をした。
今思い出したことを私に教えるように――
「だが、あの詠唱はジエンドが最も使いたくない詠唱でもあるんだ。あれを使うと、あいつは七日間戦えない状態になる」
「……戦えない? どういうことですか? 刀を持っているんですから、戦えるんじゃないんですか?」
「ああ、確かに普通に考えればそうかもしれないが、私が言う戦えないと言うものはそう言った簡単なものではないんだ。ジエンドは詠唱を使う時、鎧や刀にこびりついた血を使って詠唱を唱え、その血を武器として戦う戦法を得意としている。いうなればあの鎧と刀にこびりついた血はジエンドの第二の武器だ。そして詠唱の要と言っても過言ではない」
「詠唱の、要」
「ああ。そしてあの詠唱『波血転召』を使うと、ジエンドの体にこびりついた血がなくなり、詠唱が使えない状態になる。そうなるとジエンドも詠唱無しでは戦えない。『魔祖術』、『宿魔祖』でも、火力は強くない。だからあいつはあれを使った後は絶対に七日間戦わないようにしている。それを今思い出した」
「………七日間」
ヘルナイトさんの話を聞いて、私は再度最下層の周りを見渡す。
ぐるりと、視線を一蹴する様に、私は見渡す。
最下層の壁は赤いシミなんてついてない状態で、そんな紅いものなんて一滴もついていませんと断言できるような壁の色。
シェーラちゃんにしがみついていたアキにぃは、口に入ったのだろうか、ぺっぺっと唾と一緒に血を吐き捨てているけど、そんなアキにぃに対して鬱陶しそうにしているシェーラちゃん。あ、今アキにぃの顔をヒールで蹴った。
キョウヤさんにしがみついていたコノハちゃんと虎次郎さんは赤い液体がついていないことに驚きながらも、二人はまんざらでもない顔で『いい経験になった』と、逆に喜んでいたけど……、そんな二人を見ていたキョウヤさんは、握りしめている槍に力を入れて、低い音色で何かを言った瞬間……二人の顔から笑みが消え去り、逆に蒼白な顔を出して固まっている……。
仮面をつけていたはずのハクシュダさんは、レンさんをお姫様抱っこをしてするするとワイヤーアクションのように降りていき、そのままレンさんを下ろしてレンさんの心配をしている。
レンさんはそんなハクシュダさんに対して照れている顔で大丈夫と言っているように見える。汗を飛ばしているけど、大丈夫かな……?
シノブシさんはどこから出てきたのかわからないけど、セレネちゃんを横抱きにしていたけど、すぐにその場所から降ろして、またすぐにセレネちゃんの影の中に入ってしまった。
そんなシノブシさんのことを見ていたセレネちゃんは、溜息を吐きながら仕方がないな……。と言う顔をして自分の影を見降ろしていた……。
と言うか、シノブシさん影の中に入ることができるんだ……。ティズ君の詠唱みたい。
そしてここに来た帝国のレズバルダは………、うーん。ううん違う。この場合はさん付けした方がいいかな……? 一応助けてくれたから、レズバルダさんと言うことにしておこう。
レズバルダさんはあの時私に言葉を投げかけてくれたお祖母ちゃんを肩車して (名前は聞くのを忘れていた……)、気絶しているDrを抱えて地面に向かって着地した。
上から『ズルッ』と言う音が聞こえたから、きっと壁に刀を刺して難を逃れたんだと思う。
各々があの血の波の攻撃を逃れている中、私はなぜジエンドは最も使いたくない詠唱を使ったのかが、今やっと理解ができた。
ジエンドはきっと――メグちゃんとヴェルゴラさんを連れて逃げたんだ。
それしか考える他はない。そう私は思う。
きっと、ヘルナイトさんもそう思ってあんなことを言ったに違いない。
逃げる理由は多分……、分が悪いと思ったからだと思うけど……、逃がしてしまったことに対しては少し後悔もある。あの時私が話しかけなければ、もっと効率よく行けたかもしれない……。
ううん。もしかしたら逃げられる運命だったのかもしれない。
ジエンドは押し倒したシノブシさんのことを蹴って、そのあとで何かをする気でいたように見えた。
もしかしたらその時から逃げる算段を立てていたのかもしれないけど、今となってしまえば迷宮入りとなってしまっている真実だ。
だから逃げたことに対しては――反省しつつも、仕方がないのかもしれないという、複雑な感情を抱くことしかできなかった。
それと同時に、私は複雑さの中に取り残されている疑念に目を向け、そして向き合った。
私が抱いている疑念。それは――いなくなってしまったジエンド、ヴェルゴラさん。そしてメグちゃん。その三人のこと。その三人がなんであの三人なのかと言うことに対して疑念を抱いていたからだ。
ジエンドがなぜ、二人を自分の陣営に加えたのかは今となっては分からない。
そしてさらにわからないことと言えば……、ヴェルゴラさんとメグちゃんが、なぜジエンドの陣営に加わったのか。そこが気になって仕方がなかった。
ヴェルゴラさんが言っていた『断罪』も、あの狂気に満ち溢れたもしゃもしゃもどうしてああなってしまったのかわからない。
でも……変わらないところがあったのも事実だ。
変わらないところ――それは『腐敗樹』に入る前に感じた……、ゾワリと来た黒いもしゃもしゃ。赤や青など混ざっていない……。見たことも、感じたこともない黒いもしゃもしゃだけは、あの時から全然変わっていなかった。
でも、メグちゃんの件に関しては……、驚きの連続だった。
今まで仲がいいと思っていた――親友だと思っていたメグちゃんが、私やしょーちゃん達のことを恨んでいたこと。そしてあの時助けてからもいじめられて、それ以上のいじめも受けていたことも知った。
そのことを知った私は、あまりの衝撃な事実に絶句してしまった。
メグちゃんの言葉を聞いて心が折れそうになった。ヘルナイトさんのおかげでその心の折れることも無くなったけど……。
それでも、私は冷静な思考に戻って、メグちゃんのことを考えていると、更なる疑念を抱いた。
その疑念は――ヴェルゴラさんと同じように、なんでメグちゃんはジエンドと一緒に行動しているんだろうと言うことである……。
二人の目的はそれぞれ違う。ジエンドの目的も二人の関与は一切ない。それでも三人は一緒に行動しているから、疑念は大きくなるばかりだ。
それぞれの目的があるのに、それぞれの目的が違うのに一緒に行動する三人。
それが一体どういった理由があって行動しているのか…………、今となればその真相も分からない。
さながら闇の中……、あ、違うかな? 血の波によって流されて証拠隠滅された? の方がいいのかな?
そんなことを思っていると……。
「ハンナ」
「!」
突然、ヘルナイトさんの声が上から聞こえてきた。その声を聞いた私は、肩を震わせて上を見上げると、ヘルナイトさんが立ち上がっていて、背に大剣を納刀しながら私に手を差し伸べて――
「どうした? 大丈夫か?」と聞いてきた。
それを聞いた私は、驚いた顔をしつつも差し伸べられたヘルナイトさんの手を見て、そして再度ヘルナイトさんのことを見上げながら首を横に振り、控えめに微笑みながら私は言った。
「ううん。大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけなんです」
そう言って、私は差し伸べられたヘルナイトさんの手にそっと手を乗せて、その手を弱々しく握り返しながら立ち上がる。
脳裏に残っている三人のことがまだ気になるけど、それよりも私は体に来る倦怠感を感じて、よろけそうになった。けどそれを耐えるように私は踏ん張って持ちこたえた。
私のよろけを見てか、ヘルナイトさんは驚いた顔をしてて安堵の息を零し――私のことを見降ろしながら「本当に大丈夫か? 疲れているんだろう?」と聞いてきたけど、私はその言葉に対して「大丈夫ですよ。こう見えても私、タフなので」と答えた。
それを聞いたヘルナイトさんは、なんだかい痛そうな顔をしていたけど、言葉を呑み込んでなにも言わずに私のことを見ていた……。
「? ヘルナイトさん?」
そんなヘルナイトさんのことを見て、私はどうしたんだろうと思いながら首を傾げていると……。
「ちょっと――大丈夫?」
「! あ」
また突然後ろから声が聞こえた。その声を聞いた私は、また肩を震わせて驚くと (今度ばかりは変な声が出なかっただけ良しとしよう)、私はすぐに背後を振り向き、そして背後にいる人物を見た瞬間、私は声を漏らした。
あ。と――なんとも間の抜けた声を出した私は、背後にいたその人のことを見て――
「シェーラちゃん」と言った。
そう。私の背後にいたのはシェーラちゃんで、シェーラちゃんはいつもと変わらないツンッとした顔で私とヘルナイトさんのことを見てて、腕を組みながら仁王立ちになって立っていた。
その光景を見た私は、シェーラちゃんから出る赤いもしゃもしゃを察知したけど、そのことよりも私はシェーラちゃんに駆け寄りながら彼女のことを見てこう言葉を投げかけた。
投げ掛けた言葉は――いつものこと。
「シェーラちゃん、大丈夫だった? 傷とか、痛いところとかない?」
「ないわ」
さらりと、なんだかさばさばと言うか、つーんっとしている音色で言うシェーラちゃん。
その言葉を聞いた私は内心――きっとジエンドやヴェルゴラさん、メグちゃんの言葉に対して怒っているんだな……。と思いながら、私はシェーラちゃんのことを見つつ、みんなのことを見て私は安堵の息を吐きながら続けて言う。
「そっか……、よかった。でもアキにぃ達の怪我も心配だね……。浄化の後であんなことになって」
「ちょっと」
「みんな傷ついていたのに、回復させることもできなくてごめんね」
「ねぇ」
「私も混乱してて、これじゃぁメディック失格かもしれないけど、今度はそうならないようにするから」
「聞いてよ」
「今度は混乱も何もしないように、努力す」
努力する。そう言おうとした時――私はそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。と言うか、阻害された。の方がいいのかもしれない。
なぜ阻害されたのか私も一瞬わからなかった。けど、それが起きた後で、私ははっきりと理解した。
まず理解したこと。それは私の頬に感じた衝撃とびりびりとくる痛覚。
それを感じた私は一瞬記憶が飛んだかのような感覚を覚えたけど、そのあとすぐに記憶が戻り、そして何があったのかをいち早く理解することができた。
私は頬を叩かれた。それだけ。
それだけなんだけど、その叩いた張本人シェーラちゃんは、頬を押さえて驚いている私のことを睨みつけて、怒りで満ち溢れているその顔できつく口を閉ざしながら、彼女は私のことを見ていた。
私は内心――Drのことを叩いたときもあったけど、叩かれた本人はこんな感覚だったんだ。と、こんな時に場違いなことを思ってしまう。そんな場違いなことを思ってシェーラちゃんのことを見ていると、シェーラちゃんは私のことを見ながらきつい音色でこう言ってきた。
「隠すな――」
今まで聞いたことがないきつい言葉。きつい怒声。突き刺さるような優しい言葉。
それを聞いた私は、唖然とした面持ちでシェーラちゃんのことを見て固まってしまう。シェーラちゃんの背後にいたアキにぃがなんだか暴れているみたいだけど、それを見ることすら忘れてしまうほど、私は唖然としていた。
そんな唖然とする私のことを無視するように、シェーラちゃんは私の胸ぐらをつかみ上げながら怒り極まった顔でこう言ってきた。
「あんた――そんなことをして何の得がある?」
「え?」
「『え?』じゃないでしょ? 何の得があるのって聞いているの。そんな風に自分の感情を押し殺して、他人のことを優先する。それってただの負のスパイラルじゃない」
「……………………私は、そんなこと……」
「思っていないでしょうね。でも私は思うわよ? だってあんたはいっつもそうだから、いつも他人優先だからわかるのよ。他人優先にして、自分のことなんてほったらかしだから。バレバレよ」
「ば、ばればれ……?」
「そうよ。あんた――正直じゃないし、嘘下手なくせに隠すから、とことん性悪なのね。何が『努力する』? なにが『メディック失格』? それよりもあんたは言うことがあるでしょ? あんたが言うことはそんなことじゃない。あんたが言うことは……、いいえ。やることはたった一つ――」
淡々と、イライラした音色でシェーラちゃんが言うと、シェーラちゃんは私の両頬をがしりと両手で掴んで、ずいっと顔を近づけながらシェーラちゃんは言った。
私の目を見て――眼の奥を見通すような吊り上がった目で、彼女は言った。
「泣きなさいよ!」
「…………………え?」
シェーラちゃんの言葉に、私は目を点にして、シェーラちゃんの顔をじっと見つめる。見つめるけど、シェーラちゃんはそんな私の反応に更に苛立ったのか、むっとした顔で私のことをぎろりと睨みつけながらシェーラちゃんは吐き捨てるようにこう言ってくる。
私に対して、その怒りをぶつけるように――
「なに? なにが『え?』なの? なんでそこで『え?』と答えるの? 私は言ったわよね? 『泣け』って。泣きなさいよっ。あんなこと言われて、今まで我慢したのよ? もう我慢する必要もないの。気を張る必要もない。ここにあの女はいない。あのくそサイコパスもいない。厄災もいない! ここにいるのは私達と理解がある人だけ。あんたのその泣きを非難する人なんて一人もいないっ。だから泣きなさい!」
まるで理解ができない。なんでシェーラちゃんはそこまで私に泣いてほしいのか、まるで理解ができなかった。今まで理解ができていたけど、こればかりは理解が苦しい。というか――頭をひねってしまいそうなそれだった。
シェーラちゃんが言う我慢も気を張るようなこともしていない。私はただ頑張っていただけなんだけど……。
と思った時――背後から気配を感じて、それと同時に肩に置かれる重みを感じた私は、その方向に首を動かそうとした。
けどシェーラちゃんが私の両頬を掴んでいるせいで、うまく首を動かすことができない。ぐっぐっと首を動かそうとしたら、シェーラちゃんはその行動を阻止しているようにがっしりと私の頬を掴んで、視線の言葉で『逃げんなこの野郎』というそれを出していた……。
う、動けない……。
そう思っていると、私の肩に手を置いたその人は――シェーラちゃんに向かって凛とした音色でこう言葉をかけた。
「シェーラ。気持ちを代弁してくれてありがとう。あとは私が言う。すまなかったな」
「…………………わかったわ。でもちゃんと言ってよ? こいつは本当のことをはっきりと言わないとわからない頭だから」
「へ?」
その人の言葉を聞いたシェーラちゃんは、呆れたように溜息交じりに言うと、私のことを睨みつけながら低い音色で告げてきた。
それを聞いた私はぎょっとした目でシェーラちゃんのことを見て、内心ひどいと思ったけど、その間に私の両頬を掴むそれがなくなり、自由の身になった私はすぐに背後を振り向いて、その人のことを見上げる。
私の肩を掴み、立ち膝をして腰を下ろしてるヘルナイトさんのことを――
「………………………? ど、どうしたんですか?」
私は聞く。ヘルナイトさんに向かって首を傾げながら聞くと、それを聞いていたヘルナイトさんはかぶりを横に振りながら私に向かって――凛としているけど、真剣で悲しさも帯びているような音色で言ってきた。
「――もう強がるな」と…………。
「?」
私は動きを止めて、驚いた顔をしてヘルナイトさんを見る。
何故そんなことを言うんだろう。そう思いながらヘルナイトさんを見ると、ヘルナイトさんは私の肩から手を離して、立ち膝をしているその膝に手を乗せてからヘルナイトさんは私のことを見てこう言ってきた。
目の奥から感じるツンッとした感覚を感じながら私は聞く。小さい子供に言い聞かせるように、怒らない音色で言う彼の言葉を……。
「本当は――泣きたかったのだろう? 大切な親友の言葉に対して、受け入れたくない気持ちだったはずだ。今まで大切な、信じられる存在に裏切られる気持ちは、私も知っている。いいや――先ほど知ったばかりだが、それでも君はその気持ちに対して受け入れようとしていた。それは私達の目から見ても、すごいことだと思う。だが……、本当はその感情を表に出したくなかったはずだ。裏切られた人間が出す本当の感情は、シノブシが出す感情なんだ。憎しみ、怒り、悲しみ、混乱。本当ならばその感情を出し、戦意を喪失してもおかしくなかった。だが君はそれをしなかった。すごいことだと思えると同時に、そんな君を見ていると――私達は苦しくなる。心の底から傷つき、壊れていく姿を見るのは耐えられない。それが私達の本音だ。これ以上壊れてほしくない。傷ついてほしくない。そう思ったからこそ、私は君にあの言葉を懸けた。これ以上身も心も壊れてほしくないから――私は君に言葉をかけた。騙したと言われてもおかしくない。そして騙したなと怒られても、私はそれを甘んじて受ける。だが――それしか方法はないと思ったんだ。君がこれ以上壊れない方法が、これしかなかった。すまない。そして――もうそれも終わりだ」
長い長い話をしながらヘルナイトさんは再度手を伸ばし、その手を私の頬に、そして目元に指を添えるように触れると、ヘルナイトさんは私の顔を見て――目元に添えた指をそっと動かすと同時に私の顔を見てこう言ってきた。
自分でも驚いているけど、いつの間にか泣いている私のことを見て、ヘルナイトさんは言った……。
「もう我慢は終わりだ。苦しかったな――ハンナ」
よく耐えた。頑張った。
その言葉がきっかけになった。と言ったほうが、いいのかな……?
ヘルナイトさんのその言葉を聞いた瞬間、私は今まで泣いていたその顔を、くしゃりと無意識に歪め、そしてへたりと尻餅をつくように座り込むと……、自分の顔を両手で覆って隠すように――私は俯いて……。
「………えっく、う……っ。ひぃ……っ」
最初は嗚咽を吐くような呼吸をして、そのあとで私は……。
小さな声を出して、わんわん泣いた。
ぽろぽろと流れる涙もはらはらと、ぼろぼろと流れるそれになり、白いワンピースに大きなシミをいくつも作ってしまう私。十七歳にもなって子供のように泣く私は、まだおこちゃまなのだろうか……? そんなことは今はどうでもよかった。今私は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。
シェーラちゃんの言う通りだった。ヘルナイトさんの言う通りだった。
私は、メグちゃんの言葉で深く傷ついた。
今まで友達だと思っていたのに、親友だと思っていたのに、メグちゃんはそんなこと思っていなかった。むしろ恨んでいて、しょーちゃんたちと私のことを心の底から恨んでいた。
それが悔しい……、じゃない、それが悲しくて、今までの絆がいとも簡単に壊れてしまったかのような喪失感にも襲われて、なんだろう、青いもしゃもしゃが私のことを襲って……、その青いもしゃもしゃが私の心を壊そうと握ってきて……。もう泣きたい。もう諦めたい。もうこうなるなら、こんな苦労も何もしたくない。そう思った。
結局のところ――泣きたかったんだ。あの場で泣きたかった。
声に出して、自分が思っていることを叫んで、泣きたかったんだ。
そのくらい私は……、心が傷ついていたんだ。
心が壊れて、その心が泣きたいくらい私は悲しかったんだ。
これは――この涙は……、心の涙そのものなんだ。
私の気持ちを映し出した鏡のようなもの。
私はずっと――泣きたかったんだ。
親友の裏切りと、色んな悲しみを聞いたから、泣きたかったんだ。
悲しくて、悲しくて、悲しくて、悲しくて――泣きたかったんだ。
心の底から、わんわん泣きたかったんだ――
今更自分の心の傷に気付いて、そしてその苦しさが解放されたと思ったら、私は小さな子供のように泣きじゃくると、その光景を見ていた誰もが言葉を失い。発するとこもしないで、ただただ私の声を聞いていた。
介入も、遮りもしないで、ただ見ているだけ。
ただ――私の思うが通りにさせていた……。の方が正しいのかな……。
そう思っていても、その時の私は悲しいとか、いやだったという感情しかなかったからそんなこと考える暇なんてなかった。でも――これだけは分かった。
目の前にいたヘルナイトさんは私のことを包み込むように、ゆっくりと私の背に手を回し、頭に手を添えて肩を震わせて泣いている私のことを抱きしめてくれた。
鉄の匂いと傷だらけの鎧が視界に入ると、背を撫でられる感覚に、私は決壊してしまったかのように、ぼろぼろと自分の目から涙をこぼした。えんえん泣きながら……、わんわん泣きながら……、私はその胸に額をつけて泣いた。
泣きまくった。
泣いて、泣いて……、ずっと私は泣き続けた。その涙が引くまで……、ずっと、ヘルナイトさんの腕の中で……。
□ □
それからのことは、私も泣いていたのであまり見ていない。と言うか聞ける状況でもなかった。これはヘルナイトさんが泣き止んでから落ち着いた私に伝えたことなんだけど……。
あの後――『バトラヴィア・バトルロワイヤル』を終えたティズ君たちが、最下層に向かって駆け降りていくと、最下層の状況を見て驚き、ガーディアン……、ううん。ガーディアンさんのことを見て再度驚いて固まっていたみたい。
みんなボロボロの姿で、その姿を見て頑張ったことが目に見えていたってヘルナイトさんが言っていた……。
あ、特にボルドさんの驚きがすごかったらしい。
…………………ホラー的な意味で。
輝にぃ達は来なかったけど、少しだけ話したノゥマさん曰く――深手らしいのでいち早く戻って治療しているとのこと。それを聞いた私はほっと胸を撫で下ろしたことは、話さなくても分かることだろう。
そして私の泣いている姿を見て、紅さんやティティさんがその場所にいた仮面の人――ハクシュダさんに掴みかかって武器を向けようとしたけど、レンさんがそれを止めて、何とか事なきを得たとか……。
各々が頑張って、そして帝国の闇を取り払ってくれた。『BLACK COMPANY』と『バロックワーズ』の拘束をすることができた。ガーディアンの浄化もできた。
これには私も感謝してもしきれない。これが正直な思いだった。
ハクシュダさんの件に関しては、現在進行形でどうするか模索しているけど、ボルドさん、ダディエルさん、そしてその場所にいなかったギンロさんとメウラヴダーさんに対しての償いをしたいと言っていたみたいだけど、それを聞いていたボルドさんとダディエルさんはハクシュダさんのことをあっさりと許したみたい。
ハクシュダさんは許してくれたことに驚き、なんでそんなあっさりと許してくれるんだって、慌てつつも怒りを露にして言っていたみたいだけど、それに関してボルドさん達はかぶりを振り――なるべく宥めるようにしてこう言ったそうだ。
「あの時は敵同士だったけど、君の事を聞いたあとで今でも敵同士で、『命をかけて償え』って言えないよ。だって君も利用されていたんだろう? ならそれをぐちぐちと言うことは僕でもしたくないし、ダディエル君だってそんなことしたくないよ。そういうのってある意味呪縛だから、それがなくなったのならそれでいいんじゃないかな?」
「あとあれは純粋にお前の力が強すぎた。止める気力があれば俺たちだって止められたし、正々堂々と戦ったとしても俺たちの負けだった。結局どうこう変えたとしても、結果は同じだ。お前がその責任を今でも背負いたいっつーんなら……、今度はしっかりと掴んでおけよ。親友と、大切な人を」
それを聞いたハクシュダさんは、驚いた顔をしていたけど、レンさんはそれを聞いて安堵の息を吐いたみたい。そしてそれを聞いた私もほっと胸を撫で下ろして、血生臭いことにならないでよかったと――心の底から安堵のそれを吐いた。
その話をした後で、ギンロさんとリンドーさん、そしてガザドラさんとその肩に手をかけて歩んできたメウラヴダーさん。メウラヴダーさんに関してはボロボロで、みんなの中で一番ボロボロの姿をさらしていた。
その姿を見たティズ君とガルーラさんは驚きの顔をしてメウラヴダーさんに駆け寄って「どうしたの?」と話していたけど、メウラヴダーさんはそんな二人のことを宥めるように、『大丈夫』って言っていたけど、ボルドさん以上に全身包帯姿だと説得力もなかったらしい (キョウヤさん談)。
そんな話をしていると、あの時私の隣にいたおばあちゃんはヘルナイトさん達のことを見て、レズバルダさんと一緒に頭を下げてこの国を救ってくれたことに関してお礼を述べたという。
おばあちゃん曰く――
「この国はあの帝王のせいで、いいや……、先祖代々の帝王のせいで大きく狂ってしまった。その件に関しては儂もひどく頭を悩ませていた。しかしそれしかできなかったのも事実じゃ。儂はほんの一握りの力しかない存在。その大きな存在に太刀打ちすることなどできん存在じゃった。しかし――その連鎖を断ち切ってくれた貴様達には――本当に感謝してもしきれん。秘器の源となっておった魔女の魂も浄化され、この砂の国の闇も完全に取り払われた。これはこの砂の国の浄化。お前さんたちのところで言うと――『ゼロ』からのスタートラインと言うことになるじゃろう。そのきっかけを作り、そして――ガーディアンを浄化してくれて、本当に感謝する。この儂――元バトラヴィア帝国前帝王にして『癒し』の魔女の肩書を持つ……、カカララマ・ヌーマデントから、そなた達に感謝を表す。ありがとう」
と、おばあちゃん――カカララマさんは言った。
それを聞いたみんなは驚いた顔をして、そしてシェーラちゃんは私のポシェットからアクアロイア王から預かった書状を手渡しながらいえいえっ! と言っていたみたいだけど、カカララマさんはそんなみんなの驚きをスルーしつつ、書状を受け取りながらカカララマさんはこう言ってきたのだという。
「明日――話がある。武神卿一行。今日のところはひとまず壊れていない宿に止まってほしい。女帝卿と一緒におる者たち一緒にな。あとの者達は治療設備が整っている王都へ行ってもらう。安心せぃ。それぞれに行かせることはせんよ。ちゃんと儂の忠誠を誓っている部下を向かわせる。儂が手配しておくから――あとは休んでくれ。この国を救ってくれた詫びじゃ」
それを聞いた後、困惑するみんなだったけど、今はカカララマさんの言葉に従うように、もう夜の世界となってしまっている帝国を後に、みんなはカカララマさんに忠誠を誓っている兵士と一緒に王都に行こうとしていた。
もちろん――その移動方法は瘴輝石を使っての移動。
帝国に残るヘルナイトさん達はセレネちゃんたちのことを見送ろうと思い、帝国の外でみんなと一緒にいた。私はその時泣いて疲れてしまったのか、ヘルナイトさんの腕の中で寝てしまったので、見送りはできなかった……。
今にして思うと、本当に子供みたいだ……。
そんな私を抜きにして、アキにぃ達はセレネちゃん達、ボジョレオさん達、ボルドさん達とティズ君達との別れを惜しんで……、あ、アキにぃは全然だったみたいだけど……。それでもみんなはそれぞれ別れを惜しんでいた。
それもそうだろう。だって砂の国に入ってからずっと行動してきたんだもの。別れを惜しむのは当たり前。そして……、私のその中に入りたかった……。
一応兵士の人はアクロマと『バロックワーズ』の人達。そして帝国の重鎮達を永久監獄へと連行するために、その場所にはいなく、ボルケニオンさんは事の騒動が終わると同時に、帝国から姿を消していたらしい。
どこに行ったのかはヘルナイトさんでもわからないみたい。
あ。そうだ。その別れを惜しむ中にスナッティさんの姿もあったみたい。
紅さんとクルーザァーさん曰く、組織の情報漏洩をした罪は重く、その仲間でもある紅さん達を裏切った罪も重なって……、スナッティさんはこの世界にいる間厳重な処罰があるとのこと。
その件に関してはクルーザァーさんが決めるらしく、王都に着いてからその処遇を考えるそう。
大変だな……、クルーザァーさんも……。
そんな中――ヘルナイトさんはセレネさんから私宛にある伝言を預かったそうだ。その内容は――
「ハンナのおかげで私達の復讐も完遂された。殺さず、犠牲も出ずに完遂できたこと――感謝する。協力が必要な時はいつでも呼んでくれ」
そう言って、戻ってきた兵士の人と一緒にセレネちゃんたちはその場を後にし、王都に行ってしまった。
その光景を見ていたアキにぃ達は、少しばかり寂しさを感じていたけど、カカララマさんの鶴の一声でその気持ちを切り替えるように、今は英気を養うために壊れていない部屋に向かってつかの間の休息をした。
そして次の日になって、遅めに起きた私にヘルナイトさんは昨日起こったことを話して――ヘルナイトさんと一緒に謁見の間に向かって……、現在に至る。
と言うことである。
その話を聞いた私は、ヘルナイトさんと一緒に現在――アキにぃ達と一緒に謁見の間にいる。
その場所には輝にぃ達もいて、その後ろにはヘルナイトさんと、クイーンメレブさんがいた。
二人は壁に背を預けるようにしていたけど、クイーンメレブさんは腕を組んで、いかにも怒っていますという顔を剥き出しにしながら私達のことを見ている……。
私はその目を見て、怖いというそれを顔に出しながら肩を震わせていたけど、シェーラちゃんはそんな私を見て、クイーンメレブさんのことを振り返りながら――
「……何かしたの?」と聞いてきた。
そんなシェーラちゃんの言葉を聞いた私は首を横に振り、小さい声で「私は何も……」と言うと……、その会話の続きが継続されることは無くなった。と言うか、一方的に遮断されてしまった。
「集まったか」
『!』
突然、謁見の間の椅子の前に立ったカカララマさん。その隣にはレズバルダ……さん。
そんなカカララマさんのことを見た私達は、今まで王様と出会ってきた雰囲気を殺し、張り詰める様な雰囲気に呑まれながら固唾を呑んでカカララマさんの言葉を待つ。
カカララマさんは私達のことを見てこう言った。
「改めて――武神卿一行に女帝卿一行。今はいないほかの者たちよ。昨日の件、ガーディアンの浄化。そしてこの世界を救ってくださり、誠に感謝する。おかげでこの国にもようやく光が灯った。感謝と言う言葉では足りないくらい、儂はお前さん達に感謝している」
そう言うカカララマさん。小さい体で頭を下げて――私達に感謝を示すカカララマさんのことを見て、アキにぃは愛想笑いのような笑みで「ははは」と笑いながら――
「当然のことをしたまでですよ」
「黙れ無傷野郎」
「こっちの苦労も分からないくせに、しゃしゃり出てこないで」
「確かに儂らの中では唯一の無傷者じゃな」
と言ったけど、すぐにキョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さんの言葉の襲撃に遭い、それを受けたアキにぃは顔を真っ赤に染め、恥ずかしい顔をしながら「やめろぉ! それ以上言うな! 意外と恥ずかしいって思ったんだぞぉ!」ともう反論をしてきた。
そんな光景を見て、私は控えめに、困ったようなそれを足しながら微笑んでいていると……、カカララマさんは『おほんっ!』と怒り交じりの咳ばらいをして、この空間に再度緊張感を張り巡らせる。
その咳ばらいを聞いたアキにぃ達は、はっと息を呑み、カカララマさんのことを見せ背筋を伸ばして見つめる。
私のその一人だ。
一気に静かになった私達のことを見て、カカララマさんはふぅっと一息ついた後、私達のことを見つめてから懐に手を差し入れた。
「さて――前置きはこの辺にしておこう。復興作業は今現在行っておるが、時間がかかる。その間儂はしなければいけないことをするからのぉ。その立会人になってもらいたいがために呼び止めた。ゆえに少しの間儂の話と、今からここで行われることを目に焼き付けてほしいんじゃ」
新しい一歩となるその瞬間を。
そうカカララマさんは言う。
その光景を見て、言葉を聞いて、私は一体何をするんだろうと首を傾げていると、カカララマさんはその懐からあるものを取り出した。
それは――少しよれよれになってしまった書状。
「あ」
その書状を見たシェーラちゃんが声を上げる。対照的にその書状を見た輝にぃは首を傾げて「手紙……?」と呟くけど、その呟きも声も無視するように、カカララマさんはそれを私達に見せつけながら鋭い眼付きでこう言ってきた。
「武神卿一行が持ってきたこの書状――しかと見せてもらったぞ。内容はギルド長のになる魔女の招集。ここまで来たと言うことは――頑固者の蜥蜴小僧とオヴィリィも承諾したと言うことでいいな?」
カカララマさんは私のことを見つめて聞いてきた。鋭い音色で、断れないようなその音色で……。
それを聞いた私は不意に呼ばれて (ほとんど忘れていたので驚いていることが本音なんだけど……)肩を震わせると、私はすぐにこくこくと頷いて「あ。はい……っ」と言う。
私の言葉を聞いて、カカララマさんはうむ……。と喉を鳴らすと、カカララマさんは書状の内容を開きつつ、目を通しながら彼女は私達に向かってこう言ってきた。
「ならば――この国も今平和になった。そして帝王だった男も今となってはどこにいるのかわからない。法に則るのであれば儂が帝王にならなければいけないのじゃが……、それもできんことになった」
「え? 帝王いないんですか?」
「おじいちゃん……、あ、違うや。えっと……、Drって人と一緒にいたって聞いていたんだけど……。違うの?」
カカララマさんの言葉を聞いて、輝にぃと一緒にいたコノハちゃんと、そしてマドゥードナにいた鎌の男の子――シェーラちゃん曰く鎌の子の名前は『ズー君』らしく、ズー君が疑問の声を上げてカカララマさんに聞くと、カカララマさんはそんな二人の言葉に対して頷き――
「そうじゃな。今となってはあの男がどこにいるのかもわからんし、どこに隠れていたのかもわからん。現在捜査をしておるが、八割何も見つからないで終わるじゃろうな」
「ほぉん。そうなんだなー。てっきりどこかに隠れて尻を隠さないでいるのかと思っていたぜ? 俺っち」
「それ――『頭隠して尻隠さず』? それはない。それだったら贅肉が隠れないが正解」
と言うと、その言葉を聞いた赤い着物の男の人――シェーラちゃん曰く赤い着物の男の人の名前は『航一さん』と言うらしく、航一さんは頭に手を組みながら驚いた顔をしていた。
そんな航一さんの言葉に対して輝にぃは呆れた顔をして突っ込みを入れている。
そんな会話を聞きながら、私は仲がいいんだなぁ……。と思って見ていると――突然カカララマさんは私達のことを呼び、再度私達の空間に緊張感を張り巡らせると……、カカララマさんは私達のことを見てこう言った。
「そうじゃな。帝王がいない。本来であれば前帝王である儂が帝王となり国の再建に力を注ぐんじゃが、それもできん。この書状が来たと言うことは――アクアロイアを変えるために奮起しておると言う証拠。儂一人が加わらんと言うわけにもいかん」
そこで――と言葉を区切りながらカカララマさんは言葉を一旦止めた。
その言葉を聞いた私達は、首を傾げながらカカララマさんのことを見ていると、カカララマさんにいたって冷静な目で、真剣なそれを帯びながら私達のことを見てこう言ってきた。
すっと――ある人のことを指さしながらカカララマさんは言ったのだ。
「お前さん達には少しの間見ててほしいのじゃ。こういったことには必ず立会人が必要で、それがないとこれはできんのじゃ。なのでお前さん達――しかとその目に焼き付けてほしい」
儂がこの小僧に王権を譲渡するその瞬間を。
え?
『え?』
『へ?』
「は?」
誰もがきっと目を点にしていたに違いない。
私も目が点になり、心の声でえ? と漏らすと、アキにぃ達も声を漏らし、輝にぃ達も漏らし、ヘルナイトさん達はどうなのかはわからないけど、カカララマさんの隣にいて、名指しされたレズバルダさんも驚いた顔をしてカカララマさんのことを見降ろしていた。
いまいち理解ができないところもあるけど、カカララマさんが言うことはきっとこうだ。
自分はギルド長になるから帝王になれない。でも今まで国を統べていた帝王がいない。だから急遽――レズバルダさんにその王の座を明け渡す。
それを聞いた (多分聞かされていなかったんだ)レズバルダさんは私達以上に驚き、そして目を点にしながら理解できないような顔をしていた……。




